横浜地方裁判所 平成17年(わ)114号 判決 2005年3月04日
主文
被告人を懲役5年に処する。
未決勾留日数中30日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,平成16年7月9日午後5時5分ころ,横浜市e区f町g番地先路上に停車中の現金輸送車内から,A株式会社代表取締役B管理に係る現金1億5667万4324円を窃取したものである。
(証拠の標目)
省略
(法令の適用)
省略
(量刑の理由)
本件は,現金輸送車の運転手として現金輸送業務に従事していた被告人が,同車内から現金を盗んだ事案である。
被告人は,競輪にのめり込んで500万円ないし600万円の借金を作り,その返済に窮した挙げ句,本件犯行に及んだものであり,身勝手な動機に酌量の余地はない。犯行態様は,勤務先で事前に発表される走行ルート等を勘案して犯行日を決め,当日の現金回収が終了した後に,現金輸送車に同乗していた同僚を言葉巧みに欺いて下車させた上,同車を自宅近くに移動させ,事務所から持ち出した合鍵を使用してその金庫を開け,大きさや重さから現金が多く入っているであろう現金収納袋3袋を選んで運び出すというものであるが,職務上得た知識を利用して敢行した計画的かつ極めて大胆な犯行である。被害金額は1億5667万4324円と莫大な額に達しており,結果は余りに重大である。被害会社の関係者は,被告人に裏切られ,財産面及び信用面で多大な不利益を被ったとして,一様に被告人の厳重処罰を希望している。本件が報道されたことによる社会的影響も軽視できない。加えて,被告人は,窃取した現金のうち約6700万円を持って逃走し,逮捕されるまでの約半年間に,借金返済や,競輪,競馬,貴金属の購入等の遊興のためにその大半を費消しており,規範意識の鈍磨は甚だしいものがある。以上の諸事情に鑑みれば,被告人の刑事責任は重大であって,この際相当期間矯正施設に収容することとなるのはやむを得ないというべきである。
しかしながら,他方で,被告人宅に遺留されていた現金約8955万円が還付されたほか,被告人が逮捕時に所持していた現金約447万円及び貴金属類が被害会社に交付され,窃取金を原資とした貸付債権も被害会社に譲渡されており,現時点で可能な被害回復の措置が採られていること,被告人は事実を素直に認め,自己の愚かな行為を反省悔悟し,今後働いて弁償を続けていく旨誓約していること,前科前歴が一切なく,日頃の勤務態度も概ね良好であったことなど,弁護人指摘の斟酌すべき事情も存する。
そこで,これら諸般の事情を総合考慮して,主文の刑を量定した次第である。
よって,主文のとおり判決する。
(検察官名畑友紀,国選弁護人伴広樹 求刑懲役7年)
(裁判官 足立勉)