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横浜地方裁判所 平成19年(ワ)1585号 判決 2012年3月23日

原告

X1<他3名>

上記四名訴訟代理人弁護士

須須木永一

杉原光昭

奥園龍太郎

一色秀夫

同訴訟復代理人弁護士

藤田香織

原告ら補助参加人

医療法人Z

同代表者理事長

同訴訟代理人弁護士

小西貞行

被告

Y株式会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

福嶋弘榮

増田亨

主文

一  被告は、原告X1に対し、一〇五〇万〇七四六円及びこれに対する平成一九年五月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告X2、原告X3及び原告X4に対し、それぞれ三七〇万〇二四八円及びこれに対する平成一九年五月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告X1(以下「原告X1」という。)に対し、三三一六万五八一〇円及びこれに対する平成一九年五月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告X2(以下「原告X2」という。)、原告X3(以下「原告X3」という。)及び原告X4(以下「原告X4」という。)に対し、それぞれ一一四三万七八二四円及びこれに対する平成一九年五月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、亡C(以下「C」という。)の相続人である原告らが、Cは、被告が経営する介護付き有料老人ホームに入居していたところ、同施設がCの褥瘡の適切な管理を怠ったため、褥瘡の悪化に起因する敗血症を発症し、死亡したと主張して、入居契約及び特定施設入所者生活介護利用契約の債務不履行並びに不法行為に基づき、被告に対し、慰謝料等の損害賠償合計六七四七万九二八二円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一九年五月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

二  争いのない事実等

(1)  原告X1は、C(大正七年○月○日生)の妻であり、原告X2、原告X3及び原告X4は、Cと原告X1の間の子である。

Cの相続人は、原告らのみである。

(2)  被告(旧商号「株式会社a介護」)は、有料老人ホームの設置経営等を目的とする株式会社であり、川崎市<以下省略>において、介護付き有料老人ホーム「b老人ホーム」(以下「本件施設」という。)を経営している。

(3)  Cは、平成一七年一二月二九日に本件施設に体験入居し、引き続き平成一八年一月四日に正式入居した。

Cは、平成一七年一月二五日、介護保険制度における要介護認定において、要介護四の認定を受けていた。

(4)  原告X1は、平成一八年一月四日、被告との間で、Cのため、次の内容の本件施設への入居契約を締結した。

ア 入居者 C

イ 介護居室 二階二一八号室

ウ 居住の権利形態 終身利用権

エ 入居金 九五〇万円

オ Cは、被告から介護、健康管理、治療への協力、食事及び機能の維持回復訓練等自立への支援のサービスを受けることができる(四条)。

カ 被告は、Cがり病、負傷等により治療を必要とするに至った場合には、被告の協力医療機関、原告X1及びCの選択による医療機関、又は本件施設において、必要な治療が受けられるよう、医療機関との連絡紹介、受診手続、通院介助等の協力を行うものとする(一三条一項)。

上記治療の必要性の判断は、被告及び被告の指定する医師が行うものとする(同条二項)。

キ 被告は、本契約に基づくサービスの提供に当たって、万が一事故が発生し、Cの生命、身体、財産に損害が生じた場合は、不可抗力による場合を除き、速やかにCに対して損害の賠償を行う(三一条)。

(5)  Cは、平成一八年一月四日、被告との間で、次の内容の特定施設入所者生活介護利用契約を締結した。

ア 被告は、Cに対し、本件施設において、Cが有する能力に応じ、Cが自立した日常生活を営めるよう支援することを目的として、巡回、食事介助、排せつ介助、おむつ交換、入浴介助、身辺介助(体位交換、居室からの移動、衣類の着脱等)、機能訓練、通院介助、緊急時対応等の介護サービスを提供する(一条)。

イ 被告は、本契約に基づくサービスの提供に当たって、万が一事故が発生し、Cの生命、身体、財産に損害が生じた場合は、不可抗力による場合を除き、速やかにCに対して損害の賠償を行う(一二条)。

(6)  Cは、平成一八年一月一六日、本件施設から、原告ら補助参加人が開設する横浜市<以下省略>所在のg病院(以下「本件病院」という。)に救急搬送され、同月二一日、同病院において死亡した。

(7)  Cの、本件病院の担当医であったD医師(以下「D医師」という。)が作成した死亡診断書には、次の記載がある。

ア 直接死因

敗血症(発症から死亡までの期間 平成一八年一月一六日)

イ アの原因

感染褥瘡(発症から死亡までの期間 不明)

ウ 直接には死因に関係しないがア及びイの傷病経過に影響を及ぼした傷病名等

糖尿病

エ 解剖の主要所見

仙骨部褥瘡、感染脾

(8)  Cに係る、平成一七年一二月二九日から平成一八年一月一六日までの本件施設における入居経過の概要は、別紙一「入居経過一覧表」のとおりであり、同日から同月二一日までの本件病院における診療経過の概要は、別紙二「診療経過一覧表」のとおりである。

三  争点及び争点に対する当事者の主張

(1)  Cの褥瘡の悪化に関する被告の債務不履行・注意義務違反の有無

(原告ら)

ア Cの仙骨部には、平成一七年一二月一七日にcクリニックのE医師(以下「E医師」という。)がCを診察した際、褥瘡が生じていた。しかし、その後の治療(ダラシン錠の服用とゲーベンクリームの塗布)により、Cが本件施設に体験入居した同月二九日ころには、上記褥瘡は、注意深く観察していれば特に問題がない状態にまで改善していた。

Cの本件施設への入居に当たって、E医師からの診療情報提供書及びCの訪問看護を担当していたdステーションからの看護情報が本件施設に送付され、上記褥瘡を含むCの健康管理に関する情報が提供されていた。

イ 被告は、Cに対し、入居契約及び特定施設入所者生活介護利用契約に基づき、介護サービスを提供し、健康管理を行い、治療への協力をする債務を負っていた。

アの点を踏まえると、被告は、具体的には、Cの褥瘡の悪化を防ぐため、清拭、体位交換等適切な褥瘡管理を行う債務(注意義務)及び発熱等で医師の診察を必要とするに至った場合には、直ちに必要な診察を受けさせる債務(注意義務)を負っていた。

ウ しかるに、本件施設は、Cの仙骨部の褥瘡に被覆材を貼付してこれを三、四日おきに交換することしかせず、褥瘡の状態を十分確認しなかった。このため、上記褥瘡は、本件施設に入居している間に悪化し、Cは、平成一八年一月一〇日ころには、上記褥瘡からの細菌感染を原因とする敗血症を発症し、発熱した。

エ 本件施設は、Cの発熱を重くみず、同人を本件施設の協力医であるF医師(以下「F医師」という。)に診察させることをせず、この時点でも褥瘡の状態を確認しなかった。

また、本件施設は、F医師に対し、Cの褥瘡の状態等、入居以来の情報を全く伝えていなかった。このため、F医師は、同月一六日の往診の際も、Cの状態は入居以来変わらないものと誤解し、仙骨部の褥瘡に関して、被覆材の上から触っただけで、それ以上の確認も、何らの処置もとらなかった。

オ 上記のとおり、被告は、適切な褥瘡管理を行う債務及び必要な診察を受けさせる債務を怠ったものであり、これは、Cに対する債務不履行であるとともに、不法行為に当たる。

(原告ら補助参加人)

ア Cは、平成一八年一月一六日に本件病院に入院した時点で、仙骨部の褥瘡からの細菌感染を原因とする敗血症を発症していた。

イ Cの仙骨部の褥瘡は、本件施設に入居している間に悪化したものであることが明らかである。その理由は、次のとおりである。

(ア) 上記褥瘡は、本件施設への入居前は、一・五cm×二・〇cmと小さかったものが、同月一八日の時点では、二〇cm×二〇cmにまで肥大し、黒色ミイラ化した皮膚におおわれていた。本件病院に入院後わずか二日の間に、ここまでの急激な悪化をするとは考え難く、本件施設に入居していた間に悪化したものとみるのが自然である。

なお、D医師は、同月一六日の時点で上記褥瘡の悪化を認め、そのことを本件施設の職員に指摘している。

(イ) 本件病院への救急搬送直後に撮影された胸腹部のCT画像によれば、Cの仙骨部皮下等には、褥瘡を細菌の感染源とするガス壊疽が生じていることが見て取れ、炎症反応を示すCRPも、基準値の三〇倍以上の顕著な炎症反応を示していた。

(ウ) 皮膚組織は、壊死しただけでは異臭を放つことはなく、壊死の後、腐敗が進むことによって異臭を放つところ、上記褥瘡は、本件病院に入院した時点で既に異臭を放っていた。このことからすると、同時点において、既に悪臭を放つほどに腐敗が進行していたといえる。

(エ) 上記褥瘡は、その形状からして、正方形又は長方形のものが仙骨部を圧迫していたことにより生じたものと考えられる。かかる原因として指摘し得るものは、本件施設において貼布されていた被覆材のデュオアクティブ以外に存しない。

(被告)

ア 本件施設に債務不履行・注意義務違反があったとの主張は争う。

イ Cの仙骨部の褥瘡は、本件施設への仮入居の日である平成一七年一二月二九日の時点では、それほど大きくなく、白くなっている状態であった。

本件施設は、Cが本件施設に入居していた間、dステーションからの指示どおり、三、四日おきに上記褥瘡の被覆材を交換して患部を洗浄し、毎日約二時間おきに体位交換(右側臥位、左側臥位、仰臥位)をするなど、適切な褥瘡管理を行っていた。

平成一八年一月一四日に本件施設の看護師が褥瘡処置を施した時点や、同月一五日の時点においても、仙骨部の褥瘡に何らの異常所見も存せず、同月一六日にF医師がCを診察した際も、上記褥瘡部に悪臭や排出液などの異常はみられなかった。現に、本件病院の同日の診療録にも、褥瘡に関する記載は存在しない。

ウ Cは、本件施設に仮入居する前の平成一七年一二月にも、自宅で発熱し、クーリングや解熱剤の投与で対応した。

Cの、平成一八年一月一〇日から同月一二日にかけての発熱についても、褥瘡の悪化とは関係のない発熱と考えられ、発熱から直ちに入院等の判断に至るものではない。本件施設の従業員は、F医師に連絡を取り、その指示を仰いでいる。

なお、発熱の報告を受けたF医師にしても、特段の容態の悪化がないのに、発熱の報告のみをもって入院すべきとの判断をすることは困難であった。

(2)  被告の債務不履行・注意義務違反とCの死亡との因果関係の有無

(原告ら)

Cが救急車で本件病院に搬送された時点で、仙骨部の褥瘡にはかなりの腐敗が認められ、手に負えない状況であることが確認された。

Cは、被告の債務不履行・注意義務違反による仙骨部の褥瘡の悪化から、敗血症を発症し、死亡するに至った。

(原告ら補助参加人)

ア Cは、仙骨部にできた褥瘡から敗血症、敗血症性ショックに陥り死亡した。

臀部のガス壊疽は、その過程において発症したものと位置づけられる。

イ 本件病院が入院後すぐの外科的処置を差し控えたのは、上記当時、Cが、外科的処置に耐えられるような全身状態になかったからである。

すなわち、外科的処置は、出血、侵襲を伴うため、全身状態不良の患者に対する施行は注意を要するところ、Cは、上記当時、脱水状態にあり、血液検査の結果、顕著な炎症反応を示していた上、敗血症を発症していた。加えて、当日夜半には、血圧が六〇台にまで低下してショック症状を呈し、心電図上も心室期外収縮が散発するなど、ガス壊疽の摘出はおろか、外表部にある褥瘡のデブリドマンさえ行い得ない状態であった。

(被告)

ア Cの死亡の原因は、仙骨部褥瘡に発生したガス壊疽の急激な悪化によるものであり、本件病院へ救急搬送された後、速やかにガス壊疽との診断がされ、これに対する適切な治療が行われていれば、Cは、救命され、少なくとも救命されたであろう高度の蓋然性があった。

したがって、本件施設における介護行為とCの死亡との間に因果関係はない。

Cのガス壊疽が仙骨部の褥瘡が進展したものであることは認める。

イ 本件病院へ救急搬送された後に撮影された胸腹部のCT画像からは、ガス壊疽の発症を診断することは容易であった。

ガス壊疽は、発症後の進行が極めて早く、時間単位で急激に悪化し、速やかに治療がされなければ死に至る疾患である。

その治療の第一は、外科的処置による感染巣の徹底的な切除である。すなわち、ガス壊疽には嫌気性菌が関係していることから、感染巣を切除し、開放することで、嫌気性菌は酸素と接触して死滅する。

しかるに、本件病院のD医師は、CのCT画像の読影を誤ったため、ガス壊疽の疑いを持たず、入院後二日(五〇時間)以上が経過するまで、仙骨部の褥瘡に対するデブリドマン(壊死組織を除去する外科的処置)を行わなかった。かかる処置の遅れは、ガス壊疽の進行が極めて早いことに照らすと、致命的であった。

ウ 原告ら補助参加人は、ガス壊疽であるにもかかわらず、速やかな感染巣の切除を行わないかのごとき主張をするが、感染巣を放置すれば、ガスによる組織圧排、壊死により、患部への血行が阻害されて嫌気的環境を増進し、嫌気性菌が急激に増殖するのであるから、これは、病状を更に悪化させることにほかならない。

(3)  原告らの損害

(原告ら)

Cが死亡したことによる原告らの損害は、次のとおり、原告X1につき三三一六万五八一〇円、原告X2、原告X3及び原告X4につき各一一四三万七八二四円である。

ア Cに発生した損害 三二六二万六九四一円

(ア) 慰謝料 三〇〇〇万円

Cは、介護を受けながら余生を楽しく過ごすため、被告を信頼して入居した本件施設において、その生命を奪われた。その悔しさ、悲しさは計り知れず、これを慰謝するには三〇〇〇万円が相当である。

(イ) 年金の逸失利益 二六二万六九四一円

Cは、死亡当時、年額一四八万一六三六円の年金(厚生年金九四万七二九八円、国民年金五三万四三三八円)を受給していた。Cは、死亡当時満八七歳であり、その余命は、少なくとも四年(八七歳男性の平均余命)はあったと考えられる。したがって、生活費控除率を五〇パーセントとし、四年に対応するライプニッツ係数(三・五四六)を掛け合わせると、Cの死亡による年金の逸失利益は、二六二万六九四一円となる。

(計算式)

一四八万一六三六円×(一-〇・五)×三・五四六=二六二万六九四一円(小数点以下四捨五入)

イ Cの死亡により、原告X1は、Cの損害賠償請求権の二分の一(一六三一万三四六九円)を相続し、原告X2、原告X3及び原告X4は、上記損害賠償請求権の各六分の一(五四三万七八二四円)を相続した。

ウ 原告X1の損害 三三一六万五八一〇円

(ア) Cから相続した損害賠償請求権 一六三一万三四六九円

(イ) 近親者固有の慰謝料 一〇〇〇万円

原告X1は、Cに安心して快適な余生を過ごしてもらえるものと期待して、Cを本件施設に入居させた。しかるに、その期待が裏切られた精神的苦痛を慰謝するには、一〇〇〇万円が相当である。

(ウ) 葬儀費用 三八五万二三四一円

原告X1は、Cの葬儀を主催し、その費用として三八五万二三四一円を支払った。

(エ) 弁護士費用 三〇〇万円

エ 原告X2、原告X3及び原告X4の損害 各一一四三万七八二四円

(ア) Cから相続した損害賠償請求権 各五四三万七八二四円

(イ) 近親者固有の慰謝料 各五〇〇万円

(ウ) 弁護士費用 各一〇〇万円

(被告)

原告らの主張は否認し、争う。

本件は、八七歳という高齢の、重篤な疾患を有し、死亡するわずか四か月前にも最悪の転帰に至る可能性があった患者を、年末年始において家族の負担を軽減するためにと、医療機関ではない本件施設が受け入れた事案である。

損害額の認定に当たっては、上記の点、及び、原告らにおいて、被告が医療機関ではなく、F医師の往診も年明けの一月一六日になることを承知していたこと、本件病院の治療が遅れたことがCの死亡の一因であること等の事情がしん酌されるべきである。

第三当裁判所の判断

一  第二の二の争いのない事実等、証拠<省略>によれば、次の事実を認めることができる。

(1)  Cは、昭和二一年に原告X1と婚姻し、娘一人、息子二人をもうけた。

Cと原告X1は、子供たちが独立してからは、原告X1の肩書住所地において二人で暮らしていた。

Cは、かつて、「e株式会社」という会社を設立し、その代表者を務めていたが、Cの引退後は、原告X3がその跡を継いだ。

(2)  Cは、平成三年以降、糖尿病にり患しており、平成四年ころには大腸がんの手術を受けた。そのほか、遅くとも平成一一年以降、高血圧症、出血性直腸憩室炎、脳梗塞後遺症、肺炎、胆嚢炎、尿路感染症、前立腺肥大、慢性腎不全、高尿酸血症等の既往歴を有し、本件病院等への入退院を繰り返していた。

また、平成一一年九月からは、自宅にいる間、原告ら補助参加人が開設するdステーションからの訪問看護を受け、平成一六年ころからの看護の内容は、症状観察、清潔援助、褥瘡処置、リハビリ、排せつ援助等であった。

Cは、平成一五年二月には、介護保険制度における要介護認定において、要介護四と認定され、その後、要介護五と認定されたこともあったが、平成一七年一月二五日には要介護四と認定されていた(D医師の同年一二月二七日付け主治医意見書に基づき、平成一八年一月には、再度、要介護五と認定された。)。

(3)  Cは、平成一七年八月、肺炎により横浜労災病院に入院し、退院後、入院中の転倒が原因で背部痛を訴えたことから、同年九月七日、本件病院を受診し、腰椎圧迫骨折と診断され、そのまま入院した。

Cは、入院時、尿路感染症にもり患しており、同月一八日には、敗血症の寸前にまで至り、急変時の対応が定められたほどであったが、加療により症状が改善した。その後も、上部消化管からの出血の疑いや胸水の増加があったものの、同年一二月一四日、本件病院を退院した。

退院時のCの状態は、CRP(C反応性蛋白。体内で炎症反応が起きているときに血中に現れる。単位はmg/dlHで、基準値は〇・三)が〇・七六、WBC(白血球数。基準値は三五〇〇から九五〇〇)が九五〇〇であった。

D医師は、同月一二日付け「紹介・診療情報提供書」に、今回の入院時の病状経過を記載するとともに、完全にCRP値及びWBC値を陰性化することは困難と思われる旨記載した。

また、Cは、本件病院を退院する以前に、仙骨部(腰背部)及び両足踵部に、褥瘡(運動低下、知覚障害、骨突出等が原因で、身体の一部に持続的な圧迫が加わることにより、皮下の血流が低下又は停止され、皮膚及び皮下組織が阻血性障害に陥り生じる皮膚潰瘍)を生じており、退院時において、仙骨部の褥瘡(以下「本件褥瘡」という。)の大きさは、直径三cm程度であった。なお、仙骨部は、褥瘡の好発部位である。

(4)  Cは、平成一七年一二月一四日に本件病院を退院後、自宅において、原告X1とdステーションから派遣されるヘルパーによって、二四時間態勢の介護を受けて生活した。医療については、従前からかかりつけであったcクリニックのE医師の診療を受けた。

E医師は、同月一七日の診察で本件褥瘡を確認し、治療薬として、抗生物質であるダラシン錠(一五〇mg)朝夕各一錠と外用感染治療剤であるゲーベンクリームを処方した。

原告X2は、Cが本件病院に入院しているときから、原告X1にCの介護の負担がかかっていると考え、Cの介護施設入所を検討し、同月一三日には、原告X1、原告X2外一名が本件施設を見学した。その後、原告X1は、自宅での介護に不安を持つようになったことから、Cを本件施設に入居させることとした。

退院後のCの状態は、血圧が一三〇から一四〇/七〇台(単位はmmHg)、脈拍が七〇から九〇台、一日当たりの尿量が一八〇〇から一九〇〇mlであった。夜間に、三八℃台の発熱がみられたことがあったが、クーリングによって解熱した。

E医師が同月中に行ったCの血液検査の結果では、CRPは一・八九(同月一九日)、WBCは一〇二〇〇(同月二七日)であった。

E医師は、診療録の同日欄に、「褥瘡は抗生物質にて改善している」と記載している。

(5)  Cは、平成一七年一二月二九日、本件施設に体験入居した。なお、引き続き、平成一八年一月四日に正式入居した。

Cの本件施設への入居に当たり、E医師が本件施設の担当医宛てに作成した平成一七年一二月二八日付け「診療情報提供書」には、次の記載がある。

ア 傷病名 二型糖尿病、脳梗塞後遺症、心室性期外収縮、圧迫骨折、気管支炎、皮膚褥瘡

イ 紹介目的 リハビリ目的

ウ 現在の処方 ダラシン(一五〇)二錠、フランドールテープ一枚/日、タケプロン(一五)一錠、ケーベンクリーム(皮膚)等

これには、cクリニックにおける血液検査の検査結果報告書が添付されていた。

また、dステーションが本件施設宛てに作成した同日付け「看護情報提供書」には、次の記載がある。

ア 現状

(ア) 食事 ミキサー食

(イ) 移動 車いす(介助)

(ウ) 睡眠 良好

(エ) コミュニケーション 良好ないしやや不良(声掛けに対してうなずき、首振り返答有り)

痴呆スケールⅢ

(オ) 処置

① 仙骨部 一・五×二・〇 洗浄後コムフィール貼用(三~四日に一度貼替え)

② 右外果、左外果 洗浄後ネグミンシュガー+ガーゼ

左内果→表皮ハクリ エルタシン+ガーゼ保護

褥瘡はゆっくりゆっくりと改善しています。

処置の変更が必要な時期と判断しますが、ショートステイのため同処置でお願いします。

(カ) 保清 全介助による清拭

(キ) 痛みの訴えを自分から言うことはありません。

イ 今後考えられる問題点

(ア) 病状、環境の変化に伴う精神的不安

(イ) 褥瘡の悪化

(ウ) 誤嚥性肺炎

(6)  Cは、本件施設で、一日のほとんどをベッドに寝た状態で過ごし、体調が良いときには、車いすに移って、食堂で食事をとることなどもあった。排便には、おむつを使用し、排尿にバルーンカテーテルを使用していた。

平成一七年一二月二九日から平成一八年一月一六日までの間、本件施設の介護職員及び看護師は、Cについて、おおむね二時間ごとの体位変換(右側臥位、左側臥位、仰臥位)を行い、E医師から処方されていたダラシン錠(一五〇mg)を朝夕各一錠服用させた。

Cが本件施設に体験入居した時点で、本件褥瘡には、商品名「コムフィール」というハイドロゲル創傷被覆・保護材が貼られていた。

ハイドロゲル創傷被覆・保護材は、皮膚粘着面に配置された親水性コロイド粒子が滲出液を吸収して創傷部に湿潤な状態を作ることにより、組織の再生を促して治療を促進するとともに、外側面のポリウレタンフォームが、防水、外部刺激からのクッション、細菌感染・失禁汚染防止等の役目を果たすものである。

本件施設の看護師は、dステーションの「看護情報提供書」にあるとおり、これを三、四日おきに交換することとし、平成一八年一月四日(以下、日付は特に断らない限り平成一八年のものである。)、本件褥瘡に貼られていたコムフィールをはがして、これと同様のハイドロゲル創傷被覆・保護材である商品名「デュオアクティブ」に貼り替えた。なお、デュオアクティブは、外側面が肌色であり、一枚当たりの大きさが一〇cm×一〇cmであるところ、当日は、これを四分の一(五cm×五cm)程度の大きさに切って、貼り替えに使用した。

前日の同月三日には、E医師が、Cの状態を診るため本件施設を訪れたが、本件褥瘡に悪化がないことを確認した。

本件施設の看護師は、同月八日にも、本件褥瘡に貼られていたデュオアクティブを貼り替えた。その際も、一枚の四分の一(五cm×五cm)程度を貼り替えに使用した。

本件褥瘡は、少なくとも同日ころまでは、悪化している様子はみられなかった。

(7)ア  Cは、一月一〇日午前九時の時点で、体温が三七・五℃に上昇しており、熱感が認められた。本件施設の看護師は、Cに対し、クーリングを行ったが、Cの体温は、同日午後四時の時点では、三八・六℃に上昇した。

本件施設の看護師は、同日午後六時ころ、Cの発熱を、本件施設の協力医療機関であったf診療所の医師に電話で報告し、電話に出た医師から、体温が三八℃以上のときにはロキソニン(解熱鎮痛剤)を投与するようにとの指示を受けた。看護師は、Cに対し、夕食後にロキソニンを投与した(f診療所のF医師は、平成一七年の本件施設の開設当初から、概ね一週間に一回、往診のため本件施設を訪れていた。乙八のうち看護記録の一月一〇日欄には、「F・Dr.TEL報告」との記載がある。しかしながら、証人Fは、同月一二日が相談を受けた最初だと思う、同月一〇日には多分受けていないと供述し、その根拠として、診療録(甲九)に、同月一二日からしか記載がないことを挙げる。甲九には、同月一〇日の記載がないほか、同月一二日の欄に、最初に聴取するはずの、既往歴及びアレルギーの有無の記載があることからすると、証人Fの上記供述は、信用性があるものとみるべきである。したがって、甲九及び証人Fの供述に照らすと、乙八の上記記載のみから、看護師が同月一〇日に「F医師に」電話をしたとまでは認めることができない。)

イ  ロキソニンの投与により、Cの体温は、一月一一日午前一時の時点で三六・九℃、午前六時の時点で三六・六℃と低下した。

しかし、午後になると、午後四時の時点で三七・一℃、午後八時の時点で三八・〇℃と上昇し、翌一二日午前六時には三八・六℃となった。

ウ  本件施設の看護師は、一月一一日午後五時ころ、Cの排便が多量であることを確認し、本件褥瘡を処置した上、デュオアクティブを貼り替えた。その際も、一枚の四分の一(五cm×五cm)程度を貼り替えに使用した。

エ  Cの体温は、一月一二日午前九時四〇分の時点でいったん三七・四℃まで低下した。

しかし、同日午後三時の時点で三九・〇℃、午後五時の時点で三八・九℃と再び上昇した。

本件施設の看護師は、同月一〇日の医師からの指示に基づき、ロキソニン投与を継続していたが、同日午後五時、F医師に電話をかけ、午後六時、F医師と連絡が取れ、F医師から、ロキソニンとフロモックス(抗生物質)を投与するようにとの指示を受けた。

看護師は、Cに対し、ロキソニン及びフロモックスを投与し、その結果、Cの体温は、同日午後八時一五分の時点で三七・〇℃となった。

オ  Cの体温は、一月一三日は、三六℃台で安定し、その後一六日まで、一時三七℃台前半になったことはあったものの、大半は三六℃台を保っていた。

カ  一方、Cの尿量は、一月一二日以降、一日当たり五〇〇ml前後に減少した。本件施設の看護師は、Cに対し、頻回にミルキングを行うとともに、水分補給を促したが、状態は改善しなかった。

(8)  一月一四日午前一〇時ころ、本件施設の看護師は、Cの仙骨部に便汚染を認め、仙骨部を洗浄した後、本件褥瘡に貼られていたデュオアクティブを貼り替えた。

上記処置に関し、本件施設の看護記録には、「デュオアクティブ貼付す+テガダーム(一/四を一枚使用)」との記載がある。

本件施設の看護記録には、同月一五日欄に「褥瘡に関しては、夜勤ケアより、便汚染もなく変化ないと報告受ける」との記載もある。

(9)ア  一月一六日、F医師は、往診のため、本件施設を訪れ、午前一〇時三〇分ころ、Cを診察した。

F医師は、概ね一週間に一回、往診のため本件施設を訪れ、各入居者について、二週間に一回診察を行っていた。年末年始の休診日を挟み、平成一八年の年明け最初の往診は、一月一六日と予定されており、本件施設の職員は、原告らに対し、Cの入居前に、施設協力医の年明けの往診は同日となることを伝えていた。

往診前に行われたバイタルチェックによれば、Cの状態は、血圧が一三五/八二、脈拍が七九、体温が三六・二℃であった。また、本件施設の看護師は、F医師に対し、Cの尿量が減少していることを報告した。

イ  F医師は、Cのバルーンを交換し、踵の褥瘡の処置をし、足底を洗浄した。

本件褥瘡には、デュオアクティブ一枚が、そのままの大きさ(一〇cm×一〇cm)で貼られていた。F医師は、「デュオアクティブのようなドレッシング材は、患部に特に異常がない限り、一週間くらいははがさないでおく治療法である」と考えたことから、本件褥瘡に貼られたデュオアクティブをはがさずに、その上から本件褥瘡を観察し、特に異常はないと判断した。

(証人Gは、本件褥瘡には、Cが本件病院に救急搬送される直前まで、一枚の四分の一(五cm×五cm)程度に切ったデュオアクティブが貼られていた旨供述する。しかしながら、デュオアクティブの貼り替えは看護師が行うものであって、介護職員の証人Gは、これを直接担当していたものではない。証人Fは、一月一六日の往診の時点で、本件褥瘡には、一枚そのままの大きさのデュオアクティブが貼られており、切って使っていたということはない旨明確に供述しており、デュオアクティブが最後に貼り替えられた同月一四日の看護記録の記載は、「デュオアクティブ一/四枚使用」との明確な記載ではない。これらのことに照らすと、証人Gの前掲供述は採用することはできず、証人Fの供述どおり認定すべきである。)

ウ  同日午後二時五〇分ころ、原告X1及び原告X4が本件施設を訪れてCと面会した。

原告X1は、Cの状態を見て、「元気がなく、状態も悪化しているような気がする」などと述べた。

これに対し、F医師は、「本件施設では医療的なことはできず、Cの状態を改善するためには、病院に行く必要がある」などと答えた。

このため、原告X1及び原告X4は、Cを本件病院に連れて行くこととし、Cは、救急車で本件病院に搬送された。

エ  F医師は、本件病院宛てに送った同日付け「診療情報提供書」には、紹介目的を「脱水症疑い」、主訴及び現病名を「activity(活動性)低下」、cクリニックでの処方などの記載がある。

(10)ア  Cは、一月一六日午後四時三五分ころ、本件病院の救急外来を受診し、D医師が診察を担当した。

午後四時四二分時点のCの状態は、血圧が九九/五二、脈拍が八三、体温が三六・〇℃であり、声掛けに対する反応は乏しかった。

午後五時ころ、Cに対するCT胸腹部単純撮影が行われ、D医師は、午後五時三二分ころ、本件病院の画像診断部のH医師(以下「H医師」という。)から、上記CT画像(以下「本件CT画像」という。)に関し、次の内容の報告を受けた。

① 両側に胸水の貯留を認める、

② 左下葉の背側肺野に浸潤影が、右下葉にスリガラス影が見られ、肺炎が疑われる、

③ その他の肺野縦隔に特記すべき異常はみられない、

④ 肝辺縁は鈍化し、表面に軽度の凹凸不整がみられ、左葉及び尾状葉が腫大し、肝硬変症等の慢性肝疾患が疑われる、単純CT上は肝実質に局所的な異常はみられない、

⑤ 胆嚢内腔に小さな結石が数個認められる、胆道系の拡張はない、

⑥ 脾臓のサイズは正常上限であり、異常は認めない、左腎臓に数個の嚢胞がみられる、右腎臓は正常に保たれている、

⑦ 上行結腸に数個の憩室を認める、その他腹腔内に特記すべき異常はみられない。

もっとも、本件CT画像によれば、Cの臀部皮下の軟部組織内部には、仙骨上部レベルで正中から左側にかけて左右方向の広がりで約一二cmに及ぶガス像がみられ、また、左臀部にも、六cmを超すガス像がみられた。これは、ガス壊疽(壊疽とは、壊死した組織が腐敗性変化を起こした状態をいい、ガス壊疽は、細菌感染による組織の分解(壊死)過程で創部にガスが生じた病態である。)と認められ、Cの仙骨部皮下及び左臀筋には、広範な壊死性軟部組織感染症が生じていた。

また、同じ午後五時三二分ころ、Cの血液検査の結果が報告され、CRPが二七・二二、WBCが二四四〇〇であった。

H医師の報告及び血液検査の結果から、D医師は、Cにつき、敗血症(循環血液を介して細菌やその毒素が広がることによる全身性炎症反応)を疑い、Cに対し、抗生物質や免疫グロブリン製剤の投与等の感染症の治療を実施することとした。

D医師が、本件褥瘡に貼られたデュオアクティブをはがしてみると、悪臭があり、汚染が著明であった。このため、D医師は、本件褥瘡の処置をした(看護師作成の「救急外来患者記録」には、「仙骨部五×五cm程度のデクビ(褥瘡)あり」との記載がある。)。

D医師は、午後五時四〇分ころ、Cの救急搬送に同行した本件施設の看護師に対し、CRP等の値を示して、「肺炎又は褥瘡の悪化から来る炎症反応と考えられる、脱水傾向もみられる」などとCの病状を説明した。

イ  Cは、同日午後六時一五分ころ、本件病院に入院した。この時の状態は、血圧が一〇四/六〇、脈拍が八四、体温が三六・九℃であった。

入院時、褥瘡からの悪臭が強く、呼吸問題が一番の問題とされていた。

ウ  同日午後一〇時ころ、看護師の観察によれば、本件褥瘡からの滲出液と出血がオムツまで汚染していた。仙骨部には黒色化した皮膚があり、その周囲の皮下がぶよぶよしている状態であった。肛門部には軟便が付着し、更に便がみえたため、看護師は、摘便し、本件褥瘡を洗浄した上、ガーゼを当てた。

午後一〇時三〇分時点のCの状態は、血圧が五八/二八(再検査でも六四/三〇)、脈拍が八六であったが、意識はしっかりしていた。看護師は、血圧低下の原因を、「摘便でかなり多量の排便による腹圧の低下と体位変換をしたためか」と看護記録に記載している。

しかし、午後一〇時四五分ころから、Cは、血圧が四六/二〇と更に低下し、PVC(心室性期外収縮)を散発するようになった。

(11)ア  一月一六日夜の当直のI医師(以下「I医師」という。)は、血圧の低下を聞き、原告らに連絡するとともに、採血をし、オリベスKを輸液した。

イ  血液検査の結果は、CRPが二六・〇四、WBCが二五八〇〇であった。

I医師は、一月一七日午前一時ころ、来院した原告らに対し、「Cは、昼間の状態と違い、血圧の低下に加え、ショートラン(PVCが連続して起こること)も出ており、かなり危険な状態である」、「今晩心肺停止する可能性もある」などとCの病状を説明し、心肺停止時の対応につき相談した。

ウ  Cは、同日朝の血液検査では、CRPが二八・九二、WBCが四〇二〇〇であった。

エ  同日午後一時ころ、Cは、病室を移ったが、看護師が声をかけても返答せず、開眼もしない状態であった。

午後一時三〇分、本件褥瘡からは腐敗臭があり、看護師が観察すると、四角に圧迫痕があった。本件褥瘡部分は、一部を開放していたので、これを軽く圧迫すると、便臭がし、腐敗汁が多量に排出され、これを処置したガーゼは二〇〇gになった。

看護師は、この内容を看護師長に報告し、午前一時四〇分ころ、本件褥瘡を洗浄した上、ガーゼで保護した。

D医師は、上記時刻ころ、本件褥瘡を観察し、褥瘡感染から敗血症への進展を疑った。さらに、診療録には、午後二時五七分付けで、「仙骨部中心に二〇cm程度の褥瘡あり。正中から右側に表皮が完全に黒色化。直径七cmくらい。圧迫にて血液様の暗赤色の排液あり。深部がやわらかく、スポット化している可能性がある」と記載した。

D医師は、切開術の適応について専門の医師と相談することとし、看護師に対しては、褥瘡の経過をデジタルカメラで撮影して記録するよう指示した。

オ  同日午後三時三八分ころ、本件褥瘡から、約二〇〇gの腐敗臭を伴う血性の排液があった。

D医師は、循環血液量を確保するため、Cに対し、デキストラン二五〇mlを補液した。

カ  D医師は、同日午後六時三六分ころ、原告X3に対し、「Cは、褥瘡内部が腐敗しており、感染が起きている、細菌感染の巣窟となっており、血液中に細菌が侵入した敗血症の状態と考えられ、重篤である」、「皮膚の表面は黒く変色しているが、内部が腐敗を起こしていて、組織を除去しないと感染源を除去できない、外科的処置が可能か外科に相談するが、処置に伴い出血等が生じ、体力が持たない可能性もあり、外科的処置に全身状態が耐えられるかも含めて検討する」、「退院時にはなかった巨大な褥瘡だったので、施設での管理が悪かったと考えられる」などとCの病状を説明した。

D医師は、本件施設の職員に対しても、「Cの敗血症の原因は肺炎ではなく、褥瘡からの細菌感染が悪化したことによる以外考えにくい」旨説明した。

(12)ア  一月一八日午前七時時点のCの状態は、血圧が一〇六/五一、脈拍が八三、体温が三七・一℃であった。

D医師は、同日午前八時三八分ころ、整形外科のJ医師(以下「J医師」という。)に、Cに対する褥瘡除去の手術適応について相談した。その結果、J医師の予定された手術の終了後、本件褥瘡のデブリドマン(壊死組織を切除することで、他の組織への影響を防ぐ外科的処置)を行うこととなった。

イ  同日撮影された本件褥瘡の写真によれば、本件褥瘡は、正方形を崩したような形をしており、すなわち、上辺(頭側)は直線状で、その左端、右端共にほぼ直角に折れ曲がっており、大きさは、約一二cm×約一二cm(証人Dは、診療録に記載された「一五cm×一五cm」というのが、D医師の目測による推定値であると供述している。)、中央部を中心に、黒色壊死した皮膚が表面に付着している状態であった。

ウ  J医師は、同日午後七時一五分ころ、本件褥瘡のデブリドマンを実施し、壊死した皮膚を切除した箇所には、ヨードホルムガーゼを詰めて保護した。

上記処置に先立ち行われたバイタルチェックによれば、同時刻ころのCの状態は、血圧が一一六/四八、脈拍が九七、体温が三六・五℃であった。

エ  同日午後九時ころ、本件褥瘡から淡血性の滲出液が認められたため、看護師は、洗浄の上、ガーゼを交換した。

(13)ア  一月一九日午前六時ころのCの状態は、血圧が一二一/七二、脈拍が九七、体温が三八・二℃であった。本件褥瘡からは、淡血性又は血性の滲出液が認められ、悪臭が著明であった。

イ  J医師は、同日午後一時ころ、再度、本件褥瘡のデブリドマンを実施した。J医師は、創部がかなり汚く、腐敗臭もあるため、まだしばらくはデブリドマンが必要であると判断した。

同日撮影された本件褥瘡の写真によれば、本件褥瘡は、デブリドマンにより表面に付着した黒色壊死した皮膚が取り除かれ、皮下筋膜の露出をみたほかは、同月一八日とほぼ同様の状態であった。

ウ  同日午後五時三〇分ころ、本件褥瘡から滲出液が認められたため、看護師は、洗浄の上、ガーゼを交換した。

(14)ア  一月二〇日午前五時ころ、本件褥瘡から多量の滲出液が認められたため、看護師は、洗浄の上、ガーゼを交換した。

午前七時時点のCの状態は、血圧が一二四/五二、脈拍が九〇、体温が三七・三℃であった。

イ  J医師は、同日午後二時三〇分ころ、本件褥瘡のデブリドマンを実施した。右腰部の二時から四時の方向に一〇cm以上のポケットがあり、膿が多量に排出された。左臀部の方向にもポケットがあった。J医師は、看護師に対し、日に日によくはなっているが、毎日処置が必要である旨話した。

同日撮影された本件褥瘡の写真においても、本件褥瘡は、壊死組織が更に取り除かれたほかは、同月一九日とほぼ同様の状態であった。

ウ  Cは、同日午後七時の時点で、血圧が一六八/六四、脈拍が一〇八、体温が三八・六℃であったが、声をかけても全く反応がなく、深くて困難な呼吸が見受けられた。

(15)  Cは、一月二〇日午後一一時ころから、脈拍が徐々に低下し始めた。

同月二一日午前零時ころからは、血圧が低下し始めるとともに、下顎呼吸(瀕死時の患者にみられる、下顎だけを動かすあえぐような呼吸)をするなど、呼吸状態の悪化が認められた。

その後、Cは、午前三時一二分、死亡が確認された。

死亡の直近に行われた血液検査の結果は、CRPが一八・六六、WBCが二六四〇〇であった。

(16)  Cの遺体は、原告らの希望により、一月二一日、学校法人昭和大学藤が丘病院において、同病院のK医師(以下「K医師」という。)により、病理解剖された。

上記剖検に係るK医師の意見は次のとおりである。

ア 病理診断及びその理由

仙骨部褥瘡、敗血症の疑い

仙骨部に二〇×二〇×三~四cm大で骨膜が見えるほどの深い褥瘡がある。「敗血症の疑い」としたのは、いずれの臓器にも好中球浸潤がほとんどなく、全身感染症を来していた所見が得られないためである。

イ 臨床的に血液培養から菌が検出されているので敗血症の状態は確定的だが、剖検で敗血症を示唆する臓器への好中球浸潤はなく、各臓器のいずれかに感染を起こした所見はない。したがって、褥瘡が感染巣と考えるのが妥当と思われる。

各臓器に好中球浸潤がないことからすると、感染症に対する治療は効いていたと思われる。

(17) D医師は、一月一六日及び同月一七日にCの静脈血から採取した試料並びに同日に本件褥瘡から採取した試料について、培養同定検査を依頼していたところ、同月二六日までに、いずれの試料からも、「Enterococcus faecalis」及び「Enter-ocossus avium」という二種類の腸球菌が検出されたとの報告があった。

腸球菌は、腸管内に常在する連鎖球菌であり、糞便から分離されて感染症の原因となることがある。

二  争点(1)(Cの褥瘡の悪化に関する被告の債務不履行・注意義務違反の有無)について

(1)  一で認定したとおり、本件褥瘡は、Cが本件施設に入居する以前は、平成一七年一二月一四日(本件病院を退院した日)の時点で、直径三cm程度の大きさ、同月二八日の時点で、一・五cm×二・〇cm程度の大きさであり、抗生物質の投与により徐々に改善しつつあったものが、平成一八年一月一八日の時点においては、大きさが約一二cm×約一二cmにまで拡大し、黒色壊死した皮膚に表面を覆われ、腐敗臭を放ち、血性又は淡血性の滲出液を排出するまでに悪化していた。なお、同月八日ころまでは、本件褥瘡は悪化している様子はみられなかった。

まず、このような本件褥瘡の悪化を来した時期について検討すると、Cは、同月一六日、本件病院に救急搬送された直後に撮影された本件CT画像によれば、仙骨部皮下に少なくとも一二cmにわたるガス壊疽を、左臀筋に少なくとも六cmにわたるガス壊疽を生じており、これらの箇所に、細菌感染による組織の壊死を来していた。

また、細菌感染の指標となるCRP及びWBCは、褥瘡の細菌感染の判定にも用いられるところ、Cのこれらの検査数値は、本件施設に入居する前は、CRPが一・八九、WBCが一〇二〇〇と、基準値をやや上回る程度であったものが、本件病院に救急搬送された直後の時点では、CRPが二七・二二、WBCが二四四〇〇と、CRPにおいて約九〇倍、WBCにおいて少なくとも約三倍も基準値を上回り、顕著な炎症反応を示していた。

加えて、一般に、褥瘡が悪臭を伴う滲出液を生ずる場合、細菌感染を疑うべきとされているところ、本件褥瘡は、本件病院に救急搬送された時点において、強い悪臭を放ち、貼られたデュオアクティブは滲出液により著明に汚染されていた。そして、本件病院の看護師は、救急搬送された当日の午後一〇時には、仙骨部に黒色化した皮膚があり、その周囲の皮下がぶよぶよしていることを確認している。

なお、D医師は、本件施設の看護師に対し、上記当日に、「肺炎又は褥瘡の悪化から来る炎症反応」とCの病状を話している。

上記の各点及び一で認定した事実によれば、本件褥瘡は、遅くともCが本件病院に救急搬送された時点で、表面の大きさが約一二cm×約一二cmまで拡大していたかはともかく、一・五cm×二・〇cm程度の大きさよりは倍以上に拡大し、その内部においては、同月一八日時点の状態又はこれに準じる状態にまで拡大、悪化し、細菌感染を起こしていたものと認めるのが相当である(証人Dは、Cが本件病院に救急搬送された時点において、本件褥瘡の大きさは全体では目視で一五cm×一五cm程度あったと供述する。しかしながら、これを裏付ける診療録又は看護記録の記載はなく、写真もない以上、同月一七日以降の診療録等の記載にも照らすと、これを直ちに採用することはできないといわざるを得ない。)。

(2)  被告は、本件褥瘡は、Cが本件病院に救急搬送される以前には、何らの異常所見もみられなかった旨主張する。

しかしながら、① 乙八(本件施設の看護記録)の平成一八年一月一五日欄に、「褥瘡に関しては、夜勤ケアより、……変化ないと報告受ける」との記載があるとしても、これは、本件施設の看護師が、介護職員から聞いたことを記載したものにすぎず、その内容も、極めて概括的で、本件褥瘡の具体的な状態を表すものではないから、これをもって、異常所見がないことの証拠ということはできない。

② 証人Fは、同月一六日にCを往診した時点では、本件褥瘡に悪臭や滲出液などの異常は認められなかった旨供述するが、一で認定したとおり、F医師は、本件褥瘡を、デュオアクティブの上から観察したにとどまる。デュオアクティブは、外側面が肌色であって、その上から患部を直接観察することはできない(乙一三(褥瘡に関する文献)にも、「ドレッシング材を貼付することで褥瘡を直接観察できなくなる」との記載がある。)ことに照らすと、同医師が、同日時点の本件褥瘡の状態を正確に把握していたかについては疑問が残る。しかも、同月四日の時点では、五cm×五cm程度に切ったデュオアクティブを貼っていたのに、同月一六日の時点では一〇cm×一〇cmのデュオアクティブが貼られていたのであるから、なおさらである。むしろ、本来は、このような大きさの変更が問題だったのである(証人Gの、デュオアクティブの大きさに関する供述を採用することができないことは、一で述べたとおりである。)。

③ 本件病院の同日の診療録に本件褥瘡の状態に関する記載がない点はそのとおりであるが、救急外来患者記録や病棟の看護記録には記載があること、D医師が本件施設の看護師に対し褥瘡の悪化を指摘していることからすると、上記の点が本件褥瘡の悪化を否定する根拠とはならない。

そのほか、(1)の認定を左右するに足りる証拠はない。

(3)  そこで、本件褥瘡の悪化に関して、本件施設の債務不履行・注意義務違反があるかを検討する。

本件施設は、介護付き老人ホームとして、入居契約及び特定施設入所者生活介護利用契約に基づき、Cに対し、介護、健康管理、治療への協力等のサービスを提供する義務を負っていた。

ところで、一でみたとおり、褥瘡は、身体の一部に持続的な圧迫が加わることにより、皮下の血流が阻害されて生じる皮膚潰瘍であるが、Cは、本件施設への入居当時、八七歳と高齢であり、一般に、高齢者は、加齢による乾燥等の皮膚変化や、創傷治癒能力の低下のため、褥瘡を生じやすいとされている。しかも、Cは、一日のほとんどをベッドに寝た状態で過ごし、移動、食事、衣服の着脱、清拭等の日常生活全般に介助を要するというように、運動量が著しく低下しており、自発的な体位変換による除圧が困難な状態であった。また、糖尿病にり患していたため、血管が閉塞しやすい傾向にあり、血流が阻害されやすい状態であった(糖尿病が褥瘡を生じやすい要因であることにつき、乙一〇)。このように、Cは、もともと褥瘡を生じやすく、また、褥瘡が治りにくい要因を有していたということができる。

そして、本件施設は、Cの入居に当たっては、E医師からの診療情報提供及びdステーションからの看護情報提供を受け、Cの心身の状態並びに本件褥瘡の存在及びその悪化に注意を要するとの情報を把握していた。

そうすると、本件施設は、上記のサービス提供義務の具体的内容として、Cにつき、二時間ごとの体位変換による除圧、患部の洗浄等による清潔の保持その他の適切な褥瘡管理を行い、本件褥瘡を悪化させないよう注意すべき義務を負っていたというべきである。

しかるに、(1)でみたとおり、本件褥瘡は、平成一八年一月八日ころ以降、Cが本件病院へ救急搬送された同月一六日までの間に、拡大、悪化し、細菌感染を起こした。

一(17)の事実によれば、本件褥瘡が感染し、敗血症を引き起こした原因菌は、腸管内に常在し、糞便から分離されて感染症の原因となることがある腸球菌であったと考えられる。Cは、排便に関しておむつを使用していたが、本件施設への入居中、一月一一日と同月一四日には、仙骨部等に便汚染が認められたことがあった。なお、患部の便汚染は、便の成分によりスキンバリアが破壊されるため、炎症、びらん等を引き起こし、褥瘡自体の悪化にもつながりやすいものである。

また、一で認定したとおり、本件褥瘡には、本件施設の看護師が最後にデュオアクティブを貼り替えた一月一四日午前一〇時以降、デュオアクティブ一枚が、そのままの大きさ(一〇cm×一〇cm)で貼られていた。その前にデュオアクティブを貼り替えた同月一一日の時点では、一枚の四分の一(五cm×五cm)程度を使用していたことからすると、本件褥瘡が、同日から同月一四日にかけて、拡大、悪化したことが推認される。

この点、デュオアクティブの医薬品添付文書には、使用上の注意として、「創に臨床的感染が認められた場合には、原則として使用を中止し、適切な治療を行うこと。」、「皮膚障害と思われる症状が現れた場合には、使用を中止し、適切な治療を行う。」と記載されている。しかしながら、上記のとおり、本件施設の看護師は、デュオアクティブの使用を続け、Cの本件褥瘡を医師に診せることをしなかった。

以上によれば、本件施設の、Cに対する、褥瘡の清潔の保持には不十分な点があったといわざるを得ない。

また、本件施設は、Cを速やかに医師に受診させる等の義務も尽くさなかった。

確かに、本件施設では、本件褥瘡に関し、おおむね二時間ごとの体位交換を行い、ダラシン錠を服用させ、患部の洗浄、指示されたとおりの三、四日おきのデュオアクティブの交換等の処置を行っていた(E医師から褥瘡の治療薬として処方されていたケーベンクリームを患部に塗布していたことを認めるに足りる証拠はない。)。しかしながら、本件褥瘡が、遅くとも一月一一日ころ以降、拡大、悪化し始めてからの対応として、上記処置等のみでは足りないというべきである。

したがって、被告には、Cに対する適切な褥瘡管理を行い、本件褥瘡を悪化させないよう注意すべき義務の債務不履行及び注意義務違反があったと認めることができる。

上記の限度で、争点(1)の原告らの主張には理由がある。

三  争点(2)(被告の債務不履行・注意義務違反とCの死亡との因果関係の有無)について

(1)  一で認定した事実及びCの死亡診断書の記載(第二の二(7))によれば、Cは、本件褥瘡からの細菌感染が原因で敗血症を発症し、それにより全身状態の悪化を来し、死亡したと認めることができる。

被告は、Cの死亡の原因はガス壊疽の急激な悪化によると主張し、Cの仙骨部皮下及び左臀筋に広範なガス壊疽が生じていたことは、一で認定したとおりである。

しかしながら、Cが敗血症を発症したことは、一でみた剖検の結果及び血液等の培養同定検査の結果や血液検査のうち炎症症状を示す数値から疑いのないところであって、本件病院入院後の経過からすれば、敗血症が全身状態の悪化につながったものと優に認めることができる。

ガス壊疽は、被告も認めるとおり、本件褥瘡から進展したものであって、これを、敗血症とは別個のCの死亡の原因と解することはできない。

そうすると、二で認定したとおり、敗血症を発症するほどの本件褥瘡の悪化(本件褥瘡の細菌感染)は、本件施設の債務不履行・注意義務違反により生じたものであるから、Cの死亡は、本件施設の債務不履行・注意義務違反により生じたと認めることができる。

(2)  被告は、Cが本件病院へ救急搬送された後、速やかにガス壊疽との診断がされ、これに対する適切な治療が行われていれば、救命され、又は救命されたであろう高度の蓋然性があったと主張して、本件施設における介護行為とCの死亡との間の因果関係を否認する。

しかしながら、本件病院に救急搬送された時点のCの状態(敗血症を発症し、ガス壊疽まで発症している状態)からすれば、何もしなければCが死亡に至ること、すなわち、本件施設の介護過誤とCの死亡との間に相当因果関係があったことは、(1)のとおりである。

そうであれば、仮に、ガス壊疽に対する適切な治療がされていれば、Cの救命の可能性があったとしても、上記相当因果関係が否定されたり、原告らに対する被告の責任が減免されたりするものではない(なお、最高裁平成一三年三月一三日判決・民集五五巻二号三二八頁参照)。

被告の上記主張は、失当というほかない。

以上のとおり、争点(2)の原告らの主張は理由がある。

四  争点(3)(原告らの損害)について

(1)  Cの慰謝料

Cが、本件当時、八七歳と高齢であり、日常生活全般に介助を要する状態にあったこと、肺炎等の重篤な既往歴を有し、本件施設に入居する約三か月前にも、重度の感染症により敗血症の寸前にまで至っていたこと、本件褥瘡自体は、本件施設に入居する前から生じていたことに加え、二(3)でみたとおり、Cが、褥瘡が治りにくい要因を有していたこと等、本件にあらわれた諸事情に鑑みると、Cが被った精神的苦痛に対する慰謝料は、一二〇〇万円と認めるのが相当である。

(2)  年金の逸失利益

証拠<省略>によれば、Cは、死亡する前年の平成一七年には、厚生年金九四万七二九八円、国民年金五三万四三三八円の合計一四八万一六三六円の年金を受給したことを認めることができる。ここから、生活費として六〇%を控除し(年金収入は、その性質上、生活費として費消する割合が高いと考えられるので、生活費控除率は六〇%とするのが相当である。)、これに、八七歳男性の平均余命である四年に対応するライプニッツ係数三・五四五九を乗ずると、同人の年金の逸失利益は、二一〇万一四九三円となる。

(計算式)

一四八万一六三六円×(一-〇・六)×三・五四五九=二一〇万一四九三円(小数点以下切り捨て)

(3)  原告X1は、Cの死亡により、同人の損害賠償請求権の二分の一(七〇五万〇七四六円)を相続し、原告X2、原告X3及び原告X4は、Cの死亡により、同人の損害賠償請求権の各六分の一(二三五万〇二四八円。小数点以下切り捨て。)を相続した。

(4)  原告ら固有の慰謝料

原告らが被った精神的苦痛に対する慰謝料は、各一〇〇万円とするのが相当である。

(5)  原告X1の葬儀費用

証拠<省略>によれば、原告X1は、Cの葬儀費用として三八五万二三四一円を支出したことを認めることができ、このうち一五〇万円を被告に負担させるのが相当である。

(6)  以上の合計額は、原告X1につき九五五万〇七四六円、原告X2、原告X3及び原告X4につき各三三五万〇二四八円となる。

(7)  弁護士費用

本件の事案の内容及び認容額に照らし、被告に負担させるべき弁護士費用は、原告X1につき九五万円、原告X2、原告X3及び原告X4につき各三五万円とするのが相当である。

(8)  以上によれば、被告が原告らに対し賠償すべき損害額の合計は、原告X1につき一〇五〇万〇七四六円、原告X2、原告X3及び原告X4につき各三七〇万〇二四八円となる。

争点(3)に対する原告らの主張は、上記の限度で理由がある。

五  よって、原告らの請求は、原告X1につき一〇五〇万〇七四六円、原告X2、原告X3及び原告X4につき各三七〇万〇二四八円の損害賠償及びこれに対する遅延損害金の限度で理由があり、その余はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 江口とし子 裁判官 杉本敏彦 武藤裕一)

別紙一 入居経過一覧表<省略>

別紙二 診療経過一覧表<省略>

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