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横浜地方裁判所 平成15年(行ウ)80号 判決 2005年4月13日

原告 甲

訴訟代理人弁護士 鳥飼重和

同 好美清光

同 多田郁夫

同 今坂雅彦

同 内田久美子

同 間瀬まゆ子

同 松本賢人

同 堀招子

同 堤博之

訴訟復代理人弁護士 呰真希

同 木山泰嗣

補佐人税理士 原木規江

同 佐野幸雄

同 窪澤朋子

被告 緑税務署長

阿部禧一

指定代理人 植田浩行

同 別所卓郎

同 伊藤英一

同 佐藤昌永

同 齋藤秀樹

同 中村豊

同 松尾啓一

同 塔岡康彦

同 岡直之

主文

1  本件各訴えのうち、原告の平成12年分の所得税に係る更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消しを求める訴えを却下する。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  原告

(1)  被告が原告に対し平成14年4月30日付けでした原告の平成12年分の所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。

(2)  被告が原告に対し平成15年5月7日付けでした原告の平成12年分の所得税に係る更正処分のうち課税総所得金額3379万6000円、納付すべき税額576万1000円を超える部分を取り消す。

(3)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2事案の骨子

本件は、原告が、平成12年分の所得税について、自己の勤務する会社の親会社の親会社から付与されたストック・オプションを行使して得た利益(権利行使利益)を給与所得として確定申告をした後、上記利益は一時所得に該当するとして更正の請求をしたところ、被告が、上記利益は給与所得に当たるとして更正をすべき理由がない旨の通知処分をし、さらに、上記確定申告中の源泉徴収税額に誤りがあるとして増額更正処分をしたため、原告が、上記利益は一時所得に該当するから各処分は違法であると主張して、各処分の取消しを求めている事案である。

第3基礎となる事実

(以下の事実は、当事者間に争いがない事実であるか、各段落等の末尾に記載した証拠ないし弁論の全趣旨により容易に認められる事実である。)

1  当事者等

(1)  米国A社と日本A社との関係

A(以下「米国A社」という。)は、米国法人であり、同社が発行済み株式の100%を有するその子会社は、日本法人であるA株式会社(以下「日本A社」という。)の発行済み株式の100%を有している。 〔弁論の全趣旨〕

(2)  原告の地位

原告は、日本A社において役員又は従業員として勤務している者である。 〔弁論の全趣旨〕

2  ストック・オプションについて

ストック・オプションとは、会社が自社又は子会社(以下、特に断らない限り、その子会社も含むものとする。)の役員又は従業員(以下「従業員等」という。)に対して付与する、自社株式を一定の期間内にあらかじめ定められた権利行使価格(通常は、付与時における株式の時価)で取得することができる権利である。

ストック・オプションの付与を受けた従業員等は、ストック・オプション付与契約の定める条件に従って権利を行使することにより、取得する株式の権利行使時における時価と権利行使価格との差額に相当する経済的利益(以下「権利行使利益」という。)を取得することができる。

3  本件ストック・オプションについて

(1)  米国A社のストック・オプションの内容

米国A社の「A・インセンティブ制度(改訂・更新版)」(以下「本件A・プラン」という。)によれば、同社のストック・オプションは、同社又はその子会社の主要従業員、取締役等が同社において資産上の利益を得る機会を提供して、これらの者が同社にとどまり、同社の利益のためにベストを尽くすことや、同社又は子会社のために有能な人材を勧誘することを促進することを目的として(本件A・プラン頭書)、同社及びその子会社(以下、併せて「Aグループ各社」という。)の従業員等に対して付与されるものとされている(本件A・プラン「セクション1」)。この本件A・プランに基づくストック・オプション制度は、米国A社の取締役会によって任命された委員会によって運営され、この委員会が、ストック・オプション付与の対象者及び付与株式数等の条件を決定するものとされている(本件A・プラン「セクション3、4」)。

本件A・プランによれば、ストック・オプションの保有者の雇用が終了した場合、未行使のストック・オプションは、雇用終了の原因に応じて、雇用終了時又はその後早期に、無効とされ又は取り消されるものとされている。また、同プランに基づくストック・オプションは、遺言又は相続法による以外の手段で譲渡することができず、オプション保有者本人、その後見人又は法定代理人のみが行使することができるものとされている(本件A・プラン「セクション11」)。 〔乙11、42号証〕

(2)  原告による本件ストック・オプションの行使

原告は、日本A社に在職中に、本件A・プランに基づき、米国A社との間でストック・オプション付与契約(以下「本件ストック・オプション付与契約」という。)を締結し、ストック・オプションを付与された。

そして、原告は、このストック・オプション(以下「本件ストック・オプション」という。)を平成12年に行使し、3073万0512円の権利行使利益(以下「本件権利行使利益」という。)を得た。

4  本件通知処分及び本件更正処分の経緯等

(1)  原告は、平成12年分の所得税について、本件権利行使利益を給与所得として確定申告をした後、平成14年2月1日、本件権利行使利益は一時所得に該当するとして、更正の請求をした。 〔甲8、9号証〕

(2)  これに対し、被告は、平成14年4月30日付けで、原告に対し、更正をすべき理由がない旨の通知処分をした(以下「本件通知処分」という。)。 〔甲1身証〕

(3)  原告は、平成14年6月28日、被告に対し、本件通知処分を不服として異議申立てをしたが、被告は、平成15年5月6日付けで、これを棄却する旨の決定をした。 〔甲2、3号証〕

(4)  原告は、上記確定申告において、給与所得に係る所得税の源泉徴収税額として、本件権利行使利益に係る金額1137万0289円を計上していたところ、被告は、平成15年5月7日付けで、原告に対し、本件権利行使利益は米国A社の所在する米国において支払われたものであり、「国内において支払われた所得税法28条1項に規定する給与等」に該当しないから(所得税法183条1項参照)、上記金額を源泉徴収税額に加えることはできないとして、納付すべき税額を増額する更正処分をした(以下「本件更正処分」という。)。 〔甲5号証、弁論の全趣旨〕

(5)  原告は、平成15年5月30日、国税不服審判所長に対し、本件通知処分について審査請求をした。また、原告は、同年6月10日、被告に対し、本件更正処分について異議申立てをし、同異議申立ては、国税通則法90条1項、3項の規定により、国税不服審判所長に対する審査請求とみなされた。

国税不服審判所長は、同年10月10日付けで、上記審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。 〔甲4、6、7号証〕

(6)  そこで、原告は、平成15年12月12日、本件通知処分及び本件更正処分の取消しを求めて本件訴訟を提起した。

(7)  原告の平成12年分の所得税に係る確定申告、各処分及びこれに対する不服申立て等の経緯は、別表記載のとおりである。

第4課税根拠に関する当事者の主張

《被告の主張》

1  主位的主張

本件権利行使利益は給与所得に該当するものであり、これに基づく原告の平成12年分の所得税に係る納付すべき税額及びその根拠は、別紙課税根拠表に記載のとおりである。

2  予備的主張

仮に、本件権利行使利益が給与所得に該当するものでないとすれば、同利益は雑所得に該当する。

本件権利行使利益が雑所得に該当する場合の原告の平成12年分の所得税に係る納付すべき税額は、主位的主張におけるものよりも多額になる。

《原告の主張》

本件権利行使利益は一時所得に該当するものであるから、被告が主張する課税根拠のうち、本件権利行使利益の所得区分及びこれに関係する金額、税額等の部分は争うが、その余は認める。

第5争点

本件の争点は、

①  更正をすべき理由がない旨の通知処分がされた後に増額更正処分がされた場合において、同通知処分の取消しを求める訴えは適法であるか、

②  本件ストック・オプションに係る権利行使利益(本件権利行使利益)の所得区分、すなわち、本件権利行使利益は給与所得、雑所得又は一時所得のいずれに該当するか、である。

第6争点に関する当事者の主張

1  争点①(本件通知処分の取消しの訴えの適法性)について

《被告の主張》

更正をすべき理由がない旨の通知処分と増額更正処分とは、手続的には別個独立の処分であるが、

ア 通知処分は、納税者の申告による税額等の減額を求める更正の請求に対し、同税額等の減額を拒否する処分であり、これにより申告された税額等について減額を認めないことを確定させる効果を持ち、

イ 増額更正処分は、申告によりいったん確定した税額等を変更し、申告された税額を含めて納税者の納税額の総額を確定するものであって、共に同一の所得税の納税義務にかかわり、相互に密接な関連性を有する。

そして、通知処分は申告税額の減少のみにかかわるのに対し、増額更正処分が、納付すべき税額全体にかかわり、実質的には申告税額等を正当でないものとして否定し、これに増額変更を加えて税額の総額を確定するものであることにかんがみると、増額更正処分の内容は、通知処分の内容を包摂するという関係にあるというべきである。

したがって、このような通知処分と増額更正処分がされた場合には、税額等を争う納税者は、増額更正処分た対する取消訴訟をもって争えば足り、これとは別個に通知処分を争う法律上の利益を有しないものと解すべきである。

そうすると、本件においては、原告は、本件更正処分の取消しのみを求めるべきであって、本件通知処分の取消しを求める訴えの利益を有しないものというべきである。

《原告の主張》

更正をすべき理由がない旨の通知処分は、更正の請求を排斥する処分すなわち税額等の減額を拒否する処分と考えられ、これによって税額自体が確定することにはならないのに対し、増額更正処分は、税額を確定するものである。

このように、両者は、法的性質を異にする全く別個のものであり、一方が他方を吸収するという関係にあるものではないから、それぞれについて取消訴訟を提起することは妨げられず、それぞれにつき取消しを求める固有の利益があるというべきである。

したがって、原告は、本件通知処分の取消しを求める訴えの利益を有するものである。

2  争点②(本件権利行使利益の所得区分)について

《被告の主張》

本件権利行使利益は、所得税法上、給与所得に該当する。仮にそうでないとしても、雑所得に該当する。

(1) ストック・オプションの性格

ストック・オプション制度は、いわゆる長期インセンティブ報酬(業績連動型報酬)制度の一種であって、勤務先会社における勤務と不可分に結びつけられた仕組みである。そして、ストック・オプションの付与会社(以下、単に「付与会社」ということがある。)は、ストック・オプションの行使に伴い、当該株式を市場で売却(発行)すれば得られたはずのキャッシュフロー(当該株式の時価から権利行使価格相当額を差し引いた額)を、ストック・オプションの被付与者(以下、単に「被付与者」ということがある。)である従業員等に、その労務の対価として移転するものである。

(2) ストック・オプションに係る課税の対象及び時期について

本件ストック・オプションのように、譲渡が禁止され、被付与者以外は行使できず、これを取引の対象とする市場も存在しないものについては、これを付与されただけでは、換価可能性がないものを与えられたにすぎないから、ストック・オプション自体を課税対象とすることはできず、権利行使利益こそが経済的・実質的観点から所得税課税にふさわしい現実収入といえる。そして、ストック・オプションを行使して発生する株式引渡請求権は、収入の原因となる権利に該当するから、所得税法36条の規定に照らし、本件ストック・オプションに関する所得税課税の対象が権利行使利益であり、その課税時期が権利行使時であることは明らかである。

(3) 本件権利行使利益が給与所得に該当することについて

ア 給与所得とは、「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得」(所得税法28条1項)であり、勤労性所得(人的役務からの所得)のうち、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供された労務の対価を広く含むものである。

イ ストック・オプション付与契約は、従業員等とその勤務先会社との雇用契約等を不可欠の前提として締結される契約であって、権利行使利益を、従業員等に労務の対価として取得させるためのものである。そうすると、従業員等の地位に基づいて付与されたストック・オプションの行使に係る経済的利益(権利行使利益)は、労務の対価としての性質を有するから、給与所得に該当する。

権利行使利益の額が株価変動の偶然性や行使時期に関する判断といった要素に左右されるといったことは、権利行使利益の給与所得該当性を否定するものではない。また、給与所得について、労務の質ないし量と給付との間の相関関係が必要とされるわけでもない。

ウ 付与会社が親会社の場合であっても、従業員等が勤務先会社に勤務していたからこそストック・オプションを付与され、かつ、現実に勤務を継続していたからこそ権利行使利益を取得できたという点では何ら異なることはない。このような権利行使利益は、使用者である子会社の指揮命令に服しての労務の提供に基因して得られるものといえ、子会社における労務の対価として給与所得に該当するものというべきである。

エ 以上のことからすれば、米国A社から日本A社の従業員等である原告に対して給付された本件権利行使利益が給与所得に該当することは明らかというべきである。

(4) 本件権利行使利益が一時所得に該当しないことについて

権利行使利益は、従業員等において、確実に意図した利益を得ることができる状況の下で権利を行使した結果であって、偶然に取得したものとはいえないし、また、労務の対価としての性質を有するから、いずれにしても一時所得(所得税法34条1項)には該当しない。

したがって、仮に本件権利行使利益が給与所得に当たらないとしても、一時所得と解する余地はなく、同利益は、少なくとも雑所得に該当する。

《原告の主張》

本件権利行使利益は、所得税法上、一時所得に該当する。

(1) ストック・オプションに係る課税の対象及び時期

ストック・オプションは、税法上経済的価値のある財産に該当し、それ自体が所得税課税の対象となるものというべきである。ストック・オプションについて、付与時に課税せず権利行使時に権利行使利益に対して課税されているのは、ストック・オプション付与時にその価値を算定することが事実上困難であるという政策的判断の結果にすぎない。

(2) 本件権利行使利益が給与所得に該当しないことについて

ア 給与所得に該当するためには、①雇用契約又はこれに類する原因において使用者の指揮命令の下に労務を提供すること、②付与される経済的利益が当該労務提供の対価であること、が必要になる(最高裁判所昭和56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁参照)。

イ ところで、付与会社が被付与者に付与するのは、あくまでもストック・オプションという権利であって、権利行使利益は、いわば付与されたストック・オプションの含み益にすぎず、付与会社に帰属するものではないから、付与会社において権利行使時にこれを被付与者に給付したものということはできない。このように、そもそも、権利行使利益を付与会社からの給付ということはできないから、これが給与所得に該当することはない。

ウ 所得税法上の給与所得は、給与の支給者と使用者とが同一であることを前提とするものである。しかし、本件の事案である親会社から子会社の従業員等へのストック・オプションの付与の場合、当該従業員等は子会社に勤務しているもので、親会社と子会社の従業員等の間には雇用契約等の契約関係はないから、両者の間に雇用契約又はこれに類する原因が存在するということはできず、したがって、両者の間での給付は給与所得に該当するものではない。

エ 権利行使利益は、様々な要因による親会社の株価の上昇と、被付与者の権利行使によって発生するものであり、子会社の従業員等の精勤と親会社の株価の上昇は直接的には関係しないから、権利行使利益を労務提供の対価ということはできない。

オ 以上のことからすれば、本件権利行使利益を給与所得と解することはできないというべきである。

(3) 本件権利行使利益が一時所得に該当することについて

ストック・オプションの権利行使利益は、不確実な要素による株価の上昇等によって、その含み益が一時に実現するものであるから、そのような偶発的な事実によって実現する権利行使利益が一時性・偶発性を有する所得であることは明らかである。

したがって、本件権利行使利益は、一時所得に該当し、そうである以上雑所得には該当しない。

第7当裁判所の判断

1  争点①(本件通知処分の取消しの訴えの適法性)について

更正をすべき理由がない旨の通知処分(国税通則法23条4項)は、納税申告書を提出した者が、当該申告により確定する課税標準等又は税額等(以下、単に「税額等」という。)を自己に有利に是正することを求めて更正の請求(同条1項)をした場合において、これを拒否し、当該申告により確定する税額等の減額等を認めないことを確認する処分であるのに対し、税額を増額する更正処分(同法24条。以下「増額更正処分」という。)は、納税者の申告によりいったん確定した税額を見直し、当該納税者の税額を総額として確定する処分であるから(同法16条1項1号)、両者は法的効果を異にする別個独立の処分というべきである。したがって、本件のように、所得税に係る更正をすべき理由がない旨の通知処分がされた後に、同1年分の所得税に係る増額更正処分がされた場合においても、当然に前者が後者に吸収されるという関係にはない。

もっとも、増額更正処分は、納税者の申告に係る部分を含めて税額を全体的に見直し、その総額を確定するものであるから、同処分がされた時において、申告について更正の請求がされ、かつ、これに対する更正をすべき理由がない旨の通知処分について法定の不服申立手続が採られ、申告による税額の確定を当該納税者において法律上争い得る状態にあった場合には、増額更正処分の取消訴訟において、申告に係る税額を下回る部分についても、更正の請求に係る税額を超える限り、その取消しを求めることができ、これが認容されれば、申告に係る税額を下回る部分についても、税額の確定が排除されるものと解するのが相当である。そして、そうである以上、更正をすべき理由がない旨の通知処分については、増額更正処分とは別個にその取消しを求める法律上の利益は存在しないということができるから、その取消しの訴えは、訴えの利益を欠くものというべきである(なお、このように解することは、同一の納税義務の確定に係る統一性を確保する観点からも相当であるということができる。)。

そうすると、本件においては、本件通知処分の後に、同1年分の所得税に係る増額更正処分がされたものであるから、本件通知処分の取消しを求める訴えは、訴えの利益を欠くものとして不適法というべきである。

2  争点②(本件権利行使利益の所得区分)について

(1)  課税の対象について

本件において、被告は、原告が本件ストック・オプションを行使することにより本件権利行使利益を取得した事実に関し、本件権利行使利益が所得税の課税の対象となる所得であり、給与所得又は雑所得に該当する旨を主張し、原告は、本件権利行使利益が課税の対象になることについては争わず、これが一時所得に該当する旨を主張しているところである。ストック・オプションの取得自体が所得税の課税の対象となり得るかどうかについては、当事者間に争いがあるが、上記のように、本件における課税の根拠に関する争点は、本件権利行使利益という所得の所得区分そのものであるから、以下、ストック・オプションの取得自体が所得税の課税の対象となり得るかどうかの論点については言及せず、本件権利行使利益の所得区分の点について判断を進めることとする。

(2)  本件権利行使利益の給付者について

原告は、そもそも権利行使利益はストック・オプションの付与会社が被付与者に給付したものということはできないとして、このことを根拠に本件権利行使利益の給与所得該当性が否定される旨を主張する。

しかし、前記第3、3(1)のとおり、本件A・プランに基づき付与されたストック・オプションについては、被付与者の生存中は、その者及びその代理人のみがこれを行使することができ、その権利を譲渡することができないものとされているから、被付与者は、これを行使することによって、初めて経済的な利益を受けることができるものとされているということができる。そうであるとすれば、米国A社は、原告に対し、本件ストック・オプション付与契約により本件ストック・オプションを付与し、その約定に従って所定の権利行使価格で株式を取得させたことによって、本件権利行使利益を得させたものであるということができるから、本件権利行使利益は、米国A社から原告に与えられた給付に当たるものというべきである(最高裁判所平成17年1月25日第三小法廷判決・裁判所時報1380号11頁参照)。

(3)  本件権利行使利益の給与所得該当性について

上記のところを踏まえて、本件権利行使利益が所得税法28条1項に規定する給与所得に該当するかどうかについて検討する。

上記のとおり、本件権利行使利益は、原告が従業員等であった日本A社からではなく、米国A社から与えられたものである。しかしながら、前記第3、1(1)のとおり、米国A社が発行済み株式の100%を保有する同社の子会社が、日本A社の発行済み株式の100%を有しており、このような株式の保有関係からすれば、米国A社は、当該子会社及び日本A社の役員の人事権等の実権を握ってこれらを支配しているものとみることができるのであって、原告は、米国A社の統括の下に日本A社の従業員等としての職務を遂行していたものということができる。そして、前記第3、3(1)のとおり、本件A・プランに基づくストック・オプション制度は、Aグループ各社の主要従業員、取締役等を米国A社の下にとどめ、同社の利益のためにベストを尽くすことを促進することなどを企図して設けられているものであり、米国A社は、原告が上記のとおり職務を遂行しているからこそ、本件A・プランに基づき原告との間で本件ストック・オプション付与契約を締結して原告に対して本件ストック・オプションを付与したものであって、本件権利行使利益が原告が上記のとおり職務を遂行したことに対する対価としての性質を有する経済的利益であることは明らかというべきである。

そして、本件権利行使利益の発生及びその金額が米国A社の株価の動向と権利行使時期に関する原告の判断に左右されるものであるとしても、米国A社は、本件ストック・オプション付与契約に基づき、まさにそのような性質の権利行使利益を原告の労務の対価として給付したものというべきであり、そのことを理由として、本件権利行使利益が原告の労務の対価に当たることを否定することはできない。

そうであるとすれば、本件権利行使利益は、雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供された非独立的な労務の対価として給付されたものとして、所得税法28条1項に規定する給与所得に当たるというべきである(前掲最高裁判所判決参照)。

3  本件更正処分の適法性について

前記第4のとおり、原告の平成12年分の所得税の課税根拠について、本件権利行使利益の所得区分及びこれに関する金額、税額等を除けば当事者間に争いはないところ、上記のとおり本件権利行使利益は給与所得に該当し、これを前提とした原告の平成12年分の所得税に係る課税総所得金額及び納付すべき税額は、別紙課税根拠表の課税総所得金額及び納付すべき税額欄にそれぞれ記載のとおりの額と認められる。

そして、これらの額は、いずれも本件更正処分に係る額と同額であるから、本件更正処分は適法である。

第8結論

以上のとおりであって、本件通知処分の取消しを求める訴えは不適法であるからこれを却下し、本件更正処分の取消しを求める請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川勝隆之 裁判官 貝阿彌亮 裁判官 菊池絵理は、差し支えのため、署名・押印することができない。  裁判長裁判官 川勝隆之)

別表

本件における更正処分等の経緯

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別紙

課税根拠表

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