横浜地方裁判所 平成15年(行ウ)9号 判決 2004年3月31日
原告
甲野太郎
同訴訟代理人弁護士
古川景一
被告
藤沢労働基準監督署長
福島路子
同指定代理人
新谷貴昭
外7名
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告が平成11年3月29日付けで原告に対してした労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく療養補償給付及び休業補償給付を支給しないとの処分(以下「本件処分」という。)を取り消す。
第2 事案の概要
本件は、大工である原告が、マンションの内装工事に従事中負傷したことについて、業務に起因したものであるとして、被告に対し、労災保険法に基づき療養補償給付及び休業補償給付の申請をしたところ、労災保険法上の労働者ではないとの理由で不支給処分(本件処分)を受けたため、その取消しを求めた事案である。
1 争いのない事実
(1) 原告(昭和26年8月11日生)は大工であり、平成10年11月5日午後3時50分ころ、神奈川県茅ヶ崎市東海岸南<番地略>所在の現場(以下「本件現場」という。)において、マンション(○○茅ヶ崎)の新築工事(以下「本件工事」という。)の内装工事に従事し、卓上電動丸のこぎり(以下「本件丸のこぎり」という。)を使用して間仕切り材を切断した後、本件丸のこぎりのスイッチを切り、切断した間仕切り材を右手で取り出そうとしたところ、惰性で回転していた本件丸のこぎりの刃に誤って右手指が触れ、右手中指、環指及び小指切断の傷害(以下「本件傷害」という。)を負った(以下「本件災害」という。)。
(2) 原告は、本件傷害は業務上の事由によるものであるとして、被告に対し、同年12月17日労災保険法に基づく休業補償給付を、平成11年2月18日同法に基づく療養補償給付である療養の給付を、それぞれ請求したが、被告は、原告に対し、同年3月29日付けで、原告は労災保険法上の労働者とは認められないとして、本件処分を行った。
(3) 原告は、本件処分を不服として、神奈川労働者災害補償保険審査官に対し審査請求をしたが、平成12年3月31日付けで棄却の決定を受け、さらに、労働保険審査会に対し再審査請求をしたが、平成14年11月8日付けで棄却の裁決を受けた。
2 争点
原告は労災保険法上の労働者に該当するか。
3 当事者の主張の骨子
(原告)
原告は、以下のとおり、A木材工業株式会社(以下「A木材」という。)に雇用される従業員であって、労働基準法(以下「労基法」という。)9条にいう労働者に該当し、これと同義である労災保険法上の労働者に該当するものである。
(1) 使用従属性について
ア 指揮監督下の労働か否かについて
(ア) 仕事の依頼、業務に従事すべき旨の指示等に対する諾否の自由の有無
a 本件工事は、合計7棟、167戸の大規模なマンション建設であり、その元請業者は、竹中・東洋・亀井建設共同企業体(いわゆるジョイント・ベンチャー。以下「本件企業体」という。)である。本件企業体は、本件工事のうちA棟8戸、E棟28戸、D1・2棟47戸中16戸、合計52戸の内装工事について、相州商事株式会社(以下「相州商事」という。)と請負契約を締結し、同会社は同工事について、A木材と請負契約を締結した。
本件企業体は、A木材所属の原告ら労務提供者に対し、以下のとおり厳格な時間管理を行っており、原告もこれに服していた。
午前8時から午前8時10分まで 朝礼、安全ミーティング
午前10時から午前10時15分まで 全員一斉休憩
午後0時から午後1時まで 昼休み
午後3時から午後3時15分まで 全員一斉休憩
午後5時から午後5時15分まで 作業終了点検片づけ
午後5時15分 作業終了
b 原告は、本件工事において内装工事に従事していたが、原告ら内装工事に従事する大工(以下「内装大工」ということもある。)の行う労務提供は、本件企業体、相州商事及びA木材の現場責任者が決定した詳細な労務管理下にあった。
本件工事における内装工事は、作業内容が極めて細かく分業化され、原告のような熟練した技能を持ち労賃の高い大工は、その専門的な判断や技能を必要とする作業のみを行い、専門性、熟練性を要しない作業は非熟練作業者が行うことで、内装工事全体の労務コストを徹底して削減することとなっていた。
そのため、原告が担当していたのは、一連の作業のうち極めて限られた一部分にすぎず、原告は、サッシ、壁、天井、床面、ドア等、個別の内装一つについてさえ完成に責任を持ってはおらず、それぞれの作業箇所の作業内容のごく一部を分担して労務提供する者にすぎなかった。
c 本件工事において、内装大工が、例えば和室の有無によってA木材からの仕事の依頼を拒否した例はなく、依頼があればこれを断ることはできなかった。
d 本件工事において内装大工が行う内装工事には、1日あるいは時間を単位として労賃計算がされる部分(常用)と、出来高労賃で算定される部分(請負)があったが、後者については、客のオプション仕様によって内装が変更になるため、工事をしながら順次、数部屋ずつA木材の現場監督が出来高労賃を決定しており、内装大工は、要望を出すことはあっても、現場監督がやってくれと言えば、結局は我慢して行わざるを得なかった。
e 原告の意識としても、原告は、会社を渡り歩くことは嫌いであり、一つの会社に長く勤め続けようと考えていた。
f 以上のとおり、原告は具体的な仕事の依頼、業務従事の指示等に対して拒否する自由を有していなかった。
(イ) 業務遂行上の指揮監督の有無
原告が日々どの作業を行うかは、頻繁に変更され、複数の作業を同時並行で行っていた。各内装大工の日々の作業の割当ては、毎日午後1時ないし1時30分に開催される職長会議で決まる作業スケジュールに即して、A木材の現場監督が決定し管理していた。
また、本件工事において、各部屋の内装は顧客の希望に応じたオプション仕様とされていたため、内装工事の過程で内装仕様の変更は様々にあり、時には、工事が既に終わっていてもこれを取り壊して新たな工事を行うこともあり、これら作業内容の変更は、毎日の職長会議で、A木材の現場監督から伝達され、職長から内装大工に伝達されていた。
施工方法についても、間仕切り等の形状、施工方法、家具・造作の納まり具合等が細かく指示され、問題が起こると、内装大工は必ずA木材の現場監督の指示を仰いでおり、その指示が誤っていても、最終的にはこれに従わなければならなかった。
A木材の現場監督は、場合によっては、本来内装工事の仕事ではないボード張りの一部を行わせることもあった。
さらに、原告は、本件工事の途中で、A木材の指示により、別の工事現場において、日当2万5000円で5日間常用の仕事に従事したこともある。
以上のとおり、本件工事においては、A木材によって作業の具体的内容、方法等が指示されており、業務の遂行が使用者の具体的な指揮命令を受けて行われている以上、原告の日々の稼動場所と作業内容、労賃は、A木材が決定していたものである。
(ウ) 拘束性の有無
上記(ア)aのとおり、本件企業体は、原告ら労務提供者に対し厳格な時間管理を行っていたものである。
また、上記(ア)bのとおり、原告は細分化された分業体制の中に組み込まれており、現場監督の指揮監督の下で所定勤務時間を遵守することが要求され、これを遵守することができない者は仕事を辞めさせられており、所定の作業時間内に勝手に帰宅する内装大工はいなかった。
本件工事が行われる毎週月曜日から土曜日までの午前8時から午後5時までの間にA木材以外の仕事をすることは無理であり、原告は、もしその他の仕事をすれば解雇されると認識していた。
A木材は、本件現場近くに同会社の負担でアパートを借り上げ、現場監督、原告ら内装大工等、合計6名を居住させ、毎日午前7時に全員が1台の自動車に乗って出発し、一緒に本件現場に到着し、作業が終わると、再び全員が1台の自動車に乗って上記アパートに帰るという生活をさせて内装大工が必ず所定時間に就労するようにしていたほか、原告らが仕事を休むときは必ず連絡を入れさせており、無断での欠勤を許していなかった。
以上のとおり、原告はA木材によって勤務時間を指定され、管理されていたものある。
(エ) 代替性の有無
A木材の工事部長は、同会社に所属する内装大工に対し、文書で、毎日の朝礼に必ず出席するよう指示していた。これは、現場責任者から内装大工に仕事の内容や重機作業に伴う通路変更等についての指示、伝達を行う必要があったからである。
また、A木材の作業現場においては、内装大工の応援が必要な場合でも、内装大工が自分で知り合いの大工を呼ぶ例はなく、常に会社が手配しており、その労賃を応援を受けた大工が直接支払うこともなかった。なお、原告が応援を受けたことは一度もない。
よって、原告には、代替性が認められていなかったものである。
イ 報酬の労務対償性について
原告がA木材から支払われる労賃は、従前から、1平方メートル当たりの単価に出来高面積を乗じて算出する出来高賃金の場合と、1日当たりの日当に就労日数を乗じて算出する常用賃金の場合とが混在していた。
また、本件工事の場合、同一の作業者であっても、その作業者が行う作業の内容によって、常用の場合と出来高払いの場合があり、後者を請負と呼んでいたところ、内装工事に関しては、原告ら内装大工は、能率を上げて仕事を手順良く行うほど各自の報酬額が増えるよう、部屋のタイプに即して内装大工の労務提供への対価が決定される請負方式が採られていたが、労賃締切日に、担当する部屋の木工事が完了していなくても、出来高割合に応じて労賃が支払われていた。他方、サッシに額縁を付ける、ユニットバス取付位置に墨出しをするなどの作業については、常用であり、その日当は2万5000円であった。さらに、原告は、職長手当を受けて、職長会議への出席、他の業者との作業手順の調整、各作業員の作業日程や作業分担の決定、調整、指示及び伝達、資材搬入の調整及び実際に搬入された資材の配分、各作業員の作業方法の指導、不具合箇所の納め方についての決定及び指示等を行っていった。
以上のとおり、原告については、提供した労働の量によって報酬が決定されており、欠勤した場合には応分の報酬が控除され、常用の場合は残業手当相当分の支払がされていた上、職長手当の支払を受けていたのであるから、原告の報酬は、時間を単位として計算されていたというべきである。
(2) 労働者性の判断を補強する要素について
ア 事業者性の有無について
(ア) 機械、器具等の負担
原告が所持している工具等の中で最も高価なのは、価格7万円ないし10万円の本件丸のこぎりであってさほど高額なものではなく、ロール釘等、金物はすべてA木材の負担であった。
(イ) 報酬の額
原告がA木材から受領した報酬は、平成10年5月22万5000円、同年6月70万5285円、同年7月76万3200円、同年8月70万0760円、同年9月33万6840円、同年10月65万6600円、同年11月69万6000円、同年12月50万4900円であり、著しく高額であるとはいえない。
(ウ) その他
A木材は、原告ら内装大工が予備のない材料について刻みミスをした場合でも、大工に対してその代金を請求した例はない。
原告は、自ら「工務店」「組」等の屋号を用いたことはない。
原告は、出稼大工を全国各地に大量に輩出している地方の出身であり、家族を地元に残し、単身で首都圏で稼動していた。その就労形態は、屋号、作業小屋を持たず、他人を雇わず、セールスを行わない、「会社一本」と呼ばれるものであり、原告は名刺を持ったことがない。
また、原告はA木材の工事に従事中、工事現場で大工道具の盗難被害にあったところ、A木材は12万円相当の損害填補を行った。
さらに、原告は、本件災害のため、当時作業中であった部屋の内装を完成させることができなかったが、A木材は原告に対し、投入した労働に見合う6万円の労賃を支払った。
(エ) 以上の事実関係からすると、原告に事業者性を認めることはできない。
イ 専属性の程度について
原告は、建設会社を渡り歩く職人ではない。原告が共栄建創からA木材に移籍した理由は、共栄建創の仕事がなくなり余剰人員が生じたためであり、その後、原告はA木材に専属していたものである。
ウ その他
原告は、その所得について給与所得として確定申告をしており、発注書、仕様書その他の書面のやりとりをしておらず、事業主としての請負業務をしたことがなく、「手間の貸借り」(他の大工に応援に入ってもらった場合、逆の立場になったときに「手間」を労務の提供によって返すこと)をしたこともない。
A木材が原告について労働保険及び社会保険の加入を行わなかったのは、消費税負担を軽減させるためにすぎず、労働基準監督署は、このような正当でない理由や動機に基づく取扱いを是正する責務を負っていたにもかかわらず、これを果たさなかった。
内装大工には、正社員と同様に、制服、ヘルメット、安全靴が支給されていた。
これらの諸事情に照らしても、原告には労働者性が肯定されるべきである。
(被告)
原告は、以下のとおり、A木材から独立して個人で作業を請け負う自営業者であり、具体的な業務の遂行についてはその裁量が広く認められており、A木材の指揮監督の下で労務を提供していたものではなく、労務に対する対償性のある報酬を受けていたともいえないから、労災保険法上の労働者には当たらないというべきである。
(1) 使用従属性について
ア 指揮監督下の労働か否かについて
(ア) 仕事の依頼、業務に従事すべき旨の指示等に対する諾否の自由の有無
原告は、当初共栄建創という工務店の下で内装業に従事していたが、自らの意思でA木材の下で仕事を行うようになったものであり、同会社の業務を受けるか否かについて自ら決めることができ、同会社以外の他社の業務を同時に受けることも可能であった。
また、いったん引き受けた業務における個別的な作業の諾否について、原告は、A木材での仕事を継続したいために、自らの意思で断らないようにしていただけであり、同会社の現場監督の側も各大工の要望に配慮して具体的な作業分担を決めるようにしていた。原告が、本件工事において、特定の部屋の内装工事や個別の取付作業のみを拒絶することができなかったとしても、それは、大工の各作業内容が有機的連続性を持って行われるという業務の性質上生じるものである。そもそも、原告の締結した請負契約は、建物全体の完成に向け、すべての部屋の内装工事を統一的に一括して引き受けることが内容となっていたものであって、既に合意した内容を履行するためには個別の作業を拒否することができないことは当然である。
(イ) 業務遂行上の指揮監督の有無
原告は、A木材との請負契約の内容に従って、使用する材料、加工について施主の意向に沿う必要はあったものの、同会社の現場監督から作業自体に関する指示はなく、技術的な裁量が認められていた。原告がA木材から受けていた指示は、業務全体の進行管理の都合上、使用する木材や大まかなスケジュールに関する事柄や契約内容の確認にとどまり、注文者の行う指示を超えるものではなく、現場監督からの指示が誤っている場合には、まずは原告のほうから修正を求めており、一方的な指示というよりは、むしろ対等な立場における進行についての協議の側面が強かった。
(ウ) 拘束性の有無
a 場所的拘束性
原告の勤務場所が、おおむね本件現場に限られていたことは、内装工事という業務の性質上当然のことであったが、材料の加工を他の場所で行うことも禁止されていなかった。
b 時間的拘束性
原告にはA木材の就業規則の適用はなく、原告とA木材との契約上始業時間等の制約はなかった。本件企業体は、(原告)(1)ア(ア)a記載のようなタイムスケジュールで仕事をするよう求めたが、これは、すべての下請負人に同一のルールに従った作業に従事させることで安全に作業を進めることが主な目的であり、副次的には、大工仕事という業務の性質上騒音等の発生があるため観光客や近隣住民への配慮から作業開始時間について制限を設けたもので、業務の性質上必要であったために執られた措置にすぎない。
原告は、本件工事において、自らの担当した業務が予定どおり遂行されている限り自由に振る舞うことができ、先に帰ることや何もしないことも許容されていたし、時に他の大工を手伝うことがあっても、それは自主的な援助にすぎなかった。就業時間を遵守しないためにA木材を辞めさせられたという人物は、大工作業を行わない現場監督であって就業時間の最初から最後まで現場にいることが求められる立場であり、内装大工である原告とは全く事情を異にする。原告がA木材の用意したアパートから本件現場に通っていたのは、原告自身が、通勤の便宜とアパート代節約のために当該アパートに入居することを選んだからである。
c 身分的拘束性
原告がA木材以外の他社の業務を同時に受けることができ、A木材の業務を受けることを強制されていたわけでもないことは、上記(ア)のとおりである。
d その他
A木材は、原告ら大工に対し、いくつかの要望事項を文書で示していたが、これらは、作業の円滑化や関係各社の円滑な相関関係を維持するためのものにすぎない。
(エ) 代替性の有無
A木材は、いったん任せた仕事の遂行を各大工に任せており、同会社が一方的に職人の応援をすることはなく、応援等の必要性及び選任については、各大工に任されていた。
イ 報酬の労務対償性について
A木材は、原告に対し、施工する部屋の大きさ、形状等に応じた請負代金を支払っており、労働時間に対する対価としての報酬を支払っていたのではない。また、仕事の完成に当たって検収という手続を行っており、検収によって仕事の完成が確認されない以上、原告はA木材に対して報酬を請求することができず、手直しに要した作業分代金を上乗せして請求することもできない。原告が仕事を休んだ場合、A木材は、他の要員に当該作業をさせることはなく、工期に間に合わず応援が入った場合には、応援に入った大工の分の報酬は原告の報酬から差し引かれることになっていた。このような事情に照らすと、原告に対する報酬は仕事完成の対価であるというべきである。
また、原告の報酬は、A木材の従業員と比較して高額であり、原告の報酬には、高度の技術ないし専門性に対する対価が含まれていた。
なお、職長の仕事は、現場全体の円滑な業務のための伝達ないし指示事項を伝えることに重点があり、その性質上現場従事者であればすることができ、A木材の従業員であることが必要とされるものではない。特に、本件における職長の仕事には、他の未熟な大工に対する墨出しの指導等も含まれており、これは本来の職長の仕事である労働安全責任者としての仕事ということはできない。原告に対して支払われた職長手当の性質は、大工の取りまとめ役としての業務に対する対価や、大工の技術料の上乗せであって、賃金保障としての性質は弱い。さらに、A木材の従業員には、職長であっても職長手当は支払われないのであるから、職長手当が支払われたこと自体、原告が同会社の従業員ではなかったことを意味する。
(2) 労働者性の判断を補強する要素について
ア 事業者性の有無について
(ア) 機械、器具等の負担
原告は、本件工事のため、自ら所有する道具を持ち込んでおり、本件災害時に使用していた本件丸のこぎりも原告の所有であった。
なお、A木材が原告に対し木材やビス等の材料を提供していたことは、請負契約の一つの形態というべきであって、労働者性の判断とは直接関係ない。
また、原告は、紛失した大工道具の代金の一部をA木材から填補してもらったが、これは、あくまでも、本来填補を求めることができないものを填補してもらったにすぎない。
(イ) 報酬の額
上記(1)イのとおり、原告の報酬はA木材の従業員よりも高額であって、原告の仕事を単純な労務提供と同一視することはできない。
また、報酬の支払についても、原告が請求書を作成し、これに対してA木材が支払を行う方法であった。
(ウ) 損失の負担
A木材と原告との契約上、予備のない材料について原告に明らかなミスがあれば原告の負担とすることが予定されていた。現実にA木材が原告に対し材料の損失分の請求をしたことがなかったのは、本件現場において大工が扱う材料が、予備のある安価なものであった、あるいは、大工のミスによる損失であることを確認できなかったからであるにすぎず、上記の原則を覆すものではない。
イ 専属性の程度について
原告がA木材以外の他社の仕事を受けることができたことは上記(1)ア(ア)のとおりである。
ウ その他
A木材は、原告の所得税を源泉徴収していなかった。
原告は、国民健康保険に加入しており、A木材との関係で、退職金、有給休暇等の制度はなく、名刺も支給されず、従業員の親睦会にも参加していなかった。
原告は屋号を使用していなかったが、A木材は、個人大工と個人会社の形をとった大工との間で、契約内容や大工としての扱いに何ら差異を設けていなかった。
第3 当裁判所の判断
1 事実経過
争いのない事実、証拠(甲1ないし3、甲7ないし14、甲17の1ないし67、甲18、甲19の1ないし6、甲20、21、甲25の1ないし8、甲26、28、29、32、乙7ないし9、証人C、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 原告とA木材との関係等
ア 原告は、山形県で生まれ育ち、昭和41年ころ大工の見習修業を始め、昭和46年ころから一人前の大工として仕事をするようになり、北海道札幌市、東京都練馬区、東京都昭島市等の工務店で稼動し、平成4年ないし5年ころからは千葉県松戸市所在の共栄建創という工務店で稼動していた。この間、原告は、山形県酒田市所在の建設会社の従業員となったこともあるが、賃金が少ないことなどを理由にこの会社を辞め、工務店の仕事を請け負う大工に戻り、その後は一貫して、「会社一本」と呼ばれる、作業場を持たず、他人を雇わず、一人で工務店の仕事を請け負う形態で稼動していた。
原告は、全国建設労働組合総連合・山形県建設労働組合連合会田川建設労働組合に所属し、山形県建設国民健康保険組合の健康保険を利用しており、上記酒田市所在の建設会社従業員であった時期を除いては、稼動している先の工務店において労働保険あるいは社会保険の被保険者となったことはなかった。
イ 原告は、平成10年3月ころ、A木材の担当者から、同会社では今後仕事が増える予定であり、仕事がとぎれないようにするので同会社の仕事をするように誘われたことから、共栄建創の仕事をするのを止め、A木材の仕事をするようになった。このとき、原告とA木材との間では、請負契約書、雇用契約書等の契約書類は作成されなかった。なお、原告がA木材の仕事をするようになってからも、原告は、A木材が事業主となっている労働保険や社会保険の被保険者になることはなく、従来と同様、上記健康保険組合の健康保険の被保険者にとどまっていた。
A木材が、マンションの内装工事を主に行う株式会社であるが、当時、工事部を新たに創設したばかりであり、従業員として雇用している者の中に大工仕事のできる者はいなかった。
ウ A木材は原告に対し、他の工務店等の仕事をすることを禁じていたわけではなく、また、完全な出来高制の請負方式で報酬を支払っていたため(下記エ参照)、A木材の仕事がとぎれると、原告は収入を得られず、他の工務店等の仕事をするようになる可能性があった。そこで、A木材は、腕がよく勤勉な大工である原告を同会社に引き留めておくため、原告に対し、優先的に実入りのよい仕事を回し、仕事がとぎれないようにするなど、他の工務店等の仕事をする必要がないよう配慮しており、原告は、他の工務店等の仕事をすることなくA木材の仕事のみを行っていた。大工と工務店のこのような関係は建設業界において一般的に見られるものであり、安定した発注先と収入を確保することができる点で、大工にとっても都合のよい関係であったため、原告も、A木材の下で長期にわたって仕事をすることを希望し、同会社からの仕事は、内容が多少不満であっても受けるようにし、同会社と良好な関係を保とうとした。
エ A木材が原告に報酬を支払う形態には、請負及び常用の2種類があった。
請負は、1平方メートル単位で単価を定め、部屋の広さに単価を乗じた額が報酬額となる、完全な出来高払いの方式であり、仕事完成までの労働時間と報酬額は無関係である。仕事をしない場合には報酬は全く支払われない一方で、大工は、仕事を能率よくこなせばこなすほど多くの仕事を引き受けることができ、多額の報酬を得られるため、大工の腕の差がそのまま報酬額に反映される報酬支払方式として、大工の間でも納得が得られており、原告とA木材の間では、請負形式が中心であった。
他方、常用は、日当を支払う形式であり、仕事が完成したか否かを問わず、稼動した日数に応じて報酬が支払われ、所定の時間を超えて作業を行った場合には、残業代として稼動時間に応じた報酬が支払われることもあった。常用は、小規模な作業を同時に複数行うなど、出来高払いの方式になじまない作業の場合に用いられることが多く、A木材が、請負の仕事がない時のつなぎとして数日単位の仕事を原告に依頼するような場合には常用方式が採られていた。A木材は、原告に対し、常用の場合、仕事の難易度に応じて、1日当たり2万2000円から2万5000円までの日当を支払っていた。
原告はA木材に対し、請負と常用の別を問わず、請求書を発行し、同会社がこれに応じて報酬を支払うという形式を採っていた。この請求書には、工事現場名等で費目が特定されており、常用と請負とを区別することができるようになっていた。
原告が、平成10年7月20日から同年11月20日までの間に、A木材から支払われた報酬額は、以下のとおりであり、これは、同会社の従業員の賃金より相当高額であった。
平成10年7月20日 70万0760円(消費税込み。以下同じ。)
同年8月20日 33万6840円(下記キの道具代填補分3万円を含む。)
同年9月20日 65万9200円(同上)
同年10月20日 69万8800円(同上)
同年11月20日 50万7000円(同上)
なお、A木材は、原告に対する報酬について、これを給与所得に係る給与等として所得税の源泉徴収を行うということはしていなかった。
オ 請負の場合、原告ら大工が作業を休んだ場合でも、A木材では、工期に影響がない限り、他の作業者を休んだ大工の担当している作業に従事させることはなかったが、工期に間に合わない場合には、A木材が応援の大工を入れ、元々の大工と一緒に作業をさせることがあった。この場合には、A木材が、応援を受けた大工の報酬から、応援に入った大工の報酬を差し引き、応援に入った大工に支払っていた。
原告は、常に工期に間に合うよう作業をしていたため、一度も応援を受けたことがなかったが、逆に原告が他の大工の現場に応援に入り、A木材から別途報酬を得たことがあった
また、原告は、大工仕事以外の作業もこなすことができたため、工期が迫っているような場合、A木材から、本来別職種の職人が行うボード張り等の作業もやってほしいと頼まれることがあったが、これを受けた場合には、原告にはやはり別途報酬が支払われていた。
カ A木材は、就業規則の作成・届出をしていたが、原告は就業規則の適用対象になっておらず、原告には、就業規則所定の年次有給休暇制度や退職金制度等の適用がなかった。また、原告には、同所定の始・終業時間の定めの適用がなく、原告は、作業を行う現場で定められた作業時間帯に従うことになっていたものにすぎなかった。
原告ら大工は、朝は工事現場へ直行し、仕事が終わると工事現場からそのまま帰宅することがほとんどであり、A木材の事務所へ寄ることはまずなかったほか、A木材の従業員が所持している、同会社の従業員である旨の肩書きの名刺を所持しておらず、同会社の従業員が参加して行われる新年会、忘年会等の懇親会に参加することもなかった。
キ 原告は、本件丸のこぎり等、一般的に必要な大工道具一式を所有しており、A木材の仕事を行う場合もこれらを現場に持ち込んで使用し、まれにその工事でしか使用しない特殊な工具が必要な場合には、A木材が所有する工具を借りて使用していた。
原告は、平成10年4月ころ、同会社の仕事をしている際、この大工道具一式を工事現場で紛失し、同年5月ころ、同会社の従業員である現場監督に相談した。これを受けた同会社の工事部長B(以下「B部長」という。)は、原告に対し、新しく道具を購入する代金の一部を同会社が負担するが、この大工道具は原告の所有物であり、道具代という名目で支出することはできないので、「常用」の名目で、毎月3万円ずつ4回に分けて請求するよう指示したため、原告はA木材に対し、同年8月から11月までの4か月にわたり、常用で稼動したという名目で合計12万円を請求し、同額の支払を受けた。
(2) 本件工事について
ア 株式会社竹中工務店(以下「竹中工務店」という。)、東洋建設及び亀井工業は、竹中工務店を中心に、共同企業体(本件企業体)を構成して本件工事を受注し、本件工事のうちA棟8戸、E棟28戸、D1・2棟47戸中16戸、合計52戸の内装工事について、相州商事と請負契約を締結し、同会社はこの内装工事について、A木材と材工(材料と労務を別々にせず、一緒に含めて扱う形態)で請負契約を締結し、同会社は原告ら大工に対し、同工事に従事するよう求めた。
この時、竹中工務店は、本件工事に従事する、原告を含む大工らに対し、労災保険法35条に基づく特別加入をするよう勧めたが、原告は、これに加入しなかった。
イ 本件工事は、平成10年4月6日着工され、平成11年3月18日完成した。
本件工事は大規模であり、本件現場には、多数の事業者が出入りして作業を行うことになったため、安全かつ能率的な作業を行うためには、本件現場の作業方法について共通のルールを定めることが不可欠であった。また、本件現場では、相当の騒音、振動、大小の車両の出入り等を伴わざるを得ないため、本件現場の近隣に住む住民の生活環境に配慮する必要も生じた。
そこで、竹中工務店は、本件現場で作業を行う者の安全を確保し、同時に、騒音、振動等が近隣住民にとってなるべく迷惑にならないようにするため、作業時間を原則として、毎週月曜日から土曜日までの午前8時から午後5時10分までに限定し、本件現場に出入りするすべての者の共通のルールとして、以下のようなタイムスケジュールで作業を行うことを定め、各種ミーティング等を通じて同スケジュールを周知させ、その遵守を求めた。
1日の作業時間
午前8時から午前8時10分まで
朝礼(全員参加)、安全ミーティング(各職グループ毎に実施)
午前8時10分
作業開始
午前10時から午前10時15分まで
全員一斉休憩
午前11時から午前11時30分まで
安全パトロール(安全当番が実施)
午前11時30分から午後0時まで
工事打合せ(全職長が出席)
午後0時から午後1時まで
昼休み
午後3時から午後3時15分まで
全員一斉休憩
午後5時から午後5時10分まで
全員作業終了点検片づけ
午後5時15分
全員作業終了(残業する者は事務所へ報告することとされたが、騒音を出す作業を行うことはできない。)
また、竹中工務店は、本件現場における作業上の注意事項として、毎朝朝礼に出席し注意事項を確認すること、朝礼後、各職ごとに安全ミーティングを実施し、作業内容、順序及び方法を全員が確認するなどし、安全作業に努めること、資格の必要な作業は必ず有資格者が行い、作業主任者の指示に従い、資格証は必ず携帯すること、材料搬出・入庫は事前に通行経路の打合せを行い、周囲へ迷惑を掛けないこと等、13項目の注意事項をまとめた、「新規入場者のみなさまへ」と題する書面を作成し、本件現場で作業する者に配布したほか、本件現場に入る作業者等に対しては、初めて入場する日の朝礼開始前に特別に説明を行って、注意事項の周知を図っていた。
A木材は、同会社の従業員であり工事部に所属していたC(以下「C」という。)を本件現場の現場監督とし、同会社と原告ら大工との調整をさせた。
また、同会社は、「共通事項(会社からのお願い)」と題する書面を作成し、原告ら同会社の仕事を行う大工に配布したが、この書面には、毎日の朝礼に必ず出ること、作業終了時毎日清掃を行うこと、部屋から出るときはヘルメットをかぶること、くわえたばこやたばこの投げ捨て禁止等、安全に関する事項のほか、切り間違いをした材料や傷の付いた材料はそのまま使わないこと、内部造作が終了した時点で職長又は現場担当者に申し出ること等、作業の進め方に関する注意事項も記載されていた。
ウ 本件工事は、分譲マンションの新築を目的とするという性質上、同じタイプの各部屋には、仕上がりの画一性、均質性が求められる一方、当該部屋の買主の注文に応じて、和室の有無等、仕様を変更することになっていたため(オプション仕様)、買主からの注文があれば、特別の工事をする必要があった。本件工事の内装工事は、能率向上やコスト削減等のため、作業が細かく区分されており、内装大工のほか、「床屋」「ボード屋」「クロス屋」「ドア屋」等と呼ばれる多数の職種の業者が関与し、かつ、同一種類の作業であっても、部屋ごとに作業者が異なるために、多数の作業者が関与しても仕上がりが均一になるよう、各部分について、材質、寸法等が細かく決められていたが、工法や作業手順は指定されていなかった。また、その作業は相互に有機的に関連しており、一つの作業が終わらないと、別の者が担当する次の作業を開始することができないという関係にあることが多かったため、竹中工務店以下すべての事業者は、工期の遵守を非常に重視していた。
本件企業体、相州商事等からの注文を実際に現場で働く大工らに伝達するのは、A木材の現場監督であるCであり、同人は、注文主の指示とともに、注文どおりの仕上がりになり竹中工務店が行う検収に合格しやすくなるようにするため、B部長が作成した「施工上の注意点 気をつけてもらいたい点」と題する書面を配布するなどした。
エ 本件工事の内装工事は、原則として、各戸単位で行われており、A木材は、原告ら内装大工に対し、各戸単位での請負で、1平方メートル当たり3800円ないし4000円程度の単価で計算した報酬を支払っていたが、作業の進行状況に応じて、数戸まとめて行ったほうが効率のよい作業である窓への木製枠の取付け、ユニットバスの位置決め(墨出し)等は、常用方式で行ってもらうようにし、原告に対しては、1日当たり2万5000円の日当を支払った。
請負方式の報酬は、Cが、相州商事からの請負金額等を考慮した上で、部屋のタイプごとに1部屋当たりの単価を出して原告ら内装大工に提示し、その額に同意した大工が請け負うこととなっており、大工の側がより高額の報酬を希望すると、A木材側がその希望を容れて、当初の提示額よりも高額の報酬となることもあった。また、請負の場合、A木材の請求の締め日に完成している部屋の分だけ請求する大工もあれば、未完成の部屋の分も、締め日に完成している割合に相当する金額を請求する者もあったが、A木材では、いずれの請求の仕方であっても報酬の支払を行っていた。
(3) 本件工事における原告の稼動状況等
ア 原告は、同郷の大工数名の世話役的な立場にあり、これらの大工は、原告と同じように、内装大工としてそれぞれが直接A木材から口頭で仕事の依頼を受け、本件工事に従事していた。
A木材は、本件工事開始に際し、本件工事に従事する同会社の大工やCの通勤の便を考え、本件現場の近くに同会社の負担でアパートを借り、希望者はそこに無料で入居できるようにした。原告は、当時埼玉県草加市にアパートを借りて居住していたが、そこから神奈川県茅ヶ崎市所在の本件現場まで毎日通うのは時間的に困難であり、他方、本件現場近くに自分の費用でアパートを賃借すると金銭的負担が大きいことから、上記数名の仲間と共にA木材が提供する上記アパートに入ることにし、作業の行われる毎週月曜日から土曜日までは、上記アパートで、上記大工らやC等、合計6名ないし7名で共同生活をし、本件現場への行き帰りも、同じ1台の自動車に乗り合わせて一緒に行き来していた。A木材は、原告ら大工が自分でアパートを借りたり、自分で駐車場を手配し自分の自動車を使用することについて何ら制限していなかったが、原告らは、金銭的負担が増えるのを嫌って、自ら希望して上記アパート及び上記自動車を利用していた。
なお、原告らが依頼されたのが本件工事の内装作業であるという仕事の性質上、原告らは本件現場を作業場所とし、材料の加工も、すべて本件現場において行っていたが、原告らがA木材から特に作業場所を指示されていたというわけではなかった。
イ 原告らは、竹中工務店が定めた上記(2)イのタイムスケジュールに従って作業を行っていたが、事前に連絡すれば、遅刻、早退をしたり、あるいは個人的な都合で欠勤することもでき、工期に遅れが生じない限りは、それで特段とがめられることはなく、報酬を減額されることもなかった。この場合、竹中工務店及びA木材は、本件現場の安全管理のため、その日本件現場において稼動している大工の人数を正しく把握する必要があったため、大工に対し、遅刻、早退、欠勤等については必ず連絡するよう求めていた。また、竹中工務店は、本件現場で作業するすべての作業員に対して毎朝の朝礼への出席を求めていたが、これは、毎朝の朝礼において、その日使用できない通路の有無や危険作業の有無等、本件現場全体の安全と能率的な作業に必要な事項の連絡を行うことにしていたため、朝礼に出席しなければ、適切な作業の段取りを立てることができず、危険性も高くなるおそれがあるという理由によるものであった。A木材では、朝礼に欠席した大工に対しては、必ずCが朝礼で発表された必要事項を伝達することとしていた。
原告ら内装大工は、予定していた仕事が早く終わるなどした場合には、作業終了時刻まで何もせずにいたり、自主的に清掃をしたり、好意から他の大工を手伝ったりしており、Cに連絡すれば、作業終了時刻前に帰ることも自由であった。もっとも、実際には、少しでも多くの仕事をして多くの報酬を得たい、あるいは、交通費を負担したくないなどの理由で、作業終了時刻より早く帰る大工は余りいなかったし、同じ理由から、工事期間中に休む大工もほとんどなかった。
ウ 原告ら大工は、本件現場に自分が所有している大工道具を持ち込んで使用しており、A木材から、使用するべき道具の指定を受けることはなかった(上記(1)キ参照)。
また、材料については、完成時に外から見えるドア枠、回り縁(天井が壁に接する部分に設ける見切り部材)、幅木(壁の最下部の保護と床の見切りのために、壁と床の接する部分に設ける化粧の横板)等の枠材や台所のカウンターに使用する板(カウンター材)は、相州商事から支給された支給品であり、ある程度高額であったのに対し、下地材(仕上げ材の取付けや張付け等のための材料)、金物類はA木材が用意しており、原告ら大工はこれらを使用して工事を行っていた。
下地材については、余分に注文しておくのが常であったため、大工が材料を切り間違えるなどして使用することができなくなった場合にも、他の材料を使用して工事を続け、その負担を大工に求めるようなことはしなかった。
他方、支給品については、予備のないことが多く、仮に大工が加工ミス等をして当該材料を使うことができなくなった場合には、当該大工の負担で新たな材料を調達することになっており、大工側も、ミスをすればその分が自分の報酬から差し引かれることを了解しており、特に慎重に作業するようにしていた。しかし、余り厳格に大工の負担を求めると、負担を嫌う大工がミスした材料をそのまま使用したり、A木材の仕事をしなくなったりするおそれがあったため、Cは、本件現場において、支給品が加工ミス等により使うことができなくなった場合でも、大工が失敗している現場を現認するなど、大工のミスであることが確実な形で確認できたものについてしか当該大工に負担を求めないことにしていた。そのため、本件現場において、現実にミスをした分の材料費を報酬から差し引かれた大工はいなかった。
エ 本件現場における内装工事は、原則として、各戸単位で行われており、A木材の内装大工は、1戸を仕上げて次に取りかかることになっていたが、他の部屋の内装工事の進行状況や、内装工事以外の工事の進行状況等によっては、Cが、1戸が終わる前に別の戸の仕事を行うよう指示することもあった。
原告は、本件現場では、以下のような仕事を担当していたが、原告は腕のよい大工であったため、通常10日ないし12日間かかることが予定されている1戸の内装工事を、8日ないし9日間で完成させることができた。
① 床部分 別の業者が仕上げたコンクリートの躯体の上に、各部屋ごとに床の高さを計算の上決定し、墨出しをした上で、際根太(柱又は壁に接する最も端にある根太)を取り付ける。その後、床を張るのは、「床屋」の仕事である。
② 天井 天井の下地を作り、回り縁を付ける。その後、下地の上に板を貼るのは「ボード屋」、ボードの上にクロスを張るのは「クロス屋」の仕事である。
③ 間仕切り 天井と床の間に、各部屋を区切る木製の枠組みを設ける。内装用の壁を作るのは「GL屋」の仕事であり、木間仕切りの上にプラスターボードを張るのは「ボード屋」の仕事である。
④ ドア ドア枠の取付けを行う。ちょうつがいの取付け、ドアの調整は「ドア屋」が行う。
⑤ 押入れ 和室の押入れを作るための枠組み作成、押入れの床、壁、天井、中段設置等をすべて内装大工が行う。
⑥ その他 長押、入り口枠、サッシ枠、ドア枠、台所のカウンターの設置等
竹中工務店は、主な作業が完成するごとに検収を行い、注文どおりになっていない場合は、合格するまで手直しをさせ、そのための追加作業に対して大工が報酬を上乗せされることはなかった。図面自体が誤っていた、あるいは、作業完成後、当該部屋の買主からの注文で仕様が変更になったなど、大工に責任のない事情で工事をやり直すことになる場合は、やり直しに要した時間に応じて、常用として報酬が支払われた。
オ 上記(2)ウのとおり、Cは、原告ら大工に対し、本件企業体、相州商事等の注文どおりの内装に仕上げるため、注文の内容を細かく説明し、変更事項の伝達も欠かすことはなかったが、他方、原告ら大工が、工期に間に合うよう、また、注文どおりの寸法、仕様に仕上げている限り、作業の順序や工法について指示をすることはなかった。これは、作業の順序や工法に関しては、本件企業体や相州商事から指定がなく、また、各大工によってやり方が異なるものであって、A木材としては、どのようなやり方であっても、工期までに注文どおりの寸法、仕様に仕上がっていればよく、それ以上作業方法を指定する必要がなかったためであり、元々、大工ではないCほかA木材の従業員は、作業方法を指定する能力を有していなかった。
カ A木材が、Cを本件現場における現場監督とし、竹中工務店、相州商事、「ボード屋」や大工との連絡調整、工事の見積り、材料の手配、造作大工との連絡調整、職長会議への出席等の業務を行わせていたが、同人は他の現場も掛け持ちしており多忙であったこともあり、B部長は、平成10年9月10日ころ、原告に対し、職長業務を行ってほしいと依頼した。A木材と原告ら大工との間では、職長は、大工仲間の取りまとめ役や、未熟な大工への指導まで行う者としての意味合いもあり、同郷の大工のグループの世話役的な立場にあった原告が適任であると思われたからであった。しかし、職長会議に出たり、同会議での決定事項や連絡事項を他の大工に伝達するなどの業務を行うと、その分自分の作業に当てることのできる時間が減少し、仕事の完成が遅れたり、常用の仕事をする余裕がなくなるなどして報酬額が減ることになることから、B部長は原告に対し、報酬減少分を填補する趣旨で、月額20万円の職長手当を支払うことを約束した。なお、Cには、通常の賃金と別に職長手当が支払われることはなかった。
原告は、その後、Cが不在の場合に代わって職長会議に出たり、作業に使用するリフト、クレーンの調整をしたり、材料が現場に搬入された際の手伝い等を行っていたが、他の職種の業者等との調整はCだけが行っており、原告が行うことはなかった。
キ A木材が、本件工事において、原告ら大工が作業を休んだ場合でも、原則として、休んだ大工の担当している作業に他の大工を充てることはしなかった。これは、工期内に作業が完了していれば、A木材としては、何の不都合もなかったためであり、また、1部屋幾らという報酬の定め方をしているため、その部屋を担当している大工に無断で他の大工に作業をさせると、報酬の支払についてトラブルが生じるからであった。
ただし、工期に間に合わない場合には、A木材が応援の大工を入れ、一緒に作業させることがあったが、この場合には、応援を受けた大工の報酬から応援に入った大工の報酬が支払われることになっていた。また、A木材は、全体の作業の進行具合との関係で、作業が予定よりも早く進んでいる大工に、作業が遅れている部分を手伝ってくれるよう頼むこともあり、その分は、常用として報酬が支払われた。原告は、本件工事についても、常に工期に間に合うよう作業をしており、一度も応援を受けたことがなく、逆に作業の遅れている部分を手伝い、別途報酬を受けていた。
(4) 本件災害の発生
ア 原告は、平成10年11月5日午後3時50分ころ、本件現場において、内部造作工事に従事していたところ、作業台の上に据え付けられた自己所有の本件丸のこぎりを使用して間仕切り材を切断した後、そのスイッチを切り、切断した間仕切り材を右手で取り出そうとしたところ、惰性で回転していた本件丸のこぎりの刃に誤って右手指が触れ、本件傷害を負った(本件災害)。
イ A木材は、従前、原告を個人の工務店や「組」等と同一の立場の業者として扱っており、いわゆる一人親方であって自社の従業員ではないと認識していたが、原告が労災保険法に基づく給付請求をする意向を示したため、この手続には協力し、できるだけ原告が同法に基づく給付を受けられるように取り計らうことにした。
ウ また、竹中工務店は、本件災害の発生を受け、原告と同じような立場にあった大工らに対し、改めて労災保険法35条に基づく特別加入をするよう促した。A木材は、特別加入の保険料負担を嫌って大工が同会社から離れるのを防ぎ、腕のよい大工を確保するため、同会社の仕事をしていた大工らの上記保険料のうち半額を同会社で負担することとした。
2 争点(原告は労災保険法上の労働者に該当するか)について
(1) 労災保険法は、労働者を使用する事業に適用されるところ(同法3条1項)、同法には、補償給付の対象となる労働者の定義について明文の規定は存在しない。しかし、同法12条の8第2項が、労働者に対する保険給付は労基法に規定する災害補償の事由が生じた場合にこれを行うと定め、同法84条1項が同法の規定する災害補償につき、労災保険法に基づいて労基法の災害補償に相当する給付が行われるべきものである場合においては、使用者は補償の責めを免れる旨規定していることなどにかんがみると、労災保険法にいう労働者とは、労基法に定める労働者と同一のものをいうと解するのが相当である。
そして、労基法9条は、労働者について、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」と定義しているところ、これと、使用者についての同法10条の規定、賃金についての同法11条の規定等を合わせ考えると、同法にいう労働者とは、使用者の指揮監督下に労務を提供し、使用者から労務に対する対償としての報酬を支払われる者をいうと解するのが相当である。
(2) ところで、証拠(乙1、3)及び弁論の全趣旨によれば、労働大臣の私的諮問機関である労働基準法研究会は、昭和60年12月19日付けで、労働大臣に対し、「労働基準法の「労働者」の判断基準について」と題する報告を行い、労働者性の判断基準について、「1 「使用従属性」に関する判断基準」及び「2 「労働者性」の判断を補強する要素」に大別し、前者について、「(1) 「指揮監督下の労働」に関する判断基準」及び「(2) 報酬の労務対償性に関する判断基準」の2項目を立てた上、上記(1)について、「イ 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無」、「ロ 業務遂行上の指揮監督の有無 (イ) 業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無、(ロ) その他」、「ハ 拘束性の有無」及び「ニ 代替性の有無 ―指揮監督関係の判断を補強する要素―」という考慮要素を掲げ、上記2について、「(1) 事業者性の有無」、「(2) 専属性の程度」及び「(3) その他」の3項目を立てた上、上記2(1)について「イ 機械、器具の負担関係」、「ロ 報酬の額」及び「ハ その他」という考慮要素を掲げて検討するものとし、さらに、上記研究会の労働契約等法制部会労働者性検討専門部会は、平成8年3月、特に労働者性の判断について問題となることが多い建設業手間請け(工事の種類、坪単価、工事面積等により総労働量及び総報酬の予定額が決められ、労務提供者に対して、労務提供の対価として、労務提供の実績に応じた割合で報酬を支払うという建設業における労務提供方式)従事者について、労働者に該当するか否かの判断基準を、上記昭和60年12月19日付け報告の枠組みに沿って、具体例を挙げながら検討した報告書を発表していることが認められる。
これら2つの報告書の判断枠組みは合理性を有するものと考えられ、本件における労働者性判断に当たっては、これらの報告書の判断枠組みを基本にしながら、諸般の事情を総合して検討するべきものと考えられる。
(3)ア 指揮監督下の労働か否かについて
(ア) 原告は、本件工事の内装工事を行うに当たり、A木材から提示された請負単価に対しより高額の単価を要求し、その要求が認められることもあるなど、契約内容について双方実質的に協議の上合意していたこと、本件企業体、相州商事は、本件工事の内装について、具体的な工法や作業手順について指定することはなく、A木材もその点については原告に対し指示することなく、原告は、自分の判断で工法や作業手順を選択することができたこと、原告は、本件工事において、CらA木材の現場監督に連絡さえすれば、工期に遅れない限り、仕事を休む、定められた作業開始時刻よりも後に作業を開始したり、作業終了時刻より前に仕事を切り上げるなどすることも自由であったことは上記1認定のとおりである。
(イ) この点、原告は、原告にはA木材からの仕事の依頼を断る自由がなかった、A木材から作業の具体的内容、方法が指示されていた、原告は厳格な時間管理及び場所的拘束を受けていた、自分の代わりに別の大工が作業を行うことはできなかった等と主張する。
しかし、上記1のとおり、同会社の仕事を断らなかったのは、同会社との関係を長く良好に続けたいと考えた原告の判断によるものであったから、契約上諾否の自由がなかったことを基礎付ける事実であるということはできない。
また、原告が業務遂行上の指揮監督であるとして挙げる事情(上記第2、3(原告)(1)ア(イ))について見ると、原告が、竹中工務店の定めた作業スケジュールに従って作業し、作業内容が区分され、寸法、仕様等についてある程度細かな指示を受けていたことは事実であるが、これらは、本件工事が大規模なもので、多数の業者が出入りすることから定められた、作業者の安全や能率的な作業のため必要不可欠な調整のルールであるか、マンション新築という本件工事の性質上、画一的な仕上がりを求められるために必要な指示であって、その内容が多少細部にわたるとしても、注文主の通常の指示を超える指揮命令であると評価することはできない。また、原告が、大工仕事以外の仕事を依頼されることがあったことは認められるが、その場合には、別途報酬が支払われていたというのであるから、この事実が指揮命令関係を推認させるということは困難である。
原告が、拘束性の存在として指摘する事情(上記第2、3(原告)(1)ア(ウ))も、作業時間の指定は、作業者の安全や能率的な作業のため及び近隣住民の生活に迷惑をかけないためにされているものであって、指揮監督関係の有無に直接関係するものではないといえるし、原告がA木材の用意したアパートに入居し、仲間と同じ自動車で現場への往復をしていたのは、出費の節約のため原告自身が希望して任意に行っていたことであり、竹中工務店やA木材が大工に対し、連絡することなく欠勤等をすることを禁じていたのも、安全管理のため、本件現場で作業している人数を把握する必要に出たものであるから、指揮監督関係を推認させるということはできない。
原告が、代替性の不存在として指摘する事情(上記第2、3(原告)(1)ア(エ))のうち、朝礼への出席を求めたのは、工事の安全確保等の観点から必要な事項を伝達するためであり、出席することができない場合でも、後でC等に尋ねることで必要事項の連絡を受けることができたし、応援の大工を呼ぶかどうかは当該大工と相談の上であったというのであるから、これらの点も指揮監督関係の有無と関係するものではないというべきである。
(ウ) 以上のとおり、原告は、具体的な作業内容、方法、作業時間等については、工事の性質上必要なものを除いて特段指示されることなく自己の裁量で行うことができたものであって、原告がA木材から受けていたのは、工事の請負における注文主からの通常の指示と見ることができる範囲にとどまるということができるから、原告が、A木材の指揮監督下で労働をしていたと評価することはできないというべきである。
イ 報酬の労務対償性について
原告がA木材から受け取る報酬には、請負と常用の2種類があり、前者は、仕事の完成までに要した労働時間と報酬額とが全く無関係であり、大工の腕の差が報酬に反映される方式として合理性があり当事者の納得も得られていたもので、原告とA木材との関係は請負が中心であったこと、常用は日当方式であったが、両者は明らかに区別されていた上、原告はどちらの場合でも、A木材に対して請求書を出す方式で報酬を請求していたものであることは、上記1で認定したとおりである。
これらの事実に照らすと、原告の報酬は労務に対する対価ではなく、仕事の完成に対する報酬であると見るべきであって、一部常用の方式が採られていたことは、本来の仕事以外に他の仕事をしてもらう場合の報酬の決め方の問題にとどまるものであるから、上記認定を左右するものではない。また、原告は、職長手当が支払われていることをもって報酬に労務対償性がある旨主張するが、本件工事における職長は、A木材からの指示を大工に取り次いで調整を行うことが主な役割であり、これは必ずしも同会社の従業員でなければすることができないものではなかったこと、同会社は、原告に職長を依頼したものの、あくまでCが不在の場合の代理としてであり、同会社が行うべき業務である他の事業者との調整作業は原告には依頼しなかったこと、原告に対して、同会社は、むしろ、大工仲間の取りまとめ役や未熟な大工への指導を行うという役割を期待していたこと、同会社の従業員であるCには、賃金と別に職長手当が払われるということはなかったことは上記1(3)カのとおりであり、このような事情の下では、職長手当の支払と同会社の従業員としての地位とが性質上不可分のものとして結び付くものとはいえないことが明らかであるから、原告の上記主張は採用しない。
ウ 事業者性の有無について
原告は、諸種の事情を挙げて、原告には事業者性がない旨主張する(上記第2、3(原告)(2)ア)。
しかしながら、原告がA木材において行っていたのは内装工事であり、その性質上さほど高価な工具を必要とするものではなく、現に、原告は、その所有する大工道具でほとんどの仕事を賄うことができ、A木材所有の機械を使用するのは、使用頻度の低いごく特殊なものに限られていたというのであるから、道具に関する原告の負担が大きくないことは、事業者性を否定する事実ということはできない。
原告がA木材から得ていた報酬額は、平成10年7月分70万0760円、同年8月分33万6840円(上記道具代填補分3万円を含む。)同年9月分65万9200円(同上)、同年10月分69万8800円(同上)、同年11月分50万7000円(同上)であることは上記1のとおりであるが、これらがA木材の従業員よりも高額であるとの評価がされていることも併せ考えると、直ちに事業者性を否定する事情ということはできない。
A木材が、本件工事について、予備のない材料について加工ミスをした場合にその代金を請求しなかったことは上記1のとおりであるが、これは、本来は請求するべきものであるのに、A木材の担当者が、大工のミスが明らかであるときに限って請求するという方針で臨んだために代金を請求するべきケースが生じなかったためにすぎない。また、A木材が原告の紛失した道具代の一部を填補したのは、A木材が原告に対し、道具代の名目で支出することができないとした上で、常用の名目で請求するよう指示していることにかんがみると、原告とA木材との契約上当然に填補されるべきものであったのではなく、同会社の厚意による恩恵的なものであったというべきである。また、完成させることができなかった部屋についての報酬の定め方は、原告が投入した労力に対するものではなく、仕事が完成した割合に応じて報酬が支払われたものと見るべきものである。その他、原告はA木材の名刺を使用していなかったこと、A木材は、原告のように屋号を用いない大工と屋号を用いている大工を同様に取り扱っていたことなどの事情を指摘することができ、結局、事業者性を否定するに足りる事実は認められないものである。
エ 専属性の程度について
原告は、A木材に専属していた旨主張し、本件災害当時、原告がA木材以外の仕事をしていなかったことは争いがないが、A木材が、原告を引き留めておくために、実入りのよい仕事を回したり仕事がとぎれないよう配慮していたことは上記1認定のとおりであり、これは、原告に、他の工務店等を選択する相当大きな自由があったことを示すというべきであり、原告が数年ごとに仕事を行う工務店を転々と変えており、A木材の仕事を始めてから本件事故まで約8か月間という短期間しか経過していないことにも照らすと、原告のA木材に対する専属性はさほど高いものではないと認められる。
オ その他
原告は、A木材の就業規則の適用対象になっておらず、原告には同所定の年次有給休暇制度や退職金制度等の適用がなかったこと、原告は、A木材を事業主とする労働保険や社会保険の被保険者となっておらず、国民健康保険組合の被保険者となっていたこと、A木材は、原告の報酬について給与所得に係る給与等として所得税の源泉徴収をするという取扱いをしていなかったことなどの事情を指摘することができる。
カ 以上の諸事情によれば、原告はA木材から指揮監督を受けておらず、労働者性を認めることはできないというべきであり、事業者性を否定する要素もなく、専属性が高いということもできず、その他上記認定を覆すに足りる事情は認められない。
(4) そうであれば、原告は労基法上、したがってまた、労災保険法上の労働者に該当しないものというべきであって、被告が、同旨の理由でした本件処分に違法はない。
3 結論
以上の次第であるから、原告の請求には理由がない。
(裁判長裁判官・福岡右武、裁判官・脇 博人、裁判官・藤原典子)