横浜地方裁判所 平成18年(行ウ)36号 判決 2010年10月20日
主文
1 原告の請求を棄却する。
ただし、被告がAに対して、平成13年12月14日付けでなした別紙「従前の土地」欄記載の土地を従前地とし、同「換地処分後の土地」欄記載の土地を換地とする換地処分は違法である。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
事実及び理由
第4当裁判所の判断
1 前記争いのない事実等に証拠(括弧内掲載の証拠、証人B、原告)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 被告は、昭和46年ころから、市として初めての土地区画整理事業に取り組むこととして、昭和49年2月1日には、本件従前地を含む区域について都市計画決定を行った(甲30、87、乙76)。
土地区画整理事業の名称は、秦野都市計画事業渋沢駅周辺(中央・南口工区)土地区画整理事業といい、小田急線渋沢駅周辺を区域とし、全体計画面積は約26万8000平方メートルに及び、その中には、柳町一丁目地区と稲荷森地区が含まれる中央工区と、曲松一丁目が含まれる南口工区があり、その合計面積は約13万8000平方メートルであった。被告は、この2工区を優先的に施行することとし、取り分け緊急に整備することが求められる北口駅前広場を含んでいる中央工区を先行して進めることになった(以上、乙11、76)。
(2) この土地区画整理事業の目的は、首都圏における通勤圏の拡大によって、急激に市街化した当該地区において、各種公共施設の整備を行い、住民の生活環境の向上を図るとともに、商店街の一層の活性化を図り、秦野市西部地域の理想的な中心市街地として発展させようとするものであった。設計の方針は、小田急線渋沢駅の南口広場を拡張整備するとともに北口広場を新設し、これに通ずる幹線街路を骨格にして区画街路網を配置するというものであった(乙11)。
そのため、公共施設が占める面積が多く、施行前の宅地価額の総額よりも施行後の宅地価額の総額が減少するため、減価補償金(土地区画整理法109条)が発生する見込みとなった。また、新設させる駅前広場の底地の換地を定めるために、代替地が求められた。そこで、被告は、代替地を確保するために、稲荷森地区を中央工区の土地区画整理事業に編入することにした。
被告は、稲荷森地区を中央工区に編入するに当たり、稲荷森地区の地権者らの反対を抑えるために、地積減歩をせず、もともとの登記簿の面積を換地として与え、それによって発生する清算金(土地区画整理法94条により、換地により生じる不均衡を是正するために徴収される金銭)についても、権利者が納得する額で負担をするということで了解を得た(甲30)。
その一方で、被告は、公共施設充当用地に充てるほか、ごみ集積場所の確保・稲荷森地区地権者及び過少宅地地権者の救済に用いるために、昭和51年から昭和55年度にかけて、自らあるいは土地開発公社を通じて、施行地区内の地権者から宅地を先行買収した(甲35、乙48の1ないし12、52、76)。そのうち、昭和51年から昭和54年の間に取得した土地は、被告の説明では減価補償金相当額として確保した予算に基づく買収に当たり(証人Bの証人調書6頁)、その合計1万6309.27平方メートルであるが、そのうち8876.88平方メートルを稲荷森地区が占めていた(乙52)。
(3) Aは、本件従前地に長男Cのために建物を建築することを計画し、建築予定地に土地区画整理事業が予定されていたことから、都市計画法53条1項に基づく許可の申請を行った。神奈川県平塚土木事務所長は、昭和50年8月22日、Cによる許可申請に応じて、建築確認申請にかかる建物新築について、都市計画法53条1項に基づく許可を行った(甲12)。次いで、Cは、同年9月9日、本件店舗併用住宅を建築する内容の建築確認を受けた(甲12)。このとき添付した図面では、区画整理道路は、本件従前地の南側を通過するようになっていた。Cは、昭和51年1月12日、本件店舗併用住宅を建築した(甲13)。
(4) 一方、本件土地区画整理事業については、その実現に向けて、昭和51年5月27日から同年7月3日にかけて、被告と地元地権者との間で意見交換会が開催された(甲31)。
(5) 神奈川県知事は、昭和52年4月25日、秦野都市計画事業渋沢駅周辺(中央工区)土地区画整理事業(本件土地区画整理事業)を認可し、同月26日、本件土地区画整理事業を公告した。被告は、同年7月20日、本件施行条例を制定した(以上、乙44、57、58)。
最初に作成された事業計画書(乙64の1)によれば、減歩率は24.48パーセントで、7億1100万円の減価補償金が発生することになっていた。被告は、昭和54年10月16日、本件土地区画整理事業の事業計画を変更した(1回目。乙64の2、66の1、73の1)。変更箇所は、稲荷森地区の区画整理道路の線形の変更であった。
(6) 被告は、本件土地区画整理事業に係る換地設計基準を定め、昭和55年6月17日、これを施行した(乙45)。また、本件土地区画整理事業に係る路線価算定基準及び土地評価基準を定め、昭和56年7月31日、これを施行した(乙8、9)。
その上で、被告は、この路線価算定基準及び土地評価基準に基づき、中央工区の土地区画整理事業の土地評価案を作成し、昭和56年9月10日付けで、その妥当性について、土地区画整理評価員に諮問した。土地区画整理評価員は、同年10月5日、路線価算定基準及び土地評価基準に照らし、中央工区が持っている特殊事情を念頭におきながら、かつ、地区の特殊性を十分に考慮しつつ慎重に検討した結果として、被告が作成した路線価算定基準並びに土地評価基準に基づき作成された土地評価(案)については諮問のとおり定めるのが適当であるとしつつ、一部の宅地についてその宅地相互間の均一性を保つよう検討することを求めるとの意見を付けた(乙63の1ないし8)。
被告は、整理前路線価計算書・整理後路線価計算書(乙69)を作成の上、整理前後の路線価図(乙67、68)を作成した。被告は、整理前路線価の算出に当たり、昭和56年10月1日を評価時点として、a不動産鑑定株式会社及びb不動産鑑定事務所に、代表地点の鑑定を依頼した(乙70、71)。整理後路線価については、柳町一丁目地区の駅前広場に通じる幹線道路の路線価指数は、駅前に近いところで1245(4-A)、遠いところで1225(4-B)となっている。この幹線道路と繋がることになる稲荷森地区の幹線道路の路線価指数は、その2分の1に満たない535(28)とされた。
柳町一丁目地区の幹線道路と稲荷森地区の幹線道路を結ぶ部分は、県道706号線(秦野市都市計画道路3・4・9号渋沢駅前落合線。甲34、41)として、本件土地区画整理事業の前の昭和40年3月18日の都市計画決定により、繋がることが想定されていた。その区間は、渋沢駅北口(駅前広場を含む)を基点として、柳町一丁目地区から松原町・堀川・堀山下・戸川・菩提・羽根・西田原・東田原地区を経由し、国道246号線を終点とするもので、延長は4,110メートル、幅員は18から20メートルであった。この道路整備は、本件土地区画整理事業に合わせ、昭和52年から中央工区内の柳町一丁目地区内が整備され、昭和58年に国道246号線から稲荷森地区まで、延長250メートル、道路幅員13から17メートルが街路事業として暫定整備されるとともに、平成3年から平成4年にかけて整備を完了させ、平成元年に稲荷森地区から西大竹堀川線までが整備された。また、昭和62年から平成2年度にかけて、西大竹堀川線から秦野都市計画道路水無川右岸線まで、平成2年度から平成3年度にかけて、秦野都市計画道路水無川右岸線から秦野都市計画道路秦野水無川線の道路が整備された。
以上を踏まえ、被告は、本件土地区画整理事業の換地設計案を作成し、昭和57年2月27日付けで土地区画整理審議会に諮問し、同年7月13日付けで同審議会の答申を得た(甲69の2、乙47の1ないし3、65)。諮問に当たっては、別添資料として、稲荷森地区及び柳町一丁目地区の換地設計(案)換地図のほか、換地設計(案)街区別仮換地調書が付けられており、対象となる土地ごとに、整理前(仮換地前)の権利指数と整理後(仮換地後)の換地指数と清算金の額(徴収額あるいは交付額)が記載され、その計算過程も分かるようになっていた。この答申には、この事業が被告施行に係る土地区画整理事業として最初のものであり、減価補償金制度を採用したことから保留地もなく、かつ柳町一丁目地区は駅前広場の新設と東西に高圧送電線が走る等の特殊事情のもとに実施するものであるから、区域全体の再有効利用を図ることは至難の業であるといわざるを得ないが、原位置換地を原則としながらも整理前と整理後の照応関係等総合的な観点から審議した結果、諮問のとおり定めることが適当であると記載されていた。
諮問期間中の昭和57年3月29日、事業施行期間を変更するための2回目の事業計画の変更が行われた(乙64の3、66の2、73の2)。減歩率、減価補償金については変更はない。
(以上の認定に関し、原告は、昭和57年には換地計算がなされておらず、単に地図上各地権者に対する換地を定めただけであると主張するが(原告準備書面(16))、証拠(乙65)によれば、昭和57年2月27日に被告が土地区画整理審議会に諮問した際の諮問文書の添付図書として、「(1)換地設計(案)設計図(稲荷森地区)、(2)換地設計(案)換地図(柳町一丁目地区)、(3)換地設計(案)街区別仮換地調書」が明記されており、この(3)換地設計(案)街区別仮換地調書が実際に添付されたことを疑うに足りる事実があるとはいえないから、上記主張は採用できない。)
(7) 他方、被告は、清算金算定の評価基準時については、建物移転が概ね完了し、北口駅前広場等が完成した平成5年10月(北口駅前広場竣工式は同月26日である。)とした(乙10、60)。
また、清算金を算定するための土地評価について、被告は、徴収される者、交付される者にそれぞれ妥当で、納得される金額を定める必要があり、必ずしも不動産売買のように時価というわけではないというのが行政判例であるとして、一般の権利者にも馴染まれ、理解が得られるもの、さらには秦野市の他の区画整理の事例に照らし、工事概成時点である平成5年時の固定資産税評価額によることとした。そのため、中央工区内の9箇所(柳町一丁目地区の6箇所、稲荷森地区の3箇所)の固定資産税評価額を用い、工区面積加重平均により固定資産税評価額平均単価5万4136円/m2を算出し、これを平均単価指数962個/m2で除した指数1個当たりの単価56円を求め、さらに、換地処分時点(平成13年10月)までの時点修正率(8年間の都市銀行定期預金利息(300万円未満の単年度利息)から算出したもの)を乗じて60円を算出した。なお、被告が清算金の基準時とした平成5年度は、固定資産税の評価替えの最終年で、実際の評価は平成3年になされている。
(8) A及びCは、昭和57年12月18日付けで、秦野市長宛に、昭和50年11月に本件店舗併用住宅を新築する際、本件従前地の南側が計画道路となる予定であったことから、その計画に従ったにもかかわらず、昭和56年11月ころ、道路の位置が本件店舗併用住宅の北側に一方的に変更されていたとして、納得のできる説明を求める申入書を作成し、そのころ被告に交付した(甲14)。Aは、昭和59年2月28日、同月27日に受領した建物等移転計画説明会の開催通知を受けて、秦野市長に対し、計画道路の位置が本件従前地の南側から北側に変更になった理由の説明を求める文書を作成して、そのころ被告に交付した(甲16)。
その後、被告は、平成6年2月28日付けで、Aに対し、本件仮換地指定処分を行った(甲22)。Cは、これを受けて、同年7月14日、被告との間で、本件店舗併用住宅の移転によって生じる損失の補償額を2435万2020円とする損失補償契約を締結し(甲20、21)、平成7年6月13日、本件店舗併用住宅を取り壊した(甲13)。
(9) 被告は、昭和62年10月29日、ごみ集積場所の位置の変更に伴う換地設計(案)の一部変更を決定した(甲71の2)。その理由は、換地の指定案に反対する地権者のうち1人が、ごみ集積場所の位置を変更すれば換地について了承する方向で話がまとまり、かつ、技術的にも他の権利者の換地に大きな影響を与えずに変更することが可能であることから、変更を決定したというものであった。
(10) 被告は、昭和63年2月18日、3回目の土地区画整理事業の事業計画の変更を行った(乙64の4、66の3、証拠説明書)。これにより、土地区画整理事業の名称等が、秦野都市計画事業渋沢駅周辺(中央工区)土地区画整理事業から、秦野都市計画事業渋沢駅周辺(中央・南口工区)土地区画整理事業に変更となり、区画整理事業に南口工区が加えられるとともに、北口駅前広場東側に抜ける区画整理道路(4.5m)を歩行者専用道路(4.0m)に変更し、事業期間を延長するなどの変更がなされた。また、このとき減価補償金額が、7億1100万円から7億5300万円に変更された。その理由は、国庫補助金協議時(昭和53年)の地価の見直しによるものである(乙74の2頁)。さらに、平成5年3月24日、第4回の事業計画の変更がなされた(乙64の5、66の4、73の3)。変更内容は、総事業費の変更、事業施行期間の延長、測量成果を反映した公共用地面積の変更、区画整理道路を都市計画道路に変更するというものであった。
その後、事業計画は、平成8年3月18日(第5回)(総事業費の変更、事業施行期間の延長)(乙64の6、66の5、73の4)、平成9年12月19日(第6回)(渋沢駅東西線及び外周道路の歩道幅員の変更に伴う設計見直し、事業施行期間の延長、資金計画の変更)(乙64の7、66の6、73の5)、平成11年2月4日(第7回)(資金計画の変更)(乙64の8、66の7、73の6)、平成12年3月16日(第8回)(中央工区における事業施行期間の延長、資金計画の変更)(乙64の9、66の8、73の7)、平成13年2月20日(第9回)(中央工区における事業施行期間の延長、資金計画の変更)(乙64の10、66の9、73の8)、同年9月27日(第10回)(中央工区における設計説明書の変更、資金計画の変更)(乙64の11、66の10、73の9)、平成15年3月5日(第11回)(南口工区における事業施行期間の延長、資金計画の変更(乙64の12、66の11、73の10))、平成19年8月9日(第12回)(南口工区における施行前後の地積の変更、土地利用計画の変更)(乙64の13、66の12、73の11)に変更された。
第10回の変更では、中央工区の減価補償金額が7億5300万円から0円に、減歩率が28.41パーセントから12.29パーセントに変更となっている。このとき、施行前の公共用地に、公共施設充当用地として16,309.27平方メートル(乙52記載の減価補償金相当額による買収分に同じ)が加算された(土地の種目別施行前後対照表{中央工区})。そのため、事業計画上、整理前の宅地面積が88,729平方メートルから72,659平方メートルに減少する反面、平均価格が12万5000円から14万2740円に増加し、その結果、整理前の宅地面積、同平均価格、減歩率及び増進率から算出される減価補償金が0円になったものである。
(11) 被告は、換地計画を作成し、平成13年9月28日、土地区画整理審議会の答申を得て、同年10月9日から同月22日までの2週間、公衆の縦覧に供し、同年12月4日、神奈川県知事から認可を受けた(甲33)。
(12) 被告は、平成13年12月14日付けで、Aに対し、本件換地計画において定められた内容を通知し、もって本件換地処分を行った(甲49)。他方、神奈川県知事は、平成14年1月25日、本件土地区画整理事業全体の換地処分を公告した(甲33)。
(13) 次いで、被告は、平成14年5月24日付けで、Aに対し、同人から清算金25万8300円を徴収する旨の本件清算金徴収決定を行った(甲1)。
(14) 被告作成の平成14年3月20日付け「渋沢駅(中央工区)土地区画整理事業清算処理資料」(甲33)によれば、土地区画整理法94条に基づく清算金は徴収額が8979万6000円(内訳は、小宅地権利者18人の計754万8000円、稲荷森地区の権利者21人の計3338万7000円、飛び換地の権利者7人の計48万3000円、柳町一丁目地区の権利者132人の計4837万8000円)、交付額が8979万6000円(内訳は、稲荷森地区の権利者1人で3000円、飛び換地の権利者21人で1417万5000円、柳町一丁目の権利者33人で5018万5000円、被告が2543万3000円)であった。
被告は、議会の承認を得て、小宅地の地権者18人の754万8000円、稲荷森地区の地権者19人の清算金3331万円、合計4085万8000円のうち、2543万3000円を放棄した(甲32、33)。その理由は、「区画整理事業を円滑に推進するために、市による土地の先行取得などによって減歩緩和したところですが、特に、小宅地の権利者及び稲荷森地区の権利者に減歩負担の軽減を図る措置として、市有地による補てんを行った。このことによって、(中略)清算金の一部を放棄する」というものであった(甲33)。
(15) Aは、平成14年12月5日、死亡した(甲2)。原告は、相続により、本件土地の所有権を取得した(甲3)。
(16) 渋沢駅周辺(南口工区)土地区画整理事業については、平成20年2月1日換地公告を行った。他方、松原地区については、整備時期は未定の状態である(乙76)。
2 争点1について
原告は、本件仮換地指定処分が、換地予定地的仮換地の指定処分であるとし、この場合には、換地計画に基づくことを要すると主張する。
しかし、換地予定地的仮換地の指定処分を許容しても、仮換地の指定は法に定める換地計画の決定の基準を考慮してこれを行わなければならないとされており、最終的には換地処分は換地計画に基づかなければならず、その段階では土地所有者らに縦覧、意見書提出の機会は保証されているから、換地予定地的仮換地をする段階で、換地計画に基づくことを要求するのでなければ土地所有者等の利益を図ることができないというわけではない。
そうすると、換地計画を定めることなく換地予定地的仮換地を行ったことによって、本件仮換地指定処分が無効となるとはいえず、後の独立した行政処分である本件換地処分に無効や取消し事由が生じることになるとはいい難い。
よって、この点についての原告の主張は採用できない。
3 争点2について
(1) 土地区画整理は、施行者が一定の限られた施行地区内の土地につき、多数の権利者の利益状況を勘案しつつそれぞれの土地を配置していくものであり、また、具体的な配置の方法は多数あり得るから、具体的な換地処分を行うに当たっては、土地区画整理法89条1項所定の基準の枠内において、施行者の合目的的な見地からする裁量的判断に委ねざるを得ない面があることは否定し難い。そこで、換地指定処分は、指定された換地が、土地区画整理事業開始時における従前の宅地の状況と比較して、土地区画整理法89条1項所定の照応の各要素を総合的に考慮してもなお、社会通念上不照応であるといわざるを得ない場合において、その裁量的判断を誤った違法なものと判断される。
(2) これを本件について見ると、原告は、Aが昭和51年1月12日に、当時教示を受けていた計画道路位置(本件従前地の南側を通過する)を前提に、本件店舗併用住宅を建築したところ、その後、計画道路位置が変更された(本件従前地の北側を通過する)ため、同建物を除去せざるを得なかったと主張している。しかし、先に認定したとおり、本件店舗併用住宅の所有者であるCは、最終的に本件土地区画整理事業の計画遂行に応じることにして、平成6年7月8日、被告との間で損失補償契約を締結し、2435万2020円を受け取り、平成7年6月13日、同建物を取り壊している。
その補償金額が公平に害する廉価なものとは認め難い。そうすると、計画道路位置の設定に至るいきさつについて、判然としないところはあるけれども、以上によれば、原告がいう北側ルートに変更されたことをもって生じたAの利益は、本件土地区画整理事業の遂行の過程で、同人の承諾を得て本件店舗併用住宅を建築したCに対する補償を通じ填補されたというしかない。そうすると、これをもって、本件仮換地指定処分の違法事由たり得ず、さらには後の独立した行政処分である本件換地処分を照応の原則違反により違法とすることはできない。
(3) さらに、原告は、本件土地の地形がいびつで、県道と接する本件土地北西角の隅切り部分については建築そのものが不可能な状態であるほか、県道の幅員が従前7.5メートルであったのが6メートルに狭められ、北側道路も幅員が4.5メートルしかなく、県道からの自動車の進入に対し安全ではないなどと指摘して、本件換地処分の前後で、価値が照応していないと主張している。
しかし、本件従前地と本件土地は同じ位置にあり(原位置換地)、減歩率も6パーセントにとどまっている(乙12)。本件土地は、北西角が鋭角となっているとはいえ、建物建築に支障はなく、既に建物が建築されている。そもそも、本件土地区画整理事業の施行区域全体の形状が整形でなく、他の街区においても角地は一部が鋭角になっていることが認められる(甲61添付の図面等)。逆に、本件従前地が西側でのみ接道していたのに対し、西側及び北側の道路に接する角地に換地されている。西側道路の幅員は歩車道を入れて7.5メートル、北側道路の幅員も4.5メートル確保されているから、利便性は増している(甲61、78、80、枝番も含む。)。換地前後の価値を比べても、整理前宅地の評価指数は22万9450点であるのに対し、整理後宅地の評価指数は23万3755点となっている(乙12)。
以上からすると、本件換地処分の前後において、法89条1項所定の照応の各要素を総合的に考慮してもなお、社会通念上不照応であるということはできない。
よって、この点についての原告の主張は採用できない。
4 争点3について
(1) ごみ集積場所の換地と清算金の交付
先に認定したとおり、被告は、昭和55年に先行取得した土地のうち、〔番地省略〕の土地について、一部が16箇所のごみ集積場所の敷地に換地され、残りは換地の対象とならず清算金処理とされ、その結果、被告は、地権者として2543万2920円の清算金を受ける権利を取得している(甲61)。その上で、被告は、議会の承認を得た上、これを放棄し、小宅地の地権者18人の754万8000円、稲荷森地区の地権者19人の清算金3331万円、合計4085万8000円のうち、2543万2920円の支払を免除している(甲32、33、甲33の数値は、千円未満が切り上げられている。)。
免除の対象とされた2543万余円の原資は、このように、被告が本件土地区画整理事業において、地権者の地位に基づいて取得した清算金である。被告としては、本件土地区画整理事業の施行者としての立場から、換地処分までは地区地権者を公平に扱い、土地区画整理法の手続外で、地権者の立場から清算金を放棄し、その恩恵を小宅地の権利者と稲荷森地区の権利者に付与することを試み、これを実行したものである。被告は、かかる措置を採っても問題がないとする立場を本訴でも貫いているけれども、純粋に地権者の立場で、取得すべき清算金を放棄した場合において、特定の地権者から徴収すべき清算金のみを減額する権限が、当該地権者に当然に認められるとは考え難い。
逆に、地権者として取得すべきところ、放棄された金額をもって、当該区画整理事業全体の収益とすることも考えられるところである。そうすると、今度は、施行者の立場からは、Aを含めた当該区画整理事業の施行区域内に土地を有するすべての地権者に公平に還元されるよう配慮すべきであったという余地もないではないことになる。しかし、いかに本件土地区画整理事業に公共性が認められるとはいえ、公金を使って取得した土地にかかる清算金を放棄することによって、減価補償金相当額を超える金額を、本件土地区画整理事業の地権者に付与すべき正当な理由があるともいい難い(後述のとおり、原告が取得した施行地区内の宅地のうち、減価補償金相当額に相応する部分については、公共施設充当用地として換地不交付とすることで補てんされていると認められる。なお、原告は、ごみ集積場所に換地された残地についても、すべて公共施設充当用地として、本件区画整理事業内の地権者に利益を還元すべきであったと主張するようであるが、既に減価補償金相当額に相応する部分について手当がなされている以上、それ以上の措置を求める権利があるとはいえない。)。
このように、施行者兼地権者の地位を有する被告が、特定の地権者を利する目的で、地権者として取得した清算金を放棄する措置を採ったことは、相当ではなく、小宅地の権利者及び稲荷森地区の権利者を不当に利する結果となり、横の照応の原則にも反するともいえるものではあるが、他方、これによって本件土地区画整理事業により原告が享受すべき権利が侵害されたとはいい難い。したがって、このことが本件換地処分を無効とし、又は取り消すべき原因となるとまではいえない。
なお、原告は、柳町一丁目地区の私道65筆、登記簿地積5238.13平方メートル(基準地積5595.40平方メートル)が、土地区画整理法95条6項により換地不交付とされ、その代わりに各私道所有者に総額4372万3040円の清算金が交付されていること(甲76の1及び2)について、換地先を定めなかったことをもって横の照応の原則に反するとも主張するが、これら私道部分と同じ機能を有する区画整理道路が整備されて私道が不要になったことを踏まえた措置と考えられ、このような場合、私道部分につき新たに換地先を指定せず、金銭により清算をしても違法とはいえないと解されるから、同主張は採用できない。
(2) 減価補償金
原告は、被告が減価補償金相当額として、昭和51年から昭和54年までの間に買収した土地の価額の総額は7億2776万7024円である(乙52)のに対し、減価補償額とされたのは7億5300万円であるから、その間に約2523万円の差が生じているとして、減価補償金による絶対的不足額の是正が十分にされていない可能性を指摘している。
しかし、施行地区内の宅地を先行取得して整理前から公共施設用地であったとみなすことにより減歩率の緩和を図り、減価補償金を発生させないために4年をかけて取得した先行取得地の現実の買収総額と、一定時点における区画整理前後の土地の価格をそれぞれ評価して算出される減価補償金の額とが、計数上完全に一致するものではないから、単にかかる差異があることだけによって、被告の行った手法により減価補償額相当額が補てんされていないとみることはできない。しかも、本件では、換地設計に当たって、被告が減価補償金相当額として買収した上記の土地のほか、その他事業費により買収した土地なども公共施設充当用地として扱っているから(被告は、昭和55年にも柳町一丁目地区の土地を先行取得しているところ、そのうち、〔番地省略〕の土地については、一部が16箇所のごみ集積場所の敷地に換地され、残りは換地対象とされずに清算金処理とされる一方、その余の昭和55年取得地は、土地区画整理法105条2項により消滅したものとされている。甲35、61、乙72、50、72、74)、減価補償金相当額が補てんされているものと認められる。
(3) 柳町一丁目地区の地権者と稲荷森地区の地権者との間の不公平
ア 先に認定したとおり、本件土地区画整理事業では、もともと柳町一丁目地区のほか、松原町を含む一団の区域が指定されていたが(甲87)、柳町一丁目地区と稲荷森地区を先行して進めることになった。稲荷森地区は柳町一丁目地区とは連続しておらず、飛び施行地区に該当する。
一般的にいって、地理的に離れた地区であっても、両地区が密接不可分の関係にある場合には、飛び施行地区として捉えることができると考えられるが、この密接不可分の有無を判断するに当たっては、①都市施設上の密接不可分(都市計画道路の同一路線の未整備区間を含む等、公共施設の一体的整備上、密接不可分の関係にある場合)、②土地利用上の密接不可分(市街地再開発事業等の施設建築物及び共同化住宅等への参加者の集約や、墓地、鉄道操車場等、立地が限定される施設の移転先の確保等、土地利用の整序を図るために土地の入替えが必要な場合等、土地利用上密接不可分の関係にある場合)の観点から検討することが望ましい(国土交通省策定土地区画整理事業運用指針参照)。
被告は、中央工区に稲荷森地区を加えた理由について、柳町一丁目地区における土地区画整理事業が、施行前に皆無であった駅前広場を新設し、区画街路網を設置するなど、公共施設の新設及び著しい拡張があった結果、施行前の宅地価額の総額よりも施行後の宅地価額が減少する、いわゆる減価補償金が発生する地区であったことから、先行買収した宅地が多く含まれる稲荷森地区を施行区域に編入せざるを得なかったと説明している。
土地区画整理事業の施行後の公共用地率が高い地区等において、当該事業施行地区内の権利者に対する宅地の減歩負担のみによって公共施設用地を生み出すことが困難である場合に、事業の迅速かつ適切な遂行を図るために、施行地区内において、道路、広場等の公共施設の用地に充当すべき土地を取得し、これを当該公共施設充当用地とすること自体、一切許されないものとまではいえない。しかも、柳町一丁目地区と稲荷森地区は、400メートル程度しか離れておらず、いずれもその区域内に都市計画道路渋沢駅前落合線が通ることになっている。そうすると、先行して事業を進める中央区に稲荷森地区を加えたこと自体が違法とはいえない。
イ しかし、中央工区に稲荷森地区を加えたことが、柳町一丁目地区の土地区画整理事業を円滑に進めるに役立つ結果となったとしても、そのことを理由に柳町一丁目地区の地権者と比較して稲荷森地区の地権者を有利に取り扱うことは、横の照応の原則に照らして問題があることは、原告が指摘するとおりである。
清算金徴収の免除の問題点は先に指摘したとおりであり、稲荷森地区の地権者について減歩しないとの取扱いについても、原告が、柳町一丁目地区の地権者として、不公平感を抱くのも無理はないといえる。これには、減歩しないと約束するのでなければ、稲荷森地区を中央工区に加えることが困難となり、そうすると柳町一丁目地区の土地区画整理の減歩率が高くなって、同地区の権利者にとっても不利な結果になるとの現実を踏まえた被告の判断があったものと推察されるが、稲荷森地区を飛び施行地に加えた以上、飛び施行地区のみ減歩について特別の取扱いをするのは相当な取扱いであったとはいえない。
とはいえ、柳町一丁目地区の減歩率を軽減するため稲荷森地区が中央工区に加えられたことによって、被告による施行区域内土地の先行取得が容易になり、柳町一丁目地区全体の減歩率を引き下げられる結果となったことは否めないところである。また、この差別的取扱いゆえに、柳町一丁目地区の減歩率が上がったといえるのかは明らかにされておらず、稲荷森地区の地権者につき減歩しなかったために、原告の減歩率が高くなったとまで認めるには足りない。
ウ 次に検討すべきは、中央工区に柳町一丁目地区と稲荷森地区を加えて、先行して土地区画整理事業を行うに当たり、両地区に公平になるよう整理前路線価と整理後の路線価が設定されていたといえるかどうかである。
本件では、整理前路線価について、特に原告から異議が唱えられていない。そこで、整理後の路線価についてみるに、柳町一丁目地区と稲荷森地区を貫通する県道渋沢駅前落合線の路線価が、柳町一丁目地区で1245(4A地区)、1225(4B地区)となっているのに対し、稲荷森地区で535(28地区)しかない。
そのような評価となった理由について、Bは、その陳述書(乙74)で、都市計画としては、県道渋沢駅前落合線は連続した幹線道路であるものの、土地区画整理事業としては、中央工区が先行して進められることになった結果、県道渋沢駅前落合線が、柳町一丁目地区と稲荷森地区とで分断されることになり、区画整理事業の内的要因(事業計画に定めた都市施設整備及び土地利用計画)に照らし、そのうち柳町一丁目地区内である4A及び4B区画(乙68)については、既存主要幹線道路である国道246号線に直接接続し、主要幹線道路の性格を有する一方、稲荷森地区内である28区画(乙68)については、既存の市道に接続しているものの、区画道路としての性質を有しているにすぎないと判断して評価した結果(具体的には、4A、4C区間については、幹線道路と位置付けて、t値(街路係数のうち、市街地の街路網における当該道路の交通上の性格、系統性及び連続性等街路の等級を表す指数)を1.8とする一方、28区画は、単なる区画道路と位置付けたためにt値を0.9とした。)であると説明している。
そして、以上の評価手法を採用したために、4A、4Cと28区画の路線価に倍以上の差が生じ、引いては、柳町一丁目地区と稲荷森地区の整理後の評点にもその差が反映されることとなったことが認められる。
エ 整理後の路線価の算定に当たって、区画整理事業の内部要因を超えた事情、例えば事業期間中の土地価格の自然増や、後追い的な交通機関の整備などを、整理後の路線価策定に当たって考慮しないということには、一定の合理性があるものと考えられる。
しかし、本件土地区画整理事業は、もともと都市計画事業としては分断された松原地区も含めて一体であったものであり、この土地区画整理地区内に、県道渋沢駅前落合線が渋沢駅北口を基点として柳町一丁目地区、松原町を経て、稲荷森地区まで、基幹道路として設置されることになっていたところ(甲87)、そのうち、特に緊急に整備しなければならない北口駅前広場を含んでいる柳町一丁目地区を先行して事業化を進めることとしたが、同地区を先行して事業を進めるためには、換地先として提供できる稲荷森地区を同時に施行する必要があることから、この地区を含めて中央工区として整備されることとなったものである。そして、中央工区を本件土地区画整理事業で整備するに当たっては、柳町一丁目地区及び稲荷森地区内の県道渋沢駅前落合線を並行して整備するほか、柳町一丁目地区と稲荷森地区を結ぶ国道246号線から稲荷森地区間についても、都市計画道路としての整備を予定して、昭和58年度に暫定整備され、平成元年には稲荷森地区から都市計画道路西大竹堀川線まで整備されている。
以上からすると、被告は、昭和57年に、土地区画整理後の予想図をもとに土地の機能を想定して整理後の都市計画渋沢駅前落合線の路線価を確定させるに当たり、本来、柳町一丁目地区、松原町、稲荷森地区を含めた当初の土地区画整理事業としては、1本の道路として繋がる計画となっていたにもかかわらず、松原町の区間の道路整備について、形式的に本件土地区画整理事業とは別の事業に基づくものとして分断の上、柳町一丁目地区内の4A・4B区間については幹線道路と位置付ける一方、稲荷森地区内の28区画を既存市道に繋がるだけの区画整理道路として評価するのではなく、稲荷森地区についても幹線道路と位置付けた上で、適正な整理後路線価を算出すべきであったといえる。本件土地区画整理事業においては、稲荷森地区内の道路を適正な幹線道路として評価しなかったために、柳町一丁目地区と稲荷森地区の評点が、結果的に全体として不均衡となったものといわざるを得ない。
そうすると、柳町一丁目地区と稲荷森地区の整理後の価格について、評価を誤ったとする原告の主張は理由がある。
(4) 柳町一丁目地区の地権者間の均衡
原告は、D及びEの例を引いて、柳町一丁目地区の地権者間の不均衡をいうけれども、各宅地の整理前後の評価を見ると、原告については、前述のとおり、整理前宅地の権利評価指数は22万9450点であるのに対し、整理後宅地の評価指数は23万3755点である。
一方、Dについては、整理前宅地の権利評価指数は18万2123点である(整理前路線価1000点×道路位置修正率1.01=1010点、1010点×基準地積178.51平方メートル×比例率1.01014)のに対し、整理後宅地の評価指数は18万5334点である(整理後路線価1032点×道路位置修正1.01=1042点、側方路線価993点×道路位置修正率1.03=1023点、1023点×面積長15m×加算率0.5÷換地地積170.50平方メートル=45点、(1042点+45点)×換地地積170.50平方メートル。以上、乙16)。
Eについては、整理前宅地の権利評価指数は121万9045点である(4分割してそれぞれ算出した評価指数116万3509点+角地影響指数1万0875点=117万4384点、117万4384点÷地積1266平方メートル=928点、928点×1300.44平方メートル×比例率1.01014。乙18)のに対し、整理後宅地の評価指数は柳町一丁目112―2については、90万0084点(整理後南側路線価993点×方位修正1.03=1023点、1023点×892.94平方メートル=91万3477点、整理後北側路線価993×892.94平方メートル=88万6689点、その平均=90万0083点÷892.94平方メートル=1008点、1008点×892.94平方メートル。乙21)、柳町一丁目113―4については、33万6353点(整理後南側路線価1115点×298.98平方メートル=33万3363点、33万3363点+2987点(背面加算指数993点×14.6×1.03×0.2)=33万6350点、33万6350点÷298.98平方メートル=1125点、1125点×298.98平方メートル。乙21)であるから、合計で123万6437点である。
原告は、上記の整地前後の評価は、被告自身が算定したものであるから、信用性がないというようであるが、具体的にその信用性を疑わしめる事情は見受けられず、ほかに被告の評価が不合理であると認めるに足りる的確な指摘も証拠の摘示もない。
また、それぞれの基準地積による減歩率は、原告が6パーセント、Dが4.4パーセント、Eが8.0パーセントとなっている。原告は、Dの減歩率が低いというが、その差は大きいものではなく、Dを明らかに優遇されたとはいい難い。Eについては、従前地が条件がよいものではなかったために、減歩率も8.0パーセントと原告よりも大きく、徴収清算金も104万3520円に上っている上(乙22)、道路を挟んで2筆の土地に分けて換地処分がなされている。このような事情にも鑑みれば、同人につき原告に比して特に優遇した換地処分をしたとはいえない。
以上からすると、土地区画整理法89条1項所定の照応の各要素を総合的に考慮しても社会通念上不照応であるといわざるを得ない場合に当たり、その裁量的判断を誤った違法なものということはできない。
5 争点4について
以上によれば、本件土地区画整理事業は、柳町一丁目地区の地権者と、稲荷森地区の地権者の整理後の土地の評価に不均衡があり、いわゆる横の照応原則に反するから違法である。しかし、中央工区については、平成13年12月14日に全地権者に対し換地処分を通知し、平成14年1月25日に換地処分の公告を行い、登記手続も同年3月7日には終わっている。清算金についても、平成14年5月24日付けで確定通知を送付し、平成20年度にすべての清算金の徴収交付手続が終わっている。後に追加された南口工区も平成20年2月1日付けで換地公告がなされている。一方、松原地区については、事業化の目処は立っていない。既に、事業化された中央工区については、各地権者において、指定された換地に建物を移転していると推察され、原告も承継前に、換地指定された土地に建物を建築している。
以上からすると、仮に本件換地処分が取り消されるとなると、他の地権者等に多大な影響を及ぼす事態になることが優に推定されるから、これを取り消すことにより、公の利益に著しい障害を生ずることとなる。
他方、本件換地処分で、原告は、従前地とほぼ異ならない位置に換地を取得しており、減歩率も平均減歩率12.29パーセントを下回る6パーセントに押さえられている。もともと、稲荷森地区が飛び換地として中央工区に加えられたのは、前述のとおり、柳町一丁目地区において、換地すべき土地が物理的に不足することが見込まれたことによるから、先に指摘した稲荷森地区の路線価の評価を見直したとしても、原告が現在の換地を超える範囲の換地を受けた可能性があるとはいえない。かえって、稲荷森地区の整理後の価格が上がることで、柳町一丁目地区から稲荷森地区への飛び換地を求める魅力が減少することになるから、柳町一丁目地区で受ける換地が少なくなる事態も想定される。また、本件換地処分で、柳町一丁目地区の所有者間に不均衡が見られないことは前述のとおりである。さらに、本件では、土地区画整理事業施行後の宅地の価額が土地区画整理事業施行前の宅地の価額の総額よりも減少することが見込まれたことや、最終的な減歩率を下げることを目的として、本件土地区画整理事業に先行して、被告が公共施設充当用地として不換地の対象とする土地を先行取得し、これを不換地の対象としたことから、換地処分後の土地の総評価指数に対する従前の土地総権利評価指数が1.01014となっていることが認められる(乙42)。そうすると、本件換地処分を取り消すことにより、原告が得る可能性のある実益はさほど大きいものとはいえない。
以上によれば、本件換地処分の取消請求は、処分を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認められるので、行政事件訴訟法31条1項により、これを棄却すべきである。
第5結論
以上のとおりであって、本件土地区画整理事業は、横の照応原則に反し違法であるが、これを取り消すことは公共の福祉に適合しないと認められる。
よって、原告の請求は、行政事件訴訟法31条1項を適用して請求を棄却した上で処分の違法を宣言することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佐村浩之 裁判官 西森政一 安藤瑠生子)