横浜地方裁判所 平成15年(ワ)3452号 判決 2005年4月28日
別紙当事者目録記載のとおり
主文
一 被告学校法人麻布獣医学園は、原告A野太郎に対し、五五万円及びこれに対する平成一四年一一月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告学校法人神奈川大学は、原告B山松夫に対し、二〇万円及びこれに対する平成一四年一一月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告学校法人フェリス女学院は、原告C川竹子に対し、三八万円及びこれに対する平成一五年四月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告学校法人麻布獣医学園は、原告E田春子に対し、一〇七万五〇〇〇円及びこれに対する平成一五年一〇月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 原告A野太郎、同B山松夫及び同E田春子のその余の請求をいずれも棄却する。
六 原告D原梅夫の請求を棄却する。
七 訴訟費用中、原告A野太郎と被告学校法人麻布獣医学園との間に生じたものは、これを一〇分し、その七を同被告の、その余を同原告の負担とする。
八 訴訟費用中、原告B山松夫と被告学校法人神奈川大学との間に生じたものは、これを三分し、その二を同被告の、その余を同原告の負担とする。
九 訴訟費用中、原告C川竹子と被告学校法人フェリス女学院との間に生じたものは、同被告の負担とする。
一〇 訴訟費用中、原告D原梅夫と被告学校法人横浜商科大学との間に生じたものは、同原告の負担とする。
一一 訴訟費用中、原告E田春子と被告学校法人麻布獣医学園との間に生じたものは、これを五分し、その四を同被告の、その余を同原告の負担とする。
一二 この判決は、第一項ないし第四項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告学校法人麻布獣医学園は、原告A野太郎に対し、八〇万円及びこれに対する平成一四年一一月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告学校法人神奈川大学は、原告B山松夫に対し、三〇万円及びこれに対する平成一四年一一月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告学校法人フェリス女学院は、原告C川竹子に対し、三八万円及びこれに対する平成一五年四月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告学校法人横浜商科大学は、原告D原梅夫に対し、一一〇万一〇〇〇円及びこれに対する平成一五年四月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 被告学校法人麻布獣医学園は、原告E田春子に対し、一三二万五〇〇〇円及びこれに対する平成一五年一〇月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告らがそれぞれ設置する大学の入学試験に合格し、入学金及び授業料等のいわゆる入学時納付金(以下「学納金」という。)を納付した原告らが、入学を辞退するなどして被告らの設置する大学に入学しなかったことから、在学契約は解除されたと主張して、被告らに対し、不当利得返還請求権に基づき、納付済みの学納金の返還を求めた事案である。
原告らの主張に対し、被告らは、学納金は性質上返還を要しない、又は返還しない旨の特約があるなどとして争っているが、原告らは、学納金の性質を争うとともに、そのような特約は民法又は消費者契約法の規定により無効であるなどと反論している。
一 前提となる事実
以下の事実のうち、証拠を摘示しない事実は、当事者間に実質的に争いのない事実又は弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実である(なお、原告らが被告らに納付した各金額、被告らから原告らに返還された各金額、本訴において原告らが被告らに支払を請求する各金額については、別紙「学納金納付・返還・請求金額一覧」を参照されたい。)。
(1) 原告A野関係
ア 原告A野太郎(以下「原告A野」という。)は、平成一四年二月七日、被告学校法人麻布獣医学園(以下「被告麻布」という。)が設置する麻布大学の環境保健学部環境政策学科の平成一四年度一般入学試験を受け、同月一五日、合格を発表された。そこで、原告A野は、麻布大学の「平成一四年度入学試験要項 環境保健学部」(以下「麻布大学入試要項」という。)に基づき、同月一八日、被告麻布に対し、入学金二五万円、施設設備費一五万円、授業料三五万円、教育充実費五万円、諸費用(委託徴収)一万四八〇〇円及びその他(委託徴収)五万二〇〇〇円の合計八六万六八〇〇円を納付した。
イ ところが、原告A野は、その後、国立大学である琉球大学農学部に合格したため、被告麻布より送付された入学辞退届用紙に所定の事項を記入し、同年四月二日付けで同被告に送付し、もって入学を辞退した。
これを受け、被告麻布は、同月一二日、後述のA野特約において不返還の対象から除かれている上記諸費用(委託徴収)及びその他(委託徴収)の合計六万六八〇〇円を返還した。
ウ 麻布大学入試要項には、「一般入学試験合格者(中略)で入学手続終了後、入学を辞退しようとする者は次の期日までに所定の入学辞退届に本学発行の入学許可書を添えて提出すれば入学金以外の納付金を返還します。それ以降の申し出については、一切返還しません。ただし、学生教育研究災害傷害保険料、学生自治会入会金等、父母会入会金等、同窓会入会金等は返還します。」、「入学辞退申し出締切日:平成一四年三月二五日(月)一七時まで」という記載があった(以下「A野特約」という。)。なお、平成一四年度国公立大学入学試験(後期日程)の合格発表は、平成一四年三月二〇日から同月二四日までの間に行われた。
エ 麻布大学の平成一四年度の入学式は、同年四月六日に行われた。
(2) 原告B山関係
ア 原告B山松夫(以下「原告B山」という。)は、被告学校法人神奈川大学(以下「被告神奈川」という。)が設置する神奈川大学の法学部の平成一四年度一般入学試験を受け、平成一四年二月二〇日、合格を発表された。そこで、原告B山は、神奈川大学の「二〇〇二(平成一四)年度入学試験要項」(以下「神奈川大学入試要項」という。)に基づき、同月二八日、入学金三〇万円を、同年三月六日、授業料三二万円、施設設備資金一二万五〇〇〇円及び委託徴収金二万七七〇〇円の合計四七万二七〇〇円を納付した。
イ その後、原告B山は、被告神奈川に対し、同年三月二五日付け通知書をもって、入学を辞退する旨を伝えた。
これを受け、被告神奈川は、入学金を除く授業料等四七万二七〇〇円を返還した。
ウ 神奈川大学入試要項には、「①入学手続完了後、三月二五日(月)一五:〇〇までに事情により、本学への入学を辞退する場合、所定の入学辞退手続きを完了することにより、入学金を除く学費を返還します。②上記の期間内であれば、入学辞退の理由にかかわらず、入学金を除く学費等の返還を希望することができます。」という記載があった。
また、神奈川大学の二〇〇二(平成一四)年度入学手続要項(以下「神奈川大学入学手続要項」という。)には、入学辞退の場合の学納金の返還について、おおむね、①平成一四年三月二五日までに入学を辞退する場合には、その理由にかかわらず、入学金を除く学納金の返還を受けることができる、②同月二六日から三〇日までの間に入学を辞退する場合には、同期間内に併願大学に合格し、当該大学に入学することを理由とするものであるときは、入学金を除く学納金の返還を受けることができる旨の記載があった(以下、神奈川大学入試要項の上記記載と合わせて「B山特約」という。)。
(3) 原告C川関係
ア 原告C川竹子(以下「原告C川」という。)は、平成一四年二月三日、被告学校法人フェリス女学院(以下「被告フェリス」という。)が設置するフェリス女学院大学の国際交流学部の一般入学試験(A日程)を受け、同月八日、合格を発表された。そこで、原告C川は、フェリス女学院大学の「二〇〇二年度(平成一四年度)一般入学試験学生募集要項」(以下「フェリス女学院大学入試要項」という。)に基づき、同年二月一二日、一次手続として入学金三八万円を納付した。
イ その後、原告C川は、同月二一日までにすべき二次手続(授業料等六八万三七〇〇円の納付)を怠ったため、被告フェリスは、フェリス女学院大学入試要項に基づき、同原告の入学許可を取り消した。
原告C川の母親は、同月二五日、フェリス女学院大学入試課長に対し、入学許可の取消しを撤回するなど、同原告の入学が可能になる手続がないか相談した。これに対し、同課長は、二次手続の期限が経過した直後に繰上合格者を確定し、繰上合格通知を発送する扱いであり、既に繰上合格者が確定していることから、原告C川が希望するような手続は存在しない旨を説明した。さらに、同課長は、B日程の入学試験を受ける途もあるが、A日程の入学試験で合格していることがB日程の入学試験において考慮されることはない旨も説明した。
原告C川は、同年三月八日、B日程の入学試験を受けたが、同月一三日、不合格が発表された。
ウ フェリス女学院大学入試要項には、二次手続終了後に入学を辞退する場合については、所定期間内に入学辞退を申し出たときに限り、二次手続における納付金を返還する旨の記載があったが、一次手続終了後、二次手続をしなかった場合の納付金の返還については、記載がなかった。
エ 原告C川は、平成一五年二月七日付け通知書をもって、被告フェリスに対し、入学金の返還を要求したが、同被告は、同月一九日到達の書面をもって、これを拒否した。
(4) 原告D原関係
ア 原告D原梅夫(以下「原告D原」という。)は、平成一一年二月三日、被告学校法人横浜商科大学(以下「被告横浜商科」という。)が設置する横浜商科大学の商学部経営情報学科の平成一一年度一般入学試験を受け、同月一〇日、補欠合格を発表され、同年三月一五日午後五時から午後七時三〇分までの間に、繰上合格した旨の通知を受けた(第三次補欠であったが、その旨は明示されなかった。)。そこで、原告D原は、横浜商科大学の「一九九九入学試験要項」(以下「横浜商科大学入試要項」という。)及び「平成一一年度入学手続要項」(以下「横浜商科大学入学手続要項」という。)に基づき、納付期限である同月一九日、入学金三〇万円、授業料三二万五〇〇〇円、施設設備費三〇万円、諸費料一〇万円、課外活動費一万円、学術会費一万一〇〇〇円、同窓会費二万円及び育友会費三万五〇〇〇円の合計一一〇万一〇〇〇円を納付した。なお、横浜商科大学入学手続要項は、入学辞退者が出た結果として繰上合格した者(中でも、被告横浜商科において第三次補欠として扱われた者)に対して交付されたものであった。
イ ところが、原告D原は、その後、桐蔭横浜大学に合格したため、被告横浜商科に対し、同年四月二日消印の所定の書面をもって、入学辞退を通知した(同原告が、同年三月二七日ころ、横浜商科大学職員に対し、電話により入学辞退の意思を伝えたか否かについては争いがある。)。
ウ 横浜商科大学入試要項には、「いったん手続された『納入金』および『受理した書類』は、いかなる理由があっても一切返還しません。」と記載されており、横浜商科大学入学手続要項には、「一旦納入された納付金は理由の如何を問わず返還いたしません。」と記載されていた(以下、これらを合わせて「D原特約」という。)。
エ 横浜商科大学の入学式は、同年四月六日行われた。
(5) 原告E田関係
ア 原告E田春子(以下「原告E田」という。)は、平成一三年一二月一日、麻布大学の獣医学部獣医学科の平成一四年度推薦入学試験を受け、同月一〇日ころ、合格を発表された。そこで、原告E田は、同月一四日、入学金二五万円、施設設備費二〇万円、授業料六二万五〇〇〇円、実験実習費一〇万円、教育充実費一五万円及び自治会費等七万〇八〇〇円の合計一三九万五八〇〇円を納付した。
イ ところが、原告E田は、その後、北海道大学獣医学部に合格したため、麻布大学への入学を辞退する旨の平成一四年三月一三日付け辞退届書を被告麻布に送付した。
これを受け、被告麻布は、同月二五日、原告E田が納付した学納金のうち、自治会費等七万〇八〇〇円を返還した。
ウ 麻布大学の平成一四年度入学試験要項には、「推薦入学試験等による場合は本学専願者として取り扱うので、納入金の返還は一切いたしません。」という記載があった(《証拠省略》(乙A一は環境保健学部のものであるが、獣医学部の入学試験要項にも同様の記載があったものと推測される。)。以下「E田特約」といい、A野特約、B山特約及びD原特約と合わせて「本件各特約」という。)。
二 原告らの主張の骨子
(1) 前記一記載のとおり、原告らは、それぞれ、被告らの設置する大学の入学試験に合格し、学納金を納付したものであるところ、原告らと被告らとの間には、遅くとも入学金の各納付時点までに、在学契約がそれぞれ締結されたというべきである。ここで在学契約とは、被告らが、原告らに対し、教育の目的達成のための役務を提供すべき義務を負担し、原告らが、被告らに対し、上記教育役務の対価を支払う義務を負担する継続的双務契約であり、その法的性質は、準委任契約又はこれに類似の無名契約(以下、単に「準委任契約」という。)である。
(2) 原告らは、上記各在学契約締結後、それぞれ、被告らの設置する大学への入学を辞退し、又は入学許可を取り消され、その結果、各在学契約は解除され(民法六五六条、六五一条一項の直接適用又は類推適用。以下、同法六五六条については引用を省略する。)、被告らによって教育役務が提供される前に、将来に向けて解消された(民法六五二条、六二〇条)。他方、被告らは、原告らから学納金を受領しているところ、この学納金は、受任者の前払費用(民法六四九条)又は前払報酬(民法六四八条)であるから、上記解除により、被告らは、原告らが納付した学納金を返還する義務がある(民法七〇三条)。
よって、原告らは、被告らに対し、それぞれ、不当利得返還請求権に基づき、受任者の前払費用又は前払報酬として支払った学納金の返還等を求める。
(3) なお、被告らは、本件各特約等を理由に、学納金の返還を拒絶している。しかし、本件各特約は、民法六五一条二項ただし書に違反するものとして、又は民法九〇条、消費者契約法(以下、条文を引用するときは単に「法」という。)九条一号若しくは法一〇条によって、無効というべきである。
第三争点
一 在学契約の法的性質及び成立時期等
(原告らの主張)
(1) 在学契約は、教育機関である学校と被教育者である学生(合格者)との間に成立する契約であり、その中核は教育役務の提供にあるが、労務の提供とはいえ、教育者の裁量に委ねられる余地が大きいことにかんがみれば、その本質は準委任契約であると考えるのが自然である。在学契約が教育役務の提供以外の要素を含むとしても、それは教育役務の提供という目的を達成するための付随的要素にすぎないのであって、準委任契約としての性質が変わるものではない。
なお、このような在学契約は、合格発表若しくは合格通知の発信の時点において、又は、遅くとも入学金の納付時点において成立するといえる。
(2) 上記のように、在学契約は準委任契約であるから、民法六五一条一項等の委任の解除についての規定が適用又は類推適用される。同項が契約当事者に任意の解除権を認めているのは、委任契約が当事者間の信頼を基礎として継続する契約だからであるところ、在学契約も、信頼を基礎とする契約関係であるから、同条の趣旨が最もよく当てはまる。なお、在学契約においては、一般に、大学側からの解除権は制限されているが、これは公教育制度の一環としての公共性等に基づく外在的制約であって、これをもって在学契約において同項の適用が全面的に排除されると解すべきではない。
(被告らの主張)
被告らは、相互に、自己に有利に主張を援用しているが、各被告の主要な主張内容は以下のとおりである(争点二以下についても同様である。)。
(1) 被告神奈川の主張
在学契約は、教育役務の提供のみならず人的・物的教育施設の利用関係をもその内容としていること、学生の退学について大学側に一定の制約があることなどからすると、在学契約をもって準委任契約と解することはできず、教育法独特の契約と解される。具体的には、①教育施設の貸借、②教育役務の提供及び関連事務の処理、③大学という特殊な部分社会への加入とそれに対応するところの学生としての身分・地位の取得(身分的権利の取得)という要素が含まれているが、最も重要なのは③である。そうでないとしても、在学契約は、私法的学生身分取得契約に該当するというべきである。
(2) 被告麻布の主張
在学契約は、確かに、労務の提供の側面において準委任契約と類似点があるが、法律効果に関しては、本来無償かつ片務の契約を前提とする契約類型である準委任契約と符合しない面が多い。在学契約が基本的に有している継続的有償双務契約性が、複合的要素を包摂しているため、民法の準委任契約に関する規定の適用又は類推適用には、おのずと無理が出てくるのである。
結局、在学契約は、準委任契約との類似点を持ちながらも本来の類型をはるかに超えた、「教育法の理念に規律される継続的な有償双務契約としての性質を有する私法上の無名契約」とするのが合理的な解釈である。そして、このような在学契約は学納金の支払をもって成立すると考えるのが自然である。
(3) 被告フェリスの主張
合格者が入学手続を完了して在学資格を獲得し、その後、具体的な大学教育を受けて卒業するまでの全過程を、「在学契約」という一個の契約関係として説明することは、実体に反し、又は当事者の意思に反するのであって、理論的ではない。
二 学納金の法的性質等
(原告らの主張)
(1) 授業料
授業料は、その名称や、入学した学生が次年度以降も毎年支払うべき金員であるという性格、金額の大きさなどからして、大学が学生から教育役務提供の対価(報酬)として受領する金員である。
(2) 入学金
ア 以下のような点にかんがみれば、入学金も、授業料と同様、在学契約における教育役務提供の対価(報酬)であるというべきである。
(ア) 入学金は、歴史的には、金額において受験料と大差がなく、学生証発行等の入学手続等をするための事務手数料(在学契約締結のために要する費用)として徴収され始めた金員であると考えられる。
(イ) 現在における入学金は、その金額が高額となっており、経理上も、手数料としてではなく、授業料と区別されることなく学生納付金として位置付けられ、使途も、入学手続を行うための事務手数料に限定されずに、授業料と区別されることなく人件費その他の大学運営の経費一般に充てられているのであるから、授業料と同質の金員(教育役務提供の対価)そのものである。
(ウ) 「入学金」、「授業料」等の費目又は名称によって、金員の法的性質や契約終了時の返還の要否が根本的に異なるとすると、大学側が恣意的に返還を免れることができることになり、極めて不合理である。
(エ) 特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)四九条二項は、大学と同じく教育役務を提供している学習塾や語学教室と消費者との間の特定継続的役務提供契約について、法九条一号と同趣旨の損害賠償等の制限を定めているところ、特定商取引法四九条二項については、契約締結費用及び履行費用として通常必要とされる合理的な範囲の金額を超える高額な入学金は、実質的に教育役務提供の対価として考慮すべきであると解されている。
(オ) 当事者の合理的な意思としても、まず、合格者は、当該大学に入学して教育を受けることを望むからこそ、その対価として「入学金」を含む学納金を納付するのであるといえる。また、大学側としても、専願受験による合格者や当該大学を第一志望校とする合格者からも「入学金」を含む学納金を徴収しているのであるから、「地位を保全する」ためであるとか「滑り止めの対価」であるとかいう合理的意思解釈は成り立たないし、収益事業が制限されていることからすれば、教育役務提供の対価以外の趣旨で「入学金」を徴収しているという合理的意思解釈も成り立たない。
イ 入学金の性質についての被告らの主張に対する反論は、以下のとおりである。
(ア) 被告神奈川の主張に対する反論
合格者は、単に入学手続をすることなどのために入学金を納付しているとは解されない。合格者は、飽くまで当該大学に在籍し、その提供する教育役務を享受することを目的に、入学金を納付している。
また、合格者は、大学側の合格発表により、被告神奈川のいう「入学する権利」を与えられているのであって、学納金を納付することで初めて同権利を取得するわけではない。合格発表後、学納金の納付までの間に、大学側が更に何らかの実質的審査や選抜を行うことはなく、合格者が学納金の納付を希望した場合には、大学側がこれを拒否することはできないことから考えても、上記権利は、合格発表時点で発生しているというべきである。学納金の納付は、契約当事者たる合格者の債務の履行にすぎない。
入学金が権利金であるとの主張は、当事者の合理的意思解釈に反する。被告神奈川の主張に従えば、同被告は、入学金を「入学権利確保」という権利の対価として授受していることになり、権利売買という営利行為を行っていることになる。これは、学校法人としての自己を否定する暴論である。
(イ) 被告フェリスの主張に対する反論
被告フェリスが主張するように、入学金が入学資格を得ることの対価だとすると、入学金を納付した原告C川がなぜ入学資格を取り消されることになるのか不明である。その後の学納金の納付がわずか数日遅れることで入学資格が取り消されるとすれば、被告フェリスの主張を前提としても、本件の入学金三八万円は、わずか九日間の「入学資格維持」のための対価ということになるが、どう考えても合理性がない。
(被告らの主張)
(1) 被告神奈川の主張
入学金は、教育役務提供の対価である授業料等とは異なる性格のものである。
ア(ア) 大学は、法律によってその入学定員が定められ、一定の学生数を確保することが義務付けられているため、入学金を納付させて入学の意思を確認することは最も重要である。合格者としては、入学試験を受ける時点における入学の意思は明確なものではなく、合格後、入学手続案内の諸条件に基づいて入学金を納付することにより、入学意思を表示する。
入学金は、世間一般に、また、長い間の慣行により、入学する権利ないし在籍を確保するための一種の権利金的なものと考えられている。すなわち、大学は、一般市民社会とは異なる特殊な部分社会を形成しており、大学への入学は、そのような特殊な部分社会における身分・地位を取得することになるところ、入学金はその対価的意味を有する。合格者の意識としても、入学金の納付によって、入学関係事務費用を前払したというよりも、入学する権利を確保したと考えるのが通常である。
(イ) 合格者は、入学金を納付することにより入学する権利を取得したのであるから、入学金の授受に関する問題はそこで終了し、大学は入学金を返還する必要はない。昭和五〇年九月一日文部省管理局長・大学局長通知(以下「文部省通知」という。)においても、入学金以外の学納金については合格後短期間に納付させる取扱いを避けるべきであるとしている一方、入学金については短期納付を認め、入学しなかった場合の不返還を認めているし、消費者契約法立法時の政府答弁においても、入学金の不返還については合理的理由があるとされている。大学の経営も、入学金はいかなる理由があっても返還されないことを前提としており、このような慣行が変更されてしまうと、大学の経営は成り立たなくなる。
イ 上記アの主張が認められないとすれば、入学金は、入学手続のための諸経費又は授業が開始されて大学側の役務が提供されるまでの費用、及び定員補充に要する準備費用についての損害賠償の前払と考えるほかない。授業開始までの費用としては事務局の人件費が主たるものと考えられるが、補欠合格者で入学を希望する者が見付からない場合、又は入学辞退の意思表示が遅くて事実上定員補充の時間的余裕がない場合には、定員補充ができなかったことによる損害は非常に多額になる。これらの事情を総合して、年度ごとに一定額を支払うこととし、それに過不足があった場合でも精算しないものとしたのが入学金であり、返還は予定されていない。
(2) 被告麻布の主張
入学金は、入学手続の諸費用に充てられるものであるほか、一年間の浪人生活による時間的、経済的及び精神的な負担を免れるという利益や、当該大学の学生であることを自己の経歴に加えるという利益を得ることができる契約上の地位又はその予約上の地位の対価という側面を有する。他方、学納金のうち入学金を除いた授業料等は、大学の施設等の利用及び教育役務の享受の対価という側面が強い。
(3) 被告フェリスの主張
入学金は、その名称のとおり、合格者が入学資格を得るために支払う金員であって、教育役務提供の対価として支払われるものではない。被告フェリスが納付済みの入学金を返還しないのは、既に合格者が入学資格を得ているからであって、その合格者が実際に入学手続を取らなかったこと、又は入学を辞退したことによる損害賠償若しくは違約罰として没収しているわけではない。
三 本件各特約の有効性(消費者契約法関係)
(原告らの主張)
(1) 在学契約への消費者契約法の適用
消費者契約法が適用除外として規定する契約は労働契約のみであるから、在学契約が労働契約の性質を有すると考えない限り(既述のとおり、在学契約は準委任契約である。)、同法は、在学契約にも当然に適用される。同法における「事業者」とは「法人その他の団体……」をいうとされているのであって(二条二項)、「法人その他の団体」には何らの限定も付されていないから、学校の公的側面やそれに対する法的規制を理由として、同法が在学契約に適用されないと考えることはできない。むしろ、公的側面が存在する場合には、消費者との実質的公平や正義の実現がより強く要請されるため、同法の理念がより確実に実現されなければならない。
被告神奈川は、① 同法の目的は悪徳商法の規制にあり、在学契約には同法の適用はない、② 同法の目的は情報及び交渉力において劣る消費者の利益擁護を図ることにあり、在学契約においてはこれらの格差がないから同法の適用はない、と主張する。しかし、① 同法の立法趣旨及び目的からすると、同法は、消費者の関与する契約に関し、広く民事ルールを定めようとするものである。また、② 情報及び交渉力の格差は同法の適用対象か否かの判断基準とはされていないし、しかも、大学と学生(合格者)との間には情報及び交渉力において大きな格差があるのが現実である。よって、在学契約に同法の適用の余地がないという主張は、全く不当である。
(2) 消費者契約法九条一号
入学辞退は法九条一号にいう契約の解除に当たり、本件各特約は解除に伴う損害賠償額の予定又は違約金の約定に当たるところ、被告らには平均的な損害がないから、本件各特約は全体について無効である。
ア 入学辞退と解除
法九条一号にいう解除には、法定解除権、約定解除権、合意のいずれに基づくものも含まれ、また、将来に向かってのみ効力を生ずる解約(告知)も含まれる。入学辞退は、準委任契約である在学契約の民法六五一条による解除(告知)であるから、法九条一号の解除に当たる。
イ 本件各特約の法的性質
入学辞退により在学契約が将来に向かって消滅した場合(民法六五二条、六二〇条)には、受任者は、準委任事務を処理するために委任者から受け取っていた物をすべて引き渡すべきであるから(民法六四六条一項)、本来ならば、大学側は、既に受領していた学納金を合格者に返還しなければならず、解除が大学側に不利な時期にされたものでない限り、損害賠償の請求もできない(民法六五一条二項本文)。そうすると、本件各特約は、民法六四六条一項、六五一条二項本文と異なる内容の特約であって、損害賠償額の予定(学納金相当額を損害賠償額とする合意)をしたと解することができる。他方、本件各特約は違約金の約定と見ることもできるが、法九条一号は損害賠償額の予定と違約金との間に法的効果の差異を設けていないため、両者を区別する実益はない。
なお、本件各特約には、学納金を返還しない旨が記載されているだけであり、「損害賠償額の予定」や「違約金」などの記載はないが、同号に該当する条項か否かは、その文言ではなく、その条項の意図する実質から判断されなければならないところ、本件各特約の実質が、入学辞退に伴う大学側の不利益をカバーしようとするものである以上、損害賠償額の予定の約定(又は違約金の約定)と見るのが最も妥当である。
ウ 平均的損害
(ア) 平均的損害の立証責任
事業者にどのような平均的損害が生じるかは事業者の内部事情に関わることであり、消費者側においてこれを把握するのは極めて困難であるし、消費者契約法は、事業者と消費者との間に情報及び交渉力の格差があることにかんがみて制定されたものであり、消費者に事業者の内部事情を主張立証させるのは立法趣旨に反することからすると、平均的損害についての立証責任は事業者側にあるというべきである。
(イ) 平均的損害の有無
以下のように、被告らには平均的損害はないというべきである。
a 文部省通知は、利用もしないのに授業料や施設利用料を徴収するのは「国民の納得を得られない」と断言しており、学納金の全額を損害賠償として取得するまでの合理的根拠がないことを裏付けている。
b 特定商取引法は、特定継続的役務提供契約について、中途解約の場合における損害賠償額の予定又は違約金の金額の上限を定めている(四九条二項)。同項では、役務の開始前に解約する場合には、「契約の締結及び履行のために通常要する費用の額として(中略)政令で定める役務ごとに政令で定める額」が上限とされ(同項二号)、具体的には一万一〇〇〇円から二万円とされている(同法施行令一五条、別表第五)。
在学契約は特定商取引法の定める指定役務ではないから、在学契約について同法が適用されるわけではないが、指定役務とされる語学教室や学習塾などは、一定の設備を設けて教育活動をするという点において大学の在学契約と共通している。そうすると、これら指定役務の契約について、役務提供前の損害金として一万一〇〇〇円から二万円しか認められていないことは、大学の在学契約にも妥当するというべきである。
c 被告麻布及び被告神奈川は、入学者の確保を理由に本件各特約の合理性を主張しているものと考えられるが、これは、いったん支払った学納金がもったいないから入学辞退を思いとどまるという抑制作用を期待しているだけであって、入学辞退による損害とは関係がない。また、両被告は、学納金を大学運営の一般経費に充当していることを理由に、これを返還することになれば大学運営に支障が生じると主張していると考えられるが、入学辞退者の犠牲において大学運営を維持しようとするのは本末転倒であるし、一般経費に充当していることが平均的損害の根拠になるとはいい難い。
また、被告神奈川は、入学金の納付が社会的に慣行又は慣習として広く認容されていることを主張するが、そのような長年の慣行こそが理不尽かつ不合理なものなのであるし、そのような慣行があることをもって、返還していなかった入学金等が平均的損害に当たると認められるわけではない。
さらに、被告麻布は、入学辞退申出期限後の入学辞退により、入学者一人分の一年次納付金相当額の収入が得られなくなるという損害が発生すると主張するが、大学は定員制を設け、一定の定員の下で経営を維持しているのであり、入学を辞退する者がいても定員割れにならなければ損害は生じない。また、「平均的損害」であるから、当該年度における定員割れの有無のみならず、例年、入学辞退によってどの程度の定員割れが生じ、それがどの程度大学運営に損害を与えているかを類型的に検討する必要があるところ、被告らは、定員以上に合格者を出すことにより定員割れが生じないようにしているのであるから、入学辞退によって損害が生じているとはいえない。
d 入学辞退によって被告らに生じる平均的損害は、せいぜい合格に伴う各種資料の印刷及び送付の経費等にすぎないと考えられ、これは上記bで述べたところからも根拠付けられる。
そして、これらの経費は、受験及び合格発表に連動する手続において拠出されるものであり、受験料(おおむね三万五〇〇〇円程度)によって賄われるものである。
(3) 消費者契約法一〇条
本件各特約は、民法の任意規定に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する条項であって、信義則に反するものであるから、法一〇条により無効である。
ア 既述のとおり、合格者が入学を辞退した場合、大学側は、既に受領していた学納金を合格者に返還しなければならず、解除が大学側に不利な時期にされたものでない限り、損害賠償の請求もできないというのが、民法の原則である(民法六四六条一項、六五一条二項本文)。本件各特約は、これらの規定と異なるものであり、これらの規定に比し、消費者(合格者)の権利を制限し、又は消費者の義務を加重しているといえる。
イ 基本的には受験をして合格しなければ大学に入学できないという図式の中で、学生側から契約内容について交渉をすることはおよそ考え難く、大学側は、そのような学生側の弱みに付け入る形で一方的に本件各特約を押し付けているのであり、信義則に反するものというべきである。
(被告らの主張)
(1) 被告神奈川の主張
消費者契約法は、いわゆる悪徳商法を排除する趣旨から制定されたものであること、学生(合格者)と大学との間には情報の質及び量並びに交渉力の格差は存在しないことからすれば、同法は在学契約には適用されないと解される。在学契約の性質から考えても、その性質は、上記争点一における被告神奈川主張のとおりであって、単なる経済的価値の移転を目的とする取引契約とは異なる教育的配慮を必要とする契約であるから、消費者契約法の範疇外である。
仮に学納金について同法の適用があると解しても、入学金の性質は上記争点二における被告神奈川主張のとおりであるから、入学金は返還不要であるとの結論を左右するものではない。
(2) 被告麻布の主張
在学契約には、法一〇条の適用はない。
原告A野が「入学辞退」として主張するのは、実際には新学年開始後の「中途退学」であり、もはや新年度の予算の執行中である以上、納付された当該年度の学納金相当額の全額が平均的損害に当たるといわざるを得ないから、A野特約が法九条一号によって無効となることはない。
なお、平均的損害の立証責任は、法律の制定形式及び法律の趣旨からして、消費者側にあることは明らかであり、具体的な立証の内容としては、消費者側においても十分に主張立証できる程度に定型化されたものであると考えるべきである。
(3) 被告横浜商科の主張
少なくとも、本件のように消費者契約法が制定される以前の在学契約における解除の問題については、同法の適用又は類推適用はないといわなければならない。
四 本件各特約の有効性(民法関係)
(原告らの主張)
(1) 民法六五一条二項ただし書
本件各特約は、以下の理由により、民法六五一条二項ただし書に抵触するものであるから、無効である。
ア 本件各特約は、損害賠償額の予定条項であって、直接的な解除権放棄条項の形式をとっていない。しかし、解除した場合の損害賠償責任を定めていることからすれば、表現は間接的ではあるが、実質的には解除権放棄条項と同一である。
民法六五一条の下において、委任契約の解除者に損害賠償義務が生ずるのは、相手方に不利な時期における解除であり、かつ、やむを得ない事由がないときに限られる。そして、下記イのとおり同条二項ただし書は強行規定であるから、やむを得ない事由があっても解除できないことを直接的に定めた特約、又は理由のいかんを問わず解除者に損害賠償義務を負わせることを定めた特約は、その効力を否定される。
イ 民法六四三条の文言からも分かるとおり、委任契約は、専ら委任者の利益のためにされるのがその本質である。そうである以上、やむを得ない事由があるにもかかわらず、損害賠償の特約によって委任者を拘束することは、委任契約の本質に真っ向から反するものである。契約時に当事者が合意したとしても、委任者の利益を目的とする契約という委任契約の本質からすれば、やむを得ない事由があれば何らの拘束もなく委任者は委任関係から解放されるべきであり、それを守ろうとしているのが民法六五一条二項ただし書であるから、同項ただし書は強行規定であると解される。
ウ 委任契約が本来委任者の利益のためにされるものであることからすると、上記の「やむを得ない事由」とは、委任事務の処理がそもそも不要になった場合はもとより、委任者が何人かに当該事務を処理してもらう必要性自体はなくならなくとも、当該特定の受任者に事務を処理してもらう必要性がなくなった場合をも含む。
これを本件についてみれば、原告らは、他の大学に入学するため、被告らに教育役務の提供をしてもらう必要がなくなり、入学を辞退した(在学契約を解除した)のである。大学教育は、その性質上、一つの大学からしか受けることができないのであるから、原告らにとっては、当該特定の受任者である被告らからの教育役務の提供は不要となる。このような入学辞退は、自らが最も望む水準及び内容の教育役務の提供という基準による大学の選択が、当人のその後の人生を左右する一大事であるという社会一般の価値判断に強く規律されたものであって、やむを得ない事由に基づく解除に当たるというべきである。
(2) 民法九〇条等(公序良俗違反等)
本件各特約は、消費者契約法によって初めてその効力が否定されるものではなく、同法の適用がない場合であっても、給付の不均衡並びに大学及び合格者の関係等から、当事者の合理的意思解釈として、「被告らに生ずる平均的損害を超えない限度において返還しない」という内容であると解釈されるべきである。そのように解釈できないのであれば、以下のように、本件各特約は公序良俗違反であり、本件各特約を援用することは信義則に反し、又は権利の濫用であって、その効果の全部又は一部が否定されるべきものである。
被告らは、合格者に対する情報の量及び質並びに交渉力等における圧倒的優位に乗じ、又は少なくとも優越的地位を利用して、理由のいかんを問わずに学納金全額を返還しない旨の特約を原告らに受諾させることにより、対価性を欠く学納金を利得しており、その特約は、公序良俗に反するものとして、その全部又は一部が無効である。また、定員割れを生じた場合や大学側に入学手続及び補欠募集手続等の経費負担が生じた場合であっても、原告らの学納金返還請求に対し、本件各特約を援用して一切返還しないと主張することは、本件各特約をめぐる諸状況からして、優越的地位を利用して得た権利の濫用であり、信義則に反するものであって、許されないというべきである。このように解すべき具体的根拠としては、① 原告らは、学納金に対する反対給付を得ていないこと、② 原告らと被告らとの間には交渉力に著しい格差があり、原告らにおいて本件各特約を拒絶することは不可能であったこと、③ 被告らにおいて学納金を保持すべき合理的理由がないこと、④ 本件各特約のような特約は社会的理解を得られず、被告らにおいても長期間にわたって不当な運用を放置していること、⑤ 国際的にみても、学納金を返還していないのは日本のみであることが挙げられる。
なお、一九七〇年代から一九九〇年代における国内外の動向からすると、消費者契約法の制定論議が生じた段階で、「消費者に一方的に不利な条項の効力は維持できない」という価値判断が公序良俗の内容となっており、当該価値判断には、高額の違約金及び損害賠償予定を合理的な範囲に制限すべきであるという判断が内包されていたというべきである。
(被告らの主張)
(1) 被告神奈川の主張
ア 在学契約は、上記争点一における被告神奈川の主張のとおり、単なる私法上の契約とは異なる「身分的権利の取得」という内容をもった契約又は「私法的学生身分取得契約」であって、取引法原理に適合しない側面を有しており、準委任契約には該当しないから、民法六五一条の適用の余地はない。
イ また、入学金の性質を上記争点二における被告神奈川の主張のとおりと考えれば、本件各特約の存否にかかわらず、入学金を返還しないのは当然であるから、公序良俗違反等の点について反論する必要はない。
(2) 被告麻布の主張
ア やむを得ない事由がある場合に準委任契約を継続させることが相当ではないとしても、損害の負担をどうするかは別個の問題であり、そこではなお契約自由の原則が妥当する。よって、A野特約及びE田特約が、民法六五一条二項ただし書により無効になるとはいえない。また、当事者の一方が契約解除を欲したときはそれ自体がやむを得ない事由に当たるとの原告らの主張は、やむを得ない事由という要件を不要とするに等しく、暴論である。
イ 以下のような事情にかんがみれば、A野特約及びE田特約は、信義則違反でもなければ公序良俗違反でもなく、有効である。
(ア) 原告A野関係
麻布大学の入学辞退申出期限(三月二五日)は、国公立大学を中心とする他大学の合格発表日(例年三月二〇日から二四日で、その大半が二二日又は二三日である。)を考慮して設定されたものであり、原告A野としても、同期限までに入学辞退の手続をすることは可能であった。他方、大学の新学年は四月一日に開始するのであって(入学式は式典にすぎず、在学契約上何らかの意味を持つものではない。)、被告麻布としては、上記入学辞退申出期限後のわずかな期間に、学生の確定やクラス編成等の事務を処理しなければならないし、四月一日以降は新年度の予算の執行となるのであるから、入学辞退申出期限を設けることは極めて合理的である。
原告A野の場合、入学辞退書の提出は四月二日であるから、実質的には新学年開始後の中途退学であるところ、新学年開始後は、もはや学生の追加募集はほとんど不可能であるし、新学年開始のためのあらゆる準備がされ、新年度の予算執行も行われているのであるから、入学辞退申出期限後の個別辞退者に対応した規模の縮小は不可能であり、その意味において、同期限経過後は学納金全額に相当する額が大学の損害といわざるを得ない。原告らは、定員割れがなければ損害がないなどと主張しているが、大学としては、募集定員だけでは経営が成り立たないのが実情であるから、募集定員を上回る入学者数を確保するため、入学辞退者数を見込んで実際の合格者数を決めている状況である。
(イ) 原告E田関係
推薦試験や特別選抜試験の性質上、入学辞退などということは当事者の認識にはないのが通常であり、そのような場合に学納金の返還を認めるようなことがまかり通るのであれば、今後は推薦試験も特別選抜試験も維持されなくなるおそれがある。
(3) 被告フェリスの主張
被告フェリスが入学金の返還を拒絶する根拠は、在学契約上の特約ではない。そして、① 原告C川については、授業料を含む学費等の納付義務を不注意により怠り、その後、大学の指導により再度入試を受けたが失敗したという経緯があること、② 納付された入学金が社会通念上不相当に高額ということもないこと、③ フェリス女学院大学においては、納付された入学金を教育施設の維持・拡充に充てていること、④ 定員割れした場合、大学は教育行政上の不利益を受けること、⑤ 安易な入学辞退を認めることは、当該大学に入学を希望する受験生の進学のチャンスを奪い去りかねないことを考え併せると、手続懈怠により入学許可を取り消された者に対して入学金を返還しない取扱いが、公序良俗に反するとはとてもいえない。
(4) 被告横浜商科の主張
ア 民法六五一条は、何らの理由を要せずに契約を解除することができる権利を当事者双方に認めているものであるところ、在学契約においては、大学からの一方的な解除は認められないのであるから、同条二項ただし書が適用される前提を欠いている。仮に同条二項ただし書が適用される余地があるとしても、合格者が解除権を行使すれば大学には損害が発生し得るのであるから、それを填補するために学納金を返還しない旨の合意をすることが直ちに排除されるべきではなく、同条は任意規定と解すべきである。したがって、D原特約が同条によって無効となることはない。
イ ① 原告D原自身、入学手続をする際に、補欠・繰上合格であったことを承知していたこと、② 学納金について、いかなる理由があっても返還されないことを口頭・書面で了知していたこと、③ 学納金の額は、補欠・繰上合格であっても変更されないこと、④ 入学辞退は四月二日消印のはがきによるものであり、同月六日の入学式までに他の合格者と在学契約を締結するのは困難であったこと、⑤ 原告D原が納付した学納金は分納額であることからすると、D原特約をもって、合格者の窮迫、軽率又は無経験等に乗じ、甚だしく不相当な財産的給付を約束させたものと考えることはできず、D原特約が公序良俗に反するとはいえない。
第四当裁判所の判断
一 在学契約の法的性質及び成立時期等
(1) 原告らと被告らとの間においてそれぞれ成立した在学契約の法的性質について、原告らは、教育役務の提供を中核とする点において準委任契約であると主張するのに対し、被告らは、教育的配慮が必要とされ、又は教育法原理に規律される無名契約であって、準委任契約と解することはできないと主張する。しかし、在学契約が完全な民法上の典型契約であるならばともかく、そうでない以上(原告らとしても、準委任契約そのものであると主張しているわけではないものと解される。)、一般的な在学契約の性質から直ちに具体的な場面における法律効果等が導かれるわけではなく、結局、それらは、当該場面において個別的に検討しなければならないはずである。その意味において、在学契約の法的性質を論じる実益は乏しく、当裁判所としては、同契約が教育役務の提供を中心とした継続的な有償双務契約であるということを超えて、その性質を論じることはしない。
(2) もっとも、在学契約の成立時期については、入学辞退が解除に当たるか否かの問題に関わるため、ここで検討する。この点、合格発表がされた時点においては、合格者の入学意思は明確ではないし(既に他大学の入学試験に合格し、他大学への入学意思を固めている場合すらある。)、合格したことのみにより合格者を契約の拘束下に置くのは妥当ではないこと、他方、入学金その他の学納金の納付がされれば、大学としては具体的な入学手続に取り掛からなければならないことにかんがみると、当事者の合理的意思解釈としては、在学契約は、学納金の納付時点において成立すると考えるのが相当である。なお、この考え方からすれば、入学金の納付期限とそれ以外の学納金の納付期限とが異なる場合には、在学契約は、入学金の納付時点において成立することになる(これは、すなわち、それ以外の学納金を納付しないことを解除条件とする在学契約の成立と考えられる。)。
(3) 他方、合格者が入学を辞退すれば、それ以降、学納金の納付により成立していた在学契約に関する契約関係が将来に向かって消滅するのであるから、入学辞退は、在学契約の解除(解約)の性質を有するものと解される。そして、教育を受ける権利を保障する憲法二六条一項の趣旨にかんがみれば、学生がどの大学においてどのような内容の教育を受けるかを決定するに当たっては、その意思が最大限尊重されるべきであるから、上記のような学生の解除権は、在学契約の内容として当然に保障されているものであって、仮に民法六五一条が在学契約に適用されるとしても、上記の解除権は同条の規定により初めて付与されるものではないと考えられる。
二 学納金の法的性質
次に、学納金の返還の要否との関係で、その法的性質が問題となるが、以下においては、入学金、学術会費等、授業料その他に分けて検討する(原告らに対して既に返還されているものについては、検討の対象としない。)。
(1) 入学金
ア 本件訴訟における被告らの入学金の法的性質に関する主張は、必ずしも整理されたものではなく、被告ごとに内容が異なっており、本件訴訟係属中に変更されたものもある。そのような事情から推察すると、大学は、従来、長年の慣行として入学金を徴収してきたものの、入学金の法的性質については明確に意識していなかったものと考えられる。
しかし、我が国の大学における入学金をめぐる長年の慣行を前提にすると、その当否はともかくとして、合格者としては、入学金を納付しなければ大学に入学することはできないと理解しており、大学としても、入学金を納付しない合格者を入学させてはいない。そうすると、入学金は、合格者が大学との間で教育役務の提供を中心とした在学契約を締結し、大学に入学するに当たって、合格者から大学に対して支払われる一種の権利金(ないし手付金)としての性質を有するものと解される。その権利金の実体をより具体的に考察するならば、大学から教育役務の提供を受け、その施設、設備等を利用することができる「大学の学生としての地位」(以下「学生としての地位」という。)を取得する対価としての性質を有するものといえる。
イ ところで、大学入学試験をめぐる社会的な実態を見ると、多くの受験生は、志望順位を決めて複数の大学を受験しており、志望順位が高い大学の合否が明らかではない段階において志望順位が低い大学に合格した場合には、浪人生活による経済的、精神的苦痛を回避するため、取りあえず、合格した当該大学について入学金納付などの入学手続を行っている。このような場合、権利金たる入学金は、浪人生活を回避する利益についての対価、換言すれば、いわゆる「滑り止め」の対価としての機能を果たしていることになる。もっとも、必ずしもすべての場合において入学金が「滑り止め」の対価としての機能を果たしているものではないが、多くの場合において、その当否は措くとしても、入学金が上記のような社会的機能を果たしていることは承認せざるを得ないところであって、そのように考えることが多くの大学及び合格者の認識にも沿うものであるといえる。なお、上記一(2)のとおり、入学金を納付することによって在学契約が成立し、合格者は、大学からの一方的な解除によって奪われることのない、自らが希望すれば当該大学に入学することのできる地位を取得することになるから、入学金をもって、この「大学に入学し得る地位」を取得する対価ということもできるが、その実態は上記の「滑り止め」の対価と異なるところはない。
この点に関し、上記のような社会的な実態を強調し、入学金の法的性質をもって「滑り止め」の対価とする見解も見られるが(被告麻布の主張参照)、入学金が大学の難易度や個々の合格者の受験形態(いわゆる専願受験、併願受験の別など)を問わずに徴収されていること等からして、妥当なものではない。上記アのとおり、入学金の法的性質は「学生としての地位」の対価としての権利金であって、「滑り止め」の対価と言われるものは、大学入学試験をめぐる社会的実態ないし社会的機能の側面から入学金を考察したものにすぎないというべきである。
ウ 一方、推薦入学試験においては、大学側としても相当程度の学力を有する学生を早期に確保できることになるが、特に受験生側にとっては、一般入学試験よりも早期に、かつ、確実に志望大学に合格できるという大きなメリットがある。そこでは、受験生が当該大学を第一志望大学とし、大学と受験生との間に、言わば高度な信頼関係が存在することが前提となっている。そうすると、推薦入学試験の合格者が納付すべき入学金の法的性質としては、そのような高度な信頼関係を前提とした推薦入学試験の合格によって大学に入学し得る地位を付与されたこと(以下、単に「推薦合格」という。)への対価という側面も含まれていると解することができる。
このように、推薦入学の場合には、入学金の法的性質は、「学生としての地位」の対価という面に加え、「推薦合格」の対価という面をも有するものと解される。なお、例えば、麻布大学の場合には、一般入学の場合における入学金の金額と推薦入学の場合におけるそれとの間に差がないが、後記三(1)における入学金の返還の要否についての検討結果からすれば、「推薦合格」の対価としての側面が現実に意味を持つのは、三月三一日以前における入学辞退との関係のみであることにかんがみると、差がないことが上記のように捉えることの妨げとはならない。
エ なお、入学金は、学生の入学に当たって不可欠な事務手続の対価(費用の前払)としての側面を有すると言われることがある。当裁判所としても、入学金にそのような側面があることを否定するものではないが、そのような側面があったとしても、入学金が上記アないしウにおいて検討した性質を有することと何ら矛盾するものではないと解される。
(2) 学術会費等
次に、原告D原が被告横浜商科に納付した学納金のうち、「学術会費」、「同窓会費」及び「育友会費」(以下「学術会費等」という。)について検討する。
《証拠省略》によれば、これらは、それぞれ、横浜商科大学学術研究会、横浜商科大学同窓会及び横浜商科大学育友会(以下「学術研究会等」という。)の入会金及び年会費として徴収されたものであることが認められる。ところで、原告D原の被告横浜商科に対する本件請求が認められるためには、その請求に係る金員が、他団体(学術研究会等)の代理人としての同被告ではなく、同原告の直接の契約当事者としての同被告に支払われたものでなければならないところ、これを認めるに足る証拠はない(むしろ、《証拠省略》によれば、学術研究会等は社団としての性質を有していることがうかがわれ、被告横浜商科は、学術研究会等の代理人として学術会費等を受け取っていたのではないかと推察される。)。
(3) 授業料その他
さらに、原告らが被告らに納付した学納金のうち、上記(1)の入学金及び同(2)の学術会費等以外のものの性質について検討する。具体的には、麻布大学の「施設設備費」、「授業料」、「教育充実費」及び「実験実習費」、横浜商科大学の「授業料」、「施設設備費」、「諸費料」及び「課外活動費」が問題となる。
ア まず、これらのうち、授業料、教育充実費及び実験実習費が、被告らから原告らに対して教育役務を提供することの対価であること、施設設備費が、被告らが原告らに対して大学等の施設及び設備等を利用させることの対価であることは、その名目(費目)から明らかであるし、入学時のみならず二年次以降も徴収されるべき性質のものであることからも、そのように認められる(《証拠省略》によると、横浜商科大学の授業料は一年次にのみ徴収されるかのようにも読めるが、その金額等及び弁論の全趣旨によれば、二年次以降も徴収されるものと認められる。)。そして、これらは、現実に教育役務の提供等を受ける前に支払うべきものとされているから、教育役務提供等の対価(費用及び報酬)の前払であるといえる。
イ 諸費料については、その性質は必ずしも明らかではないものの、一〇万円という金額、また、入学時にのみ徴収されることからすると、入学事務手続のために要する費用として徴収されているものと推測される。
ウ 課外活動費は、在籍している学生の課外活動を奨励するための基金として徴収されているものと認められるから、大学が学生に対し、課外活動をするに当たって必要又は有用な支援等を提供することの対価(前払費用又は前払報酬)であるといえる。
三 学納金の性質による返還の要否
上記二における検討結果を前提に、学納金が、その性質上、被告らから原告らに対して返還されるべきものか否かについて、更に検討する。
(1) 入学金
ア 上記二(1)において検討したとおり、入学金の法的性質は、在学契約締結に当たって合格者から大学に支払われる「学生としての地位」の対価(推薦入学の場合には、「推薦合格」の対価でもある。)としての権利金であるが、社会的には、「滑り止め」の対価としての機能を果たしているものと解される。そこで、まず、このような権利金である入学金について、大学においてそれを保持することが認められるべきか否かという観点から、返還の要否について検討する。
(ア) 入学金の「滑り止め」の対価としての側面は、上記二(1)のとおり、法的性質そのものではなく、これを社会的実態ないし社会的機能の面から考察したものにすぎないのであるが、この社会的実態ないし社会的機能に着目した上で、合格者は入学金を納付した時点で「滑り止め」という利益を得ている以上、その後に当該合格者が入学を辞退したとしても大学には入学金を返還する義務はないとする考えもないではない。この考え方によれば、大学側は、「滑り止め」という言わば保険的な利益の対価として、合格者から入学金を徴収していることになる。しかし、私立大学を設置する学校法人は、営利を目的としない公益法人であって、収益事業についても法律上の制限が存在するのであるから(私立学校法二六条)、「滑り止め」という学校教育とは直接に関係がない利益について対価を取得することは、学校法人としての性質と相容れないものといわなければならない。
したがって、「滑り止め」の対価としての側面においては、そもそも大学が入学金を徴収すること自体を認めることができないと解すべきである。
(イ) 他方、「学生としての地位」の対価という性質について見れば、学生として大学から教育役務の提供を受け、その施設、設備等を利用することができる地位は、学校教育に関連する利益ということができるから、我が国における長年の慣行をも前提にして考えるならば、大学がその対価を取得することも認められないではない。もっとも、合格者が上記のような地位を現実に取得するのは、大学の学年が開始する四月一日以降であるから、大学がその対価としての権利金である入学金を保持する根拠を得るのも、やはり四月一日以降と解するのが相当である。
したがって、「学生としての地位」の対価という観点からしても、合格者が三月三一日以前に入学を辞退するなどして当該大学に現実に入学しなかった場合には、もはや大学において入学金を保持し得る根拠はなく、入学金は合格者に返還されるべきである。
(ウ) 「推薦合格」の対価としての性質については、推薦入学の場合には一般入学の場合よりも在学契約の拘束力を高める合理的な必要性があるから、拘束力を高める機能を有する権利金として、大学が入学金を保持することも認められないとはいえない。
(エ) 以上の点に関し、被告神奈川は、上記(ア)のように入学金を返還すべき場合があり得るとすると、入学金収入を前提としている大学の経営が成り立たなくなってしまうと主張する。しかし、仮に、入学辞退者から徴収した入学金を除いた収入では大学の経営が成り立たないというのであれば、教育役務の提供等を受ける現実の入学者から徴収する授業料等を増額することによって対応すべきであって、入学辞退者から徴収した金員で大学の経営を成り立たせるというのは、本来の大学経営の在り方とはいえない。上記主張は、単に入学金をめぐる現状を前提とした大学の経営を無批判的に追認するものにすぎない。
イ 上記アを前提として、原告らが納付した入学金の返還の要否について検討する。
(ア) 原告A野については、同原告が「入学辞退」をしたのは新学年開始後の平成一四年四月二日であり、同原告は学生としての地位を現実に取得したのであるから(ちなみに、麻布大学における学年は四月一日に始まり、同日が入学の日とされていることからすれば、同原告の上記「入学辞退」は、実質的には入学後の中途退学であるが、以下においては、このような場合も含めて、便宜上、「入学辞退」という。)、被告麻布は、同原告から徴収した入学金を保持し得るのであって、これを同原告に返還すべき義務はない。なお、新学年開始後に入学辞退がされたときでも、入学金の額が不相当に高額であるため、大学においてその全額を保持するのを認めるべきではないこともあり得るが、原告A野が納付した入学金の額(二五万円)が不相当に高額であるとはいえないから、上記結論に影響はない。
(イ) 原告B山は、同年三月二五日ころ、神奈川大学への入学を辞退し、学生としての地位を現実に取得することはなかったのであるから、被告神奈川が同原告から徴収した入学金は、本来、同原告に返還されるべきものである。そうすると、被告神奈川が入学金の返還を拒絶し得るとすれば、その根拠はB山特約ということになり、同特約は、合格者らの入学辞退等によって同被告が被るべき損害について賠償額を予定したものであると解される。
よって、入学金の返還の要否は、同特約の有効性いかんに左右されることになる。
(ウ) 原告C川は、同年二月二一日ころ、フェリス女学院大学への入学許可を取り消されたから、原告B山の場合と同様、被告フェリスが原告C川から徴収した入学金は、本来、同原告に返還されるべきものである。そして、被告フェリスについては、被告神奈川の場合と異なり、原告C川との間において入学金を返還しない旨の特約がされたとは認められないから(《証拠省略》には、「入学辞退」の場合の学納金返還に関する定めがあるが、そこで言う「入学辞退」は、二次手続終了後に入学を辞退した場合を指しているのであって、一次手続終了後に二次手続をしなかった場合については定められていない。)、同被告が入学金の返還を拒絶し得る根拠はない。
(エ) 原告D原については、入学辞退が平成一一年三月二七日にされたか、同年四月二日以降にされたかという点に争いがあるが、仮に同年三月二七日にされていたとしても、後記四(2)で検討するとおり有効と認められるD原特約により、被告横浜商科は同原告に対する入学金の返還義務を負うものではない(そのため、入学辞退がいつされたのかについては、あえて判断しない。)。
(オ) 原告E田は、高度な信頼関係を前提とする推薦入学試験を受け、推薦合格したものである以上、麻布大学への入学を辞退した結果として同大学の学生としての地位を現実に取得しなかったとしても、被告麻布は、同原告から徴収した入学金を保持し得るのであって、これを同原告に返還すべき義務はない。なお、入学金の額の相当性については上記(ア)で述べたとおりであるところ、原告E田が納付した入学金の額(二五万円)も不相当に高額であるとはいえない。
ウ 入学金の返還の要否は上記イ(ア)ないし(オ)のとおりであるが、これらの結論は、上記一の在学契約の法的性質をどのように捉えるかによって異なるものではない。
(2) 学術会費等
上記二(2)において検討したところによれば、学術会費等は、原告D原と被告横浜商科との間の在学契約に基づき支払われたものとは認められないのであって、同原告が入学を辞退した場合には返還されるべき性質のものであるとしても、同被告がその返還義務を負うものではない。
(3) 諸費料
上記二(3)イにおいて検討したところによれば、諸費料は入学事務手続費用として前払されるものであるところ、被告横浜商科は、繰上合格した原告D原が学納金を納付したことにより、同原告の入学に必要な諸手続を行ったものと認められるから、その後、同原告が入学辞退をしたことによって在学契約が将来に向かって消滅したとしても、同被告には、これを返還する義務はない。
(4) 授業料等
上記二(3)ア及びウにおいて検討したところによれば、授業料、教育充実費、実験実習費、施設設備費及び課外活動費(以下「授業料等」という。)は、教育役務の提供を受け、又は施設を利用することなどの対価として前払されるものである。しかし、原告A野、同D原及び同E田は、被告らからそれぞれ教育役務の提供等を受ける前に入学を辞退し、在学契約は将来に向かって消滅したのであるから、在学契約の解消が新学年の開始する四月一日以降にされた場合であっても、いまだ授業料等に対応する反対給付の履行をしていない被告麻布及び同横浜商科としては、原則として、上記原告らに対し、それぞれ授業料等を返還する義務を負うものというべきである。これらの結論も、上記一の在学契約の法的性質をどのように捉えるかによって異なるものではない。
そうすると、被告麻布及び同横浜商科が授業料等の返還を拒絶し得るとすれば、その根拠は、A野特約、D原特約及びE田特約ということになり、同特約は、合格者らの入学辞退等によって同被告らが被るべき損害について賠償額を予定したものであると解される。
よって、授業料等の返還の要否は、同特約の有効性いかんに左右されることになる。
四 本件各特約の有効性
上記のとおり、被告麻布、同神奈川及び同横浜商科が入学金や授業料等の返還を拒絶し得る根拠は、本件各特約である。そこで、以下、本件各特約の有効性について検討する。
(1) A野特約、B山特約及びE田特約の有効性
ア 消費者契約法適用の有無
《証拠省略》によれば、原告A野、同B山及び同E田が法二条一項の「消費者」に、被告麻布及び同神奈川が同条二項の「事業者」に当たることは明らかであるから、同原告らと同被告らとの間の各在学契約は、同条三項の「消費者契約」に当たる。そして、在学契約が労働契約(法一二条)でないことも明らかであるから、消費者契約法は、在学契約にも適用されると解される。
この点に関する被告神奈川の主張については、消費者契約法は、消費者契約について規制緩和時代にふさわしい包括的な民事ルールを定めようとしたものであって、悪徳商法の規制のみを目的としたものではないし、学生(合格者)と大学との間に交渉力の格差があることは否定し難いのであるから、同主張は理由がない。
イ 法九条一号
上記三(1)イ(イ)及び同(4)のとおり、A野特約、B山特約及びE田特約は、合格者らが入学を辞退した場合に被告麻布及び同神奈川がそれぞれ被るべき損害について、賠償額を予定したものである。したがって、その予定額(原告A野関係では授業料等相当額五五万円、同B山関係では入学金相当額三〇万円、同E田関係では授業料等相当額一〇七万五〇〇〇円)が、法九条一号にいう「平均的な損害の額」を超える場合には、その部分は無効となる。そこで、以下、この点について検討する。
(ア) 平均的損害の立証責任
まず、事業者及び消費者のいずれが「平均的な損害の額」についての立証責任を負うべきかが問題となるが、同号の条文構造が、平均的な損害の額を超える部分に限って無効とするという形になっていること、いったん成立した合意の効力を否定する場合には、これを否定しようとする側に立証責任を負わせるのが公平と考えられることからすると、消費者において、損害賠償予定条項に定められた額が平均的な損害の額を超えることにつき、立証責任を負うというべきである。
これに対し、原告A野、同B山及び同E田は、立証の困難性及び消費者契約法の立法趣旨を理由に、立証責任は事業者が負うべきであると主張するが、上記理由による結論を覆す根拠としては不十分であり、採用できない。もっとも、消費者保護という立法趣旨を没却する結果となることは避けなければならないのであって、必要に応じて、何らかの方策を採ることが検討されるべきである。
(イ) 平均的損害の有無
以上を前提に、原告A野関係、同B山関係及び同E田関係のそれぞれについて、「平均的な損害」の有無及びその金額を検討する。
なお、法九条一号にいう「平均的な損害の額」とは、同一事業者が締結する多数の同種契約事案について類型的に考察した場合に算定される平均的な損害の額をいい、具体的には、解除の事由、時期等により同一の区分に分類される複数の同種の契約について、その解除に伴って当該事業者に生じる損害の額の平均値を意味する。そして、これは、当該消費者契約の当事者たる個々の事業者に生じる損害の額について、契約の類型ごとに合理的な算出根拠に基づき算定された平均値であり、当該業種における業界の水準を指すものではないとされる。
a 原告A野関係
被告麻布は、原告A野が入学辞退をしたのは新学年開始後であって、学生の追加募集はほとんど不可能であり、入学辞退申出期限後の辞退者に対応した規模の縮小は不可能であるから、納付された当該年度の学納金相当額全額が平均的損害に当たると主張する。
しかし、大学運営における経費は、学生数に正比例するものではなく、むしろ学生数にかかわらず一定の部分の方が多く、学生数に正比例するのは純粋な事務手続費用が大半であろうと考えられる(もとより、「学生数にかかわらず」とはいっても、大学側は、長年の実績から、入学辞退者数を見込んだ上で合格者数を決定しているのであるから、入学者数が大幅に上下することは考え難く、それを前提にした場合のことである。)。したがって、当該年度の学納金相当額全額が平均的損害に当たるということはできない。
他方、学生数に正比例すると考えられる事務手続費用については、被告麻布にとって損害といえそうであるが、そのような事務手続費用は、権利金として徴収されている入学金に含まれていると解される。
このように、被告麻布に積極的損害はないといえるが、得べかりし学納金相当額の収入を得られなくなるという意味において、一応、消極的な損害を観念することができないではない。しかし、収益を目的としない学校法人である被告麻布においては、学生から学納金の納付を受けた場合には、それと対価関係にある反対給付をすることにより、「利益」は生じない(残らない)はずであるから、被告麻布には消極的損害もないものというべきである。
以上より、原告A野との関係では、被告麻布には平均的損害はないというべきである。
b 原告B山関係
原告B山は、被告神奈川の設けた入学辞退申出期限内に入学を辞退しているところ、同期限は、その期限内に入学辞退がされれば、同被告において繰上合格や追加募集などの手段を執ることにより、別の入学者を補充することができる限度として設けられたものと推測される。
ここで、入学辞退がされたのが入学辞退申出期限後であった上記aの場合でさえ、平均的損害はないのであるから、同期限内に入学辞退がされた場合には、なおさら平均的損害はないといえそうである。しかし、入学辞退が学生としての地位を取得した後にされた上記aの場合と異なり、その地位を取得する前にされた場合には、入学事務手続費用相当額が平均的損害となるというべきである。すなわち、合格者が入学金を含む学納金を納付したときは、大学側は、当該合格者の入学に必要な諸手続をしなければならないところ、その後に合格者が入学を辞退したとしても、それが学生としての地位取得後にされた場合は、権利金としての入学金をもって当該手続費用に充てることができる一方、学生としての地位取得前にされた場合は、原則として入学金の返還義務を負う以上、当該手続費用に相当する収入がない。したがって、入学事務手続費用相当額は、合格者が学生としての地位を取得する前に入学を辞退した(契約を解除した)場合における平均的損害に当たる。
そこで、入学事務手続費用相当額が問題になるが、その性質上、原告B山において、この額を具体的に主張・立証することは困難であると考えられる。このような場合に、入学事務手続費用相当額、すなわち、平均的損害額(正確には、損害賠償の予定額である三〇万円のうち平均的損害額を超える額)の立証を厳格に要求すると、原告B山にとって不当に不利益となり、ひいては、消費者保護という消費者保護法の立法趣旨を没却することにもなりかねない。そして、このように、損害があることは認められるものの、その額の立証が困難であるという状況は、民訴法二四八条の想定する状況と同一ないしは相当程度類似しているといえるから、上記の入学事務手続費用相当額を認定するに当たっては、同条を適用又は類推適用することができるというべきである。そこで、本件においては、被告横浜商科が入学事務手続のための費用として徴収している「諸費料」の金額が一〇万円であることにかんがみ、弁論の全趣旨に基づき、上記の入学事務手続費用相当額は一〇万円であると認めるのが相当である。
c 原告E田関係
まず、被告麻布は、原告E田に対して入学金の返還義務を負わず、入学金をもって事務手続費用に充てることができるのであるから、同被告には事務手続費用に関する損害はない。
また、推薦入学試験の合格者である原告E田については、入学を希望しているのは麻布大学のみであるということが前提になっているから、そもそも入学辞退申出期限というものは考えられないが、同期限経過後に入学辞退がされた上記bの場合であっても平均的損害はないのであるから、この場合にも平均的損害はないものというべきである(ちなみに、原告E田が合格した学科の一般入学試験合格者については、入学辞退申出期限が設けられていたものと推測されるところ、原告E田が入学を辞退したのは同期限経過前であると考えられる。)。
よって、原告E田との関係でも、被告麻布には平均的損害はないというべきである。
(ウ) 法九条一号による無効部分
上記(イ)において検討したところによれば、まず、A野特約及びE田特約については、予定された損害賠償額の全額が法九条一号にいう平均的損害に当たらないから、同号により、そのすべてが無効になる。他方、B山特約については、予定された損害賠償額のうち一〇万円を超える部分は平均的損害の額を超えるから、同号により、当該超える部分は無効になる。
したがって、被告麻布が原告A野及び同E田に対して授業料等の、被告神奈川が原告B山に対して入学金のうち一〇万円を超える部分(二〇万円)の、それぞれ返還を拒絶し得る根拠はない。
(2) D原特約の有効性
以下においては、第三次補欠としての原告D原と被告横浜商科との間における特約という、限定された意味におけるD原特約について検討する。
ア 消費者契約法
原告D原と被告横浜商科との間における在学契約は、消費者契約法が施行された平成一三年四月一日より前である平成一一年三月に締結されたものであるから、同法の適用を受けるものではなく(同法附則)、D原特約が同法により無効とされることはない。
イ 民法六五一条二項ただし書
民法六五一条二項ただし書は、同条一項が契約当事者双方に任意解除権を認めていることを前提とするものと解されるが、大学教育の公共的役割及び学生の教育を受ける権利にかんがみれば、大学が学生との間の在学契約を任意に解除することはできないというべきであるから、在学契約については、同条二項ただし書を適用する前提を欠く。また、そもそも、同項ただし書が強行規定であると解する根拠はなく、これと異なる約定をすることも契約事由の原則から許されるというべきである(もっとも、個々の具体的な委任契約において同項ただし書に反するような約定がされた場合に、それが委任者の権利を不当に害するものとして無効と解されることもあり得るが、それは公序良俗違反等の一般条項の問題である。)。
よって、D原特約が同項ただし書に反するものとして無効ということはできない。
ウ 民法九〇条等(公序良俗違反等)
原告D原にしてみれば、繰上合格により被告横浜商科に学納金を納付したものの、後に他大学に合格したため、横浜商科大学への入学を辞退し、実際には同大学に入学しなかったのであるから、同原告が納付した学納金を返還してほしいと望んでいるところであり、その心情は理解し得る。他方、被告横浜商科としても、第三次補欠の合格者についての学納金納付期限を平成一一年三月一九日としており、原告D原が、同日までにいったん学納金を納付した後に入学を辞退した場合には、更なる繰上合格によって欠員を補充することは困難であるから、同原告から納付された学納金を返還せずにおきたいと考えることに理由がないわけではない(入学辞退がされても法九条一号にいう平均的損害がないことは、上記(1)イ(イ)のとおりであるが、入学辞退がされなければ、又は入学辞退がされても欠員補充ができれば得られていたはずの収入を失いたくないと考えること自体は、理解し得ないものではない。)。
問題は、明確な対価性を欠く利益を被告横浜商科が保持することを内容とするD原特約が、暴利行為等として民法九〇条に違反しないかどうかである。そこで、D原特約が、原告D原の窮迫・軽率・無経験に乗じて、又は少なくとも著しく不公正な方法によって、過大な利益を獲得するものであるか否かについて検討する。
この点、被告横浜商科にしてみれば、原告D原において横浜商科大学よりも志望順位の高い大学があるか否かは知る由もないところ、新年度が迫っていることからすれば、事務処理上、入学者を確定してしまいたいとの考えがあったであろうと推測される。繰上合格が発表された平成一一年三月一五日から学納金の納付期限である同月一九日までの猶予期間は四日間であり、補欠合格ではない正規合格者に与えられた猶予期間(合格発表が同年二月一〇日で納付期限が同月一九日)よりも短く設定されているが、これについては、新年度が迫っている時期ということを考慮すれば、必ずしも不当なものとはいえない。また、これは、文部省通知が一つの目安として提示している「入学式の日から逆算しておおむね二週間前の日以降」との基準と比較しても、不当なものとはいえない。さらに、金額の点においても、新年度が迫った時期にもかかわらず他大学に合格していないという原告D原の不安に乗じ、不当に高額を徴収しているということもない(ちなみに、《証拠省略》によれば、その金額は正規合格者の場合と同額であったことが認められる。)。なお、入学定員と補助金との関係を理由に、学納金を返還しない旨の特約に合理性があるかのようにいわれることもあるが(私立学校振興助成法五条等参照)、その一般論としての当否はともかく、第三次補欠としての原告D原が入学を辞退するか否かによって補助金が減額されるか否かが決定されるとはおよそ考え難いから(なお、《証拠省略》によれば、原告D原の入学辞退の結果として、被告横浜商科に対する補助金が減額されたという事実はないものと認められる。)、D原特約の公序良俗違反性を判断するに当たって、その点を考慮することはできない。
他方、原告D原としては、志望順位が高い他大学に合格しなかった場合には横浜商科大学に入学しようと考えていたからこそ、被告横浜商科に対して学納金を納付したものと認められる。もとより、原告D原としては横浜商科大学よりも志望順位の高い大学があったのではあるが、D原特約により、同原告の大学選択の自由等が侵害されたものとはいえず、実際にも、同原告は、D原特約の存在にもかかわらず、後に合格が発表された他大学に入学している。したがって、同原告は、自由な意思に基づき、自らの判断において、D原特約の存在を認識しながら、あえて学納金を納付したものというべきである。
そうすると、被告横浜商科において、D原特約を受け容れさせるに当たって、原告D原の窮迫・軽率・無経験に乗じ、又は著しく不公正な方法を用いたものとは認められず、D原特約が民法九〇条により無効であるとはいえない。また、上記のような事情にかんがみれば、D原特約に基づき、被告横浜商科が原告D原に対する入学金及び授業料等の返還を拒むことが、権利の濫用であり、又は信義則に反するものであるということもできない。
第五結論
一 まとめ
上記第四において検討した結果をまとめると、以下のとおりである。
(1) 被告麻布は、原告A野が返還を請求する入学金及び授業料等八〇万円のうち、入学金二五万円については、同原告が入学を辞退したのが四月一日以降であり、同原告は学生としての地位を現実に取得したものであるため、返還義務を負わないが、授業料等五五万円については、反対給付が未履行の時点において在学契約が解除されたものであり、A野特約も無効であるから、返還義務を負う。
(2) 被告神奈川は、原告B山が返還を請求する入学金三〇万円について、同原告が入学を辞退したのが三月三一日以前であり、同原告は学生としての地位を現実に取得することはなかったのであるから、原則として返還義務を負うが、損害賠償額を予定したB山特約により、そのうち一〇万円は返還義務を負わない。その余の二〇万円は、平均的損害額を超えるため、その部分についてB山特約は無効であるから、返還義務を負う。
(3) 被告フェリスは、原告C川が返還を請求する入学金三八万円について、同原告が入学許可を取り消され、学生としての地位を現実に取得することはなかった上、その返還を不要とするような特約も存在しないから、返還義務を負う。
(4) 被告横浜商科は、原告D原が返還を請求する入学金、授業料等その他の一一〇万一〇〇〇円について、有効と認められるD原特約により、返還義務を負わない。
(5) 被告麻布は、原告E田が返還を請求する入学金及び授業料等一三二万五〇〇〇円のうち、入学金二五万円については、推薦入学であるため返還義務を負わないが、授業料等一〇七万五〇〇〇円については、(1)と同様、反対給付が未履行の時点において在学契約が解除されたものであり、E田特約も無効であるから、返還義務を負う。
二 結語
すなわち、原告らの請求は、原告A野において五五万円及びこれに対する請求の日の翌日である平成一四年一一月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を(以下、遅延損害金の起算点及び率の意義については同様である。)、同B山において二〇万円及びこれに対する平成一四年一一月八日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を、同C川において三八万円及びこれに対する平成一五年四月一二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を、同E田において一〇七万五〇〇〇円及びこれに対する平成一五年一〇月二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める限度で理由があるから認容するが、その余は理由がないから棄却することとする。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 河邉義典 裁判官 太田雅之 裁判官小林元二は、差支えにつき、署名押印することができない。裁判長裁判官 河邉義典)
<以下省略>