横浜地方裁判所 平成19年(ワ)2691号 判決 2009年7月23日
原告
X1<他1名>
上記両名訴訟代理人弁護士
福田護
同
小宮玲子
同
髙橋瑞穗
被告
株式会社学樹社
上記代表者代表取締役
A
上記訴訟代理人弁護士
清井礼司
主文
一 被告は、原告X1に対し、二五二万六二〇三円及びこれに対する平成一九年六月一日から支払済みに至るまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。
二 被告は、原告X1に対し、二五二万六二〇三円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みに至るまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
三 被告は、原告X2に対し、二四〇万三五九〇円及びこれに対する平成一九年四月一日から支払済みに至るまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。
四 被告は、原告X2に対し、二四〇万三五九〇円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みに至るまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
五 訴訟費用は全部被告の負担とする。
六 この判決は、第一項及び第三項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
主文同旨
第二事案の概要
本件は、被告の経営する受験予備校に勤務していた原告らが、平成一七年二月分から平成一九年二月分までの時間外手当、深夜時間外手当及び休日手当(以下「時間外手当等」という。)並びにこれらに対する支払日の後の日から支払済みまで賃金の支払の確保等に関する法律六条による年一四・六パーセントの割合による遅延利息の支払を求めるとともに、労働基準法一一四条に基づく付加金及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めたのに対し、被告が、原告らは労働基準法四一条二号の管理監督者に該当するなどと主張して、その支払義務を争っている事案である。
一 前提事実(証拠によって認定した事実は各項末尾のかっこ内に認定に供した証拠を摘示し、その記載のない事実は当事者間に争いのない事実である。)
(1) 被告は、進学教室の経営及び運営等を目的として昭和六一年に設立された株式会社で、小学生・中学生・高校生を対象とする受験予備校を東急田園都市線、横浜線沿線に開設している。
(2) 原告X1(以下「原告X1」という。)は、平成六年一〇月一日に被告との間で非常勤講師として雇用契約を締結し、平成八年三月一日に正社員となった後、平成一五年四月一日に中川校校長となり、同日サブマネージャー(SB)に、平成一六年四月一日マネージャー(KM)にそれぞれ昇格し、平成一九年四月末日に退職した。
原告X2(以下「原告X2」という。)は、平成一五年三月一日に被告との間で契約社員(準専任講師)として雇用契約を締結し、平成一六年四月一日に正社員となった後、平成一七年四月一日にこどもの国校主任講師となり、サブマネージャー(SB)に昇格し、さらに、平成一八年四月一日にこどもの国校校長代理となり、マネージャー(M)に昇格し、平成一九年二月末日に退職した。
(3) 被告における賃金には、「基準賃金」として基本給(本給・職能給・勤続給)、管理職手当、家族手当、住宅手当が、「基準外賃金」として時間外勤務手当、深夜時間勤務手当、休日勤務手当、特殊勤務手当があり、賃金の支払時期は、毎月末締め翌月末払いである。また、原告らの月間所定労働時間数は、一六九・三時間である。
原告X1は、被告から、平成一七年二月から平成一九年二月までの間、毎月、基本給として二九万四五五〇円、住宅手当として一万六〇〇〇円、役職手当として五万円を受け取っていた。
原告X2は、被告から、平成一七年二月から平成一九年二月までの間、毎月、基本給として二一万九二〇〇円(平成一七年二月)、二七万四〇〇〇円(同年三月から平成一八年二月までの間)、二九万四五五〇円(同年三月から平成一九年二月までの間)、役職手当として一万円(平成一七年二月)、三万円(同年三月から平成一八年二月までの間)、五万円(同年三月から平成一九年二月までの間)、教専手当(兼務手当)として六〇〇〇円(平成一七年二月から平成一八年二月までの間)を受け取っていた。
(4) 平成一七年二月から平成一九年二月までの間、原告X1は別紙一のとおり、原告X2は別紙二のとおり時間外労働、深夜労働及び休日労働をした。原告らが、同月、被告に対し、平成一七年二月以降の時間外手当等の支払を求めたところ、被告は、同時間外手当等として、平成一九年六月二九日、原告X1に対し二万五三七八円、原告X2に対し七万七一三三円をそれぞれ支払ったが、その余の支払をしない。
二 争点
(1) 原告X1につき、住宅手当を割増賃金の算定の基礎となる賃金に算入すべきか。
(2) 原告らは労働基準法四一条二号の管理監督者に該当するか。
三 当事者の主張
(1) 争点(1)について
ア 原告X1の主張
労働基準法三七条四項、労働基準法施行規則二一条三号により割増賃金の算定の基礎となる賃金から除外される住宅手当とは、「住宅に要する費用に応じて算定される手当をいう」のであり、住宅の形態(賃借、持ち家等)ごとに一律定額で支給されるものや、扶養家族の有無等住宅以外の要素に応じて定率又は定額で支給されるものなどは、除外される住宅手当に当たらない。
被告における住宅手当は、賃借と持ち家とを問わず、扶養家族の有無で一律定額で定められていることから、上記除外される住宅手当に当たらず、原告X1につき、住宅手当を割増賃金の算定の基礎となる賃金に算入すべきである。
イ 被告の主張
原告X1につき、住宅手当を割増賃金の算定の基礎となる賃金に算入すべきではない。
(2) 争点(2)について
ア 被告の主張
原告X1は、平成一五年四月から校長という管理監督者の地位にあり、基本給のポイントが高く、役職手当がマネージャー(M1)で五万円となっていること、原告X2は、平成一七年三月一日から平成一八年二月までサブマネージャー(SB―1)職として校長補佐(対外的には主任講師)、同年三月から平成一九年二月までは、校長代理、個別指導部門の責任者として、他の講師職員に対する管理監督者の地位にあり、基本給のポイントが上がり、役職手当も一万円から五万円に上がっていることから、原告らはいずれも労働基準法四一条二号の「管理監督者」に該当する。
よって、被告は、原告X1に対し、平成一七年三月から平成一九年二月までの間の深夜割増手当六万八七八二円、原告X2に対し、平成一七年三月から平成一八年二月までの間の深夜割増手当七万五一六八円、同年三月から平成一九年二月までの間の深夜割増手当八万九二二五円の合計一六万四三九三円の限度で支払義務があるほかは、時間外手当等の支払義務はない。
イ 原告らの主張
「監督若しくは管理の地位にある者」(労働基準法四一条二号)とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者をいい、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきである。
原告X1は、中川校校長であったが、被告における決定事項は原則としてすべて本部で行われ、被告代表者が決裁・決定しており、校長が本部及び被告代表者の決裁なしに各校としての方針等を決定することはないこと、出退勤等、労働時間に関する自由はないこと、年収が四〇〇万円台前半で管理監督者としての処遇がされていたとは到底いえないことから、原告X1が管理監督者に該当しないことは明らかである。
原告X2は、校長代理にすぎず、校長会議へ出席したこともないこと、個別指導プロジェクトに深く関与していたことをもって管理監督者性を基礎付けるものではないこと、出退勤等、労働時間に関する自由はないこと、年収が四〇〇万円にとどまっており、管理監督者としての処遇がなされていたとはいえないことから、原告X2が管理監督者に該当しないことは明らかである。
第三当裁判所の判断
一 争点(1)(割増賃金の算定基礎賃金)について
労働基準法三七条一項は、割増賃金の算定の基礎となる賃金を、「通常の労働時間又は労働日の賃金」と規定し、同条四項及び労働基準法施行規則二一条で割増賃金の算定の基礎となる賃金から除外される手当を規定しているところ、これらの手当は制限的に列挙されているものであるから、これらの手当に該当しない「通常の労働時間又は労働日の賃金」はすべて算入しなければならず、これらの除外される手当は名称にかかわらず、その実質によって判断すべきであると解される。
そして、労働基準法三七条四項及び労働基準法施行規則二一条三号により割増賃金の算定の基礎となる賃金から除外される住宅手当とは、住宅に要する費用に応じて算定される手当をいい、住宅の賃料額やローン月額の一定割合を支給するもの、賃料額やローン月額が段階的に増えるにしたがって増加する額を支給するものなどがこれに当たり、住宅に要する費用にかかわらず一定額を支給するものは、除外される住宅手当に当たらないと解するのが相当である。
被告の給与規程三七条では、「住宅手当は本人(職員当人)の名義でアパート等の賃貸契約を結んでいる者及び家(マンション)を購入し、現在支払い継続中の者を対象とする。扶養家族がある者 月額一二、〇〇〇円、扶養家族がない者 月額一六、〇〇〇円」と規定され、住宅に要する費用にかかわらず、扶養家族の有無で一律定額で支給されていることからすれば、被告における住宅手当が、労働基準法三七条四項、労働基準法施行規則二一条三号により割増賃金の算定の基礎となる賃金から除外される住宅手当に当たらないと解するのが相当である。
よって、原告X1について、住宅手当は割増賃金の算定の基礎となる賃金に含まれるというべきであり、この点についての被告の主張は理由がない。
二 争点(2)(管理監督者の抗弁)について
(1) 労働基準法四一条二号が管理監督者に対して労働時間、休憩及び休日に関する規定を適用しないと定めているのは、管理監督者がその職務の性質上、雇用主と一体となり、あるいはその意を体して、その権限の一部を行使するため、自らの労働時間を含めた労働条件の決定等について相当程度の裁量権を与えられ、報酬等その地位に見合った相当の待遇を受けている者であるからであると解される。したがって、同号にいう管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理につき、雇用主と一体的な立場にあるものをいい、同号にいう管理監督者に該当するか否かは、①雇用主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を有するか、②自己の出退勤について、自ら決定し得る権限を有するか、③管理職手当等の特別手当が支給され、待遇において、時間外手当及び休日手当が支給されないことを十分に補っているかなどを、実態に即して判断すべきである。そこで、以下検討する。
(2) 第二・一記載の事実に、《証拠省略》を総合すれば、以下の事実が認められる。
ア 被告は、小学生・中学生・高校生を対象とする受験予備校を東急田園都市線、横浜線沿線に開設していた。被告の組織は、本部として、代表取締役を筆頭に、その下に運営部、教務部、受験情報部、総務部が置かれ、各校舎として、川崎北部ブロックに五校舎、横浜北部ブロックに六校舎、港北ブロックに四校舎があった。代表取締役及び各部の部長である取締役四名が役員(B)、本部に勤務する課長五名、各校の校長のうちブロック長三名及びその他の校長一〇名がマネージャー(M)、校長代理及び副校長がマネージャー(M)又はサブマネージャー(SB)、雇用期間の定めのない正社員である一般職員がワーカー(W)に分類され、その他、雇用期間一年の契約社員である準専任講師、非常勤講師・パート職員がいる。被告は、雇用期間の定めのない正社員四八名のうち、サブマネージャー以上の地位にある社員三八名に対して、時間外手当等を支払っていない(以上の各数字は。いずれも平成一八年二月当時のものである。)。
イ 被告には、役員全員が出席する役員会議、役員、課長及びブロック長が出席する経営会議、役員及びブロック長が出席するブロック長会議、役員、課長及び校長が出席する校長会議、サブマネージャー以上の職員全員が出席する責任職会議があるほか、教務部会、進路指導会議、プロジェクト会議等があり、担当職員が出席している。なお、校長会議は平成一八年度から開催されるようになった。
被告における経営方針、活動計画は、役員会議又は経営会議において決定され、校長会議及び責任職会議では、役員会議、経営会議等で決定された事項が伝達されるだけであり、原告らが校長会議及び責任職会議で発言する機会はほとんどなかった。
ウ 被告における決定事項は、すべて被告代表者が決裁して決定しており、校長が被告代表者の決裁なしに当該予備校としての方針を決めたり、新たに費用を出捐したり、職員の採用、昇格、昇給、異動を決定することはなかった。非常勤講師、パート事務員の採用面接及びその決定は、本部が行って、被告代表者が決裁しており、また、各校に配属された職員に対する査定は、校長が第一時的に行ったものを基に、ブロック長会議において決定し、査定による賞与の決定(昇給)、昇格、契約更新等の最終的な決裁は本部において行っていた。
なお、証人Bは、この点に関し、校長には非常勤講師の採用及び解雇の権限があった旨証言するが、同証人の証言によっても、被告と非常勤講師との間に交わされた雇用契約書に、校長も配属校の担当者として、雇用主欄の被告代表者と併記して判を押しているにすぎず、また、校長が職員に対し解雇を言い渡すことがあったとしても、本部で決定した事項を校長が伝達機関として伝えていたとみるのが自然であり、校長に職員の採用及び解雇の権限があったとまでは認めることはできない。
エ 校長の職務としては、①本部との間で契約された勤務時間に基づき、非常勤講師、パート職員の出勤日、出勤時間の割振りを本部に報告する、②本部で決定された授業内容、カリキュラムに基づき、時間割を作成し、担当講師を割り振る、③校長会議及び責任職会議へ出席する、④生徒数を本部へ報告する、⑤保護者・生徒からの要望に対応する、⑥専任職員の勤務記録表を管理するなどがある。⑥については、被告が、一般職員に対する年間一五〇時間を超える分の時間外手当等の支払を制限していたことから、校長は、職員の要望を踏まえ一五〇時間の限度で時間外労働等の時間を機械的に配分していたにすぎず、校長に職員の時間外労働時間等の承認や時間外手当等の支払に関しての特段の裁量があったとは認められない。また、各校に配属された職員に対する指示は、ファクシミリ文書等で本部から直接行われ、校長が職員に対し具体的な指示を出すことはほとんどなかった。
オ 校長代理の職務は、校長が不在の場合に、校長に代わって校長業務を行うことであるが、校長が長期間休むなど特別な事情がない限り、校長業務を代理することはなく、校内で校長代理が直接他の職員に指示を出すこともなかった。また、校長代理は、責任職会議に出席するものの、校長会議の出席者ではなかった。
原告X2は、個別指導プロジェクトのメンバーとして、同プロジェクト会議で積極的に発言、提案を行っており、また、青葉台校についての個別指導の担当講師の割振りと調整、指導内容の決定を行い、さらに、個別指導の講師の採用手続、研修指導の一部に立ち会っていたが、同プロジェクトの内容の決定は、責任者である役員のCが同プロジェクト会議の結論を役員会議に諮り、最終的に被告代表者が決定しており、講師の採用の決定も本部が行っていた。
カ 原告らの労働時間は、原則として午後二時から午後一〇時までとされ(就業規則九条(2))、また、他の職員と同様、出退勤時間については、「専任職員勤務記録表」への記入が義務付けられ、被告は、同記録表により原告らの出退勤時間を管理していた。
キ 平成一七年二月から平成一九年二月までの間、原告X1は、マネージャーとして、毎月、基本給二九万四五五〇円、役職手当五万円を受け取っており、また、原告X2については、サブマネージャー昇格時に基本給が二一万九二〇〇円から二七万四〇〇〇円に、役職手当が一万円から三万円に増額し、マネージャー昇格時にさらに基本給が二九万四五五〇円に、役職手当が五万円に増額している。
このように、被告の賃金体系によれば、ワーカーからサブマネージャーに昇格すると、個人差はあるものの、基本給が五万円程度上がり、役職手当が二万円程度付与されることにより、合計七万円程度の昇給になり、サブマネージャーからマネージャーに昇格すると、さらに基本給が二万円程度、役職手当が二万円増額されることとなる。
もっとも、サブマネージャー以上の社員に対しては時間外手当等が支給されなくなるため、原告X1の年収は、正社員になった後の平成一一年から平成一四年までが四〇七万五九九四円から四三六万一五一七円、サブマネージャーに昇格した平成一五年から退職するまでが四三三万一四〇〇円から四五七万八一九五円といずれも四〇〇万円台前半から半ばまでにとどまっており、中川校の準専任講師の中には校長であった原告X1に匹敵する年収を得ている者もいた。また、原告X2の年収は、正社員になった平成一六年が三三五万一六四六円、サブマネージャーに昇格した平成一七年が三五六万八〇六一円、マネージャーに昇格した平成一八年が四〇三万五七五〇円と増額しているものの、マネージャー昇格後も約四〇〇万円にとどまっていた。
(3) 以上の認定事実によれば、原告X1は、校長として校長会議及び責任職会議への出席、時間割作成、配属された職員に対する第一次的査定等を行っていたものの、被告における決定事項は、すべて被告代表者が決裁して決定し、校長会議及び責任職会議では、役員会議、経営会議等で決定された経営方針、活動計画を伝達されるだけであり、校長が被告代表者の決裁なしに当該予備校としての方針を決めたり、費用を出捐したり、職員の採用、昇格、昇給、異動を決定することはなく、その職務、権限、責任の内容等からして、被告の経営に関する決定に参画したり、労務管理に関する指揮監督権限を有していたとは認められず、また、他の職員と同様、出退勤時間が定められ、勤務記録表により出退勤時間を被告に管理されていたのであって、出退勤について自ら自由に決定し得る権限があったとはいえず、さらに、年収がいずれも四〇〇万円台前半から半ばまでにとどまっており、サブマネージャーに昇格後も従前より年収が下がっている年度もあって、中川校の準専任講師の中には校長であった原告X1に匹敵する年収を得ている者がいた事実を併せ考慮すると、給与等の待遇において、時間外手当及び休日手当が支給されないことを十分に補っているとまではいえない。
次に、原告X2は、校長代理として責任職会議に出席していたものの、責任職会議では、役員会議、経営会議等で決定された経営方針、活動計画を伝達されるだけであり、特別な事情がない限り校長業務を代理することはなく、直接他の職員に指示することもないから、その職務、権限、責任の内容等からして、被告の経営に関する決定に参画したり、労務管理に関する指揮監督権限を有していたとは認められず、また、他の職員と同様、出退勤時間が定められ、勤務記録表により出退勤時間を被告に管理されていたのであって、出退勤について自ら自由に決定し得る権限があったとはいえず、給与についても、年収がマネージャーへ昇格後も約四〇〇万円にとどまっており、給与等の待遇において、時間外手当及び休日手当が支給されないことを十分に補っているとまではいえない。
被告は、原告X2が、個別指導部門の責任者として、他の講師職員に対する管理監督者の地位にあったと主張するが、原告X2は、個別指導プロジェクトのメンバーとして会議で積極的に発言・提案を行い、また、担当校の講師の割振りと調整、指導内容の決定を行っていたほか、個別指導の講師の採用手続、研修指導の一部に立ち会ったことがあるにすぎず、最終的なプロジェクトの内容の決定は、同プロジェクトの責任者である役員が役員会議に諮った上で被告代表者が行っており、講師の採用も本部が決定していることからすれば、同プロジェクトの運営に原告X2が携わっていたことをもって、雇用主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を有すると評価することはできない。
そもそも、被告における雇用期間の定めのない正社員四八名のうちサブマネージャー以上の地位にある社員は三八名(平成一八年二月当時)であり、サブマネージャー以上の地位にある社員がいずれも管理監督者であるとする被告の主張は到底採用できない。
よって、原告らは、労働条件の決定その他労務管理につき、雇用主と一体的な立場にあるものとはいえず、労働基準法四一条二号にいう管理監督者に該当するとは認められない。
三 時間外手当等の計算
(1) 原告X1(平成一七年二月から平成一九年二月まで)
基本給、住宅手当及び役職手当の合計三六万〇五五〇円を月間所定労働時間数一六九・三時間で控除した一時間当たりの賃金は、二一三〇円である。別紙一のとおり、原告X1の時間外労働時間は七〇七時間、深夜労働時間は一六四時間、休日労働時間は五〇・五時間であるから、時間外手当等は以下の計算式のとおり、時間外手当が一八八万二三八八円、深夜手当が五二万三九八〇円、休日手当が一四万五二一三円であり、時間外手当等は合計二五五万一五八一円であると認められる。
時間外手当
二一三〇円×七〇七×一・二五=一八八万二三八八円(四捨五入)
深夜手当
二一三〇円×一六四×一・五=五二万三九八〇円
休日手当
二一三〇円×五〇・五×一・三五=一四万五二一三円(同上)
よって、時間外手当等として既払金二万五三七八円を控除した二五二万六二〇三円の支払を求める原告X1の請求には理由がある。
(2) 原告X2
ア 平成一七年二月
基本給、役職手当及び教専手当の合計二三万五二〇〇円を月間所定労働時間数一六九・三時間で控除した一時間当たりの賃金は、一三八九円である。別紙二のとおり、原告X2の時間外労働時間は四・五時間、休日労働時間は一〇時間であるから、時間外手当等は以下の計算式のとおり、時間外手当が七八一三円、休日手当が一万八七五二円であり、時間外手当等は合計二万六五六五円であると認められる。
時間外手当
一三八九円×四・五×一・二五=七八一三円(四捨五入)
休日手当
一三八九円×一〇×一・三五=一万八七五二円(同上)
イ 平成一七年三月から平成一八年二月まで
基本給、役職手当及び教専手当の合計三一万円を月間所定労働時間数一六九・三時間で控除した一時間当たりの賃金は、一八三一円である。別紙二のとおり、原告X2の時間外労働時間は二六〇・五時間、深夜労働時間は一七四時間、休日労働時間は二六時間であるから、時間外手当等は以下の計算式のとおり、時間外手当が五九万六二一九円、深夜手当が四七万七八九一円、休日手当が六万四二六八円であり、時間外手当等は合計一一三万八三七八円であると認められる。
時間外手当
一八三一円×二六〇・五×一・二五=五九万六二一九円(四捨五入)
深夜手当
一八三一円×一七四×一・五=四七万七八九一円
休日手当
一八三一円×二六×一・三五=六万四二六八円(同上)
ウ 平成一八年三月から平成一九年二月まで
基本給及び役職手当の合計三四万四五五〇円を月間所定労働時間数一六九・三時間で控除した一時間当たりの賃金は、二〇三五円である。別紙二のとおり、原告X2の時間外労働時間は二五二時間、深夜労働時間は一八五・五時間、休日労働時間は三九・五時間であるから、時間外手当等は以下の計算式のとおり、時間外手当が六四万一〇二五円、深夜手当が五六万六二三九円、休日手当が一〇万八五一六円であり、時間外手当等は合計一三一万五七八〇円であると認められる。
時間外手当
二〇三五円×二五二×一・二五=六四万一〇二五円
深夜手当
二〇三五円×一八五・五×一・五=五六万六二三九円(四捨五入)
休日手当
二〇三五円×三九・五×一・三五=一〇万八五一六円(同上)
エ よって、平成一七年二月から平成一九年二月までの間の原告X2の時間外手当等は合計二四八万〇七二三円であり、同時間外手当等として既払金七万七一三三円を控除した二四〇万三五九〇円の支払を求める原告X2の請求は理由がある。
四 付加金について
被告は、原告らを含め雇用期間の定めのない正社員の約八割に該当するサブマネージャー以上の地位にある社員がいずれも管理監督者であるとして、時間外手当等を支払っていないところ、原告らが労働基準法四一条二号にいう管理監督者に該当するとは認められないことは前記二で認定したとおりであり、被告の行為が労働基準法三七条に違反することは明らかである。
よって、本件については、労働基準法一一四条に基づき、被告に対し、原告らの時間外手当等の認容額と同額の付加金の支払を命じるのが相当である。
五 結論
以上のとおり、原告らの請求は、いずれも理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 深見敏正 裁判官 立野みすず 稲田康史)
別紙一、二《省略》