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横浜地方裁判所 平成15年(わ)376号の1 判決 2004年1月22日

主文

被告人を懲役11年に処する。

未決勾留日数中240日をその刑に算入する。

理由

(認定犯罪事実)

被告人は少年であるが、B(当時17歳)と共謀のうえ、

第1  通行人から現金等を強取しようと企て、平成14年10月28日午後11時43分ころ、横浜市青葉区青葉台<番地略>所在学生寮「○○○○青葉台」出入口前付近路上において、徒歩で帰宅途中のY1(当時66歳)に被告人Aが運転するバイクから降りたBが背後から近付いて、右手に持っていた金属バット(全長約84センチメートル、重さ約0.71キログラム。平成15年押第23号符号1)を右肩の上に担ぐように振り上げ、Y1の後頭部を目掛けて振り下ろして殴り、ふらついて右後方に振り返ろうとしたY1の右顔面部を目掛けてバットで横に払うように殴り付け、路上にうずくまったその頭部付近を目掛けてバットを振り下ろして約2回殴る暴行を加え、これらの暴行によって反抗を抑圧されたY1から現金等を強取しようとしたが、通行人が来たのに気付いて逃走したため、その目的を遂げなかったものの、その際、上記暴行により、Y1に右眼失明及び入院加療17日間を要する右眼窩壁骨折、右頬骨骨折、後頭部打撲擦過傷等の傷害を負わせた。

第2  金属バットで頭部を殴るなどの暴行を加えれば死亡するに至るかもしれないことを認識しながら、あえて、そのような暴行を加えて通行人から現金等を強取しようと企て、同年11月19日午前0時20分ころ、同市青葉区青葉台<番地略>所在アパート「××××青葉台」駐車場前付近路上において、徒歩で帰宅途中のY2(当時33歳)に被告人Aが運転するバイクから降りたBが背後から近付いて、右手に持っていた前記金属バットを右肩の上に担ぐように振り上げその後頭部を目掛けて力一杯振り下ろして殴り付け、Y2がふら付きながら振り返るや、その左顔面を同様に同バットで横から殴り、更に前屈みになったY2の頭部等を右肩の上に担ぐように振り上げた同バットで数回振り下ろして殴るなどの暴行を加え、これらの暴行によって反抗を抑圧されたY2から同人が所有し又は管理する現金約2万7000円及びキャッシュカード2枚ほか9点在中の財布1個(時価約5000円相当)を強取したが、その際、上記暴行により、Y2に全治不詳の頭蓋底骨折、頭蓋骨骨折、下顎骨骨折、脳挫傷、急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫、右顔面神経麻痺、外傷性てんかん等の傷害を負わせたが、殺害するには至らなかった。

(証  拠)<省略>

(事実認定の補足説明)

弁護人は、いずれもその外形的事実は概ね認めながら、①第1の強盗目的、②第2の殺意を認めるには合理的な疑いが残る旨各主張し、被告人も公判廷においてこれに沿う供述をしているが、関係証拠によればいずれも理由がなく、前記事実は優に認定できる。

すなわち、関係証拠によれば、被告人Aは、高校入学以来アメリカンフットボール部員としてその練習・試合等の部活動のため勉強時間がとれず留年するほど熱心に3年間活動してきたもので、同部員で1年後輩のBとは趣味も共通し住居も近いことから親密に交際していたこと、両名は、第1の犯行の半月ほど前から、通行人からの金品奪取を企図し、両名フルフェイスのヘルメットをかぶったうえ、被告人運転のバイク後部にBが同乗して、通行人に近付き、Bが降り通行人と相対して木刀で脅して金品を取ろうとしたが、相手に木刀の端をつかまれて逃げ失敗したため、今度はまず凶器で殴る暴行を加えてから金品を奪うこととし、その凶器としてモンキーレンチ等も考えた結果、Bの金属バットを用いることとして、前記のように背後から近付いて通行人の後頭部を金属バットで殴るなどの暴行を加えた本件第1の犯行を敢行し、その後も数回同様の犯行を試みようと被告人Aのバイクに二人乗りして出かけたうえ、被告人Aも強取目的を認めている本件第2の犯行に及んだという経緯があること、その各通行人と被告人らは、全く面識がなく、もとより、被告人らに恨みを買うなどの事情は一切認められないことが認められる。加えて、強盗目的について、Bは一貫して認めているほか、被告人Aも捜査段階では認めており、これらの供述は、その目的の限度において大筋符合し、前記関係証拠に照らしても自然である一方、被告人Aの当公判廷における供述は、ゲーム感覚で恐喝できるか試すために前記木刀の事件を敢行した、第1の犯行は金を取ることは考えずにバットで頭部を1回強打して気絶もしくはひるむことの確証が欲しかっただけであるなどというもので、その内容自体不自然極まるうえ、当公判廷の供述にも変遷がみられるところ、それらの供述変遷の合理的理由も示されておらず、到底信用することはできない。これらの事情を併せ考えれば、第1の犯行についての金品強取の意図は優に認定できる。

また、第2の犯行における暴行は、前記金属バットによって後方から無防備な頭部を強打するというものであって、被害者死亡の蓋然性が明らかであること、現に、その被害者には頭蓋骨骨折等で瀕死の重傷を負わせていることに加え、Bの体格、運動歴、本件暴行態様、本件犯行に至る経緯・共犯者Bとの共謀成立経過等を併せ考えれば、被告人A及びBが第2の被害者に対し少なくとも未必の殺意を懐いていたことは優に認定できる。この点について、被告人は捜査公判を通じ、Bはその公判において殺意を否定するが、Bの供述は、犯行に至る経緯等を説明したうえで、本件第1の犯行後、相手が抵抗できないようにどんどん殴ろうなどと被告人Aと話をしていたもののB自身躊躇する気持ちが残って実行に移せないでいたが、被告人Aから覚悟を決めて絶対に金を奪えなどと言われ、今回は失敗は許されないという思いから、第2の被害者が死亡しても構わないから必ず金を奪ってやろうと思って本件第2の犯行に及んだなどとして未必的殺意を認めた公訴提起前までの一貫したBの自白と矛盾し、その供述変遷の合理的理由も示されていないことから信用できず、被告人の供述は前記凶器の性状・暴行態様のほか本件犯行に至る経緯等に照らしてもその内容が不自然極まるもので到底信用できない。

なお、本件暴行は、被害者らから金品強取目的でなされたものであるうえ、前記暴行の後、更なる攻勢も可能であったのに、攻撃を加えようとしていないことなどに徴すると、確定的殺意までは認め難い。

(法令の適用)

被告人の第1の行為は刑法60条、240条前段に、第2の行為は同法60条、243条、240条後段にそれぞれ該当するところ、各所定刑中、第1の罪について有期懲役刑を、第2の罪について無期懲役刑をそれぞれ選択し、以上は同法45条前段の併合罪であるが、第2の罪について無期懲役刑を選択したので、同法46条2項本文により他の刑を科さないこととし、なお少年法51条2項を適用して被告人を懲役11年に処し、刑法21条を適用して未決勾留日数中240日をその刑に算入することとし、訴訟費用は、刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の事情)

本件は、強盗傷人及び強盗殺人未遂であるが、これらが罪質の甚だ重い事犯であることは論を待たない。本件各犯行の経緯・動機は、被告人が、同じ運動部の後輩である共犯者から金策の相談を受けるうち、その後輩と通行人を襲って金を奪うことを思い付き、同様の犯行を数回試みたうえ、本件各犯行に及んだというものであって、先輩として共犯者を戒めることも十分できたのに、各犯行を主導して実行に及んだものであって、そこには利欲目的実現のためには他人の生命・身体の犠牲を厭わないという自己中心性、反社会性のみならず、非情かつ冷酷な被告人の人格も窺えるというべきである。

その各犯行態様は、いずれも凶器として重さ約0.71キログラムの金属バットを用意し、フルフェイスヘルメットを着用して外から顔がわからないようにしたうえ、バイクに二人乗りして、金を持っていそうなサラリーマン等、襲う対象を探し求め、人気のない場所において、バイクで近付いたうえ、共犯者が金属バットを構えて背後から突然、頭部等を狙って複数回強打するなど執拗かつ激しい暴行を加えるというものであって、甚だ残忍かつ危険というほかない。

第2の被害者は、船長を目指して商船大学卒業後、船会社で精勤し平成13年にようやく一等航海士となり、将来の船上勤務に思いを馳せていたところ、突然、被告人らの凶行により、瀕死の重傷を負い、死亡・植物状態・失語症などの危険に曝されたが、本人の体力等に加え、骨折点が危険部位から少しずれていたこと、病院への搬送が早く適切な医療措置が施されたことなどから数次の手術等を経て奇跡的に外見上回復しつつあるが、10か月の加療後においても後頭部に頭蓋骨が存在せず、今後もさらに危険な手術を受ける必要があるうえ、船上勤務を含めた社会復帰には相当な困難が予想されるのであって、結果は極めて重いというべきである。第1の被害者は、永年勤め上げた勤務先等を定年退職後、次の勤めも終えて、ようやく年金生活に入り趣味のサークルなど第二の人生をスタートさせた矢先、突然、被告人らの理不尽な凶行に遭い、前記の右眼失明などの重篤な傷害に加え、鈍痛、痺れに悩まされ、平衡感覚が保てず、視野が半減して夜間外出ができず、老親の介護はもちろん自宅の維持管理も困難になるなどの生活上重大な支障が生じ、左眼失明の不安すら懐いている状況にあり、結果は甚だ重いというべきである。いずれの被害者も被告人らに対し成人並みの科刑などの厳罰を求めているが、その心情はまことに無理からぬものというべきである。

また、本件は、深夜の閑静な住宅街の同一地区で累行されたものであり、近隣住民等に与えた不安感、恐怖感も看過し難い。

被告人は、中学校で陸上、高校ではアメリカンフットボールをしてきたスポーツマンでありながら、バイクに共犯者を乗せて被害者を見定めて近付き、自らはすぐ近くに停めたバイクの運転席で待機し、後輩の共犯者を叱咤して襲撃を実行させたのみならず、本件強盗殺人未遂の犯行の約1時間後、強取した現金を分配し、ATM機でそのキャッシュカードによる現金引出しを試みるなどしており、本件各犯行を終始主導した者でその役割は共犯者に比して相当に重いというべきである。加えて、被告人は逮捕後、殺意を否認し、当公判廷に至って第1の強盗目的も否認するに至ったほか、不自然不合理な弁解や被害者らへの配慮を著しく欠く言動を繰り返すなど真摯な反省の態度は到底認め難く事後の情状も芳しくない。更に、被告人には、窃盗の検挙歴、道路交通法違反での保護処分歴もあるのに、本件に及んでいるのであるから、その規範意識の乏しさも窺える。

他方、強盗傷人について財物奪取は未遂にとどまり、強盗殺人未遂については被害品の一部が回復していると窺えること、強盗傷人の被害者に対して、被告人及び共犯者の各両親が治療費及び慰謝料の一部として合計850万円(うち被告人の両親が50万円を負担)を支払っていること、強盗殺人未遂の被害者に対しても、被告人の両親が謝罪に赴いていること、本件により高校を退学していること、責任能力を左右するには至らないものの、本件犯行の遠因として、うつ病等の影響による共感性の乏しさなどが窺えること(この点、弁護人は、本件各犯行へのうつ病の影響が重要である旨指摘するが、本件各犯行時及びその前後の行動は、強盗犯人として合理的かつ自然なものであるうえ、被告人の当公判廷における応答内容等に照らしても、この点はそれほど重視すべき事情とは評価し難い。)、母親が当公判廷で監督・更生に協力する旨誓約していること、被告人の年齢(行為時17歳7ないし8か月、判決時18歳10か月)、家庭環境等に必ずしも恵まれていないこと等の事情も認められる。

これらの事情を総合考慮すると、被告人に対しては、保護処分の選択や未遂減軽を相当とする事情は見出せないうえ、前記本件各犯行の罪質の重さ、動機・態様の悪質さ、結果の重大性、被害者らの被害感情の厳しさ、社会的影響、現在に至るまで罪障感も認め難いことなどに加え、近時の少年法改正の趣旨にも徴すると、無期刑の選択が相当であるのみならず、酌量減軽を施して不定期刑に処することも相当とはいい難いが、前記の酌むべき諸事情並びに検察官の求刑及び共犯者との刑の均衡をも考え併せると、少年法51条2項を適用してその刑を緩和し、主文の刑に処するのが相当と思われる。

(裁判長裁判官・廣瀬健二、裁判官・片山隆夫、裁判官・西村真人)

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