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横浜地方裁判所 平成18年(行ウ)53号 判決 2007年3月26日

主文

1  本件訴えをいずれも却下する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第5当裁判所の判断

1  原告は本訴において本件不同意の取消し及び本件場外発売場の設置に対し小田原市長が同意することを求めており、これらの各訴えは抗告訴訟の一類型である取消しの訴え及び義務付けの訴えと認められる。したがって、このような訴えにおける取消し及び義務付けの対象となる行為は行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(以下「行政処分」という。)であることを要する(行政事件訴訟法3条2項、同6項)。

そして、上記にいう行政処分とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解されるから(最高裁昭和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁参照)、上記各訴えを適法と認めるためには、小田原市長による本件場外発売場設置についての同意又は不同意がこれにより直接原告の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められるものでなければならないということになる。

2  そこで、まず本件不同意が上記行政処分であるかどうか(争点1)について検討する。

原告は、小田原市長の同意がないと本件場外発売場について国土交通大臣による設置確認を得ることができないから、同市長による不同意(本件不同意)は行政処分に該当する旨主張している。

しかしながら、前記第2の3(1)及び(2)のとおり、モーターボート競走法施行規則8条1項は、場外発売場の設置確認の要件としては、当該場外発売場がその位置、構造及び設備に関し、告示で定める基準に適合するものであることを要求しているだけであり、その告示である「場外発売場の位置、構造及び設備の基準」(平成15年10月15日国土交通省告示第1350号)も、その基準として「場外発売場の位置は、文教施設及び医療施設から適当な距離を有し、文教上又は衛生上著しい支障をきたすおそれがないこと。」としているにすぎず、特に市町村の長の同意を要件としているわけではない。

原告は、上記告示を受けて発せられている前記第2の3(3)及び(4)に記載した通達を指摘して市町村の長の同意が設置確認の要件となっていると主張するが、これらの通達は行政内部の事務処理上の準則にすぎず、これを根拠に国民の権利義務を制限する等のことが認められるものではない。

してみると、上記各通達で指示されている市町村の長の同意というのは、場外発売場の設置確認の要件ではなく、国土交通大臣が設置確認を行う際、モーターボート競走法施行規則8条1項ないし「場外発売場の位置、構造及び設備の基準」(国土交通省告示第1350号)の掲げる要件適合性を判断するための一資料として、事務処理上その提出が求められているにすぎないものと解するほかはない。

以上によれば、市町村の長が同意を拒否したからといって、法令上当然に原告の権利義務の内容に影響を与えるものではないから、その不同意をもって抗告訴訟の対象である処分と認めることはできない。

上記のことは、市町村の長が上記同意をするかどうかの判断について法令上何の要件も定められておらず、結局、この点は地元自治会(又は町内会)が同意するかどうか、市町村の議会が反対の議決をするかどうかということと同次元の問題と解されることに照らしても明らかというべきである。

3  これに対し、原告は、市町村の長の同意は国土交通大臣の上記確認に際しての事実上の絶対条件であるとし、この点を争わなければ救済されないような場合には処分性を肯定すべきである旨主張をする。

しかし、市町村の長の同意を欠いたとしても国土交通大臣に対する設置確認申請ができないわけではなく(モーターボート競走法施行規則8条2項、同2条参照)、また、同大臣により市町村の長の同意がないことを理由として確認拒否処分がされた場合には、そのような同意の要否を含め、その不同意の不当性を主張して当該確認拒否処分の適否を争えば足りるものと考えられるのであって、このように解することに格別の不都合、不合理があるとは認められない。むしろ、場外発売場の設置という原告の目的にかんがみるならば、国土交通大臣による確認拒否処分を争う方がより直接的な手段であるとさえいえる(なお、そもそもモーターボート競走法施行規則8条1項の国土交通大臣の確認が行政処分といえるかどうか、すなわち、このような確認によって適法に場外発売場の設置が可能となるのかについては議論の余地があるが、この点については本件の結論を左右するものではないので立ち入らない。)。

したがって、原告の上記主張は採用できない。

その他、原告は幾つかの判例を指摘して本件不同意を行政処分と解すべき旨を主張するが、いずれも本件とは事情を異にしており、採用できない。

4  以上のことからすると、本件不同意を行政処分と認めることはできないから、その余の点について判断するまでもなく、本件各訴えはいずれも不適法ということになる。

第6結論

以上のとおりであって、本件各訴えはいずれも不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村吉晃 裁判官 植村京子 沼野美香子)

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