大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 平成16年(レ)162号 判決 2005年10月13日

平成16年(レ)第162号貸金請求控訴事件,平成17年(レ)第65号不当利得返還請求附帯控訴事件

(原審・川崎簡易裁判所平成15年(ハ)第307号事件,同第1443号事件),

平成17年(レ)第100号民事訴訟法260条2項の規定による申立て事件

京都市下京区烏丸通五条上る高砂町381-1(4階)

控訴人(附帯被控訴人)(本訴原告,反訴被告)

株式会社シティズ(以下「控訴人」という。)

同代表者代表取締役

●●●

同訴訟代理人弁護士

●●●

横浜市●●●

被控訴人(附帯控訴人)(本訴被告,反訴原告)

●●●(以下「被控訴人●●●」という。)

神奈川県藤沢市●●●

被控訴人(本訴被告)

●●●(以下「被控訴人●●●」という。)

被控訴人ら訴訟代理人弁護士

高橋健一郎

主文

1  控訴人の本件控訴及び民事訴訟法260条2項の規定による申立てをいずれも棄却する。

2  被控訴人●●●の附帯控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。

(1)  控訴人の請求を棄却する。

(2)  控訴人は,被控訴人●●●に対し,62万2310円及びこれに対する平成15年10月1日から完済まで年5パーセントの割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は,本訴,反訴及び民事訴訟法260条の規定による申立費用を含め,第1,2審とも控訴人の負担とする。

4  この判決の第2項の(2)は,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1控訴の趣旨等

1  控訴の趣旨

(1)  原判決中の控訴人敗訴部分を取り消す。

(2)  被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して,119万9564円及びこれに対する平成14年12月10日から支払済みまで年30.0パーセントの割合による金員を支払え。

(3)  被控訴人●●●の請求を棄却する。

2  民事訴訟法260条の規定による申立ての趣旨

民事訴訟法260条2項の規定による申立てに基づき,被控訴人●●●は,控訴人に対し,31万2398円及びこれに対する平成17年8月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  附帯控訴の趣旨

主文第2項と同旨。

第2事案の概要

1  事案の概要

(1)  本訴請求

本訴請求は,控訴人が,被控訴人●●●に対し,被控訴人●●●を連帯保証人として,平成11年6月8日に400万円を貸し渡し,平成14年12月10日現在で貸金残金119万9564円を有する旨主張し,被控訴人●●●については貸金契約に基づき,被控訴人●●●については連帯保証契約に基づき,連帯して,同金額及びこれに対する期限の利益喪失後の日である平成14年12月10日から支払済みまで約定の範囲内の年30パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

本訴請求において,控訴人は,被控訴人●●●の行った弁済の充当関係について,当初5回の弁済についてはみなし弁済が成立し,その後の弁済は,弁済期を徒過した後の弁済であるから,元本及び遅延損害金(平成11年法律第155号による改正前の利息制限法〔以下「利息制限法」という。〕の範囲内)として受領したと主張した(弁済の充当関係については別紙計算書1〔以下「計算書1」という。〕のとおり)。

これに対し,被控訴人らは,① 貸金業の規制等に関する法律(平成11年法律第155号による改正前のもの。以下「貸金業法」という。)18条が要求する書面(以下「18条書面」という。)が交付されたことを否認し,② 弁済の任意性を否認し,③ 18条書面の記載のうち契約年月日を契約番号で代替できると定めた同法施行規則(平成12年総理府・大蔵省令第25号による改正前のもの。以下「貸金業法施行規則」という。)15条2項が無効でありしたがって18条書面の交付がないと主張し,④ 18条書面の記載内容のうち貸金業者の商号及び住所の記載を否認し,⑤ 期限の利益喪失約款は公序良俗に反し無効であるから,期限の利益は喪失しておらず,また,貸金業法17条が要求する書面(以下「17条書面」という。)にも公序良俗に反する無効な条項が記載されているから,同書面自体無効であると主張し,⑥ 被控訴人●●●は5回目の弁済につき,支払期限の猶予を受けたと主張して,控訴人の請求を争った(弁済の充当関係については別紙計算書2〔以下「計算書2」という。〕のとおり)。

被控訴人らのこれらの反論に対し,控訴人は,仮に,5回目の弁済の際に控訴人が支払期限を猶予していたとしても,その後の弁済を含むすべての弁済について,みなし弁済が成立すると主張した。

(2)  反訴請求

反訴請求は,被控訴人●●●が,控訴人に対し,弁済によって生じた過払金の不当利得返還請求権に基づき,利得金62万2310円及び反訴状送達日の翌日(平成15年10月1日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である(計算書2参照)。

(3)  訴訟の経過

原審は,控訴人の本訴請求をすべて棄却し,被控訴人●●●の反訴請求を一部認容したため,控訴人が控訴を申し立て,原判決を取り消して控訴人の請求を全部認容し,被控訴人●●●の請求を棄却するよう求めた。

さらに,控訴人は,民事訴訟法260条2項の規定に基づく申立てを行い,被控訴人●●●が,原判決の仮執行宣言に基づき,債権差押えによって取り立てた金員の返還と,取立日以降の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

一方,被控訴人●●●も,附帯控訴を申し立て,同人の反訴請求を全部認容するよう求めた。

2  争いのない事実等(証拠によって認定した事実については,当該認定事実の末尾に証拠を摘示する。)

(1)  控訴人は,平成11年6月18日当時から,貸金業法3条1項の登録を受けて金融業を営んでいる株式会社である。

(2)  控訴人は,被控訴人●●●に対し,平成11年6月18日,以下の約定で,400万円を貸し付けた(甲4号証,以下「本件契約」という。)。

ア 元利金弁済方法 平成11年7月から平成16年6月まで毎月10日限り,元本6万6000円(最終回は10万6000円)及び支払日までの利息を支払う。

イ 利息 年29.8パーセント(1年を365日とする日割計算)

ウ 損害金 年36.5パーセント

エ 特約

(ア) 元金又は利息の支払を遅滞したとき,又は債務者,保証人のうち本書条項違反及び退職,廃業,休業等あるときは催告の手続を要せずして期限の利益を失い直ちに元利金を一時に支払います。ただし,その他債権を害する行為あるときは催告をもって期限の利益を失います(以下「本件契約第5項」という。)。

(イ) 期限後は損害金を残元本に対し年率36.50パーセントの割合で債務完済日の前日まで支払います。ただし,期限の利益喪失後債権者は毎月10日までに支払われた損害金については一部を免除し29.80パーセントとしますが,この取扱いは期限を猶予するものではありません。尚,法的手続申請後は上記損害金レート一部免除は致しません(以下「本件契約第6項」という。)。

(3)  被控訴人●●●は,控訴人に対し,平成11年6月18日,本件契約における被控訴人●●●の債務につき,連帯して保証した(甲4号証,以下「本件保証契約」という。)。

(4)  被控訴人●●●は,控訴人に対し,本件契約につき,計算書1及び2の各「弁済日」欄に記載された日に,各「弁済額」欄に記載された金額を弁済した(以下「本件各弁済」という。)。

(5)  控訴人は,被控訴人らに対し,本件契約(及び本件保証契約)の際,「金銭消費貸借契約証書」(甲4号証,以下「本件契約書」という。)を交付した。

(6)  被控訴人●●●は,原審の仮執行宣言付判決に基づき,控訴人の預金を差し押さえ(京都地方裁判所平成17年(ル)第973号債権差押命令申立事件),平成17年8月9日,同差押えに基づき,31万2398円を取り立てた。

3  争点及び争点に関する当事者の主張

(1)  控訴人は,被控訴人●●●に対し,本件各弁済の後,直ちに,本件各弁済に対応する領収書兼利用明細書(甲5号証から甲47号証参照)を交付したか。

ア 控訴人の主張

控訴人は,被控訴人●●●に対し,本件各弁済の後,直ちに,本件各弁済に対応する領収書兼利用明細書を交付した。

控訴人は,本件契約時に,被控訴人●●●から,同書面を,同人が経営する株式会社●●●宛てに送付するよう聞き取っていた。そこで,控訴人は,被控訴人●●●に対し,本件各弁済に対応した領収書兼利用明細書を本件各弁済後直ちに郵送したものである。

イ 被控訴人らの主張

控訴人が,被控訴人●●●に対し,本件各弁済の後,直ちに,領収書兼利用明細書を交付したとの主張は争う。

領収書兼利用明細書について,被控訴人●●●が受け取っているものがあることは間違いない。しかし,領収書兼利用明細書(控)(甲5号証から甲47号証)には,「充当額または利用額確認の上,この領収書兼利用明細書を受領しました。氏名●●●」という被控訴人●●●の自署欄があるにもかかわらず,同欄に被控訴人●●●の自署がされていない。

このように,上記領収書兼利用明細書(控)(甲5号証から甲47号証)に被控訴人●●●の自署がないということは,すなわち,領収書兼利用明細書の受け取りを認めないという被控訴人●●●の意思のあらわれであるといえる。つまり,被控訴人●●●が領収書兼利用明細書の受け取りを拒絶している以上,18条書面の交付はされていないと解することとなる。

また,領収書兼利用明細書の発送先も,少なくとも契約書に記載された被控訴人●●●の住所とは異なっている。

(2)  被控訴人●●●は,本件各弁済につき,任意に支払ったか。

ア 控訴人の主張

被控訴人●●●は,本件各弁済につき,任意に支払をした。

控訴人は,被控訴人●●●に対し,早朝や深夜を除いた1日1回の電話による督促をしたのみであり,また,本件各弁済の後,直ちに,被控訴人●●●に対して領収書兼利用明細書を交付した。

さらに,同書面には「充当項目,又は金額に異存のある場合は,善処致しますので至急ご連絡下さい。」と記載されているにもかかわらず,被控訴人●●●からは,控訴人に対し,一度も異議が述べられたことはなかった。

したがって,本件各弁済は,任意に行われたものといえる。

イ 被控訴人らの主張

本件各弁済は,任意に行われたものとはいえない。

本件契約には,利息制限法の利率を超える利息の支払をしなければ,期限の利益を失うという定めがある(本件契約第5項)が,このような約定は,債務者に,約定利率に従った利息,すなわち利息制限法を超える利息の支払を強いるものである。したがって,本件各弁済は,任意にされたものではないといえる。

(3)  貸金業法施行規則15条2項が,同法18条1項2号が要求した契約年月日の記載を,契約番号の記載で代替できると規定したことは,貸金業法による委任の趣旨を逸脱したものであり,同法施行規則15条2項は無効な規定であるといえるか。

ア 被控訴人らの主張

貸金業法施行規則15条2項は,同法18条1項2号が要求した契約年月日の記載を,契約番号の記載で代替できると規定している。しかし,これは,貸金業法による委任の趣旨を逸脱したものであり,無効な規定である。

貸金業法18条1項で定められた受取証書とは,本来無効であるはずの,利息制限法の制限利息を超過する利息を,有効なものとして取り扱わせるという,極めて特異な,超法規的効果を発生させる要件の一つとなっているものである。したがって,貸金業法で定められた受取証書の要件を,同法施行規則(15条2項)によって緩和することは,認められるべきではない。

イ 控訴人の主張

被控訴人らは,貸金業法施行規則15条2項による同法18条1項の要件緩和は認められるべきでないとする。しかし,そのような主張を認めた下級審判決は,ことごとく上級審によって破棄されている。

(4)  領収書兼利用明細書には,貸金業法18条1項1号で定める控訴人の商号及び住所が記載されていたか。

ア 控訴人の主張

領収書兼利用明細書には,貸金業法18条1項1号で定める事項が記載されている。

イ 被控訴人らの主張

領収書兼利用明細書は,貸金業法18条1項1号で定める控訴人の商号及び住所の記載を欠いている。

同書面には,「株式会社シティズ川崎支店融資部」との記載があるが,「川崎支店融資部」の部分については,少なくとも控訴人の商号とはいえない。また,本件契約当時の控訴人本店の住所は「熊本市城東町5番62号」のはずであるのに,同書面には,控訴人の川崎支店の住所が記載されているのみで,本店の住所は何ら記載されていない。

(5)  本件契約第5項及び同第6項は,公序良俗違反であり,無効な約定であるといえるか。

ア 被控訴人らの主張

(ア) 本件契約第5項及び第6項は,公序良俗違反であり,無効な約定である。そして,期限の利益喪失約款(本件契約第5項)が無効な約定である以上,被控訴人●●●は,平成11年11月10日が経過したとしても,期限の利益を喪失していないといえる。また,そのような無効な約定を記載した本件契約書は,17条書面としても無効であるといえる。

(イ) 本件契約第5項は,債務者の返済が1回でも遅れると,債務者は期限の利益を喪失し,残元利金を一括で返済する義務を負うと規定している。しかし,実際には,本件契約第6項によって,仮に債務者の返済が遅れたとしても,翌月の10日までに返済をすれば,控訴人が一括返済を求めない限り,当初の約定どおりの支払義務しか発生しないこととされている。

このことに加え,控訴人が,本訴提起まで,被控訴人らに一括返済を求めていないことを考え合わせれば,1回でも返済が遅れれば期限の利益を喪失するとした本件契約第5項の規定は,有名無実化しているというべきである。

(ウ) 本件契約第5項及び同第6項は,本来,継続的契約関係を前提として,利息として受け取るべき金員を,形式上損害金として受け取るための仕組みであり,利息制限法の制限を回避して,合法的に高利を得るための潜脱行為である。したがって,同約定は公序良俗違反であり,無効であるといえる。

イ 控訴人の主張

本件契約第5項及び同第6項は,無効な約定ではない。

控訴人は,本件契約第6項にあるとおり,債務者が期限の利益を失った場合でも,各月の基準日までに弁済がされた場合には,遅延損害金のうち6.7パーセントを免除し,年利29.8パーセントで計算するという取扱いをしている。これは,① 期限の利益喪失後であっても,ある程度定期的に支払っていく債務者とそうでない者を区別して扱う,② 基準日までに支払えば延滞加算を免除することで,債務者の支払意欲を高める,③ 原告会社の顧客層は,一般的に信用状態の変動が激しく,期限の利益喪失後は速やかに法的処理が可能な状態にすることが必要であるので,再度期限の利益を付与する扱いは不都合である,という理由からである。

したがって,本件契約第5項及び同第6項は,何ら公序良俗違反ではなく,無効な約定ではない。

(6)  控訴人は,被控訴人●●●に対し,平成11年11月10日,同日に弁済すべき本件契約の分割金につき,同月11日まで支払を猶予するとの意思表示をしたか。

ア 被控訴人らの主張

控訴人は,被控訴人●●●に対し,平成11年11月10日,同日に弁済すべき本件契約の分割金につき,同月11日まで支払を猶予するとの意思表示をした。

本件契約第5項によれば,債務者は,1回でも返済が遅れれば,期限の利益を喪失し,残元利金を一括で返済しなければならないとされている。しかし,被控訴人●●●が,平成11年11月10日に,約定の期日を1日遅れそうであったために,返済すべき金額を控訴人に確認した際,控訴人は,被控訴人●●●に対し,償還表(甲88号証)とは異なる15万7506円という金額の支払を指示するとともに,その後も毎月10日までに返済をすれば,返済額は従前の約定と変わらず問題ないと説明した。そして,その後も控訴人は,被控訴人らに対し,本訴に至るまで,一括返済を求めたことはなかった。

このような経緯からすれば,控訴人は,被控訴人●●●に対し,平成11年11月10日,同日弁済すべき本件契約の分割金につき,同月11日まで支払を猶予したというべきである。

イ 控訴人の主張

控訴人は,平成11年11月10日,同日弁済すべき本件契約の分割金につき,支払を猶予してはいない。控訴人は,被控訴人●●●に対し,本件契約第6項に記載されたとおりの取扱いをしたにすぎない。

(7)  (6)で期限が猶予されていた場合であっても,期限を猶予した後の弁済について,みなし弁済が成立するか。

ア 控訴人の主張

(6)で期限が猶予されていたとしても,控訴人は,期限を猶予した後のすべての弁済について,みなし弁済の成立を主張する。

みなし弁済の要件を満たすことについては,上記で述べたとおりである。

イ 被控訴人らの主張

(6)で期限が猶予されていたとすれば,平成11年12月10日以降の弁済は,すべて,元金及び利息として受領されたこととなる。しかし,同日以降の領収書兼利用明細書には,「利息」として受け取ったという記載はなく,逆に,すべて「損害金」として受領したと記載されている。

そのため,同書面は18条書面の要件を満たさず,みなし弁済は成立しないといえる。

第3争点に対する判断

1  前提となる事実経過

前記争いのない事実等及び証拠(甲4号証,証人●●●証人●●●,被控訴人●●●)並びに弁論の全趣旨を総合すると,次の各事実が認められる。

(1)  被控訴人●●●は,本件において貸付けを受ける際,控訴人から連帯保証人をつけるよう求められ,そのために,被控訴人●●●が連帯保証人となった。

(2)  ●●●(以下「●●●」という。)は,被控訴人●●●及び被控訴人●●●に対し,本件契約及び本件保証契約の際,これらの契約につき,本件契約書の文言を読み上げる形での説明を行った。

(3)  被控訴人●●●は,控訴人に対し,本件各弁済の期間中,領収書兼利用明細書の記載に関し,異議をとなえたことはなかった。

2  争点(1)(領収書兼利用明細書の交付)について

(1)  争いの概要

控訴人は,被控訴人●●●に対し,本件各弁済の後,直ちに,領収書兼利用明細書を交付したと主張している。そこで同書面が直ちに交付されたかどうかにつき,以下検討する。

(2)  領収書兼利用明細書の発送について

控訴人が提出した領収書郵送控(甲48号証から甲86号証〔枝番を含む〕)によれば,控訴人は,被控訴人●●●に対し,本件各弁済日の翌営業日には,領収書兼利用明細書を発送していたと記載されているところ,この領収書郵送控に,一定期間ごとに公証人による確定日付印が押されていることや,被控訴人らも,領収書兼利用明細書が郵送されてきたこと自体を否定しているわけではないこと等を考えると,控訴人は,被控訴人●●●に対し,同人から支払のあった日の翌営業日には,領収書兼利用明細書を発送し,特段の事情がない限り,同書面は,発送の翌日又は翌々日には,被控訴人●●●方に到達していたものと認められる。

(3)  発送先の住所について

これら領収書の発送先住所である株式会社●●●の住所は,本件契約書に記載された被控訴人●●●の住所とは異なるが,この点についても,株式会社●●●の住所への発送が,契約後第1回目の時点から行われていることや,被控訴人らも,領収書兼利用明細書が郵送されてきたこと自体を否認してはいないこと等からすれば,発送先を同住所としたことも,被控訴人●●●の申告によるものと認めざるを得ない。

(4)  受取拒否の意思について

被控訴人らは,領収書兼利用明細書(控)に,債務者の受領確認の自署欄があるにもかかわらず,同所には被控訴人●●●の自署がないことを指摘し,これをもって,被控訴人●●●による同書面の受領拒否の意思のあらわれであると主張する。

しかし,そもそも領収書兼利用明細書は,郵送によって被控訴人●●●方に到達しているのであるから,控訴人が,被控訴人●●●に対し,その場で直接署名を求めることは不可能である。なおかつ,領収書兼利用明細書の記載につき,被控訴人●●●から控訴人に対し,特段の異議が申し述べられたという事情もない本件では,被控訴人●●●が,領収書兼利用明細書の受け取りを拒否したとは認められず,同書面は,郵送によって被控訴人●●●方に到達し,同人に交付されたものと認めるほかない。

(5)  結論

したがって,領収書兼利用明細書は,控訴人から被控訴人●●●に対し,弁済後,直ちに交付されたものと認められる。

3  争点(2)(任意性)について

(1)  争いの概要

ア 控訴人は,被控訴人●●●が行った本件各弁済が,貸金業規制法43条1項でいう「任意に」行われたものであると主張している。

これに対し,被控訴人らは,本件契約第5項に,利息制限法の制限利率(以下,単に「制限利率」という。)を超える利息(以下「超過利息」という。)の支払をしなければ,元利金の期限の利益を喪失する旨の約定(以下「超過利息に係る期限の利益喪失約款」という。)があることを指摘した上で,本来であれば,被控訴人●●●は,制限利率内の利息さえ支払っていれば,期限の利益を喪失することはないのに,このような真実と異なる約定があることにより,同人は,超過利息を支払うことを強制されたのであるから,本件各弁済には任意性がないと主張している。

イ 本件契約第5項は,本件契約第2項の「利息は年利29.8%・・・」という記載と合わせて読めば,「超過利率である年利29.8%の利息の支払を遅滞したときは,元利金の期限の利益を喪失する」という意味であると解されるから,被控訴人らのいう「超過利息に係る期限の利益喪失約款」に該当する。

ところで,制限利率を超過する利息,損害金の定めは利息制限法に違反し無効であり,したがって,債務者は,制限利率内の利息さえ支払っていれば,期限の利益を失うことはない。貸金業法は,利息制限法の例外として,同法43条1項ないし3項において,同条項に定める要件を満たす場合に,債務者から任意に支払われた利息,損害金を貸金業者が保有することを認めているが,それ以外に,制限利率を超える利息,損害金の定めを有効なものとして取り扱う旨の規定は設けておらず,勿論,制限利率を超過する無効な利息を支払わなければ期限の利益を喪失するという条項を有効とする規定もないから,いわゆる「超過利息に係る期限の利益喪失約款」は,利息制限法に違反する無効な約定であるというべきである。

そこで,以下,本件契約に,このような超過利息に係る期限の利益喪失約款が存在することを前提とした上で,本件各弁済の任意性を検討する。

(2)  任意性の意義

貸金業法43条1項でいうところの「任意性」とは,債務者が,利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上で,自己の自由な意思によって超過利息を支払ったことをいうものであり,支払った金銭の額が制限利率を超えていることや,超過利息の契約が無効であることまで認識している必要はない(最高裁平成2年1月22日第二小法廷判決,民集44巻1号332頁参照,以下「平成2年判例」という。)。

(3)  平成2年判例と本件期限の利益喪失約款との関係

平成2年判例によれば,超過利息の約定が存在することによって,債務者が「超過利息についても支払債務が存在する」と誤解し,そのために超過利息を支払ったような場合であっても,支払の任意性がないとはいえないことになる。しかし,超過利息に係る期限の利益喪失約款が存在することによって,債務者が「超過利息を支払わなければ,元利金の期限の利益を失う」と誤解し,期限の利益の喪失を回避するために,やむなく超過利息を支払ったような場合には,以下のとおり,平成2年判例の場合と異なり,支払の任意性が否定されると解する余地があるといえる。

ア 単なる超過利息の約定は,原則として無効ではあるものの,みなし弁済が成立する場合には,有効な約定として機能することになるのであるから,その限りにおいては,同約定も,完全に無効な約定とまでいうことはできない。そうすると,債務者が,この約定の存在自体によって,超過利息の支払に関し,支払の促進効果を受けたとしても,それが不当であって支払の任意性を失わせるとまではいえないことになる。

これに対し,超過利息に係る期限の利益喪失約款は,もともと,有効な約定として機能し得る場面が想定できない約定であり,完全に無効な約定というべきであるから,同約定の存在によって,債務者が,事実上超過利息の支払を強制されたような場合には,それが正当化される余地は全く存在しない。

イ 単なる超過利息の約定については,仮に,同約定が無効であることを知って超過利息を支払ったことが「任意性」の要件であると解してしまうと,(ア) 超過利息が無効であると知ってあえて支払った場合には,もともと非債弁済として返還請求が否定されるのであるから,それとは別に貸金業法43条を設けた意義が失われ,(イ) 逆に,債務者が,超過利息が無効であることを知ってあえて支払ったとすれば,そこには何らかの強制力が加わったのではないかとの疑念が生じるのが通常であるから,「任意性」が原則的に認められなくなるおそれがあり,(ウ) 超過利息が無効であることの認識を要するとすれば,任意性の主張が,専ら,債務者の「無効とは知らなかった」という弁解のみで排斥されてしまう等といった問題が生じ,貸金業法43条が死文化するおそれが生じてしまうといえる。

これに対し,超過利息に係る期限の利益喪失約款が存在する契約においては,仮に,同約定が無効であることを知って超過利息を支払ったことが「任意性」の要件であると解したとしても,債務者が任意に超過利息を支払い,みなし弁済が成立する場合が当然考えられるから,貸金業法43条が死文化することにはならない。

ウ したがって,債務者が,超過利息に係る期限の利益喪失約款の存在により「超過利息を支払わなければ,元利金の期限の利益を失う」と誤解し,期限の利益の喪失を回避するために,やむなく超過利息を支払ったような場合は,単に「超過利息が無効であることを知らなかった」ため超過利息を支払った場合とは異なり,このような事情を,任意性の不存在を推定する事情と考えたとしても,平成2年判例の趣旨に抵触することはないというべきである。

(4)  本件期限の利益喪失約款の支払強制力について

被控訴人●●●は,超過利息に係る期限の利益喪失約款が存在することによって,超過利息の支払に関し,どの程度の強制を受けていたかにつき検討する。

ア 債務者は,通常の期限の利益喪失約款によっても,相当程度,支払を強制されていることは明らかである。一般に,消費者金融から借入れをする債務者は,返済が分割で行われることを前提としていると考えられるところ,そのような債務者にとって,弁済の途中で期限の利益を失い,債権者から元利金の一括返済を求められることは,最も恐るべき事態である。加えて,本件においては,貸付けの際に,控訴人から連帯保証人をつけることを求められ,実際に,被控訴人●●●が連帯保証人になっているのであるから,期限の利益を失い,連帯保証人に対して一括返済請求がなされるようなことになれば,連帯保証人に大変な迷惑がかかることはいうまでもなく,この面でも支払が心理的に強制されるものである。

実際に,本件における被控訴人●●●の弁済状況をみても,同人は,本件各弁済期間中に到来した42回の分割金の弁済期のうち,実に40回分については,弁済期にほぼ償還表(甲88号証)に記載されたとおりの金額を弁済しており,さらに,期限までに支払がなされなかった2回分(平成11年11月11日及び平成14年4月11日)の弁済についても,控訴人の従業員との間で,弁済期の当日である平成11年11月10日及び平成14年4月10日に,弁済時期に関する話合いを行っているのである(甲94号証,証人●●●,被控訴人●●●)。このような支払状況に照らせば,被控訴人●●●は,期限の利益喪失約款の存在により,分割金の支払につき相当強い心理的強制効果を受けていたものと誰認することができる。

イ 超過利息が無効であることを知らないのが通常である債務者としては,償還表や領収書兼利用明細書に超過利息を前提とした金額が記載されている状況下で,利息制限法の範囲内の利息を正確に計算し,それを支払うことは,実際上,相当に困難であり,さらに,債務者が1回でも遅滞に陥った後であれば,貸金業者に対し利息制限法の話を持ち出したとしても,逆に,貸金業者から一括返済を求められることを覚悟しなければならないのである。そのような状況下で,単に超過利息に係る期限の利益喪失約款が読み上げられたという本件においては,債務者である被控訴人●●●は,利息制限法の範囲内の利息のみを弁済するという道を事実上閉ざされてしまっているといっても過言ではない。

ウ 以上のような事情を総合すれば,被控訴人●●●は,超過利息に係る期限の利益喪失約款が存在することによって,超過利息の支払を続けるしかない立場におかれていたとみるべきであり,このような事情の下で支払われた利息や損害金については,任意の支払ではないことが事実上推定されるから,逆に,超過利息が債務者の自由な意思に基づいて任意に支払われたといえるような特段の事情が貸金業者側において立証されない限り,任意の支払であると認めることはできないというべきである。

このように解することは,超過利息の支払が,本来であれば,支払の時点で残存している元本に充当されるべきものであるにもかかわらず(最高裁昭和39年11月18日大法廷判決,民集18巻9号1868頁参照),貸金業法43条の厳格な要件を満たした一定の場合に初めて,有効な利息の弁済とみなされるという同条の位置づけや,もともと詐欺,錯誤等の誤解に基づく支払が,取り消し得るか無効なものであるのに,貸金業法43条があえて「任意性」という要件のもとに,その支払を一定の範囲内で有効にしたという趣旨等にも,合致するものである。

(5)  特段の事情について

では,本件において,上記推定を覆すような特段の事情があるといえるであろうか。

控訴人の主張するとおり,被控訴人●●●に交付された領収書兼利用明細書には「充当項目,又は金額に異存のある場合は,善処致しますので至急ご連絡下さい。」と記載されているところ,被控訴人●●●は,控訴人に対し,本件各弁済の期間中,何らの異議も述べていない。しかしながら,上記(4)で述べた被控訴人●●●の支払状況等に照らせば,同人が,超過利息に係る利益喪失約款の存在により,相当強く超過利息の支払を心理的に強制されていたことは否定できないところであるから,上記のような記載があるというだけでは,それをもって,任意性を認めるべき「特段の事情」が存在するということはできない。

なお,本件契約においては,債務者が遅滞に陥った後も,一定の基準日までに支払がされれば,利息と同じ率の損害金しか請求しないという趣旨の本件契約第6項が存在しているが,同条項に明記されているとおり,同条項は何ら支払期限を猶予するものではないし,控訴人の側からしてみれば,債務者が一度でも遅滞に陥った後であれば,何時でも法的手続をとって一括請求することは可能なのであるから,このような約定があるからといって,本件各弁済が任意になされたとみることもできない。

したがって,本件においては,任意性を認めるべき「特段の事情」があったと認めることはできない。

(6)  結論

したがって,本件各弁済においては,被控訴人●●●の支払に任意性は認められず,任意性を前提とするみなし弁済の成立も認められないといえる。

4  争点(3)(貸金業法施行規則15条2項の無効)について

(1)  争いの概要

被控訴人らは,貸金業法18条1項2号によって18条書面に記載することが要求されている契約年月日につき,同法から委任を受けた同法施行規則15条2項が,これを契約番号によって代替することができると定めたことが,貸金業法18条1項の委任の趣旨を逸脱したものであるとし,同法施行規則15条2項は,無効な規定であると主張している。

そこで,以下,この点につき検討する。

(2)  18条書面の記載事項

貸金業法18条1項は,18条書面の記載事項等について「貸金業者は,貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときは,その都度,直ちに,総理府令・大蔵省令で定めるところにより,次の各号に掲げる事項を記載した書面を当該弁済をした者に交付しなければならない。1 貸金業者の商号,名称又は氏名及び住所,2 契約年月日,3 貸付けの金額(保証契約にあっては,保証に係る貸付けの金額。),4 受領金額及びその利息,賠償額の予定に基づく賠償金又は元本への充当額,5 受領年月日,6 前各号に掲げるもののほか,総理府令・大蔵省令で定める事項」と定めている。

そうすると,貸金業法18条1項は,その文理上,同項1号から5号の事項については,明らかに当該事項そのものの記載を要求しているとみるべきである。

(3)  貸金業法施行規則への委任の範囲

この点,貸金業法18条1項は,18条書面に関して定めるべき事項の一部を,同法施行規則に委任している。貸金業法18条1項本文は「貸金業者は・・・総理府令・大蔵省令で定めるところにより,次の各号に掲げる事項を記載した書面を当該弁済をした者に交付しなければならない。」としており,また,同項6号も,18条書面の記載事項として「前各号に掲げるもののほか,総理府令・大蔵省令で定める事項」を掲げている。

しかし,貸金業法18条が同法43条のみなし弁済を受けるための前提要件を規定するものであること及び同法18条1項6号の規定の仕方からすれば,同条項が同法施行規則に委任した内容は,貸金業法18条1項1号から5号において定められた18条書面の記載要件を緩和することではなく,同項1号から5号までの記載事項のほかに,さらに,ほかの記載事項を追加することであって,このことは,同条項の文理上も明らかである。

また,貸金業法18条1項本文についても,同条項を素直に読む限り,同条項でいう「総理府令・大蔵省令で定めるところにより」という部分が,「交付しなければならない」という部分にかかっていることは明らかであるから,同条項が同法施行規則に委任した内容も,基本的には,18条書面の「交付の方法」に限られるというべきである。これは,18条書面の記載内容というものが,同法18条1項各号において個別具体的に定められていることから考えても,そのように解される。

なお,仮に,貸金業法18条1項本文による委任の範囲が,18条書面の記載内容にまで及ぶと解したとしても,上記委任の趣旨からすれば,それは「平成」の代わりに「H」と記載することができるとか,西暦の上2けたを省略することができるなど,記載事項の軽微な緩和に限られるというべきである。

しかるに,貸金業法18条1項の委任を受けた同法施行規則15条2項は,貸金業法18条1項1号から3号が18条書面の記載事項として要求した,① 貸金業者の商号,名称又は氏名及び住所,② 契約年月日,③ 貸付けの金額(保証契約にあっては,保証に係る貸付けの金額。)の記載すべてについて,契約番号その他により明示することをもって,代えることができると定めているのである。そして,控訴人も,同条項に従い,本件における領収書兼利用明細書に契約番号を記載している。

しかしながら,上記で検討した委任の範囲からすれば,貸金業法18条1項本文及び同6号が,同法施行規則に対し,貸金業法18条1項1号から3号が要求した18条書面の記載要件を,上記のように大きく緩和することなどを委任していないことは明らかである。

したがって,貸金業法施行規則15条2項が,契約番号をもって貸金業法18条1項1号から3号までの記載に代えることができると定めたことは,少なくとも,貸金業法の明文による委任の範囲を超えたものであるというべきである。

(4)  貸金業法施行規則への委任の趣旨

また,貸金業法施行規則15条2項は,貸金業法による委任の趣旨に照らしても,明らかにその趣旨を逸脱した規定であると考えられる。

そもそも,18条書面の交付が要件となっている「みなし弁済」とは,それまでの判例理論において,残存する元本に充当されるべきとされていた超過利息の支払を,17条書面の交付,18条書面の交付,任意性等の厳格な要件を満たした一定の場合にのみ,有効な弁済とみなすこととした規定である。

このようなみなし弁済規定が設けられた趣旨は,貸金業法の制定当時,貸金業界に,債務者に対して契約書も渡さない,受取証書も渡さないといった状況がみられたことから,契約書や受取証書などの書面の交付,記載事項などを法で厳格に定め,貸金業者に対しその遵守を求め,これらを遵守した貸金業者にのみ,恩恵的にみなし弁済の成立を認めることによって,貸金業界の健全化や,債務者の保護を図ることにあったといえる。

したがって,貸金業法18条1項各号が,18条書面に様々な事項を記載することを要求した理由も,その記載事項により,債務者に対して十分な情報提供が行われるようにするためであったと考えるべきである。

貸金業法18条1項1号をみると,同条項は,貸金業者の商号,名称又は氏名及び住所を記載することを要求しているが,仮に,これらの事項が18条書面に記載されていなければ,多数の金融業者から借入れをすることが多いと推認される消費者金融の債務者は,自己の弁済がどの金融業者に対する債務に充当されたのかを把握することも難しくなるであろうし,また,18条書面に貸金業者の正式な商号や住所が記載されていなければ,債務者としては,個々の弁済や充当に関して貸金業者に異議を申し出ようにも,その機会を失うことにもなりかねない。

また,貸金業法18条1項2号が記載を要求している契約年月日や,同項3号が要求している貸付金額についても,そのような債務者は,同じ金融業者から数次にわたって借入れをすることも多いのであるから,これらの記載がなければ,自己の弁済がどの債務に充当されたかを認識することも困難となる。債務者は,契約年月日や貸付金額の記載があることによって,初めて,元利金の支払期閒を再認識したり,不当な借換処理によって債務額が過大となっていることに気付く場合もあり得るのである。

このように,貸金業法18条1項1号から3号は,貸金業者から債務者への十分な情報提供が行われるべく,単に,債務者において,弁済が充当された契約を特定させるに止まらず,弁済や充当に関する異議を申し出たり,不当な借換処理を看破するために必要な情報を獲得させる等という意味においても,重要な事項を18条書面へ記載するよう義務づけたものであるといえる。

これに対し,貸金業法18条1項1号から3号の各記載を契約番号で代替できるとすれば,上記各記載によって行われるべき債務者に対する情報提供の大部分が,不可能なものなってしまうことは明らかである。なお,債務者としては,契約番号によって貸付契約を特定できる場合もありえようが,そのような場合においても,そもそも契約番号というものが,貸金業者の側で契約を管理するために付された番号であることを考えれば,債務者にとって,契約番号が,契約を特定するための情報として,契約年月日や貸付金額と同程度の価値を有するものとはいえないことも明らかである。

(5)  結論

したがって,貸金業法施行規則15条2項は,貸金業法18条1項の委任の範囲を超え,かつ,同法による委任の趣旨を逸脱したものであり,全体として無効な規定であるといわざるを得ない。

なお,貸金業法施行規則15条2項は,契約番号のみの記載で,法が要求した記載事項に代替できると定めているわけではなく「契約番号その他により明示することをもって」代替できると定めているものであるが,18条書面の記載事項に関する規定が,債務者に対する情報提供に資するために,貸金業者に対して厳格な記載を求めたものであることを考えれば,「その他により明示することをもって」などという不明確な規定で,貸金業法が要求した記載に安易に代替することは許されないというべきであり,いずれにしろ,同条項は無効な規定であると解するのが相当である。

また,本件における領収書兼利用明細書には,貸金業法18条1項が記載を要求した事項のうち,契約年月日と控訴人の本店の住所以外の事項はすべて記載されているが,18条書面の記載事項は,厳格に遵守されるべきであるから,これらの記載を欠いた領収書兼利用明細書は,18条書面としての要件を満たさないものというべきである。

したがって,本件における領収書兼利用明細書は,18条書面の要件を満たしたものとはいえず,本件においてみなし弁済が成立する余地はない。

5  本件における充当関係について

(1)  以上のとおり,その余の争点について判断するまでもなく,本件各弁済につき,みなし弁済が成立しないことは明らかである。そして,これを前提とすると,被控訴人●●●による本件各弁済は,計算書2のとおり,元本及び利息に充当されており,最終弁済日である平成14年12月10日の時点では,62万2310円の過払金が生じているものと認められる。

(2)  なお,控訴人は「被控訴人らは平成11年11月10日の経過をもって期限の利益を喪失した」と主張しているが,この点については,同日までの支払を利息制限法の制限利率に引き直して計算すると,平成11年11月10日までに支払うべき元利金は,既に,同年10月12日までに支払われているものと認められるから,本件において,被控訴人●●●は,期限の利益を喪失していなかったということができるので,この点に関する控訴人の主張は採用できない。

6  まとめ

よって,控訴人の本件控訴には理由がなく,被控訴人●●●の附帯控訴には理由があり,原判決は,被控訴人●●●の反訴請求の一部を棄却した点において不当であるから,原判決を変更し,被控訴人●●●の反訴請求を全部認容するとともに,控訴人の本件控訴及び民事訴訟法260条2項の規定による申立てをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林正 裁判官 庄司芳男 裁判官 髙倉文彦)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例