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横浜地方裁判所 平成15年(手ワ)57号 決定 2003年7月07日

原告

株式会社SFCG

右代表者代表取締役

大島健伸

被告

甲山太郎

主文

1  本件を東京地方裁判所に移送する。

理由

1  請求及び訴え変更の経緯

本件は、平成一五年五月一九日、手形訴訟による審判を求めて別紙約束手形目録記載の約束手形(以下「本件手形」という。)にかかる約束手形金請求事件として提起され、、その後、同年六月一八日、同日付け上申書をもって、通常訴訟移行の申述がされるとともに、同日付け訴え変更の申立書により、本件手形の原因債権である連帯保証債務の履行を求める訴訟に訴え変更の申立てがされ、以上を通じて、五一三万四一〇〇円とこれに対する平成一二年一二月六日から支払済みまで年三〇%の割合による金員の支払を求めたものである。

2  管轄の確定

(1)  本件については、上記訴え変更の前後を通じて、いずれの段階における請求についても当庁にはその管轄権はなく、被告の住所地を管轄する東京地方裁判所が管轄権を有するものと解すべきである。

(2)  原告は、本件の管轄については、「原告の本支店所在地の管轄裁判所とする。」旨の管轄の合意がある旨主張する。

原告の上記主張は、いずれも原告所定の用紙を使用して作成された主債務者を乙川次郎(住所:千葉県成田市<番地略>)、連帯保証人を被告(住所:肩書住所)とする原被告間の基本契約書である平成一一年九月九日付け「手形割引・金銭消費貸借契約等継続取引に関する承諾書並びに限度付根保証承諾書」(甲3)及び同日付け「金銭消費貸借契約証書(債務弁済公正証書作成嘱託委任状)」(甲4)の各二四条に記載された、「手形貸付取引、証書貸付取引等の金銭消費貸借契約、手形割引等、本取引約定に基づく各取引に関して訴訟の必要性が生じた場合は、事物管轄に拘わりなく、債権者の本支点の所在地を管轄する裁判所を管轄裁判所とすることに異議なく同意するものとします。」(以下、この条項を「本件管轄合意条項」という。)との記載を根拠として、原告横浜支店の所在地である横浜市を管轄する当庁に管轄権があるとするものである。

(3)  ところで、原告(旧商号:株式会社商工ファンド。平成一四年一一月一日(同月一三日登録受付)に現商号に変更)は、資金が逼迫する比較的零細な資金需要者を相手として資金の貸付けを行う消費者金融業者であり、本店を肩書住所に置くほか、北は北海道の旭川市から南は九州の鹿児島市にまで及ぶ全国各地に合計四九の支店を設置しているところ、原告が資金需要者に対して融資を実行するに当たっては、常に利息制限法に違反し、同法所定の利率を超える利息の支払を約定し、かつ、原因関係上の主債務者、又は連帯保証人を(共同)振出人とし、原告を受取人、支払地を東京都中央区(原告の本店所在地)、支払場所を「株式会社商工ファンド」とする原告が独自に作成した様式の実際問題としては流通を全く予定しない一覧払いの「約束手形」と題する用紙(以下「原告手形」という。本件では本件手形がこれに当たり、本件手形には不動文字で指図禁止文言すら記載されている。)に署名押印させてその振出交付を受け、これに基づき手形訴訟を提起し、あるいは、原因関係上の主債務者に対しては貸金請求訴訟、連帯保証人に対しては保証債務の履行請求訴訟等の訴えを提起することを常態としていることは当裁判所に顕著な事実である。

したがって、そこでは、常に貸金業法四三条のみなし利息及びみなし弁済の成否が潜在的・現実的な争点となっており、それが手形訴訟であれば、原告から提起される手形訴訟は、切断されることのない原因関係上の人的抗弁が常に付着する属性のある手形訴訟であるし(それ故、原告が原告手形に基づき提起する手形訴訟は、証拠制限のある手形訴訟手続において、零細な資金需要者(債務者)である被告に上記抗弁の立証を認めないままに仮執行宣言付き手形判決を与える結果になって手形訴訟の立法趣旨に反して不当であり、手形訴訟には著しくなじまないものとして許されないものと解するのが相当である。)、それが原因関係に基づく請求訴訟であれば、上記人的抗弁が常に訴訟上の抗弁事実として主張される属性のある訴訟ということになる。

(4)  そして、原告の融資業務は、あらかじめ原告が独自に統一的に定めた様式の上記契約書等を作成することによって貸付けが実行されるはずであるから、管轄の合意に限ってみても、資金が逼迫して原告から融資を受けざるを得ない多くの比較的零細な資金需要者(債務者)として、原告が定めた以外の内容による管轄の合意をする余地などなく、このことと、原告が原告手形に基づき提起する手形訴訟及び貸金請求訴訟等が、上記のような属性を有することに照らすときは、これは、要するに、被告(債務者)の無思慮急迫状況のもとにされた管轄の合意として無効というべきであるのみならず、本件管轄合意条項は、原告手形の支払地、振出地及び被告(債務者)の住所地いかんにかかわらず、原告が全国に散在する上記五〇箇所の本支店所在地を管轄するいずれかの裁判所を任意に一方的に選択して訴えを提起することを可能とする内容の管轄合意なのであって(因みに、平成一五年五月一三日から同月二八日までの間に、原告が当庁(本庁)に提起した本件を含めた手形訴訟(手ワ事件)は、合計六四件であるが、それら事件の振出人たる被告の住所地ないし原告手形の振出地は、全国各地に点在し、北は仙台市から西は高知県土佐清水市、南は沖縄県島尻郡まで極めて広範囲に及ぶことは、当裁判所に顕著である。)、それ自体、一般的に被告から実質的な防御の機会を一方的に奪うものとして管轄の合意としては無効と解すべきである。

(5)  したがって、本件管轄合意条項は無効であるから、本件は、原則に戻り、民訴法四条に基づき、被告の普通裁判籍の所在地である東京都新宿区を管轄する東京地方裁判所の管轄に属するものと解される。

3  結論

よって、民訴法一六条一項に基づき、職権により、本件を東京地方裁判所に移送することとして、主文のとおり決定する。

(裁判官・櫻井登美雄)

別紙約束手形目録<省略>

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