横浜地方裁判所 平成15年(レ)74号 判決 2003年12月26日
川崎市●●●
控訴人(原審被告)
●●●
訴訟代理人弁護士
畑谷嘉宏
同
岩村智文
同
川口彩子
同
神原元
同
児嶋初子
同
篠原義仁
同
西村隆雄
同
根本孔衛
同
藤田温久
同
三嶋健
同
山下芳織
同
渡辺登代美
京都市●●●
被控訴人(原審原告)
株式会社シティズ
代表者代表取締役
●●●
訴訟代理人弁護士
●●●
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 控訴人は,被控訴人に対し,73万3371円及びこれに対する平成12年4月14日から支払済みまで年30パーセントの割合による金員を支払え。
3 被控訴人のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを10分し,その1を被控訴人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。
5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 控訴の趣旨に対する答弁
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は控訴人の負担とする。
第2事案の概要
本件は,貸金業者である被控訴人が,鈴●●●(以下「鈴●●●」という。)に対し金銭を貸し付け,控訴人がこれを連帯保証したと主張して,連帯保証契約に基づき,控訴人に対し,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)43条の適用を前提に貸金残元金82万3828円及びこれに対する期限の利益喪失後である平成12年4月14日から支払済みまで年30パーセントの割合による約定遅延損害金を請求したのに対し,控訴人が貸金業法43条の適用がないとして争った事案である。
1 前提事実
(1) 被控訴人は,貸金業法に定める貸金業者である。
(2) 被控訴人は,平成10年4月10日,業として,鈴●●●に対し,100万円を次の約定で貸し付けた(以下「本件旧契約」という。)。
ア 弁済期・弁済方法
平成10年5月から平成13年4月まで毎月10日限り元金2万7000円宛を経過利息とともに被控訴人の本支店に持参又は送金して支払う。但し,最終支払元金は5万5000円とする。
イ 利息
年29.80パーセント(年365日の日割計算とする。)
ウ 遅延損害金
年39.80パーセント(年365日の日割計算とする。)
ただし,期限の利益喪失後は,各月10日を基準日とし,その基準日を徒過して入金があった場合は,基準日までの経過日数分は年率29.80パーセントで計算する。
エ 利息及び遅延損害金の額の計算について
利息及び遅延損害金の額の計算にあたって,経過日数については弁済日を不算入とする。
オ 特約
上記元利金の支払を怠ったときは,通知催告なくして期限の利益を失い,債務全額及び残元本に対する遅延損害金を即時に支払う。
(3) 控訴人は,平成10年4月10日,被控訴人に対し,本件旧契約により生ずる鈴●●●の貸金債務を連帯保証する旨約した。
(4) 被控訴人は,本件旧契約締結の際,鈴●●●に対し,貸金業法17条1項及び同施行規則(以下「規則」という。)13条に定める事項を記載した貸付契約説明書を交付した。
(5) 被控訴人は,上記(3)の保証契約を締結した際,控訴人に対し,貸金業法17条1項及び規則14条に定める事項を記載した貸付契約説明書を交付した。
(6) 鈴●●●は,被控訴人に対し,別紙元利金計算書1の「入金日」欄の年月日に「入金額」欄の金員を本件旧契約の利息,損害金及び元金の一部として支払った(任意性に争いがある。)。
(7) 控訴人は,上記(6)の各支払いを受けた際,その都度,鈴●●●に対し,領収書兼利用明細書(以下「受取証書」という。)を交付した(平成10年5月11日,同年6月10日及び平成11年8月11日付けの受取証書を除いて,直ちに交付したか否かにつき争いがある。)。
なお,上記受取証書には,貸金業法18条1項1号,3号,5号及び6号に定める事項は記載されていたが,同項2号所定の「契約年月日」の代わりに契約番号が記載されており,また同項4号所定の記載事項が記載されているかについては当事者間に争いがある。
(8) 被控訴人は,平成11年12月3日,鈴●●●との間で,本件旧契約につき貸金業法43条の適用があることを前提に計算した残元金48万6135円及び損害金8731円の合計額49万4866円に新規の現金交付額50万5134円を合計した100万円を元本として,業として,次の約定で消費貸借契約を締結した(以下「本件新契約」という。)。
ア 弁済期・弁済方法
平成12年1月から平成13年12月まで毎月10日限り元金4万1000円宛を経過利息とともに被控訴人の本支店に持参又は送金して支払う。但し,最終支払元金は5万7000円とする。
イ 利息
年29.80パーセント(年365日の日割計算とする。)
ウ 遅延損害金
年36.50パーセント(年365日の日割計算とする。)
ただし,期限の利益喪失後は,各月10日を基準日とし,その基準日を徒過して入金があった場合は,基準日までの経過日数分は年率29.80パーセントで計算する。
エ 利息及び遅延損害金の額の計算について
利息及び遅延損害金の額の計算にあたって,経過日数については弁済日を不算入とする。
オ 特約
上記元利金の支払を怠ったときは,通知催告なくして期限の利益を失い,債務全額及び残元本に対する遅延損害金を即時に支払う。
(9) 控訴人は,平成11年12月3日,被控訴人に対し,本件新契約から生ずる鈴●●●の貸金債務を連帯保証する旨約した。
(10) 被控訴人は,本件新契約締結の際,鈴●●●に対し,貸金業法17条1項及び規則13条に定める事項を記載した貸付契約説明書を交付した。なお,控訴人は,上記貸付契約説明書につき,本件旧契約には貸金業法43条の適用がなく,上記貸付契約説明書に記載された本件旧契約の残元金及び損害金の額は真実ではない以上,貸金業法17条1項及び規則13条に定める事項が形式的に記載されていたとしても貸金業法17条1項に該当する書面とは認められないと主張する。
(11) 被控訴人は,上記(9)の保証契約を締結した際,控訴人に対し,貸金業法17条1項及び規則14条に定める事項を記載した貸付契約説明書を交付した。なお,控訴人は,上記貸付契約説明書につき,上記(10)と同様の主張をする。
(12) 鈴●●●(平成12年3月31日の弁済者は控訴人)は,被控訴人に対し,別紙元利金計算書2の「入金日」欄の年月日に「入金額」欄の金員を本件旧契約の利息,損害金及び元金の一部として支払った。
(13) 控訴人は,上記(12)の各支払いを受けた際,その都度,鈴●●●(平成12年3月31日の弁済については控訴人)に対し,受取証書を交付した(平成12年4月14日付け受取証書については,直ちに交付したか否かにつき争いがある。)。
なお,上記受取証書には,貸金業法18条1項1号,3号,5号及び6号に定める事項は記載されていたが,同項2号所定の「契約年月日」の代わりに契約番号が記載されており,また同項4号所定の記載事項が記載されているかについては当事者間に争いがある。
2 争点
(1) 本件旧契約及び本件新契約における各弁済の都度,交付された受取証書(以下「本件受取証書」という。)には,「契約年月日」の記載がなく,代わりに「契約番号」が記載されているが,本件受取証書は貸金業法18条1項所定の書面といえるか。
(被控訴人の主張)
規則15条2項には,「貸金業者は,法第18条第1項の規定により交付すべき書面を作成するときは,当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって,同項第1号から第3号まで並びに前項第2号及び第3号に掲げる事項の記載に代えることができる。」と規定されているところ,本件受取証書には契約番号が記載されており,契約番号が記載されていれば,弁済者は,貸付契約と受取証書との対応関係を把握できるのであるから,本件受取証書は貸金業法18条1項所定の書面といえる。
(控訴人の主張)
貸金業法18条1項2号は,受取証書に記載を要する事項として「契約年月日」を明示しているところ,本件受取証書は,「契約年月日」の記載がない以上,貸金業法18条1項所定の書面とはいえない。
(2) 本件受取証書の一部には賠償額の予定に基づく賠償金の年率の記載がないものがあるが,それらの受取証書は貸金業法18条1項所定の書面といえるか。
(被控訴人の主張)
貸金業法18条1項4号は,受取証書の記載事項として,「受領金額及びその利息,賠償額の予定に基づく賠償金又は元本への充当額」を要求するが,賠償金の利率の表記まで要求していない。
(控訴人の主張)
受取証書に,賠償額の予定に基づく賠償金の年率の記載がない場合,弁済者にとって,賠償額の予定に基づく賠償金への充当額が一義的に明確であるとはいえず,その結果,元本への充当額も一義的に明確であるとはいえないのであるから,貸金業法18条1項4号所定の記載があるとはいえない。
(3) 被控訴人は,本件受取証書の一部につき,弁済受領後直ちに交付したか。
(被控訴人の主張)
被控訴人は,本件受取証書のうち銀行振込による弁済に対応するものについては,弁済日の翌営業日に発送している。
(控訴人の主張)
被控訴人は,本件受取証書のうち銀行振込による弁済に対応するものについては,弁済受領後,最短で22日,最長で35日後に発送しており,弁済受領後直ちに交付したとはいえない。
(4) 控訴人は,本件旧契約及び本件新契約における各弁済の一部につき,「利息又は賠償金として任意に支払った」といえるか。
(被控訴人の主張)
被控訴人は,本件旧契約及び本件新契約において,鈴●●●及び控訴人に対し,利息及び損害金の充当方法を記載した貸付契約説明書を交付しているのであるから,鈴●●●が弁済を遅延した結果,弁済金の充当内容が償還表の記載と異なったとしても,貸付契約説明書と受取証書を照らし合わせることにより,弁済金の充当内容を正確に知りうる。
(控訴人の主張)
鈴●●●は,本件旧契約及び本件新契約における弁済のうち,平成10年7月13日,同年11月12日,平成11年1月13日,同年3月12日,同年5月11日,同年6月10日,同年7月9日,同年9月10日及び同年10月13日の各弁済について,償還表記載金額の利息及び元本と認識して支払ったにもかかわらず,被控訴人は,上記各弁済について,償還表記載の金額と異なる充当処理をしたのであるから,鈴●●●は,上記各弁済について,「利息又は損害金として任意に支払った」とはいえない。
(5) 被控訴人が本件新契約締結の際に交付した貸付契約説明書は,貸金業法17条所定の書面といえるか。
(被控訴人の主張)
本件旧契約における各弁済について,貸金業法43条の適用があるのであるから,本件新契約締結の際に被控訴人が交付した貸付契約説明書10項記載の残元金及び損害金の額は真実である以上,控訴人の主張は前提を欠く。
(控訴人の主張)
本件旧契約における各弁済について,貸金業法の適用がないのであるから,本件新契約締結の際に被控訴人が交付した貸付契約説明書第10項記載の残元金及び損害金の額は真実ではなく,上記貸付契約説明書は,貸金業法17条所定の書面といえない。
第3争点に対する判断
1 争点(1)について
(1) 前記第2の1のとおり,本件旧契約及び本件新契約における鈴●●●あるいは控訴人による各弁済の都度,交付された本件受取証書には,「契約年月日」の記載がないところ,貸金業法18条1項2号は受取証書に「契約年月日」を記載しなければならないと明確に規定している。
(2) 規則15条2項は,受取証書に記載すべき「貸金業者の商号,名称又は氏名及び住所」,「契約年月日」,「貸付けの金額」,「貸金業者の登録番号」,「債務者の商号,名称又は氏名」につき,当該弁済を受けた債権に係る貸付の契約を契約番号その他により明示することをもって,代えることができる旨規定している。
しかし,省令をもって貸金業法18条1項2号の定めを緩和することができるとしても,この省令の規定は,契約番号の記載をもって原則的記載に代えることができるとしたものではないことは,省令の文言から明らかであり,また貸金業法に定めた同規定が借主保護を目的として受取証書の記載事項を具体的に定めたものであることにかんがみ,同規定を省令をもって緩和するには,受取証書に契約年月日等を記載することが不可能又は著しく困難である等の特段の事情を要するところ,本件においてそのような事情を認めるに足りる証拠はない。
よって,本件受取証書は,貸金業法18条1項所定の書面とは認められない。
2 以上のとおりであるから,その余の争点について判断するまでもなく,本件旧契約及び本件新契約において,鈴●●●あるいは控訴人がした利息及び損害金の支払については,貸金業法43条1項の適用要件を欠き,みなし弁済は認められない。
3 以上を前提にして,本件旧契約につき,利息制限法所定の制限利率に従って計算すると別紙元利金計算書1のとおりとなり(なお,期限の利益を喪失した平成10年7月11日以降,基準時である各月10日までの経過日数分については,約定により,年率29.80パーセントで計算する。),本件新契約締結時である平成11年12月3日における本件旧契約の有効な残債務が43万5528円(元金42万7844円及び損害金7684円の合計額),現金交付額が50万5134円であるから,本件新契約の元本額は94万0662円となる。
そして,本件新契約につき,利息制限法所定の制限利率に従って充当計算すると別紙元利金計算書2のとおりとなる(なお,期限の利益を喪失した平成12年1月11日以降,基準時である各月10日までの経過日数分については,約定により,年率29.80パーセントで計算する。)。
4 よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松田清 裁判官 加藤美枝子 裁判官 蒲田祐一)
<以下省略>