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横浜地方裁判所 平成17年(ワ)1904号 判決 2007年1月18日

主文

1  原告らの各請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1  請求

一  被告は,原告有限会社いっしきに対し,585万9616円及びこれに対する平成17年6月11日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

二  被告は,原告一色治雄に対し,715万円及びこれに対する平成17年6月11日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2  事案の概要

本件は,原告有限会社いっしき(以下「原告会社」という。)の工場において,原告会社が所有又は保管する車の盗難事故及び損壊事故が発生したとして,①原告会社が,被告との間で締結した自動車保険及び賠償責任保険に基づき,保険金585万9616円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成17年6月11日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払を求め,②原告一色治雄(以下「原告一色」という。)が,三井大也(以下「三井」という。)が被告との間で締結した自動車総合保険に基づく保険金請求権の譲渡を受けたとして,保険金715万円及びこれに対する平成17年6月11日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  (前提となる事実)

1  当事者

原告会社は,自動車の販売,自動車の鈑金,修理,塗装及びポリマシーク業などを目的とする有限会社である。原告会社は,平成16年2月15日,神奈川県平塚市徳延<番地略>から,神奈川県高座郡寒川町倉見<番地略>に本店を移転した(以下,同所に所在する原告会社の工場(事務室を含む。)を「本件工場」という。)。原告一色は,平成14年11月まで原告会社の代表者をしていた。二宮明男(以下「二宮」という。)は,それ以後,原告一色から原告会社の経営を任されて代表取締役に就任した。(甲30)。

2  保険契約(争いがない)

(一) 原告会社と被告は,以下のような内容の自動車保険契約(以下「本件契約1」という。)を締結した。

契約者 原告会社

契約車両 横浜301ひ****トヨタセンチュリー(以下「本件センチュリー」という。)

保険種類 車両保険(車両保険金490万円)

証券番号 <略>

期間 平成15年10月21日~平成16年10月21日

(二) 三井と被告は,以下のような内容の自動車総合保険契約(以下「本件契約2」という。)を締結した。

契約者 三井

契約車両 足立330て****メルセデスベンツ(以下「本件ベンツS」という。)

保険種類 車両保険(車両保険金715万円)

証券番号 <略>

期間 平成15年7月2日~平成16年7月2日

(三) 原告会社と被告は,本件工場について以下のような内容の自動車管理賠償責任保険契約(以下「本件管理賠償保険契約」という。)を締結した。

契約者 原告会社

保険種類 自動車管理賠償責任保険(保険金額1500万円)

証券番号 <略>

期間 平成16年3月30日~平成17年3月30日

(四) 原告会社と被告は,以下のような内容の自動車保険保険契約(以下「本件契約4」という。)を締結した。

契約者 原告会社

契約車両 湘南332ね****トヨタセルシオ(以下「本件セルシオ」という。)

保険種類 車両保険(車両保険金800万円)

証券番号 <略>

期間 平成15年10月21日~平成16年10月21日

3  保険約款

(一) 本件契約1,2及び4の約款には,「当会社は,衝突,接触,物の飛来……盗難その他偶然な事故によって保険証券記載の自動車に生じた損害に対して被保険者に保険金を支払う」との規定がある(乙4の1,2)。

(二) 本件管理賠償保険契約の約款には,「当会社は,偶発的な事故により被保険者が管理する他人の自動車を,自動車が保険証券記載の保管施設内に保管されている間に損壊し,または紛失,盗取もしくは詐取されたことにより,自動車について正当な権利を有する者に対し,被保険者が法律上の賠償責任を負担することによって被る損害をてん補する。」という条項がある(乙4の3)。

4  債権譲渡(争いがない)

三井は,原告一色に,平成17年4月28日,本件契約2に基づく車両保険金請求権を債権譲渡した。

5  保険事故の申告(争いがない)

原告会社から被告に対し,次のとおりの申告があった。

(一) 平成16年3月14日,本件工場に置いてあった本件センチュリー,本件ベンツSが,何者かに盗難された(以下「本件第1事故」という。)。

(二) 平成16年7月5日午後8時15分から同月6日午前9時25分ころ,本件工場に置いてあったメルセデスベンツ湘南330せ****(以下「本件ベンツC」という。)及び本件セルシオが何者かに窓ガラスが割られる等の事故に遭った(以下「本件第2事故」という。)。

本件ベンツCは,前記2(三)の自動車管理賠償責任保険の対象車両となるものである。

二  (争点)

本件の争点は,①本件第1事故の発生の有無,②本件第1事故の免責事由の有無,③本件第2事故の発生の有無,④本件第2事故の免責事由の有無,⑤損害額であり,争点に関する当事者双方の主張は以下のとおりである。

1  争点①(第1事故の発生の有無について)

(原告らの主張)

原告会社は,本件工場内に本件センチュリー及び本件ベンツSを置いていたところ,平成16年3月14日の夜間ないし同月15日早朝に,両車両を何者かに盗難された。このことを詳論すると,以下のとおりである。

(一) 本件第1事故の経緯

本件第1事故の経緯は以下のようなものである。

本件センチュリーは,原告会社が,平成16年3月4日,有限会社E(以下「E」という。)を通じてオークションで落札し,515万円で購入したものである。

本件ベンツSは,平成16年3月13日,原告会社の得意客である三井から,修理のために預かったものである。その具体的な経過は以下のとおりである。

平成16年3月8日,原告会社は三井からシーマを預かっていた。同月13日午後8時過ぎころ,三井から「ベンツが駐車場で当て逃げされたので,直してもらえないか。シーマの納車はいつか」という電話があった。二宮は,「もしかしたら明日の夕方できるかも」と答えたところ,三井が「その方が都合があうから明日何とか頼みます」とのことだったので,二宮は「頑張ります」と答えた。同月14日午後2時ころ,二宮は「何とか仕上がりますから,4時過ぎには,こっちを出れそうですよ」と電話をし,午後4時過ぎころ,シーマを運転して,午後5時30分ころ三井のところに到着し,シーマを納車するとともに,本件ベンツSの修理箇所をチェックして預かり,午後7時ころ本件工場に入庫した。

同月15日午前8時ころ,海老名警察署から原告一色に対して,相模川の河川敷に原告一色の手紙や三井のゴルフバッグが放置されているとの連絡があった。原告一色は,二宮に,本件工場の様子をみるように指示した。

二宮が本件工場に,同日午前8時45分ころに到着したところ,ドアの窓が破られてドアの鍵は外され,工場のシャッターは開いたままの状態であり,事務所内の机の引き出しも荒らされ,自動車の鍵箱も開けられ,机の引き出しの中にあった本件センチュリーの鍵及び本件工場内の鍵入れに保管されていた本件ベンツSの鍵は取り出されてしまっており,2台とも工場内から持ち去られていた。二宮は,すぐに茅ヶ崎警察署に盗難届を出した。

本件ベンツSに関しては,ETCカードを装着したままであったため,その後送付されたご利用明細により,同日未明首都高速狩場料金所を通過していることが判明した。

このように,本件センチュリー及び本件ベンツは盗難されたものである。盗難されたことは,以下のことからもわかる。

(二) 本件センチュリーに関して

本件センチュリーに関しては,購入後板金修理をし,さらに平成16年3月16日には,金目トヨタにエアサスペンションの点検修理の予約を入れていた。

本件センチュリーの購入金額が515万円であるのに,車両保険金額は490万円であり,購入金額よりも安くなっている。盗難が原告らの自作自演であるとすれば,本件センチュリーは25万円以上で処分できなければ原告らに何のメリットもない。しかし,新聞報道等によると,外国人グループと連携している暴力団員らの自動車窃盗グループでも高級車やRV車を1台10万円前後でしか処分できない。まして,「プロ」でない原告らが25万円以上の高い値段で売りさばくのは困難である。

そもそも,中古車販売業者が参加するようなオークションでの購入値段が515万円であるから,普通にエンドユーザーに転売すれば,利益を得ることができる。エンドユーザーに販売して得られるであろう以上の利益を盗難を偽装することで得られなければ,盗難を偽装するメリットはない。

被告は2週間前に購入した本件センチュリーが盗難されるのは不自然というが,盗まれるのに自然な期間などない。

被告は,原告一色がセンチュリーを本件工場に保管していたことが不自然であるという。しかし,本件センチュリーはEを通じて原告会社が515万円で購入した自動車であること,原告一色が屋根付きの駐車場所として本件工場に駐車していたというのであり,このセンチュリーに関して大切に保管していたと考えれば,別段不自然でない。

(三) 本件ベンツSに関して

三井が本件ベンツSの実質的所有者であったことは明らかである。本件ベンツSをロリンザー仕様に改装したのも三井である。

被告は,ロリンザーへの改装の際の原告会社から被告への請求書に,引越後の寒川町の住所の入った印が押されていることを指摘する。しかし,これは,この請求書は控えであったため判子が押していなかったところ,判子がなくては証拠にならないと二宮が思って,判子を押したものにすぎない。

ロリンザーへの改装とは別に,平成16年1月にも,約27万円をかけて修理されている。

三井が実質的所有者となってからの名義変更も車庫証明やナンバー変更の便宜のために過ぎない。

本件ベンツSの車両保険金額は,金715万円であったところ,ロリンザー仕様のメルセデスベンツS500Lであれば,保険金額以上の値段で転売することは可能であり,盗難を偽装するメリットがない。

ベンツSに関する車両保険金及び携帯品特約分の保険金合計金745万円について,被告から支払がないため,原告一色は,保険金額に相当する金額について三井に立て替えて支払った。すなわち,平成16年4月14日に418万円,同年5月25日に200万円,同年7月3日に127万円と3回にわたって,合計745万円を支払っている。被告は,これらの支払の領収書に関して疑問を呈しているが,これは,二宮が持参した領収書用紙に三井が記入したものであり,何の問題もない。

(四) 本件工場に関して

高級車専門の修理工場であっても,外観だけからでは高級車を預かっているとわからない。わざわざ高級車がありますよとひけらかし,泥棒の格好の標的になろうとする修理工場の方が珍しい。

修理工場も昼間作業中は工場の内部をのぞくことができるため,高級車を預かっていることがわかる。本件工場についても,その昼間作業中はシャッターが開いている。本件工場内に高級車が存在することは,昼間に本件工場の前を通りかかれば,誰でもわかることである。

また,原告会社は工場外にも自動車を駐車させていた。昼間に本件工場の前を通れば,原告会社が自動車関係の仕事をしていることは,誰の目から見ても明らかである。本件は,たまたま停めていた自動車が盗まれたのとは,全く事情が異なる。自動車が必ず存在することが分かっている場所から自動車が盗み出されたのである。

工場の小さな窓を割って侵入している点が不自然であるという被告の主張も,他の侵入経路が人から発見されやすいものであることを考えれば,不自然とはいえない。

(五) 保険契約及び本件工場の防犯について

自動車保険に関して,原告会社は,被告(契約当時は安田火災海上保険株式会社)との間で,代理店(トータルライフ)を通じ,本件事故以前から10年以上も保険契約をし,三井などの顧客に紹介していた。本件第1事故には,原告会社と被告会社との間で,保険金を巡る紛争はなかった。三井も,被告会社と本件ベンツSについて,本件契約2以前から自動車保険契約を締結しており,本件契約2は何回目かの更新契約である。

本件第1事故が起きるまでは,原告会社の工場に保管してある自動車の鍵も,本件工場内の鍵入れに保管していた。本件第1事故が発生した後,原告会社は,夜間休日など無人になるときには,自動車の鍵を持ち帰るようにし本件工場内に鍵は置かないようにしていた。他人の自動車を保管していて同様の被害が起きたときに備えて,自動車管理賠償責任保険にも加入した。さらに,本件工場内にある自動車を出しにくくするために,出入り口付近に自動車を1台停めるようにしていた。

本件第2事故が起きてからは,警備保険会社とも契約している。

(六) 別件事件について

原告会社は,別件事件のベンツSをI商事有限会社から750万円で購入し,これをS工業に諸費用等込みで800万円で売却したにすぎず,転売利益として20万円弱の利益を得たにすぎない。

(被告の主張)

原告ら主張の本件第1事故の発生は否認する。本件第1事故は,三井,原告一色,原告会社の代表取締役である二宮らの自作自演である。このことは,以下のことから理解できる。

(一) 犯人が本件工場に目を付ける可能性について

本件第1事故の約1か月前である平成16年2月15日に原告会社は本件工場に平塚から移転してきたばかりであること,本件工場の外には国産車ばかりしか置いておらず,本件工場には修理工場の看板もなく,外の車に値札がついているわけでもないことから,本件工場の外観からは高級車があるとはわからないため,内部事情に詳しい者の手引き・情報提供がなければ,犯人はこの工場に目をつけることができない。

本件センチュリーはわずか約2週間前に購入したばかりであり,最大で10日程度しか本件工場に駐車していなかった。本件ベンツSは本件第1事故発生当日に入庫したばかりである。本件センチュリーが駐車する前にはめぼしい車両は存在しなかった。したがって,犯人が,本件工場の高級車を発見する機会は短期間しかなかった。犯人が,その短期間の間にたまたま本件センチュリー・本件ベンツSを発見し,十分な下調べを繰り返すことなく犯行に及んだ,あるいは,たまたま本件工場に侵入し,たまたま本件センチュリー・本件ベンツSを発見したというのは,偶然すぎる。窃盗団はどうして本件工場内に高級車があることが分かったか。内部に通じたものでないと到底不可能である。この窃盗犯はよほど本件工場に精通しているとしか考えられない。

本件工場のような修理工場を自動車窃盗団が狙うこと,修理工場にある自動車を盗むことは不自然である。修理工場にある車は修理中のものであり,盗んでも修理するまでは売りさばけず,窃盗団からみて能率が悪い。また,修理が終了すれば出庫してしまうので,盗取しようと出かけたところ,車がなかった,という危険が大きい。

(二) 本件工場の防犯対策について

本件工場に高級車があるならば,盗難対策のために,シャッターの前に車を配置して出入りを塞ぐのが一番良い。ところが,これをしていない。本件第1事故のとき,たまたま,シャッターの前に車を配置して出入りを塞ぐことをしていなかったとするなら,偶然すぎる。

原告一色は,車の盗難に対して強い警戒心を植え付けられていたはずである。なぜなら,一色は,車を盗難された経験があり,また,フェラーリやポルシェやSMXを傷つけられたことや,金庫が盗られたり,事務所が荒らされたりしたこともあるからである。

また,預かっている本件ベンツSは高級車である。

イモビライザー・システム搭載車であるから,鍵がなければ盗難はされない。

以上の事情に鑑みると,原告一色が本件ベンツSの鍵を工場内においておくのは不自然である。しかも,本件ベンツSの鍵をつるしていた鍵箱はただの壁掛け同然であり,元弁当工場だったという建物の造りも堅牢ではなく,ガラス1枚破れば容易に侵入できる。

本件ベンツSが鍵も盗られたので自走による窃盗が可能であると装うために,わざと鍵の管理がずさんだったかのような工作をしたのであろう。

また,センチュリーのマスターキーとスペアキーが別々に保管され,その両方とも盗られたのは不自然である。

(三) 犯人の行動について

犯人が,本件工場の窓のうち,小さな窓から侵入したのは,不自然である。

犯人が盗難車のETCを使用して運転するというのは,犯跡を残すことにつながるからおおよそありえない。しかし,この車両が移動されたということは確実に証明できる。この車両が盗難されて移動したということをみせかけるためにこのような方法を採ったと考えれば説明がつく。

本件ベンツSは高速道路を使用したが,本件センチュリーは使用しておらず,盗難後,別ルートで逃走したことになる。それにもかかわらず,本件センチュリーの車載品である原告一色の手紙と本件ベンツSの車載品である三井のゴルフバッグが,一緒の場所に落ちていた。ということは,一方の車載品を他方に積み替えたことになる。これは不可解である。

(四) 原告らの行動について

(1) 本件センチュリーは,原告一色の自己使用のために購入されたのに,本件工場に入れてあった。自家用として購入したのに,自宅に乗って帰らないのなら,どうして購入するのか。本件工場まで行って乗り換えるのは不便であろう。原告一色の本件センチュリーの購入は不自然である。

(2) 二宮は,本件第1事故の後,本件工場に近づいても,すぐに本件工場に入らず,方々に電話してから入っている。最初に確認するのではないか。

(3) ロリンザーへの改装の際の原告会社から三井への請求書には,受付日が平成14年12月5日とあり,「神奈川県高座郡寒川町倉見<番地略>有限会社いっしき」という社印が捺印されている。しかし,原告会社が平塚から寒川町に引っ越してきたのは,平成16年2月15日である。この文書は偽造である。

(五) 本件ベンツSの所有と三井の属性について

本件ベンツSは三井の名義になったことはなく,所有形態がはっきりしない。三井が実際に購入資金を出したのであれば,自分の名義にしないわけがない。本件ベンツSの所有が三井にあったかはなはだ疑問である。本件ベンツSの使用名義人であった四谷正男は本件ベンツSを「一色さんのところから購入した。」という。そして,「一色さんにすべて任している。車を乗り換えるのに売った。」という。ということは,原告一色は,本件ベンツSをTから購入し,また四谷正男に売り,さらにEに名義を変更したことになる。原告一色は,本件ベンツSを何度も転売していることになる。

三井にはバカラ賭博の前歴がある。バカラ賭博で1億円程度を稼ぎ,その後も定職に就かず蓄えで生活しているというが,購入資金は一括払いができずローンを組んでいるという。

また,三井は,本件第1事件後も現場に出向いておらず,車載品への関心も低く,被告に保険金の請求もしておらず,本件ベンツSへの関心が乏しく,真実の盗難に遭ったものとは思えない。

三井は,原告一色の管理のまずさを責めておらず,賠償を受けたときの領収証の形状等は不自然であり,真実賠償を受けたのか根本的に疑問である。

(六) 別件の盗難事件について

原告一色の関連した別件の盗難事件(以下「別件事件」という。)がある。この別件事件は,有限会社S工業(以下「S工業」という。)が盗難車を盗難車と知らずに原告会社から購入して保険契約したところ,その後盗難されたというものである。その契約車両は埼玉県草加市で発見されている。この発見された車をDASという読み取り機械を使用して調べたところ,その保険の対象となっている車両の車体番号の車は韓国に輸出されてしまっていた。つまり,韓国に売られて日本にはないのに,車体番号を入れ替えて流通させていたのである。そしてこの盗難車を仲介したのが原告会社である。さらに,S工業自身も盗難が2度目である。余りにも特殊な事実が重なりすぎている。

2  争点②(本件第1事故の免責事由の有無)

(被告の主張)

本件第1事故は,保険契約者である三井及び原告会社の故意により生じたものである。その理由は,前記1争点①について主張したとおりである。

(原告らの主張)

被告の主張は否認する。その理由は,前記1争点①について主張したとおりである。

3  争点③(本件第2事故の発生の有無)

(原告らの主張)

平成16年7月5日午後8時15分から同月6日午前9時25分までの間に,本件工場内において,原告一色が所有し原告会社が使用していた本件セルシオと原告会社が預かり保管していた本件ベンツCがガラス窓を割られるなどの被害にあった。

二宮及び原告一色が,同年7月6日午前9時52分ころ,本件工場に出社したところ,机の引き出しなどが荒らされ,自動車も窓ガラスを割られたりして傷つけられていることを確認し,直ちに茅ヶ崎警察署に連絡した。原告会社は被害届を提出し,平成16年8月4日には,器物損壊罪で告訴状を提出した。

(被告の主張)

原告らの主張は否認する。

4  争点④(本件第2事故についての免責事由の有無)

(被告の主張)

本件第2事故は,保険契約者である原告一色及び原告会社の故意により生じたものである。その理由は,以下のとおりである。

(一) 原告らは,第2事故は,第1事故で味をしめた窃盗犯ないしその関係者が再び入ったのに,窃盗に失敗したら,その腹いせで破壊行為をしたのだ,と推測している。しかし,本件工場入口の前に多数の車が駐車しているため,とても本件工場内の自動車を運び出せる状況でないことは,外観だけで判ることである。それなのに,侵入したのは目的が不可解である。

本件工場内で出口側にあったセドリックを動かそうとした形跡がない。

窃盗に失敗したからといって,犯人が,一銭の利益も生まない破壊行為をするなどとは考えにくい。破壊行為をすればよほどの音がすると思われるが,破壊音により捕捉される危険性が高まるのに,窃盗に失敗した犯人が破壊行為をするとは思えない。

腹いせに破壊するならば,もっと,損害を与えてもよい。しかし,本件第2事故は意外と少損である。損傷がガラスに集中している。室内の損傷はない。溶接系パネルに損傷がない。

(二) 本件セルシオは,一色が盗難後に購入したとすれば,自宅に乗って帰らないのが不自然である。

本件ベンツCは2か月も預かっているが,狭い工場に長期間保管していること自体が不自然である。

本件ベンツCについて,金融で預かってかつ修理もお願いされたと二宮は証言するが,これは不自然である。

(原告らの主張)

被告の主張は否認する。その理由は,以下のとおりである。

(一) 本件第2事故では,本件セルシオ,本件ベンツC,セドリックの3台が傷つけられている。このうち被告に対して保険金請求しているのは,本件セルシオと本件ベンツCのみである。

本件ベンツCに関しては,左前部のガラスを割られるなどの被害を受け,本件セルシオに関しては,ガラスを割られただけでなく,ボンネットなどにも傷をつけられており,修理代金は3台合計で約120万円とかなり高額なものとなっている。

3台分の修理代金は,合計約120万円にもなっているが,保険金請求ができるのは95万9616円にすぎず,自作自演であるとすると原告らは約25万円も損失を被ることになる。

(二) 本件第1事故の際には,原告会社事務室内に自動車の鍵が保管してあったため,鍵を探し出され自動車の盗難被害にあったことから,その以後,本件工場内には,夜間早朝誰もいないときには鍵を置かないようにしていた。そのため,鍵を探し回ったものの,鍵が見つからず自動車を盗むのは断念し,嫌がらせ的に窓ガラスを割ったり車体に傷を付けるなどしていったものと考えられる。

6  争点⑤(損害額)

(原告らの主張)

(一) 本件センチュリーの損害額

本件センチュリーは盗難されているので,請求できる車両保険金額は490万円である。

(二) 本件ベンツSの損害額

本件ベンツSは盗難されているので,請求できる車両保険金額は715万円である。

(三) 本件ベンツCの損害額

原告会社が保管していた本件ベンツCの修理代は13万2825円であり,これが保険請求金額である。

(四) 本件セルシオの損害額

本件セルシオの修理代は82万6791円であり,これが保険請求金額である。

(被告の主張)

原告らの主張は争う。

第3  争点に対する判断

一  争点①(本件第1事故発生の有無)について

1  証拠(甲20,30,31,32,乙5,証人三井,原告会社代表者)によれば,以下のとおり認められる。

(一) 本件ベンツSと本件センチュリーは,平成16年3月14日の夕方から本件工場内に駐車されていた。

(二) 原告一色は,平成16年3月15日午前7時40分ころ海老名警察から,原告一色宛の手紙が海老名の河川敷に放置されていたこと,三井のゴルフバッグもあることの連絡を受け,自宅から二宮の携帯電話に連絡した。

上記物品は,同日午前1時30分ころ,通常巡回中の警察官が海老名市中野2315番地河川敷において発見したものであり,発見物の内容は上記手紙,ゴルフバッグの他に,ゴルフセット,シューズ2足,CD38枚,シャツ6枚,お守りであった。海老名警察署の地域課員は,手紙の所有者名からNTTの番号案内により原告一色の連絡先が判明したので,原告一色に連絡をした。

(三) 二宮は,平成16年3月15日午前8時3分ころ原告一色から上記電話を受けて,本件工場に行くことを指示された。二宮は,同日午前8時45分ころ本件工場に到着し,本件工場のシャッターが開かれて,中に駐車していた本件ベンツSと本件センチュリーがなくなっているとして,茅ヶ崎警察署に通報し,三井にも連絡した。

二宮が本件工場の中に入って調べると,本件工場の入口シャッターから向かって左横側の腰高窓のガラスが割られており,その脇の出入り口のドアが開いており,鍵箱に保管していた本件ベンツSの鍵と事務室の机の上の整理ボックス及び机の引き出しに保管していた本件センチュリーの鍵がなくなっていた。

(四) 本件ベンツSには三井のETCカードが装着されており,平成16年3月15日午前9時5分,三井の妻である三井葉子からカード利用代金支払先の株式会社オリエントコーポレーションに対し,メンバー会員である三井のETCカードが盗難に遭ったとの連絡がされた。平成16年4月10日同社から三井葉子に送付された利用代金明細書には,本件ベンツSが平成14年3月15日首都高速道路横浜区間の狩場料金所を利用したことが記載されていた。

また,上記利用代金明細書には,本件ベンツSが平成14年3月14日首都高速道路東京区間の汐留,東名高速道路の東京から厚木までの区間を利用したことが記載されていた。

(五) 二宮は,平成16年3月17日,海老名警察署で上記手紙,ゴルフバッグ,ゴルフセット,シューズ2足,CD38枚,シャツ6枚,お守りの返却を受けた。

上記認定事実によれば,原告会社が本件工場内に本件センチュリー及び本件ベンツSを駐車していたところ,平成16年3月14日の夜間から同月15日早朝にかけて両車両が盗難に遭ったことが一応推認されそうである。

また,証人三井大也,原告会社代表者は,平成16年3月14日の夜間ないし同月15日早朝に本件センチュリー及び本件ベンツSが本件工場から盗難されたとの原告主張事実に沿う旨の供述をし,甲30,31には同旨の記載がある。

2  これに対し,被告は,本件第1事故は,三井,原告一色,原告会社らの自作自演であると主張し,その根拠として,①犯人が本件工場に目を付ける可能性がないこと,②本件工場の防犯対策がないこと,③犯人の行動が不自然であること,④原告らの行動が不自然であること,⑤三井の属性及び三井が本件ベンツSを所有していることへの疑問,⑥原告会社の別件事件への関与を主張するので,上記1認定の事実から本件第1事故の発生を推認することの可否並びに証人三井及び原告会社代表者の上記各供述及び甲30,31の信用性について検討する。

(一) 三井の属性について

証拠(甲30,31,42,43,44,乙5,証人三井,原告会社代表者)によれば,以下のとおり認められる。

(1) 三井は,平成10年2月26日午後10時25分ころ東京都江東区<以下略>のカジノ「GN」においてバカラ賭博をしていた疑いにより賭博開帳図利容疑で現行犯逮捕され,公判請求された結果,懲役1年6月執行猶予3年の判決を受けた経歴がある。三井は,同店の店長をしており,上記摘発の際に現場で押収された賭け金等現金6500万円は,警視庁がカジノ摘発で押収した金額としては過去最高であり,都内でも最大規模のカジノ場とみられ,暴力団との関係が調べられた。同店は,WSという会社が経営している遊技場であり,九重は同社の代表取締役を,三井は同社の専務取締役をしていた。上記事件の主犯は同社及びWOの会長であった五木昭夫であり,同人は懲役2年の実刑判決を受け,平成11年8月から平成13年3月まで服役した。

二宮は,九重とは高校時代からの旧友であり,その関係で,原告会社は,WS及びWO関係の車の車検,修理及び購入の斡旋を一手に引き受けていた。

(2) 三井は,その後,当時の仲間とともに六本木で株式会社Kの経営する焼肉屋で働いたが,入居していたビルが競売になったため同店が撤退してからは,同社に関与しているものの,収入は低下する一方であった。三井の申告所得額は,平成10年までは数年間にわたり約2000万円から2500万円であったが,平成11年からは1000万円以下となり,平成13年は500万円以下とあり,その後は所得の申告をしておらず,これまでに貯蓄した預金で生計を維持するようになった。

三井住友銀行の三井名義の預金口座(甲42)の平成18年9月7日における残高は1471万4123円であるが,そのうち600万円は同月4日に400万円,同月7日に200万円が入金されたものであり,平成18年8月25日の残高873万7898円の形成過程は明らかにされていない。また,三菱東京UFJ銀行の三井名義の預金口座(甲43)の平成18年9月7日における残高は72万0823円であり,三菱東京UFJ銀行の三井葉子名義の預金口座(甲44)の平成18年9月7日における残高は185万3205円である(証人三井は約4000万円の貯金を有すると供述しているが,これを裏付ける証拠としては上記預金口座の通帳しか提出されていない。)。

以上のとおり認められる。

上記認定事実によれば,三井は大規模なバカラ賭博により逮捕されて有罪判決を受けた前歴を有し,平成14年以降は所得も申告もしておらず蓄えた貯金で生計を維持していたことが認められる。

(二) 本件ベンツSの所有について

(1) 証拠(甲30,31,乙5,証人三井,原告会社代表者)によれば,

ア 本件ベンツSは,平成11年6月30日有限会社Dコーポレーションが所有者として新規登録をし,平成13年6月27日有限会社イツキに,同年11月5日株式会社Tに,平成14年2月26日国内信販株式会社に,平成16年1月15日有限会社Eに所有者の各移転登録がされたこと,国内信販株式会社に所有者の登録がされている間は,四谷正男が使用者の登録をしていたこと(乙5の19頁),

イ 本件ベンツSについて,三井が登録事項証明書の上で所有者又は使用者として登録されたことはないこと,

ウ 有限会社Dコーポレーションは自動車販売会社であり,有限会社イツキは五木昭夫の兄である五木和也の経営する会社であること,本件ベンツSは,当初は五木昭夫が代金約1600万円で購入したものであり,その後五木昭夫が服役中に五木和也に預けられ,服役後に有限会社イツキに所有者名義の移転登録がされたこと,Tは,二宮の知り合いが経営する自動車の販売業者であること,

エ 三井は,平成13年7月ころに被告との間で年間保険料約50万円で自動車保険契約を締結し,その後も契約を更新して,本件契約2を締結するに至ったこと,

オ 三井は,本件第1事故後は,五木昭夫からベンツSL500を借りて使用していたこと,

以上のとおり認められる。

上記認定事実によれば,三井は,本件ベンツSの登録事項証明書上で所有者又は使用者として登録されたことがないというのであり,本件第1事故発生当時に三井が本件ベンツSを所有していたのかが疑問となる。

(2) 証人三井は,「本件ベンツSは五木和也が乗っていて買い換えようというときに譲ってもらったものであり,平成13年ころから当初は五木昭夫から本件ベンツSを借りて乗っていた。そのときに二宮に頼んで車庫証明をとってもらったためにTに名義を変更した。その約半年位してから,同人より本件ベンツSを代金約800万円で譲渡を受けたが,その際に約500万円のローンを組むために四谷正男の名義を借用したものである。平成16年1月15日に有限会社Eに所有名義が変更したのは,ローンを完済して名義変更するのに車庫証明を二宮に依頼して取得した際に名義を借用したものである。」と供述し,本件ベンツSを,T及び有限会社Eの他人名義にしたのは,車庫証明を取得するための手続が簡単なためであり,他人名義で車庫証明を取得した理由として,自宅のマンションの駐車場には妻の車を駐車していたためであり,その方が手続が簡単であったと説明する。

しかし,証人三井は,他方では,本件ベンツSは自宅のマンションの附近の賃貸駐車場に駐車していたと供述していることからすると,三井名義で車庫証明を取得する手続が簡単にできなかった理由は存在せず,本件ベンツSを他人名義で所有者登録したことについての証人三井の上記説明には疑問がある。また,三井が五木昭夫から本件ベンツSを借りて乗るようになったときには,有限会社イツキの所有者名義のままにしておいてよいはずであり,その方が手続上も簡易であるのに,二宮に依頼してわざわざTに名義を変更したということ自体も不可解である。

(3) 乙5(68頁以下)によれば,上記(1)アのとおり平成13年11月5日から平成14年2月26日まで本件ベンツSの使用者として登録されていた四谷正男は,平成16年7月18日,有限会社ビジュアルリサーチの十条調査員の面談を受けた際に,①本件ベンツSは平成14年2月に原告一色のところから購入したこと,②有限会社イツキは知っているが,株式会社T及び有限会社Eは知らないこと,③本件ベンツSの売却は,原告一色に全てを任せており,原告一色が間に入って,車を乗り換えるために売却したこと,④売却時に購入時と同じ型,本数の鍵を渡したこと,⑤本件ベンツSの盗難は原告一色から聞いたことを説明したこと,同人は,十条調査員から,面談聴取書に署名を求められたのに対し,「保険を支払ってくれるなら署名するが,支払ってくれないのにどうしてしなければならないんだ。」と言って署名を拒否したことが認められる。

四谷正男の上記供述によれば,三井がローンを組むために四谷正男の名義を借用したことは話されておらず,本件ベンツSは原告一色のところから購入して自ら管理し,乗り換えのために原告一色に任せて売却したというのである。また,三井が上記ローン代金の支払をしたことを裏付ける証拠はない。これらのことに照らすと,三井が本件ベンツSの購入代金を支払って所有権を取得した旨の証人三井の上記供述は信用することができず,上記四谷の説明によれば,本件ベンツSは,株式会社T及び有限会社Eの各名義とされていた時期に,実質的には原告一色又は原告会社の保有であった可能性が強いと認められる。

(4) これに対し,原告らは,三井が本件ベンツSを所有していた根拠として,平成14年ころに本件ベンツSを原告会社に依頼してロリンザー仕様に改造し約220万円を支払ったこと等を主張し,証人三井及び原告会社代表者の各供述中にはこれに沿う旨の供述がある。そして,甲19,36には,三井宛の平成16年1月6日受付,同月15日完成の本件ベンツSの修理及び所有権解除手続代行,車庫証明代行等の合計代金26万3400円の売上元帳の記載が,甲26には,三井宛の平成14年12月5日受付の本件ベンツSのロリンザー仕様への改造等の合計代金213万3000円の請求書の記載が,甲33には,三井宛の平成14年2月5日受付の本件ベンツSの点検,部品取付の合計代金30万7500円の売上元帳の記載が,甲34には,三井宛の平成14年6月6日受付,同月13日完成の本件ベンツSの車検等の合計代金21万7940円の売上元帳の記載が,甲35には,三井宛の平成14年12月5日受付の本件ベンツSのロリンザー仕様への改造等の合計代金213万3000円の売上元帳の記載がある。

しかし,甲26に押されている原告会社の記名印の住所は,平成16年2月15日に本店を移転した後の神奈川県高座郡寒川町倉見<番地略>が記載されていることからすると,甲26は平成14年12月5日当時に作成されたものとはいえず,上記各書証の記載内容はいずれも信用することができない。また,甲37ないし39には,株式会社ヤナイから原告会社に対する平成13年12月31日ないし平成14年11月30日を締切日とするロリンザー仕様への改造備品代金の請求書の記載があるが,これらはロリンザー仕様への改造が三井の注文によりなされたことを裏付けるものではない。さらに,三井が原告会社に対しロリンザー仕様に改造した代金213万3000円を支払ったことを裏付けるべき振込証明書,預金通帳等の証拠はない。

してみると,三井が原告会社に依頼して本件ベンツSをロリンザー仕様に改造し約220万円を支払った旨の証人三井及び原告会社代表者の各供述はこれを裏付けるものがなく直ちに採用することはできず,本件ベンツSのロリンザー仕様への改造が三井の注文によるものと認めることはできない。

(5) 上記(1)ないし(4)によれば,三井は本件ベンツSについて登録事項証明書上の所有者,使用者となったことはなく,かつ,三井が実質的に所有していたことにも多大の疑問があり,本件第1事故当時に,本件ベンツSは原告会社又は原告一色が実質的に所有していた可能性が強いというべきである。

(三) 本件第1事故後の三井の行動について

(1) 証拠(甲31,32,乙5,証人三井,証人六田平太,原告会社代表者)によれば,三井は,平成16年1月15日午前8時過ぎに二宮から本件ベンツSが盗まれ,三井のゴルフセット等が河川敷で発見されたことの連絡を受け,三井葉子に依頼してETCカードの停止手続はとったが,本件工場を訪れて本件第1事故について調査することはせず,自ら本件ベンツSの遺留品を引取にも来なかったこと,また,三井は,被告に対し本件第1事故による保険金の請求をし,約3か月したころに保険金の任意の支払がなされないことがわかったが,自ら被告の担当者にかけ合って保険金支払の交渉をすることはしなかったこと,三井は本件第1事故の発生について原告会社に落度があるとしてその責任を厳しく追及することもしなかったことが認められ,高級車を盗まれた者としては淡泊な対応をしていたということができる。

(2) この点について,証人三井は,原告一色に本件第1事故による保険金請求権を譲渡した理由として,原告一色から745万円の立替金の支払を受けたからであり,この支払は三井から要求したものではなく,原告一色の申出に厚意を受けたものであると供述する。そして,甲23ないし25には,三井の原告一色に対する,平成16年4月14日付けの本件ベンツSの車両保険立替分418万円,同年5月25日付けの本件ベンツSの車両保険立替分200万円,同年7月3日付けの本件ベンツSの車両保険立替分127万円の各領収証の記載がある。

上記立替金の支払が事実であるとすれば,三井の上記(1)の淡泊な対応も理解できないではない。

しかし,原告会社名義の神奈川銀行の口座の通帳(甲41)には,上記支払を裏付けるべき記載はなく,他に上記支払を裏付ける振込証明書,三井の預金通帳等の書証は提出されておらず,原告一色から745万円の立替金の支払を受けたとの証人三井の上記供述及び甲23ないし25の上記記載はこれを裏付けるものがなく,直ちに信用することはできない。

してみると,債権譲渡の以前に原告一色から三井に対し745万円の立替金が支払われていることをたやすく認定することはできず,三井が上記立替金の支払いを受けていることから,保険会社への保険金支払いの交渉や原告会社への責任追及をしなかったものと理解することもできず,上記(1)の三井の対応は不審であるというほかない。

(四) 本件ベンツS及び本件センチュリーが盗難に遭う可能性について

(1) 証拠(甲4ないし8,20,30,31,乙2,5,証人三井,証人六田平太,原告会社代表者)によれば,

ア 原告会社は本件第1事故の約1か月前である平成16年2月15日に本件工場に本店を移転してきた。本件工場はそれ以前は弁当の仕出し工場に使用されていた。

イ 原告会社は,自動車の販売,修理を業務としているが,一般の飛び込みの客を対象としておらず,WS及びWOの関係者等の特定の顧客を対象とした修理,販売業者であった。そのため,本件工場には自動車販売,修理等を示す看板,塗装等の表示が全くなかった。外の駐車場には一般の中古自動車が駐車されているが,プライスカード,修理預かり票等は展示されておらず,自動車修理販売業者の駐車場ではなく,一般の賃貸駐車場の外観を呈していた。

ウ 本件センチュリーは,原告一色が有限会社Eに依頼して,平成16年2月26日にTAA千葉のオークションで代金515万円で落札して購入してもらったものであった。原告一色は,同月27日,有限会社Eに518万円を一括で支払って本件センチュリーを引き取った。原告一色の自宅は本件工場から車で約30分の位置にある。原告一色は,自宅に屋根のある駐車場がないことから,昼間は本件センチュリーを使用していたが,夜間は自宅に乗って帰らないで本件工場に駐車していた。

エ 本件ベンツSは,通常は東京都江東区にある三井の自宅マンションの近隣の賃貸駐車場に駐車されていた。二宮は,平成16年3月14日WOの関係者から修理を依頼されていたシーマの修理が完了したことから,同日午後4時ころ,上記駐車場で三井にシーマを引き渡すのと引き換えに本件ベンツSを預かり,首都高速道路と東名高速道路を経由して,同日午後6時ころ本件工場内に本件ベンツSを入庫した。

オ 本件工場の周囲には,隣接して民家,企業の物流センターがあった。

以上の事実が認められる。

上記認定事実によれば,本件工場及び駐車場の外観は自動車修理,販売業者のものではないというのであり,一般の第三者が本件工場内に高級自動車が駐車されていることを知る可能性は低かったといえる。また,本件センチュリーは本件第1事故の約1週間前から夜間のみ本件駐車場に駐車されており,本件ベンツSは本件第1事故の前日の夕方にたまたま本件工場内に駐車されていたというのであるから,原告会社の関係者以外の者が本件工場内に本件ベンツS及び本件センチュリーが駐車されていることを知る可能性は極めて低かったということができる。

(2) これに対し,原告らは,修理工場も昼間作業中は工場の内部をのぞくことができるため,高級車を預かっていることがわかると主張する。

しかし,乙5(64頁以下)によれば,被告の担当者が平成14年8月4日に現場近隣の確認をした際に,

ア 本件工場の隣のB株式会社の代表者は,原告会社が車の修理をしていると思っており,「高級車が工場の中に置いているのを見たことがありますが,工場の外に置いているのは国産のファミリーカーだけでしょう。」と述べていること,

イ 本件工場の隣の有限会社Wは,原告会社が車の修理をしているのは知らないこと,工場の外では国産車しか見たことはないことを述べていること,

ウ 本件工場の隣のH物流の警備員は,原告会社が車の修理をしているのは知らないこと,工場の外に置いているのは国産車だけであると述べていること,

エ 本件工場の付近のスリーエフ倉見店の店員は,本件工場の外に高級車が置いてあることは知らないことを述べていること,

以上のとおり認めることができ,上記認定事実によれば,本件工場の隣の者でも原告会社が車の修理をしていること自体を知らない者がおり,近隣の者は本件工場の外に高級車を置いてあるのを見たことがないというのであり,一般の第三者には本件工場が修理工場であることすら判明し難いのであるから,内部をのぞいて高級車の存在を知ることもできないはずであり,原告らの上記主張は採用することができない。

そうすると,窃盗犯人が本件工場に高級車があることを知っていたり,本件工場内に本件ベンツS及び本件センチュリーが駐車されていたことは知っていた可能性は極めて低かったはずであるのに,本件第1事故が発生したというのは不自然であることになる。

(五) 本件工場の防犯体制について

証拠(甲15の1ないし16,甲30,乙2,5,証人六田平太,原告会社代表者)によれば,

ア 本件工場は,もとは弁当の仕出し工場に使用されていた建物で,窓がたくさんあり,外壁も薄い簡易プレハブ造りの建物であり,窓を割れば簡単に鍵を開いて侵入することができ,外部からの侵入に対する防備力の弱い簡易な構造であった。本件第1事故当時には,原告会社は,自動車管理賠償責任保険に加入しておらず,警備保障システムへの委託もしていなかった。

イ 本件ベンツSと本件センチュリーは,いずれもイモビライザーシステム搭載車である。イモビライザーとは,エンジンキーに埋め込まれている送信機(トランスポンダー)のIDコードと,車両本体内の電子制御装置に予め登録されたIDコードとが一致しなければ,電気的に,エンジンが始動しない仕組みになっているものである。IDコードとは「1」と「0」のデジタル信号であり,その組み合わせは2のn乗通り,数千万種のコード生成が可能である。この装置が装着されていれば,仮にイモビライザーの鍵山を完全に複製しても,エンジンは始動しないことから,本件ベンツSと本件センチュリーは,鍵がなければ自走させて盗み出すことは極めて困難な自動車であった。(乙5の106頁以下)

ウ 本件第1事故発生時に,本件ベンツSの鍵は本件工場内の通路の壁に掛けられた鍵箱に保管されており,鍵箱は施錠されていなかった。上記鍵箱は薄い板金製の比較的安価なもので,当初は鍵が備わっていたが,途中で紛失して鍵をかけられなくなっていた。上記鍵箱は本件工場の横手のドアから侵入した場合にすぐに目につきやすい場所にあった。

エ 原告一色は,本件センチュリーの鍵を本件工場内の事務室の机の上の整理ボックス(マスターキー1本)と机の引き出し(サブキー1本,カードキー1本)に保管していた。机の引き出しには鍵がかからなかった。上記整理ボックスは机の上に配置されていることから,事務室内では目立ちやすい場所にあった。

オ 原告一色は,以前に下寺尾で事務所を荒らされ金庫を盗られたことがあった。原告会社では,本店所在地が平塚市内にあった平成15年2月ころに鍵をつけっぱなしにしていたシーマが盗難に遭い,その4日後に発見されたことがあった。

カ 原告一色は,本件第1事故発生の前日である平成16年3月14日午後7時40分ころ,本件工場のシャッターを開いて本件センチュリーを本件工場内に駐車した。その際,本件ベンツSは本件工場内に駐車されており,本件工場には誰もいなかった。原告一色は,駐車していたストーリアに乗り換えて自宅に帰った。その当時は,夜間に本件工場のシャッターの外側には自動車を駐車しておらず,本件第1事故の後からは夜間に本件工場の出入り口のシャッターの付近に自動車を停めるようになった。

以上のとおり認められる。

上記認定事実によれば,本件工場は,窓が多く外壁は薄い状態で,外部からの侵入に対し防備の弱い構造の建物であるが,本件センチュリー及び本件ベンツSはいずれもイモビライザーシステム搭載車であり,鍵がなければ自走して盗み出すことが極めて困難であったことから,本件工場を無人にする夜間に鍵を自宅に持ち帰って本件工場外に保管することにより,本件センチュリー及び本件ベンツSの盗難は容易に防止することができたといえる。

ところが,原告会社は過去にシーマが盗難に遭ったことがあるというのに,本件ベンツSの鍵を本件工場内の目立つ場所にある鍵箱に保管していたというのは,他人の自動車を預かることの多い自動車の修理,販売業者としては考えられないことである。また,原告一色は,過去に事務所を荒らされたことがあり,自宅に屋根付きの駐車場がないために本件駐車場に本件センチュリーを駐車していたというのに,その鍵を事務所内の目立つ場所にある整理ボックスに入れていたというのは理解し難いことである。

以上のとおり,原告らが,防犯体制の極めて不備な本件工場内に本件センチュリー及び本件ベンツSを駐車するに当たり,わざわざ両車両の鍵を本件工場内の目立つ場所に保管し,本件工場のシャッターの前に自動車を駐車する等の盗難防止措置をとらなかったことは,極めて不可解というべきである。

(六) 犯人の不自然な行動について

(1) 原告一色が平成16年3月15日午前7時40分ころ海老名警察から,原告一色宛の手紙が海老名の河川敷に放置されていたこと,三井のゴルフバッグもあることの連絡を受けたこと,上記物品は,同日午前1時30分ころ,通常巡回中の警察官が海老名市中野2315番地河川敷において発見したものであり,発見物の内容は上記手紙,ゴルフバッグの他に,ゴルフセット,シューズ2足,CD38枚,シャツ6枚,お守りであったこと,海老名警察署の地域課員は,手紙の所有者名からNTTの番号案内により原告一色の連絡先が判明して連絡したものであること,以上の事実は前記1に認定のとおりである。

証人三井は,ゴルフバッグ等の三井の所有物は本件ベンツSの車載品であったと供述している。

しかし,ゴルフバッグ等の三井の所有物は本件ベンツSの車載品であり,原告一色宛の手紙が本件センチュリーの車載品であったとすれば,本件ベンツS及び本件センチュリーを盗んだとされる犯人が,夜間にもかかわらず通常巡回中の警察官に発見されるような目立つ場所に,しかも犯行直後の危険な時期に,わざわざ車載品を遺棄して遺留品を残すことは通常考えられない不自然な行動というべきである。

(2) 本件ベンツSには三井のETCカードが装着されていたこと,平成16年4月10日送付された利用代金明細書には,本件ベンツSが平成14年3月15日首都高速道路横浜区間の狩場料金所を利用したことが記載されていたことは,前記1に認定したとおりである。

しかし,ETCカードの利用により本件ベンツSの走行経路が記録されることからすると,本件ベンツSを盗んだとされる犯人が犯行の発覚にもつながりかねないETCカードの利用をすることは通常考え難い不自然な行動であるというほかない。

(七) 別件保険金請求事件における原告会社の関与について

証拠(乙5(144ページ以下),証人六田平太)によれば,

(1) 有限会社S工業は,平成17年9月15日,原告会社から平成16年10月10日購入したとする「(所有者登録名義人・七瀬成哉)(登録番号・練馬300め****)(車台番号・<略>)(型式・GF−220075)」のメルセデスベンツ(以下「練馬ベンツ」という。)が平成16年10月29日から30日にかけて盗難されたとして,自動車保険契約を締結していた被告に対し,保険金858万円及び遅延損害金の支払を求める訴訟を横浜地方裁判所に提起した。

(2) 平成17年9月22日,草加警察署から有限会社S工業代表者の八代文男に対し,練馬ベンツと思われるベンツを保管しているので確認してほしいとの連絡があった。八代文男は同月22日ETC装置の番号によりその自動車が練馬ベンツであることを確認した。警察の説明では,練馬ベンツは平成17年2月28日午後11時30分から同年3月1日午前0時15分までの間に草加市内の路上で事故を起こし,放置された状態となっていたとのことであった。また,連絡が遅れたのは,発見されたベンツのナンバープレートが取り替えられていたので,所有者を探すのに手間取ったためであった。

(3) 登録事項証明書を調査した結果,練馬ベンツは,平成13年9月27日「奈良330ち****」の登録番号で日本信販株式会社により新規登録され,平成15年12月25日「神戸399そ****」の登録番号で株式会社Fに移転登録された上,平成15年12月25日抹消登録され,当該登録番号の自動車は同月29日神戸港から釜山港に向けて出港していたこと,その後,練馬ベンツは,「練馬300め****」の登録番号で七瀬成哉により新規登録がされ,平成16年10月21日「湘南332り*」の登録番号で株式会社オリエントコーポレーション(使用者・有限会社S工業)に移転登録されていることが判明した。

(4) 草加市で発見されたベンツを調査した結果,フレームナンバーが改ざんされたことにより,「<略>」の車台番号になっていたこと,車台番号が分かるモデルプレート(普通は,車内やエンジンルームに貼り付けられている。)は全て剥がされていたこと,上記ベンツは平成15年3月に横浜市で盗難されたベンツであることが判明した。

以上のとおり認められる。

上記認定事実によれば,草加市で発見されたベンツは,横浜市で盗難されたベンツのフレームナンバーを抹消済みの同じような年式,型式の車台番号に改ざんして練馬ベンツとして新規登録した上で,販売ルートに乗せた自動車であると認められ,原告会社は練馬ベンツの登録事項証明書上には記載がされていないけれども,有限会社S工業は練馬ベンツを原告会社から購入したと主張していることからすると,原告会社は上記盗難自動車の登録番号の仮装及び販売に深く関与しているものと認められる。

これに対し,原告会社は,別件事件のベンツSをI商事有限会社から750万円で購入し,これをS工業に諸費用等込みで800万円で売却したにすぎず,転売利益として20万円弱の利益を得たにすぎないと主張し,甲40には,I商事有限会社作成の平成16年10月14日付けの原告会社宛の750万円の領収証の記載がある。しかし,I商事有限会社は練馬ベンツの登録事項証明書には全く記載がない会社であり,練馬ベンツの所有権をどのように取得したのかも不明であり,はたして原告会社の得た転売利益が20万円弱に過ぎないかも疑問であり,甲40の記載は上記認定を左右するものではない。

(八) 検討結果のまとめ

(1) 上記(一)ないし(七)に検討した結果を総合すると,①三井はバカラ賭博で有罪判決を受けた前歴を有し,平成14年以降は収入が乏しかったこと,②本件第1事件後の三井の所有者としての対応には不審なものがあること,③本件ベンツSは原告会社又は原告一色が実質的に保有していたものである可能性が強いこと,④本件ベンツS及び本件センチュリーが本件工場内に夜間駐車されていることを原告らの関係者以外の第三者が知って盗難を行う可能性は極めて低いこと,⑤原告一色及び原告会社が本件ベンツS及び本件センチュリーの鍵を自宅に持ち帰らないで本件工場内の目立つ場所に保管していたことは不可解で重大な疑問があること,⑥犯人が不自然な行動をとっていること,⑦原告会社は別件事件の盗難自動車の登録番号の仮装及び販売に深く関与していること,以上のとおり認められる。

以上の検討結果に照らすと,本件第1事故が三井及び原告らの関与することなしに発生したものと考えることには余りにも多くの疑問があり,前記1認定の事実から,本件センチュリー及び本件ベンツSが平成16年3月14日の夜間から同月15日早朝にかけて両車両が盗難に遭ったとの本件第1事故の発生を推認することはできないというべきである。また,本件第1事故の発生に沿う旨の証人三井,原告会社代表者の上記各供述及び甲30,31の各記載を信用することもできないというべきである。

(2) これに対し,原告らは,本件第1事故の経緯として,原告会社は平成16年3月13日午後8時過ぎころ,三井から「ベンツが駐車場で当て逃げされたので,直してもらえないか。」との連絡を受けて,同月14日午後5時30分ころ三井のところに到着し,修理のできあがったシーマを納車するとともに,本件ベンツSの修理箇所をチェックして預かり,午後7時ころ本件工場に入庫したと主張し,本件第1事故が三井及び原告らの関与なしに発生したものであるかのように主張する。

そして,証人三井及び原告会社代表者は,本件ベンツSは,本件第1事故の発生する数日前に上記駐車場に駐車中に何者かにより当て逃げされる事故に遭って前部ナンバープレート付近のバンパーが損傷したことから,修理のために本件第1事故発生の前日に二宮が本件ベンツSを引き取って本件工場に入庫させたのであると供述し,甲8,30,31には同旨の記載がある。

しかし,証人三井の供述によれば,本件ベンツSが駐車場で当て逃げ事故にあって修理するためであったにもかかわらず,三井は保険会社に対し上記当て逃げ事故を報告しておらず,本件ベンツSの損傷状態が写真撮影されたことはないことが認められ,本件ベンツSの損傷状態が原告らの関係者以外の第三者により目撃されたことを認めるべき証拠はなく,本件ベンツSが第三者の当て逃げ事故により損傷していたとの上記各供述及び甲8,30,31の各記載は信用するに足りるものということはできない。

そうすると,本件第1事故の前日の夜に本件ベンツSが原告工場に入庫していたことが三井及び原告らの関与なしに発生したかのようにいう原告ら主張の上記事実を認めることはできない。

(3) また,原告らは,盗難が原告らの自作自演であるとすれば,本件センチュリーは25万円以上で処分できなければ何のメリットもないが,自動車窃盗グループでも高級車やRV車を1台10万円前後でしか処分できず,「プロ」でない原告らが25万円以上の高い値段で売りさばくのは困難であると主張し,本件ベンツSは715万円の保険金額以上の値段で転売することは可能であり,要するに盗難を偽装するメリットはない旨を主張する。

そして,甲21によれば,暴力団関係者の窃盗グループが外国人のグループからの依頼を受けて高級車やRV車を1台10万円前後で引き渡していたとの時事通信の記事が報道されていたことが認められる。

しかし,盗難車の処分が外国人のグループに対してなされるとは限らず,前記(七)の認定事実によれば,横浜市内で盗難された車に練馬ベンツの登録番号をつけて750万円で取引された事件に原告会社が関与していることが認められるのであるから,盗難を偽装するメリットはない旨の原告らの主張は採用することができない。

3  そうすると,本件センチュリー及び本件ベンツSが平成16年3月14日の夜間ないし同月15日早朝に両車両が盗難されたとの事実を認めることはできない。

二  争点③(本件第2事故発生の有無)について

証拠(甲2,3,13,14,15の1ないし16,甲17,18,甲28の1,2,甲29,30,乙2,5,証人六田平太,原告会社代表者)によれば,以下の事実が認められる。

1  原告会社は,本件第1事故発生後,本件管理賠償保険契約を締結した。

2  二宮は,本件第1事故発生後は,夜間休日等の本件工場が無人となるときには駐車車両の鍵を自宅に持ち帰り,本件工場内には置かないようにし,さらに,本件工場内の自動車を出しにくくするために,出入り口のシャッターの外付近に自動車を1台停めるようにしていた。しかし,本件第2事故発生前には警備保障業務の委託契約は締結していなかった。

3  二宮は,平成16年7月5日午後8時15分ころ,本件工場から帰った。二宮と原告一色は,同月6日午前9時52分ころ,本件工場に出社したところ,事務所内が荒らされ,本件工場内に駐車していた本件ベンツC,本件セルシオ,セドリックが損壊されていたので,直ちに茅ヶ崎警察に通報した。茅ヶ崎警察署員は,同日午前11時ころ本件工場に臨場し,足跡や指紋を調査した。

以上のとおり認められる。

上記認定事実によれば,本件第2事故が発生したことが認められる。

三  争点④(本件第2事故の免責事由の有無)について

被告は,本件第2事故は保険契約者である三井及び原告会社の故意により生じたものであると主張するので,この点について検討する。

1  証拠(甲1,13,15の1ないし16,30,乙2,5,証人六田平太)によれば,以下のとおり認められる。

(一) 本件第1事故について調査が開始され,有責の判断に至らない状況で,本件第2事故が発生した。本件第2事故では,本件工場の表の出入り口であるシャッターとは反対側になる裏口のドアの窓ガラスが割られてドアが開けられていた。

(二) 本件工場内には,ドライバーやのこぎり,工具箱があり,スプレー,油脂類,手工具等の多数の工具が存在したが,本件第2事故後の写真では,本件工場内の床上に大柄なハンマーが放置されていた他は,他の工具が使用された形跡はなかった。

(三) 本件セルシオは,フロントガラスが割られ左ドアガラスも完全に損壊されていた。車体にも損傷は認められるが,左ドアガラス付近の大きな変形のみで,他は比較的原形をとどめた形となり,損傷はガラスに集中しているといえる。本件セルシオは,インストルメントパネルにガラスの破片による傷が付着し,交換が必要となったが,意図的に損傷されたものではなかった。主な損傷部品としてはボンネット,左フロントフェンダー,左フロントドア,左リアドア及びルーフであった。この5パネルで溶接系のパネルはルーフであるが,主にガラスの破片による傷であり,大きな変形は見られないものである。フロントガラスの横には溶接系のパネルであるフロントピラーやルーフが存在するが,この部分には塗装程度の損傷しかなかった。また,左後部のドアの横には溶接系のパネルであるクオーターパネルが存在するが,一切損傷がなかった。

(四) 本件ベンツCは,左フロントドアガラスが破壊されていたほかは,ドア関連部品の損傷があるのみであった。外観的に大きな変形はなく,ガラスに集中しているといえる。

(五) 本件セルシオ及び本件ベンツCは,共に室内を物色された形跡はなく,金品等が盗難に遭った事実はない。

本件セルシオ及び本件ベンツCは,イモビライザーシステム搭載車であったが,ドア廻りのキーシリンダ,ステアリングロックの解除等を試みた形跡はなかった。

(六) 本件工場内には,入口のシャッターの前にセドリック,その左側に本件セルシオ,本件ベンツC,軽自動車が駐車されていた。

本件工場内のシャッター前に駐車されていたセドリックには損傷があったが,セドリックを動かそうとした形跡はなかった。

本件工場のシャッターの外には車が駐車されていたが,この車両に対する工作の痕跡はなかった。

以上のとおり認められる。

2  本件第2事故に対する疑問点

(一) 前記一2(四)(1)認定のとおり,本件工場には自動車販売,修理等を示す看板,塗装等の表示が全くなく,外の駐車場には一般の中古自動車が駐車されているが,プライスカード,修理預かり票等は展示されておらず,一般の賃貸駐車場の外観を呈していることから,本件工場内に高級自動車が駐車されていることを一般の第三者が知る可能性は低いと認められる。

それにもかかわらず,本件第1事故から約4か月しか経過していない時期に本件工場内への侵入事件が再度発生しており,しかも,上記1認定のとおり,その犯人は何も盗まずに駐車している車両を損壊するという無意味な行動をとっていることは,極めて不自然というべきである。

(二) これに対し,原告らは,犯人が自動車の鍵を探し回ったものの,鍵が見つからず自動車を盗むのは断念し,嫌がらせ的に窓ガラスを割ったり車体に傷を付けるなどしていったものと考えられると主張する。

しかし,窃盗目的で危険を犯して本件工場内に侵入した犯人が自動車の鍵を見つけられなかったとすれば速やかに逃走するはずであり,嫌がらせ的に窓ガラスを割るなどという無駄なことをするとは考えられず,原告らの上記主張を採用することはできない。

(三) さらに,前記1認定の事実によれば,本件セルシオ及び本件ベンツCは,イモビライザーシステム搭載車であったが,ドア廻りのキーシリンダ,ステアリングロックの解除等を試みた形跡はなく,本件工場内のシャッター前に駐車されていたセドリックを動かそうとした形跡はなく,本件工場のシャッターの外に駐車されていた車両に対する工作の痕跡はなかったということからすると,そもそも本件工場に侵入した犯人が本件工場内の車両を盗む目的を有していたと認めることは困難である。

しかも,前記1認定のとおり,本件セルシオ及び本件ベンツCの損傷は主としてガラスの損壊のみに集中しており,その被害額はそれほど多額ではなく,評価損を生ずる溶接系のパネルには損傷が生じないように損壊行為がなされているというのであるから,これに前記二認定のとおり,本件第1事故の発生に三井及び原告らが関与している疑いが強いことからすると,本件第2事故は,本件第1事故による保険金請求に対し調査が開始されたが,容易に有責の判断に至らない状況であったことから,本件第1事故が偶然性のある盗難事故であることを裏付けるために,原告会社が窃盗未遂犯人による車両損壊事故を仮装したものと認めるのが相当である。

そうすると,本件第2事故は,本件管理賠償保険契約及び本件契約4の保険契約者である原告会社の故意により生じたものと認められる。

(四) したがって,被告の本件第2事故についての免責の抗弁は理由がある。

四  以上によれば,原告らの各請求は,その余の争点を判断するまでもなく,理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

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