大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 平成16年(レ)14号 判決 2004年7月07日

控訴人(原審反訴原告) 破産者A破産管財人 Y1

控訴人(原審本訴被告) Y2

訴訟代理人弁護士 太田治夫

同 川畑大輔

同 北條将人

被控訴人(原審本訴原告・反訴被告) 株式会社シティズ

代表者代表取締役 B

訴訟代理人弁護士 平光哲弥

主文

1  控訴人Y2の本件控訴に基づき、原判決の主文第1項の控訴人Y2に関する部分を次のとおり変更する。

(1)  控訴人Y2は、被控訴人に対し、28万2309円及びこれに対する平成15年3月24日から完済まで年3割の割合による金銭を支払え。

(2)  被控訴人の控訴人Y2に対するその余の請求を棄却する。

2  控訴人破産者A破産管財人の本件控訴を棄却する。

3  訴訟費用のうち、本訴に係る部分は、第1、2審を通じてこれを4分し、その1を被控訴人の負担とし、その余を控訴人Y2の負担とし、反訴に係る控訴費用は、控訴人破産者A破産管財人の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人ら

<控訴人破産者A破産管財人>

(1) 原判決を取り消す。

(2) 被控訴人は、控訴人破産者A破産管財人に対し、31万4805円及びこれに対する平成15年3月24日から完済まで年5分の割合による金銭を支払え。

(3) 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。

<控訴人Y2>

(1) 原判決を取り消す。

(2) 被控訴人の請求を棄却する。

(3) 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

(1)  控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却する。

(2)  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第2事案の概要

本件は、貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業規制法」という。)2条2項にいう貸金業者である被控訴人が、Aに対し金銭を貸し付け、控訴人Y2(以下「控訴人Y2」という。)がこれを連帯保証したとして、同法43条1項の「みなし弁済」規定の適用があることを前提に、両名に対し、連帯して、残元金38万3899円及びこれに対する最終の弁済日である平成15年3月24日から完済まで利息制限法の制限内である年3割の割合による遅延損害金相当額の支払を求めた(本訴請求)のに対し、両名がその請求を争うとともに、Aが、被控訴人に対し、本件各弁済には上記みなし弁済規定の適用はなく、支払済みの利息のうち利息制限法1条1項が定める利息の制限額を超える部分を元本に充当すると過払金が生じているとして、不当利得返還請求として、過払金相当の31万4805円及びこれに対する最終の弁済日である平成15年3月24日から完済まで民法の定める年5分の割合による法定利息の支払を求めた(反訴請求)事案である。その後、Aは破産宣告を受け、同人に係る本訴及び反訴を破産管財人が受継した。

原判決は、Aが被控訴人に対してした利息及び損害金の支払については貸金業規制法43条1項の「みなし弁済」規定が適用されるとして、被控訴人の本訴請求をいずれも認容し、控訴人破産者A破産管財人(以下「控訴人破産管財人」という。)の反訴請求を棄却した。

これに対し、控訴人らが原判決を不服として控訴したところ、被控訴人は、Aに対する免責の裁判が確定したことを受けて、本訴請求のうち、控訴人破産管財人に係る訴えを取り下げた。したがって、当審における審判の対象は、本訴請求のうち控訴人Y2に対する請求及び反訴請求となった。

第3基礎となる事実

(以下の事実は、当事者間に争いのない事実であるか、段落の末尾に記載した証拠により容易に認められる事実である。)

1  被控訴人は、貸金業規制法3条1項の規定による登録を受けて貸金業を営む者である。

2  被控訴人は、平成11年7月30日、A(以下「A」という。)に対し150万円を貸し付けた(以下「本件消費貸借契約」という。)。この際に取り交わされた「金銭消費貸借契約証書」(以下「本件消費貸借契約書」という。)には、元本の返済方法、利率及び利息の返済方法、賠償額の予定(損害金に関する約定)、期限の利益の喪失に関する特約等について、次のような記載がある。〔甲4号証〕

①  元金は、平成11年8月より平成16年7月まで毎月27日に60回にわたって金25,000円の分割払いとします(1項)。

②  利息は年率29.80パーセントの割合として、平成11年8月から平成16年7月まで毎月27日に60回にわたって残元本×年率×経過日数/365の計算により支払います(2項)。

③  元金又は利息の支払を遅滞したときは、催告の手続を要せずして期限の利益を失い、直ちに元利金を一時に支払います(5項)。

④  期限後は、損害金を残元本に対し年率36.50パーセントの割合で債務完済日の前日まで支払います(6項)。

3  控訴人Y2は、平成11年7月30日、被控訴人に対し、本件消費貸借契約に基づくAの債務について連帯保証した。

4  被控訴人は、上記2及び3の契約締結の際、A及びY2に対し、それぞれ「貸付契約説明書」(以下「本件契約説明書」という。)を交付した。

5  Aは、被控訴人に対し、本件消費貸借契約に基づく債務の弁済として、別紙計算表の「年月日」欄記載の各年月日に、同「弁済額」欄記載の各金額を支払った(以下、これらの各支払を「本件各弁済」という。)。

〔甲7ないし95号証、乙1号証〕

6  被控訴人は、本件各弁済について、A宛てに、それぞれ「領収書兼利用明細書」(以下「本件受取証書」という。)を送付した(ただし、平成13年4月分以前の弁済に係るものについては、Aに対する交付といえるかどうかについて争いがある。)。

7  Aは、平成11年9月27日、本件消費貸借契約に基づき同日限り弁済すべき元利金の支払を怠った。

8  被控訴人は、平成15年5月20日、控訴人らに対する本訴を提起した。

Aは、平成15年7月2日、破産宣告を受けた。〔弁論の全趣旨〕

第4主要な争点

本件の主要な争点は、本件各弁済のうち、利息制限法1条1項の定める利息の制限額(以下、単に「利息の制限額」という。)を超えて利息として支払われた部分について、貸金業規制法43条1項の「みなし弁済」規定の適用があるかどうかであり、具体的には、下記1ないし3のとおりである。

また、下記4の点についても主張が対立しており、その結論によって、本件各弁済が利息の支払に充てられたものか損害金の支払に充てられたものかが決せられることとなる。そして、利息制限法上、制限利率と損害金の制限割合とに差があることから、本件にみなし弁済規定の適用がないとして利息制限法上の制限に従って充当関係を計算する場合には、この争点の帰すうにより残元本の額に差が生じることとなる。

なお、本件各弁済の充当関係についての当事者の主張は、別紙被控訴人計算表(被控訴人の主張)及び別紙控訴人ら計算表(控訴人らの主張)のとおりである。

1  争点①

本件消費貸借契約には、利息の支払を遅滞したときには期限の利益を失い、直ちに元利金及び約定の遅延損害金を支払う旨の条項があるが、このような条項の下においてされた利息の制限額を超える利息の支払が、貸金業規制法43条1項柱書きにいう「債務者が利息として任意に支払った」ものといえるかどうか。

2  争点②

上記1の旨の条項が記載された本件契約説明書が、貸金業規制法17条1、2項の定める事項を記載した書面(以下「17条書面」という。)に当たるかどうか。

3  争点③

本件受取証書には、貸金業規制法18条1項2号の定める契約年月日に代えて契約番号が記載されているところ、このような受取証書が同法18条1項の定める事項を記載した書面(以下「18条書面」という。)に当たるかどうか。

4  争点④

平成11年9月27日の経過により、Aが期限の利益を失ったかどうか。

第5争点に関する当事者の主張

1  争点①(弁済の任意性の有無)について

<控訴人破産管財人>

利息の制限額を超える部分を含む利息の支払を怠れば、期限の利益を失い、債務全額を即時弁済することを求められるとともに、遅延損害金を支払わなければならない旨の条項を含む取引においては、約定に従って利息の支払がされた場合であっても、その支払は、これがなければ当初の契約において定められた期限の利益を失い、遅延損害金を支払わなければならないという不利益を避けるためにされたものであって、債務者が自己の自由な意思に従ってしたものということはできない。そして、このような利息の支払は貸金業規制法43条1項が規定する「任意に支払った」ものとはいえないから、同項の適用は認められない。なお、最高裁平成16年2月20日第二小法廷判決の補足意見も、上記のような条項に基づく支払を任意の支払ということはできないとしている。

本件消費貸借契約においては、本件消費貸借契約書及び本件契約説明書に記載のとおり、利息が年率29.80パーセントであること、「利息の支払を遅滞したとき」には期限の利益を失うこと、及び、期限後には年率36.50パーセントの割合による損害金を支払わなければならないことが約定されている。

そうすると、本件各弁済は、Aが自己の自由な意思に従ってしたものとは認められず、「任意に支払った」ものとはいえないから、貸金業規制法43条1項の適用はないものというべきである。

<控訴人Y2>

本件消費貸借契約には、利息の制限額を超える約定利息の支払を遅滞したときには期限の利益を失う旨の条項があるが、この条項は、利息の制限額を超える約定利息の支払をしないときには、期限の利益を失い、残金を一括して支払わなければならないと解釈せざるを得ず、債務者は約定利息の支払を事実上強制されることとなる。

そうすると、このような期限の利益喪失条項の下でされた本件各弁済は、貸金業規制法43条1項の定める「利息として任意に支払った」ものとは認められないから、同項の適用はないものというべきである。

利息制限法上の制限利息を支払えば期限の利益を喪失しないとしても、債務者は、利息制限法上の制限利率について知らない場合が多く、仮に知っていたとしても、各支払期日に支払うべき制限利息がいくらであるか正確に把握することは容易ではない(特に、本件のような分割弁済型消費貸借においては、制限利息の具体的な額は、残元本の額や実際の弁済日により異なる。)のであるから、これをもって任意の支払とするのは、債務者に不可能を強いる非現実的な理論である。

<被控訴人>

控訴人破産管財人が指摘する最高裁判決の補足意見は、当該貸金業者が定める期限の利益喪失条項が、債務者の自由な意思に基づくとはいえないほど過酷なものであったことを背景としたものと解される。

これに対し、被控訴人は、利息の天引き、手形の受領や、公正証書の作成をしておらず、また、その期限の利益喪失条項は、銀行等の金融機関や公正証書などにおいても用いられるような一般的な内容であり、さらに、一定の要件の下での損害金の一部免除も定めている。このような被控訴人が定める期限の利益喪失条項により、債務者の弁済の任意性が否定されることはない。

2  争点②(17条書面該当性)について

<控訴人破産管財人>

貸金業規制法43条1項は、利息の制限額を超える利息の約定を有効としたものではなく、このような約定は、利息制限法1条1項により無効である。そうすると、利息の制限額を超える利息の支払を遅延しても何ら違法ではない以上、これによって期限の利益を失うものではないから、期限の利益喪失条項は、利息の制限額を超える部分については無効であり、「利息制限法上支払義務のある利息及び元本の支払を怠ったとき」に期限の利益を失うものと限定的に解釈すべきである。

しかし、本件契約説明書には、利息が年率29.8パーセントであり、「利息の支払を遅滞したとき」には期限の利益を失うことが記載されている。このような記載は、利息の制限額を超える部分に係る期限の利益喪失条項は無効であるにもかかわらず、債務者に誤認を生じさせて義務のない支払を強いるものであって、貸金業規制法17条所定の記載事項に関して違法な記載がされた書面であり、17条書面に該当しないものというべきである。

<控訴人Y2>

貸金業規制法43条1項は、利息の制限額を超える利息を「取得する」ことを認めたにすぎず、その支払を求めることを認めたものではない。そうすると、17条書面の要件である「期限の利益の喪失の定めがあるときは、その旨及びその内容」(貸金業規制法17条1項9号、同法施行規則13条1項1号ヌ)の記載とは、例えば、「利息については、利息制限法所定の制限利息の支払を遅滞したときは、期限の利益を喪失する」という趣旨の記載であることを要するものというべきである。

したがって、この点の記載を欠く本件契約説明書は、17条書面には該当しない。

<被控訴人>

本件契約説明書は、17条書面に該当する。

契約書面とは、当事者の合意の内容を記載する書面であり、貸金業規制法17条所定の要件を網羅した契約書面が貸金業者から債務者に交付されることにより、債務者は契約内容が不明確になるという不利益を受けることがなくなる。そうすると、契約書面には、契約内容が有効であるか無効であるかに関わりなく、当事者が合意した内容がそのまま記載されていれば足りるのであって、契約内容の有効性の問題を契約書面自体の有効性の問題に持ち込むことは不適当である。控訴人らが主張する点は、期限の利益喪失条項に特有の問題ではなく、みなし弁済の効果が否定された場合を慮って契約書面に利息制限法所定の利息等を記載する必要があるのかという、一般的な問題にすぎない。

3  争点③(18条書面該当性)について

<控訴人破産管財人>

貸金業規制法18条1項2号は、受取証書に契約年月日を記載すべきことを定めているところ、契約番号の記載をもって契約年月日の記載に代えることはできない。同法施行規則15条2項は、同法43条1項の適用要件を緩和したものではないと解すべきである。このことは、同法18条2項が貸金業者の書面交付義務を緩和することを定めているにもかかわらず、同法43条1項のみなし弁済の効果を生じさせるためには、なお18条書面を交付しなければならないとされていること(最高裁平成11年1月21日第一小法廷判決・民集53巻1号98頁)と同様である。

本件受取証書は、いずれも、契約番号の記載はあるが、契約年月日の記載を欠いているから、18条書面には該当しないというべきである。

<被控訴人>

貸金業規制法18条1項の委任を受けた同法施行規則15条2項の規定によれば、契約番号の記載をもって同法18条1項2号所定の契約年月日の記載に代え得ることは明白であり、大多数の裁判例もこれを認めているところである。

したがって、契約年月日に代えて契約番号を記載した本件受取証書は、18条書面に該当する。

4  争点④(期限の利益の喪失の有無)について

<被控訴人>

平成11年9月27日の経過により、控訴人らは期限の利益を喪失したものである。

<控訴人ら>

被控訴人は、平成11年9月27日のAの支払遅延後も、一括請求や遅延損害金の請求をせず、通常の分割払いを受け入れていたものであるから、同日をもって期限の利益が失われたとはいえない。

第6当裁判所の判断

1  争点①(弁済の任意性の有無)について

(1)  貸金業規制法は、貸金業者の事業に対し必要な規制を行うこと等により、その業務の適正な運営を確保し、もって資金需要者等の利益の保護を図ること等を目的とするものであるが、同法は、この目的を達成するために、貸金業者は、貸付けに係る契約を締結したときは、遅滞なく、同法17条1項各号に掲げる事項についてその契約の内容を明らかにする書面をその相手方に交付しなければならないものとし(同法17条1項)、さらに、その契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときは、その都度、直ちに、同法18条1項各号に掲げる事項を記載した書面を当該弁済をした者に交付しなければならないものとして(同法18条1項)、債務者が貸付けに係る契約の内容又はこれに基づく支払の充当関係が不明確であることなどによって不利益を被ることがないように、貸金業者に対し、上記各書面の交付を義務付けているところである。他方、同法は、上記の貸金業者に対し17条書面及び18条書面の交付を義務付ける規制の実効性を確保するとの観点から、17条書面及び18条書面が適式に交付されたときは、債務者が利息の契約に基づく利息として任意に支払った金銭の額が利息制限法1条1項に定める利息の制限額を超える場合においても、これを有効な利息の債務の弁済とみなすこととしている(貸金業規制法43条1項)。そして、貸金業規制法43条1項の規定が適用される要件である「債務者が利息として任意に支払った」とは、債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上、自己の自由な意思によって支払ったことをいうものと解すべきである(最高裁判所平成2年1月22日第二小法廷判決・民集44巻1号332頁参照)。

(2)  そこで、これを本件についてみると、前記第3の基礎となる事実2に摘示したとおり、本件消費貸借契約書は、2項において「利息は年率29.80パーセントの割合として、平成11年8月から平成16年7月まで毎月27日に60回にわたって支払います。」としたうえで、5項において「元金又は利息の支払を遅滞したときは、催告の手続を要せずして期限の利益を失い、直ちに元利金を一時に支払います。」とし、さらに、6項において「期限後は、損害金を残元本に対し年率36.50パーセントの割合で債務完済日の前日まで支払います。」としているところである。

そして、本件消費貸借契約書5項でいう「利息」とは、同書面の体裁ないし記載の順序からすれば、2項で約した利息の制限額を超える約定利息を指すものであることは明らかである。そうすると、本件消費貸借契約においては、その約定の上では、債務者は、利息の制限額を超える利息を各月の支払期限までに支払わなければ、契約において定められた元本についての期限の利益を失い、残元本及び既経過利息を直ちに一括して支払うとともに、残元本に対する約定の遅延損害金を支払うべき債務を負担することとなる。

しかし、このような期限の利益喪失条項を含む金銭消費貸借契約においては、約定に従って利息の制限額を超える各月の利息が支払われた場合であっても、一般の資金需要者等である債務者にとっては、その支払は、これをしなければ契約において定められた期限の利益を失い、残元本及び既経過利息を直ちに一括して支払わなければならず、かつ、残元本に対する約定の遅延損害金を支払わなければならなくなるという認識の下において、当該不利益の発生を避けるためにされたものと認めるべきであるから、その支払をもって、債務者が自己の自由な意思によってしたものと認めることはできないといわざるを得ない。

もとより、「債務者が利息として任意に支払った」といえるかどうかについての、約定利息の額と利息の制限額との関係に関する債務者の認識についていえば、その支払った金銭の額が利息制限法1条1項に定める利息の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しないと解するのが相当であるから(前掲最高裁平成2年判決参照)、利息の制限額を超える約定利息について、利息の契約に基づき支払義務があると認識してこれを支払ったとしても、それだけで当該支払の任意性が失われることはない。しかし、上記のような期限の利益喪失条項を含む金銭消費貸借において一般の資金需要者等である債務者が行う利息の支払は、利息の契約に基づく利息の債務の履行としての性質のものであるばかりでなく、むしろ、通常は、元本の弁済についての期限の利益を維持し、かつ、期限の利益喪失後の元利金の一括請求や残元本に対する約定遅延損害金の支払義務の発生を避ける目的の下にされるものであることは明らかというべきである。このような、通常は、元本の返済の方法や債務の額についての将来の不利益を避ける目的の下にされるものとみるべき利息の支払についてまで、「債務者が利息として任意に支払った」ものとすることはできないというべきであり、このように解することが上記最高裁平成2年判決の趣旨に抵触するものということはできない。

また、確かに上記のような期限の利益喪失条項自体は当事者間の合意に基づくものではあるが、貸金業規制法43条1項は、貸金業者に対し、例外的に、利息の契約に基づいて支払われた利息の制限額を超える利息を取得することを認めたものであって、それ以上に、同条項が、貸金業者に対し、債務者等との間での合意という形式の下に、利息の制限額を超える利息について、これを元本の返済の方法や債務の額についての将来の不利益の発生と関連付け、その不利益を避けるには当該利息を支払わなければならないという義務を債務者に負担させ、これによって支払を得た制限額を超える利息を取得することまで、任意の支払として容認する趣旨の規定であると解することはできないというべきである。

なお、利息の制限額を超える利息の約定は無効であり、利息の制限額を超える約定利息の支払を怠れば期限の利益を失う旨の条項がある場合においても、債務者が利息の制限額による利息を支払っている限り債務不履行はなく、したがって、期限の利益も失わないものと解されるから、法律上は、債務者は、期限の利益の喪失を避けるために利息の制限額を超える利息を支払うことを強制されるものではない。しかし、一般に、債務者は、期限の利益喪失条項がこのように利息の制限額を超える約定利息の支払を前提とする範囲において法律上効力を有しないということを知らないのが通常であって、期限の利益の喪失による不利益を避けるためには、利息の制限額を超える利息の支払をしなければならないという認識を有し、この認識に基づいて支払をしようとするのであるから、法律上は期限の利益の喪失を避けるために利息の制限額を超える利息を支払うことを強制される関係にないとの点は、債務者がした利息の制限額を超える利息の支払の任意性の有無に関する上記の判断を左右するものではない。

(3)  もっとも、このように解することは、貸金業者が業として行う金銭消費貸借において本件のような期限の利益喪失条項が広く用いられているものと窺われることからすれば、貸金業規制法43条1項の規定の適用の範囲を不当に狭める結果を招くものと受け止める向きもないではないと思われる。

しかしながら、上記(1)のとおり、貸金業規制法は、貸金業者の業務の適正な運営を確保し、資金需要者等の利益の保護を図ること等を目的として、その事業に対し必要な規制を行うものであって(同法1条)、このような観点から、貸金業者に対する業務の規制として、債務者が貸付けに係る契約の内容等が不明確であることなどによって不利益を被ることがないように、17条書面及び18条書面の交付を義務付けたものであり、その反面において、同法43条1項において、貸金業者が17条書面及び18条書面を適式に交付した場合には、特に、いわば恩典として、利息制限法上の制限の例外を設け、利息の契約に基づき任意に支払われた利息の制限額を超える約定利息を取得することを認めることとしたものであるから、同項の規定の適用要件については、上記の貸金業規制法の規制の趣旨・目的に照らし、厳格に解釈されなければならないのはいうまでもない。そして、一般に法的知識に乏しい資金需要者等である債務者に対し、利息の制限額を超える約定の利息を支払わなければ元本についての期限の利益を失い、残元本及び既経過利息を直ちに一括して支払うとともに、残元本に対する約定の遅延損害金を支払うべき債務を負担することとなるという誤解を生じさせ、元本の分割弁済を維持したいという債務者の意思とこの誤解を利用して、実質的には利息の制限額を超える約定利息の支払を強制することとなるような貸付方法は、貸金業規制法が目的とする貸金業者の業務の適正な運営の範囲には含まれないものというべきであり、そのような約定利息の取得を、同法43条1項が「任意に支払」われたものとして許容しているものであるとは解しがたいところである。

貸金業者が、金銭消費貸借につき、利息の契約として利息の制限額を超える利息の約定をする場合において、さらに特約によって利息の支払の遅延を元本の期限の利益の喪失事由としようとするのであれば、契約に際して、債務者が上記のような誤解をすることを避け、利息の契約に基づく利息の支払いの任意性を確保するため、各期日において所定の元本及び利息の制限額の利息を支払わないときには期限の利益を喪失するということを明確にすべきであり(このことは、もとより、利息の制限額を超える約定利息の支払義務がないことを明示することを要求するものではない。)、そうすることが、貸付けに係る契約の内容を明確にして債務者の不利益を防ごうとした同法17条の趣旨に合致し、貸金業者において、利息の制限額を超える約定利息を取得することを許容する法的基礎となるものということができるのである。そして、このように解することが、貸金業者に対し17条書面の交付を義務付ける規制の実効性を損なうことになるものとみるべき合理的な根拠もないというべきである。

(4)  上記のところからすると、被控訴人による特段の主張・立証のない本件においては、本件各弁済のうち利息として支払われた部分については、債務者であるAが自己の自由な意思でしたものと認めることはできず、「債務者が利息として任意に支払った」金銭の額であるとは認められないから、争点②及び争点③について判断するまでもなく、貸金業規制法43条1項の「みなし弁済」規定の適用はないものというべきである。

(5)  なお、Aは、後記2のとおり、平成11年9月27日限り支払うべき元金及び利息の制限額による利息の支払を遅滞し、同日の経過によって期限の利益を喪失したものである。そうすると、それ以降の期間については、Aは、本件消費貸借契約の約定(本件消費貸借契約書6項)に基づき、残元本に対する損害金を支払うべき義務を負うこととなる。この場合、利息制限法4条1項(ただし、平成11年法律第155号による改正前のもの。)によれば、本件における賠償額の予定は、賠償額の元本に対する割合において年3割に制限されるところ、被控訴人は、上記期限の利益喪失後の期間についても、その制限内である年29.80パーセントの割合による損害金を主張しているにとどまるから、本件各弁済のうち、期限の利益喪失後の損害金として支払われた部分については、貸金業規制法43条1項の「みなし弁済」規定の適用の有無を検討する必要はない。

2  争点④(期限の利益の喪失の有無)について

Aは平成11年9月27日限り支払うべき元金及び利息の制限額による利息の支払を遅滞したものであるところ、控訴人らは、被控訴人は同日経過後も一括請求や損害金の請求をしていないから、期限の利益は失われていない旨を主張する。しかし、一括請求をしないことが期限の利益の喪失の効果を失わせるものではないし、本件消費貸借契約書においても、「期限の利益喪失後、債権者は毎月27日までに支払われた損害金については一部を免除し、29.80パーセントとしますが、この取扱いは期限を猶予するものではありません。」との記載がある(6項ただし書)ところであり、かつ、本件受取証書には、各弁済の元本充当額以外の部分が利息ではなく損害金の支払に充当されたことが明示されているから、被控訴人が期限の利益の喪失を猶予したものとも認められない。

したがって、Aは、本件消費貸借契約の期限の利益喪失条項(本件消費貸借契約書5項、前記第3、2③)に基づき、平成11年9月27日の経過をもって、期限の利益を失ったものである。

3  まとめ

そこで、平成11年9月27日までは利息の額を利息制限法の定める制限に従って、期限の利益を喪失した同月28日以降は損害金の額を約定の割合(本件消費貸借契約書6項ただし書。被控訴人主張の損害金の割合も同じ。)に従って、それぞれ計算し、これを前提に本件各弁済の充当関係を計算すると、別紙計算表のとおりとなる。

そうすると、被控訴人の控訴人Y2に対する本訴請求は、連帯保証契約に基づき、残元金である28万2309円及びこれに対する最終の弁済日である平成15年3月24日から完済まで利息制限法の制限内である年3割の割合による遅延損害金に相当する額の支払を求める限度で、理由がある。

また、本件各弁済による過払金は生じていないから、不当利得として過払金相当額の支払を求める控訴人破産管財人の反訴請求は、理由がない。

第7結論

以上のとおりであるから、被控訴人の控訴人Y2に対する請求をすべて認容した原判決は一部不当であるから、控訴人Y2の本件控訴に基づき、原判決の主文第1項の控訴人Y2に関する部分を本判決主文第1項のとおり変更し、控訴人破産管財人の反訴請求を棄却した原判決は相当であるから、控訴人破産管財人の本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法67条、64条本文、61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川勝隆之 裁判官 菊池絵理 貝阿彌亮)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例