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横浜地方裁判所 平成17年(わ)2930号 判決 2006年2月13日

主文

被告人を懲役7年に処する。

未決勾留日数中150日をその刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第1  金品窃取の目的で、平成17年5月8日午後11時35分ころ、神奈川県相模原市(省略)A方居室に西側腰高窓の施錠を外して侵入し、そのころ、同所において、同人所有又は管理の現金約13万円及び財布1個ほか20点在中のハンドバッグ1個ほか9点(時価合計約4万3600円相当)を窃取した

第2  就寝中の上記Aを強いて姦淫しようと企て、同日午後11時45分ころ、同女方居室に上記窓から侵入し、そのころ、同所において、同女(当時34歳)に対し、その頚部に包丁(刃体の長さ約17.3センチメートル)を突き付け、「騒ぐと刺すぞ。」などと言って脅迫し、その反抗を抑圧し、下半身を裸にさせた上、強いて姦淫しようとしたが、陰茎が勃起しなかったため、その目的を遂げなかった

第3  金品窃取の目的で、同年5月11日午前11時45分ころ、同市a3丁目34番6号D方居宅に北側掃出窓のガラスをドライバーで破壊し施錠を外して侵入し、そのころ、同所において、E所有又は管理の現金約2万円及び同人名義のバンクカード1枚ほか4点在中の財布1個(時価合計約3万円相当)を窃取した

第4  同日午後零時4分ころ、同県座間市相武台1丁目4753番地1株式会社みずほ銀行小田急相模原支店相武台出張所において、先に窃取したE名義のバンクカードを使用し、同所に設置された現金自動預払機から同支店長F管理の現金99万円を引き下ろして窃取した

第5  金品窃取の目的で、同年6月23日午前10時ころ、同県相模原市b6丁目4番12号ファミール山下×××号室G方居室に北側腰高窓のガラスをドライバーで破壊し施錠を外して侵入し、そのころ、同所において、同人ほか1名所有又は管理の財布2個ほか15点(時価合計約4100円相当)を窃取した

第6  前同様の目的で、同日午後零時ころ、同市c5丁目14番36号シティハイム大沢×××号室H方居室に玄関横の腰高窓のガラスをドライバーで破壊し施錠を外して侵入し、そのころ、同所において、同人ほか1名所有又は管理の現金約3万6000円及び財布1個ほか11点(時価合計約7000円相当)を窃取した

第7  前同様の目的で、同月30日午後8時25分ころ、同県座間市d5丁目4番11号グリーンハウス×××号室I方居室に玄関横の無施錠の腰高窓から手を入れて玄関ドアの施錠を外して侵入し、そのころ、同所において、同人所有又は管理の現金約3500円在中の財布1個ほか25点(時価合計約3万500円相当)を窃取した

第8  金員窃取の目的で、同月下旬ころ、同市d1丁目16番6号ブライト×××号室J方東側居室の掃出窓のガラスをドライバーで破壊し、同所から同室内に侵入しようとしたが、同窓を開けることができなかったため、侵入の目的を遂げなかった

第9  金員窃取の目的で、同年7月2日午後8時40分ころから同日午後8時42分ころまでの間、2回にわたり、同市e3丁目4877番地の11ピーチロフト×××号室K方居室に無施錠の掃出窓から侵入し、そのころ、同所において、L所有又は管理の預金通帳1通ほか3点(時価合計約600円相当)を窃取した

第10  同月5日午前9時20分ころ、同県相模原市(省略)C方において、就寝中のB(当時14歳)を認めるや、強いて同女を姦淫しようと企て、同女に対し、その頚部に包丁(刃体の長さ約16.0センチメートル)を突き付け、「騒ぐと刺すぞ。」などと言って脅迫し、その反抗を抑圧し、全裸にさせた上、強いて姦淫しようとしたが、陰茎が勃起しなかったため、その目的を遂げなかった

ものである。

(証拠の標目)(省略)

(法令の適用)

被告人の判示第1、第3、第5ないし第7、第9の各所為のうち、各住居侵入の点は刑法130条前段(同第9については包括して)に、各窃盗の点は同法235条(同第9については包括して)に、同第2の所為のうち、住居侵入の点は同法130条前段に、強姦未遂の点は同法179条、177条前段に、同第4の所為は同法235条に、同第8の所為は同法132条、130条前段に、同第10の所為は同法179条、177条前段にそれぞれ該当するところ、判示第1、第3、第5ないし第7、第9の各住居侵入と各窃盗との間及び同第2の住居侵入と強姦未遂との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので、同法54条1項後段、10条によりいずれも1罪として、判示第1、第3、第5ないし第7、第9については重い窃盗罪の刑で、同第2については重い強姦未遂罪の刑でそれぞれ処断することとし、判示第8の罪について所定刑中懲役刑を選択し、以上は、同法45条前段の併合罪であるから、同法47条本文、10条により刑及び犯情の最も重い判示第10の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役7年に処し、同法21条を適用して未決勾留日数中150日をその刑に算入し、訴訟費用は、刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

本件は、侵入盗6件(判示第1、第3、第5ないし第7、第9)、現金自動預払機からの現金盗1件(判示第4)、窃盗目的の住居侵入未遂1件(判示第8)、住居侵入、強姦未遂1件(判示第2)、強姦未遂1件(判示第10)の事案である。

窃盗等の犯行は、被告人が定職に就かず無為徒食の生活を送るうち、金銭に窮し、遊興費欲しさから及んだものであって、犯行の経緯、動機に酌むべき事情はない。犯行の態様をみても、留守宅を狙い、ドライバーで窓ガラスを割って施錠を外すなどして土足のまま侵入し、現金やバンクカード等を盗み出し、窃取したバンクカードを利用して直ちにATMから多額の現金を引き出すなどという手慣れたものであって、被告人にはこの種犯行の常習性も窺える。しかも、窃盗の被害額は合計約130万円と多額である。

強姦未遂等の犯行は、被告人が、侵入盗を働いた居室内で就寝していた女性を認め(判示第2)、あるいは、訪問先の女性の家で、同女の娘が就寝しているのを認めた(同第10)ことから及んだもので、いずれも甚だ身勝手な動機に基づく犯行であり、酌むべき事情がない。犯行の態様をみても、被告人は、自宅で就寝していた被害女性らに対し、頚部に包丁を突き付け、「刺す」と言うなどの強度な脅迫を加えて反抗を抑圧し、裸にし手淫をさせるなどして姦淫しようとしており、同女らの人格を踏みにじった卑劣な犯行である。何の落ち度もない被害女性らが受けた恐怖感、嫌悪感、屈辱感は大きいのに、被告人は謝罪の手紙を送付しただけで、同女らに十分な慰謝の措置を講じておらず、同女らは被告人の厳重処罰を求めている。

このような本件各犯行の罪質、態様、経緯、動機、件数、被害額、被害者の処罰感情等に鑑みると、被告人の刑事責任は重いというべきである。

しかしながら、他方、強姦については幸いいずれも未遂に終わっていること、判示第4の窃盗の被害金99万円については弁償がなされており、その余の窃盗の被害物品の多くが被害者に返還されていること、被告人には前科がなく、事実を素直に認め、弁護人を通じ強姦未遂の被害女性両名に謝罪の手紙を送付するなどして反省の態度を示していること、実父が今後の監督を誓約していることなどの被告人に有利な事情も存するので、これらの事情を総合考慮した上、被告人については主文掲記の刑を科すのが相当と判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(国選弁護人加藤圭一 求刑懲役10年)

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