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横浜地方裁判所 平成17年(ワ)4250号 判決 2007年5月17日

原告

X1(以下「原告X1」という。)

原告

X2(以下「原告X2」という。)

原告ら訴訟代理人弁護士

山内一浩

棗一郎

大塚達生

被告

横浜商銀信用組合

同代表者代表理事

同訴訟代理人弁護士

平岩敬一

山本英二

松延成雄

主文

1  原告らが被告に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2  被告は,原告X1に対し,1138万9910円及び別紙4「原告X1」欄中の「修正額」欄記載の各金員に対する同「支給日」欄記載の各日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被告は,原告X1に対し,平成17年11月から本判決確定の日まで毎月25日限り43万8300円,毎年12月31日限り59万7080円,毎年6月30日限り56万8790円及びこれら各金員に対する各弁済期の翌日から支払済みまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払え。

4  被告は,原告X2に対し,1055万6360円及び別紙4「原告X2」欄中の「修正額」欄記載の各金員に対する同「支給日」欄記載の各日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5  被告は,原告X2に対し,平成17年11月から本判決確定の日まで毎月25日限り41万0500円,毎年12月31日限り51万1750円,毎年6月30日限り51万4740円及びこれら各金員に対する各弁済期の翌日から支払済みまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払え。

6  本件訴えのうち,この判決確定後に弁済期が到来する賃金及び賞与の支払を求める部分をいずれも却下する。

7  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

8  訴訟費用は被告の負担とする。

9  この判決は,第2項ないし第5項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  主文1項同旨

2  被告は,原告X1に対し,1169万5010円及び別紙1「金額」欄記載の各金員に対する同「起算日」欄記載の各日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被告は,原告X1に対し,平成17年11月から毎月25日限り44万8300円,毎年12月31日限り61万4330円,毎年6月30日限り60万9040円及びこれら各金員に対する各弁済期の翌日から支払済みまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払え。

4  被告は,原告X2に対し,1084万0456円及び別紙2「金額」欄記載の各金員に対する同「起算日」欄記載の各日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5  被告は,原告X2に対し,平成17年11月から毎月25日限り42万1333円,毎年12月31日限り52万0030円,毎年6月30日限り52万5550円及びこれら各金員に対する各弁済期の翌日から支払済みまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,被告の従業員であった原告らが,被告による整理解雇が解雇権の濫用であり無効であると主張して,被告に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに解雇後の賃金及び賞与の支払を求めた事案である。

1  前提事実(当事者間に争いがないか後掲証拠及び弁論の全趣旨によって認められる事実。)

(1)  被告は,中小企業等協同組合法に基づき,昭和37年2月28日に設立された信用組合であり,在日韓国人を主として対象としている。

被告は,平成11年1月に静岡商銀信用組合(以下「静岡商銀」という。)から,平成13年12月に茨城商銀信用組合(以下「茨城商銀」という。)から,平成14年6月に千葉商銀信用組合(以下「千葉商銀」という。)からそれぞれ事業を譲り受け,平成18年2月1日の時点で,神奈川,静岡,茨城及び千葉の4県に10店舗を有し,119名の従業員を雇用している。

(2)  原告X1は,昭和57年1月に被告との間で雇用契約を締結し,平成15年12月当時,平塚支店上席副支店長であった。

原告X2は,昭和59年2月に被告との間で雇用契約を締結し,平成15年12月当時,横須賀支店副支店長であった。

(3)  被告は,平成15年11月18日に原告X2に対して,同月19日に原告X1に対して,それぞれ口頭で平成15年12月31日付けで解雇する旨の意思表示をした(以下これらの各解雇を「本件解雇」という。)。

被告が同日付けで解雇した職員は,原告らを含め,15名であった(以下,これら15名の解雇を「本件整理解雇」という。)。

(4)  原告X1の本件解雇後の賃金及び賞与の支給見込額は,別紙3記載のとおり,賃金が1か月当たり43万8300円であり,平成16年の夏季賞与が58万1440円,同年の冬季賞与が59万7080円,平成17年の夏季賞与が56万8790円である。また,原告X2の本件解雇後の賃金及び賞与の支給見込額は,別紙3記載のとおり,賃金が1か月当たり41万0500円,平成16年の夏季賞与が49万8870円,同年の冬季賞与が51万1750円,平成17年の夏季賞与が51万4740円である。

なお,被告において,賃金の支払は,当月末締め当月25日払いであった。

(5)  原告らは,平成16年10月19日,当庁に対し,被告を相手方として,地位保全及び賃金仮払を求める仮処分を申し立てたが,平成17年10月5日,これを取り下げ,同年11月23日,本件訴訟を提起した。

(6)  被告の就業規則には,次の定めがある(<証拠略>)。

第4章 解雇

第18条 職員が次の各号の1に該当するときは解職する。

8.やむを得ない事業上の都合によりその必要があるとき

2  本件の争点及び当事者の主張

本件の争点は,本件解雇の効力である。

(被告の主張)

(1) 人員削減の必要性について

被告は,次のとおり,監督官庁である金融監督庁ないし金融庁から徹底した合理化を求められており,合理化の一環として行われた本件解雇には,経営上の高度の必要性があった。

ア 被告は,平成11年1月24日まで神奈川県商工部金融課の金融検査を受けてきたが,被告が静岡商銀から事業を譲り受けるのに伴い,同月25日から金融監督庁(平成13年度以降は,金融庁となった。以下「金融庁」という。)が被告の監督機関となり,関東財務局が被告に対して金融検査を行うこととなった。

また,金融庁は,被告の資産を簿価ではなく時価で評価し,債務者の資産の評価を厳しくして,厳格な債務区分を設けて貸倒引当金の積み増しを求める新たな金融検査マニュアルを作成し,平成11年7月1日,施行した。

イ 被告は,平成12年2月14日から上記金融検査マニュアルを用いた金融検査を受け,平成11年度決算で設立以来初めての当期損失を計上するに至った。

平成11年度以降の被告の赤字額は,次のとおりである。

平成11年度 約7億5500万円

平成12年度 約46億5000万円

平成13年度 約27億2000万円

平成14年度 約19億5000万円

平成15年度 約9億0000万円

平成16年度 約5億3000万円

ウ 金融庁は,上記の被告の赤字決算を受けて,被告に対して経営の合理化を強く要請した。金融庁による要請は,経営内容の細部にわたっており,本件解雇も,その要請に基づく合理化の一環として行われたものである。

エ 被告は,平成11年1月に静岡商銀から,平成13年6月に茨城商銀から,平成14年12月に千葉商銀からそれぞれ営業譲渡を受け,被告の組織は肥大化していた。

被告は,平成12年9月に川崎支店浜町出張所を,平成14年2月に藤沢支店をそれぞれ赤字店舗であったことから閉鎖し,平成15年12月には相模原,中原,浜松及び土浦の各支店の廃止を決定していた。これにより,被告は,多くの余剰人員を抱えており,人員削減の高度の必要性があったものである。

(2) 解雇回避努力義務について

被告は,以下のとおり,平成11年以降,多くの経費削減策を講じた上で平成15年度に最後の手段として本件整理解雇を行ったものであり,十分に解雇回避努力を行っている。

ア 被告は,平成11年7月23日及び同年8月31日,総務部長名で各部支店長あてに経費削減に関する通知を発信し,交際費,電話料金,電気料金,図書費等につき,詳細に経費削減を指示した。

イ 被告は,平成11年9月,全職員の給与を平均4.7%,うち部長級の職員の給与を10.3%削減している。また,被告は,常勤役員の報酬について,同日に一律10%,平成14年5月に一律20%削減しており,合計30%の削減を行っている。さらに,被告は,管理職職員4名に対して職位を1つ下げる降格人事を実施して人件費の削減を行っている。

被告は,整理解雇ではない方法で人員を削減するため,平成14年3月下旬から平成15年6月までの間に,役員4名に対して退職勧奨を行って辞任させ(1名は,役員報酬のない非常勤理事となった。),12名であった常勤役員(報酬の発生する役員)を8名とした。さらに,被告は,職員に対して退職勧奨を行い,平成14年10月31日から平成15年6月30日までに6名を辞職させた。

ウ 被告は,本件整理解雇前に希望退職を募集しなかったが,これは,<1>退職金の優遇による資金の流出及び<2>必要な人材の流出を防ぐためである。

被告は,支店長,副支店長の職位に余剰人員を抱えていた一方で,一般職員については,毎年多数の退職者があって,人員の補充も行っていた。希望退職の募集により,一般職員に大量に退職者が出るなど,必要な人材が流出することによって,かえって経営建て直しが困難となることも考えられ,このような場合にまで整理解雇を行う前提として希望退職の募集を必要とすることは不合理である。

エ 被告は,上記(1)エ記載の支店の統廃合により,支店長・副支店長に余剰人員を生じていたから,原告らに対して,同様の仕事や収入を保証することが困難となっていた。原告らのような副支店長級の職員を一般職員の補充として使うことは,円滑な業務遂行の観点からも,法的な観点からも非現実的であり,配置転換は不可能であった。

(3) 人選の合理性について

被告は,まず,役員及び45歳以上の管理職職員を経営責任を負担すべき立場にある者として整理解雇の候補者とし,これに50歳以上の非管理職職員と,人事考課上問題があるとされた45歳以上の職員を加えた。被告は,赤字の原因が経営者側にあることから,その責任が重い者から整理解雇の候補者としたものであり,この候補者の選定基準には合理性がある。特に,支店長・副支店長級の職員については,店舗の統廃合により,人員に余剰があり,融資等の決裁を行ってきた責任も軽視することはできないものであった。

被告は,この候補者の中から,人事考課等を総合的に判断して原告らを整理解雇の最終的な対象者として選定したものであるから,その人選は,十分に合理性のあるものである。

(4) 本件整理解雇の手続について

被告は,平成15年2月21日ころ,人員削減案及び不採算店舗の統廃合案を盛り込んだ平成15年度中期事業計画案を策定し,同年6月9日,部店長会議において,この計画の実施と必要性を各部店長に伝えた。各部店長は,部店長会議の内容,資料等について,各部店に伝達することになっており,これにより,人員削減を行うことは,原告らを含めた各職員に周知された。また,被告は,全職員に対して給与の削減を行っており,これは,職員に対して経営悪化の事実及び人員削減の必要性を明示する行為であった。

さらに,被告は,同年11月14日,職員全員に対して,「経営再建における人員削減について(お知らせ)」を社内LANを通じて送信し,本件整理解雇を周知させた。

以上のとおり,被告は,整理解雇の必要性について十分説明を行っており,その必要性は,職員に周知されていたから,本件整理解雇の手続に違法はない。

(5) 仮に本件解雇が無効であったとしても,原告らの解雇後の賃金及び賞与の見込額は,別紙3記載のとおりであり,原告らの請求は過大である。

(原告の主張)

整理解雇が有効となるためには,<1>人員削減の高度の必要性があること,<2>解雇回避努力義務が尽くされていること,<3>人選が合理的であること及び<4>解雇手続が相当であることの4要件が必要であり,本件解雇は,次のとおり,この4要件を何ら充足していない。

(1) 人員削減の必要性について

ア 被告が平成11年度以降赤字を計上した事実及び新しい金融検査マニュアルの施行により資産の評価方法が変更された事実は認める。

しかし,被告の赤字の原因は,ほとんどが不良債権の評価損失と株取引の失敗であり,被告は,銀行業務本体で毎年10億円前後の営業利益を上げている。また,被告の人件費比率は,他の同規模の預金量を持つ信用組合と比較しても,低いものであった。

したがって,被告の経営悪化の原因は人件費にはなく,人員削減の高度の必要性はおよそ認めることができない。

イ また,本件解雇の経緯をみても,被告は,平成15年11月14日,解雇予定人数を20名と発表しながら,最終的には職員10名及び役員4名の人員を削減したのみであって,当初から人員削減の必要性について詳細に検討したとは考え難い。

ウ 被告においては,毎年全役職員数の1割を超えるほどの自己都合退職者が出ており,平成16年度以降も同様に自己都合退職者が出ることは十分に予測できたのであるから,新規採用の抑制を行えば,あえて整理解雇を行わなくとも,人件費の抑制は十分可能であった。

しかし,被告は,平成15年4月1日に9人,本件解雇後である平成16年4月1日に12人もの職員を新規採用するなど,全く新規採用を抑制しなかったのであるから,そもそも,本件解雇を行う必要性は,全くなかったものと評価すべきである。

(2) 解雇回避努力義務について

ア 被告は,本件解雇に先立って,希望退職の募集を全く行っておらず,およそ被告が解雇回避努力を尽くしたとはいえない。

被告において,平成15年度から平成17年12月末までの自己都合退職者(退任役員も含む)は40名にものぼったのであるから,本件解雇に先立って希望退職者を募れば,本件解雇を回避し得るだけの人員削減が十分行えたはずである。

また,被告は,平成15年12月,整理解雇対象者に対し賃金2か月分を付加して退職金を支給したとしており,職員全員に冬季賞与も支払っているのであるから,希望退職者募集のために必要な割増退職金の原資はあったはずである。

被告は,希望退職者募集による必要な人材の流出を防ぐ必要があったと主張するが,有能な職員に対して退職を引き留める努力をすることは,希望退職の募集とは関連性のないことであり,また,希望退職の募集人数を限定すれば,人材が不足することはない。

イ 被告は,新規採用者の抑制を全くしておらず,本件解雇後も多数の職員を新規採用している。管理職が余剰であり,一般職員が不足していたのであれば,管理職を一般職に回すこともできるのであり,一般職への降格を行わなくとも,一般職が行うべきの(ママ)事務の一部を管理職に行わせることにより,採用抑制を行うことができた。原告X2は,一般職の残業手当を抑制するため,一般職の事務を行っており,上記のような対策は,十分実現可能なものである。そして,被告は,本件解雇に先立ち,このような一般職への配転等の措置の検討も打診も行っていないのであるから,解雇回避義務を尽くしていないことは明らかである。

(3) 人選の合理性について

被告の主張する整理解雇の人選基準は,平成15年11月14日に社員全員に社内LANで告知した内容とも,同月18日及び同月19日に原告らに交付した書面の内容とも異なっており,被告が特定の基準を定めて整理解雇の対象者の人選を行ったとは考え難い。かえって,被告は,整理解雇の人選をA専務理事(以下「A専務理事」という。)に一任したと考えるのが自然であり,A専務理事が選んだ者が整理解雇の対象者となるという,何ら基準のない恣意的な人選を行ったものである。

また,被告が平成15年11月ころに作成したと主張する「2003年度職員削減基準案」については,平成18年2月9日に行われた原告らと被告との間の団体交渉の席上で初めて提示されたもので,本件整理解雇当時存在していたものか否か疑わしく,この書面がどのように本件整理解雇に活用されたか不明である。また,仮にこの基準案により被告が人選を行ったとしても,被解雇者を45歳以上の者に限定し,部長級以上を対象から外したことに何ら合理性は認められない。

したがって,本件解雇の人選の合理性は,およそ認めることができない。

(4) 本件解雇の手続について

被告の職員に整理解雇が知らされたのは,平成15年11月14日の「お知らせ」が初めてであった。被告は,この「お知らせ」に45歳以上を対象者とし,対象者に対しては個別に面談の上決定すると記載しながら,実際には整理解雇の対象者のみを呼び出し,その場で口頭で解雇を通告した。被告は,原告らに対して,人員削減の必要性について具体的に説明せず,経営資料などの客観的裏付けを提示することもしなかった。

そもそも,整理解雇についての使用者と労働者との協議・説明は,解雇を最終的に決定する以前に行われる必要があり,被告はこのような手続を全く踏まず,突然原告らを解雇したものである。

また,被告は,本件解雇後の原告らとの団体交渉に誠実に応じず,本件解雇の関係資料の提出についても極めて不十分であったから,信義則上使用者側に求められる説明,協議の義務が尽くされたとは言い難い状況にある。

(5) 原告X1の本件解雇前3か月の平均賃金は44万8300円,解雇後に支給されるべき夏季賞与は60万9040円,冬季賞与は61万4330円であり,原告X2の本件解雇前3か月の平均賃金は42万1333円,解雇後に支給されるべき夏季賞与は52万5550円,冬季賞与は52万0030円であった。

よって,原告らは,被告に対して,雇用契約に基づき,雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに,原告X1は,被告に対して,未払賃金1169万5010円及び別紙1「金額」欄記載の各金員に対する弁済期の翌日である同「起算日」欄記載の各日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,平成17年11月から毎月25日限り賃金44万8300円,毎年12月31日限り冬季賞与61万4330円,毎年6月30日限り夏季賞与60万9040円及びこれら各金員に対する各弁済期の翌日から支払済みまでそれぞれ民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,原告X2は,被告に対して,未払賃金1084万0456円及び別紙2「金額」欄記載の各金員に対する弁済期の翌日である同「起算日」欄記載の各日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,平成17年11月から毎月25日限り賃金42万1333円,毎年12月31日限り冬季賞与52万0030円,毎年6月30日限り夏季賞与52万5550円及びこれら各金員に対する各弁済期の翌日から支払済みまでそれぞれ民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(6) なお,被告は,原告らの解雇後の賃金及び賞与の見込額が別紙3記載のとおりであると主張するところ,原告らは,あえて被告の主張する額を争わない。

第3当裁判所の判断

1  事実経過

前提事実,証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1)  原告ら

ア 原告X1(昭和○年○月○日生,本件解雇時47歳)は,昭和57年1月4日,被告との間で雇用契約を締結し,貸付主任,課長代理等を歴任した後,平成12年12月,平塚支店次席となり,平成15年,組織変更により同支店上席副支店長となった。

また,原告X1は,平成元年に宅地建物取引主任者の資格を,平成4年に銀行業務検定試験法務3級を,平成9年に同検定税務3級をそれぞれ取得し,税務3級取得時には,成績優秀者として,銀行業務検定協会から表彰された。

イ 原告X2(昭和○年○月○日生,本件解雇時51歳)は,昭和59年2月6日,被告との間で雇用契約を締結し,人事課係長,本店営業部貸付係長などを歴任した後,平成14年10月,横須賀支店副支店長となった。

原告X2は,横須賀支店副支店長となった後も,伝票にミスがないか否かを確認して検印するなど他店では主に主任級が行う業務をも行っており,集金業務,債権回収業務も行っていた。また,昼休みには,窓口で現金払出しを手伝うなど一般職員が行う業務を手伝うこともあった。

原告X2は,平成15年4月にくも膜下出血を起こして入院したものの,後遺症もなく快復して同年5月7日に退院し,同年6月2日から勤務を再開した。

(2)  被告の概況

ア 被告は,中小企業等協同組合法に基づき,昭和37年2月28日に設立された信用組合であり,在日韓国人を主な組合員として,組合員に対する資金の貸付等を主な業務としている。

被告は,平成11年1月に静岡商銀から,平成13年12月に茨城商銀から,平成14年6月に千葉商銀からそれぞれ事業を譲り受けた。

イ 被告の営業店は,平成11年1月まで,本店を含めて9店舗であったが,静岡商銀からの営業譲受により静岡,沼津及び浜松の各支店を,茨城商銀からの営業譲受により水戸及び土浦の各支店を,千葉商銀からの営業譲受により千葉及び船橋の各支店をこれに加えた。

他方で,被告は,不採算店舗の閉鎖を行い,平成12年9月20日に川崎支店浜町出張所を閉鎖して川崎支店に統合し,平成14年2月1日に藤沢支店を閉鎖して平塚支店に統合して,平成15年11月の時点で被告の店舗数は14店舗となった。また,被告は,後記のとおり,平成15年12月に相模原,中原,浜松及び土浦の各支店を廃止し,被告の店舗数は,現在,10店舗となっている。

ウ 被告には平成11年度末時点で10名の常勤理事,21名の非常勤理事・監事がおり,被告は,常勤役員のみに対して報酬を支払っていた。被告の常勤役員数は,平成10年度末から平成14年度末まで10名又は11名で推移していたが,後記のとおり,平成15年度にその数が削減され,平成15年度末は3名,平成16年度末は6名であった。

なお,被告は,平成11年1月27日に当時被告の理事長であったBに対して1億7850万円,平成11年7月21日に当時副理事長であったCに対して8000万円の退職慰労金をそれぞれ支払っている。Bは,これにより理事長を退いて会長職に就き,平成15年3月31日に退任するまで,常勤理事の地位にとどまった。

被告代表者は,平成14年4月25日,被告の経営改善のため,被告の代表理事に就任した。

エ 被告には平成10年度以降,毎年17名から25名程度の自己都合退職者がおり,被告は,これを補充するため,毎年3名から12名程度の職員を新規に採用していた。平成15年度の新規採用者数は9名,平成16年度の新規採用者数は,13名であった。また,被告は,平成10年度に静岡商銀から30名,平成13年度に茨城商銀から16名,平成14年度に千葉商銀から17名の職員を受け入れている。

被告の職員の総数は,平成10年度末は164名であったが,その後減少し,平成14年度末は141名,平成15年度末は125名,平成16年度末は117名であった。

被告には,平成15年11月30日の時点で,142名の職員及び8名の常勤役員が所属していた。そのうち,一般職員が51名,主任級の職員が36名,課長代理級(課長代理及び支店長代理)の職員が20名,課長級(課長,部長代理及び副支店長)の職員が18名,部長級(部長,副部長,支店長)の職員が17名であり,課長級以上が管理職とされていた。

オ 被告の職員の考課は,所属する各部又は各店の管理職が,部下の業務実績,業務管理等を評価して人事考課表を作成し,この人事考課表が本店総務部に送付されて,常勤理事を交えた会議で営業店実績を含めて再検討し最終的に決定されていた。被告において,考課を決定する際には,被考課者の意見等を聞くことはなかった。この考課は,AからGまでに区分され,被告は,この考課区分に応じて夏季及び冬季の賞与の支給率を決定していた。

カ また,被告は,平成10年度から平成15年度までの間,次の額の人件費を支出している。

平成10年度 10億0700万円

平成11年度 10億5618万円

平成12年度 9億5220万円

平成13年度 9億2299万円

平成14年度 10億0361万円

平成15年度 8億7494万円

(3)  被告の経営状況

ア 被告は,設立初年度(昭和36年度)を除き,設立から平成10年度まで,当期純利益を計上し続けていたものの,平成11年度,初めて当期純損失を計上した。平成10年度以降の被告の預金残高,貸出金残高及び当期純利益(損失)は,次のとおりである。なお,「▲」の記載のあるものは,損失であることを示す。

(ア) 預金残高

平成10年度 1167億8106万円

平成11年度 1102億3897万円

平成12年度 1111億0013万円

平成13年度 951億1986万円

平成14年度 1032億1856万円

平成15年度 1035億4282万円

平成16年度 1122億1174万円

(イ) 貸出金残高

平成10年度 838億9595万円

平成11年度 952億2380万円

平成12年度 958億0349万円

平成13年度 888億4155万円

平成14年度 872億7396万円

平成15年度 772億7862万円

平成16年度 725億4929万円

(ウ) 当期純利益(損失)

平成10年度 1億7527万円

平成11年度 ▲7億5507万円

平成12年度 ▲46億5331万円

平成13年度 ▲27億1906万円

平成14年度 ▲19億5104万円

平成15年度 ▲8億9926万円

平成16年度 ▲5億3095万円

イ また,被告は,平成11年度まで,組合員に対して4%の配当を実施していたが,平成12年度以降,配当を行っていない。

被告の自己資本比率は,平成11年度が6.86%,平成12年度が6.95%,平成13年度が5.7%,平成14年度が4.53%,平成15年度が5.23%と推移しており,いずれも,被告内では国内基準比率を上回っていると評価された。

(4)  金融庁による指導及び不良債権処理

ア 被告は,平成11年1月24日まで,神奈川県商工部金融課の金融検査を受けてきたが,被告が静岡商銀から事業を譲り受けるのに伴い,監督官庁が金融庁に変更となり,金融庁関東財務局の検査を受けるようになった。また,金融庁は,平成11年7月1日,不良債権処理を促進するため,債務区分を厳しく設けて貸倒引当金の積み増しを求める新たな金融検査マニュアルを策定し,施行した。

被告は,平成12年2月,金融庁からこの新金融検査マニュアルに基づいた検査を受けた。被告は,この検査において,従前簿価で評価していた担保物件の価額を時価で評価すべきとされ,これにより多くの担保割れが生じた。また,金融庁は,借主を6つの区分に分け,この区分に応じて貸倒引当金を積むことを要求したが,不動産評価の変更による担保割れと債務者区分の厳格な運用により,被告の自己査定と金融庁の査定とに差が生じ,利益の多くを貸倒引当金に繰り入れざるを得なくなった。これにより,被告は,平成11年度末決算において,24億8250万円の貸倒引当金繰入額を計上した。

被告の平成9年度以降の不良債権処理額及び平成11年度以降の貸倒引当金繰入額は,以下のとおりである。

不良債権処理額 貸倒引当金繰入額

平成9年度 16億5818万円

平成10年度 9億9568万円

平成11年度 30億3658万円 24億8250万円

平成12年度 36億3067万円 35億3273万円

平成13年度 23億4059万円 22億8909万円

平成14年度 22億5028万円 22億2589万円

平成15年度 16億6094万円 16億0701万円

イ 金融庁は,平成12年3月31日までに全国の256の信用組合に対して検査を行い,平成13年9月21日,その検査結果をとりまとめた。同日までの間に,256組合のうち19組合が破綻しており,金融庁は,その余の237組合についても,合計1654億円の追加償却・引当金が必要と査定した。

(5)  被告の経費削減努力等

ア 被告は,平成11年7月23日,各部支店長に対して,「経費節減について」と題する通知(<証拠略>)を行い,冠婚葬祭費,食事を伴う経費,粗品配布及び残業代につき,経費節減に努めるように求めた。また,被告は,同年8月31日にも「経費節減について」と題する通知(<証拠略>)を行い,通信費,事務用品費,給水光熱費,図書費,会議費,自動車費,保全管理費,広告宣伝費等の節減により,経費(平成10年度総額16億0300万円)を前年比10%削減することとし,各部,各支店の職員に対する指導の徹底を求めた。

イ 被告は,平成11年4月13日,被告の常勤役員報酬を平均1.47%引き下げた。

被告は,平成11年8月24日,人件費削減についての稟議を行い,同年9月分以降の役・職員の報酬・賃金を以下のとおり減額することとした。

役員報酬 削減率 約10%

削減額 月額29(ママ)万8800円

7か月合計909万1600円

職員給与 削減率 10.3%から2.15%

削減額 月額181万6300円

7か月合計1271万4100円

冬季賞与 削減率 25.7%

削減額 2055万円

職員食事手当 職員163名×1日当たり500円×141日

削減額 1149万1500円

合計削減額 5384万7200円

また,被告は,平成14年4月18日,常勤役員報酬並びに幹部職員給与の改定についての稟議を行い,役員報酬及び幹部職員の給与を同年5月の支給分から次のとおり削減することとした。

役員報酬 削減率 平均11.47%

削減額 月額 120万6000円

年額 1447万2000円

職員給与 対象者 平成14年4月1日時点で勤続20年以上,満48歳以上かつ課長職以上の職員

削減率 55歳以上 15%

48歳以上54歳以下 10%

削減額 月額 45万6300円

年額 705万7870円

合計削減額 年額2152万9870円

ウ 被告は,平成14年度の常務会において,まず役員会から人員を削減すべきことを決定し,60歳以上の常勤役員をその対象とした。これを受けて,平成14年6月27日にD常勤監事が,同年8月31日にE副理事長が,平成15年6月27日にF常勤監事が退任し,同年3月31日にB会長・常勤理事が非常勤理事・名誉会長となったことにより,常勤役員の人数は,本件解雇時には8名まで削減された。

被告は,平成14年10月10日,管理職職員4名の降格人事を発表した。また,被告は,平成14年度の常務会において,58歳以上の職員には退職勧奨を行うと決定し,複数の職員に退職勧奨を行った。これにより,平成14年度に5名(うち3名は部長級であり,いずれも50歳以上。)の職員が,平成15年度に2名の職員が退職した。

(6)  2003年度中期事業計画の策定

ア A専務理事は,平成15年2月に行われた常務会で,4店舗の統廃合及び役・職員の人員整理について提案した。被告は,常務会において,整理案そのものは承認したものの,出席していた役員の全員が整理解雇の候補者となったことから,その人選及び人数については決定せず,A専務理事に一任した。

被告は,同年3月13日までに中期事業計画をとりまとめ,同日行われた常務会で,次のとおりの内容の「中期事業計画案」及び「経営合理化策」が承認された。

「中期事業計画」は,基本方針として,「繰越欠損金を解消し,早期に出資配当金を復活させるべく,収益増強の柱として貸出金の増強を図るとともに,経費の節減,店舗の統廃合,人員体制の見直し等,徹底した経営合理化策を着実に実施していく。経営体質の強化により,自己資本比率については,早期に6%台まで引き上げることを当面の目標とし,本中期事業計画終了年度には10%超を目指すこととする。」と定め,主要施策として,貸出金の増強,不良債権問題との決別,徹底した経営の合理化の3つを挙げる内容であった。徹底した経営の合理化については,「経営コストを削減するため,店舗立地,店舗採算等の観点から店舗政策を見直し,必要に応じて店舗の統廃合を行う。また,人員の配置についても見直していく。」とされ,店舗政策の見直し内容として,相模原,中原,浜松及び土浦の各支店の廃止が明記された。

「経営合理化策」の中には,「職員数については,店舗統廃合と併せ,削減を推進していくこととし,計画期間における削減目標数を現行の約6分の1となる25名(常勤役員の削減数も含める)とする。」と記載され,「尚,人員削減に伴い,業務への支障が懸念,想定される場合には,パートタイムの雇用,派遣会社からの人材補充等により対応していくこととする。」と規定された。

この中期事業計画案は,同年6月9日,部店長会議において,財務部及び総合企画部が説明して,承認され,同年6月27日,第42期2002年度通常総代会において,第2号議案として承認された。

イ また,中期事業計画案には,平成15年度から平成19年度までの損益の目標値が設定されており,平成15年度の人件費,物件費,貸倒引当金繰入額及び経常利益(損失)の目標額は,次のとおり設定された。他方,平成15年度末の実際の人件費,物件費,貸倒引当金繰入額,経常費用,経常収益及び経常利益(損失)は,次のとおりである。

目標額 平成15年度末

人件費 9億4400万円 8億7494万円

物件費 5億2900万円 5億0286万円

貸倒引当金繰入額 5億6234万円 16億0701万円

経常費用 26億5509万円 36億3485万円

経常収益 32億7790万円 32億6648万円

経常利益(損失) 6億2281万円 ▲3億6836万円

(7)  本件解雇に至る経緯

ア 前記の中期事業計画が常務会で承認されたのを受けて,被告の財務部長兼総務部長であったGは,同年4月9日,A専務理事から人員削減を行う準備のため,資料の作成を指示された。Gは,40歳以上の職員の氏名,所属,職位,平成15年4月1日時点での年齢,勤続年数,給与の支給額,退職金の見込額,平成12年から平成14年までの考課等を記載し,これを年齢の高い順で並び替えた「2003年度職員削減案(年齢順)」(<証拠略>)及び考課の悪い順で並び替えた「2003年度職員削減案(40歳以上:考課順)」(<証拠略>)をA専務理事に提出した。

「2003年度職員削減案(年齢順)」によれば,原告X1は21番目,原告X2は11番目の職員であり,「2003年度職員削減案(40歳以上:考課順)」によれば,原告X1は8番目,原告X2は23番目の職員であった。また,原告X1より考課が劣るとされた職員の中には,2名の50歳未満の課長代理級の職員が含まれていた。

イ A専務理事は,平成15年11月上旬ころ,整理解雇の人選を開始し,Gから提出された上記ア記載の資料等をもとに,本件整理解雇による被解雇者の人選を決定した。

ウ 被告は,平成15年11月14日,社内LANを用いて,全職員に対して,「経営再建における人員削減について(お知らせ)」と題する通知を送信し,被告の経営環境が極めて厳しく,経営努力によっても明るい見通しが立て難い状況になっていることを示した上で「今年度においては店舗を閉鎖し,誠に遺憾ながら人員を削減することが避けられないこととなっています。」として,次の要項に基づいて整理解雇を実施すると発表した。

「1.解雇予定人数 20名

2.対象者 2003年11月1日現在で45歳以上の管理職以上が対象。対象者に対しては,個別に面談の上,決定いたします。

3.解雇日 2003年12月31日」

エ なお,Gは,遅くとも同年10月までに,A専務理事から10月末をもって退職するように求められ,辞表を提出したが,金融検査への対応の経験があったので,被告代表者から残留を求められ,同年10月3日に金融検査特別対応室室長に就任した。被告の総務部長には,同日,H(本件整理解雇当時49歳)が就任したが,Hは,自己が整理解雇の候補者となったか否か,被解雇者から外れた理由が何であるかにつき知らなかった。

(8)  本件解雇

ア 原告X1は,平成15年11月18日,I理事(以下「I理事」という。)から翌19日午前10時に本店に来るようにとの指示を受け,同時刻に本店において,I理事及びJ常務理事と面談した。

原告X1は,面談の際,I理事から「2003年度横浜商銀信用組合経営再建に伴う人員整理基準」と題する下記の基準が記載された書面を提示され,このうちの「3 人事考課をもとに執行部にて判断した役職員」であるとして,同年12月31日をもって解雇する旨を告げられた。原告X1は,この際,退職金,雇用保険等の説明を受けたが,被告の経営状況については説明されなかった。

「1 年齢が55歳以上の役職員。ただし特段の事由により再雇用する場合は嘱託として雇用する。

2  年齢が50歳以上の部長級未満の役職員。ただし特段の事由により再雇用する場合は嘱託として雇用する。

3  人事考課をもとに執行部にて判断した役職員。」

イ  原告X2は,平成15年11月18日午後1時ころ,被告からの呼出しに応じて,本店において,I理事及びJ常務理事と面談した。

原告X2は,I理事から「2003年度横浜商銀信用組合経営再建に伴う人員整理基準」と題する前記書面を提示され,その2項の50歳以上,部長級未満の職員に当たるから解雇すると告げられた。原告X2は,解雇に同意せず,雇用の継続を要望したが,I理事は,決定事項であるからとして受け入れず,嘱託として再雇用することも考えていない旨を付け加えた。

被告は,その後,原告らに対して,同年11月25日付け解雇予告通知書及び退職勧告同意書を郵便で送付し,本件解雇への同意を求めた。

ウ  被告は,平成15年11月17日から同月20日までの間に,職員15名(原告らを含む。)を呼び出し,全員に対して,同年12月31日付けで解雇する旨の意思表示をした(本件整理解雇)。

また,被告は,そのころ,役員4名を呼び出してうち3名を解任し,うち1名を辞任させて職員として採用した。なお,本件整理解雇の対象者の人選をしたA専務理事は,同年12月31日付けで専務理事を辞任した。

なお,被告は,本件整理解雇に先立って,希望退職の募集や,降格・配置転換の可能性の検討及び打診を行っていない。

エ  本件整理解雇の対象とされた職員のうち,55歳以上の職員は2名,55歳未満50歳以上の職員は11名(原告X2を含む。),50歳未満の職員は2名(原告X1を含む。)であった。55歳以上の職員はいずれも部長級であり,55歳未満の職員の中には部長級の職員は含まれていなかった。また,55歳未満50歳以上の職員のうち4名が課長代理級以下の一般職であったが,50歳未満の職員はいずれも部長代理級以下の管理職であって,課長代理級以下の一般職員(原告X1よりも考課順で下位となった職員を含む。)はいなかった。50歳以上の職員のうち,5名は,嘱託社員として再雇用された。

オ  被告は,前記の中期事業計画に基づき,平成15年12月,相模原,中原,浜松及び土浦の各支店を廃止し,それぞれの支店を大和,川崎,静岡及び水戸の各支店に統合した。閉鎖された各支店に勤務していた被告の職員は26名であった。

カ  被告は,本件整理解雇の対象となった各職員に対して,退職年金規定に基づく退職金に加え,2か月分の賃金に相当する割増退職金を支給することとし,平成16年2月2日,原告X1に対して653万8000円,原告X2に対して554万0800円の退職金を支払った。他方,被告は,平成14年8月以降に退職した被告の役員に対しては,いずれも退職慰労金を支給していない。

(9) 本件解雇後の経緯

ア  原告らは,平成15年12月26日,神奈川シティユニオン(以下「本件組合」という。)に加入し,本件組合は,同日,被告に対して,原告らが本件組合に加入したことを通知する「組合加入通知書」及び平成16年1月27日に団体交渉を行うことを要求する「団体交渉要求書」を送付した。

被告は,平成15年12月30日,原告らに対して,同月31日をもって解雇する旨の辞令を交付した。

また,被告は,平成16年1月14日,本件組合に対し,本件解雇が「年齢役職による基準及び当該職員の在職中の問題ある行状に基づく客観的な人事考課」によるものであるから,団体交渉に応じる意思はないと回答した。

イ  被告は,同年1月27日,本件組合との間の団体交渉に応じず,本件組合は,翌28日,神奈川地方労働委員会に対して,被告が団体交渉に応じないのは不当労働行為であるなどと主張して,救済命令を求める申立てを行った。地方労働委員会は,平成17年3月25日,被告に対し,本件組合の団体交渉要求に対し,誠実に応じなければならない旨の救済命令を行った。

被告は,同年4月19日から本件組合との団体交渉を開始し,その後も複数回団体交渉を行った。本件組合は,団体交渉の過程で被告に対し,整理解雇の資料の開示を求め,被告は,本件組合に対し,平成18年2月9日になって,「2003年度職員削減案(年齢順)」(<証拠略>),「2003年度職員削減案(40歳以上:考課順)」(<証拠略>)及び「職員削減基準案」(<証拠略>)を提出した。「職員削減基準案」の内容は,同年11月1日現在で50歳以上の全職員及び45歳以上の管理職を対象とし,これを<1>55歳以上の職員,<2>50歳以上55歳未満の職員,<3>45歳以上の管理職に分類し,さらに<3>45歳以上の管理職を部長級,副部長級,部長代理級及び課長級の職位に分けて,これをそれぞれ考課順に並べたものである。原告X2は,この表により,50歳以上で部長級未満の職員として解雇の対象に分類され,原告X1は,45歳以上の管理職で,部長代理級として最も考課の低い職員として,解雇の対象に分類されていた。

2  本件解雇の効力について

(1)  前記1認定事実からすれば,本件解雇は,原告らが,他の13名の職員とともに,やむを得ない事業上の都合によりその必要があるとき(就業規則18条8項)に該当するとして行われたものであって,いわゆる整理解雇である。解雇が客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,当該解雇はその権利を濫用したものとして無効となる(労働基準法18条の2)が,このような整理解雇の事案では,帰責性のない労働者が,使用者の経営上の理由のみにより重大な社会生活上の不利益を被ることになるのであるから,解雇が権利の濫用となるか否かは,<1>人員削減の必要性があること,<2>解雇回避の努力がされていること,<3>被解雇者の人選が合理的であること,<4>解雇の手続が妥当であることを重要な要素として勘案し,総合考慮して判断すべきであると解される。

(2)  人員削減の必要性について

ア 前記1認定事実によれば,被告は,平成12年2月,新たな金融検査マニュアルに基づく関東財務局の検査を受け,平成11年度決算において,30億3658万円の不良債権を処理し,24億8250万円を貸倒引当金に繰り入れた。被告は,昭和37年度から平成10年度まで当期純利益を計上し続けてきたものの,上記貸倒引当金の繰入れ等により利益が圧縮され,平成11年に7億5507万円,平成12年度に46億5331万円,平成13年度に27億1906万円,平成14年度に19億5104万円,平成15年度に8億9926万円の当期純損失を出している。

また,平成13年9月21日までに全国の256の信用組合のうち19の信用組合が破綻に至っており,このような信用組合の破綻は,預金者・組合員の保護,地域経済への影響,公的資金の投入の可能性等の見地から,金融庁としても可能な限り回避しなければならない事態であった。金融庁は,信用組合の破綻回避のため,平成11年度以降,被告に対して,経営状況の改善及び経営の合理化を強く求めたものである。

そして,被告も,上記金融庁の要求を受け,上記赤字の累積に危機感を感じて,物件費・交際費の削減,役員報酬の削減,常勤役員の人員削減,職員の賃金削減,職員の降格等,様々な経営合理化策をとっていたと認められることは前示のとおりである。被告は,このような経営合理化策の一環として平成15年12月,本件整理解雇と時期を同じくして相模原,中原,浜松及び土浦の各支店を他の支店と統合し,廃止したものであるが,このような不採算店舗の廃止は,被告の高度な経営判断に基づくものであり,もとより被告の裁量に基づくものであって,相当なものと評価し得る。

この廃止された支店には,26名の職員が勤務していたのであるから,統合する支店の取扱業務が増加し得ることを考慮したとしても,被告には支店廃止による余剰人員が生じたことは明らかであり,被告は当期純損失を計上し,余剰人員を多く抱える余裕があったとは認められない以上,人員削減の必要性は,一応肯定されるべきといえる。

イ もっとも,<1>被告の当期純損失は解消はされなかったものの,平成12年度をピークに平成15年度に至るまで減少を続けていること,<2>被告の自己資本比率は,平成11年度が6.86%,平成12年度が6.95%であり,茨城商銀,千葉商銀から営業譲渡を受けた平成13年度は5.7%,平成14年度は4.53%とやや減少したものの,いずれも国内基準比率を上回っていると被告内で評価されていたこと,<3>被告の預金残高は,平成13年度にやや減少したものの,一応堅調に推移していること,<4>被告の不良債権処理額についても,平成12年度の36億3067万円をピークとして,平成13年度が23億4059万円,平成14年度が22億5028万円,平成15年度が16億0943万円と減少を続けていることがそれぞれ認められることは前示のとおりである。また,<5>貸出金残高が平成12年度以降減少していることは前示のとおりであるが,貸出金残高の減少額には不良債権処理による減少分が相当程度含まれていると考えられ,この点が被告の経営に悪影響を与えたと認めることはできない。これらの事実によれば,被告の経営状況が人員削減によらなければ,破綻の危機に直面するほどの水準にあったとまでは認め難い。

ウ また,前記1認定事実からすれば,被告は,<1>平成15年2月,常務会において,整理解雇の人数をA専務理事に一任したこと,<2>中期事業計画(<証拠略>)で平成15年度の人件費を9億4400万円と設定したところ,同年度,被告が現実に支出した人件費は8億7494万円であり(<証拠略>),目標よりも約7000万円多い額の人件費削減を本件整理解雇等により実現していること,<3>中期事業計画に添付された経営合理化策には「25名」と人員削減予定を記載し,平成15年11月14日の通知においては,「20名」を対象人員とすると記載しているものの,本件整理解雇では,解雇した15名の職員のうち5名を嘱託社員として再雇用していることがそれぞれ認められるところである。

このような事実からすれば,被告が本件整理解雇の人数について,十分に検討したと認めるのは相当とはいえず,このように決定された15名という本件整理解雇による被解雇者数についても,その必要性につき,疑問が残るといわざるを得ないところである。

エ 以上のとおり,被告は,余剰人員の整理につき一定の必要性を有していたとは認められるものの,被告の経営状況が整理解雇によらなければ破綻が避けがたい状況であったとは認められず,本件整理解雇により,15名もの職員を解雇する必要があったか否かについては,必要性に疑問が残るものである。

(3)  解雇回避努力について

ア 前記1認定事実によれば,被告は,本件整理解雇に至るまで,物件費,交際費の削減,不採算店舗の閉鎖,役員報酬の削減,役員の退任,職員の賃金削減,職員の降格等の経営改善努力を行ってきたものであるが,本件整理解雇に先立って,希望退職の募集を行っておらず,降格・配置転換の可能性の検討及び打診も行っていない。

イ この点,被告は,希望退職を募集すれば,<1>割増退職金の支払により大量の資金流出を招き,<2>必要な人材の流出により経営再建が困難となることがあり得るから,希望退職を募集しなかった被告の措置は相当なものであったと主張する。

しかし,<1>希望退職募集の際,どの程度の割増退職金を支払い,何名程度の希望退職を募集するかは被告の裁量であり,削減すべき人件費・余剰人員とのかねあいでその額・人数を決定すればよいことであって,資金流出の程度はこれにより十分調整可能な事柄である。また,極端に退職金の割増率を引き上げずとも,再就職先の斡旋・紹介等,他の方法により,希望退職を誘引することは可能である。<2>人材の流出については,希望退職者の対象を管理職に限定したり,管理職・一般職で別個に定員を設けたりすること等により十分に防止することができるものと考えられ,個別的に優秀な人材を確保すべきときには,当該職員に対して残留を要請することにより対処が可能である。

したがって,希望退職を募集しなかったことが相当な措置であったという被告の主張は採用し得ない。もっとも,希望退職の募集は,解雇回避の一手段にすぎず,整理解雇に先立って必ず実施しなければならない性質のものではないが,職員の意思を尊重しつつ,人員及び人件費の削減を図る極めて有用な手段であることを考慮すると,被告が相当な理由なくこの措置を講じなかった点は,解雇回避努力を怠ったと評価せざるを得ない。

ウ また,配置転換を検討・打診しなかったことにつき,被告は,副支店長であった原告らについて,一般職員と同様の仕事をさせ,同様の待遇をすることは現実的ではなく,配置転換の検討の必要はなかったと主張する。

しかし,前記1(1)認定事実によれば,原告X2は,横須賀支店副支店長となった後も,他店では主に主任級が行う業務をも行っており,一般職員とともに集金業務,債権回収業務も行っていた。そうすると,少なくとも小規模支店においては,副支店長級の職員の業務と課長代理級・主任級の職員の業務との間に代替が困難であるほどの決定的な違いがあるとは認め難く,副支店長級の職員を一般職員である課長代理級・主任級に降格させることは,必ずしも非現実的な措置であるとはいえない。このような減給を伴う降格も,当該職員の同意に基づくものであれば違法な措置とはいえず,整理解雇を回避するため,検討し,打診する価値のある措置であったというべきである。特に被告は,多数の自己都合退職者を出しており,相当数の職員を新規採用して人員の補充に当てていたところであるから,このような新規採用を抑制し,前述のとおり希望退職の募集をした上で,配置転換の打診を行っていれば,相当数の余剰人員を吸収することができたと考えられるところであり,その検討すら怠った被告が,解雇回避努力を行ったと評価することはできない。

エ 以上の事情に照らすと,被告が本件解雇に当たり行った解雇回避努力は,およそ不十分なものであったというほかない。

(4)  人選の合理性について

ア(ア) 前記1認定事実及び「職員削減基準案」(<証拠略>)によれば,被告は,原告らとの面接の際,被解雇者の人選につき,<1>55歳以上の役職員,<2>50歳以上の部長級未満の役職員,<3>人事考課をもとに執行部にて判断した役職員と説明しており,現に,被告は,<1>まず職員を55歳以上,50歳以上,45歳以上の各年齢ごとに分類し,<2>55歳以上の職員については全員を,<3>50歳以上の職員(一般職を含む)については部長級未満の職員全員を,<4>45歳以上の職員については管理職のみを対象とし,さらに職位ごとに分類した上,考課をもとに選定された職員(原告X1を含む。)をそれぞれ解雇しているところであり,これに「2003年度職員削減案(年齢順)」(<証拠略>),「2003年度職員削減案(40歳以上:考課順)」(<証拠略>)をも照らし併せると,被告は,おおむね年齢・職位・考課といった要素を考慮して本件整理解雇の対象者の人選を行ったということができる。

なお,原告は「職員削減基準案」が本件解雇後に作成されたものであると主張するが,「職員削減基準案」の内容は,本件整理解雇の被解雇者と一致しており,本件解雇時に被告が原告らに対して行った説明ともおおむね一致しているものであるから「職員削減基準案」は,本件解雇前に,本件解雇の人選に関係して,被告により作成されたものと一応認められるものである。

このように,年齢・職位・考課といった要素を選定基準に用いることは,それぞれが客観的かつ合理的な選定基準として用いられている限り,不当とまではいえない。

(イ) しかし,人選の際に用いる要素が個別的にみて合理的なものであっても,複数の要素を考慮して人選を行う以上,どの要素を重視し,どの要素による分類をはじめに行うかにより,具体的人選は全く異なるものとなりうる。

前記1認定事実によれば,原告X1は年齢順で21番目,考課順で8番目の職員であり,原告X2は年齢順で11番目,考課順で23番目であるから,年齢又は考課いずれかのみで本件整理解雇の人選を行っていれば,原告らのいずれかは本件整理解雇の対象から外れていたと考えられる。また,考課順を見ると,原告X1より下位には,50歳未満の課長代理級の職員が複数含まれているが,これらの職員は,本件整理解雇の対象とはなっていないところである。

そうすると,本件整理解雇の被解雇者の人選が合理的であるか否かは,年齢・職位・考課といった要素のうち,何を重視し,どのような順序であてはめたかにつき検討し,評価しなければならない。

しかし,被解雇者の人選を行ったA専務理事が,上記の「職員削減基準案」をどのように利用し,どのような理由により解雇基準を定めたかについては明らかではない。また,この「職員削減基準案」によっても,被告が<1>最初に年齢による分類をしたこと,<2>55歳未満の部長級職員は対象とせず,55歳以上の部長級職員は対象としたこと,<3>50歳以上の一般職は対象とし,50歳未満の一般職は対象としなかったこと,<4>予定していた職員の削減人数などについて,いかなる根拠によりこれらを決定したか不明であるというほかない。そして,「職員削減基準案」のほかに,被告が上記年齢・職位・考課といった要素のうち何を重視したかについて,その合理性を認めるに足りる的確な証拠はない。

(ウ) なお,被告は,融資等の決裁を行い経営責任を負担すべき立場にある者を整理解雇の候補者としたと主張するが,55歳未満の職員については部長代理級以下の管理職や一般職を対象としながら,支店長を含む部長級職員を対象としなかったことについて,合理的な理由があることを認めるに足りる証拠はないから,被告の上記主張も採用できない。

(エ) そうすると,被告が採った被解雇者の選定基準は,考慮した要素については一定の合理性を認めることができるものであるが,この要素をどのように考慮し,重視するかについては,合理性を見い(ママ)出すことはできないというべきである。

イ また,前記1認定事実によれば,被告は,平成15年2月に行われた常務会で整理解雇の人選をA専務理事に一任しており,その選定基準も,A専務理事が単独で設定したものである。平成15年10月3日まで総務部長であったGは,平成15年4月,「2003年度職員削減案(年齢順)」(<証拠略>),「2003年度職員削減案(40歳以上:考課順)」(<証拠略>)をA専務理事に提出したのみであり,被告が「2003年度職員削減基準案」(<証拠略>)を作成したと主張するHも,実質的に人選に関与したと認めるに足りる証拠はない。

このように,被告がA専務理事一人に選定基準についてまで一任し,常務会等の意思決定機関において協議を行わなかったことは,合理的かつ客観的な基準により整理解雇を行うべき使用者として,適切な措置であったとはいい難い。本件整理解雇は,役員のみならず多くの職員を解雇するものであり,常務会に出席していた常勤理事の多くが整理解雇の候補者であったことは認められるものの,このことにより,被告が協議して選定基準を決定しなかったことが正当化されるものではない。

ウ 以上のとおり,被告が行った本件整理解雇は,その選定基準が適切な方法で決定されたとはいえず,その選定基準をみても合理的なものであるということはできない。

(5)  解雇手続の相当性について

ア 前記1認定事実によれば,被告は,平成15年11月14日,社内LANを通じて整理解雇を行う旨の通知をし,同月18日及び同月19日に本件解雇の意思表示を行ったものであり,これ以前に原告らに対して,本件整理解雇を実施し,原告らを被解雇者とすることについての通知を行ったことはない。

被告は,平成15年6月9日に行われた部店長会議で中期事業計画について議題とし,同月27日に行われた総代会で,中期事業計画は承認されたのであるから,本件整理解雇は,この中期事業計画の内容として,遅くとも部店長会議後に部店長を通じて職員に周知されたと主張し,この部店長会議資料(<証拠略>)には,「全員回覧」との印が押されている。

しかし,仮にこの部店長会議資料が被告の職員に閲覧可能であったとしても,この資料には,「人員体制の見直し等,徹底した経営合理化策を着実に実施していく。」「人員の配置についても見直していく。」との記載があるのみで,具体的に整理解雇を行う旨の記載はなく,中期事業計画と同時期に作成され,25名の人員削減について明記された「経営合理化策」(<証拠略>)は添付されていない。また,部店長会議で整理解雇が議題となっていたとしても,この会議に出席していたHは,「リストラがあることをアナウンスすることは,しないですが。」と神奈川県労働委員会の審問期日において述べており(<証拠略>),被告の支店長が整理解雇の内容につき職員に周知させるように指示されていたと認めることはできない。また,被告において同年6月27日に開催された総代会も,承認されたのは前記のとおりの記載のみがある「中期事業計画案」であり,その中に整理解雇の実施を明示した部分はない。

被告は,これに加えて,被告が行ってきた賃金削減や退職勧奨により,整理解雇が避けられない状況にあることは職員に周知されていたと主張するが,このような被告の経営合理化策は,職員に被告の経営状況につき不安を覚えさせるものではあっても,整理解雇を周知させるものと評価することはできない。

以上のとおり,本件整理解雇が事前に職員に周知されていたとする被告の主張は採用できず,解雇を実施する直前である平成15年11月14日に初めて職員に対して整理解雇の実施を通知したものと認めざるを得ない。

イ 被告は,本件解雇の際,経営状況を示す資料を示さず,人選の理由についても,年齢が50歳以上の部長級未満の役職員である又は人事考課をもとに執行部にて判断した役職員であると抽象的に説明したのみで,原告らに対して十分な説明を行っていると認めることはできない。

また,被告が本件整理解雇を行う以前に,職員の意見を聞く等,職員との間に話合いの機会を設けたことを認めるに足りる証拠はない。

ウ 以上の事実を考慮すると,被告が本件解雇を,相当な手続により実施したと認めることはできない。

(6)  以上のとおり,被告は,15名の整理解雇が必要であるかについて疑問が残る状況で,十分な解雇回避努力をせず,合理的とはいえない方法の人選により,相当な手続を経ずに本件解雇を行ったものである。

これらの事情を総合考慮すると,本件解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認めることはできないから,解雇権の濫用として無効である。

3  原告らの本件解雇後の賃金及び賞与は,別紙3記載のとおりであることに争いがない。また,弁論の全趣旨によれば,原告らの平成17年11月以降の賃金,冬季賞与,夏季賞与は,平成17年10月の賃金,平成16年12月の冬季賞与,平成17年6月の夏季賞与とそれぞれ同額であると認定するのが相当である。

なお,原告らは,本件訴え提起の後の平成17年11月から終期を定めずに将来の賃金及び賞与の支払も求めているところ,原告らが被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する本判決が確定した後に弁済期が到来する賃金及び賞与については,被告が支払を拒むことが予想されるなどの特段の事情がない限り,あらかじめその請求をする必要があるとはいえない。そして,本件においては,判決確定後の将来請求を必要とすべき特段の事情があることを認めるに足りる証拠はないから,原告らの本件訴えのうち,判決確定後に弁済期が到来する賃金及び賞与の支払を請求する部分は,訴えの利益を欠き,却下を免れないものである。

4  結論

したがって,原告らの請求は,原告らが被告に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め,原告X1が被告に対し,未払賃金1138万9910円及び別紙4「原告X1」欄中の「修正額」欄記載の各金員に対する同「支給日」欄記載の各日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金並びに平成17年11月から本判決確定の日まで毎月25日限り未払賃金43万8300円,毎年12月31日限り冬季賞与59万7080円,毎年6月30日限り夏季賞与56万8790円及びこれら各金員に対する各弁済期の翌日から支払済みまでそれぞれ年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,原告X2が被告に対し,未払賃金1055万6360円及び別紙4「原告X2」欄中の「修正額」欄記載の各金員に対する同「支給日」欄記載の各日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金並びに平成17年11月から本判決確定の日まで毎月25日限り賃金41万0500円,毎年12月31日限り冬季賞与51万1750円,毎年6月30日限り夏季賞与51万4740円及びこれら各金員に対する各弁済期の翌日から支払済みまでそれぞれ年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,本判決確定後に弁済期が到来する賃金及び賞与の支払を求める部分は訴えの利益を欠き却下すべきであり,その余の請求は理由がないから,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉田健司 裁判官 貝原信之 裁判官 伏見英)

別紙3 賃金算定額 修正

<省略>

賞与算定額 修正

<省略>

別紙4 未払賃金目録 修正

<省略>

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