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横浜地方裁判所 平成14年(行ウ)75号 判決 2004年2月18日

原告

X株式会社

代表者代表取締役

訴訟代理人弁護士

古田玄

杉﨑茂

大木孝

剱持京助

被告

神奈川県自然環境保全センター所長 Y

訴訟代理人弁護士

川島清嘉

指定代理人

服部俊明

田宮祐一

安西保

小宮孝弘

浅岡正俊

中島敏晴

加治宏

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第6 当裁判所の判断

1  禁反言の法理・信頼保護の法理違反の主張について

(1)  161号許可の内容

まず、上記争点に関する原告の主張の事実上の前提となっている161号許可の内容についてみると、前記第3の基礎となる事実3のとおり、工作物の新築(1号の行為)の許可に係る申請において新築の許可を申請された「工作物の種類」は、「橋梁及び石積、擁壁、U字型側溝」の工事であり、本体工作物(コテージ10棟)の新築が含まれないことは明らかである。したがって、この申請に対応する161号許可の内容も、本件工作物の新築を認めたわけではないことは明らかである。

また、上記申請の目的として「休暇村建設」が掲げられていることから、これを前提に161号許可がされたものであるとしても、そのことから、後日における、「橋梁及び石積、擁壁、U字型側溝」以外の工作物の新築について、当然に許可されることが約束されたわけではないことも明らかである。

(2)  被告担当職員らの説明

原告は、被告の担当職員から、本件工作物の新築については、161号許可があるので、改めて許可を取得することは不要であるとの趣旨の説明を受けていた旨を主張、証人Bも、曖昧であるが概ねその主張に沿った証言をする。

しかし、原告の代表取締役Aの弟で原告の顧問であるというBは、本件行為地の開発についての原告の担当者であるが、本件の審査請求における参考人意見陳述の際に、審査庁の「建築に着手する以前に、処分庁から新たな許可が不要であるとの回答はありましたか。」との質問に対して、Bは「ありません。」と答えている〔証拠略〕ところであり、また、平成13年2月6日、原告の系列会社ないし関連会社である西部不動産〔B証言〕の取締役でもあったC取締役から、神奈川県環境農政部緑政課に対し、161号許可により本件工作物の建築が可能ではないかとの相談があったが、これに対して、担当職員は、<1>161号許可は建物の建築を認めたものではない、<2>161号許可に係る工事は既に完了している旨を伝えていると認められる〔証拠略〕こと、さらに、原告は、平成13年6月5日に、神奈川県自然環境保全センターのD係長から新たな許可は要らない旨の説明を受けたと主張するが、原告が本件工作物の建築に着手したのは、その1ないし2週間前のことと認められる〔B証言〕のであって、これらの事実と、上記(1)に説示した161号許可の内容に照らせば、被告ないし神奈川県の担当職員において、本件工作物の新築について自然公園法17条3項の許可が不要であるとの趣旨の説明をすること自体が考えにくいこと等を総合すれば、上記の原告の主張に沿うB証言によって原告の主張事実を認めることは到底できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(3)  小括

したがって、本件撤去命令は禁反言の法理ないし信頼保護の法理に抵触するものであって、裁量権の範囲を逸脱し、あるいはこれを濫用した違法な処分であるとの原告の主張は、理由がない。

2  比例原則違反の主張について

(1)  原状回復命令の要件

自然公園法21条が規定する原状回復命令の要件については、前記基礎となる事実の2(3)に摘示したとおりである。

そこで、以下、本件撤去命令が、丹沢大山国定公園の第2種特別地域の保護のために必要な限度を超えた違法なものであるかどうかについて検討する。

(2)  自然公園法17条3項の許可の基準

自然公園法17条4項は、都道府県知事は、同条3項各号に掲げる行為で同法施行規則で定める基準に適合しないものについては、3項の許可をしてはならないと定めているところ、同法施行規則は、その11条において上記の許可基準を具体的に定めている。そして、本件に関しては、施行規則11条4項9号の規定との関係が問題となる。

すなわち、本件行為地の前の道路は、基礎となる事実2(2)のとおり、公園事業に係る道路(東海自然歩道)であるところから、本件工作物については、その地上部分の水平投影外周線が上記道路の路肩から20メートル以上離れていることが自然公園法17条3項による許可の要件となる(同法施行規則11条6項柱書本文、4項9号)。

(3)  本件工作物の新築についての適用

しかし、本件工作物の外周線と上記道路の路肩との実際の距離は、最も近いもので約9メートル、最も遠いものでも約14メートルしか離れていないのである(争いがない事実)。

したがって、本件工作物は、原告が、その建築について事前に許可を得ようと申請しても、自然公園法施行規則11条4項9号の許可基準に違反するものであるため、そもそも、被告において許可をすることができないものなのである。しかも、同号が要求している公園事業道路等と工作物との距離20メートルとの関係においても、本件工作物の許可基準違反の程度は、決して軽微であるとはいえないものなのである。

(4)  小括

上記のところよりすれば、被告において、自然公園法21条の規定に基づき、丹沢大山国定公園の第2種特別地域内における良好な景観を保護するために必要があると認め、同法17条3項の規定に違反して本件工作物を新築した原告に対し、原状回復命令として発した本件撤去命令に、公園の保護のために必要な限度を超えたものとして、裁量権の範囲を逸脱し、あるいはこれを濫用した違法があるとはいえないというべきである。

第7 結論

以上のとおりであって、本件撤去命令が違法であるとは認めることができず、原告の請求は、理由がない。

そこで、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川勝隆之 裁判官 菊池絵里 堤雄二)

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