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横浜地方裁判所 平成16年(行ウ)1号 判決 2006年2月28日

原告

株式会社東芝

同代表者代表執行役

同訴訟代理人弁護士

山西克彦

伊藤昌毅

峰隆之

富岡武彦

平野剛

被告

神奈川県労働委員会

同代表者会長

同訴訟代理人弁護士

水地啓子

同補佐人

補助参加人

Z1

補助参加人

Z2

補助参加人ら訴訟代理人弁護士

岩村智文

星山輝男

堀沢茂

主文

1  被告が神労委平成14年(不)第13号不当労働行為救済申立事件について平成15年12月26日付けでした命令のうち,主文第1項及び第2項を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とし,補助参加によって生じた訴訟費用は補助参加人らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

主文と同旨。

第2事案の概要

原告は,特定の事業部門の関連会社への移管に伴い同部門の従業員が関連会社に転籍した際に,転籍に異議をとどめた労働組合員である補助参加人らを川崎市幸区柳町所在の柳町事業場から愛知県瀬戸市所在の愛知工場に配転した。補助参加人らはこの配転は不当労働行為であるとして被告に救済申立てを行い,被告は救済命令を発した。

本件は,原告が,上記配転は補助参加人らの組合活動を理由にした不利益取扱いではなく不当労働行為には当たらないから,被告の救済命令は違法であるとして,その取消しを求めた事案である。

1  争いのない事実

(1)  原告は電気機械器具製造業等を営む株式会社であり,補助参加人Z1は昭和42年,補助参加人Z2は昭和43年,それぞれ原告と雇用契約を締結し,以降平成14年3月31日まで,柳町事業所に勤務していた。補助参加人らは,東芝労働組合(以下「東芝労組」という。)の組合員である。

(2)  原告は,補助参加人らに対し,平成14年4月1日付けで東芝キヤリア株式会社(以下「東芝キヤリア社」という。)への転籍を求めたところ,補助参加人らは,転籍に異議をとどめた。そこで,原告は,同日,補助参加人らに対し,愛知工場への配転を命じた(以下「本件配転命令」という。)。

また,原告は,同年2月1日,同じく柳町事業所に勤務していたC(以下「C」という。)に対し,青梅デジタルメディア工場への配転を命じた。Cも東芝労組の組合員である。

(3)  補助参加人ら及びCは,平成14年5月13日,被告に対し,上記各配転命令は不当労働行為に当たるとして,<1>川崎市又は横浜市内の事業場への事務技術職掌としての配置,<2>各配転命令前の職務給,役職への復帰,<3>組合活動,不当労働行為救済申立て等を理由とする将来にわたっての不利益取扱いの禁止,<4>陳謝文の手交・掲示を求めて,救済申立てを行った。

(4)  被告は,平成15年12月26日,補助参加人らに対する本件配転命令は,原告がその施策と対立する補助参加人らの独自の組合活動を嫌悪し,その活動の分断・弱体化を意図して行った不利益取扱いとして労働組合法7条1項に該当する不当労働行為であるが,Cに対する配転命令は不当労働行為に該当するとは認められないと判断して,下記の主文の救済命令を発した(以下「本件救済命令」という。)。

1 原告は,補助参加人らに対する本件配転命令がなかったものとして,次の措置を講じなければならない。

(1) 補助参加人らを京浜地区内の事業場において事務技術職掌として業務に従事させるとともに,Z1については,平成14年4月1日以降主務の職にあったものとして処遇すること。

(2) 補助参加人らに対し,本件配転命令がなかったならば支給されるべきであった賃金相当額及び賞与相当額と現に支払った賃金及び賞与の額との差額に相当する額に,年率5分相当額を加算した額の金員を支払うこと。

2 原告は,今後,補助参加人らに対してした本件配転命令と同様の行為を繰り返してはならない。

3 Cに係る申立てを棄却する。

2  原告の主張

原告は,以下のとおり,補助参加人らが東芝キヤリア社への転籍を拒否したため,補助参加人らの雇用を確保するため,平成11年4月に導入した社内カンパニー制の原則的な取扱いに従い,補助参加人らが所属するカンパニー「家電機器社」(法律上独立した会社ではないので,以下「『家電機器社』」といい,原告内部の他のカンパニーも同様に表記する。)内の愛知工場に配転する旨の本件配転命令をしたものである。本件配転命令は,補助参加人らがその主張の労働組合活動を行ったことの故に,他の従業員と異なる不利益な取扱いをしたものではない。

したがって,本件配転命令は不当労働行為に該当しないから,本件救済命令は,違法である。

(1)  原告は平成11年3月まで事業本部制を採用しており,補助参加人らは住空間システム事業本部のうちの空調・設備事業部に所属していた。

(2)  原告は,グローバル競争に勝ち残ることを目的として,平成11年4月1日,社内カンパニー制を導入した。これは,法律に基づく分社とは異なり,社内の内部的な取決めに基づくものであるが,社内の各部門(カンパニー)に事業本部・事業部よりも強力な権限と責任を与え,各カンパニーが自主性・独立性をもって事業を行うことを可能にしたものである。

カンパニー制においては,各カンパニーが所属の従業員の人事権も有している。すなわち,カンパニーの長であるカンパニー社長が所属の一般従業員及び工場の管理職の配置を決裁し,カンパニー社長の下にいる各工場長が工場の一般従業員の配置を決裁し,カンパニー従業員の中で原告代表者が配置を決裁するのはカンパニー社長,副社長等の限られた上級管理職にとどまる。

このように,人事異動は同一カンパニー内で行われることが原則であり,例外的に異なるカンパニー間で異動を行う場合には,配転元と配転先の双方の人事権に関わるから,双方のカンパニー社長の承認が必要である。

そして,カンパニー制の導入により,住空間システム事業本部はカンパニーである「家電機器社」となったため,補助参加人らの所属カンパニーは,「家電機器社」となった。

(3)  他方,原告は,平成11年4月1日,空調・設備事業部の事業を東芝キヤリア社に移管した。これに伴い,補助参加人らを含む空調・設備事業に従事する従業員全員が3年間の予定で東芝キヤリア社に出向した。

(4)  原告は,東芝キヤリア社に出向した従業員に対し,平成14年4月1日付けで東芝キヤリア社に転籍することを求めたところ,補助参加人らは転籍を拒否した(他の従業員は転籍に応じた。)。そこで,補助参加人らが所属している「家電機器社」が補助参加人らの雇用を確保するため「家電機器社」内で補助参加人らの配属先を検討したところ,配置可能な部署は愛知工場しかなかったので,原告は,補助参加人らに対し,愛知工場への配転を命ずる本件配転命令をした。

本件配転命令の前後において関連会社への転籍を拒否した者は,補助参加人らを含めて27名いたが,原告は,その全員を所属カンパニー内で配転しており,その中には京浜地区から三重県や秋田県といった遠隔地に配転した事例もある。原告は,補助参加人らを特別に不利益に取り扱ったわけではない。

(5)  被告及び補助参加人らは,補助参加人らを京浜地区の事業所に配転することが可能であったと主張する。

しかし,京浜地区には「家電機器社」の事業所はなく,カンパニー制の下においては,各カンパニーが当該カンパニー内で所属従業員の配置先を確保することが原則であり,本件の場合,「家電機器社」が補助参加人らの配置先を確保した以上,他のカンパニーに補助参加人らの受入れを求めることはできない。また,本件配転命令当時,原告は全社的に人員削減に取り組んでおり,他のカンパニーに補助参加人らを受け入れる余裕はなく,カンパニー制の原則に反して補助参加人らを他のカンパニーに異動させるべき特別の事情もなかった。原告が補助参加人らを他のカンパニーに異動させるとの例外的な取扱いをしなかったのは,補助参加人らがその主張の労働組合活動を行ったことを理由としたものではない。

3  被告の主張

(1)  補助参加人らを愛知工場に配転する必要性は全くなく,補助参加人らは京浜地区内での配転を望んでおり,そのような配転の可能性も否定できないのに,原告は,他の配転先を検討せずに,補助参加人らを愛知工場に配転するとの本件配転命令をした。原告は,カンパニー制により,人事異動は同一カンパニー内で行うことが基本であると主張するが,異なるカンパニー間での人事異動も実施されており,異なるカンパニー間での人事異動が全く制限されているわけではない。

(2)  補助参加人らは,本件配転命令により,職務内容は単純作業に変更され,資格は低位となり,賃金は減額され,遠隔地に単身赴任となって,精神的,肉体的に大きな苦痛を受け,また,遠隔地勤務となってその独自の組合活動にも支障を来すとの不利益を受けている。

(3)  補助参加人らは政党支部等名義の職場新聞を配布するなどしていたが,原告は,補助参加人らを原告の施策に対立する独自の組合活動をする者として嫌悪していた。その後,補助参加人らは,賃金資格差別事件につき救済申立てをし,これに関するビラ配布や原告への抗議行動を続け,また,原告の新たな事業構造改革に関する諸施策にも反対する活動を行っていた。したがって,原告は,本件配転命令当時においても,引き続き補助参加人らを好ましくない存在と認識しており,嫌悪感は払拭されていなかった。

(4)  以上を総合的に判断すると,本件配転命令は,合理的な理由によるものではなく,補助参加人らの独自の組合活動について嫌悪感を抱いていた原告が,他の従業員が全て東芝キヤリア社への転籍に応じていた状況において補助参加人らのみがこれを拒否し続けたことを奇貨として,補助参加人らを遠隔地に異動させ,かつ,精神的・肉体的苦痛を伴う業務に従事させるなどの嫌がらせをし,ひいては補助参加人ら等の活動を分断・弱体化させようとする意図の下に行ったものと言わざるを得ないから,労働組合法7条1号に該当する不当労働行為である。

以上と同旨の本件救済命令の認定判断に誤りはない。

4  補助参加人らの主張

(1)  補助参加人らは,昭和40年代から政党支部名義の職場新聞を柳町事業所門前等で配布するなどの組合活動を行っていた。原告は,当初から補助参加人らのこのような活動を嫌悪し,警察官OBを雇って補助参加人らを調査監視していた。その後,補助参加人らは,原告から賃金及び資格について不利益な取扱いを受けていたので,平成7年に被告に対して不当労働行為の救済を申し立て,平成12年までの間に合計5件の同旨の救済申立てを行った。また,補助参加人らは,原告の事業構造改革に関する諸政策にも反対しビラを配るなどしていた。

被告は,平成13年4月26日,これら5件の救済申立てにつき,原告の不当労働行為を認めて救済命令を発した。原告は,上記救済命令に対し,中央労働委員会に再審査の申立てをした。本件配転命令は,中央労働委員会における再審査の最中,中央労働委員会が原告に対し初審命令の履行勧告を出したにもかかわらず,原告がこれに従わない状況の中で行われたものである。

(2)  原告は,平成13年,補助参加人らに対し,東芝キヤリア社への転籍を要求した。これに対し,補助参加人らは,東芝キヤリア社で業務に就くこと自体まで拒否したわけではなく,原告に対し,<1>原告に籍をとどめたまま東芝キヤリア社へ出向する,<2>異議をとどめた上で東芝キヤリア社への転籍に応じ,改めて法的に争うなどの解決策を提示した。ことに,後者は,補助参加人らが東芝キヤリア社への転籍命令発令の差止めを求めた仮処分手続における原告の指摘に従って行った提案であった。

それにもかかわらず,原告は,これらの提案を理由なく拒否し,補助参加人らに大きな不利益(後記(4))を与える本件配転命令を行ったものであり,本件配転命令は,原告が補助参加人ら等の賃金資格差別事件(上記(1))についての活動その他の組合活動を分断し弱体化しようとしたものであり,また,原告の事業構造改革に反対している補助参加人らに嫌がらせと報復をし,併せて一般従業員に対するみせしめとして行ったものである。本件配転命令が不当労働行為に該当するとの本件救済命令に誤りはない。

なお,本件配転命令の2年半後である平成16年10月1日,原告は,補助参加人らに対して東芝キヤリア社への出向を命じた。このことからすれば,本件配転命令当時においても,補助参加人らの東芝キヤリア社への出向や異議をとどめての転籍を拒否しなければならない合理的な理由はなかった。

(3)  補助参加人らを愛知工場に配転する業務上の必要性は,全くなかった。他方,補助参加人らは,本件配転命令前の交渉において京浜地区の事業場への配置を要求したところ,平成14年3月末時点において,原告が京浜地区に有する事業場は8か所,従業員数は合計1万2486人であり,補助参加人らを京浜地区の事業場に配置することは可能であった。

それにもかかわらず,原告は,京浜地区の事業場に補助参加人らを配置することを検討しなかった。

(4)  補助参加人らは,本件配転命令により,次のとおり,甚大な不利益を受けている。

ア 職務上の不利益

補助参加人らは,入社以来一貫して事務技術職掌としてデスクワークの業務に従事していたが,本件配転命令により,愛知工場では,技能職掌の立ち作業,それも下請会社が行う業務に下請会社の従業員と共に従事することとなった。このように,愛知工場での業務は,肉体的な苦痛が大きく,また,長年にわたり培ってきた技術・経験を生かすことができない単純作業であり,労働者としての尊厳を著しく傷つけられて,精神的にも苦痛が大きい。

イ 経済上の不利益

補助参加人らは,本件配転命令により,職掌が変更され,これに伴い職務給が減額された(Z1は8万4400円,Z2は6万8800円)。この減額分は原告から補償給として支給されるが,その後の昇給の際昇給額の4分の3が補償給の償却に当てられるため,他の従業員と比べて昇給額(本件配転命令による職掌変更により昇給幅自体小さくなった。)が4分の1になり,賃金月額を基に算定される賞与の昇給額も低くなった。さらに,Z1の賞与は,本件配転命令に伴い,主務の職を解かれたため,主務手当分5万円も減額された。補助参加人らは,本件配転命令前から長年にわたり賃金差別を受けているが,本件配転命令は賃金格差をさらに拡大したものである。

ウ 生活上及び組合活動上の不利益

補助参加人らは,遠隔地への本件配転命令により,単身赴任となり生活上の不利益を受けた上,支援者とともに「労働運動を強める東芝の会」「東芝の職場を明るくする会」等のビラを定期的に発行し,駅前や会社門前で配布するなどの組合活動を行っていたところ,本件配転命令はかかる組合活動の支障となり,組合活動上の不利益も受けている。

(5)  原告は,配転は同一カンパニー内で行うことを原則とする旨のカンパニー制に従って本件配転命令を行ったと主張する。

ア しかし,各カンパニーの区分は固定されたものでなく細分化や統合を繰り返しており従業員が所属するカンパニーもその都度変わっていること,異なるカンパニー間での配転を制限した規定や労使間の合意がないこと,現に特別の事情がある場合には原告は異なるカンパニー間での配転を実施していることなどからすると,異なるカンパニー間での配転が特に制限されていたわけではない。また,各カンパニーに最終的な人事権があるともいえない。

イ そもそも,補助参加人らは,本件配転命令当時,次のとおり,柳町事業所総務部に所属しており,「家電機器社」には所属していなかったから,原告の主張は,その前提を欠く。

平成9年10月当時,補助参加人らは,住空間システム事業本部に所属していた。同事業本部は,平成10年10月,家電機器事業部と空調・設備事業部に分かれ,補助参加人らは,後者に所属していた。そして,平成11年4月1日,家電機器事業部が「家電機器社」となると同時に,空調・設備事業部は東芝キヤリア社に事業を移管して廃止され,これに伴い,補助参加人らは,柳町事業所総務部所属となり,東芝キヤリア社に休職出向した。

このことは,本件配転命令の過程において,補助参加人らは柳町工場長,原告代表者に対して申入れを行い,柳町工場長名の回答を受け取っていること,個別面接の際も「家電機器社」の従業員ではなく柳町事業所の総務部長,勤労課長が対応していること,東芝労組と交渉した相手も柳町事業所の総務部長,勤労課長であることなど,「家電機器社」が交渉の相手方となったことは一切なく,また,人事異動を報じた原告の社報に補助参加人らの所属が柳町事業所総務部と記載されていることからも明らかである。

(6)  以上のとおり,本件配転命令がカンパニー制に基づくものであるとの原告の主張は理由がなく,本件配転命令は,補助参加人らの賃金資格差別事件における活動やその他の組合活動を理由とした不当労働行為である。

第3当裁判所の判断

1  事実経過

上記争いのない事実,証拠(<証拠・人証略>)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1)  補助参加人らの職務と入社後の活動等

ア Z1(昭和○年○月○日生まれ)は昭和42年,Z2(昭和○年○月○日生まれ)は昭和43年,原告に入社し,柳町事業所に配属された。柳町事業所では,冷蔵庫用コンプレッサの製造,事務機器の開発製造等の事業を行っていたところ,補助参加人らはコンプレッサ部門に配置され,Z1は昭和52年から製造技術業務,Z2は昭和46年から品質管理業務を担当した。これらの業務は,製造現場での製造作業ではなく,デスクワークであった。そして,補助参加人らのこれらの担当業務は,本件配転命令当時まで変更はなかった。

イ 原告の従業員は,従事する職務の性格により経営職掌,事務技術職掌,技能職掌及び特別職掌に区分されている。また,原告は,従業員に対し,従事する職務のレベルに応じて,KS(課長相当職),KK,AS,BS及びCSの5つの職群(前者ほど上位。それぞれ複数の等級に区分されている。)のいずれかに格付して,これに応じた職務給を支給している。

本件配転命令当時,Z1は,事務技術職掌の役職である主務であり,KS職群1等級の職務給を支給され,Z2は,事務技術職掌であり,KK職群4等級の職務給を支給されていた。また,補助参加人らは,本件配転命令当時,いずれも複数の部下を有し,管理職又はこれに準ずる地位で部下・後輩を指導する立場であった。

ウ 補助参加人らは,入社後,東芝労組(原告の従業員の大半が加入している。)に加入し,また,Z1は昭和43年,Z2は昭和44年,日本共産党東芝政策委員会(昭和42年3月結成)に参加した。

そして,補助参加人ら等は,昭和45年から,職場新聞として「コンベア」(日本民主青年同盟名義),「たちよみ」(日本共産党東芝柳町支部名義。昭和49年3月創刊),「ランプ」(昭和53年創刊),「ひろば」(昭和55年創刊)を順次作成・配布し,そのなかで春闘や賃金改定等について訴えた。また,補助参加人ら等は,昭和55年ころに日本共産党が行ったいわゆる大企業黒書運動(大企業を告発する運動)に参加し,労働基準監督署に対する申告活動も行った。

エ Cは,昭和44年,原告に入社し,柳町事業所の事務機部に配置された。Cも,東芝労組に加入し,日本共産党東芝政策委員会にも参加して,補助参加人らと活動を共にした。

オ 補助参加人,Cらは,昭和63年7月,日本共産党東芝政策委員会を解消して,「東芝の労働運動のあり方を考える懇談会」を結成し,同懇談会は平成元年10月に「労働運動を強める東芝の会」と改称された。

カ 補助参加人ら及びCは,平成2年以降,何度か東芝労組柳町支部の役員選挙に立候補したが,当選したことはなかった。

(2)  原告の対応

ア 原告は,昭和44年,業務命令により,将来の管理職候補者を近代労使研究会議が主催する第1回京浜職場管理者教室に派遣し,その後も毎回継続して同教室に管理職侯補者を派遣し,また,京浜地区以外で開催された職場管理者教室にも管理職候補者を派遣するようになった(費用は原告負担)。職場管理者教室のカリキュラムは,いわゆる左翼対策に関するものが多かった。近代労使研究会議は,昭和45年12月に機関誌「おおぎ」を創刊したが,その創刊号には「東芝玉川工場の民青同対策(労組役選の勝利のための推進と教訓)」と題する記事が掲載された。

また,原告は,昭和47年ころには,課長候補者を対象とする社内研修の「プリ・マネジメント研修」を実施しており,以後も継続して開催した。このプリ・マネジメント研修では,職場労使関係に関するカリキュラムが含まれていた。

イ 原告は,昭和48年8月10日付け「左派一般情勢と当社の現状(年間総括)」と題する文書を作成し,原告における「左派の浸透状況」として問題者が530名いると指摘し,事業場別にその氏名,生年月日,所属,身分資格等を記載したが,その中には補助参加人ら及びCも含まれていた。

ウ 昭和49年4月,職場管理者教室の研修終了者を会員とする「東芝扇会」(後年に「自己啓発の会」と改称)が結成された。柳町事業所には,東芝扇会の支部「柳扇会」が設置された。東芝扇会は,近代労使研究会議発行の「おおぎ」を機関誌としていた。

エ 原告は,上記イに引き続き,昭和50年1月16日付け「左派一般情勢と当社の現状(年間総括)」と題する文書を作成し,原告における「左派の浸透状況」として問題者が494名いると指摘し,事業場別にその氏名,生年月日,所属,資格等を記載したが,その中には引き続き補助参加人ら及びCも含まれていた。

オ 昭和52年12月の「おおぎ」には,警察出身者である勤労担当主査の「特定イデオロギー集団からの組織防衛については労使共同の敵として対処すべきことは当然である。」等と記載された寄稿文が掲載され,昭和53年9月の「おおぎ」には,柳町支部員の「党員である……彼等は,労組が機関として工場の門前でビラ入れをしているのを横目で見ながら,労組の批判をしたり,組合員を混乱させる様なビラ(たちよみ)を同じ場所で配り出した。」等と記載された投稿が掲載された。

また,東芝扇会は,昭和54年3月,「われわれの基本理念と活動の原則」と題する冊子を発行し,その中で「労組の選挙においては,特定イデオロギーを排し,健全思想の人を支持する。」等と記載した。

カ 原告が昭和62年から平成2年までに実施したプリ・マネジメント研修(上記ア)においては,「日共の本質とイメージチェンジ戦術」「組織内に左派勢力が拡大した場合の一般的兆侯」を主要な内容とする講義「企業観と価値観について」もカリキュラムに含まれていた。

(3)  賃金資格差別事件

ア 補助参加人ら及びCは,組合活動を理由に賃金及び職群格付等につき差別を受けていると主張して,平成7年8月29日,他の7名の組合員(D,F,G,H,I,J及びK)とともに,被告に不当労働行為の救済申立てを行った。なお,これらの10名は,救済申立ての前に「東芝賃金資格差別提訴団」を結成し,Z1がその事務局長,Z2が会計担当,Cが政策・宣伝責任者に就任した。また,補助参加人ら及びCらは,同年5月,「東芝の職場を明るくする会」を結成していた。

その後,補助参加人ら及びCらは,「東芝賃金資格差別提訴団」「労働運動を強める東芝の会」「東芝の職場を明るくする会」等の名義で原告を批判する内容のビラを定期的に作成して配布するようになった。

イ 補助参加人ら,Cらの10名(上記ア)は,平成9年3月31日,平成10年3月30日,平成11年3月25日及び平成12年3月16日にも被告に対し上記アと同様の不当労働行為の救済申立てを行った。

ウ 被告は,上記5つの申立てを併合し,平成13年4月26日,すべての申立事件につき原告の不当労働行為を認定し,原告に対し申立人らを同期同学歴者の中で中位者相当の資格にあるものと取り扱わなければならない等の救済命令を発した。原告は中央労働委員会に再審査を申し立てたが,中央労働委員会は,平成16年11月4日,原告に不当労働行為があったとの判断を維持した上で,救済方法につき資格の回復は組合員が就いている資格を限度とする等一部変更する救済命令を発した。原告は,東京地方裁判所に対し上記救済命令の取消しを求める訴えを提起し,同取消訴訟は,現在同裁判所に係属中である。

なお,中央労働委員会は,再審査中の平成13年9月10日,原告に対し初審命令の履行勧告をしたが,原告は応じなかった。

エ 補助参加人ら及びCらは,平成13年3月27日,平成14年3月26日及び平成15年4月18日にも被告に対し上記アと同様の不当労働行為の救済申立てを行っている。

(4)  原告の事業構造改革

ア 平成10年8月当時,原告は,事業本部制を採用しており,住空間システム事業本部には空調・冷凍機器事業部門と白物・小型家電事業部門があった。補助参加人らが従事していたコンプレッサ事業は,空調・冷凍機器事業部門に属していた。

イ(ア) 原告は,平成10年8月31日,競争力を向上させるため,平成11年4月1日を目途に,アメリカ合衆国の空調設備機器メーカーであるキヤリア社との合弁会社である東芝キヤリア社(原告の出資率60パーセント)を設立し,空調設備事業を分離して東芝キヤリア社に移管すると発表した。この計画によれば,平成10年10月をもって住空間システム事業本部を廃止し,空調・設備事業部と家電機器事業部とがそれぞれ独立して運営され,平成11年4月1日に空調・設備事業部の主要な事業を東芝キヤリア社に移管するが,空調・設備事業部のうち自動販売機,照明器具及び電気温水器の各事業は東芝キヤリア社に移管されず家電機器事業部が担当することとされていた。また,この事業体制改革に伴い,空調・設備事業部の製造拠点は柳町事業所及び富士工場(静岡県富士市所在),家電機器事業部の製造拠点は大阪工場及び愛知工場と定められた。

(イ) 原告は,上記(ア)の発表当日,東芝労組本部に対し,空調・冷凍機器事業部門の在籍者は平成11年4月1日付けで東芝キヤリア社に休職出向する,出向期間は3年間とし,期間満了後は東芝キヤリア社に転籍する,転籍後の労働条件等は成案を得次第別途説明すると提案した。東芝労組本部は,同年1月13日,原告に対し,出向期間満了後の取扱いは転籍後の労働条件が提示されてから別途協議する旨留保の上,原告の提案に包括合意すると回答した。

なお,東芝キヤリア社への出向対象者は,2159名であり,そのうち柳町事業所勤務者は118名であった。

(ウ) 補助参加人らは,原告の上記計画に反対し,他の者と共に,出向と転籍は全く別であり一緒に提案されるのはおかしい,出向・転籍の押し付けはやめるべきである,原告の事業構造改革は経営者が責任を取らず従業員に経営陣の失策を押し付けるリストラである等と記載したビラを作成・配布し,また,原告に対し,出向期間満了後は出向元事業所に復帰させる旨の約束を求めたが,原告は応じなかった。

(エ) 原告は,同年4月1日,コンプレッサ事業を含む空調・設備事業を東芝キヤリア社に移管した。補助参加人らは,異議をとどめて東芝キヤリア社への出向に応じた。補助参加人らの出向後の職場は,従来と同様,柳町事業所であった。

なお,柳町事業所の対象従業員は,全員,同日付けで東芝キヤリア社に出向した。原告の同月16日付け柳町事業所報は,補助参加人らに対するものも含めてこれらの人事異動につき,発令事項として「総,休職―東芝キヤリア(株)」と記載している(「総」は総務部の意味)。

ウ(ア) 他方,原告は,平成11年4月1日,事業本部制を廃止し,カンパニー制を導入した。これは,競争力を強化するため,社内の各部門(カンパニーと呼ばれている。)にその事業運営に必要な権限を委譲し,各カンパニーが独立し責任をもってその事業を遂行するというものである。原告は,カンパニー制導入に当たり,役職者職務規程を作成し,カンパニーの長であるカンパニー社長は,担当事業について経営方針を設定し毎年度の事業計画を立てること等のほか,人事についても,管轄する組織に関し,人事配置を定める職務と権限を有する旨を定めた。また,原告は,人事決裁手続規程も作成し,その中で,従業員の異動は一定の上級管理職等を除きカンパニー総務部長の提案に基づきカンパニー社長が決裁する,部門又は事業所をまたがる事案は全て転入先で決済手続及び示達を行う,人事決定書は必要により決裁者に進達する前に関係部門長に回付し意見を求めると定めた。これらは,従業員の人事は,カンパニー社長の権限内である当該カンパニー内で行うことを原則とし,異なるカンパニー間での異動は受入先カンパニーの承諾を要することとしたものである。

(イ) カンパニー制の導入に伴い,原告は8つのカンパニーに区分され,旧家電機器事業部は「家電機器社」となった。「家電機器社」は,その「本社」機能を受け持つ事業所を東京都港区に置くほかは,大阪工場と愛知工場を有するだけであった。

原告は,本件配転命令当時,補助参加人らを含む東芝キヤリア社に出向中の従業員をカンパニーとしては「家電機器社」に所属する者と取り扱っており,補助参加人らもそのように認識していた。

なお,原告は,本件配転命令当時,神奈川県内に柳町事業所,小向工場,京浜事業所,横浜事業所,マイクロエレクトロニクスセンター,生産技術センター,研究開発センター,首都圏南支社及び浜川崎工場の9の事業所を有していたが,当時の柳町事業所はカンパニー「e―ソリューション社」の所属であり,他の事業所もいずれも「家電機器社」以外のカンパニー又は本社部門(コーポレートと称する。)に所属するものであった。

(ウ) その後,カンパニー数は,各カンパニーの統合・細分化又は分社化により,平成12年4月に9,平成13年4月に10,平成15年4月に8,平成16年4月に6と変遷した。

エ(ア) 原告は,平成13年8月27日,平成14年3月末決算(単体)が1020億円の損失と予想されたことを受けて,競争力強化,軽量化経営等を柱とする「01アクションプラン」を策定し発表した。これは,国内生産拠点の統廃合による削減,アウトソーシングの拡大,国内従業員(関連会社を含む。)14万4000名(原告単体では5万3202名)を平成16年3月末に12パーセント削減して12万7000名とすること等を内容とするものであった。

(イ) 原告は,「01アクションプラン」を受けて,従業員の削減に努め,国内従業員数(括弧内は原告単体の従業員数)は,平成14年3月末に13万1000名(4万5649名),平成15年3月末に12万7000名(3万9875名)に減少した。なお,神奈川県内の柳町事業所を含む9の事業所の従業員数は,平成13年3月末の1万6168名から,平成14年3月末に1万3570名,平成15年3月末に1万1141名と減少した(平成13年3月末に比し31パーセント減)。

(5)  本件配転命令に至る経緯

ア 原告は,平成12年9月1日,東芝労組本部との間で,事業の移管・分離等に伴い本人の同意を得て他会社へ転籍する組合員の取扱いにつき,転籍時の基準賃金は原則として転籍直前の原告基準による額を下回らないものとすること等を合意し,その旨の協定書を取り交わした。

イ 原告は,東芝キヤリア社に出向中の従業員を平成14年4月1日付けで東芝キヤリア社に転籍させる方針であり,平成13年3月27日,東芝労組本部に対し,人事勤労部及び「家電機器社」の連名による作成名義の「東芝キヤリア(株)への転籍条件について」と題する書面を示して,提案した。この提案によれば,転籍後の労働条件は,ほとんどが転籍前と同一又はほぼ同一となっていた。なお,柳町事業所勤務者は,転籍後も柳町事業所に勤務することとされていた。原告のこの提案を受けて,東芝労組柳町支部は,コンプレッサ対策委員会を開催して検討を進め,同年11月22日,原告の提案を基本的に了解することを確認して,東芝労組本部及び原告に回答した。この回答の際,東芝労組柳町支部は,「転籍にあたっては,本人の意思や状況を十分に尊重していただき,個別事情により転籍が困難な場合は『東芝・東芝グループ内』に雇用・就業の場を確保してもらいたい。」と付記した。

ウ 東芝労組柳町支部の回答を受けて,柳町事業所の管理職は,対象従業員と個別面接を開始した。補助参加人らに対しては,同年12月4日及び平成14年2月21日,柳町事業所第2コンプレッサー部のL品質・技術担当グループマネージャーが個人面接を行った。補助参加人らは,当時中央労働委員会において賃金資格差別事件につき原告と係争中であり,転籍に応じて原告との労働契約が終了すると,その後賃金資格差別事件で救済が得られても無意味になると考えており,Lマネージャーに対し転籍には応じられない旨述べた。

なお,柳町事業所勤務者を含めて転籍対象従業員は2000名前後であったが,補助参加人ら以外は,全員転籍に同意した。

エ 「家電機器社」は,平成14年初旬当時には,東芝キヤリア社に出向中の従業員を同社に転籍させる準備を進めていたが,補助参加人らの同意が得られていなかったので,柳町事業所総務部のE(以下「E」という。)勤労厚生担当グループ長に対し,補助参加人らの同意を得るように依頼した。

なお,「家電機器社」の担当者は,原告の本社に対し,補助参加人らの受入先の有無を問い合わせたところ,青森県所在の東芝メディア機器株式会社しかない,また,受入れ可能な職場があったとしても,深谷工場の生産停止に伴う余剰人員約500人を優先しなければならないとの回答であった。現に,「家電機器社」は,深谷工場の生産が停止された事業を担当する他のカンパニーから従業員の受入れ要請を受けたが,「家電機器社」にその余裕はなかった。また,原告は,当時,「01アクションプラン」(上記(4)エ)に基づき,全社で人員削減に取り組んでいた。

オ Eグループ長は,平成14年2月28日,補助参加人らと個別面接を実施した。この中で,補助参加人らは,Eグループ長に対し,原告と係争中なので転籍に応ずることはできないと述べて,出向の延長又は川崎市・横浜市内の事業所への配転を要望した。これに対して,Eグループ長は,係争中という理由だけではやむを得ない個別事情とは判断できない,転籍に応じてもらいたい,転籍に応じなかった場合には,所属カンパニーである「家電機器社」が一義的に職場を確保することになるが,現時点では「家電機器社」として職場確保はしていない,全社的に受入れ可能な職場は青森県所在の東芝メディア機器株式会社しかないが同社を勧めるつもりはない,同年3月22日までに返事が欲しいと述べた。

カ Eグループ長は,同月4日,補助参加人らと2回目の個別面接を実施し,再度転籍に応ずるよう説得した。そして,Eグループ長は,補助参加人らから尋ねられて,転籍に同意しないなら転籍の業務命令を出すことになり,その場合,従わなければ業務命令違反になる可能性がある旨説明した。

キ これを受けて,補助参加人らは,同月6日,横浜地方裁判所川崎支部に対し,原告を債務者として,東芝キヤリア社への転籍命令発令の差止めを求める仮処分命令申立てを行った(以下「本件仮処分事件」という。)。原告は,同月14日の第1回審尋期日におけて,補助参加人らが転籍に応じなければ転籍を命ずる業務命令を出す予定である旨述べた。

ク Eグループ長は,同月22日,補助参加人らと3回目の個別面接を実施したが,補助参加人らの同意は得られなかったので,飽くまで転籍を拒否するなら東芝キヤリア社としても受入れが難しくなるので,復職先は「家電機器社」と調整する旨を説明した。

ケ 「家電機器社」は,補助参加人らが東芝キヤリア社への転籍を拒否し続けていたので,同月26日までには,「家電機器社」内,すなわち,その「本社」部門,大阪工場又は愛知工場で補助参加人らの職場を確保しなければならないと判断して,配置先を検討していた。その結果,「家電機器社」は,その「本社」部門は,重点的に人員削減が求められており,また,補助参加人らに全く経験のない業務であるので,不適当であり,大阪工場は,業績不振のため余剰従業員を愛知工場に応援として派遣している状態であったから,受入れ困難であると判断して,愛知工場に補助参加人らの受入れを要請した。愛知工場は,製造部門の外注業者による業務の一部の外注を取り止めて補助参加人らを受け入れることは可能である旨回答した。そこで,「家電機器社」は,補助参加人らを愛知工場に配転することを内定したが,Eグループ長に対しては,転籍に応ずるよう最後まで補助参加人らを説得することを依頼した。

コ 原告は,本件仮処分事件についての同月26日付け準備書面に「東芝キヤリア社の側において,あくまでも転籍に(ママ)拒否する者については同社としても業務運営上,その受入れを拒むことも考えられる事態となっている」「現時点では……当初予定した東芝キヤリア社への転籍命令と家電社部門を中心とした事業所への転勤命令の2つの選択肢のいずれを採るかを最終的に検討している状況にある」「仮に最終的に東芝キヤリア社への転籍を会社として命じた場合にも,債権者両名としては,それに不服であったとしても,拒絶のほかに,異議を留めて転籍したうえで本案訴訟ないしは保全訴訟で転籍命令の効力を争う途もある」と記載した。しかし,同日の本件仮処分事件第2回審尋期日の席上においては,原告は,東芝キヤリア社が,補助参加人らが転籍に応じないのであれば受け入れ難いと言ってきている,現時点では,雇用確保の観点から転籍命令ではなくカンパニー内の愛知工場又は大阪工場への配転命令を出す可能性が高い旨説明した。しかし,この場では,補助参加人らから転籍に応ずる旨の姿勢は示されなかった。

サ 「家電機器社」は,上記コの結果を受けて,同月27日,補助参加人らに対して翌28日に愛知工場への配転を内示するよう柳町事業所に依頼した。

シ 補助参加人らは,原告が愛知工場又は大阪工場という遠隔地への配転命令を出すと発言したこと(上記コ)を受けて,同月28日,Eグループ長に対し,原告が本件仮処分事件の準備書面で主張した途を選択し,原告が東芝キヤリア社への転籍命令を出すなら,異議をとどめて転籍に応じた上で法的に争うという途を選択すると記載した書面を提出した。しかし,Eグループ長は,「家電機器社」の依頼(上記サ)に従い,同日のその後,補助参加人らに対し,同年4月1日付けで愛知工場ランドリー製造課への配転を内示した。その際,Eグループ長は,最後まで東芝キヤリア社への転籍に同意を得るよう努力しようと考え,補助参加人らに対し,転籍の同意書と退職届の用紙を交付して,同日までにこれらを提出するなら東芝キヤリア社に転籍できるよう再度調整すると伝えた。

ス 原告は,同日,補助参加人らに対し,愛知工場ランドリー製造課への配転を命じた(本件配転命令)。補助参加人らは,本件配転命令に異議をとどめて応じた。また,補助参加人らは,同日,転籍の同意書と退職届の用紙を署名押印せずに返却し,東芝キヤリア社への転籍に異議をとどめて応じる旨再度表明した。本件配転命令等を報じた原告の社報は,補助参加人らの発令前の所属を「柳町事業所総務部,休職―東芝キヤリア(株)」と記載している。

なお,補助参加人らは,同月2日,本件仮処分申立てを取り下げた。

セ Eグループ長は,同月5日,赴任前のZ1に電話して,愛知工場に異動することで本当にいいのかと尋ねたが,Z1は,東芝キヤリア社への転籍に同意することはできない旨答えた。

ソ 補助参加人らは,活動を共にしている組合員らと共に,本件配転命令に至る過程において,「転籍には本人の同意が必要,納得できない転籍には『ノー』」と記載したビラ,原告の事業構造改革は経営者が責任を取らず労働者に経営施策の失策を押し付けるリストラである旨記載したビラ,賃金資格差別事件における被告の救済命令を報じて原告を批判する内容のビラ等を作成配布した。

(6)  本件配転命令後の補助参加人らの状況

ア 補助参加人らは,平成14年4月8日に愛知工場に着任した。Z1の妻は原告の横浜事業所,Z2の妻は原告の柳町事業所に勤務しており,補助参加人らは,愛知工場に単身赴任し,原告の寮に入居した。これに伴い,補助参加人らは,京浜地区において係争中の賃金資格差別事件に関する活動やその他の組合活動に支障・不便を受けている。

イ 補助参加人らは,愛知工場でランドリー製造課に配置され,ホームランドリー組立作業現場でのコンベアーによる水槽組立作業の一工程であるモータ取付作業に従事した。この水槽組立作業は,原告が株式会社ダイテックに外注に出しているものであり,補助参加人らは株式会社ダイテックの作業員十数名の中に入って作業に従事した。その後,補助参加人らの業務は,水槽組立作業から同作業で使用する組立部品を供給する部品組立作業に変更された。この作業も外注先企業の作業員と一緒に行うものであった。また,補助参加人らのこれらの作業は,いずれも立ち作業であった。補助参加人らは,このことにより,プライドを傷付けられて精神的にも苦痛を感じている。

なお,補助参加人らのこれらの作業は,従来下請会社に外注されていたものであるが,本件配転命令に際し,外注の一部を解消することにより用意されたものである(上記(5)ケ)。

ウ 補助参加人らは,本件配転命令に伴い,単身赴任者に支給される特別赴任手当月額4万7500円を支給された。しかし,他方,Z1は,事務技術職掌から技能職掌に変更され,職務給はKS職群1等級からCS職群7等級に降格となって月額8万4400円減額され,また,主務職を解かれたため賞与の中で支給されていた主務手当5万円も支給されなくなった。また,Z2は,事務技術職掌から技能職掌に変更され,職務給はKK職群4等級からCS職群7等級に降格となって月額6万8800円減額された。

ただし,補助参加人らは,職務給の減額分と同額の補償給の支給を受けている。この補償給は,職種変更,職掌変更等により職務給が減額となった場合に減額相当額を補償するために支給されるものであり,原告の一般的な取扱いによるものである。しかし,原告は,平成15年4月,補償給に関する取扱いを変更して,補償給受給者が昇給した場合には,昇給額の4分の3相当額を補償給の償却に充てることとした。その結果,補助参加人らは,昇給しても,実際の支給額はその4分の1にとどまることになった。

エ 原告は,平成15年3月7日,中期経営計画を策定し,「家電機器社」を含む複数のカンパニーを分社化すること等を発表し,同年10月1日,「家電機器社」の事業は,統括業務等を東芝コンシューママーケティング株式会社に移管し,開発製造業務を東芝家電製造株式会社に移管した。これに伴い,原告は,愛知工場勤務者に対し,1年間東芝家電製造株式会社に出向の上平成16年10月1日付けで東芝家電製造株式会社に転籍することを求めた。補助参加人らは,転籍に同意せず,京浜地区の職場への配転を求めた。

他方,原告は,平成15年7月2日,柳町事業所の事業を他の事業所に統合・移転し,東芝キヤリア社が柳町事業所で行っていたコンプレッサ製造業務は東芝キヤリア社の富士工場に移管して,柳町事業所を閉鎖する旨発表した。

補助参加人らは,本件救済命令後,原告に対し,再度京浜地区の事業所の事務技術職掌への配転を申し入れた。しかし,原告は,これに応じることなく,平成16年10月1日,補助参加人らに対し,東芝コンシューママーケティング株式会社の子会社となっていた東芝キヤリア社の富士工場コンプレッサ部門への休職出向を発令した。

この出向発令により,現在,補助参加人らは,自宅から新幹線を利用して東芝キヤリア社の富士工場に通勤し,Z1は製造部部品課でコンプレッサ部品のバリ取り作業等,Z2は製造部組立課で組立部品の供給作業等に従事している。補助参加人らは,現在も技能職掌のままである。

(7)  本件配転命令前後の他の人事異動

ア 電子複写機事業関係(C等)

平成11年当時,柳町事業所では画像情報機器事業部門のうちの電子複写機開発製造事業も行っており,Cはこの事業に従事していた。

原告は,同年1月1日,電子複写機事業を東芝テック株式会社に移管し,これに伴い,電子複写機事業に従事する従業員(柳町事業所勤務者は625名)を3年間の予定で東芝テック株式会社に出向させた。Cは,異議をとどめて出向に応じた。画像情報機器事業部門は,同年4月1日,カンパニー制の導入により,「デジタルメディアネットワーク社」となった。

その後,東芝テック株式会社は,平成14年1月1日付けで柳町事業所の事業を三島事業所(静岡県三島市所在)及び三福製作所に統合することとした。そこで,原告は,東芝テック株式会社に出向した従業員に対し,同日付けで東芝テック株式会社に転籍し,勤務地は三島事業所又は三福製作所(柳町事業所勤務者の大部分は三島事業所)とすることを提案した。これに対し,柳町事業所勤務のCほか合計39名の従業員が転籍に同意せず,そのうち18名が退職した。原告は,Cを含むその余の21名につき,同日付けで(Cは同年2月1日付け),その所属カンパニーである「デジタルメディアネットワーク社」内の青梅デジタルメディア工場(東京都青梅市所在)に配転した。Cは,異議をとどめて配転に応じた。

Cは,この配転により,事務技術職掌から技能職掌に変更となり,職務給はKK職群3等級からCS職群7等級に降格となって6万1100円減額された。また,C(川崎市居住)は,通勤時間が片道2時間近く長くなった。なお,C以外の20名中事務技術職掌であった8名も配転に伴い技能職掌に変更になった。その余の12名は,配転の前後を通じて技能職掌である。

イ 他の転籍拒否者

上記アのほか,関連会社への転籍を拒否した事例として,<1>平成14年4月の東芝GEオートメーションシステムズ株式会社への転籍を拒否した1名,<2>平成15年3月の東芝ディーエムエス株式会社への転籍を拒否した3名がいる(いずれも当時東京都内の事業所勤務)。原告は,<1>の者については,その所属カンパニーである「社会インフラシステム社」に属する東芝産業機器システム株式会社(名古屋市所在)に出向を命じ(出向の前後を通じて事務技術職掌のまま),<2>の3名のうち1名は,補助参加人らと共に賃金資格差別事件につき救済申立てをしたJであるが,Jに対しては,出向先の日野工場(東京都日野市所在)から所属カンパニーである「e―ソリューション社」内の府中工場(東京都府中市所在)に配転し(配転の前後を通じて事務技術職掌のまま。通勤時間は約30分短縮された。),その余の2名については,1名は所属カンパニーである「e―ソリューション社」に属する東芝ソシオシステムズ株式会社(秋田県所在)に出向を命じ(事務技術職掌から技能職掌に変更),他の1名は所属カンパニーである「社会インフラシステム社」に属する東芝産業機器製造株式会社(三重県所在)に出向を命じた(出向の前後を通じて事務技術職掌のまま)。

ウ 異なるカンパニー間の異動

原告は,カンパニー制導入後は,人事異動は従業員の所属カンパニー内で行うことを原則としており(上記(4)ウ),現に人事異動の大半は従業員の所属カンパニー内で行われている。平成13年3月1日から平成16年10月1日までの間に例外的に異なるカンパニー間で異動した従業員は,57名である。このうち,(ア)17名が社内公募(<1>原告又は東芝グループ各社が必要な人材を募集し,原告又は募集したグループ会社の従業員で希望する者が直接応募し,募集会社の選考に合格した者が募集元の部署・会社に異動するというグループ内公募,<2>原告の従業員が直接自己の希望する部門・職種を登録し,相手方部門の選考に合格した者が当該部門に異動するという社内FAチャレンジシステム)によるもの,(イ)15名が社内公募に準ずるもの(他のカンパニーが特定の資格等を有する従業員をその所属カンパニーに募集し当該従業員が異動に同意したもの),(ウ)12名が異なるカンパニー間での業務又は技術の移管・連携に伴うもの,(エ)11名がスタフ(ママ)部門に従事する従業員のローテーション人事によるもの(原告は,総務人事,経理,調達等の部門をスタフ(ママ)部門として,その従業員は一定期間ごとにカンパニーの枠を超えて全社内で異動させる方針を採っている。),(オ)2名が強化スポーツ選手に活動を続けさせるためのもの(当該従業員の勤務先事業所の事業が他の事業所に移管されたことに伴う措置)であった。

エ 本件救済命令後の事例

原告は,カンパニーである「社会ネットワークインフラ社」内の府中工場コンピューター製造部が平成17年12月末日をもって製造業務を終了することに伴い,同工場に勤務している従業員のうち37名の再配置が必要となった。そこで,原告は,その配置先として,「社会ネットワークインフラ社」内を中心とするが,雇用確保のため,他のカンパニーである「セミコンダクター社」や「e―ソリューション社」関係の東芝ソリューション株式会社も含めて検討している(原則として平成18年1月1日付けで再配置予定)。

2  不当労働行為の成否

以上の認定事実に基づき,本件配転命令が不当労働行為に該当するか否かにつき判断する。

(1)  原告の補助参加人らに対する認識

補助参加人らは,原告に入社直後から東芝労組に加入し,他の一部組合員らとともに政党支部名義等による職場新聞を作成・配布する等の活動を始めたところ,この活動は東芝労組の中では少数派による独自のものであった。原告は,当時から,主として管理職候補者に対する職場内外の研修を通じて,いわゆる左翼対策の浸透を図っていた。そして,原告は,昭和50年当時,補助参加人らを左派に属する問題のある者であると把握・認識し,注視していた。原告のいわゆる左翼対策は,平成年代に入っても存続した。

補助参加人らは,活動を共にしていたCら8名と共に,平成7年以降,毎年引き続いて,被告に対し,賃金資格差別事件につき不当労働行為の救済申立てを行い,また,平成10年以降には,原告の事業部門の関連会社への移管,事業所の統廃合,人員削減等の事業構造改革に反対を表明し,原告を批判するビラを作成・配布し続けている。賃金資格差別事件については,被告が平成13年4月に救済命令を発したが,原告は,中央労働委員会に再審査を申し立て,平成16年には,中央労働委員会が原告の不当労働行為を認定した救済命令を発したことに対し,東京地方裁判所に取消訴訟を提起して,補助参加人らの不当労働行為の主張を争う姿勢を維持している。

これらの事情を考えると,原告は,補助参加人らの入社後比較的早い時期から,補助参加人らを東芝労組の中でも独自の存在であり原告にとっても問題のある者であると認識し,その行動に関心を持って注視していたものであり,補助参加人らが望ましくない存在であるとの原告の認識は,平成14年の本件配転命令当時も変わることはなかったものと推認することができる。

(2)  本件配転命令による補助参加人らの不利益

補助参加人らは,愛知工場への本件配転命令により,単身赴任を余儀なくされ,事務技術職掌から技能職掌に変更となり,職務給も職群等級の大幅な降格により多額の減額となる等賃金が減額された(ただし,職務給の減額相当額は補償給により補填されている。)。また,補助参加人らの職務は,従来のデスクワークから単純な立ち作業になって肉体的な負担が増加し,しかも,従来の管理職的な地位で部下・後輩の指導もする立場からいわゆる平従業員として外注先企業の従業員の中に混じって単純作業に従事することとなり,精神的にも苦痛を受けている。さらに,補助参加人らは,愛知工場に赴任したことにより,平成7年以降C及び活動を共にしている他の組合員と共に京浜地区で原告と係争を続けている賃金資格差別事件の活動やその他の組合活動にも支障・不便を受けている。

このように,本件配転命令は,補助参加人らに対し,生活上,経済上,職務上及び組合活動上のいずれの面においても,少なからず不利益を与えたものである。

(3)  不当労働行為意思の有無

ア 本件配転命令の経過は,次のとおりであった。

原告は,補助参加人らが従事していた柳町事業所におけるコンプレッサ事業を含む空調・設備事業を東芝キヤリア社に移管したことに伴い,補助参加人らを含む空調・設備事業に従事する従業員約2000名全員に対し,平成11年4月1日付けで東芝キヤリア社に出向を命じた後,平成14年4月1日付けで東芝キヤリア社に転籍することを求めたが,補助参加人らは転籍に同意することを拒否し続けた。これを受けて,原告は,社内で補助参加人らを再配置することとしたが,カンパニー制により従業員の異動は当該従業員の所属カンパニー内で行うことを原則としていたので,当時補助参加人らが所属していた「家電機器社」が配置先を検討した。「家電機器社」は,その「本社」部門のほかは愛知工場と大阪工場を有するだけであり(神奈川県内には事業所を有していなかった。),「家電機器社」内の部署で補助参加人らを配置することが可能な職場は,愛知工場の製造部門で外注に出している業務だけであった。そこで,原告は,愛知工場製造部門の外注を一部解消して,平成14年4月1日付けで補助参加人らに愛知工場製造部門への本件配転命令を発令した。

なお,「家電機器社」は,補助参加人らを愛知工場に配転することを内定する過程において,原告の本社に対し,補助参加人らを配置することが可能な職場の有無を打診したが,当時,原告は全社的に従業員数を2年半で12パーセント削減する計画を実施中であり,補助参加人らを配置することが可能な職場はない旨の回答であった。また,補助参加人らは,本件配転命令の直前である同年3月28日,Eグループ長に対し,原告が東芝キヤリア社への転籍命令を出すなら,異議をとどめて転籍に応じた上転籍命令を法的に争うと表明したが,その時点では,原告はすでに本件配転命令を内定しており,また,東芝キヤリア社も転籍命令を争う姿勢を維持していた補助参加人らの受入れに難色を示していたものである。

イ 原告が空調・設備事業を東芝キヤリア社に移管したことに伴い,配転命令を発令したのは補助参加人らに対してだけであるが,これは,空調・設備事業に従事する従業員のなかで転籍に同意しなかったのは補助参加人らだけであったことによるものであり,他の従業員は全員同意して,東芝キヤリア社に転籍している。また,Eグループ長は,本件配転命令発令当日,補助参加人らに対し,転籍の同意書等を交付して,同意するなら東芝キヤリア社への転籍を再度調整すると伝え,さらに,本件配転命令後の同年4月5日,Z1に対し,愛知工場で本当にいいのかと意向を尋ねており,最後まで東芝キヤリア社への転籍に同意するよう説得している。これは,補助参加人らが転籍に応じないことを奇貨として補助参加人らを遠隔地に配転しようとの積極的な意図とは整合しない言動である。

ウ 関連会社への転籍に応じなかった他の従業員に対する原告の取扱いをみると,原告は,電子複写機事業を東芝テック株式会社に移管したことに伴い,電子複写機事業に従事する従業員に対し,平成14年1月1日付けで東芝テック株式会社に転籍することを求めたが,転籍に応じなかった従業員21名(退職者を除く。)については,その全員を所属カンパニー内の青梅デジタルメディア工場に配転した(この配転により,事務技術職掌であった9名は全員技能職掌に変更された。)。この21名の中には,補助参加人らと活動を共にしているCが含まれているが,他の20名が賃金資格差別事件等において補助参加人らと活動を共にしているとの事実を認めるに足りる証拠はない。

また,原告は,本件配転命令当時,他の関連会社への転籍に応じなかった4名の従業員についても,その所属カンパニーの範囲内で配転又は出向を命じている。このうちの3名は,東京都内の事業所から名古屋市,秋田県又は三重県にある事業所への出向であり(そのうちの1名は事務技術職掌から技能職掌に変更),他の1名は,賃金資格差別事件において補助参加人らと活動を共にしているJであるが,Jについては,事務技術職掌に変更はなく,所属カンパニー内の府中工場に配転の結果,通勤時間は短縮されている。なお,東芝賃金資格差別提訴団のビラ(<証拠略>)には,Jの配転は被告での補助参加人らの不当配転撤回の闘いの成果であると記載されている。

このように,関連会社への転籍に応じなかった従業員についてその所属カンパニーの範囲内で再配置することは,補助参加人らだけに対する取扱いではなく,本件配転命令当時における原告の一般的な取扱いであった。しかも,補助参加人ら以外にも遠隔地に配転された従業員も存在しており,これらの従業員が賃金資格差別事件等において補助参加人らと活動を共にしているとの事実を認めるに足りる証拠はなく,他方,補助参加人らと活動を共にしているJについては通勤が便利になる府中工場に配転されており,原告が配転に当たり賃金資格差別事件におけるJの活動を抑制しようとの意図を有していたとは認め難い。

エ 他方,異なるカンパニー間での異動の実情をみると,原告は,カンパニー制の下においても,本件配転命令の前後3年半の間に,57名の従業員を異なるカンパニー間で異動させている。しかし,これらの異動は,すべて,本人が希望し受入先が選考するとの社内制度に基づくもの,総務,人事等の管理部門等に従事する従業員は全社的な異動の対象とするとの原告の人事方針に基づくもの等特別な事情によるものであり,しかも,原告の従業員数は4万人前後であるから,異なるカンパニー間の異動は,相対的に極めて少なく,例外的なものであった。

オ 原告は,本件配転命令の過程において,補助参加人らが繰り返し求めていた神奈川県内の事業所への配転の可能性について検討していないが,カンパニー制の下においては,従業員の所属カンパニー内で異動させることが原則であり,本件の場合も,この原則に従い,補助参加人らの所属カンパニーである「家電機器社」内での異動を検討したものであり,「家電機器社」は神奈川県内に事業所を有していなかった。また,神奈川県内の事業所は,原告の人員削減策に基づき,当時,人員削減を進めており,平成13年3月から平成15年3月までの間に従業員を5027名(31パーセント)削減したのであるから,その間の本件配転命令当時,他のカンパニーに属する従業員を受け入れる余裕があったとは認め難いところである。

カ 補助参加人らは,本件配転命令当時,柳町事業所総務部に所属しており,「家電機器社」に所属してはいなかったと主張し,その供述及び陳述書(<証拠略>)にはこれに沿う部分がある。そして,人事異動を掲載した原告の社報(<証拠略>)は,補助参加人らが東芝キヤリア社に出向後本件配転命令までの間につき,柳町事業所総務部に所属し休職の上東芝キヤリア社に出向の旨記載している。

しかし,<1>カンパニー制の下においては,原告(本社部門は除く。)の従業員はいずれかのカンパニーに所属するものであるが,柳町事業所やその総務部そのものはカンパニーでないこと,<2>補助参加人らが所属していた空調・冷凍機器事業部門は,東芝キヤリアへ(ママ)の移管により,原告の組織からは消滅したが,その直前までは白物・小型家電事業部門とともに住空間システム事業本部を構成しており,白物・小型家電事業部門(平成10年10月以降は家電機器事業部)はカンパニー制の導入により「家電機器社」となったところ,空調・冷凍機器事業部に所属していた従業員がカンパニー制の導入により他のカンパニーに所属することとなった事実を認めるに足りる証拠はないこと,<3>原告は,平成13年3月27日,東芝労組本部に対し,人事勤労部及び「家電機器社」の連名で,当時東芝キヤリア社に出向中の従業員(出向前は空調・冷凍機器事業部に所属)の転籍条件を提案したこと,<4>本件配転命令は,「家電機器社」が中心となって検討したこと(ただし,補助参加人らへの説明等は,補助参加人らが勤務していた柳町事業所の総務部が行った。),<5>補助参加人ら自身も,被告における本件の審問(<証拠略>)及び緊急命令に関する上申書(<証拠略>)において,本件配転命令当時「家電機器社」に所属していたと認識している旨を供述していることから考えて,補助参加人らは,本件配転命令当時,カンパニーとしては「家電機器社」に所属していたものと認められるから,補助参加人らの上記主張は,採用することができない。

キ 以上によれば,原告は本件配転命令当時も補助参加人らを問題のある者と認識しており,本件配転命令は補助参加人に多くの面で不利益を与えるものであるが,本件配転命令は原告のカンパニー制に基づく一般的な取扱いによるものであり,原告は,従業員の関連会社への出向・転籍や転籍拒否者に対する取扱いについて,補助参加人らとは活動を共にしていない他の従業員と比較して,補助参加人らだけを特別扱いして,他の従業員よりも特別に不利益な取扱いをしたわけではなく,かえって補助参加人らと活動を共にしているJについてはカンパニー制の原則に従った結果通勤に便利な事業所に配転しているのであるから,本件配転命令に当たって,賃金資格差別事件に関する補助参加人ら等の活動を抑圧しようとの意図を有していたとは認め難く,補助参加人らの賃金資格差別事件の活動その他の組合活動を決定的な動機として本件配転命令をしたものとは認められない。

なお,本件配転命令には愛知工場の人員不足,業務拡大等の積極的な業務上の必要性はなかったが,原告は,東芝キヤリア社への転籍に応じなかった補助参加人らを原告の内部で配置するために本件配転命令をしたものであり,積極的な業務上の必要性はなかったことは,上記判断の妨げとなるものではない。

(4)  以上によれば,補助参加人らに対する本件配転命令は,原告に不当労働行為意思があったとは認められないから,労働組合法7条1号に該当する不当労働行為であるとは認められない。

3  結論

したがって,本件配転命令が不当労働行為であると認定判断した本件救済命令第1項及び第2項は違法であるから,これを取り消すこととし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 菊池洋一 裁判官 小川理津子 裁判官 中野智昭)

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