横浜地方裁判所 平成15年(わ)1168号 判決 2003年12月25日
主文
被告人を懲役2年2月及び罰金100万円に処する。
未決勾留日数中180日をその懲役刑に算入する。
その罰金を完納することができないときは、金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
外国人登録証明書1枚(平成15年押第41号符号1)を没収する。
理由
(認定犯罪事実)
第1 被告人は、A及びBと共謀のうえ、別紙1犯罪事実一覧表記載のとおり、平成14年10月3日から同年11月11日までの間、6回にわたり、Bにおいて、東京都大田区蒲田<番地略>株式会社東京三菱銀行蒲田支店ほか3か所において、中華人民共和国内の中国銀行(香港)有限会社(BANK OF CHINA(HONG KONG)LTD.)に開設された「KTRADING CO.」名義の預金口座ほか2か所の預金口座に合計1億3042万円を送金するに当たり、真実は送金依頼者氏名がB、同住所が横浜市保土ヶ谷区瀬戸ヶ谷町<番地略>所在○○保土ヶ谷1005号であるのに、ご依頼人名・署名等欄に「C」、おところ欄に「神奈川県横浜市中区長者町<番地略>××ビル201」などと偽りの記載をした外国送金依頼書兼告知書各1綴を各営業所の長である支店長に提出するとともに、同蒲田支店長代理甲野太郎らに対し、「外国人登録証明書」と表題のあるカードの氏名欄に「C」、生年月日欄に「1962年06月05日」、居住地欄に「横浜市中区長者町<番地略>××ビル201室」、在留の資格欄に「定住者」等と記載され、Bの顔写真が転写され、発行者欄に「横浜市中区長高井禄郎」の記名、発行者職印欄に「横浜市区長」の押印のある横浜市中区長作成名義の偽造された外国人登録証明書各1枚を、偽造されたものであることを知りながら、真正に作成されたもののように装ってそれぞれ提示して行使した。
第2 被告人は、A、D及びEと共謀のうえ、内閣総理大臣等の免許を受けた者でないのに、別紙2犯罪事実一覧表記載のとおり、平成14年12月末ころから平成15年4月9日ころまでの間、11回にわたり、被告人において、横浜市内又はその周辺において、被告人が管理する携帯電話を使用して、本邦から中華人民共和国への送金を希望する依頼人Fほか4名からそれぞれその指定する同国福建省福清市等に居住する受取人への送金依頼を受けてこれを引き受け、いずれもそのころ、横浜市中区花咲町<番地略>△△桜木町1106号室被告人方から中国福建省福清市在住のA方にファクシミリで送信する方法により、Aに対し、引き受けた受取人氏名、送金受任額、送金依頼人氏名等を連絡してその旨の支払いを求め、これに基づき同年1月3日ころから同年4月10日ころまでの間、12回にわたり、いずれもAにおいて、各送金依頼人の指定する受取人又はその代理人に対し、送金受任額と同額の現金をAの保管する現金の中から本邦通貨で手渡ししてそれぞれ支払い、各送金依頼人から前記東京三菱銀行蒲田支店に開設されたG名義の普通預金口座等に送金受任額とともに手数料をそれぞれ本邦通貨で入金させる方法等により、業として為替取引を行って、銀行業を営んだ。
第3 被告人は、中華人民共和国の国籍を有する外国人であり、平成9年8月11日、同国政府発行の旅券を所持し、千葉県成田市所在の新東京国際空港に上陸して本邦に入ったものであるが、在留期間は平成10年2月11日までであったのに、同日までに上記在留期間の更新又は変更を受けないで本邦から出国せず、同月12日以降も引き続き平成15年4月28日まで横浜市内等に居住するなどして、在留期間を経過して不法に本邦に残留した。
(証 拠)<省略>
(法令の適用)
被告人の第1の行為のうち、各偽りの記載をした告知書を提出した点はいずれも刑法60条、内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(以下「適正課税法」という。)7条1号後段、3条1項1号に、各偽造有印公文書行使の点はいずれも刑法60条、158条1項、155条1項に、第2の行為は包括して同法60条、銀行法61条、4条1項に、第3の行為は出入国管理及び難民認定法70条1項5号にそれぞれ該当するが、第1の適正課税法に関する告知書の各提出と偽造有印公文書の各行使はそれぞれ1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから、刑法54条1項前段、10条により各1罪としてそれぞれ重い偽造有印公文書行使罪の刑で処断することとし、各所定刑中、第2の罪について懲役刑及び罰金刑を、第3の罪について懲役刑をそれぞれ選択し、以上は同法45条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法47条本文、10条により刑及び犯情の最も重い第1の別紙1犯罪事実一覧表番号2の偽造有印公文書行使罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法48条1項によりこれをその懲役刑と併科することとし、その刑期及び所定金額の範囲内で被告人を懲役2年2月及び罰金100万円に処し、同法21条を適用して未決勾留日数中180日をその懲役刑に算入することとし、その罰金を完納することができないときは、同法18条により金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、押収してある外国人登録証明書1枚(平成15年押第41号符号1)は第1の別紙1犯罪事実一覧表番号1、2の偽造有印公文書行使の犯罪行為を組成した物で何人の所有をも許さないものであるから、同法19条1項1号、2項本文を適用してこれを没収し、訴訟費用は、刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の事情)
本件は、銀行法違反(第2の犯行)、偽造有印公文書行使・適正課税法違反(第1の犯行)、不法残留(第3の犯行)の事案であるが、もとより偽造有印公文書行使罪自体、その罪質が重いことはいうまでもない。
銀行法違反については、知人に誘われ、無免許のいわゆる地下銀行の送金側営業担当者として受付・集金等に従事するに至ったものであるが、3か月間余の間に11回、合計2560万円余を不正送金したうえ、合計21万円余を手数料として収受したという常習的なものであり、犯行の態様も、中国在住の者と密に連携を図り、他人名義の銀行口座を用いるなどして送金依頼者から徴収した金員を日本国内在住の共犯者らに委ね、金融機関を通じて香港に送金するなど組織的かつ巧妙なものである。被告人は、送金の依頼を受け集金するという営業窓口的な役割を果たしているうえ、手数料の一部を報酬として受領していたのであるから、その役割は軽視し難い。本件送金依頼人の中には本邦在留資格を有しない者が複数いるうえ、近時、地下銀行はいわゆるマネー・ロンダリング目的等で利用されることが多く、その暗躍により、外国人の不法就労、日本国内における違法活動の助長のみならず国際的な悪影響すら懸念されるというべきである。
適正課税法違反・偽造有印公文書行使については、香港への多額の送金を中国在住の者に指示されたが、在留期間を経過していたことから、知人の日本人に依頼し、偽造を請け負う者に、その日本人の顔写真等を提供するなどして、有料で精巧に偽造された外国人登録証明書の交付を受け、その外国人登録証明書を用いて共犯者に虚偽の告知書の提出及び本件証明書の行使をさせたもので、厳しい非難を免れない。犯行の態様は、外国人登録証明書の高い証明力を悪用して他人になりすまし、6回合計1億3000万円余を送金するに当たり敢行されたもので、偽造外国人登録証明書が複数枚行使されるなど常習性すら窺え、悪質である。
不法残留もその期間が5年を超えている。
これらの諸点に照らすと、本件の犯情は良くないといわざるを得ない。
したがって、銀行法違反については、送金は滞りなく行われ、手数料も高くはなく、利用者らに経済的不利益が生じたとは認められないこと、被告人は地下銀行組織の上位者の指示に従って本件各犯行を敢行し、その利得額も多くはないこと、被告人には、本国に帰りを待つ妻子がいること、被告人は、相当期間真面目に稼働していたこともあり、本邦入国前後を問わず前科はないこと、不法残留はもとより、余罪を含めて不正送金の事実を全て認め、本件で相当期間身柄を拘束されたまま公判審理を受けて行為の重大性の自覚を深め、反省の弁を述べていることなどの酌むべき事情を考え併せても、被告人の刑事責任には軽視を許されないものがあるというべきであって、被告人に対しては主文の実刑が相当と思われる。
(裁判長裁判官・廣瀬健二、裁判官・片山隆夫、裁判官・西村真人)
別紙1、2 犯罪事実一覧表<省略>