横浜地方裁判所 平成19年(行ウ)29号 判決 2009年6月29日
主文
1 本件訴えをいずれも却下する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第3当裁判所の判断
1 本件訴え①について
(1) 本件訴え①は、「新規建築確認に際し、建築物が建築される予定の敷地の開発行為に関する適合性の確認とは、建築確認申請時点の審査基準に基づいて、その開発行為が適合し、新規に許可できるものか否かの確認であって、当該審査基準変更前に開発行為が新規許可又は変更許可されていることの確認ではないにもかかわらず、適合性ありと判断した行政行為は不適法で無効であることを確認する」というものであり、これについて原告らは、平成19年7月30日付け準備書面において、「新規建築確認に際し、都市計画法(開発行為)に関する適合性の確認の定義を、実体的責任者である被告が誤認した重大・明白な瑕疵と、それに基づき当該開発行為に関する適合性ありとした行政行為・判断。結果的に被告の指揮下にある建築主事をして新規建築確認を許す行政処分」(同書面3頁)の無効確認である旨主張し、原告X1及び同X2は、第2回口頭弁論において、行政事件訴訟法3条4項(無効等確認の訴え)を根拠とするものである旨陳述している。
以上によると、原告らは藤沢市長の何らかの行政処分の無効確認を求めているようではあるが、具体的にどの行為の無効確認を求めているのか判然としない。
(2) 〔証拠省略〕によれば、藤沢市建築主事は、本件建築確認処分に先だって、平成18年7月3日付けで、藤沢市長に対し、「次の物件について都市計画法29条1項、35条の2第1項に適合していることを建築確認申請受付時に正本への開発業務課の押印により確認しているところですが、改めて、この物件について都市計画法29条1項への適合及び35条の2第1項に基づく変更許可の必要性の有無について照会します」との照会書を提出し、藤沢市長は、同月5日付けで、藤沢市建築主事に対し、当該「計画については、都市計画法29条1項に基づく開発許可済みであり、また都市計画法35条の2第1項に基づく変更許可を要さないものです」との回答書を交付したことが認められ、原告らとしては、藤沢市長の上記回答を行政処分と捉えているものとも考えられるが、この回答は、たんに藤沢市長の本件開発計画についての事実関係の認識ないし法的な見解を伝えたものにすぎず、行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」ではないことは明らかである。
(3) また、原告らは、訴状においては本件訴え①の請求の趣旨を「新規建築確認に際し、建築物が建築される予定の敷地の開発行為に関する適合性の確認とは、建築確認申請時点の審査基準に基づいて、その開発行為が適合し、新規に許可できるものか否かの確認であって、当該審査基準変更前に開発行為が、新規許可又は、変更許可されていることの確認ではない事の確認を求める」としており、前記第2の4(2)(原告らの主張)イのとおり主張していることからすると、建築確認処分に際して、建築主事等が審査すべき事項の確認を求めたものとも考えられる。
しかしながら、このような訴えは、抽象的に法令の解釈の確認を求めるものであって、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらないものである。
(4) 以上のとおり、いずれにせよ、本件訴え①は不適法というべきである。
2 本件訴え②について
(1) 建築基準法6条4項に基づく建築確認は、あらかじめ申請に係る建築物の計画が建築関係規定に適合しているかどうかを公権的に判断する行為であって、これを受けなければ適法に建築物の建築等の工事を行うことができないという法的効果を有するものにすぎず、上記工事が完了したときは、建築確認処分の取消しを求める訴えは、その利益を欠くに至るものといわざるを得ない(最高裁昭和58年(行ツ)第35号同59年10月26日第二小法廷判決・民集38巻10号1169頁参照)。
(2) これを本件についてみると、〔証拠省略〕によれば、Aらは、本件建築確認処分に関する工事が完了したとして、平成20年10月22日、藤沢市建築主事に対し建築基準法7条1項に基づき完了検査申請書を提出し、藤沢市建築主事は、同年12月10日付けで、Aらに対し、上記工事に係る建築物等が建築基準関係規定に適合しているとして、同条4項及び5項に基づき検査済証を交付したことが認められる。そうすると、本件建築確認処分の取消しを求める本件訴え②は、その利益を欠くに至ったものといわざるを得ない。
したがって、本件訴え②は不適法である。
3 本件訴え③について
(1) 本件訴え③は、「藤沢市長が、平成9年に許可した開発行為の地位は、平成18年6月の変更協議の段階において既に失効しているにもかかわらず、開発行為の変更許可を可とした行政行為は不適法で無効であることを確認する」というものであり、これについて原告らは、平成19年7月30日付け準備書面において、「工事期間が期限切れになった開発行為は失効している事実を看過したという重大明白な瑕疵と、然るべき行政措置を講じなかった行政行為・判断。結果的に開発行為の変更を許可した行政処分」(同書面3頁)の無効確認である旨主張し、原告X1及び同X2は、第2回口頭弁論において、行政事件訴訟法3条4項(無効等確認の訴え)を根拠とするものである旨陳述している。
以上によると、原告らは藤沢市長の何らかの行政処分の無効確認を求めているようではあるが、具体的にどの行為の無効確認を求めているのか判然としない。原告らが、本件軽微変更届についての藤沢市職員ないし藤沢市長の措置の無効確認を求める趣旨であるとすれば、下記4のとおり、訴えは不適法であるし、本件各変更許可処分の無効確認を求める趣旨であるとしても、下記5のとおり訴えは不適法である。
(2)ア また、原告らは、訴状においては本件訴え③の請求の趣旨を、「藤沢市長が、平成9年に許可した開発行為の地位は、平成18年6月の変更協議の段階に於いて既に失効していることの確認を求める」としており、前記第2の4(2)(原告らの主張)アのとおり主張していることからすると、本件開発許可処分の無効確認を求めたとも考えられる。
イ ところで、都市計画法29条に基づく開発許可は、あらかじめ申請に係る開発行為が法33条所定の要件に適合しているかどうかを公権的に判断する行為であって、これを受けなければ適法に開発行為を行うことができないという法的効果を有するものにすぎず、開発行為に関する工事が完了し、検査済証の交付もされた後においては、開発許可が有する上記のようなその本来の効果は既に消滅しており、他にその取消しや無効確認を求める法律上の利益を基礎付ける理由も存しないから、開発許可の取消し及び無効確認を求める訴えは、その利益を欠くに至るものといわざるを得ない(最高裁平成3年(行ツ)第46号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号4955頁参照)。
ウ これを本件についてみると、〔証拠省略〕によれば、Aらは、本件開発行為に関する工事が完了したとして、平成20年10月22日、藤沢市長に対し法36条1項に基づき工事完了届出書を提出し、藤沢市長は、同年12月9日付けで、Aらに対し、上記工事が本件開発許可処分等の内容に適合しているとして、同条2項に基づき検査済証を交付したことが認められる。そうすると、本件訴え③が本件開発許可処分の無効確認を求めるものとしても、その訴えの利益を欠くに至ったものといわざるを得ない。
原告らは、無効確認の利益は消滅していない旨主張するが、その趣旨は判然としない。原告らとしては、今後、本件開発行為と類似の開発行為が行われる可能性を問題としているようであるが、そのような事情が上記訴えの利益に影響を与えることはなく、原告らの主張は当を得ない。
(3) 以上のとおり、いずれにせよ、本件訴え③は不適法というべきである。
4 本件訴え④について
(1) 本件訴え④は、「藤沢市長が、Aから平成18年6月22日、本件変更申込書を提出され、開発行為の設計変更に対しては都市計画法35条2項に基づく開発行為の変更許可は不要であり、工事期間の変更に対しては軽微な変更届のみで可とした行政行為が不適法で無効であることを確認する」というものであり、原告X1及び同X2は、第2回口頭弁論において、行政事件訴訟法3条4項(無効等確認の訴え)を根拠とするものである旨陳述している。
(2) 本件では、前記の第2の2(3)のとおり、Aは、本件軽微変更届の提出に先だって、本件変更申込書を提出しており、これを受けて、藤沢市職員は、本件変更申込書の「※記事」欄に「変更許可を要しないもの。工事完了予定年月日の変更に伴う軽微な変更届を提出のこと。」と記載し、その旨をAに伝えている。原告らは、藤沢市職員の上記の行為をもって行政処分であると主張するものと考えられるが(第1回弁論準備)、これはたんにAの事前の相談に対して、藤沢市職員ないし藤沢市長の見解を述べたものにすぎず、行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」ではない。
(3) また、その後、Aから提出された本件軽微変更届は受理されているが、原告らはこの受理をもって行政処分であると主張するものとも考えられるが、これを行政処分としても、上記3(2)で述べたとおり、本件開発行為に関する工事が完了し、検査済証が交付された以上、上記訴えは無効確認の利益を欠くに至ったものといわざるを得ない。
(4) 以上のとおり、いずれにせよ、本件訴え④は不適法というべきである。
5 本件訴え⑤及び⑥について
上記3(2)と同様、本件開発行為に関する工事が完了し、検査済証が交付された以上、本件訴え⑤及び⑥は取消しの利益を欠くに至ったものといわざるを得ないから、これらの訴えは不適法というべきである。
6 結論
以上のとおりであって、原告らの本件訴えは、その余の点について判断するまでもなく、いずれも不適法であるからこれらを却下することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 北澤章功 裁判官 土谷裕子 高橋心平)