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横浜地方裁判所 平成17年(行ウ)1号 判決 2006年5月10日

主文

1  被告が原告に対して平成15年7月4日付けでした平成12年2月分から平成14年12月分までの各月分に係る源泉徴収所得税の各納税告知処分(ただし,いずれも平成15年11月26日付け異議決定により一部取り消された後のもの)及び不納付加算税の賦課決定処分のうち,別表4の「納付すべき源泉所得税額」欄及び同「不納付加算税額」欄に各記載の金額を超える部分をいずれも取り消す。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は,これを4分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第1原告の請求

被告が原告に対して平成15年7月4日付けでした平成12年2月分から平成14年12月分までの各月分に係る源泉徴収所得税の各納税告知処分(ただし,いずれも平成15年11月26日付け異議決定により一部取り消された後のもの)及び不納付加算税の各賦課決定処分をいずれも取り消す。

第2事案の概要

本件は,原告が,その経営する店舗において使用している各ホステス(以下「本件各ホステス」という。)に対して支払う報酬(以下「本件各ホステス報酬」という。)に係る源泉所得税について,本件各ホステス報酬の金額から,5000円に本件各ホステスに対する報酬支給の基準となる集計期間の全日数を乗じて計算した金額を控除した金額を課税標準として納付したところ,被告が,課税標準とすべき金額は,本件各ホステス報酬の金額から,5000円に本件各ホステスが実際に出勤した日数を乗じて計算した金額であるとして,原告に対し,納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分を行ったため,原告がそれらの取消しを求めた事案である。

第3基礎となる事実等

1  原告の事業について

(1)  原告は,バー,キャバレー,ナイトクラブの経営等を業とする有限会社である。原告の主たる業務は,原告が経営する店舗において,顧客に対し接待をして遊興又は飲食をさせるものであり,当該店舗において接待をすることを業務とする本件各ホステスを使用している。

(2)  原告は,原則として年中無休で営業しているが,毎年1月1日,同月2日及び12月31日は休業としている。

2  法令等の定め

(1)  所得税法(以下「法」という。)204条1項本文は,「居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金,契約金又は賞金の支払をする者は,その支払の際,その報酬若しくは料金,契約金又は賞金について所得税を徴収し,その徴収の日の属する月の翌月10日までに,これを国に納付しなければならない」旨規定し,同項6号は,当該報酬若しくは料金,契約金又は賞金の一つとして,キャバレー,ナイトクラブ,バーその他これらに類する施設でフロアにおいて客にダンスをさせ又は客に接待をして遊興若しくは飲食をさせるものにおいて客に侍してその接待をすることを業務とするホステスその他の者のその業務に関する報酬又は料金(以下「ホステス報酬等」という。)を挙げている。

(2)  法205条2号は,ホステス報酬等については,その金額から「政令で定める金額」を控除した残額に100分の10の税率を乗じて計算した金額が前記(1)の規定により徴収納付すべき所得税の額である旨規定している。

(3)  所得税法施行令(以下「施行令」という。)322条は,ホステス報酬等について法205条2号に規定する「政令で定める金額」を,「同一人に対し1回に支払われる金額」につき,「5000円に当該支払金額の計算期間の日数を乗じて計算した金額(当該ホステス報酬等の支払者が当該ホステス報酬等の支払を受ける者に対し法28条1項に規定する給与等の支払をする場合には,当該金額から当該期間に係る当該給与等の額を控除した金額)」であると規定している(施行令322条は,ホステス報酬等以外についても規定しているが,以下特に断らない限り,施行令322条の規定といった場合はホステス報酬等に係る規定を意味し,同規定の定める上記金額を「控除額」ということがある。)。

3  本件各ホステス報酬の支払について

(1)  原告は,毎月1日から15日までの報酬をその月の25日(土曜日,日曜日及び祝日に当たるときはこれらの日の翌日)に,16日から月末日までの報酬を翌月の10日(土曜日,日曜日及び祝日に当たるときはこれらの日の翌日)に,本件各ホステスに対してそれぞれ支払っている(以下,上記の集計期間を「本件各集計期間」という。乙6)。

(2)  原告は,本件各ホステス報酬の額について,次のとおり,アの「1時間当たりの報酬額」にイの「勤務した時間数」を乗じて算出した額に,ウの「手当」の額を加算して算出している(乙5,6)。

ア 1時間当たりの報酬額

1時間当たりの報酬額とは,原則として,本件各集計期間における本件各ホステスの指名個数等の合計を出勤日数で除して算出された平均指名個数等に応じて決定される金額に精勤手当等を加えて原告が算定する金額である。

なお,原告は,入店して間もない本件各ホステスについては,一定金額を1時間当たりの報酬額として保証している。

イ 勤務した時間数

本件各集計期間のうち,本件各ホステスが出勤した日におけるそれぞれの勤務時間数,及び同伴出勤した場合に勤務時間として加算された時間数等の合計である。

ウ 手当

本件各ホステスが,本件各集計期間において客との同伴出勤をした回数に応じて支給される同伴手当が主なものである。

(3)  原告は,上記(2)で算出した本件各ホステス報酬の額から,主に次のアないしオとして算出される金額を控除して支給額を算出し,当該差引支給額を本件各ホステスに支払っている(乙5,6)。

ア 「税,厚生費」の額

本件各集計期間における本件各ホステス報酬の額に12パーセントを乗じたもので,本件各ホステス報酬に係る源泉所得税の額と厚生費の額とを合わせた概算額。

イ 「ペナルティ」の額

本件各ホステスが欠勤,遅刻等をした場合の罰金(以下「本件ペナルティ」という。)。

ウ 「日払い」の額

本件各ホステスからの要望に応じて勤務当日に1万円を限度として仮払いした金額。

エ 「寮費」,「水道光熱費」,「スーツ代」,「送り代」等の額

各項目ごとに本件各ホステスが各人で負担すべき金額を原告が支払った金額。

オ その他

本件各ホステスに対する貸付金の返済額

4  原告は,前記3(2)のとおり算出した本件各ホステス報酬の額から,本件ペナルティの額及び5000円に本件各集計期間内の全日数を乗じた金額を控除し,控除後の金額に100分の10を乗じた金額を,源泉所得税として所定の納期限までに被告に納付した(別表3の各「既納付税額」欄記載のとおり。)。

5  被告は,原告に対し,平成15年7月4日付けで,平成12年2月から平成14年12月までの各月分(以下「本件各月分」という。)の源泉所得税について,別表1の各「原処分の額」欄のとおり納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分を行った(甲1)。

6  原告は,平成15年8月27日付けで,被告に対し,上記各処分に対する異議申立てをしたところ,被告は,同年11月26日付けで,別表1の各「異議決定」欄のとおり,平成12年6月分の納税告知処分についてはその一部を取り消し,その余の各処分に係る異議申立てをいずれも棄却する旨の決定をした(以下,異議決定後の各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分をそれぞれ「本件納税告知処分」及び「本件賦課決定処分」といい,併せて「本件各処分」という。甲2)。

7  原告は,上記決定を不服として,同年12月26日付けで,国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ,国税不服審判所長は,平成16年10月15日付けで,これを棄却する裁決をし,同裁決は,同月18日に原告に送達された(甲3)。

8  本件各処分等の経緯は別表2のとおりである。

第4争点

1  施行令322条に規定する「当該支払金額の計算期間の日数」の意味

2  本件ペナルティの性質

第5争点に関する当事者の主張

1  争点1(施行令322条に規定する「当該支払金額の計算期間の日数」の意味)について

(原告の主張)

施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」とは,本件各集計期間内の全日数を意味すると解すべきである。理由は,以下のとおりである。

(1) 施行令322条にいう「計算期間の日数」の文理について

ア 租税法の解釈は,原則として文理解釈により行うべきであり,文理解釈によって規定の意味内容を明らかにすることが困難な場合又は文理解釈では妥当な結果が得られないときに,はじめて規定の趣旨目的に照らし論理解釈を行うべきである。

そして,法令上用いられている用語について,法令中に定義規定が存在しなければ,一般的な社会通念に従って読むのが原則である。

イ 施行令322条にいう「計算期間の日数」という規定中の「期間」とは,一般に,ある時点からある時点までの継続した時の区分であり一時点を示すものではない。したがって,施行令322条の「計算期間の日数」も,当該支払金額の計算の対象となる起算点から満了点までの継続した日数と解釈するのが相当である。

そして,本件の場合,原告は,本件各ホステスに対して1回に支払う報酬の計算期間として本件各期間を定めているのであるから,本件各期間の日数が施行令322条に規定する「計算期間の日数」に該当する。

ウ 施行令322条括弧書き内の「当該期間」は,同条本文の「当該支払金額の計算期間」と同義であるところ,この「当該期間」はその文言から,法28条1項に規定する給与等の支払金額の計算期間であるから,この規定との関係からしても,本文の「当該支払金額の計算期間」は,本件でいえば本件各集計期間を意味すると解しなければならない。

被告の主張のように「当該支払金額の計算期間の日数」を本件各ホステスの出勤日数と解した場合,同条括弧書きが適用される場合には,同一条項中の同一文言であるにもかかわらず,「期間」について異なった意義で計算せざるを得なくなり,明らかに不合理である。

エ 租税法の分野において「期間の日数」という文言が使用されている規定として,所得税法131条3項,所得税法施行令51条1項2号,国税通則法(以下「通則法」という。)58条1項等があるが,当該条項中における「期間の日数」はいずれも,当該期間の「全日数」を意味するもので,被告主張のような当該期間の全日数のうちの一部を意味しているものはない。

また,法185条は,賞与以外の給与等に係る徴収税額について規定しているが,その2項は,1項1号及び2号に規定する給与等の「日割額」の意義等について必要な事項は政令で定めるとし,これを受けた施行令308条2項は,この日割額を給与等の支給すべき額をその「給与等の計算の基礎となった日数」で除して計算した金額と規定している。この「給与等の計算の基礎となった日数」という文言は,施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」という文言よりも当該集計期間中の出勤日数とする解釈になじむ表現であるが,この点につき,所得税基本通達185-4(一)は,「あらかじめ定められた支給期が到来するごとに支払う給与等については,その給与等に係る計算期間の日数(当該計算期間中における実際のか働日数のいかんを問わない。)」と規定し,当該給与等の集計期間の日数の合計であり,稼働(出勤)日数ではないことを明らかにしている。このように「給与等の計算の基礎となった日数」という文言ですら,実際の稼働(出勤)日数ではないと解されている。

さらに,租税法以外の分野でみても,労働基準法108条は賃金台帳を調製し,賃金計算の基礎となる事項等を記入すべきものとし,記入事項を定めた同法施行規則54条は,1項3号で「賃金計算期間」,4号で「労働日数」と定めて両者を別個の概念として規定している。このようなことからしても,施行令322条に規定している「期間の日数」を,当該期間内の「全日数」とは別の意味に解するのは相当でない。

オ 以上のとおり,文理解釈によれば,施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」は当該期間の全日数であることは明らかである。

(2) 源泉徴収制度(基礎控除方式)の趣旨,目的

ア ホステス報酬等について基礎控除方式が採用されている趣旨,目的に照らしても,原告の行った計算が正当である。

すなわち,昭和42年の税制改正の際にホステス等の報酬等が源泉徴収の対象となったのであるが,その際に基礎控除方式が採用された趣旨は,「できる限り還付の手数を省く」ことにあったのであり,昭和47年及び昭和50年の控除額引き上げの趣旨,目的も同様である。

イ 被告は,施行令322条の「計算期間の日数」の解釈において,源泉徴収税額を確定税額にできるだけ合致させるという要請があるなどと主張する。

しかしながら,まず,施行令322条の解釈においては,基礎控除方式の趣旨こそが重視されるべきであって,同制度は還付の手数を省略しようという専ら徴税側の便宜を図るための制度である。したがって,源泉徴収税額が確定税額よりも高額になることをできるだけ避けるべき要請はあるが,源泉徴収税額が確定税額より少額であることをできるだけ避けるという要請はない。

また,そもそも,年末調整という手続が用意されている給与所得者については,源泉徴収税額を確定税額にできるだけ合致させるという要請があるにしても,ホステス等の事業所得者については,原則として,源泉徴収税額の多寡にかかわらず確定申告をしなければならないのであって(法120条),確定申告により追加納付があるからといって手続がことさら煩雑になるわけではなく,確定税額に近い額を源泉徴収するという要請は存しない。

そして,被告は,施行令322条が定めている控除額が必要経費に相当するかのようにも主張しているが,そのような根拠はないし,そもそも5000円という金額が示されている理由は定かではない。

ウ 被告主張のように「計算期間の日数」を出勤日数として計算すると,原告の主張する計算方法よりも源泉徴収税額が高くなり,未確定の所得税の前払に過ぎない源泉徴収税額が多い方が還付の可能性が高くなるのは当然である。そうすると,原告主張の計算方法の方が源泉徴収税額の計算方法の趣旨,目的に合致し,一定額を控除する趣旨目的である,少額所得の不追求,大量回帰的に行われる源泉徴収税額の計算の簡便化,それによる源泉徴収義務者の負担緩和等がされることになる。

(3) 本件の場合,本件各ホステスに対して1回に支払う報酬の計算期間は,本件各集計期間である,毎月1日から15日まで,及び毎月16日から月末日までと定められているのであるから,本件各集計期間の日数が施行令322条に規定する「計算期間の日数」に相当する。

国税庁の法人税課が編者である「税務関係 実務相談録 源泉徴収編」(甲19)や名古屋国税局法人税課長が「はしがき」を書いている「新訂 源泉徴収質疑応答集」(甲20)においても原告の主張と同様に解釈されており,国税庁も原告と同様の見解を採用している。

(4) したがって,本件各処分は,施行令322条に反し,原告の源泉所得税の額を過大に認定した違法があり,取り消されるべきである。

(被告の主張)

(1) 施行令322条に規定する「当該支払金額の計算期間の日数」の意味

ア 同条の「当該支払金額」とは,文理上「同一人に対し1回に支払われる金額」を指しているから,「当該支払金額の計算期間の日数」は,「同一人に対し1回に支払われる金額の計算期間の日数」を指すことになり,そうすると,同一人に対し1回に支払われるホステス報酬等の額から控除する金額の計算要素としての「計算期間の日数」は,当該ホステス報酬等の支払金額を算定するための計算要素としての「計算期間の日数」ということになる。

すなわち,施行令322条に規定する「当該支払金額の計算期間の日数」は,ホステス報酬等の支払金額の計算の対象となった日の合計数ということになる。つまり,当該ホステス報酬等の額から控除する金額の計算要素としての「計算期間の日数」は,当該ホステス報酬等の支払金額の計算要素としての「計算期間の日数」と同一概念である。

以上からすると,施行令322条に規定する「当該支払金額の計算期間の日数」は,同一人に対して支払われるべきホステス報酬等の額の計算要素となった日数,すなわち,ホステス報酬等の支払金額の計算の対象となった日の合計数というべきである。

イ また,施行令322条の括弧書き内の「当該期間」は,本文の「当該支払金額の計算期間」,すなわち「同一人に対し1回に支払われる金額の計算期間」であり,「同一人に対し1回に支払われる金額の計算期間」とは,当該ホステス報酬等の「計算期間」である。したがって,「当該期間」の解釈からは,原告が主張するような「当該支払金額の計算期間の日数」の意義は導かれない。

ウ そうすると,ホステス報酬等の支払金額の計算において,ホステス報酬等の支払者が,ホステスが実際に出勤した日についてのみ,その日の勤務時間数に応じてホステス報酬等を支払い,出勤しない日にはホステス報酬等を支払わないこととしている場合には,実際に出勤した日がホステス報酬等の支払金額の計算要素となっているから,実際の出勤日数が「当該支払金額の計算期間の日数」に該当する。

エ 原告は,租税法において「期間の日数」という文言が使用されている規定を挙げ,当該条項中における「期間の日数」はいずれも,当該期間の「全日数」を意味するから,施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」は当該期間の全日数と解すべきである旨主張するが,本件で問題となっているのは,「当該支払金額の計算期間の日数」という文言の解釈であるから,この文言のうちの「期間の日数」という部分のみを取り出して論じること自体に意味はない。原告が挙げる各条文中の「期間の日数」の意味は,その文言自体ではなく,前後の文脈や規定の趣旨からして期間の全日数と解釈されるのであるから,原告の主張は理由がない。

(2) 源泉徴収税額の計算について

ア 被告も,租税法の解釈が文理解釈を原則とすべきことを否定するものではないが,法令を解釈するにあたって,文理上,必ずしも明確とはいえない規定については,その規定の立法の趣旨,目的を考え,その結論が租税の負担の適正・公平,すなわち,租税正義の要請に合致するかどうかという基準に照らして,適切な解釈方法を選ぶべきである。

本件では,文理解釈上,施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」が,「当該支払金額の計算期間の全日数」を指すことが明らかというわけではないから,同文言の解釈は,源泉徴収制度に関する立法趣旨,目的を考え,その結論が租税の負担の適正,公平に合致するように解釈することが必要である。

イ 源泉徴収制度は,本来は確定申告制度によって一度に徴収すべき税額を,税収の確保,徴税手続の簡便さ・徴税費等の節約等の便宜上の理由や,ホステス等の報酬等については,収入が固定的に発生するものではないので確定申告の際に一時に納税するよりは,収入があった都度一定の所得税を天引きして納めておくほうが納税しやすくなるという事情等を考慮した結果,源泉徴収義務者を通して期中に分割して徴収することとした制度である。

源泉徴収制度の下においても,ホステス等は確定申告の義務があり,その期中に徴収された源泉徴収税額が,確定申告すべき税額を超過した場合には還付を受け,少額であった場合は,不足分について納税しなければならない。

そこで,税収の確保,徴税手続の簡便さ・徴税費等の節約等という源泉徴収制度の趣旨をより徹底するため,できるだけ確定申告時での事務手続をする必要が発生しないように,源泉徴収の段階で確定的な税額に近い額を源泉徴収税額として徴収するために,基礎控除方式が採用される等の法改正がなされてきたのである。

ウ そうすると,ホステス等のような個人事業者の場合,その課税所得金額は,その期中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額(法27条2項)であるから,源泉徴収においても,同一人に対して1回に支払われる金額から必要経費に相当する額を控除するのが,源泉徴収制度における基礎控除制度の趣旨に合致するというべきである。

(3) 本件において,本件各ホステスが実際に勤務するか否かは,原告従業員が各営業日の開店前までに本件各ホステスに対して当日の出勤の可否を電話で確認し,本件各ホステスにおいてその日の出勤を約束することによって確定する。

したがって,原告と本件各ホステスとの間には,基本的な役務提供に関する合意が存するが,本件各ホステスが原告から業務上の拘束を受けるのは,実際の出勤日のみであり,それ以外の日は,原告から業務の拘束を受けることはない。

原告は,本件各ホステス報酬の額の計算について,実際に出勤した日における勤務した時間数を計算の基礎としているから,実際に出勤した日がホステス報酬等の支払金額の算定要素と認められ,本件各ホステスの本件各集計期間中の実際の出勤日数が「当該支払金額の計算期間の日数」に該当することとなる。

なお,原告は,「税務関係 実務相談録 源泉徴収編」(甲19)及び「新訂源泉徴収質疑応答集」(甲20)を根拠にして国税庁が原告と同様の見解を採用していると主張するが,これらは,国税局に所属する職員があくまで源泉徴収事務の実務上の参考に供するため,当該職員の個人的見解を掲載して作成されたもので,国税庁の見解ではない。国税庁の見解として,施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」の解釈がこれまでも「当該支払金額の計算期間の出勤日数」であったことは,平成5年改正の際に徴収義務者に対して配布したパンフレット(乙9)や「平成5年改正税法のすべて」(乙2)等の記載からも明らかである。

(4) 以上により,「当該支払期間の計算期間の日数」とは,「当該支払期間の計算期間の出勤日数」と解釈すべきであることは明らかである。

2  争点2(本件ペナルティの性質)について

(原告の主張)

(1) 法205条2号は,ホステス報酬等の源泉徴収について,政令で定める金額を控除した残額に10%を乗じて計算した金額が徴収され,施行令322条で定める「同一人に対し1回に支払われる金額」がホステス報酬等の徴収税額の計算の基礎とされる。

そして,本件では,原告が各ホステスとの間で,その採用の際に合意した女子給料システムにより各計算期間における報酬として算定した金額が「同一人に対し1回に支払われる金額」に当たる。

(2) 本件ペナルティについて

本件ペナルティは,本件各ホステス報酬の算定に際してのみ考慮されるべきもので,報酬が生じない計算期間において別個に発生するものではなく,各種手当と同様に本件各ホステス報酬を構成する要素の1つであることは明らかである。

被告は,本件ペナルティについて,原告と本件各ホステスとの間で定められた違約金と主張するが,違約金とは「債務不履行の場合に債務者が債権者に支払うべきことを約束した金額」であり,別個に債務が発生するもので,本件各ホステス報酬の算定要素にすぎない本件ペナルティとは,その性質を明らかに異にするものである。

(3) 以上のように,本件ペナルティは,本件各ホステス報酬の算定要素であるから,上記女子給料システムにより本件各ホステスの報酬として算定された金額は,本件ペナルティの額を控除した後の金額である。

(被告の主張)

(1) 源泉所得税の対象となる所得とは,給与,報酬等であるところ,本件ペナルティは,原告と本件各ホステスとの間で定められた違約金にすぎないから,本件各ホステス報酬の算定の際の考慮要素とならないことは明らかであり,その性質からみて本件各ホステスの事業所得の計算上,必要経費となるべきものである。

したがって,本件各ホステス報酬に係る源泉所得税の額を計算するに当たっては,本件ペナルティの額は本件各ホステス報酬の額から控除すべきものではない。

(2) 本件ペナルティについては,女子給料システム(乙6)にその定めがあり,具体的には,遅刻・早退の場合は15分を1単位として500円,当日欠勤の場合は時間帯により5000円,8000円及び1万5000円,無断欠勤の場合は1万5000円などというように,本件各ホステスが一定の約束違反をした場合に,一定額の罰金が各ホステスに科されるものとされている。

上記ペナルティの定めは,本件各ホステス報酬の算定とは別個独立の,原告と本件各ホステスの間の違約金支払の約定であり,本件ペナルティの有無やその額は,本件各ホステス報酬の算定には何ら影響しないものである。

(3) 原告が本件各ホステスに報酬を支払う際に作成した書類(乙5)によれば,原告は,上段欄の「総支給額」から下段欄の「控除合計」を差し引いた残額「差引支給額」を本件各ホステスに支払っている。上記の「総支給額」は,「時給」に「勤務時間数」を乗じて計算した金額に「手当」を加えて算出した金額であり,本件各ホステスに対する報酬の総支給額を意味するところ,「ペナルティ」は,「税,厚生費」等と共に,ホステス報酬の総支給額から控除する「控除合計」を構成しており,本件各ホステス報酬の算定要素とされておらず,本件ペナルティは,本件ホステス報酬の算定とは関係のない別個独立した約定に基づき,各ホステスが原告に対して負担する債務であることは明らかである。

第6当裁判所の判断

1  争点1について

(1)  本件では,本件各ホステス報酬から源泉徴収すべき額が争われており,争点1は,これを定める施行令322条に規定する「計算期間の日数」の解釈をめぐるものである。関係する法令等の主たるものは前記第3,2に記載したとおりであり,上記文言の解釈について,原告は,上記計算期間を集計期間と解して,その全日数を意味すると主張しており,被告は,集計期間中の出勤日数を意味すると主張している。

(2)  そこで,まず,施行令322条の文理から検討する。

ア 施行令322条は,ホステス報酬等について法205条2号に規定する「政令で定める金額」を,「同一人に対し1回に支払われる金額」につき,「5000円に当該支払金額の計算期間の日数を乗じて計算した金額(当該ホステス報酬等の支払者が当該ホステス報酬等の支払を受ける者に対し法28条1項に規定する給与等の支払をする場合には,当該金額から当該期間に係る当該給与等の額を控除した金額)」であると規定している。

イ 原告の上記主張は,①「期間」とは,ある時点からある時点までの継続した時の区分をいうこと,② 施行令322条は「当該支払金額の計算期間の日数」という表現となっていること,及び③ 施行令322条の上記括弧書きとの整合性をいうものである。

他方,被告が文理上の根拠として主張するところは,前記第5,1(被告の主張)(1)に記載したとおりである。

ウ(ア) そこで,原告の主張から検討すると,まず,③ 施行令322条の括弧書きとの整合性をいう点については,同括弧書きが「当該金額から当該期間に係る当該給与等の額を控除した金額」と規定している「当該金額」とは,同条が外交員等の報酬等について規定している同様の括弧書きの規定からして,「5000円に当該支払金額の計算期間の日数を乗じて計算した金額」を指しているものと思われ,次の「当該期間」が「当該支払金額の計算期間」を指していると考えられるから,原告の主張する「当該支払金額の計算期間」が集計期間を指しているとの解釈を前提として,この括弧書きを理解することに特段の支障はない。

しかし,上記括弧書きの構造を上記のように理解する場合には,争いとなっている「計算期間の日数」を,被告の主張するように,「支払金額の計算の対象となった日の合計数」であるとか,「当該支払金額の計算期間の出勤日数」と解しても文理上特段の支障は生じない。

この点,原告は上記括弧書きの「当該期間」は「給与等の支払金額の計算期間」であると主張し,被告の主張する解釈では同一条文中に二つの意味を有する「期間」という用語が用いられていることになると主張するが,そのように解すべき根拠はない。

したがって,施行令322条の括弧書きとの整合性の問題は,文理上,原,被告いずれの解釈が妥当かということの根拠とはならないものと認めるのが相当である。

(イ) 次に,① 「期間」という用語がある時点からある時点までの継続した時の区分をいうことは原告が主張するとおりである。そして,この前提に立てば,原告の主張する解釈に特段の支障はない。

これに対して,上記被告の主張ではどのようになるかが問題であるが,この点について被告は明確な主張をしていないので,後記オにおいて別途検討する。

(ウ) そして,原告の主張の主たる根拠であると思われる③ 施行令322条が「当該支払金額の計算期間の日数」との文言で規定されているとの点についてであるが,上記の表現は,普通に読めば「当該支払金額を計算する期間内にある日数」と理解されるから,その意味を原告が主張するように本件各集計期間の全日数と解することに文言上特段の違和感はない。

ただし,報酬等の支払形態が,報酬額が時間を単位として(以下「時給」という。),あるいは,日を単位として(以下「日給」という。)合意され,これを日々支払うといった場合や,一定の期間を単位として合意され,当該期間の経過ごとに支払うといった場合について上記のように理解することには何の問題もないが,本件各ホステス報酬のように,報酬が時給で合意され,勤務を要しない日がありながら,一定期間ごとに,その間の報酬等をまとめて支払うといった場合にも,上記「当該支払金額の計算期間の日数」を集計期間の全日数と解して良いか疑問の余地がないでもない。しかし,この点は,上記「当該支払金額の計算期間の日数」の意味するところを合理的に理解しようとした場合に疑問の余地があるということであって,原告の解釈が文理上困難であるということではない。

(エ) 以上のとおり,原告が主張している施行令322条の解釈は,同条の文理解釈として特段の不都合はないといえる。

エ 他方,被告の主張を検討してみると,その解釈を要約すると,①「当該支払金額の計算期間の日数」は,「同一人に対し1回に支払われる金額の計算期間の日数」を指す,② そうすると,同一人に対し1回に支払われるホステス報酬等の額から控除する金額の計算要素としての「計算期間の日数」は,当該ホステス報酬等の支払金額を算定するための計算要素としての「計算期間の日数」ということになる,③ すなわち,施行令322条に規定する「当該支払金額の計算期間の日数」は,ホステス報酬等の支払金額の計算の対象となった日の合計数ということになる,というものである。

しかしながら,上記の解釈は,控除額を算定する「計算期間の日数」と報酬の支払額を算定する「計算期間の日数」が同一であるとして,その「計算期間の日数」がどうして「当該支払金額の計算の対象となった日の合計数」ということになるのかという肝心の点を文理的には何も説明しておらず,このような解釈は既に文理解釈としての域を超えているといわなければならない(一般の源泉徴収義務者が施行令322条の文言から上記のような意味を読み取ることは困難である。)。

被告の主張する上記解釈は,施行令322条の文理を解釈したものとはいえない。

そして,上記の説明で独自に用いられている「計算要素」ということの意味内容も,何故そのような概念を用いるのかも明らかではないし,上記②と③の間には明らかに論理の飛躍がある。同解釈は文理の問題を別としても,施行令322条の解釈として直ちには採用できないものといわなければならない。

オ(ア) 被告は,施行令322条に規定する「当該支払金額の計算期間の日数」とは,「支払金額の計算の対象となった日の合計数」であるとか,「当該支払金額の計算期間の出勤日数」であると主張しているが,上記エで検討した以外には,その解釈の文理上の根拠を示していない。

(イ) 施行令322条に上記のように解し得る文理上の手掛かりがあるかどうか検討してみるに,上記のように解するためには,①「当該支払金額の計算(の対象となった)期間の日数」,あるいは②「当該支払金額の計算期間の(うちの支払金額を計算する基礎となった)日数」とか,「当該支払金額の計算期間の(出勤)日数」というように,括弧内に記載したと同趣旨の文言を補って読む必要がある。

(ウ)a 上記①のように読む手掛かりとしては,施行令322条の文言が「当該支払『金額』の計算期間の日数」となっていて,それが「当該支払の計算期間の日数」とか,「当該報酬等の計算期間の日数」というような明確に集計期間を意味すると解釈されるような文言とはなっておらず,「金額」の計算期間,すなわち,「当該金額を計算した対象となった期間」と読むことも不可能ではないかのような表現になっていることが一応挙げられる。

b しかし,上記のように補って読むとしても,結局は,その後が「期間」及び「日数」として受けられているために,例えば,報酬額が時給や日給として合意され,これを毎月1日から15日までを一つの区切りとして支払うという形態を例にとると,この場合に,仮に1日,2日,4日と勤務した場合(日給の場合),あるいは1日に5時間,2日に6時間,4日に7時間と勤務した場合(時給の場合)の適用が困難となる。日給の場合,この例における期間の日数を「4」と考えるには無理があり,強いていえば,それぞれの日を金額計算の対象となった期間と考えて各「1日」とし,これが3回あって「3日」と解釈することが考えられる。

しかし,このような解釈は施行令322条において「1回に支払われる金額につき」「当該支払金額の計算期間の日数」と規定されている文言とは相当に乖離するものといわざるを得ない。

そして,仮に上記のように考えるとしても,この場合,報酬の集計期間というものを観念せず,勤務した時間又は日そのものを「期間」と考えるのであるから,本件の場合にように時給で報酬が合意されている場合には日数を観念できないし,1日の5時間と2日の6時間とを区別して各「1日」を割り振る根拠は見いだせず,これらの時間を合計して24時間ごとに1日を割り振るというのも不自然,不合理なことである(時給を日々支払うという形態を考えてみると,1時間ごとに報酬を支払うわけではないが,勤務の終了後に毎日支払うというのは,原告の主張する集計期間が1日であるということにほかならず,①の解釈に立つ以上「計算期間」は時間ということにならざるを得ないと思われる。)。

c そして,施行令における用語例をみてみると,原告が指摘するように,賞与以外の給与等に係る源泉徴収税額を規定する法185条2項を受けて,同項にいう日割額を定めた施行令308条2項は,「給与等の計算の基礎となった日数で除して計算した金額」と規定している。

そして,所得税基本通達185-4は,上記施行令308条にいう「給与等の計算の基礎となった日数意味を次のとおりとしている。

「(1) あらかじめ定められた支給期が到来するごとに支払う給与等については,その給与等に係る計算期間の日数(当該計算期間中における実際のか働日数のいかんを問わない。)

(2)  (1)以外の給与等については,次に掲げる日数

イ あらかじめ雇用契約の期間が定められている場合において当該期間の終了により支払う給与等については,当該期間の日数(当該計算期間における実際のか働日数のいかんを問わない。)

ロ イ以外の給与等については,その支払う給与等の計算の基礎となった実際のか働日数」

上記のように施行令中には「給与等の計算の基礎となった日数」といった①の解釈に沿うような用語例があり,また,所得税基本通達には「計算期間の日数」とか,「計算の基礎となった実際のか働日数」といった表現も用いられている。これらとの対比からすると,施行令322条が①のように解釈されることを意図しながら「計算期間の日数」とだけ規定したとは考えにくいというべきである。

d このように考えてくると,上記①のような解釈には相当無理があるといわざるを得ない。

(エ) 次に,上記②のような読み方が可能であるかを検討してみるに,手掛かりとしては,施行令322条が1回の勤務ごとに報酬等が支払われる場合に5000円を控除する旨を定めていることは明らかであり,その規定振りが,その他の場合でも5000円に何らかの日数(当該支払金額の計算期間の日数)を乗じることとしていることから,5000円を一つの控除額の単位として,その支払原因となる行為の回数に着目しているようにもみえることが一応挙げられる。

しかし,このような解釈は,施行令322条が単に「計算期間の日数」と規定しているにすぎない部分に「出勤」という実質的に意味のある文言を補って読むものであるから,文理解釈として無理があることは否定できない。

また,原告が指摘しているように,租税関係法規の中だけでも「期間の日数」という用語は多用されているが,すべて期間中の全日数を意味するものとして用いられており,これを「期間の(出勤)日数」というように意味を補って解釈するような例はないことも指摘しなければならない。被告は,上記の点について,原告が挙げる各条文中の「期間の日数」の意味は,その文言自体ではなく,前後の文脈や規定の趣旨からして期間の全日数と解釈されるにすぎない旨を主張するが,それ自体は正しいとしても,逆にいえば,全日数を示すときに「期間の日数」という単純な表現が用いられているともいえるわけであって,「期間の日数」という規定について,特定の意味を補って,その期間中の一部の日数と解釈することが一般的なことではないことは明らかである。

カ(ア) 以上の検討からすれば,原告の主張する解釈は,その文理に着目して読めば,施行令322条の文言に沿ったもので特段の違和感はないが,被告の主張するところは,全く文言上の手掛かりがないとはいえないにしても,同条の文理解釈としては相当な無理があることは否めない。

(イ) 憲法84条が定める租税法律主義の下では租税関係法規は明確に定められることが必要であり,また,定められた法規はできるだけその文言に忠実に解釈することが必要である。殊に,本件では源泉徴収すべき税額が問題となっているが,源泉徴収は納税義務者に代わって私人が一定の負担の下に日々行うものであり,その徴収納付に過不足があるときは,自ら追加納付する義務を負ったり,納税義務者へ差額を返還すべき義務を負うのであるから,その根拠となる法規及びその解釈についてはより強く上記のことが要請されるというべきである。

租税法規の解釈において,文理上の根拠に乏しいということは重大な欠陥といわなければならない。

(ウ) 被告は,租税法規の規定が文理上,必ずしも明確とはいえない場合には,その規定の立法の趣旨,目的等に照らして適切な解釈方法を選ぶべきであると主張する。

しかし,施行令322条の文理については上記のとおりであり,これを原告が主張するように解釈することに文理上特段の疑義があるとは認められないのであるから,同条は被告が上記主張の前提としているような文理上意味が明らかではないとか,何らかの意味内容を補充しなければ解釈できない規定とは思われない。

したがって,本件では,施行令322条を原告が主張するように解釈すると明らかな不都合,不合理な結果を生じるとか,論理的,あるいはその他の事情によって別異に解釈すべきことが要請されるといった特段の事情が認められない限りは,同条はその文理に従って原告が主張しているように解釈すべきである。

(3)  特段の事情の有無について

ア 源泉徴収額の相違について

(ア) 原告の解釈によると,時間又は日を単位として報酬額を定め,その報酬を一定期間毎にまとめて支払うという支払形態を想定した場合,① 集計期間の定め方によって同一の報酬等に係る源泉徴収税額が異なるということが起こり得る(例えば,7日間の勤務につき,10日ごとに集計して支払う場合と15日ごとに集計して支払う場合)し,また,② 単一の店舗で使用されている場合と複数の店舗で使用されている場合にも同様の問題が起こり得る(例えば,同一の店舗で6日間使用された場合と二つの店舗で3日づつ使用された場合。被告は,この場合を不合理と主張している。)。

(イ) 上記のような結果は,実質的に同じ額の報酬に対して源泉徴収税額が異なるという意味で結果的に不平等,不合理なようにみえないでもない。

しかし,上記①の問題は,もともとの契約形態が異なるのであるから,これを不平等,不合理というのは適切でないし,②の問題も,それぞれの店舗において源泉徴収するのであるから,基礎控除を認める以上は止むを得ないことといえる。同様のことは,施行令322条が定めている他の報酬等についても,いくらでも起こり得ることである(例えば,司法書士報酬について,2万円づつ2回の報酬を受け取る場合と1回で4万円の報酬を受け取る場合等)。法205条は,その掲げる各種報酬等について,上記のように種々の契約形態,支払形態が想定される中で,同種で同額の報酬等については同額を源泉徴収するということまでを要請しているとは解されない。

そして,ホステス報酬等については,最終的には確定申告によって納税額が確定されるのであるから,上記の問題点が最終的な税負担の不公平をもたらすものではない。

(ウ) 上記のことからすれば,上記(ア)のような問題点は,原告の解釈を不合理というだけの根拠とはなり得ない。

イ 源泉徴収制度の趣旨,目的との整合性

(ア) 被告は,前記第5,1(被告の主張)(2)のように,源泉徴収制度の税収の確保,徴税手続の簡便さ,徴税費等の節約等という趣旨,目的からすれば,できるだけ確定申告時での事務手続をする必要が発生しないように,源泉徴収の段階で確定的な税額に近い額を源泉徴収税額として徴収する必要があり,そのためには被告主張の計算方法の方が制度の趣旨,目的に合致している旨を主張している。

(イ) よって検討するに,まず,被告は,確定申告時に事務手続をする必要が発生しないような解釈が要請される旨主張する。

しかし,事務手続の省略といっても,納税義務者であるホステス等はいずれにしても確定申告をするわけであり,その確定税額に等しい額を予め源泉徴収しておくということは不可能なのであるから,確定申告によって追加納付なり還付の手続を要することになることは避け難い。また,国税当局にとっても,これと裏腹の事務が発生することは避け難い。

そこで,上記のことを事務手続の簡略化ということで考えてみても,納税義務者であるホステス等にとって,原告の解釈によった場合と被告の解釈によった場合とで,どちらの解釈によった方が事務手続が簡略になるというだけの根拠は見いだし難い。いずれにしても確定申告するわけであり,その結果として追加納付する場合と還付を受ける場合とで事務手続にそれほどの軽重があるとは思われない。国税当局にとっては,追加納付を受ける場合の事務手続よりも還付をする場合の方が事務手続が煩雑になると思われるので,その意味でいえば原告の解釈によった方が事務の簡略化に沿うということができる。

(ウ)a 次に,被告は,なるべく確定税額に近い額を予め源泉徴収しておく方が,ホステス報酬等に係る源泉徴収制度の趣旨,目的に合致する旨主張する。

上記の点は,昭和42年度の税制改正によってホステス報酬等についても源泉徴収することとなった際に国税庁が作成した「改正税法のすべて」(乙1)にも「これらの報酬等については収入が固定的に発生するものではないので確定申告の際に一時に納税するよりは,収入があった都度一定の所得税を天引きして納めておく方が納税しやすくなるという事情を考慮したものであります。もっとも,これらの報酬等のうちには,少額なものがあったり,異常な経費がかさむものもあるので,一定の控除額を設け,その納税の実情に即するよう配慮されています。」とあり,また,源泉徴収制度が設けられている趣旨,目的には,税収の確保や納税者の便宜ということも挙げられるから,この点から考えても首肯できる。

b しかし,原告の解釈でも「収入があった都度一定の所得税を天引きして納めておく」ことを否定するものではない。また,源泉徴収税額を定めるについては,上記説明にあるようなことだけが考慮要素となっているわけでもない。そして,何よりも施行令322条は一定の配慮の下にホステス報酬等について源泉徴収すべき額を具体的に規定しているのである。

したがって,ここでの問題は,一定の税額を徴収することを前提として,施行令322条は確定税額に近い額を源泉徴収する趣旨で規定されているのかどうか,逆にいえば,同条の解釈において,確定税額に近い額が源泉徴収税額となるように解釈することが要請されているのかどうか,という点にある。

c そこで,上記の点について検討する。

(a) ホステス報酬等に係る所得税は,総収入金額から必要経費を控除した額について総合課税の対象とされている(法27条,22条1項,2項)。そうすると,被告の主張を前提とすれば,施行令322条に規定されている「5000円に当該支払金額の計算期間の日数を乗じて計算した金額」という控除額はホステス等の必要経費の額に近似する額として定められたものということになる(被告はその旨を主張している。)。

(b) しかし,まず,勤務日ごとに日々報酬が支払われる場合に上記控除額が5000円になることは争いがないと思われるので,この5000円という金額がホステス等の勤務日1日当たりの必要経費に相当するかということが問題となるが,本件中にはそのような事実を認めるべき証拠は存しないし,また,施行令322条がこれを必要経費相当額として定めたと認めるべき的確な証拠もない。前記改正税法のすべて(乙1)も,「一定の所得税を天引きし」,「一定の控除額を設け,その納税の実情に即するよう」と述べているだけであって,その控除額が必要経費に相当するといったことは何も言及していない。

(c) そして,上記証拠の点は措くとしても,ホステス等の報酬,ひいてはその必要経費に各ホステスによってかなりの格差があると思われるが,このような事情を捨象して,一律に上記5000円が必要経費の近似値というのは実情に即しないように思われる。

さらにいえば,源泉徴収税額は「5000円に当該支払金額の計算期間の日数を乗じて計算した金額」を控除した残額の10%と定められている。したがって,結果的に確定申告による税率が10%の範囲に収まらなければ,この控除額の部分を必要経費の額に等しくなるように規定したところで,源泉徴収税額が確定税額に等しくなるわけでもない。そうだとすれば,上記控除額の部分を必要経費の額に等しくするように工夫したとしても,その結果が確定税額に近似する源泉徴収税額になるという保証はないのであり,確定税額との関係で,この控除部分を必要経費に近似させる実益がどれほどあるかは疑わしい。

(d) また,被告が主張するように,なるべく確定的な税額に近い額を源泉徴収するというのであれば,ホステス等の平均的な必要経費の額,すなわち確定申告時に還付を受ける者と追加納付する者とが相半ばすると思われる控除額を定める必要があるが,現行の前記5000円の部分が昭和47年に2000円から3000円に,また昭和50年に3000円から5000円に引き上げられたのが,そのような趣旨であったのかは疑わしい。

例えば,納税者の3割が還付を受けることとなる控除額が定められている場合に,5割の納税者が還付を受けることとなるように控除額を引き下げるのではなく,その手続的な負担を考えて,更に控除額を引き上げて還付を受ける者を減らすというようなことは立法者の裁量として当然にあり得ることのように思われる。

前記昭和42年の税制改正では一部の報酬が免税点方式から基礎控除方式に改められているが,その点について国税庁作成の「改正税法のすべて」(乙1)では,免税点方式では「その金額を若干でもこえると全体の金額について10%の税率による源泉徴収が行われることになりますので,還付の手数を省略しようとする本来の趣旨の徹底を欠くきらいがあった」ため,基礎控除方式に改め「できる限り源泉徴収税額の還付の手数を省くこと」になったと説明されている。上記昭和47年改正時や昭和50年改正時における改正作業に携わった関係者の説明にも,「とくに外交員,集金人およびホステスについては,確定申告における還付が増加しつつある現状にあります。そこで,昭和42年後における課税最低限の引上げ状況等をも勘案して」(甲16)とか,「その後の累次の所得税減税によって,外交員・集金人及びホステス等についての還付の事例が増加しているとろこ(ころ)から,今回この控除額を,次のように引き上げる」(甲17)とある。

上記のような説明については,その背景事情,すなわち,還付を要する納税者がどの程度の割合であったのかが明らかでないので断定的なことはいえないが,少なくとも,控除額を定めるについては還付の手数を省くという要請があったことは明らかである。そして,これらの説明文からは,前記控除額の引き上げに当たって,確定税額に等しくなるように源泉徴収税額を定めるといった意図があったようにはうかがえない。

(e) ホステス報酬等以外の報酬等についての源泉徴収税額に係る規定をみてみると,法204条1項は,一定の報酬等について支払者の源泉徴収義務を定めているが,そのうちの原稿料等や弁護士等の報酬等については報酬等額に応じた2段階の税率を定め,基礎控除方式を採用していない(法205条1号)。したがって,これらの報酬等については,少なくとも表面的には必要経費を控除するといったことは考慮されていない。

また,基礎控除方式を採用した報酬等(法205条2号)については,施行令322条が具体的に控除額を定めているわけであるが,このような基礎控除方式が採用された理由の説明は前述のとおりであり,特段必要経費との関係は説明されていない。

そして,同条が定めている控除額をみると,司法書士等の報酬等については1回に支払われる金額につき1万円,職業拳闘家の業務に関する報酬については1回に支払われる金額につき5万円,広告宣伝のための賞金については1回に支払われる金額につき50万円等と定められており,また,診療報酬についてはその月分の支払額について20万円,外交員,集金人等の業務に関する報酬等についてはその月分の支払額について12万円といったものであり,これらの額が必要経費に近似するものとして定められていると認めるだけの根拠はないし,例えば,広告宣伝のための賞金について定められている50万円を必要経費に近似する額というのは難しいように思われる。

(f) 以上のことからするならば,施行令322条が規定するホステス報酬等に係る控除額が,その必要経費に近似するものとして,さらには確定税額に近い額を源泉徴収するとの目的で定められていると認めるのは困難というべきである。結局,この控除額は,税収の確保,納税者の便宜(一度に多額の納税が必要となることを避ける)といった要請とともに,還付手続が必要となる場合があまり多くならないようにとの徴税事務上の要請等の諸事情を総合的に考慮した結果として,施行令制定者が適宜の額として定めた裁量的な額というほかはないように思われる。

d 以上のとおり,施行令322条が定める控除額が必ずしも必要経費に対応するものでないとすれば,被告の主張はその前提を欠くものといわなければならない。

前記控除額は,ホステス等報酬に係る必要経費の存在を念頭に置いたものではあるが,それ以外の要素も考慮して定められた裁量的判断に基づく額と認めるのが相当であるから,これを定める施行令322条の解釈において,この控除額を必要経費の額に近似するように解すべき必然性はないということになり,この点において原告の解釈を否定すべき根拠は見いだせないというべきである。

ウ 施行令制定者の意図

(ア) 施行令322条における控除額をどのように定めるかは,前記のとおり,制定者の合理的な裁量にゆだねられているものといえる。

そして,それがどのような根拠,配慮に基づくかはともかく,上記施行令の制定者は,少なくとも,日々支払われるホステス報酬等については1回の支払につき5000円を控除するのが相当であると判断し,その旨を定めているのであり,この額は必要経費の点も一応考慮したものと思われるから,これらのことからすれば,一定期間の報酬をまとめて支払うという場合であっても,時給や日給で報酬額を合意している場合には,その間の出勤日数を基準にして控除額を計算する方が制定者の意図したところに沿うのではないか(逆にいえば,原告の解釈によった場合には何の拘束も受けず,勤務も要しない日についても5000円を控除することになるが,このような結果は政令制定者の意図したところに反し,また不合理ではないか)といった観点から検討してみる。

(イ)a しかし,施行令322条制定者の意図を条文を離れて推測することは困難であり,まず,本件中には制定者の意図が上記のようなものであったと認めるだけの端的な証拠は存しない。

b そして,施行令322条はホステス報酬等以外にも,基礎控除方式による幾つかの報酬等についての控除額を定めているが,これをみると,ホステス報酬等以外については,1回的な行為,事象に対する支払が通常想定される報酬等については1回に支払われる金額を基準とし,また,何回かの行為等に対する報酬等をまとめ,定期的に支払うことが想定される報酬等(診療報酬及び外交員等の報酬等)については当該月分として支払われる金額を基準として,いずれの場合も1万円,20万円,5万円といった一定額を控除すべきものとしている。

これに対して,ホステス報酬等についてだけは,1回に支払われる金額を基準としているが,一定の額を控除すべきものとはしていない。施行令322条がこのように規定した理由は定かではないが,その他の報酬等についての上記規定振りからすると,ホステス報酬等の場合には,例えば,① 時給,日給を日々支払うもの,② 時給,日給を一定の期間ごとにまとめて支払うもの,③ 一定期間を単位として報酬額を合意し,当該期間経過後にまとめて支払うもの等,上記1回的な支払に近いものから,まとめての支払に近いものまで,様々な報酬額の決め方や支払形態のものがあり得ることから,1回の支払につき一律に一定額を控除するのは適当でないと考えられたためではないかと推測される。そうだとすると,施行令322条は,上記のようなホステス報酬等について細かな場合分けはせず,1回の支払ごとに源泉徴収することとし,その代わりに控除額については,「5000円に当該支払金額の計算期間の日数を乗じて計算した金額」として,一つの表現ですべてを規定したものであり,ある程度割り切った規定ということができる。

施行令322条制定者においてホステス報酬等の報酬額の決め方,支払形態に様々なものがあることを認識していたとすれば,1回の支払につき,上記①や③のような形態のもののほかに,②のような形態のものがあり得ることを認識していなかったとは考えにくい。同制定者が,あくまで上記(ア)で述べたような意図を有していたとすれば,源泉徴収税額に係る規定である以上は解釈にゆだねるということではなく,その趣旨を明らかにすべく条文上に何らかの手当てをしたのではないかと考えられる。

(ウ) 以上のことは推測にわたる部分が多いが,要するに,施行令322条制定者の意図を種々忖度してみても,原告が主張しているような解釈を否定する意図であったと認めるべき的確な根拠は見いだし難いというべきである。

エ 租税正義ということについて

(ア) 被告は,租税法の解釈は租税正義にかなうものでなければならないと主張する。

(イ) 上記の点に関連して,原告の主張する解釈を採用したとしても,憂慮すべき不公平が生じるものでもないことは前記アで検討したとおりである。

そして,施行令322条について解説している,文献,書籍等をみても,被告の主張に沿う記載のあるものも存在するが,原告の主張に沿う記載,少なくとも,そのように読まれても仕方のない記載のあるものも存在している(甲19,20,34ないし36,乙2,9ないし13。ただし,一部は「バンケットホステス,コンパニオン等に対する報酬・料金」についてのものである。)。

してみれば,施行令322条のホステス報酬等に関する規定の解釈については,一般にコンセンサスが得られているような確定的な解釈が存在したともいえない。

(ウ) したがって,原告が,施行令322条の文理に従い,あるいは原告の主張に沿うような書籍等を参考として徴収納付を行ったとしても,やむを得ない状況があったといえる。そして,その結果として,原告は回収できる見込みも定かでない1020万円余り納税を命じられているのであり,これが単に租税法規に対する無知,無理解といって済まされる問題のようには思われない。

本件において,原告の主張する解釈を採用することが租税正義に悖るというべき根拠はないというべきである。

オ 以上検討したところによれば,本件中には原告の解釈によった場合に特段の不都合,不合理が生じるとか,論理的,その他の理由により同解釈を採り得ないというだけの事情は見いだせない。

(4)  まとめ

以上の検討を総合すると,施行令322条のホステス報酬等についての規定文言からすれば,原告の主張する解釈の方が明らかに文理に沿っており,被告の主張する解釈は文理上原告の主張する解釈よりも劣っているというに止まらず,一般の納税者が容易に理解できるものではないというべきである。被告は,その主張する解釈の文理上の根拠を十分に説明し得ていないといわざるを得ない。

そして,原告の解釈を採用した場合に特段の不都合,不合理があるとも,同解釈を排斥すべき特段の事由があるとも認められない。してみれば,施行令322条にいう「当該支払金額の計算期間」とは「当該支払金額の計算期間における全日数」をいうものと解釈するのが相当であり,これを「当該支払金額の計算の対象となった日の合計数」をいうとの被告の主張は採用できない。

2  争点2について

(1)  原告は,本件ペナルティは,本件各ホステス報酬の算定に際してのみ考慮されるもので,各種手当と同様に本件各ホステス報酬を構成する要素の1つであるから,これを控除した残額を本件各ホステス報酬として源泉所得税の額を算定すべきであると主張し,被告は,本件ペナルティは原告と本件各ホステスとの間で定められた違約金であるから,本件各ホステス報酬に係る源泉所得税の額を計算するに当たっては,控除すべきものではないと主張している。

(2)  本件ペナルティについては,女子給料システム(乙6)にその定めがあり,【罰金】という項目の下に,遅刻・早退の場合は15分を1単位として500円,当日欠勤の場合は時間帯により5000円,8000円及び1万5000円,無断欠勤の場合は1万5000円などというように,各ホステスが一定の約束違反をした場合に一定額の罰金が各ホステスに科されるものとされている。

上記の女子給料システムの定めている内容,すなわち【罰金】という項目の下に定められ,かつ,その内容が原告との約束違反の場合に一定額を科す趣旨の記載であること,及び報酬を支払う際に渡す書面(乙5,14)には,上段に総支給額が記載され,ペナルティーは下段の控除金額の欄に記載されていることからすれば,本件ペナルティは被告の主張するように違約罰を定めたもの,すなわち,ホステス報酬の算定とは別個独立の,原告と各ホステスの間の違約金支払の約定であると認めるのが最も素直な解釈というべきである。

(3)  これに対して,原告は,本件ペナルティは本件各ホステス報酬の算定に際してのみ考慮されるべきもので,報酬が生じない計算期間において別個に発生するものではないから,各種手当と同様に本件各ホステス報酬を構成する要素の1つであると主張する。

確かに,原告における本件各ホステス報酬は,時給によるとはいえ,その時給額が事前には決まっているわけではなく,集計期間における平均指名個数等の成績等に応じて決まることとなっており(前記第3,3(2)),原告の上記主張は,本件ペナルティもこれらの報酬額決定要素と同様の性質のものというにある。しかし,本件各ホステス報酬は上記のような要素はあるが時給として合意され,勤務時間を単位として発生するものと認められるから,報酬支払日における支払は,このようにして発生する各報酬をまとめて支払っているにすぎない。そうすると,例えば,当日欠勤した場合に,その日の報酬が発生しないことは明らかであるが,この場合のペナルティを報酬支払の際に控除しているということは,別の勤務に係る報酬支払債務と相殺しているにほかならないと認められるのであって,これをもって別の勤務日の報酬を算定する際の考慮要素ということは相当でない(遅刻・早退の場合でも,その遅刻,早退に係る時間帯については報酬が発生しないのであるから同様である。)。

原告は,報酬が生じない計算期間においては本件ペナルティを控除していない旨を主張するが,そのような合意があるとか,そのような取り扱いが行われているといった事実を認めるに足りる証拠はないし,仮に,事実上そのような取り扱いが行われていたとしても,上述したところからすれば,相殺ができない場合にはペナルティを徴収していないというにすぎないものと解されるのであり,上記認定を左右するまでの事情とは認められない。

(4)  そうすると,原告は,本件ペナルティを控除する前の金額をもって施行令322条の「同一人に対し1回に支払われる金額」とし,これを基準として計算した額を本件各ホステス報酬から源泉徴収し,納付すべき義務があったということになる。

したがって,原告は本件ペナルティを控除する前の本件各ホステスの報酬額を1回に支払われる金額として,これから施行令322条に基づいて計算した金額を控除した残額の10%を源泉徴収し,納付すべきであったということになり,本件ペナルティの額が別表4の「ペナルティに係る金額」欄記載のとおりであることは当事者間に争いがないから,結局,原告がした源泉所得税の徴収,納付は同表「ペナルティ係る金額」欄記載の金額の10%に相当する金額,すなわち,同表の「納付すべき源泉徴収税額」欄記載の金額だけ不足していたということになる(正確にいうと,本件ペナルティを控除する前の報酬額が控除額以上であった場合は上記のようにいえるが,控除額を下回っている場合には,控除額に満つるまで本件ペナルティの額を充当した残額の10%ということになる。弁論の経過等からして,原告はこの点を争点とはしないものと理解されるので,上記不足額の点は当事者間に争いがないものとして扱う。)。

第7結論

1  以上のとおりであるから,本件各納税告知処分は別表4の「納付すべき源泉徴収税額」欄に各記載の限度において,また,本件各賦課決定処分は同表の「不納付加算税額」欄に各記載の限度において,いずれも適法であるが,これを超える部分については違法であり取消しを免れないということになる。

2  よって,本訴請求については,別表4の「納付すべき源泉徴収税額」欄及び「不納付加算税額」欄に各記載部分の取消しを求める点は理由がないから棄却することとし,これを超える部分は違法であるから取り消すこととして,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条本文を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村吉晃 裁判官 植村京子 裁判官 高橋心平)

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