横浜地方裁判所 平成15年(ワ)4887号 判決 2004年8月26日
平成15年(ワ)第4887号
貸金請求事件(本訴)
(横浜簡易裁判所平成15年(ハ)第802号移送事件)
平成16年(ワ)第1068号
不当利得返還請求事件(反訴)
京都市下京区烏丸通五条上る高砂町381-1(4階)
本訴原告・反訴被告(以下「原告」という)
株式会社シティズ
代表者代表取締役
●●●
訴訟代理人弁護士
●●●
●●●
本訴被告・反訴原告(以下「被告」という)
●●●
●●●
本訴被告(以下「被告」という)
●●●
上記両名訴訟代理人弁護士
根本稠
主文
1 原告の本訴請求をいずれも棄却する。
2 原告は,被告●●●に対し,81万3349円及びこれに対する平成15年6月20日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,本訴反訴を通じ,すべて原告の負担とする。
4 この判決2項は,仮に執行することができる。
事実
第1当事者の求めた裁判
(本訴)
1 請求の趣旨(本訴訴状)
(1)被告らは原告に対し,連帯して102万8000円及びこれに対する平成15年6月19日から支払済みまで年30パーセントの割合による金員を支払え。
(2)訴訟費用は被告らの負担とする。
(3)(1)につき仮執行宣言
2 請求の趣旨に対する答弁
(1)原告の請求をいずれも棄却する。
(2)訴訟費用は原告の負担とする。
(反訴)
1 請求の趣旨
(1)原告は被告●●●に対し,81万3349円及びこれに対する平成15年6月20日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2)訴訟費用は原告の負担とする。
(3)仮執行宣言
2 請求の趣旨に対する答弁
(1)同被告の請求を棄却する。
(2)訴訟費用は同被告の負担とする。
第2当事者の主張(【】内の記載は相手方の認否であり,記載のない事項は争いがない)
(本訴)
1 請求原因
(1)(消費貸借契約)
原告は,以下のとおり,金員を貸し渡した(「本件消費貸借契約」)。
契約日 平成11年10月6日
主債務者 被告●●●
金額 380万円
利息 年29・80パーセント(1年365日計算)
遅延損害金 年36・50パーセント(同)
期間計算 借入初日参入,弁済日不参入
弁済期及び弁済方法 平成11年11月から平成16年10月まで毎月19日元金6万3000円に経過利息を加えた額を支払う。但し最終回に支払うべき元金は8万3000円
特約 上記元利金の支払を怠った場合は,当然に期限の利益を喪失する。
(2)(連帯保証契約)
被告●●●は,同日,原告に対し,被告●●●の上記債務を連帯保証した(「本件連帯保証契約」)。
【否認する】
(3)(貸金業の規制等に関する法律43条所定要件)
ア 原告は,同法の定める貸金業者である。
イ 原告は,本件消費貸借契約締結時,被告●●●に対し,同法17条1項,同施行規則(平成12年改正前のもの)13条に定める書面(甲5,6)を交付した(以下,これらの法定書面を「17条書面」という)。
【否認する。また,17条書面を被告●●●が受領したことがあったとしても,被告●●●は受領していない】
ウ①被告●●●は,別紙元利金計算書のとおり弁済した。
②これらの弁済は,任意なものである。
【否認する】
③原告は,同被告に対し,この弁済の都度,弁済の確認をした翌営業日には,同法18条,同施行規則15条に定める受取証書を発送して交付した(以下,これらの法定書面を「18条書面」という)。なお,原告は,土日,祝祭日,代替休日は休業している。
【何通かの送付があったことを除き否認する。また,書面の受領日は,同被告が送金手続をした日から1週間以上経過している】
(4)(期限の利益喪失)
平成13年12月19日の弁済日が,弁済のないまま経過した。
(5)(まとめ)
よって,原告は被告らに対し,残元金102万8000円及びこれに対する期限の利益を喪失した日の翌日である平成15年6月19日から完済まで利息制限法に定める遅延損害金上限である年30パーセントの割合の遅延損害金の連帯支払を求める。
(反訴)
1 請求原因
(1)(支払)
被告●●●は,原告から借り入れた消費貸借金の弁済として,別紙弁済表のとおり,原告に金員を支払った。
【番号7の弁済額146,816円を除き,認める。同金額は,146,815円である】
(2)(過払)
別紙弁済表のとおり,同被告の支払は過払いである。
【否認する】
(3)(まとめ)
よって,同被告は,原告に対し,利息制限法の制限利率により計算をした過払金及びこれに対する同過払金額が発生した日の翌日から完済まで商事法定利率年6分による遅延損害金の支払を求める。
2 抗弁及びこれに対する認否
本訴請求原因に同じ
理由
1 事案の概要及び争点
原告は,貸金業の規制等に関する法律に定める貸金業者であるところ,主債務者被告●●●,連帯保証人●●●に対し,残元金及び同法所定の遅延損害金の連帯支払を求めた。
被告らは,貸金業の規制等に関する法律43条は適用されないと主張し,被告●●●は,利息制限法の制限利率により計算した結果過払いになっているとして,その返還を求めた。
争点は,原告の主張する本件消費貸借契約及びそれに関する弁済に,同法同条が適用される要件が備わっているか否かである。
2 証拠により認められる事実及び当裁判所の判断
(1)(弁済について)
被告●●●が別紙弁済表記載の日に,同記載の金員を弁済として原告に支払ったことは番号7の弁済額のうち1円を除いては,すべて争いがない。
この争いのある弁済額1円の弁済を認めるべき証拠はない。
(2)(18条書面について)
ア 証拠(甲51から93の各2,96,97,証人●●●証人●●●)によれば,以下の事実を認めることができる。
① 本件消費貸借契約は,原告関内支店の担当であったが,同支店は,本件弁済終了後である平成16年3月,閉鎖された。
② 原告関内支店は,本件弁済当時,土日,祝祭日,を休業しており,営業時間は,午前9時から午後6時までであった。
③ 本件弁済は,番号20の弁済を除き,銀行送金によるものであった。
④ 原告関内支店経理担当者は,毎営業日午後3時ころから取引銀行3行を回って記帳をし,午後3時30分ころ支店に戻っていた。
⑤ その後の処理は,おおよそ以下のとおりにされていた。
同経理担当者は,通帳をコピーし,そのコピーを受け取った同支店債権管理担当者●●●は,申込書類で入金者,入金額を確認し,その処理が終わった午後4時ころ,同経理担当者に入金処理を指示する。
同経理担当者は,通帳を見ながら,パソコンに入力をし,4枚複写の18条書面を印刷する。
●●●は,それを関係書類と照合確認作業を行い,確認後,同経理担当者にその後の作業を指示し,同経理担当者は,18条書面に社印を押捺し,収入印紙を貼付したりし,午後5時前に18条書面の作成作業は終了する。
翌営業日,同経理担当者は,18条書面郵送控えと送り先住所のラベルを作成し,●●●の確認作業を終えた後,支店長が再確認し,午前11時ころには,投函の準備が完了し,担当者が郵便局まで赴き,切手を必要枚数購入して,普通郵便で投函する。
⑥ 本件弁済日における同支店の銀行振込弁済の数は30を超える日が少なからずあったが,少ない日で9(甲53の2)であり,概略15から20程度の日が多かった(甲51から93の各2)。
⑦ また,原告が18条書面発送日としている翌営業日は,通常は振込確認の翌日であるが,翌営業日が翌々日になることがあり(甲59,67,78の各2),振込確認が金曜日の場合の翌営業日は,翌週の月曜日となって間に2日の間隔があり(甲51,57,65,73,79,82の各2),さらには翌営業日までに3日の間隔がある場合もある(。甲70,87の各2)。
イ 貸金業の貸金業の規制等に関する法律43条1項の適用要件である同法18条1項所定の事項を記載した書面(18条書面)の債務者に対する交付は,弁済の直後にしなければならないとされている。
たしかに,銀行送金による弁済の場合には,貸金業者が銀行を介しての入金,入金額と入金者を確認することが必要であり,また一部入金,過剰入金など,種々の入金形態があるため,入金の確認にはある程度の時間的余裕が必要であるとはいえ,原告は,18条書面の発送を普通郵便で行っているのであって,その交付としての到達には更に1日程度は必要であるから,その発送処理作業は,速かに行われなければならないことは当然である。
午後3時ころ銀行での記帳作業を行うこと自体には,当日の振込を極力確認する必要性があるので合理性がないとは言えないが,当時の原告関内支店における前記認定銀行振込数及び18条書面の発送がポストへの投函で足りる普通郵便によっていたものであることを考えると,原告担当社員が銀行から帰社した午後3時30分ころから午後6時の閉店時刻までの間に,18条書面の発送作業が完了するような業務態勢をとること自体が不可能を強いるものであると窺うべき事情は見あたらない。
前記認定のように,銀行振込弁済数が9しかないときをも含めて一律に18条書面の発送を翌営業日としている原告の取扱いには,合理的な理由が見い出し難いし,特に,原告関内支店の営業日との関係で,振込確認日の翌営業日が必ずしも翌日とはならないことは自明のことであり,実際にも,無視できない弁済回数において,翌営業日が翌日ではなかったのは前記認定のとおりである。
そうだとすると,このような結果となっている原告の事務処理態勢自体に問題があると言わなければならない。
したがって,本件のように,振込を確認した日の翌営業日に18条書面を普通郵便で発送していたことは,18条書面の交付を,弁済の直後にしなければならないとされている要件を満たしていないと解すべきである。
なお,弁済番号20の弁済は,原告店舗に来店しての弁済であって,その直後に18条書面(甲26)を交付していることが認められるが(弁論の全趣旨),弁済番号19までの弁済を,利息制限法所定の制限利率によって計算すべきことになる結果,以下のように,法定記載要件としての数額に大きな乖離が生じてしまっており,このような大幅に異なる金額の記載のある書面は,もはや有効な18条書面として認めることはできない。
前元金残高 元金充当額 弁済後の残存元金
甲26記載額 2,602,398 62,398 2,540,000
裁判所認定額 1,718,518 103,534 1,614,984
(3)したがって,本件弁済は,利息制限法の制限利率により計算することになる。
この計算過程は,別紙元利金計算書(裁判所認定)のとおりとなり,過払となるから,本訴はいずれも理由がなく,反訴は理由がある。
なお,原告は貸金業者であるから,過払状態となった時点で,これにつき悪意であったと推認することができる。
3 結論
よって,主文のとおり判決する。
(裁判官 松田清)
<以下省略>