横浜地方裁判所 平成16年(ワ)1517号 判決 2007年12月20日
甲事件原告・丙事件被告
X1(以下「原告X1」という。)
甲乙事件原告・丙事件被告
X2(以下「原告X2」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士
小川光郎
甲乙事件被告・丙事件原告
Y1工業株式会社(以下「被告Y1工業」という。)
同代表者代表取締役
A
同訴訟代理人弁護士
岡正俊
乙事件被告
Y2重機械工業株式会社(以下「被告Y2重機」という。)
同代表者代表取締役
B
同訴訟代理人弁護士
狩野祐光
同
向井蘭
主文
1 被告Y1工業は,原告X1に対し,金32万4318円及びこれに対する平成16年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告X1は,被告Y1工業に対し,金100万9752円及びこれに対する平成16年1月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告X2は,被告Y1工業に対し,金69万2780円及びこれに対する平成15年12月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告X2の請求,原告X1及び被告Y1工業のその余の各請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用については,原告X1に生じた費用及び被告Y1工業に生じた費用の3分の1を原告X1の負担とし,その余の費用を原告X2の負担とする。
6 この判決は,第1項から第3項までに限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1 甲事件
(1) 原告X1及び原告X2が,被告Y1工業に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
(2) 被告Y1工業は,原告X1に対し,金2525万5665円及び内金642万9954円に対する平成16年5月9日から,内金1882万5711円に対する平球19年5月23日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員並びに平成19年6月10日から本判決確定の日まで毎月10日限り金50万8803円をそれぞれ支払え。
(3) 被告Y1工業は,原告X2に対し,金1120万2920円及びこれに対する平成19年5月23日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに平成19年6月10日から本判決確定の日まで毎月10日限り金35万7540円をそれぞれ支払え。
2 乙事件
被告Y1工業及び被告Y2重機は,原告X2に対し,各自金1617万6910円及びこれに対する被告Y1工業は平成17年2月6日から,被告Y2重機は同月8日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 丙事件
(1) 原告X1は,被告Y1工業に対し,金100万9752円及びこれに対する平成15年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 原告X2は,被告Y1工業に対し,金69万2780円及びこれに対する平成15年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
甲事件は,被告Y1工業に雇用されていた原告X1及び原告X2(以下「原告ら」という。)が,被告Y1工業から不当に解雇されたと主張して,被告Y1工業に対し,それぞれ雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と解雇後の賃金の支払を求めるとともに,原告X1が,平成15年1月から同年3月までの賃金を不当に減額されたと主張して,その間の未払賃金の支払を求めた事案であり,乙事件は,原告X2が,労働災害により負傷したと主張して,被告Y1工業及び被告Y2重機(以下「被告ら」という。)に対し,安全配慮義務違反に基づき損害賠償を請求した事案である。
他方,丙事件は,被告Y1工業が,原告らの社会保険料本人負担分を立て替えて納付したと主張して,原告らに対し,求償権又は不当利得返還請求権に基づき立て替えた保険料相当額の支払を求めた事案である。
1 前提事実(争いがないか後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)
(1) 被告Y1工業は,電気溶接工事の施工等を業とする会社であり,被告Y2重機は,船舶,艦艇の設計,新造,改造,解体,販売並びに修理等を業とする会社である。
被告Y1工業は,被告Y2重機から電気溶接工事を請け負い,被告Y2重機の船舶艦艇鉄構事業本部横須賀造船工場(以下「本件工場」という。)において,電気溶接作業を行っている。
(2) 原告X1は,平成13年8月28日,原告X2は,同年12月3日,それぞれ被告Y1工業と雇用契約(以下,個別には「本件雇用契約」と,併せて「本件各雇用契約」という。)を締結し,本件工場においてそれぞれ溶接工として就労していた。
そして,本件各雇用契約においては,原告X1の賃金は時給2150円,原告X2の賃金は時給2000円とされ,いずれも毎月末日締め翌月10日支払とされていた。
なお,原告らはいずれもブラジル国籍を有するものであり,原告X1は原告X2の父である。
(3) 原告X2は,平成14年12月2日午後6時ころ,「従事していた溶接作業を一時中断してゴミの入ったバケツを提げて歩行していた際,床面のホースに躓いて転倒し,右腕を換気ファンに打ち付け,右肩を負傷した」とする旨の申告を被告Y1工業に対して行った(以下,原告X2の申告に係るこの事故を「本件事故」という。)。
原告X2は,同日,a整形外科において診察を受け,右肩関節脱臼と診断された(<証拠省略>)。
被告Y1工業は,同月27日,横須賀労働基準監督署(以下「労基署」という。)に対し,本件事故について,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく休業補償給付支給請求に係る手続を行い,原告X2は,同月3日から同月5日までは不支給となったものの,同月6日から平成16年9月30日まで,休業補償給付の支給を受けた(<証拠省略>)。
また。原告X2は,平成16年9月30日に症状が固定したものと判断され,後遺障害等級12級6号に認定されて,障害補償一時金等の支給を受けた(<証拠省略>)。
(4) 被告Y1工業は,原告X1に対し,平成15年1月分以降の賃金につき,それまでの時給2150円ではなく,時給1000円を前提とする計算に基づいて支払った。
(5) 原告X1は,このころ,全労協全国一般東京労働組合LUC分会(以下「LUC分会」という。)に加入し,LUC分会は,被告Y1工業に対し,平成15年2月15日付で団体交渉等を要求する旨の書面を送付した。
被告Y1工業は,LUC分会に対し,同月21日付で回答書を送付するとともに,原告X1に対し,同年3月3日発送の同年2月21日付の文書で,同年3月31日限りで雇用期間が満了し,原告X1との本件雇用契約が終了する旨の通知をした。
(6) LUC分会は,平成15年4月4日,被告Y1工業を相手方として,東京都地方労働委員会に対し,原告X1に関して不当労働行為救済命令の申立てを行ったが,原告X1が,同年5月ころ,LUC分会から神奈川シティユニオン(以下「シティユニオン」という。)に転籍することとなったため,同年6月24日,上記申立てを取り下げた。
シティユニオンは,被告Y1工業に対し,同年6月7日付で,原告ら両名についての「組合加入通知書・団体交渉要求書」を送付し,被告Y1工業との間において,同年7月3日,同年9月11日及び平成16年1月15日,それぞれ原告らに関して団体交渉を行ったが,被告Y1工業は,平成15年9月11日の団体交渉の席上において,原告X2との間の本件雇用契約も同年3月31日限りで雇用期間満了により終了している旨の表明をした。
(7) 被告Y1工業は,平成15年5月8日,横浜南社会保険事務所(以下「社保事務所」という。)による調査を受け,原告らを社会保険に加入させるように指導されたので,それぞれ本件各雇用契約締結日に遡って,原告らを健康保険及び厚生年金保険に加入させる手続をとった。そして,被告Y1工業は,同年6月30日,原告X1の社会保険料本人負担分100万9752円(健康保険料35万9127円,厚生年金保険料65万0625円),原告X2の社会保険料本人負担分69万2780円(健康保険料22万7800円,厚生年金保険料46万4980円)の各立替分を含む341万9210円を納付した。
被告Y1工業は,原告X2に対し,平成15年12月22日付(同月23日到達)のポルトガル語で記載した書面により上記立替金の支払を請求し,また,平成16年1月15日に行われたシティユニオンとの団体交渉の席上において,原告らに対し,上記立替金の支払を請求した。これを受けて,シティユニオンは,被告Y1工業に対し,同年2月14日付の文書で,原告らの社会保険料本人負担分は同年3月から月額1万円ずつ返済する旨を通知したが,その支払は全く行われていない。
2 争点及び当事者の主張
(1) 本件各雇用契約における期間の定めの有無
ア 被告Y1工業の主張
(ア) 被告Y1工業は,原告らを雇用する際,原告らに対し,被告Y2重機の要求する溶接技術を有する必要があること,被告Y2重機から請け負う業務量が多い期間に限って雇用すること,雇用期間は3か月とするが業務量に応じて3か月ごとの更新があり得ることを説明し,原告らがこれに同意したので,被告Y2重機の行う溶接技術のテストを受けさせた上で,それぞれ3か月の期間の定めのある臨時工として本件各雇用契約を締結したものである。
そして,被告Y1工業は,3か月ごとの自動更新の結果,原告X1の雇用期間が満了し,原告X2の雇用期間も近々に満了することとなる平成14年11月27日,原告らに対し,平成15年4月以降,被告Y1工業が被告Y2重機から請け負う電気溶接作業の業務量が減少するため,原告らの雇用期間をいずれも平成15年3月31日までとして以後の更新は行わない旨の説明をし,原告らからその旨の了承を得たので,雇用期間を同日までとして本件各雇用契約をそれぞれ更新した。
以上のとおりであり,被告Y1工業と原告らとの間の本件各雇用契約は,いずれも平成15年3月31日限りで雇用期間が満了し,終了している(以下「本件雇止め」という。)から,雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と同年4月1日以降の賃金の支払を求める原告らの請求はいずれも理由がない。
(イ) 仮に,原告らとの本件各雇用契約が期間の定めのないものであり,期間満了により終了していないとしても,原告らが労務を提供しなかったのは被告Y1工業の責に帰すべき事由によるものではないから,原告らに賃金請求権はなく,また,原告ら主張の賃金請求権は2年間の消滅時効により消滅するから,原告らが平成19年5月22日に請求を拡張した未払賃金請求のうち,原告X1については,当初の甲事件訴状において請求していない平成16年4月分から平成17年4月分(同年5月10日支払分)まで,原告X2については,平成16年10月分から平成17年4月分(同上)までの各賃金請求権は時効により消滅している。
さらに,原告らが未払賃金として請求し得るのは,雇用契約上確実に支払われたであろう賃金の合計額であるから,時間外労働による割増賃金等を含まないものであり,かつ,上記の請求期間中に原告らが他の職に就くなどして得た収入額は,被告Y1工業に対する労務の提供を免れたことにより得た利益として,被告Y1工業に償還されるべきである。
イ 原告らの主張
原告らは被告Y1工業から本件各雇用契約について期間の定めがある旨の説明を受けたことはなく,その旨の契約書等も一切ないから,本件各雇用契約は期間の定めのない契約である。また,原告らは,本件各雇用契約の終了に関する説明を受けたこともなく,被告Y1工業が雇用期間について説明したとする平成14年11月27日にも,業務量が減少するので休日が増える可能性があるとする説明を受けただけである。
したがって,原告らは,被告Y1工業により平成15年3月31日限りで解雇されたものというべきであるが,この解雇は,原告らが雇用保険及び社会保険に加入したいと強力に主張し,原告X1が労働組合に加入したことに対する報復として行われたものであって,正当な理由なく解雇権を濫用するものであり,かつ,原告X2については,業務上の負傷に基づき療養のために休業している間に行われたもので,労働基準法19条に違反するものであり,いずれも違法,無効である。
そして,原告X1の平均賃金は,上記1(4)の賃金減額を受ける前の平成14年10月から同年12月までの3か月間において月額50万8803円(後に50万7580円と訂正したが請求の減縮はしていない。)であり,原告X2の月収は35万7540円(休業補償給付基礎日額1万1918円×30日),年収は435万0070円(1万1918円×365日)である。
したがって,原告らは,被告Y1工業に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め,原告X1は,平成15年4月1日から平成16年3月31日までの賃金610万5636円(50万8803円×12月)及びこれに対する支払期限の後の日である平成16年5月9日(甲事件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,平成16年4月1日から平成19年4月30日までの賃金1882万5711円(50万8803円×37月)及びこれに対する支払期限の後の日である平成19年5月23日(請求拡張申立ての日の翌日)から支払済みまで同様の遅延損害金並びに平成19年6月10日から本判決確定まで毎月10日限り賃金50万8803円の支払,原告X2は,平成16年10月1日(本件事故による休業補償給付の受給終了日の翌日)から平成19年4月30日までの賃金1120万2920円(435万0070円×2年+35万7540円×7月)及びこれに対する支払期限の後の日である平成19年5月23日(請求拡張申立ての日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金並びに平成19年6月10日から本判決確定まで毎月10日限り賃金35万7540円の支払をそれぞれ求める。
(2) 原告X1についての賃金減額合意の有無
ア 被告Y1工業の主張
被告Y1工業は,原告X1を雇用する際,原告X1に対し,賃金は時給1000円であり,休日は被告Y2重機のカレンダーに従う旨の説明をしたところ,原告X1が,賃金額について,雇用保険及び社会保険には加入しないこととして当該保険料は控除しないこと,一定額の残業代を含めることを希望したので,他の従業員より高類になるものの,時給2150円とすることで合意した。
被告Y1工業は,平成14年12月27日,原告X1から,雇用保険及び社会保険への加入を希望する旨の申入れを受けたので,雇用保険及び社会保険に加入するのであれば時給は1000円となる旨の説明をし,これに同意しなかった原告X1に対し,以後,被告Y1工業において就労するのであれば,時給1000円として扱うと告げた。そして,原告X1は,平成15年1月9日以降,被告Y1工業に出勤してきたので,同年1月分以降の賃金は時給1000円により支給し,雇用保険及び社会保険に加入することとしたが,原告X1が社会保険への加入手続に必要な外国人登録証の提出を遅滞したため,その加入手続は遅れることとなった。
以上のとおりであり,被告Y1工業は,原告X1との間で,平成15年1月以降の賃金につき,雇用保険及び社会保険に加入することと引換えに時給を1000円とすることに合意したものであり,原告X1に対する未払賃金債務はない。
イ 原告X1の主張
被告Y1工業は,原告X1に対し,平成15年1月から同年3月までの賃金につき時給2150円で支払うべきところ,上記1(4)のとおり,無断で時給1000円に減額して支払った。
被告Y1工業は,平成14年12月27日,時給1000円とすることで原告X1と合意したと主張するが,原告X1は,同日,社会保険に加入すると時給が250円減額になると告げられたのみであり,平成15年1月6日になって時給が1000円になると一方的に通告されたのであって,これに合意したことはない。なお,原告らは,日本に永住する予定でいたから,他の外国人労働者のように高額な手取り賃金を望んでいたわけではなく,被告Y1工業に雇用された当初から,将来における失業や疾病に備え,老後の生活不安等を和らげるため,社会保険への加入を希望していたのであって,平成14年春ころから被告Y1工業にその希望を伝えており,社会保険への加入と引換えに賃金減額を受け容れるような事情はなかったし,雇用保険及び社会保険に加入することのみを理由として時給が2150円から1000円にまで大幅に減額されることには合理性がない。
原告X1が時給2150円に基づいて本来支払われるべき賃金額は,平成15年1月が23万9183円,同年2月が9万9435円,同年3月が27万5200円であり,実際に支払われた賃金額は,同年1月が11万5250円,同年2月が4万6250円,同年3月が12万6800円であるから,合計32万4318円が未払となっている(後に,原告X1が本来支払われるべき賃金額につき,同年1月は23万9188円,同年2月は10万3738円であり,未払額は合計32万8626円であると訂正したが,請求拡張はしていない。)。
よって,原告X1は,被告Y1工業に対し,未払賃金32万4318円及びこれに対する支払期限の後の日である平成16年5月9日(甲事件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(3) 原告X2の労働災害の有無
ア 原告X2の主張
(ア) 原告X2は,平成14年12月2日午後6時ころ,本件工場内のSK1C×2Cブロック(船体の区分された構成部分であるブロックのうち機関部分のブロック。以下「本件ブロック」という。)において,溶接作業を一時中断し,溶接作業の際に生じたゴミを捨てようとして,ゴミの入ったバケツ2杯を両手に提げて本件ブロックの甲板上を歩行中,溶接作業のためのエアホース,ケーブル等に左足をとられ,これを抜こうとした際に右足が本件ブロック上の開口部に落ち込んだため,顔面を両腕でかばう姿勢で転倒し,その場に置いてあった換気ファンに右肘を打ち付けて,右肩関節脱臼の傷害を負った(本件事故)。
(イ) 本件事故は,原告X2が,被告Y2重機の本件工場内において,被告らの作業指揮に基づき業務に従事していた際に発生したものであって,被告らと原告X2との間には指揮命令監督関係がある。即ち,被告Y2重機は,特定元方事業者として関係請負人の労働者に対しても労働災害防止措置を講ずべき責任を負う(労働安金衛生法30条)ものであって,朝礼などの際,原告X2等の被告Y1工業の従業員に対し,直接,作業に関する指揮を行っていたものであり,被告Y2重機が自ら入門時教育や安全パトロールを行っていると主張しているとおり,被告Y2重機の従業員のみならず,原告X2ら下請業者の従業員の安全管理も行っていたのであるから,原告X2と被告Y2重機との間には,雇用主である被告Y1工業との間と同様に,実質的な指揮命令監督関係がある。
したがって,被告らは,原告X2に対し,作業場に安全な通路を保持し(労働安全衛生規則540条),作業場の床面を安全な状態に保持し(同規則544条),障害物等を漫然と放置してはならない義務,開口部にはスタンションと呼ばれる防護柵を施して警告措置をとり,作業員に対して注意を促す表示を行うべき義務,安全のための監視,監督,指導,教育等を行うべき義務等の安全配慮義務を負っているところ,被告らはこれに違反し,エアホース,ケーブル等の障害物を床面に乱雑に放置し,開口部に墜落防止措置などをとらず,障害物等に対する注意を喚起する表示等も行わず,転倒防止のための監視,監督,指導や安全上の指示,教育も行わなかったものである。
よって,被告らは,原告X2に対し,安全配慮義務違反に基づき,その損害を賠償すべき責任を負う。
(ウ) 原告X2は,本件事故により右反復性肩関節脱臼の後遺障害を負い,平成16年9月30日,労基署により後遺障害等級12級に認定された。
原告X2は,平成14年12月6日から平成16年9月30日まで労災保険法に基づく休業補償給付を受けたが,平成14年12月3日から同月5日までの3日分の補償はなく,給付額は平均賃金の6割であるから,原告X2は319万8965円(休業補償給付基礎日額1万1891円×(3日+197日×0.4)+1万1918円×467日×0.4)の休業損害を被った(後に320万1174円(1万1918円×(3日+664日×0.4))と訂正したが請求拡張はしていない。)。
また,原告X2は,上記後遺障害により逸失利益として831万7945円(435万0070円×16.711(30歳から67歳までのライプニッツ係数)×0.14-障害補償給付受給額185万9208円)の損害を被った。
さらに,原告X2の通院慰謝料は176万円,後遺障害慰謝料は290万円が相当である。
(エ) よって,原告X2は,被告らに対し,安全配慮義務違反に基づく損害賠償として上記(ウ)の合計1617万6910円及びこれに対する乙事件訴状送達の日の翌日である,被告Y1工業は平成17年2月6日から,被告Y2重機は同月8日から,それぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
イ 被告Y1工業の主張
(ア) 原告X2の主張する本件事故の状況は客観的状況と整合せず,事故態様に関する原告X2の主張も変遷しているから,本件事故は事実ではない。原告X2は,労働災害とは全く別の理由によって脱臼したにも拘わらず,その責任を被告Y1工業に負わせるため,虚偽の主張を行っているものである。
即ち,原告X2は,当日の平成14年12月2日,被告Y1工業の専務取締役であったA(現代表取締役。以下「A専務」という。)に対し,本件ブロックの甲板床面のエアホースに躓いて転倒したと報告し,開口部に落ち込んだとは申告していなかったが,平成16年10月に至って足の裏と同じくらいの大きさのパイプを通す開口部に落ち込んで転倒したと主張した。しかし,平成14年12月2日当時,パイプを通す開口部は全て塞がっていたことが明らかになると,原告X2は,直径約50センチメートルの開口部に落ち込んだと主張を変え,エアホースにとられた足についても,当初右足と主張していたのを左足に変えるなど,主張を変遷させている。また,原告X2は,本件ブロックの船底(タンク内)で溶接作業を行っていたと主張するが,当時,タンク内での溶接作業は終了しており,甲板上で作業を行っていたものである。その他,原告X2は,原告X1と他の臨時工が本件ブロックの甲板上におり,本件事故後に被告Y1工業の作業責任者であるC(以下「C」という。)が原告X2を事務所に連れて行ったなどと主張するが,事実に反するものである。さらに,原告X2のゴミ箱までの歩行経路・直径約50センチメートルの開口部に落ち込んだにも拘わらず外傷がないことなど,原告X2の主張,陳述は不自然であり,本件事故はなかったというべきである。
(イ) 仮に,本件事故があったとしても,被告Y1工業には安全配慮義務違反はない。
本件事故があったとされる本件ブロックは,作業の対象物あるいは製品の一部であって作業場ではなく,労働安全衛生規則上,これに通路を設ける義務はないから,同規則上の義務が被告Y1工業の負うべき安全配慮義務の内容になるものではない。そして,原告X2は,本件訴訟の口頭弁論終結直前まで,労働安全衛生規則540条,544条の他には,被告Y1工業の負うべき安全配慮義務の内容を具体的に主張しなかった。
もっとも,被告Y1工業は,原告X2に対し,新規雇用時に安全上の注意事項等についての教育を行った上,ミーティングや各種パトロールを行い,従業員に対し,移動時には足下に注意すること,甲板上の開口部は板で塞ぐこと,エアホース等をまとめておくこと,作業終了後は片付けること,整理整頓を励行すること等を日常的に指導,教育し,安全配慮義務を尽くしていた。
なお,本件ブロックの開口部については,構造上,スタンションによる墜落防止措置を講じ得ないので,被告Y1工業は,開口部を足場板で塞いでいた。
(ウ) 仮に,被告Y1工業に責任があるとしても,被告Y1工業は,上記のとおり,安全教育等を徹底していたから,原告X2が,ゴミの入ったバケツを両手に提げ,敢えてエアホース類の束ねてあるところを通行し,これに躓いたのであれば,原告X2の過失は重大であり,その過失割合は8割を下ることはない。
また,原告X2の主張するように労災保険法による休業補償給付に係る損益相殺を先に行うのではなく,損害額を算定し,上記過失相殺をした後に損益相殺を行うべきである。
ウ 被告Y2重機の主張
(ア) 被告Y2重機は,原告X2に対し,安全配慮義務を負うものではない。
被告Y2重機は,船舶艦艇の建造業務の大半を関係業者(以下「協力会社」という。)に請け負わせており,各協力会社が,その裁量に基づき,協力会社の従業員に対して作業指揮をしていたものであって,原告X2に対しても,被告Y1工業の作業責任者であるCが作業を指揮していたから,被告Y2重機が原告X2に対して安全配慮義務を負う理由はない。
なお,被告Y2重機は,溶接の不具合が多数発生するなど,製品の品質に問題を生じた場合,協力会社の作業責任者を集めて不定期にミーティングを行っていたが,これは,請負人である協力会社に対し,注文内容の周知徹底を図り,品質を確保するためのものに過ぎず,被告Y1工業の従業員に対し直接的又は間接的な指揮監督を行ったものではない。
(イ) 仮に,被告Y2重機が安全配慮義務を負う立場にあったとしても,被告Y2重機は,同義務を尽くしている。
即ち,被告Y2重機は,本件工場において,協力会社の従業員が新規に入構する際,入門時教育と称する安全教育を行っており,原告X2に対してもこれを行った。また,被告Y2重機は,毎月1回,被告Y2重機及び協力会社の従業員を集めて,安全衛生に関する朝礼を開き,安全訓話を行っているほか,安全パトロールを行って,作業状況,装備,環境等を確認し,災害防止を図っている。さらに,被告Y2重機は,協力会社をして始業時にミーティングを行わせ,必要事項の伝達や作業指揮を行わせるが,被告Y1工業についても,その作業責任者に対し,災害事例などを伝えるほか,ブロック内のエアホースやケーブル等を出来る限り一つにまとめ,開口部に墜落防止措置を行うように指導するなどし,これをミーティングの際に被告Y1工業の従業員に伝達させて,災害防止対策の周知徹底を図るようにしている。
(ウ) 仮に,被告Y2重機に責任があるとしても,被告Y2重機は,上記のとおり,安全教育等を徹底していたから,原告X2が,ゴミの入ったバケツを両手に提げ,敢えてエアホース類の束ねてあるところを通行し,これに躓いたのであれば,原告X2の過失は重大であり,その過失割合は9割を下ることはない。
第3当裁判所の判断
1 前提事実,証拠(<証拠省略>,証人D,原告X1本人,原告X2本人,被告Y1工業代表者A)と弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実を認めることができる。
(1) 本件工場における業務及び安全管理の態勢について
ア 被告Y2重機は,神奈川県横須賀市所在の本件工場において,船舶等の建造等を行っているが,その業務の大半を協力会社に請け負わせており,その協力会社の一つである被告Y1工業は,専ら本件工場において,船舶建造等における電気溶接作業,取付作業(仮付溶接による組立作業),仕上作業(グラインダーによる磨き作業,鋼板の歪みとり作業)を被告Y2重機から請け負っている。
イ 船舶の建造は,船体の区分された構成部分であるブロックを製作し,各ブロックを組み合わせて行われるところ,被告Y1工業は,上記の電気溶接作業等をブロック単位で請け負っており,その作業については,被告Y1工業の裁量で自らの従業員を指揮して行っていた。そして,被告Y1工業は,原告X2に関する本件事故当時も,本件ブロックの全ての溶接作業,仕上作業を請け負っていた。
他方,被告Y2重機は,被告Y1工業らの協力会社に対し,品質,仕様,納期等についての指示をしており,溶接の不具合が多数発生するなど,製品の品質に問題を生じた場合には,協力会社に対して注文内容の周知徹底を図り,品質を確保するため,協力会社の作業責任者を集めて不定期にミーティングを行っていた。
被告Y2重機は,被告Y1工業との関係においても,被告Y1工業の作業責任者であるC等に対し,品質や仕様についての指示を行っていたが,平成13年10月ころ,発注主の要求する高い溶接水準に適合しない不具合が多発した際,例外的に,被告Y1工業の全従業員を集めて,求められている溶接水準の周知徹底を図ったことがあった。
ウ 被告Y2重機は,労使の代表者を委員として設置されている中央安全衛生委員会など複数の部署において,本件工場構内の安全パトロールを行い,作業行動,装備,環境等を確認して,整理整頓を行うことなどを指導している。また,協力会社らは,相互扶助,情報の共有,対外折衝,研修の実施等を行うために協同組合を組織しているが,同協同組合においても,安全衛生の保持のため,安全委員会を設けてパトロール等を行っている。なお,被告Y1工業においては,当時は代表取締役社長であったE(以下「E社長」という。)やA専務が,独自に安全パトロールを行っていた。
次に,被告Y2重機は,協力会社の従業員を含め,本件工場に新規に入構する者に対し,保護具の装着や整理整頓等の励行等を内容とする「所内新規入門者教育資料」を用い,約30分の時間をかけて,安全に関する項目を含む入門時教育を行っている。また,上記協同組合も,構内での整理整頓に努めること,高所作業では必ず子綱を使用すること等,安全衛生規定を遵守し,安全ルールを必ず守ること等を内容とする「新入協力会社社員教育資料」を作成しており,協力会社らは,従業員を新規に雇い入れる時には,この資料を用いて30分以上の時間をかけた教育を行っている。
さらに,被告Y2重機は,毎月1回,被告Y2重機及び協力会社の従業員を集めて,安全衛生に関する朝礼を開き,安全訓話を行っており,また,被告Y1工業は,毎朝,ミーティングを開催して,従業員に対し,作業指示を行い,安全衛生上の連絡事項を通達するほか,危険予知ミーティングを行って,当日に予定されている作業に伴う危険の内容,その危険に基づく災害を防止するための注意事項を確認し,その注意事項を従業員全員で唱和するなどしている。
そして,被告らは,以上のようなパトロールやミーティングの際のみならず,日常的に,従業員らに対し,移動時には足下に注意すること,甲板上の開口部は板で塞ぐこと,エアホース等をまとめておくこと,作業終了後は片付けること,整理整頓を励行すること等を指導,教育していた。
なお,ブロック内で溶接作業を行う際には,エアホースやケーブル等を引き込まなければならず,これらがブロック内の床面を這う状況となることは避けられない。
(2) 本件各雇用契約締結の経緯について
ア 造船業界は好不況の波が大きく,これに応じて業務量が変動するため,被告Y1工業は,必要最小限の人員のみを雇用し,業務量が増大した場合には,作業の一部を下請業者に請け負わせ,さらに,必要に応じて臨時工を直接雇用して,業務量の変動に備えていた。
そして,被告Y1工業は,臨時工については,時給計算で賃金を支給し,本件工場に入構する際に必要な門鑑(身分証明書)については,有効期間3年の門鑑を用いている正社員とは異なり,有効期間3か月の臨時門鑑を用いていた。
イ 被告Y2重機は,平成13年8月ころから,バラ積み船の建造作業と並行して冷蔵・冷凍船の機能も兼ねる特殊な自動車運搬船の建造を受注し,さらに砕氷機能を有する特殊タンカー2隻の建造も並行して受注することとなった上,上記自動車運搬船及びタンカーが特殊な構造の船舶であったため,通常より多くの作業量と作業時間を要することとなった。
そこで,被告Y2重機や被告Y1工業は,平成13年8月ころから,それぞれ臨時工を雇い,従業員に残業を命じて作業に当たらせていたが,それでも上記各船舶の建造工程は大幅に遅れ,上記特殊タンカーの2隻目は,予定より3か月近く遅れた平成14年12月に引渡しとなった。
そして,被告Y2重機は,平成15年初めころになって,この工程の遅れを回復した。
ウ 他方,原告らは,原告X1が平成2年9月29日,原告X2が平成3年4月25日にそれぞれ来日した後,概ね同じ職場で働いており,当初はアルミ関係の会社で塗装作業に従事し,以後,千葉県市原市所在のb造船,埼玉県所在のc製作所,広島県所在のd造船等で溶接作業に従事していたが,いずれも時給制で稼動しており,勤務先の業務量が減少して賃金が減額になったり,より良い条件の勤務先が見付かったりした場合は,その都度,転職を繰り返していた。特に,原告X1は,金沢市,愛知県豊橋市,埼玉県所沢市などで,業務繁忙期のみに期間を定めて雇用され,全国的に賃金の高い職場を渡り歩くスポットと呼ばれる臨時工として稼動し,短期間に転職を繰り返していたこともあった。
なお,原告X1は,被告Y1工業で稼働中,ブラジルに3軒目の家を購入するので賃金を前借りしたいと被告Y1工業に要請したことがあり,61歳を超えればブラジルに帰国する予定にしている。
また,原告X2は,日本語による読み書きは殆どできないが,日常会話については相当程度の日本語を理解することが可能な能力を有しており,原告X1も,原告X2には劣るものの,溶接工として稼動するのに支障のない程度の日本語会話能力を有している。
エ 原告X1は,平成13年夏ころ,広島県所在のd造船で溶接工として稼動していたところ,被告Y1工業が,上記イのとおり,業務量の増大に伴ってスポットと呼ばれる臨時工を募集していることを知り,被告Y1工業に就労希望を伝えた。
そこで,被告Y1工業のE社長とA専務は,原告X1と面接を行い,雇用条件として,賃金は時給1000円であること,勤務日は被告Y2重機のカレンダーに準ずること,被告Y2重機の要求する溶接技術を有する必要があること,被告Y2重機から請け負う業務量が多い期間に限って雇用すること,雇用期間は3か月とするが業務量に応じて3か月ごとに自動更新となることを説明した。
これに対し,原告X1は,時給2300円を希望し,E社長から社会保険への加入や有給休暇の付与を考慮すると時給2300円には応じられないと告げられると,社会保険への加入や有給休暇の付与,残業代の支給は不要なので,その代わりに時給を高くして欲しいと希望した。
そこで,E社長は,原告X1の希望に沿うと下請と同様の扱いになると説明したところ,これを原告X1が了解したので,賃金については被告Y1工業の当時の下請業者への支払単価である時給2000円を提示した。これを受けて,原告X1が時給2150円を求めたので,E社長は,被告Y1工業としてはかなり高額であるものの,業務量の増大が予想され人員が必要だったため,これを受け容れて時給2150円とすることに合意し,被告Y2重機の実施する溶接技術のテストを経て,平成13年8月28日,原告X1と雇用期間を3か月とする本件雇用契約を締結した。
なお,被告Y1工業においては,従前,従業員を雇用する際に契約書を作成したことがなく,その扱いで特段問題となったこともなかったので,原告X1との本件雇用契約においても契約書は作成しなかった。
また,被告Y1工業は,外国人を雇用するのは原告X1が初めてであったため,言葉の問題で不安を抱いていたが,原告X1には賃金に関する交渉も可能な程度の日本語の能力があったので,以後の作業指示や安全教育等にも問題がないと判断した。
オ 原告X2は,当時就労していた上記d造船の業務量が減少して賃金が減額となった上,原告X1から被告Y1工業は良い職場だと教えられたため,被告Y1工業での就労を希望し,原告X1を介して,被告Y1工業に就労希望を伝えた。
被告Y1工業は,上記のとおり,繁忙期で人員を必要としていたので,原告X2と面談し,時給が1000円であることなど,原告X1に対して行ったのと同様の説明をしたが,原告X2が高額の賃金を希望し,原告X1と同じく下請と同様の扱いになることを了解したので,時給を2000円とすることに合意し,被告Y2重機の実施する溶接技術のテストを経て,平成13年12月3日,原告X2と雇用期間を3か月とする本件雇用契約を締結した。なお,原告X2との本件雇用契約についても,契約書は作成されなかった。
また,被告らは,原告X2に対し,被告Y1工業が同年11月19日午前9時から約30分,被告Y2重機が同年12月3日午前9時から約30分,それぞれ上記(1)ウ記載の入門時教育を行った。
カ 上記の経緯により,原告らは,被告Y1工業との間で,雇用期間を3か月ずつとする本件各雇用契約を締結し,本件工場に入構するための有効期間を3か月とする臨時門鑑の交付を得て,本件工場において溶接工として稼働することとなった。
(3) 本件雇止めに関する合意について
ア 被告Y1工業は,上記(2)イのとおり,作業量の増大に伴う人員の必要性が継続していたので,原告らとの本件各雇用契約を更新していたが,平成15年3月までには工程の遅延を回復する見通しとなり,同年4月以降は被告Y2重機から請け負う電気溶接作業が通常の業務量にまで減少する見込みとなったので,臨時工(スポット)を雇用する必要性がなくなったため,臨時工の雇用期間を年度末で区切りのよい平成15年3月31日までとして,その後の更新はしないこととし,平成14年11月ころから,原告らを含む臨時工らに対し,順次,その旨を伝えた。
イ 被告Y1工業は,原告らに対しては,3か月ごとの自動更新の結果,原告X1の雇用期間が満了し,原告X2の雇用期間も近々に満了することとなる平成14年11月27日,業務量が減少するので平成15年3月31日限りで本件各雇用契約を終了させる旨の説明をして,本件各雇用契約につき最後の更新を申し入れた。
この際,被告Y1工業は,被告Y2重機の協力会社である有限会社e工業所が,シティユニオンに加入した南米出身の外国人スポットから,雇止めの撤回や残業代の支払等を求める団体交渉を申し入れられたことを伝え聞いていたので,外国人スポットに対しては気を配る必要があると考えており,親子であるE社長とA専務だけで告知するのではなく,作業責任者のCにも立ち会わせることとし,また,何らかの書面を残しておく必要もあると考え,雇い入れ通知書を作成することとした。
さらに,A専務は,雇用条件の見直しも必要と考え,時給を1000円として,社会保険へも加入し,有給休暇等も付与するという,最初に原告らに提示した雇用条件への変更を原告らに打診したが,原告らがその条件では退職する旨の意向を示したので,従前どおりの雇用条件で最後の更新を行うこととし,最初はE社長が,途中からはA専務が,更新後の雇用契約の内容について,平成15年3月31日で雇止めとすることを含めて原告らに説明し,その内容で本件各雇用契約を更新することについての原告らの承諾を得た。そして,A専務は,E社長と代わって説明を始めた際,E社長が雇い入れ通知書(乙1,2号証)に黙々と記入し始めたのを見て不安を感じ,途中でE社長に記載を止めさせて,改めて雇用条件を説明した上で,上記通知書の残余の部分にA専務自身が記入しながら,その内容についての原告らの確認を得た。このため,上記通知書には二つの異なる筆跡がある。
(4) 本件事故について
ア 原告X2は,平成14年10月1日,雨に濡れていた鉄梯子で足を滑らせて踏み外し,右腕のみで身体を支えることとなって,右肩関節を亜脱臼したが,この際は自力で整復した。
なお,原告X2が,上記のとおり足を踏み外したのは,片手に物を持ちながら鉄梯子を降りていた際のことであり,このような昇降は危険であるから行わないようにと注意されていたところである。
イ 原告X2は,同年12月2日午後6時ころ,被告Y1工業のA専務に対し,「従事していた溶接作業を一時中断し,溶接作業で生じたゴミを捨てるため,ゴミの入ったバケツを提げて本件ブロックの甲板上を歩行していた際,床面のホースに躓いて転倒し,右腕を換気ファンに打ち付け,右肩を負傷した」とする旨の本件事故に関する申告をした。
そこで,A専務が,同日,原告X2をa整形外科に受診させたところ,原告X2は,右肩関節脱臼と診断され,関節脱臼非観血的整復術を受けた。なお,その後,A専務が着替えをしている原告X2の状況を見たところ,擦過傷や出血などの脱臼以外の負傷があることは窺われなかった。
そして,原告X2は,翌日から休業した。
ウ 原告X2は,a整形外科において約1週間で職務に復帰できると説明されたが,これに不信を感じ,同月4日,f診療所でレントゲン撮影などに基づく診察を受け,右肩関節脱臼,肋骨骨折疑いと診断された。そして,原告X2は,同診療所で習慣性となることが心配であると訴え,g市立大学医学部附属市民総合医療センター(以下「市大センター病院」という。)を紹介され,同日,市大センター病院に受診した。市大センター病院のF医師は,体幹固定にて約1か月の経過観察の上,脱臼を繰り返すようであれば手術を含めて検討する旨の方針を立て,その後,原告X2が亜脱臼を繰り返したため,右肩関節反復性脱臼との診断により,脱臼再発防止のための手術を行うこととした。
原告X2は,平成15年2月12日,市大センター病院で右肩関節形成術を受け,同年4月1日,h市立i病院を紹介されて転院し,リハビリテーションを施行され,同年7月14日,j町診療所に転院した後,平成16年1月8日,再び上記i病院に受診し,同年2月9日,同病院で抜釘術を受けた。そして,原告X2は,同年9月30日に症状が固定したものと診断された。
なお,原告X2が受診した上記各医療機関の診療録には,上記f診療所における肋骨骨折疑いの外には,右肩関節脱臼以外の負傷に関する記載は全くない。
エ 被告Y1工業のA専務は,平成14年12月9日,原告X2から労災保険法に基づく休業補償給付の支給申請を求められ,同日,本件事故に疑念を抱きながらも原告X2の救済を目的として事業主証明をするなど,上記支給申請に係る手続をとり,同月27日,労基署に支給請求書を提出した。なお,この際,A専務は,原告X2からの聴取に基づき,上記請求書の「災害の原因及び発生状況」欄に,「片手にゴミを持って移動しようとした際に,床面のホースにつまずいて転倒した。その時に右腕が機材にひっかかって肩部を受傷した。」と記載した。
原告X2は,同月3日から同月5日までは不支給となったものの,同月6日から平成15年6月20日までは給付基礎日額1万1891円に基づき,同月21日から平成16年9月30日までは同日額1万1918円に基づき,それぞれ休業補償給付の支給を受けた。
また,原告X2は,後遺障害等級12級6号に認定されて,同年12月,障害補償一時金として185万9208円,特別支給金として20万円の支給を受けた。
オ ところで,被告Y1工業は,平成14年11月18日から同月25日まで,本件ブロックの甲板下の船底(タンク内)において,船底外板の継手(継ぎ目)裏側の溶接,隔壁と船底外板の溶接の作業を行い,同月25日までに船底(タンク内)での作業を終え,同月26日から同年12月3日まで,本件ブロックの甲板上で,甲板と側外板ブロック,隔壁ブロック,それぞれのブロック同士の継手の溶接作業を行った。なお,本件ブロック内部のパイプ等の艤装品の取付は同年11月7日ころまでには終えていた。
また,本件事故があったとされる同年12月2日当時,本件ブロックの甲板上には,船底(タンク内)に通ずるいくつかの開口部があったが,これには直径50センチメートルの円形のものと横40センチメートル縦60センチメートルの楕円形のものがあった。
さらに,当時,本件ブロックの甲板上には,溶接作業に伴って生ずるゴミを捨てるためのゴミ箱と,船底(タンク内)で溶接作業等を行う際に発生する煙などを換気するため,通常は開口部に設置して用いる換気ファンが置いてあった。
なお,被告Y2重機においては,開口部の墜落防止対策として,高さが1.5メートル以上で開口部の直径が30センチメートル以下の場合は,原則としてスタンションと呼ばれる防護柵2本とワイヤー2条による対策をとり,場合によっては敷板,足場板によることも可能であるとしており,また,開口部の直径が30センチメートル以上の場合は,スタンション3本とワイヤー2条により対策をとることとされていたが,本件ブロックの開口部については,スタンションを立てることが物理的に困難であったので,足場板を置いて墜落防止対策としていた。
(5) 原告X1の賃金減額,本件雇止め及びその後の経緯について
ア 被告Y1工業は,同年12月12日ころ,他の協力会社とともに,被告Y2重機から請負代金額の引下げを通告されたので,従業員,臨時工(スポット),下請業者等に対し,賃金減額及び請負単価の引下げを要請した。
この際,原告X2は本件事故を理由として休職中だったため,被告Y1工業のA専務は,同月27日,原告X1に対してのみ,時給を150円減額して2000円にするように要請したが,原告X1から,減額の条件として社会保険への加入と有給休暇の付与を求められたので,その条件であれば時給は1000円となる旨の説明をした。しかし,原告X1は,時給1000円には応じられないとし,翌年に出勤しなければ辞めたと理解して欲しいと述べたので,A専務は,出勤してきた場合には,時給を1000円とする旨を伝えた。
イ 原告X1は,平成15年1月9日から被告Y1工業に出勤し,同月には13日出勤して9日欠勤し,100時間の所定時間内労働と9時間の時間外労働に従事して,賃金11万5250円の支払を受け,同年2月には5日出勤して15日欠勤し,40時間の所定時間内労働と5時間の時間外労働に従事して,賃金4万6250円の支払を受けた。
また,原告X1は,同年3月6日,同月31日まで有給休暇を取得する旨の書面を提出し,有給休暇取得の申出は前日までに行うべきものとする被告Y1工業の就業規則に従い,被告Y1工業によって同月7日からの有給休暇の取得を認められたので,結局,同月には16日の有給休暇を取得して4日欠勤したこととなり,賃金12万8000円の支払を受けた。
そして,原告X1に対して支払われた同年1月分以降の賃金については,それまでの時給2150円ではなく時給1000円で計算されていた。
ウ ところで,被告Y1工業は,同年1月11日付の文書で,LUC分会から,原告X1が同組合に加入した旨の通知を受け,原告X1について,時間外労働に対する割増賃金を支払うこと,雇用契約時に遡って健康保険,厚生年金,雇用保険に加入させること等を要求された。
そこで,被告Y1工業は,同月23日付の回答書をLUC分会に送付し,その中で,原告X1に対しては,平成14年11月27日,雇用期間が平成15年3月31日で満了することを通告してある旨を記載した。
さらに,被告Y1工業は,LUC分会から同年2月15日付で団体交渉を求める旨の書面の送付を受けたので,LUC分会に対し,同月21日付で回答書を送付するとともに,原告X1に対し,同年3月3日発送の同年2月21日付の文書で,平成14年11月27日に告知したとおり,平成15年3月31日をもって雇用期間が満了するが,同年4月から受注量が減少し,原告X1に無断欠勤が多いため,本件雇用契約の更新はしない旨の通知をした。
なお,被告Y1工業は,労働災害による休業期間中は雇用契約を打ち切ってはならないと理解していたため,原告X2に対しては,雇止めの通知をしなかった。
エ 被告Y1工業は,原告らにつき,社会保険等に加入させることや時間外割増賃金を支払うことを求めるLUC分会からの要求に従い,同年3月ころ,原告らを本件各雇用契約の締結日に遡って雇用保険に加入させたが,社会保険については,原告らが外国人登録証明書を提出しなかったので加入手続をとることができなかった。
また,被告Y1工業は,同月4日ころ,原告X1に対し,平成13年8月から平成15年1月までの休日勤務及び時間外勤務に対する割増賃金として37万4448円を同人名義の預金口座に振り込んで支払ったが,同年3月12日,労基署から割増賃金の不払について是正勧告を受けたので,同月18日,是正勧告額と上記支払額の差額1万2625円を同様に送金して支払った。
さらに,被告Y1工業は,原告X2について,同年10月27日,労基署から割増賃金の不払について是正勧告を受けたので,同年11月27日,是正勧告に従い15万6800円を原告X2に送金して支払った。
オ LUC分会は,同年4月4日,被告Y1工業を相手方として,東京都地方労働委員会に対し,原告X1に関して不当労働行為救済命令の申立てを行ったが,原告X1が,同年5月ころ,LUC分会からシティユニオンに転籍することとなったため,同年6月24日,上記申立てを取り下げた。
原告X2は同年5月10日,原告X1は同月15日,それぞれシティユニオンに加入し,シティユニオンは,被告Y1工業に対し,同年6月7日付で,原告ら両名についての「組合加入通知書・団体交渉要求書」を送付し,被告Y1工業との間において,同年7月3日,同年9月11日及び平成16年1月15日,それぞれ原告らに関して団体交渉を行った。なお,被告Y1工業が,平成15年6月16日付でシティユニオンに送付した回答書には,原告X2について,以後,法定の有給休暇を付与する旨の記載がある。
そして,被告Y1工業は,平成15年6月ころ,弁護士から労働災害による休業期間中であっても雇用期間満了による雇止めは禁止されないとの助言を受け,同年7月3日のシティユニオンとの団体交渉において,臨時工(スポット)との雇用契約は,同年3月31日までに全て期間満了により終了したと述べ,同年9月11日の団体交渉の席上においても,原告X2との本件雇用契約は同年3月31日限りで期間満了により終了している旨の表明をした。
カ 被告Y1工業は,同年4月15日,社保事務所による調査を受け,同年5月8日には,原告らとともに来訪した同事務所の担当官から原告らを社会保険に加入させるように指導されたので,それぞれ本件各雇用契約締結日に遡って健康保険及び厚生年金保険に加入させる手続をとり,同年6月4日付で被保険者資格取得確認通知を受けた。そして,被告Y1工業は,同年6月30日,原告X1の社会保険料本人負担分100万9752円(健康保険料35万9127円,厚生年金保険料65万0625円),原告X2の社会保険料本人負担分69万2780円(健康保険料22万7800円,厚生年金保険料46万4980円)の各立替分を含む341万9210円を納付した。
被告Y1工業は,原告X2に対し,平成15年12月22日付(同月23日到達)のポルトガル語で記載した書面により上記立替金の支払を請求し,また,平成16年1月15日に行われたシティユニオンとの団体交渉の席上において,原告らに対し,上記立替金の支払を請求した。これを受けて,シティユニオンは,被告Y1工業に対し,同年2月14日付の文書で,原告らの社会保険料本人負担分は同年3月から月額1万円ずつ返済する旨を通知したが,その支払は全く行われていない。
なお,被告Y1工業は,社保事務所による調査に際し,原告X1とは請負契約関係であると説明するため,同事務所に対し,原告X1に関する平成14年11月27日付の雇い入れ通知書(甲15号証)を送付したが,これを作成したA専務は,原告らについては下請と同様の扱いであると認識していたので,正確な法的知識がないまま,平成14年11月27日に作成した雇い入れ通知書(乙1号証)において従事すべき業務内容を「ブロック溶接職」としていたのとは異なり,「ブロック組立溶接個人請負」と記載し,定年制につき「臨時個人請負のため」として「無」を選択し,社会保険の加入状況につき「個人請負のため無」と記載したが,先に作成していた雇い入れ通知書(乙1号証)と同じ内容を記載したものと認識していた。
2 争点(1)(本件各雇用契約における期間の定めの有無)について
(1) 上記認定によれば,被告Y1工業と原告らとの間の本件各雇用契約は,3か月の期間の定めのある契約であり,それぞれ数度にわたって更新された後,平成14年11月27日,雇用期間を若干長くした上,平成15年3月31日限りで新たな更新は行わないとする合意のもとで最後の更新がされたもの,即ち本件雇止めの合意があったものというべきである。
したがって,被告Y1工業と原告らとの間の本件各雇用契約は,いずれも平成15年3月31日の経過により,雇用期間が満了して終了しているものといわざるを得ない。
(2) 原告らは,有期雇用契約であったとすれば契約書を作成するのが常識であるのに契約書はなく,また,乙1,2号証の雇い入れ通知書は,原告らの面前で内容を確認しながら記載したものであれば2通存在することはあり得ないのに,原告X1について別途甲15号証が存在するから,捏造文書であり,さらに,乙1,2号証は,原告らの署名も捺印もないものであって,原告らに交付されたものでもないから,契約した事実を裏付ける書面としては何ら意味がなく,結局,本件各雇用契約が期間の定めのあるものであったことを示す客観的な書面などはないから,本件各雇用契約は期間の定めのないものであったと主張し,原告らの供述中には,本件各雇用契約を締結する際,被告Y1工業から期間の定めがある旨の説明を受けたことはなく,平成14年11月27日に本件各雇用契約を平成15年3月31日限り雇用期間満了により終了させる旨の説明も受けたことがないとする原告らの主張に沿う部分がある。
ア しかしながら,前記認定によれば,被告Y1工業は,従前,契約書を作成することなく雇用契約を締結してきたものの,従業員との間で問題となることがなかったのであるから,被告Y1工業が契約書を作成するという意識を欠いたまま口頭により本件各雇用契約を締結したとしても,あながち不自然であるとまではいえないところである。
また,前記認定によれば,溶接工の中には,業務繁忙期のみに期間を定めて雇用され,全国的に賃金の高い職場を渡り歩くスポットと呼ばれる職工が一定数存在しているのであるから,このような職工との雇用契約においては,有期雇用契約であっても契約書を作成しない場合があるものと推認され,前記認定のとおり,原告X1にはスポットとしての稼動経験があることにも照らすと,本件各雇用契約において契約書が作成されていないからといって,有期雇用契約ではないとはいえないところである。
そして,前記認定によれば,被告Y1工業は,業務量の一時的な増大に対応するため,臨時工を募集していたのであるから,本件各雇用契約を締結する際,被告Y1工業から有期雇用である旨の説明を受けたことはないとする原告らの供述部分は,詳細で具体的な反対趣旨の乙13号証(A専務の陳述書)及びA専務の供述に照らし,採用できない。
イ 次に,前記認定のとおり,原告X1に関する雇い入れ通知書は2通(甲15号証と乙1号証)あり,その記載内容の表現には異なるところがあるが,このうち甲15号証は,被告Y1工業が社保事務所による調査を受けた際に,A専務が,正確な法的知識がないまま,乙1号証と同一内容であると認識して作成したものであるから,乙1,2号証が捏造文書であるとする原告らの主張は採用できない。
むしろ,前記認定(1(5)ウないしカ)の経緯に照らすと,被告Y1工業は甲15号証が原告らの手に渡ることを容易に推測し得たというべきであるから,被告Y1工業が雇い入れ通知書を捏造しようとしたのであれば,甲15号証のほかに,二つの異なる筆跡で乙1,2号証を作成する理由はなく,甲15号証と同内容の原告X2に関する雇い入れ通知書を作成すれば足りるから,乙1,2号証が存在することは,前記認定のとおり,これらが原告らの面前で,その内容を確認しながら作成されたものであることを示すものといい得るところである。
なお,前記認定によれば,乙1,2号証は,A専務が他の協力会社で紛争があることを知って,契約内容を明確にする趣旨で作成したものというべきであるから,これに原告らの署名・捺印がなく,原告らに交付もされていないのは一般的には不自然の感を免れないところであるが,前記のとおり,被告Y1工業は,雇用関係について契約書を作成するという意識を欠いていたものであって,法的文書の取扱いに不慣れであったことが推認されるところであり,また,前記認定によれば,原告らは,日本語による日常会話については相当程度の能力を有していたものの,日本語の読み書きは殆どできないのであるから,乙1,2号証に原告らの署名を得たり,これを原告らに交付しても,さほど意味があるわけではないことも考慮すると,乙1,2号証に原告らの署名等がないこと等によっても前記認定を覆すことはできないというべきである。
ウ さらに,原告X2本人の供述中には,平成14年11月ころ,平成15年からは業務量が減少する旨を告げられたが,雇用契約を終了させる旨の話はなかったとする原告らの主張に沿う部分があるが,原告X1本人の供述中には,業務量が減少するので休日が増える可能性があるという話を聞いたことはなく,そのころには,平成14年12月から時給を250円減額することを要請されたとする部分があって,原告らの供述は相互に矛盾するものであるほか,原告X1の供述のとおり,被告Y1工業から賃金減額の要請があったとすれば,原告X2に対しても同様の要請が行われて然るべきであるのに,原告X2に賃金減額の要請がされたとすべき証拠は一切ないから,賃金減額を要請されたとする原告X1の上記供述部分は相当に不自然であるといわざるを得ず,平成14年11月ころの被告Y1工業との交渉の経緯に関する原告らの供述は採用できない。
(3) 次に,原告らは,平成15年3月3日に発送された同年2月21日付の被告Y1工業による雇止め通知によって,原告X1やLUC分会は初めて原告X1に対する解雇を知ったため,同年3月13日の団体交渉で初めて原告X1の解雇を問題としたものであるから,それまでは本件雇止めに関する説明は一切なかったものであると主張し,また,原告X1は,LUC分会を介して,賃金減額の撤回,時間外割増賃金の支払,社会保険等への加入を要求していたが,同年3月31日で雇止めとなるのであれば,社会保険への加入要求は余り意味がないから,原告X1が本件雇止めに合意していたことはあり得ないと主張する。
ア しかしながら,前記認定によれば,原告X1は,平成15年1月に賃金を減額されて,そのころ,LUC分会に加入し,同月11日付で,時間外割増賃金を支払うことや雇用契約時に遡って社会保険等へ加入することを要求する書面を被告Y1工業に送付しているのであり,それ以前に,原告らと被告Y1工業との間に紛争を生じていたことは窺われないというべきであって,このことと前記認定の本件の経緯を総合すれば,原告らと被告Y1工業との関係は,原告X1の賃金が減額されるまでは,原告X2の右肩関節脱臼への対処をも含めて格別の問題なく良好に維持されていたものと推認し得るところである。
換言すれば,本件においては,原告X1に対する賃金減額を契機として紛争を生じたものというべきであり,平成14年11月27日には本件雇止めの合意に至っていたものの,上記紛争の過程で,被告Y1工業から改めて本件雇止めの通知がされたため,LUC分会や原告X1がこれを不当解雇として問題とするようになったものというべきであって,原告ら主張のように平成15年2月13日の団体交渉で初めて本件雇止めにつき問題とされることとなったとしても,平成14年11月27日に本件雇止めの合意があったことを否定することはできないというべきである。
イ 次に,前記認定によれば,原告X1に対する賃金減額に関しては社会保険への加入が条件とされていたのであるから,上記紛争において社会保険への加入を問題とすることとなったのは,ある意味では自然なことというべきであって,平成15年3月31日で雇止めとなるから問題としないというのはむしろ不自然であり,また,前記認定のとおり,原告X1は雇用契約時に遡っての加入を要求していたのであるから,社会保険への加入要求は必ずしも無意味ではないというべきであって,この点に関する原告らの上記主張も採用できない。
ウ なお,甲14号証(原告X1の陳述書),甲16号証(原告X2の陳述書),原告ら本人の各供述中には,原告らは,被告Y1工業に雇用される際,いずれも社会保険への加入を希望したが,被告Y1工業から拒否されたので,不満を抱いていたとする趣旨の供述があるが,前記認定のとおり,原告X2は,原告X1から被告Y1工業は良い職場だと教えられて就労を希望したとも供述しているところであり,親子である原告らの間において,被告Y1工業における雇用条件が伝わらなかったとは考え難いから,原告らは,少なくとも,社会保険への加入はないことを含めて被告Y1工業における雇用条件に納得し,本件各雇用契約を締結したものというべきであって,原告らが社会保険への加入を希望したのにも拘わらず,被告Y1工業がこれを拒否したとする甲14,16号証中の記載部分や原告ら本人の各供述部分は採用し難い。
また,甲14,16号証,原告ら本人の各供述中には,原告X2の本件事故に関し,被告Y1工業が労災保険法に基づく休業補償給付の申請を拒否し,本件事故後,原告らと被告Y1工業との関係は良好ではなかったとする部分があるが,これについても後記4(3)において説示するとおり採用し難く,他に,原告X1の賃金が減額される以前から,原告らと被告Y1工業との関係が良好ではなかったとすべき事情を認めるに足りる証拠はない。
(4) また,前記認定によれば,被告Y1工業は,原告らに関するシテイユニオンの「組合加入通知書・団体交渉要求書」に対する回答書を送付した平成15年6月16日の時点において,原告X2に対し,将来的に有給休暇を付与する意向を示しているところ,原告らは,これは原告X2を在職者として扱っていることを示すから,同年3月31日限りで期間満了により本件各雇用契約が終了したとする被告Y1工業の主張は偽りであると主張するが,前記認定のとおり,被告Y1工業は,弁護士から助言を受けるまで,労働災害による休業期間中は雇止めであっても雇用契約を打ち切ってはならないと誤解していたから,当時はこの理解を前提として原告X2に対応していたため,原告X2が在職しているものとして上記回答書を送付したものというべきであり,この点をもってしても前記認定を左右するには足りないといわざるを得ない。
(5) 以上のとおりであり,本件各雇用契約は期間の定めのあるものではないとする原告らの主張は採用できず,その他,前記認定を覆すに足りる証拠はない。
よって,原告らの被告Y1工業に対する雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と解雇後の賃金の支払を求める請求は理由がない。
3 争点(2)(原告X1についての賃金減額合意の有無)について
(1) 前記認定によれば,被告Y1工業のA専務は,平成14年12月27日,原告X1に賃金減額の要請をした際,原告X1から社会保険への加入と有給休暇の付与を求められ,それであれば時給は1000円となる旨の説明をしたものの,原告X1の同意を得られず,退職の意向を示唆されたので,原告X1に対し,翌年に出勤してきた場合には時給を1000円とする旨を伝えたものであるところ,被告Y1工業は,平成15年1月以降も原告X1が出勤してきたので,時給を1000円とすることに原告X1が合意したと主張する。
しかしながら,上記のとおり,原告X1は,平成14年12月27日には,被告Y1工業による賃金減額の要請にも,社会保険への加入等の条件の下で時給を1000円とすることにも同意していなかったものであるから,平成15年1月以降に出勤した場合には時給を1000円とする旨を通告された状沢下で現実に出勤してきたことをもってしても,原告X1が時給を1000円に減額することに合意したと評価することはできず,原告X1は,従前どおり,社会保険への加入等がないままで時給を2150円とする条件で就労する意思であったと認めるのが相当である。
また,前記認定のとおり,原告X1は,上記の賃金減額の直後の平成15年1月11日付で,加入したLUC分会を介して,時間外割増賃金を支払うことや雇用契約時に遡って社会保険等へ加入することを要求する書面を被告Y1工業に送付し,雇用条件に不服があることを明らかにしているのであるから,これに照らしても,原告X1が上記の賃金減額を含む雇用条件の変更に合意していたものということはできない。
以上のとおりであって,原告X1が時給を1000円とすることに合意したということはできず,他に,その合意があったとすべき事情を認めるに足りる証拠はない。
(2) 前記認定によれば,原告X1は,平成15年1月には100時間の所定時間内労働と9時間の時間外労働に従事し,同年2月には40時間の所定時間内労働と5時間の時間外労働に従事し,さらに,同年3月には16日の有給休暇を取得したものであるから,時給2150円を前提として,原告X1に支払われるべき賃金額は,次のとおり,同年1月が23万9187円,同年2月が9万9437円,同年3月が27万5200円となり,その合計額は61万3824円となる。
1月 2150円×100時間+2150円×1.25×9時間=23万9187円
2月 2150円×40時間+2150円×1.25×5時間=9万9437円
3月 2150円×8時間×16日=27万5200円
他方,前記認定によれば,原告X1がこの間に支給された賃金額は,同年1月が11万5250円,同年2月が4万6250円,同年3月が12万8000円であり,その合計額は28万9500円であるから,結局,原告X1は32万4324円の賃金の支払を受けていないこととなる。
(3) よって,原告X1の被告Y1工業に対する上記未払賃金の請求には理由があるから,原告X1が請求する32万4318円及びこれに対する支払期限の後の日である平成16年5月9日(甲事件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を命ずる限度でこれを認容すべきである。
4 争点(3)(原告X2の労働災害の有無)について
(1) 甲16号証(原告X2の陳述書),原告X2本人の供述中には,平成14年12月2日の本件事故当時,本件ブロックの甲板上は,エアホース,電気コード,溶接コード,キャプターヤ(溶接機に接続されて盤線やガスが通っているもの)などが散乱し,絡み合い,重なった状態であって,通路は確保されておらず,開口部についても。ときに板が置かれていたこともあるが,殆どはそのまま放置されていたとする部分,本件事故当日,原告X2は,甲板の下の船底(タンク内)において仮留めされていた床や壁を本溶接する作業に従事し,同日午後5時55分ころ,溶接によって生ずるゴミを捨てるために両手にバケツを提げ,本件ブロックの甲板上を歩行している際,左足がエアホースやコードに引っかかり,これを抜くために右足を踏み込もうとしたとき,右足の下には何もなく,エアホースやコードで隠れていた開口部に落ち込み,右足全部が開口部に入ったとする部分,その際,その場に置かれていた換気ファンが目の前に迫ってきたので,顔面をかばうために両腕で顔面を覆い,その姿勢で転倒し,右肘を換気ファンに強く打ち付けたとする部分など,原告X2の主張に沿う部分がある。
また,甲14号証(原告X1の陳述書),原告X1本人の供述中にも,本件事故当日,原告X1が,本件ブロックの甲板上で溶接作業をしていた際,原告X2から声をかけられて振り向いたところ,ゴミの入ったバケツ2つを持っていた原告X2が,開口部に落ち込んで俯せに転倒したとする部分,原告X2の右腕が不自然な形になっていたので,原告X1は,原告X2が大きな怪我をしたと判断したし,原告X1の隣で作業していた日本人スポットも原告X2の安否を確認していたとする部分など,同様に原告X2の主張に沿う部分がある。
(2) しかしながら,まず,前記認定によれば,本件ブロックの甲板上にあった船底(タンク内)に通ずるいくつかの開口部は,直径50センチメートルの円形のものか横40センチメートル縦60センチメートルの楕円形のものであり,原告X2は直径50センチメートルの円形の開口部に落ちたと供述するところ,いずれの大きさの開口部に落ち込んだとしても,その大きさに照らせば,原告X2が供述するように右足全部が開口部に入り,したがって身体の全体が落ち込む状態となるはずであって,そうだとすれば,身体が落下しないように,両腕を床に付けるなどして支えようとしなければならないところ,原告X2は顔面をかばうために両腕で顔面を覆ったというのであって,極めて不自然であり,考え難い対応であるといわなければならない。
また,右足全部が開口部に入るほどに落ち込んだのであれば,肩を打ち付けるよりも,股間から腰部,腹部や胸部付近までを強打するはずであって,それらの部位に相当程度の傷害を負っていて然るべきであるが,前記認定によれば,f診療所で肋骨骨折疑いと診断されている外は,そのような負傷があったことは全く窺われず,原告X2に関する診療録(<証拠省略>)を精査しても,f診療所における肋骨骨折疑いとの診断に対し,その後に何らかの措置がされている旨の記載は全くないところであって,その他,原告X2に右肩関節脱臼のほかに外傷があったことを認めるに足りる証拠はなく,この点も極めて不自然であるといわざるを得ない。
(3) さらに,原告X2は,エアホース等にとられた足について,当初,乙事件訴状において右足と主張していたのに,後に左足であると変えるなど,事故態様についての供述を変遷させており,また,原告らの各供述には,本件事故当時,原告X1がいた場所や,原告X2が落ち込んだ開口部の位置等について相互に矛盾があるほか,前記認定によれば,本件ブロックの甲板下の船底(タンク内)における溶接作業は平成14年11月25日には終了していたのに,原告X2は,本件事故当日の同年12月2日に,船底(タンク内)において溶接作業を行っていたなどと供述しており,その供述は客観的な状況とも整合しないといわざるを得ない。
なお,原告X2は,当初,被告Y1工業が本件事故を労働災害として扱うことを拒否したため,同月5日以降,本件事故について,原告X1が当時加入していたLUC分会に相談し,同分会のGに本件事故の態様を説明して,労災保険法に基づく休業補償給付の支給申請に用いる用紙に,左足をエアホースにひっかけ,右足が開口部に入っていたので転倒し,右肘を換気ファンの上に強く打ち付けたとする内容を記入した貰った(甲10号証)と供述して,事故態様について一貫した説明をしていたと主張し,原告X2の日本語が不完全であるため,訴訟代理人等の関係者との意思疎通に齟齬があり,また,読解力に欠けるため,原告X2自身も乙事件訴状等の記載の誤りに気付かなかったと主張するが,前記認定のとおり,原告X2は,日本語による相当程度の会話能力を有するから,右足か左足かという基本的な点において意思疎通に齟齬を来したとするのはにわかに信じ難いところである。
また,原告X2は,被告Y1工業に上記甲10号証を持参して,甲10号証を破棄して労働災害としての申請をしなくてもよいが,その場合は,労基署に相談する旨を告げたところ,被告Y1工業が労働災害の申請手続をとったとも供述するが,そうだとすれば,被告Y1工業は,原告X2が持参した甲10号証を利用して手続をとれば足りるのに,別途,申請書(甲11号証の1)を作成している上,原告X2の供述中には,甲10号証を被告Y1工業に持参したのがLUC分会の者か原告X2自身か記憶にないとする部分もあり,結局,本件事故の直後に甲10号証を作成し,これを被告Y1工業に持参したとする原告X2の供述部分及び甲10号証を採用することは困難である。
(4) また,本件事故に関する原告X1の供述についても,本件事故当時,原告X1は未だ溶接作業をしていたとする部分がある一方,既に作業を終えて片付けもしていたとする部分があったり,本件事故後,原告X2を一人で事務所に向かわせたとする部分がある一方,本件ブロックを降りたところでCと出会ったので,Cに事務所に連れて行って貰ったとする部分があったりするものであって,全体として原告X1の本件事故状況に関する供述は極めて曖昧であり採用できない。
(5) 以上のとおりであり,本件事故に関する原告らの供述はいずれも採用できず,そうすると,前記認定のとおり,原告X2が平成14年12月2日の就労時間中に右肩関節脱臼の症状を呈していたことは確かであるとしても,原告X2が同年10月1日に同関節の亜脱臼を起こしていることなどをも併せて考慮すれば,これが業務に起因するものであるとまで認めるには足りないというほかなく,むしろ,原告らが上記のような不自然な供述を重ねていることに照らすと,原告X2は業務とは関係のない原因で右肩関節脱臼の症状を呈するに至った可能性を否定し得ないところである。
そして,他に,原告X2の右肩関節脱臼が業務に起因するものであるとすべき事情を認めるに足りる証拠はない。
(6) なお,仮に,本件事故が前記の労災保険法に基づく休業補償給付の支給申請に係る事実の限度で認められるとしても,その事故態様は,前記認定のとおり,本件ブロックの甲板上を「片手にゴミを持って移動しようとした際に,床面のホースにつまずいて転倒した。その時に右腕が機材にひっかかって肩部を受傷した。」というものであるところ,本件事故現場は,溶接作業を行っていた本件ブロックの甲板上であり,溶接作業に必要なエアホース,ケーブル等が引き込まれて床を這う状況となっていたものであり,原告X2においても当然そのような場所であることを熟知していたと推認されるところである。そして,原告X2が,そのような場所を,ゴミを持って歩行していたのであれば,上記事故が発生したとしても,それは,専ら原告X2の不注意によるものというべきである。
この点につき,原告X2は,本件事故現場が労働安全衛生規則所定の「作業場」に該当するとし,被告らには作業場における安全な通路の保持,作業場床面の安全状態の保持などの安全配慮義務があるところ,被告らはこれを怠ったと主張する。しかし,前記認定によれば,船舶の建造は,船体の区分された構成部分であるブロックを製作し,各ブロックを組み合わせて行われるものであり,本件ブロックもその一つとして船体の一部となるものであるから,本件ブロックは,作業の対象物ないし製品の一部であって,労働安全衛生規則にいう「作業場」であるということはできず,上記主張はその前提を欠くものである。他方,前記認定のとおり,溶接作業を行う際には,引き込んだエアホースやケーブル等が床面を這う状況となることは避けられないところ,被告Y1工業においては,毎朝,ミーティングを開催して,従業員に対し,作業指示を行い,安全衛生上の連絡事項を通達するほか,危険予知ミーティングを行って,当日に予定されている作業に伴う危険の内容,その危険に基づく災害を防止するための注意事項を確認し,その注意事項を従業員全員で唱和するなどしていたものであり,被告Y2重機においても,本件工場構内の安全パトロールを実施していたほか,協力会社の従業員であっても新規入構者に対しては安全に関する項目を含む入門時教育を行い,さらに,協力会社の従業員をも対象として安全衛生に関する朝礼を実施して安全訓話を行っていたものであって,その際,被告らは,いずれも,移動時には足下に注意すること,エアホース等をまとめておくこと,整理整頓を励行すること等を日常的に指導,教育していたものである。
これらの事実関係に照らすと,仮に,本件事故が,労災保険法に基づく休業補償給付の支給申請に係る事実の限度で認められるとしても,被告らに安全配慮義務違反があったということはできない。
(7) よって,その余の点について判断するまでもなく,原告X2の被告らに対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求には理由がない。
5 丙事件について
前記のとおり,被告Y1工業が,平成15年6月30日,原告X1の社会保険料本人負担分100万9752円,原告X2の社会保険料本人負担分69万2780円をそれぞれ立て替えて納付したことは当事者間に争いがないところ,この原告ら本人負担分の社会保険料は,あくまでも被保険者である原告らが負担すべきものであるから,これを立て替えて納付した被告Y1工業は,原告らに対し,上記立替額を求償することができるものというべきである。
なお,被告Y1工業は,上記立替は受任者又は連帯債務者に準ずる立場で行ったものであるから,原告らは被告Y1工業が立替払をした日の翌日以降の利息を支払う義務を負うと主張するが,被告Y1工業の原告らに対する上記求償権は,事業主が被保険者に支払うべき報酬から被保険者の負担すべき保険料を源泉控除し得るとする一方で,被保険者本人の負担すべき保険料についても事業主に納付義務を課している法律の規定(健康保険法161条1項,167条1項,厚生年金保険法82条2項,84条1項)により,被告Y1工業自身が負う納付義務に基づいて原告ら負担分の保険料を納付した結果として発生するものであるから,被告Y1工業と原告らとの間には私法上の事務処理関係ないし委託関係は存在せず,必ずしも受任者又は連帯債務者に準ずるものとはいえないところである。
また,被告Y1工業は,上記立替により原告らは法律上の原因なく自己負担分保険料の支払を免れており,また,原告らはその保険料を自己負担すべきことを知っているから,悪意の受益者として利息を付して不当利得を返還すべき義務を負うと主張するが,被告Y1工業は,上記のとおり,法律の規定に基づいて納付義務を果たしたのであって,法律上の原因なく損失を被ったものではなく,原告らも,被告Y1工業に対する求償債務を負っているのであるから,利益を得ているとはいえない。
したがって,原告らは被告Y1工業が立替払をした日の翌日以降の利息を支払う義務を負うとする被告Y1工業の主張は採用できず,原告らの被告Y1工業に対する求償債務は,期限の定めのない債務として成立し,履行の請求を受けたときから遅滞に陥るものというべきである。そして,前記のとおり,被告Y1工業が,原告X2に対し平成15年12月23日,原告X1に対し平成16年1月15日,それぞれ立替金の支払を請求したことは当事者間に争いがない。
よって,被告Y1工業の原告らに対する社会保険料本人負担分を立替納付したことに基づく請求は,原告X1に対し100万9752円及びこれに対する催告の日の翌日である平成16年1月16日から,原告X2に対し69万2780円及びこれに対する催告の日の翌日である平成15年12月24日から,それぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
6 よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 吉田健司 裁判官 貝原信之 裁判官 伏見英)