横浜地方裁判所 平成19年(行ウ)45号 判決 2010年6月09日
主文
1 被告は,被告補助参加人に対し,332万6239円を請求せよ。
2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用のうち補助参加によって生じた部分は,これを5分し,その4を原告らの負担とし,その1を被告補助参加人の負担とし,その余の部分は,これを10分し,その9を原告らの負担とし,その1を被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 被告は,被告補助参加人に対し,1988万7732円を請求せよ。
2 被告は,P1党横浜市会議員団に対し,2426万8983円を請求せよ。
第2事案の概要
1 事案の骨子
本件は,横浜市の住民である原告らが,横浜市議会(以下「横浜市会」という。)における会派である被告補助参加人(以下「参加人」という。)及びP1党横浜市会議員団(以下「P1党市議団」といい,参加人と併せて「本件各会派」という。)が横浜市から交付を受けた平成17年度の政務調査費のうちそれぞれ1988万7732円及び2426万8983円を広報費として使用したのは違法であり,同市は本件各会派に対し上記各金額に相当する額の不当利得返還請求権又は不法行為に基づく損害賠償請求権を有するところ,被告は上記各請求権の行使を違法に怠っているなどと主張して,地方自治法242条の2第1項4号の規定に基づき,被告に対し,本件各会派に対して上記不当利得返還請求又は損害賠償請求をすべきことを求めて住民訴訟を提起した事案である。
2 基礎となる事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 横浜市は,地方自治法(平成20年法律第69号による改正前のもの。以下同じ。)100条13項及び14項の規定を受けて,横浜市会政務調査費の交付に関する条例(平成13年横浜市条例第3号。平成20年横浜市条例第10号による改正前のもの。乙1。以下「本件条例」という。)を制定し,横浜市会における会派に対し,政務調査費を交付することとしている。
本件条例には,以下の定めがある(乙1)。
ア この条例は,地方自治法100条13項及び14項の規定に基づき,横浜市会議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として,横浜市会における各会派に対し政務調査費を交付することに関し必要な事項を定めるものとする(1条)。
イ 政務調査費は,議長の定めるところにより,議長へ届出のあった会派(その所属議員が1人の場合も含む。以下同じ。)に対して交付する(2条)。
ウ 同条の会派に対しては,月額55万円に当該会派の所属議員数を乗じて得た額を,毎月交付する(3条1項)。
エ 会派は,政務調査費を議長の定める使途基準に従って適正に使用しなければならない(4条)。
オ 政務調査費の交付を受けた会派の代表者は,議長の定めるところにより,政務調査費に係る収入及び支出の報告書(以下「収支報告書」という。)を作成し,議長に提出しなければならない(6条1項)。
収支報告書は,前年度の交付に係る政務調査費について,毎年4月30日までに提出しなければならない(同条2項)。
会派の消滅があった場合は,前項の規定にかかわらず,その会派の代表者であった者は,当該消滅をした日から30日以内に収支報告書を議長に提出しなければならない(同条3項)。
カ 6条1項の規定により提出された収支報告書は,これを受理した議長において,これを提出すべき期間の末日の翌日から起算して5年を経過する日まで保存しなければならない(7条1項)。
何人も,議長に対し,議長の定めるところにより,同項の規定により保存されている収支報告書の閲覧を請求することができる(同条2項)。
キ この条例に定めるもののほか,政務調査費の交付に関し必要な事項は,市長が定める(8条)。
(2) 本件条例の委任に基づいて被告が制定した横浜市会政務調査費の交付に関する条例施行規則(平成13年横浜市規則第31号。平成20年横浜市規則第55号による改正前のもの。乙2。以下「本件規則」という。)には,以下の定めがある。
ア 政務調査費の交付を受けようとする会派の代表者は,毎年4月1日に,政務調査費交付申請書(第1号様式)により市長に申請しなければならない(2条1項)。
イ 市長は,2条の規定により申請のあった会派について交付すべき年間分の政務調査費の額を決定し,政務調査費交付決定通知書(第2号様式)により当該会派の代表者に通知するものとする(3条)。
ウ 会派の代表者は,会派の名称,代表者の氏名又は所属議員数に異動が生じたときは,直ちに,会派名等異動届出書(第3号様式)により市長に届け出なければならない(4条1項)。
市長は,前項の規定により会派名等異動届出書の提出を受けた場合において,当該会派に交付すべき年間分の政務調査費の額を変更する必要があると認めるときは,政務調査費交付額変更通知書(第4号様式)により当該会派の代表者に通知するものとする(同条2項)。
エ 上記イの政務調査費交付決定通知書(第2号様式)及び上記ウの政務調査費交付額変更通知書(第4号様式)には,「政務調査費の交付を受けた後,事情の変更によって,本年度中に交付を受けた政務調査費の総額について,これに残額が生じた場合には,当該残額を返還してください。」との記載がある。
(3) 本件条例の規定に基づいて横浜市会議長が制定した横浜市会政務調査費の交付に関する条例施行規程(平成13年横浜市会規程第1号。平成20年横浜市会規程第3号による改正前のもの。乙3。以下「本件規程」という。)には,以下の定めがある。
ア 本件条例4条に規定する政務調査費の使途基準は,別表のとおりとする(4条。以下,同条及び別表が定める使途基準を「本件使途基準」という。)。
イ 政務調査費の交付を受けた会派の経理責任者は,政務調査費の収入及び支出について,会計帳簿を作成するとともに,証拠書類を整理し,これらの書類を本件条例6条1項の収支報告書を提出すべき期間の末日の翌日から起算して5年を経過する日まで保存しなければならない(5条1項)。
ウ 本件条例6条1項の収支報告書は,第4号様式とする(6条)。
エ 上記アの別表は,項目の一つとして「広報費」を掲げ,その内容を「各会派において議会活動,市政に関する政策等を市民に周知させるための広報活動を行うために要する経費(広報紙,報告書等印刷費,送料,会場費等)」と定めている。
オ 上記ウの第4号様式には,収入金額の記載欄(1項),本件使途基準に定める各項目ごとの支出金額及びそれらの合計額の記載欄(2項)並びにこれらを差し引きした金額の記載欄(3項)が設けられている。
(4) 参加人は,被告に対し,平成17年4月1日付け政務調査費交付申請書により,平成17年度政務調査費として2億0460万円の交付を申請したところ,被告は,その交付を決定し,参加人に対し,同日付け政務調査費交付決定通知書により,その旨通知した(乙4の1,乙5の1)。
また,その後,参加人の所属議員数が減少したことから,被告は,参加人に対し,同年8月24日付け政務調査費交付額変更通知書により,参加人に対する平成17年度政務調査費の交付額を2億0075万円に変更する旨通知した(乙7)。
参加人は,平成17年度において,毎月,政務調査費の交付を請求し,総額2億0075万円の交付を受けた(甲1,乙6の1,弁論の全趣旨)。
参加人は,横浜市会議長に対し,平成18年4月28日付け政務調査費収支報告書を提出し,平成17年度政務調査費の収支について報告したところ,同報告書には,収入は2億0075万円,支出は合計2億0075万0004円であり,差し引きマイナス4円であること,支出項目のうち「広報費」の金額は1988万7732円であること,その支出の主たる内容は「広報紙,報告書,印刷費,ホームページ作成料」であること(備考欄)等が記載されている(甲1)。
(5) P1党市議団は,被告に対し,同年4月1日付け政務調査費交付申請書により,平成17年度政務調査費として1億0560万円の交付を申請したところ,被告は,その交付を決定し,P1党市議団に対し,同日付け政務調査費交付決定通知書により,その旨通知した(乙4の2,乙5の2)。
P1党市議団は,平成17年度において,毎月,政務調査費の交付を請求し,総額1億0560万円の交付を受けた(甲2,乙6の2,弁論の全趣旨)。
P1党市議団は,横浜市会議長に対し,平成18年4月28日付け政務調査費収支報告書を提出し,平成17年度政務調査費の収支について報告したところ,同報告書には,収入は1億0560万円,支出は合計1億0560万0029円であり,差し引きマイナス29円であること,支出項目のうち広報費の金額は2426万8983円であること,その支出の主たる内容は「広報紙等製作費,送料等,ホームページ制作費」であること(備考欄)等が記載されている(甲2)。
(6) 横浜市の住民である原告らは,平成19年3月15日,横浜市監査委員に対し,本件各会派における平成17年度政務調査費のうち広報費(以下「本件各広報費」という。)の支出は直接会派の調査研究につながるものではないなどと主張して,「会計帳簿と証拠類を検証してこの広報費の違法部分を確定し市長に返還請求させること」を求める旨の監査請求をした(甲4)。
横浜市監査委員は,原告らに対し,同年5月9日付けで,上記監査請求は地方自治法242条に規定する住民監査請求の要件を満たしていないなどとして,同条に基づく監査を実施しない旨通知した(甲3)。
(7) 原告らは,同年6月8日,本件訴えを提起した。
3 争点及び当事者の主張
(1) 政務調査費を本件使途基準に定める広報費として使用することの適否
(原告らの主張)
地方自治法は,条例において政務調査費の使途基準を定めることを要求しておらず,「調査研究に資するため」と規定しているのであって,条例でこの定めの上出し・横出しを認めているわけではない。本件条例4条は,全く無意味であり無効な規定である。「調査研究」から逸脱していれば,たとえ本件使途基準に外観的に適合していても,適正な使途であるとはいえない。
調査研究において広報が現れるのは,調査研究の成果物の概要又はその全部を議会関係者,行政機関及び住民に報告等を行う場合であり,広報費に政務調査費を使用することができるのは,この場合に限られる。これに対し,本件使途基準に挙げられているような広報費としての費消は,政務調査費には該当しない。本件各広報費は,調査研究に基づくものではなく,その全部が違法な目的外支出である。
(被告の主張)
地方自治法100条13項は,政務調査費の使途については具体的な内容を特定していない。これは,議会の議員の調査研究の対象が多岐にわたること等政務調査活動の特質を考慮するとともに,各地方自治体の議会が定める条例にその具体化をゆだねることとしたものと解される。本件使途基準において広報費が設けられていることは,同法の趣旨に適合する。
(2) 本件各広報費に係る広報活動は本件各会派において行うものと認められるか否か
(原告らの主張)
最高裁判所平成21年7月7日第三小法廷判決(裁判集民事231号183頁。以下「最高裁平成21年判決」という。)は,「会派の所属議員は,具体的調査研究ごとに,その活動内容及びこれに必要な政務調査費からの支出を求める金額を会派に申請し,会派の代表及び経理責任者からその活動内容及び金額の承認を得た上で,経理責任者からその金員の交付を受けた」という事実が認められれば,「会派が行う」との要件は満たされることになるとしている。
しかし,参加人は,横浜市から交付を受けた政務調査費をそのまま議員個人に交付しているから,最高裁平成21年判決が述べる事実はなく,各議員の活動は会派が行うものとはいえないことになる。また,P1党市議団においては,所属議員が立替払をした額を団執行部が事後承認しているという点で,最高裁平成21年判決の趣旨とは合致しないし,団執行部とはだれを指すのか不明であり,承認の事実を証するものがないという点で,会派が行うものとはいえないことになる。
(被告の主張)
最高裁平成21年判決は,会派の代表者が所属議員による調査研究活動を会派のためのものとして承認することも認められるとしている。
参加人においては,支出内容について各議員から報告を受け,当時の団長であるP2議員が最終的に会派のための活動であると了承したものについて政務調査費として整理したというのであり,また,P1党市議団においては,所属議員が立替払して行った政務調査活動について,団執行部が調査結果や請求伝票等に基づきその支出項目,支出金額等を確認した上で会派として了承したものについて支払っていたというのであるから,本件各会派においては,その所属議員による調査研究活動を会派のためのものとして承認する方法によって会派の調査研究活動が行われていたものである。
(3) 参加人における個別の広報費支出の適否
ア 1000円切手の購入費用の支出額計162万円(甲5の番号378,甲7の1ないし8)について
(原告らの主張)
1000円という高額な切手をシート単位で購入する動機が不明である。また,実際に要した送料と関係がない。
(被告の主張)
上記支出額の領収証書については,参加人において,政務調査費の支出を裏付ける証拠書類としては撤回したため,この点について論ずる必要はない。
イ 広報配布料の支出額計193万7000円(甲8の1ないし26)について
(原告らの主張)
印刷物のための支出がないのに,送料だけが支出されている。また,領収証に印紙の貼付がないのは,議員が受け取る領収証として不自然かつ非常識である。したがって,架空の送料と推測される。
また,P3議員の「P4」(乙15)は,編集・発行がP3後援会となっている。政務調査費を当該後援会の活動のために使用することは違法である。
(被告の主張)
上記支出額に係る領収証は,P3議員が毎月発行している市政報告の広報紙(乙15)を,各家庭にポスティング(各戸配布)したときの領収証とされており,架空の送料とは認められない。
また,発行者が後援会と表記されている広報紙であっても,実質的に調査研究活動に該当する内容が記載されている部分に係る費用に政務調査費を充当したことをもって,違法な支出となるとはいえない。
ウ 領収証等のあて名が後援会である支出額計99万8589円(甲9の1ないし8)について
(原告らの主張)
上記支出額は,その領収証等のあて名が後援会であり,後援会が負担すべき費用を肩代わりしている。すなわち,その支出は,本来後援会の活動としての支出であるから,後援会が当然負担すべきものであり,後援会が支出したから,領収証等のあて名が後援会となっているのである。
(被告の主張)
上記支出額のうち,P5議員分(甲9の1,5及び8)については,同議員が市政報告文書及び後援会関係の文書を発送するための封筒(乙17)を印刷した際,同議員とその後援会を連名にして印刷していたことから,領収証のあて名が「P5後援会」となっているとのことであり,作成費用の2分の1に政務調査費を充当しているものであるから,違法な点はない。また,P6議員分(甲9の2及び6)については,同議員の市政報告文書(全部発送済みのため残っていないとのことである。)の郵送代,P7議員分(甲9の3及び4。ただし,2分の1相当額。)及びP8議員分(甲9の7)については,両議員の市政報告文書(乙20,21)の発送費用とされており,いずれも違法性は認められない。
議員としての活動の領収証等と後援会の活動の領収証等が十分整理されていないことは妥当な処理とはいえないが,実質的に市政報告等の政務調査活動としての広報活動に使用されたものであれば,違法とはいえず,不当利得返還請求の対象となるとはいえない。
エ P9株式会社の領収証に係る支出額計40万8000円(甲10の1及び2)について
(原告らの主張)
P9株式会社は,P5議員が設立し専務取締役に就任している会社であり,同社が発行した上記領収証は,実質的には名あて人である同議員が作成したものというべきである。また,同社が同議員の債務を立替払したのであれば,同議員あての領収証の発行を受け,同議員から立替金債務の弁済を受けるのと引換えに当該領収証を同議員に交付するのが正しい精算方法である。
(被告の主張)
甲10の1は,P5議員の発行する市政報告文書の印刷代及びポスティング代についてP9株式会社に立て替えて支払ってもらったものを精算した領収証とされており,それに対応する同社あての領収証が乙22の1ないし10とされている。
甲10の2は,P5議員の作成したホームページの更新料及びパーソナルコンピュータ設定代についてP9株式会社に立て替えて支払ってもらったものを精算した領収証とされており,それに対応する同社あての領収証が乙23の1及び2とされている。
いずれも,立替払をしてもらったものを精算したものとされており,違法性は認められない。
オ 切手による郵便料の納付額計76万9230円(甲11の1ないし5)について
(原告らの主張)
郵便料を切手で納付した場合の切手の郵便料金受領証等が金銭の領収書として提出されている。
また,「P10」(乙13の1ないし6)は,自己の名前と顔写真を大きく掲載し,自己宣伝に主眼を置いていることが明白である。これは調査研究とはいえないものであり,市政報告に名を借りた政治活動,選挙活動というべきである。このような自己宣伝に公費である政務調査費の使用を認めるならば,議員でなかった者も候補者となる選挙が著しく公平,公正を欠くものになる。
(被告の主張)
甲11の1ないし5は,P11議員が発行した広報紙(乙13の1ないし6)を発送するための郵送料の郵便料金受領証等とされている。あらかじめ購入しておいた切手で支払ったとのことであり,金銭の領収書でないからといって違法とはいえない。
また,広報紙により市政報告等を行う際に,発行者である議員の氏名,顔写真,簡単なプロフィール等を掲載し,これを見る人に当該議員の人となりを知ってもらうようにすることは極めて自然なことであるし,市民等に,議員や議会をより身近に感じさせ,市政に対する関心を持ってもらい,議員に対して市政に関する意見を述べるなどの方法により議員が市政に関する市民の意見を聴取,調査することに資するものであるから,これをもって違法ということはできない。
カ P12郵便局の平成17年11月7日付け領収証書に係る支出額1万6500円(甲12)について
(原告らの主張)
55円という単価からみて,年賀はがきを購入したものである。上記領収証書は,「年賀」と印字されているべきなのにそれが抹消されており,変造されている。
(被告の主張)
上記領収証書については,参加人において,政務調査費の支出を裏付ける証拠書類としては撤回したため,この点について論ずる必要はない。
キ P13議員のインターネット関連費用の支出額(甲13等)について
(原告らの主張)
横浜市会の議員がインターネット関連の費用に対して特別に政務調査費を使用する理由はない。P13議員のホームページは,自己の写真と名前を掲示して自己宣伝を行うものであり,このような選挙活動としか考えられないようなものに公費である政務調査費を76万2300円使用したことは違法である。
また,政務調査費は,補助金の性質を有するところ,補助金は,年度ごとにその年度の事業の補助として交付されるものであるから,平成16年度に支払時期が来ていたものを平成17年度の事業費とすることはできない。上記支出額のうち10万7100円(甲13)は,平成16年度分の経費であり,平成17年度の政務調査費の対象ではない。
(被告の主張)
P13議員のホームページは,同議員の横浜市会における活動内容,市政に関する政策や意見等がほぼすべてを占めており,同議員のホームページによる広報活動は政務調査に該当するといえる。
また,10万7100円の支出(甲13)は,平成17年3月31日に発行されていた請求書に対する支払を同年4月に行ったものとされており,平成17年度の政務調査費として計上することに問題はない。
ク 社会福祉協議会に対する切手代の支出額3万4560円(甲14)について
(原告らの主張)
P14議員がα地区社会福祉協議会から購入した切手で郵送したという各文書(乙25,26)の作成者は,P14連合後援会会長及びP14政経研究会会長の連名又は後者となっている。また,これらの内容も,P14議員の講演会に落語家が来るなどと記載されており,選挙活動そのものである。そうすると,上記支出額は,政務調査費を他の団体の支出に使用したものであり,その使途には非違がある。
(被告の主張)
α地区社会福祉協議会が,市民から不要になった切手やはがきの寄付を受け,同協議会が使用しきれなかった切手を,P14議員が額面金額で譲り受けたものであり,同議員が市政報告案内文書(乙25,26)を発送することに使用したとされており,違法性は認められない。
ケ 参加人による撤回分を上回る広報費支出の有無等について
(被告の主張)
平成17年度における参加人の政務調査活動に要した費用は,交付された政務調査費2億0075万円を上回っており,実際の広報活動に要した費用の支払額についても政務調査費収支報告書(甲1)に記載されている金額を上回っているとのことである。そして,以下のとおり,新たに提出された証拠書類により前記ア(被告の主張)及びカ(被告の主張)の撤回分合計163万6500円を上回る支出が裏付けられるから,全体として,参加人の広報費の支出に違法性があるとはいえない。
すなわち,甲11の1ないし5の郵便料金受領証等の他に,P11議員が平成18年3月27日に広報紙を発送した証拠である27万円の郵便料金受領証(乙14)が新たな証拠書類として提出されている。
また,P15議員の市政報告文書(乙27)の制作費用84万3675円(乙28)及び発送代行費用74万5575円(乙29)の各領収書が新たに提出されている。当該市政報告文書の内容は,横浜市会での質問内容や議員の見解を掲載し,市民に報告するものであり,調査研究活動に該当するものである。
これらの新たな提出分が合計185万9250円であるのに対し,前記ア(被告の主張)及びカ(被告の主張)の撤回分が合計163万6500円であるから,政務調査費収支報告書に記載された広報費の支出金額の合計1988万7732円に見合う証拠書類が存在しているといえる。
(原告らの主張)
政務調査費収支報告書3項には,横浜市が交付した政務調査費に対しての「差し引き」の欄があるから,会派が行った政務調査費を使用した調査研究費用の全額を記載すべきである。したがって,政務調査費収支報告書に記載されていない支出の存在を主張して新たな証拠書類を提出することは,許されない。
なお,P15議員に係る支出ついては,「P16」(乙27)には「定価1部105円(税込み)」とあり,有料の広報紙を作成して配布したのは,営業活動であり,政務調査費をその制作費と郵送料に充てることはできない。
(4) P1党市議団における個別の広報費支出の適否
ア データ入力費用の支出額計48万円(甲15の1ないし12)について
(原告らの主張)
上記支出額は,毎月800件のデータ入力の費用として支出されているが,件数が毎月一定であること,単価が50円であること,毎月入力の必要性に疑問があること,領収証に印紙の貼付が無く不備があることなどからすれば,非現実的かつ非合理的である。
(被告の主張)
広聴広報活動等を通じて入手した個人情報1万件弱のデータについて,精査し,整理するためのデータ入力を行った際のアルバイト代とされており,非現実的かつ非合理的であるという原告らの主張は当たらない。
イ 領収証書の日付が平成16年度に属する支出額計1595円(甲16の1ないし3)について
(原告らの主張)
前記キのとおり,政務調査費は,当該年度内の支出が対象であるところ,上記支出額は,領収証書の日付が平成16年度に属するから,平成17年度の政務調査費の対象外である。
(被告の主張)
各議員が平成16年度に支出したものであるが,平成17年4月に会派に請求があったものとされており,平成17年度の政務調査費を充当することに問題はない。
ウ 財団法人P17協会に対する支出額1万1400円(甲17)について
(原告らの主張)
上記支出額には,印紙代が含まれているが,広報費として費消されたものに印紙代が含まれているのは常識的には理解不能である。
(被告の主張)
広報紙の発送のための切手代と広報紙に記載した内容について土地登記簿を確認するために購入した登記印紙代とされており,違法性は認められない。
エ P18郵便局の平成17年9月21日付け領収証書に係る支出額500円(甲18)について
(原告らの主張)
上記領収証書に「収」とあるのは,収入印紙の意味であり,エクスパックであれば「エクスパック」と表示されることとされていたから,エクスパック購入の事実を証明するものではない。印紙を政務調査費に使う場面はないと思われる。
(被告の主張)
広報物を発送した際のエクスパック500の代金とされており,違法性は認められない。
第3当裁判所の判断
1 政務調査費を本件使途基準に定める広報費として使用することの適否(争点(1))
(1) 前記基礎となる事実(1)エのとおり,本件条例4条は,会派は政務調査費を議長の定める使途基準に従って適正に使用しなければならない旨を規定しているところ,原告らは,地方自治法は条例において政務調査費の使途基準を定めることを要求しておらず,同条は無意味で無効な規定である旨主張する。
しかし,同法100条は,政務調査費の交付につき,普通地方公共団体は,条例の定めるところにより,その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として,その議会における会派又は議員に対し,政務調査費を交付することができ,この場合において,当該政務調査費の交付の対象,額及び交付の方法は,条例で定めなければならないと規定した上(13項),政務調査費の交付を受けた会派又は議員は,条例の定めるところにより,当該政務調査費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出するものとすること(14項)を規定している。これらの規定による政務調査費の制度は,地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律の施行により,地方公共団体の自己決定権や自己責任が拡大し,その議会の担う役割がますます重要なものとなってきていることにかんがみ,議会の審議能力を強化し,議員の調査研究活動の基盤の充実を図るため,議会における会派又は議員に対する調査研究の費用等の助成を制度化し,併せてその使途の透明性を確保しようとしたものである。
上記のとおり,地方自治法は,普通地方公共団体の「条例の定めるところにより」政務調査費を交付することができるものと規定しているのであるから,議会は,当該条例の制定に際し,政務調査費の交付を受けた会派又は議員においてこれを「議員の調査研究に資するため必要な経費」の範囲内で具体的にいかなる使途に用いることができるかの基準を設けることができ,その使途基準の内容をどのように規定するかについては,議会の自律的な判断にゆだねられているものと解される。そして,議員の調査研究の対象は多岐にわたるものと考えられ,政務調査費の使途基準も細目的・例示的な事項にわたることが予想されることをも考慮すると,普通地方公共団体の議会は,条例において,政務調査費の使途基準の具体的内容を議長の定める規程等に委任することができるものと解すべきである。
したがって,原告らの上記主張を採用することはできない。
(2) 次に,前記基礎となる事実(3)ア及びエのとおり,本件規程4条及び別表は,本件条例4条の規定を受けて,本件使途基準を定め,「広報費」の項目において,その内容を「各会派において議会活動,市政に関する政策等を市民に周知させるための広報活動を行うために要する経費(広報紙,報告書等印刷費,送料,会場費等)」と定めている。
原告らは,調査研究において広報が現れるのは,調査研究の成果物の概要又はその全部を議会関係者,行政機関及び住民に報告等を行う場合であり,広報費に政務調査費を使用することができるのはこの場合に限られるから,本件使途基準に定められた広報費は,地方自治法100条13項に規定する「議員の調査研究に資するため必要な経費」に当たらない旨主張する。
しかし,同項にいう「議員の調査研究に資するため必要な経費」は,その文言上,調査研究に直接用いられる費用に限定されておらず,むしろ調査研究に「資する」ため必要な経費,すなわち調査研究活動そのものではないが,その前提として調査研究のために有益な活動を行う場合の必要経費を含むことが明らかにされている。また,前記(1)で説示したとおり,政務調査費制度の立法趣旨が,議会の審議能力を強化し,議員の調査研究活動の基盤の充実を図るという点にあることに照らしても,調査研究のために直接用いられる費用のみならず,有益な費用をも助成する必要があるというべきである。
そして,横浜市会において,市民の意思を適正に反映させることは必要不可欠であり,市民の意思を収集,把握することは議員の調査研究の一つとして重要であるところ,議会活動及び市政に関する政策等を市民に周知させることは,市政に対する市民の意思を的確に収集,把握するための前提として意義を有するものということができる。そうすると,本件規程4条にいう広報費は,調査研究に直接用いられる費用ではないとしても,上記の意味において,調査研究の前提としてそのために有益な活動を行う場合の必要経費ということができるから,「議員の調査研究に資するため必要な経費」に該当するというべきである。
したがって,原告らの上記主張を採用することはできない。
(3) 以上によれば,政務調査費を本件使途基準に定める広報費として使用することは適法であり,それが横浜市に対する不当利得又は不法行為を構成するものということはできない。
2 本件各広報費に係る広報活動は本件各会派において行うものと認められるか否か(争点(2))
(1) 会派性の要件の意義について
前記基礎となる事実(3)ア及びエのとおり,本件使途基準は,広報費の内容について,「各会派において議会活動,市政に関する政策等を市民に周知させるための広報活動を行うために要する経費(広報紙,報告書等印刷費,送料,会場費等)」と定めているから,当該広報活動は,「各会派において(略)行う」ものであることを要するものと解される(会派性の要件)。
このような「各会派において(略)行う」広報活動には,会派がその名において自ら行うもののほか,会派の所属議員等にこれをゆだね,又は所属議員による広報活動を会派のためのものとして承認する方法によって行うものも含まれると解すべきである。そして,一般に,会派は,議会の内部において議員により組織される団体であり,その内部的な意思決定手続等に関する特別の取決めがされていない限り,会派の代表者が会派の名においてした行為は,会派自らがした行為と評価されるものである(最高裁平成21年判決,最高裁平成22年2月23日第三小法廷判決・裁判所時報1502号4頁参照)。
(2) 参加人について
ア 掲記の証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 参加人は,平成17年度において,横浜市から毎月交付される政務調査費を各議員に月額55万円ずつ交付して,各議員の政務調査活動の費用として支出させ,その支出内容について同年度の代表者(団長)であったP2議員が各議員から報告を受け,同議員の指示により同年度の経理責任者であったP11議員がその報告内容の点検を行い,最終的にP2議員が参加人のための活動として了承できる費用か否かを判断し,了承したものについて参加人の政務調査費として整理していた(乙30,32,53,証人P11)。
(イ) 参加人が上記の手続により平成17年度の政務調査費のうち広報費として整理した金額は,同年度の政務調査費収支報告書に記載された支出額である1988万7732円を上回っており,同支出額に含まれないP11議員による平成18年3月27日の広報紙発送費用の支出額27万円並びにP15議員による広報紙制作費用の支出額84万3675円及び発送代行費用の支出額74万5575円についても,上記の手続により団長の了承を経て参加人の政務調査費として整理されていた(乙14,28ないし30,32,53,証人P11)。
(ウ) 参加人においては,平成17年4月に開催された所属議員全員により構成される団会議で,各議員に委任する平成17年度の政務調査活動の内容が決定され,その内容には広報活動も含まれていたところ,その後も毎月開催された団会議における各議員の意見交換を通じ,会派として各議員の政務調査活動の内容を把握していた(乙59,60,証人P11)。
イ 上記事実関係によれば,参加人においては,政務調査費を所属する各議員に月額55万円ずつ交付した上,各議員による支出のうち前記ア(ア)の手続により代表者である団長の了承したものについて参加人の政務調査費として整理されることになっており,その了承に係る内部的な意思決定手続等に関して特別の取決めがされていたような事情はうかがわれない。そうすると,平成17年度において,参加人の団長が各議員による広報費の支出についてした了承は,参加人において内部的に決定された正規の政務調査費支出の手続に則して,会派の名において行われたものということができる。そうである以上,その了承は,会派自らがした了承と評価されるものであり,また,特段の事情のない限り,その所属議員の発案,申請に係る広報活動を会派のためのものとして当該議員にゆだね,又は会派のための活動として承認する趣旨のものと認めるのが相当である。平成17年度における参加人の広報費の支出について,上記特段の事情はうかがわれず,かえって,前記ア(ウ)の認定事実によれば,当該広報活動については,各議員から会派に対して報告されていることがうかがわれる。
なお,本件訴訟において,被告は,参加人が平成17年度の政務調査費収支報告書に記載された広報費の支出額以外にも,P11議員による平成18年3月27日の広報紙発送費用27万円並びにP15議員の広報紙制作費用84万3675円及び発送代行費用74万5575円を広報費の支出額として主張するに至っているところ,これらについても,前記ア(イ)のとおり,団長の了承を経て参加人が行う広報活動の経費として整理されていたものと認めることができる。
したがって,本件訴訟において被告が主張する参加人における平成17年度の広報費の支出は,本件使途基準にいう「各会派において(略)行う」との要件を満たすものということができる。
ウ なお,原告らは,参加人は横浜市から交付を受けた政務調査費をそのまま議員個人に交付しているから,最高裁平成21年判決にいう「会派の所属議員は,具体的調査研究ごとに,その活動内容及びこれに必要な政務調査費からの支出を求める金額を会派に申請し,会派の代表及び経理責任者からその活動内容及び金額の承認を得た上で,経理責任者からその金員の交付を受けた」という事実はなく,各議員の活動は会派が行うものとはいえない旨主張する。
しかし,最高裁平成21年判決は,上記事実が認められなければ会派性の要件が満たされないという趣旨を判示したものではない。
また,前記(1)のとおり,本件使途基準にいう「各会派において(略)行う」広報活動には,会派の所属議員等にこれをゆだね,又は所属議員による広報活動を会派のためのものとして承認する方法によって行うものも含まれるところ,このように会派がその広報活動を所属議員等に委託する場合には,費用の前払(民法656条,649条)としてあらかじめ政務調査費を包括的に当該議員等に交付しておき,当該議員等による広報活動の実施後,当該広報活動を会派のものとして承認する際にその精算を行うという方法を採ることも可能であると解される。
したがって,原告らの上記主張を採用することはできない。
(3) P1党市議団について
ア 掲記の証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア) P1党市議団は,平成17年度において,政務調査活動を所属議員に委託し,所属議員が政務調査活動のために支出した額の精算については,所属議員が支払請求伝票に領収書を添付して立替払をした額を月末ごとに請求し,代表者である団長等の団執行部が当該政務調査活動の結果や支払請求伝票等に基づきその支出項目,支出金額等を確認した上で当該政務調査費の支出を承認し,当該議員に支払うこととしていた(乙31,41)。
(イ) 上記の支払請求伝票には,「団長」,「副団長」(2名)及び「担当」の各決裁欄や,「使途目的」を記入する欄等がある(甲15の1ないし12,甲16の1ないし3,甲17,18)。
イ 上記事実関係によれば,P1党市議団においては,前記ア(ア)の手続により代表者である団長等の団執行部の承認を得て各議員に政務調査費が支出されることになっており,その承認に係る内部的な意思決定手続等に関して特別の取決めがされていたような事情はうかがわれない。そうすると,平成17年度において,P1党市議団の団長等が各議員による広報費の支出についてした承認は,P1党市議団において内部的に決定された正規の政務調査費支出の手続に則して,会派の名において行われたものということができる。そうである以上,その承認は,会派自らがした承認と評価されるものであり,また,特段の事情のない限り,その所属議員の発案,申請に係る広報活動を会派のためのものとして当該議員にゆだね,又は会派のための活動として承認する趣旨のものと認めるのが相当である。平成17年度におけるP1党市議団の広報費の支出について,上記特段の事情はうかがわれず,かえって,前記ア(ア)及び(イ)の認定事実によれば,当該広報活動については,簡略ながらもその「使途目的」が各議員から会派に対して報告されていることがうかがわれる。
したがって,P1党市議団における平成17年度の広報費の支出は,本件使途基準にいう「各会派において(略)行う」との要件を満たすものということができる。
ウ なお,原告らは,P1党市議団においては,所属議員が立替払をした額を団執行部が事後承認しているという点で,最高裁平成21年判決の趣旨とは合致しないし,団執行部とはだれを指すのか不明であり,承認の事実を証するものがないという点で,会派が行うものとはいえないと主張する。
しかし,前記(1)のとおり,本件使途基準にいう「各会派において(略)行う」広報活動には,会派の所属議員等にこれをゆだね,又は所属議員による広報活動を会派のためのものとして承認する方法によって行うものも含まれるところ,このように会派がその広報活動を所属議員等に委託する場合には,所属議員等による広報活動の実施後,当該所属議員等にその広報活動に要した費用の償還請求(民法656条,650条1項)をさせるという方法を採ることも可能であると解される。最高裁平成21年判決は,上記の方法による場合には会派性の要件が満たされないという趣旨を判示したものではない。
また,一般に,ある団体の「執行部」には当該団体の代表者を含むのが通常であると解されるところ,前記ア(ア)及び(イ)のとおり,P1党市議団における団執行部とは,その代表者である団長を含むものと認めることができるから,団執行部の承認は,団長の承認でもあり,前記イのとおり,会派自らがした承認と評価されるものである。
したがって,原告らの上記主張を採用することはできない。
3 参加人における個別の広報費支出の適否(争点(3))
前記2(2)イのとおり参加人が行う広報活動の経費として整理されていた平成17年度における広報費の支出のうち,以下の各支出が,本件使途基準に定める広報費に該当し,本件使途基準に従って適正に使用されたものと認められるか否かについて判断する。
(1) 1000円切手の購入費用の支出額計162万円(甲5の番号378,甲7の1ないし8)について
被告は,P11議員による上記支出額の領収証書については,参加人において,政務調査費の支出を裏付ける証拠書類としては撤回したため,この点について論ずる必要はないと主張している。
そうすると,上記支出額は,本件使途基準に定める広報費に該当するものとは認められないから,本件使途基準に合致しないものというべきである。
(2) 広報配布料の支出額計193万7000円(甲8の1ないし26)について
ア 掲記の証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 参加人に所属するP3議員は,平成17年度当時,広報紙「P4」を毎月発行していたところ,その2006年3月号には,紙面全体のおおむね4分の1程度において,横浜市会の定数削減問題等の議会活動や市政に関する政策等についての記事が掲載されているが,その余の部分には,同議員の写真や経歴,後記(イ)のインターンシッププログラムの紹介記事,神奈川県議会議員によるP3議員の紹介記事等が掲載されている(乙15,30,33,56,58,証人P3)。
(イ) 平成17年度当時,P3議員の事務所では,政治に関心のある学生を対象としたインターンシッププログラムを実施していたところ,同議員は,平成17年5月から平成18年3月までの毎月,同プログラムに参加していた数名の学生らに指示して,1月当たり約1万部の「P4」を主に横浜市β区γ町,δ町及びε町の各戸に配布(ポスティング)させ,そのアルバイト代(広報配布料)として合計187万3000円を支払った(甲8の1ないし26,乙15,30,33,56,58,証人P3)。
イ 上記認定事実によれば,広報紙「P4」の2006年3月号のうち,議会活動や市政に関する政策等を市民に周知させるための広報活動としての意義を有するものと認められるのは,紙面全体の4分の1程度であり,その余の部分は,そのような意義を有するものとは認め難く,また,平成17年度において毎月発行されていたという「P4」の他の各号は,いずれも証拠として提出されていないから,それらの記載内容が上記広報活動としての意義を有するものであったと認めることは,甚だ困難であるといわざるを得ない。
そうすると,前記ア(イ)の広報配布料計187万3000円のうち,議会活動や市政に関する政策等を市民に周知させるための広報活動に要した経費と認めることができるのは,上記2006年3月号に対応する平成18年3月分の広報配布料計23万8000円(甲8の24ないし26)の4分の1相当額である5万9500円に限られ,その余の支出額は,当該広報活動に要した経費であるとは認められない。
したがって,上記広報配布料の支出額のうち5万9500円は,本件使途基準に従って適正に使用されたものと認められるが,その余の金額(主張額との差額で187万7500円)については,本件使途基準に合致しないものというべきである。
ウ ところで,P3議員は,上記広報配布料を支出した学生らに対し,「P4」を配布する際に,「P3事務所 政務調査担当」という肩書と当該学生らの氏名が書かれた名刺を持たせ,話ができそうな住民とは積極的に話をして市政についての感想や問題点,要望などをできる限り調査してくるよう指示しており,当該学生らの調査結果を,参加人としての政策の定立や活動等の参考としていた旨供述している(乙56,証人P3)。しかし,このような活動が「議会活動,市政に関する施策等を市民に周知させるための広報活動」に当たると認めることは困難である。また,被告及び参加人は,上記広報配布料が本件使途基準に定める広報費以外の他の使途項目(調査研究費,人件費等)に該当するという主張はしていないから,その点は判断の限りではない。
エ 他方,原告らは,印刷物のための支出がないことや領収証(甲8の1ないし26)に印紙の貼付がないことは不自然である旨主張する。しかし,証拠(乙56,57,証人P3)及び弁論の全趣旨によれば,「P4」の印刷代については,その2分の1が,P3議員の事務所における他の印刷費等の経費と共に,広報費以外の項目で平成17年度の政務調査費に計上されているものと認められる。また,金銭の受取書については,受取金額が3万円未満の場合のほか,営業に関しない場合にも,印紙税を課さないものとされているところ(印紙税法5条1号,別表第一の番号17欄参照),前記事実関係によれば,当該領収証は前記学生らの営業に関しないものと推認されるから,印紙税は課されないものと認められる。
次に,原告らは,「P4」は編集・発行がP3後援会となっており,政務調査費を当該後援会の活動のために使用することは違法であると主張する。しかし,たとえ「P4」を編集・発行していたのが上記後援会であるとしても,前記ア(ア)のとおり,その2006年3月号の一部には,参加人の議会活動や市政に関する政策等が掲載されていたというのであるから,これを市民に配布することは,前記イで説示した限度において,本件使途基準に定める広報活動に該当するというべきである。
したがって,原告らの上記各主張は,いずれも採用することができない。
(3) 領収証等のあて名が後援会である支出額計99万8589円(甲9の1ないし8)について
ア P5議員分計3万3629円(甲9の1,5及び8)
証拠(甲9の1,5及び8)によれば,株式会社P19が発行した平成17年8月付け(日付は空欄),同年9月15日付け及び平成18年1月11日付けの各領収証のあて名は,いずれも「P5後援会」とされているから,これらの領収証に係る支払をしたのは,P5後援会であると認められる。また,弁論の全趣旨によれば,P5後援会は,P5議員を支持又は援助するために設立された同議員個人とは独立した団体であると認められる。
そうすると,上記支出額計3万3629円(上記各領収証記載金額の2分の1相当額)は,たとえその一部がP5議員の市政報告文書を発送するための封筒の印刷費用であるとしても,そもそもその支出をしたのが同議員ではない以上,同議員が参加人からゆだねられた広報活動を行うために要した経費と認定する余地はない。したがって,これらの支出額は,本件使途基準に定める広報費には該当せず,本件使途基準に合致しないものというべきである。
イ P6議員分計88万4150円(甲9の2及び6)
証拠(甲9の2及び6)によれば,平成17年8月22日付け及び同年11月28日付けの各郵便料金受領証のあて名は,いずれも「P6後援会」とされているから,これらの郵便料金受領証に係る支払をしたのは,P6後援会であると認められる。また,弁論の全趣旨によれば,P6後援会は,P6議員を支持又は援助するために設立された同議員個人とは独立した団体であると認められる。
そうすると,上記支出額計88万4150円は,たとえP6議員の市政報告文書の郵送代であるとしても,そもそもその支出をしたのが同議員ではない以上,同議員が参加人からゆだねられた広報活動を行うために要した経費と認定する余地はない。したがって,これらの支出額は,本件使途基準に定める広報費には該当せず,本件使途基準に合致しないものというべきである。
ウ P7議員分計2万3460円(甲9の3及び4)
証拠(甲9の3及び4)によれば,平成17年9月9日付けの郵便料金受領証2通のあて名は,いずれも「P7後援会事務所」とされているから,これらの郵便料金受領証に係る支払をしたのは,P7後援会であると認められる。また,弁論の全趣旨によれば,P7後援会は,P7議員を支持又は援助するために設立された同議員とは独立した団体であると認められる。
そうすると,上記支出額計2万3460円(上記各郵便料金受領証記載額の2分の1相当額)は,たとえP7議員の市政報告文書の発送費用であるとしても,そもそもその支出をしたのが同議員ではない以上,同議員が参加人からゆだねられた広報活動を行うために要した経費と認定する余地はない。したがって,これらの支出額は,本件使途基準に定める広報費には該当せず,本件使途基準に合致しないものというべきである。
エ P8議員分5万7350円(甲9の7)
証拠(甲9の7)によれば,平成17年12月7日付けの郵便料金受領証のあて名は,「P8後援会」とされているから,この郵便料金受領証に係る支払をしたのは,P8後援会であると認められる。また,弁論の全趣旨によれば,P8後援会は,P8議員を支持又は援助するために設立された同議員とは独立した団体であると認められる。
そうすると,上記支出額5万7350円は,たとえP8議員の市政報告文書の発送費用であるとしても,そもそもその支出をしたのが同議員ではない以上,同議員が参加人からゆだねられた広報活動を行うために要した経費と認定する余地はない。したがって,これらの支出額は,本件使途基準に定める広報費には該当せず,本件使途基準に合致しないものというべきである。
オ 被告の主張に対する判断
被告は,① 前記各領収証のうち,P5議員分については,同議員が封筒を作成した際の領収証であり,同議員とその後援会を連名にして印刷していたため,そのあて名が後援会となったものであり,作成費用の2分の1に政務調査費を充当しているから違法な点はない,② 議員としての活動の領収証等と後援会の活動の領収証等が十分整理されていなくても,実質的に市政報告等の政務調査活動としての広報活動に使用されたものであれば違法とはいえないなどと主張する。
しかし,前記アないしエの各領収証等に記載されたあて名が各議員の後援会であるにもかかわらず,なお当該費用(P5議員及びP7議員についてはその2分の1)を各領収証等の発行者に支払ったのが各議員個人であると主張するのであれば,上記記載を覆すに足りる帳簿等の客観的な証拠による立証が求められるというべきであるが,そのような立証は全くされていない。かえって,証拠(乙18ないし21)によれば,被告がP6議員,P7議員及びP8議員において発送した市政報告文書であると主張する各広報紙は,いずれも各議員の後援会が発行者であることが紙面に明示されていることが認められるのであって,このことを前記各郵便料金受領証のあて名の記載と併せて考慮すれば,その発送費用を後援会ではなく議員個人が支払ったものと認めるのは一層困難であるというほかない。したがって,被告の上記各主張を採用することはできない。
(4) P9株式会社の領収証に係る支出額計40万8000円(甲10の1及び2)について
ア 掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 参加人に所属するP5議員は,平成17年度において,広報紙「P20」のζ区版を2回発行したところ,そのうち平成17年12月発行の冬号には,主として横浜市会の第3回定例会及び第4回定例会において可決された条例の紹介やζ区における行政施策等についての記事が掲載されている(乙16,34,証人P5)。
(イ) 同議員は,平成17年度において,株式会社P19に対し,上記広報紙の印刷を発注するとともに,同議員の友人らに対し,上記広報紙の各戸への配布(ポスティング)業務を依頼し,また,P21に対し,同議員が開設するホームページの更新や同議員のパーソナルコンピュータの設定等を発注したが,その際,資金的な余裕がなかったため,同議員の母が代表者を務めていたP9株式会社にこれらの費用を立て替えてもらうこととしたところ,同社は,① 同年5月10日,株式会社P19に対し,上記広報紙の印刷代として15万1000円を支払い,また,② 同年6月5日から同年7月15日にかけて,上記友人らに対し,上記広報紙のポスティング代として計23万9000円を支払い,さらに,③ 同月16日及び同年12月3日,P21に対し,それぞれホームページ更新等及びパーソナルコンピュータ設定の料金として計1万8000円を支払った(乙22の1ないし10,乙23の1及び2,乙34,証人P5,弁論の全趣旨)。
(ウ) P5議員は,同日,P9株式会社に対し,上記①ないし③の立替金として,計40万8000円を支払った(甲10の1及び2,乙34,証人P5)。
イ 前記ア(ア)の認定事実によれば,P5議員が発行した広報紙「P20」のζ区版のうち平成17年12月発行の冬号の内容は,主として議会活動や市政に関する政策等を市民に周知させるための広報活動としての意義を有するものと認めることができる。しかし,平成17年度において発行されていたという上記広報紙の他の号は,証拠として提出されていないから,その記載内容が上記広報活動としての意義を有するものであったと認めることは,甚だ困難であるといわざるを得ない。そして,前記ア(イ)①の印刷代及び同②のポスティング代は,その立替払の時期からみて,上記冬号の印刷及びポスティングに係る支出ではないことが推認されるから,議会活動や市政に関する政策等を市民に周知させるための広報活動を行うために要した経費であるとは認められない。
また,P5議員が開設していたというホームページの掲載内容が,議会活動や市政に関する政策等を市民に周知させるための広報活動としての意義を有するものであったことを認めるに足りる証拠はなく,また,パーソナルコンピュータの設定が当該広報活動とどのように関連するのかも不明であるから,前記ア(イ)③のホームページ更新等及びパーソナルコンピュータ設定の料金も,当該広報活動を行うために要した経費であるとは認められない。
したがって,P5議員による上記立替金計40万8000円の支出は,いずれも本件使途基準に定める広報費には該当せず,本件使途基準に合致しないものというべきである。
(5) 切手による郵便料の納付額計76万9230円(甲11の1ないし5)について
ア 掲記の証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 参加人に所属するP11議員は,平成17年12月22日及び同月24日,P22郵便局において,広報紙「P10」51号及び52号を郵便により発送して配布し,その郵便料金計50万9430円を同額分の郵便切手により支払った(甲11の1及び2,乙13の2及び3,乙30,32,証人P11)。
(イ) P11議員は,平成18年3月28日,P23郵便局,P24郵便局及びP25郵便局において,「P10」53号ないし55号を郵便により発送して配布し,その郵便料金計25万9800円を同額分の郵便切手により支払った(甲11の3ないし5,乙13の4ないし6,乙30,32,証人P11)。
(ウ) 「P10」51号には,主としていわゆる受動喫煙問題に関する政策等についての記事が掲載され,同52号には,主として子どもの安全に関する政策等についての記事が掲載され,同53号には,平成17年末に横浜市が発表した「2005年横浜10大ニュース」に採り上げられた政策等についての記事が掲載され,同54号には,主として議会活動や市政に関する政策等についての記事とP11議員が理事を務めるNPO法人の理事長による講演会についての記事がそれぞれ同程度に掲載され,同55号には,主として同議員が当該NPO法人理事としてカンボジアを訪問し学校贈呈式に出席したことについての記事が掲載されている(乙13の2ないし6)。
イ 上記認定事実によれば,まず,「P10」51号及び52号の内容は,いずれも主として議会活動,市政に関する政策等を市民に周知させるための広報活動としての意義を有するものと認めることができるから,前記ア(ア)で認定した同51号及び52号の発送費用計50万9430円は,その全額が,当該広報活動を行うための経費として,本件使途基準に定める広報費に該当するものと認められる。
次に,同53号の内容は,上記と同様に,主として議会活動,市政に関する政策等を市民に周知させるための広報活動としての意義を有するものと認めることができ,同54号の内容についても,その半分程度は,当該広報活動としての意義を有するものと認めることができる。しかし,同54号の内容のうち残りの半分程度は,P11議員が理事を務めるNPO法人の理事長による講演会についての記事であり,さらに,同55号の内容は,主として同議員が当該NPO法人理事としてカンボジアを訪問し学校贈呈式に出席したことについての記事であって,これらの記事が議会活動や市政に関する政策等を市民に周知させるための広報活動としての意義を有するものと認めることは困難である。そうすると,前記ア(イ)で認定した同53号ないし55号の発送費用計25万9800円については,その2分の1相当額の12万9900円に限り,当該広報活動を行うための経費として,本件使途基準に定める広報費に該当するものと認めるのが相当であり,その余の額は,当該広報費に該当しないものと認められる。
したがって,上記各発送費用のうち63万9330円は,本件使途基準に従って適正に使用されたものと認められるが,その余の12万9900円の支出については,本件使途基準に合致しないものというべきである。
ウ なお,原告らは,金銭と切手で領収書等が二重に取得されている可能性を指摘し,郵便切手による郵便料金の納付額は政務調査費の使途として認められない旨主張する。しかし,P11議員が郵便料金の納付に用いた郵便切手の購入代金が参加人の政務調査費として別途二重に計上されている事実を認めるに足りる証拠はない(なお,前記(1)のとおり,当裁判所は,1000円切手の購入費用については,本件使途基準に従って適正に使用されたものではないと判断するので,仮に,当該1000円切手が上記郵便料金の納付に用いられたものであるとした場合でも,当該郵便料金が二重に計上されることにはならない。)。
また,原告らは,「P10」は,P11議員の名前と顔写真を大きく掲載し,自己宣伝に主眼を置いている旨主張する。しかし,議員が広報紙により議会活動,市政に関する施策等について広報活動を行う場合に,当該広報活動の主体又は責任の所在を明らかにするため,相当な範囲で議員の氏名や顔写真等を掲載することは許されるものと解されるところ,証拠(乙13の2ないし5)によれば,「P10」51号ないし54号における同議員の氏名や顔写真の紙面に占める割合は不相当に過大なものではないと認めることができる。
したがって,原告らの上記各主張は,いずれも採用することができない。
(6) P12郵便局の平成17年11月7日付け領収証書に係る支出額1万6500円(甲12)について
被告は,P11議員による上記支出額の領収証書については,参加人において,政務調査費の支出を裏付ける証拠書類としては撤回したため,この点について論ずる必要はないと主張している。
そうすると,上記支出額は,本件使途基準に定める広報費に該当するものとは認めることができず,本件使途基準に合致しないものというべきである。
(7) P13議員のインターネット関連費用の支出額(甲13等)について
ア 掲記の証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 参加人に所属するP13議員は,インターネットのホームページを開設しているところ,平成17年3月以降,株式会社P26に対し,そのホームページの更新等の業務を依頼し,同月31日付けで,同月分のホームページ更新料,ブログ費用及びドメイン利用料10万7100円の請求を受け,同年4月12日にこれを支払い,その後も,同社から毎月末日付けで当月分のホームページ更新料及びドメイン利用料5万4600円の請求を受け,その翌月以降にその支払を行った結果,平成17年度中に計70万7700円を同社に支払っており,同額が参加人の平成17年度政務調査費のうちの広報費として計上されている(甲5,13,19,乙24,30,38)。
(イ) 上記ホームページには,「政策」や「横浜市会における活動」と題するページがあり,また,「P27」と題するページには,おおむね平成17年度前後のものと思われる情報として,同議員が横浜市会本会議において質問を行ったこと,同議員が横浜市の水源地を訪問したこと,同議員が横浜市会の議員定数削減を提案していること等が掲載されている(甲19)。
イ 上記認定事実によれば,P13議員の上記ホームページの掲載内容及び平成17年度における毎月の更新は,議会活動,市政に関する政策等を市民に周知させるための広報活動としての意義を有するものであったと認めることができる。そうすると,上記支出額は,本件使途基準に定める広報費に該当するから,本件使途基準に従って適正に使用されたものと認められる。
ところで,前記ア(ア)のとおり,P13議員は,株式会社P26に対し,平成17年3月分のホームページ更新料,ブログ費用及びドメイン利用料10万7100円を同年4月に支払っている。
地方自治法は,政務調査費の交付を受けた会派又は議員は,条例の定めるところにより,当該政務調査費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出するものとすると定めているが(100条14項),その支出の計上時期をいかなる基準によって決すべきかを定めておらず,本件条例並びにその委任を受けた本件規則及び本件規程も,その「支出」の計上時期については特に規定を置いていない。その趣旨は,政務調査費の支出の計上時期については,当該政務調査費の交付を受けた各会派の自主性,独立性を尊重し,当該各会派が採用している基準にゆだねる趣旨であると解される。そうすると,政務調査費の交付を受けた各会派においては,その自律的な判断により,例えば,政務調査費の支出の計上時期を現金の支出時とする基準(現金主義)を採用することも許されるというべきである。
これを本件についてみると,前記ア(ア)の認定事実に加え,証拠(乙38)及び弁論の前趣旨によれば,参加人においては,政務調査費の支出の計上時期を,あらかじめ費用の前払を受けた所属議員による現金の支出の時とする基準を採用しているものと認めることができる。したがって,参加人においてP13議員の平成17年3月分の上記支出額を平成17年度政務調査費に計上していることが,違法ということはできない。
ウ これに対し,原告らは,政務調査費は補助金の性質を有するところ,補助金は年度ごとにその年度の事業の補助として交付されるものであるから,平成16年度に支払時期が来ていたものを平成17年度の事業費とすることはできない旨主張する。しかし,たとえ政務調査費に補助金としての性質があるとしても,そのことから論理必然的にその交付を受けた会派における政務調査費の支出の計上時期の基準が定まるものではなく,その基準をどのように定めるかは,立法政策の問題というべきであるから,原告らの上記主張を採用することはできない。
なお,原告らは,参加人の平成17年度政務調査費のうちの広報費に計上されているP13議員のインターネット関連費用は76万2300円であると主張するが,証拠(甲5,乙24)によれば,前記ア(ア)のとおり,その金額は70万7700円と認められるから,原告らの上記主張を採用することはできない。
(8) 社会福祉協議会に対する切手代の支出額3万4560円(甲14)について
ア 掲記の証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア) α地区社会福祉協議会は,市民から不要になった郵便切手の寄付を受けているところ,参加人に所属するP14議員は,平成17年8月9日,同協議会が使用しきれずに余っていた3万4560円分の郵便切手を,同協会からその額面金額で購入し,同額の代金を支払った(甲14,乙30,39)。
(イ) P14議員は,上記郵便切手を,平成17年8月22日に開催されたP14市政報告会及び平成18年2月20日に開催された市政報告・講演会の案内文書の発送費用の一部として使用した(乙25,26,30,39)。
イ 上記認定事実によれば,P14議員が購入した3万4560円分の郵便切手は,同議員による市政報告会及び市政報告・講演会の案内文書の発送に使用されたものであるが,このような会合において直接市民に対して市政報告を行うことは,議会活動,市政に関する政策等を市民に周知させるための広報活動としての意義を有するものと認めることができる。
したがって,上記郵便切手購入費用の支出額は,本件使途基準に定める広報費に該当するから,本件使途基準に従って適正に使用されたものと認められる。
ウ これに対し,原告らは,前記各案内文書の作成名義人がP14連合後援会会長やP14政経研究会会長の連名又は後者であることを指摘し,上記支出額は,政務調査費をこれらの団体の支出に使用したもので違法である旨主張する。しかし,たとえこれらの団体が前記市政報告会及び市政報告・講演会を主催していたとしても,前記イのとおり,これらの会合において直接市民に対して市政報告を行うことは,議会活動,市政に関する政策等を市民に周知させるための広報活動としての意義を有するのであるから,そのための案内文書の発送費用は,本件使途基準に定める広報費に該当するというべきである。原告らの上記主張を採用することはできない。
なお,原告らは,前記市政報告・講演会の案内文書に,落語家が来る旨記載されていることを指摘する。しかし,証拠(乙26)によれば,当該会合において,P14議員は,少子化問題等についての市政報告を行ったものであるところ,当該落語家は,落語等を披露したのではなく,多年にわたり少年非行問題に関わってきた経験を踏まえた講演を行ったものと認められ,その講演内容は同議員による市政報告とも関連するものであると解されるから,当該講演が行われたからといって,同議員による市政報告が前記広報活動としての意義を有することが否定されるものではない。
(9) 参加人による撤回分を上回る広報費支出の有無等について
ア 被告が政務調査費収支報告書の支出額に計上されていない広報費の支出を主張することの可否について
原告らは,政務調査費収支報告書3項には,横浜市が交付した政務調査費に対しての「差し引き」の欄があるから,会派が行った政務調査費を使用した調査研究費用の全額を記載すべきであり,政務調査費収支報告書に記載されていない支出の存在を主張して新たな証拠書類を提出することは許されない旨主張する。
しかし,そもそも政務調査費は,議員の調査研究に資するため必要な経費の「一部として」交付されるものであるから(地方自治法100条13項,本件条例1条),地方自治法及び本件条例は,政務調査費の交付を受けた会派がその交付額を上回る金額の上記経費を支出することを当然に予定しているものと解される。そして,本件訴訟における原告らの請求は,被告に,本件各会派に対して本件各広報費の額に相当する額の不当利得に基づく返還請求又は不法行為に基づく損害賠償請求を行うよう求めるものであるところ,仮に,会派が本件使途基準に従って適正に使用した広報費等の政務調査費の支出額がその交付額を上回っているのであれば,当該会派の横浜市に対する不当利得又は不法行為が成立する余地はないことになる。
ところで,前記1(1)で説示したとおり,政務調査費の制度を定めた地方自治法の趣旨は,議会の審議能力を強化し,議員の調査研究活動の基盤の充実を図るため,議会における会派又は議員に対する調査研究の費用等の助成を制度化し,併せてその使途の透明性を確保しようとする点にある。そして,地方自治法100条14項,本件条例6条及び7条並びに本件規程6条及び第4号様式に規定する政務調査費の収支報告書の制度は,上記のような政務調査費制度の立法趣旨,特にそれが議員活動の公費による助成という性格を有するところから,その使途の適正と透明性を確保すべきであるとの見地に立って,特に収支報告書の制度を創設したものと解される。
しかし,地方自治法100条14項は,政務調査費の交付を受けた会派又は議員は,条例の定めるところにより,「当該政務調査費に係る収入及び支出」の報告書を議長に提出するものとすると定めているから,同項が収支報告書に記載を求めている「支出」とは,あくまでも当該会派又は議員が交付を受けた政務調査費に係る支出であると解される。
また,政務調査費の交付を受けた会派が,所属議員の調査研究に資するため必要な経費をその交付額を超えて支出した場合において,収支報告書の支出額の記載欄(本件条例6条,第4号様式参照)に,その支出額の一部のみを記載したとしても,その記載された支出額が交付額を上回るものである限り,政務調査費の使途の適正と透明性は十分に確保されているということができる。
さらに,議員が行う調査研究は,議会の調査権(地方自治法100条1項参照)と密接にかかわり,その作用を十全に発揮させるための基礎としての意義を有するところ,議会は,長その他の執行機関を監視する責務を負っているから,議員の行う調査研究も,執行機関やこれを政治的に支える与党に対する批判や監視という性格を帯びた内容になり得るものである。そして,会派に所属する議員の調査研究が,執行機関や与党に対する健全な批判という役割を十分に果たすためには,当該会派及び議員の独立性,自主性ができる限り尊重される必要がある。
そうすると,政務調査費の交付を受けた会派は,所属議員の調査研究に資するため必要な経費をその交付額を超えて支出した場合においても,その自律的な判断により,収支報告書の支出額の記載欄に,実際の支出額の全額を記載することなく,その一部のみを記載をすることも許されるというべきである。
そして,収支報告書の制度を定めた地方自治法100条14項,本件条例6条及び7条並びに本件規程6条及び第4号様式の規定は,上記のように,政務調査費の交付を受けた会派が,所属議員の調査研究に資するため必要な経費の支出額の一部のみを収支報告書の支出額の欄に記載した場合に,本件のように当該政務調査費の使途が不適切であるとして不当利得返還請求又は損害賠償請求が求められる住民訴訟において,被告が当該収支報告書の支出額に計上されていない支出の存在を主張することを許さないという趣旨を含むものとは解されない。なお,このような主張が制限されるべきであるかどうかと,議長に提出された収支報告書の訂正を要するかどうかは,あくまでも別個の問題というべきであり,その訂正がされていないからといって,訴訟における上記主張が制限されることにはならない。
したがって,本件訴訟においても,被告が政務調査費収支報告書の支出額に計上されていない広報費の支出(後記イ及びウ)を主張すること自体が許されないとはいえないから,原告らの上記主張を採用することはできない。
イ P11議員による平成18年3月27日の広報紙発送費用27万円(乙14)について
証拠(乙13の4ないし6,乙14,30,32,証人P11)によれば,P11議員は,平成18年3月27日,P24郵便局において,広報紙「P10」53号ないし55号を郵便により発送して配布し,その郵便料金27万円を郵便切手により支払ったことが認められる。
しかし,前記(5)イで説示したところによれば,上記発送費用は,その2分の1相当額の13万5000円に限り,当該広報活動を行うための経費として,本件使途基準に定める広報費に該当するものと認めるのが相当であり,その余の額は,当該広報費に該当しないものと認められる。
ウ P15議員による広報紙の制作費用及び発送代行費用の支出額計158万9250円(乙28,29)について
(ア) 掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
a 参加人に所属するP15議員は,平成17年度において,P28党本部が発行する有料の広報紙「P16」の「<地方議員特集>横浜市会版」(号外)との位置付けで,自ら無料の広報紙「P16」を発行したが,その際,制作及び発送代行を株式会社P29に発注し,平成17年10月28日,制作費用として84万3675円,発送代行費用として74万5575円をそれぞれ支払った(乙27ないし30,40)。
b 上記の「P16」には,主として,平成17年9月21日に行われた横浜市会第3回定例会の一般質問においてP15議員が参加人を代表して当時のP30市長に対して行った市政全般についての質問の内容,趣旨及びこれに対する参加人執行部の評価等についての記事が掲載されている(乙27)。
(イ) 上記認定事実によれば,上記の「P16」(乙27)の内容は,主として議会活動,市政に関する政策等を市民に周知させるための広報活動としての意義を有するものと認めることができるから,その制作費用84万3675円及び発送代行費用74万5575円は,その全額が,当該広報活動を行うための経費として,本件使途基準に定める広報費に該当するものと認められる。
したがって,上記各費用の支出額は,本件使途基準に従って適正に使用されたものと認められる。
(ウ) これに対し,原告らは,「P16」(乙27)に「定価1部105円(税込み)」と表示されていることから,有料の広報紙の作成・配布費用に政務調査費を充てることはできないと主張する。しかし,証拠(乙40)によれば,上記の価格表示は,前記(ア)aのとおり,P28党本部が発行する有料の広報紙の「<地方議員特集>横浜市会版」(号外)との位置付けで発行されたために,そのまま記載されたものにすぎず,P15議員は,無料で「P16」(乙27)を発行したものと認められるから,原告らの上記主張は,その前提を欠き,採用することができない。
(10) 小括
以上によれば,参加人が平成17年度政務調査費収支報告書の広報費の欄に計上した支出額中,P11議員による1000円切手の購入費用の支出額計162万円(前記(1)),P3議員による広報配布料の支出額のうち187万7500円(前記(2)),領収証のあて名がP5議員,P6議員,P7議員及びP8議員の各後援会である支出額計99万8589円(前記(3)),P5議員によるP9株式会社の領収証に係る支出額計40万8000円(前記(4)),P11議員の切手による郵便料の納付額のうち12万9900円(前記(5))及び同議員によるP12郵便局の平成17年11月7日付け領収証書に係る支出額1万6500円(前記(6))の合計505万0489円については,本件使途基準に合致しないものというべきであるが,P3議員による広報配布料の支出額のうち5万9500円(前記(2)),P11議員の切手による郵便料の納付額のうち63万9330円(前記(5)),P13議員によるインターネット関連費用の支出額70万7700円(前記(7))及びP14議員による社会福祉協議会に対する切手代の支出額3万4560円(前記(8))については,本件使途基準に従って適正に使用されたものと認められ,その余の支出額についても,原告らはその支出の違法事由を具体的に主張していないから,違法性は認められない。
他方,上記収支報告書に計上されていない支出額のうち,P11議員による平成18年3月27日の広報紙発送費用27万円(前記(9)イ)については,その2分の1相当額である13万5000円に限り,本件使途基準に従って適正に使用されたものと認められ,また,P15議員による広報紙の制作費用及び発送代行費用の支出額計158万9250円(同ウ)については,本件使途基準に従って適正に使用されたものと認められる。
よって,横浜市は,参加人に対し,前記505万0489円の本件使途基準に合致しない支出額から上記13万5000円及び158万9250円の適法な支出額を控除した332万6239円について,不当利得に基づく返還請求権を有しており,被告はその行使を違法に怠っているというべきである。
なお,前記各議員による本件使途基準に合致しない各支出それ自体が参加人の横浜市に対する不法行為を構成するということはできないから,横浜市が参加人に対し不法行為に基づく損害賠償請求権を有するとは認められず,被告がその行使を違法に怠っているとはいえない。
4 P1党市議団における個別の広報費支出の適否(争点(4))
(1) データ入力費用の支出額計48万円(甲15の1ないし12)について
ア 掲記の証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア) P1党市議団においては,あらゆる場面を通じて市民からの意見や要望を聴取する広聴活動を行うとともに,その意見や要望が議会活動においてどのように活かされ,実現されたのかを市民に報告する広報活動を行っているところ,P1党市議団に所属する議員らは,平成17年度の当時,上記広聴広報活動を通じて,これらの対象となる市民の個人情報を1万件弱入手していたが,そのデータは活動の折々に使用した色々な形態の媒体に記録されていたことから,今後の広聴広報活動を円滑に行うため,それらを精査し整理する必要があった(乙31,41)。
(イ) そこで,P1党市議団に所属するP31議員は,平成17年度において,毎月800件のデータにつき,アルバイトを雇用して広報あて先リストを作成するためのデータ入力を行わせ,1件当たり50円(毎月4万円,年間計48万円)のアルバイト代を支払った(甲15の1ないし12,乙31,41)。
イ 上記認定事実によれば,上記データ入力費用の支出額は,P1党市議団の広聴活動において意見や要望を述べた市民に対し,その意見や要望が議会活動においてどのように活かされ,実現したのかを市民に報告するための広報活動を円滑に行うための広報あて先リストの作成費用として支出されたものということができる。
そうすると,上記支出額は,議会活動,市政に関する政策等について市民に周知させるための広報活動を行うために要した経費と認めることができるから,本件使途基準に定める広報費に該当する。
したがって,上記支出額は,本件使途基準に従って適正に使用されたものと認められる。
ウ これに対し,原告らは,件数が毎月一定であること,単価が50円であること,毎月入力の必要性に疑問があること,領収証に印紙の貼付がないことなどから,上記支出額は,非現実的かつ非合理的であるなどと主張する。
しかし,前記アの認定事実によれば,件数が毎月一定であること,単価が50円であること,毎月入力が行われていることなどが特に非現実的又は非合理的であるということはできない(なお,証拠(乙31)によれば,データ入力の外部業者への発注費用は,1件当たり100円前後が多いことがうかがわれる。)。また,前記アの事実関係によれば,上記支出額に係る領収証(甲15の1ないし12)の発行者はアルバイトであると認められ,このことをからすれば,当該領収証は,発行者の営業に関しないものと推認され,前記3(2)エで説示したとおり,印紙税が課されないものと認められるから,当該領収証に印紙の貼付がないことが不自然であるということができない。
したがって,原告らの上記主張を採用することはできない。
(2) 領収証書の日付が平成16年度に属する支出額計1595円(甲16の1ないし3)について
ア 掲記の証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア) P31議員は,平成17年1月6日,P32郵便局において,広報紙を発送して,その郵便料金として510円を支払った上,同年4月30日,P1党市議団に対し,同額の広報費の支出を請求し,そのころ,その支出を受けた(甲6,16の2)。
(イ) P31議員は,同月20日,P32郵便局において,市政報告会案内用はがきとして用いるため,通常はがき23枚をインクジェット紙のはがき23枚と交換し,その手数料として115円を支払った上,同年4月30日,P1党市議団に対し,同額の広報費の支出を請求し,そのころ,その支出を受けた(甲6,16の1)。
(ウ) P31議員は,同年2月22日,P32郵便局において,広報紙を発送し,その郵便料金として970円を支払った上,同年4月30日,P1党市議団に対し,同額の広報費の支出を請求し,そのころ,その支出を受けた(甲6,16の3)。
(エ) P1党市議団は,上記各広報費の支出額を平成17年度における政務調査費の支出額に計上した(甲6)。
イ 上記認定事実によれば,上記支出額計1595円は,議会活動,市政に関する政策等を市民に周知させるための広報活動を行うために要した経費であると認めることができるから(なお,原告らは,前記各広報紙及び前記市政報告会の内容が当該広報活動としての意義を有することを争っていない。),本件使途基準に定める広報費に該当する。したがって,上記支出額は,本件使途基準に従って適正に使用されたものと認められる。
ところで,P31議員のP1党市議団に対する上記各広報費支出の請求及びこれを受けたP1党市議団の同議員に対する上記各広報費の支出自体は,いずれも平成17年度中に行われたものであるが,その原因となった同議員による経費の支払は,いずれも平成16年度中に行われたものと認められる。
しかし,前記3(7)イのとおり,政務調査費の交付を受けた各会派においては,その自主的な判断により,例えば,政務調査費の支出の計上時期を現金の支出時とする基準(現金主義)を採用することも許されると解される。
これを本件についてみると,前記アの認定事実によれば,P1党市議団においては,政務調査費の支出の計上時期を,政務調査活動をゆだねられた所属議員による経費の支払時とするのではなく,P1党市議団が当該議員に対し現金を支出する時とする現金主義を採用しているものと解される。したがって,P1党市議団における前記アの各広報費の支出が違法なものということはできない。
(3) 財団法人P17協会に対する支出額1万1400円(甲17)について
ア 掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) P1党市議団に所属するP33議員は,平成17年7月22日,財団法人P17協会から,郵便切手400円分及び登記印紙1万1000円分を購入し,計1万1400円の代金を支払った(甲17,乙31,41)。
(イ) P33議員は,上記郵便切手を広報紙の発送のために使用し,上記登記印紙を発行予定の広報紙の資料とするための土地登記事項一部証明書の取得に使用した(乙31,41,弁論の全趣旨)。
イ 上記認定事実によれば,上記支出額計1万1400円は,議会活動,市政に関する政策等を市民に周知させるための広報活動を行うために要した経費であると認めることができるから(なお,原告らは,上記広報紙の内容が当該広報活動としての意義を有することを争っていない。),本件使途基準に定める広報費に該当する。
したがって,上記支出額は,本件使途基準に従って適正に使用されたものと認められる。
ウ これに対し,原告らは,上記支出額には収入印紙代が含まれているところ,広報費に収入印紙代が含まれているのは理解不能であるなどと主張するが,前記ア(ア)のとおり,P33議員が購入したのは,収入印紙ではなく登記印紙であると認められるから,原告らの上記主張を採用することはできない。
(4) P18郵便局の平成17年9月21日付け領収証書に係る支出額500円(甲18)について
ア 証拠(甲18,乙31,41,42)によれば,P33議員は,平成17年9月21日,P18郵便局において,P1党市議団が発行した広報紙100枚を,「エクスパック500」により,配布協力者であるP34あてに発送し,その費用500円を支払ったことが認められる。
イ 上記認定事実によれば,上記支出額500円は,議会活動,市政に関する政策等を市民に周知させるための広報活動を行うために要した経費であると認めることができるから(なお,原告らは,上記広報紙の内容が当該広報活動としての意義を有することを争っていない。),本件使途基準に定める広報費に該当する。
したがって,上記支出額は,本件使途基準に従って適正に使用されたものと認められる。
ウ これに対し,原告らは,上記支出額に係る領収証書(甲18)に「収」と記載されているのは,収入印紙を意味するところ,収入印紙を政務調査費に使う場面はないなどと主張する。しかし,「収」の記載が収入印紙を意味するものと認めるべき証拠はないし,また,仮にそうであったとしても,その余の前記証拠をもって上記事実は優に認定し得るところであるから,原告らの上記主張を採用することはできない。
(5) 小括
以上によれば,P1党市議団が平成17年度政務調査費収支報告書の広報費の欄に計上した支出額中,前記(1)ないし(4)の各支出額は,いずれも本件使途基準に従って適正に使用されたものと認められ,その余の支出額についても,原告らはその支出の違法事由を具体的に主張していないから,本件使途基準に合致しない違法なものと認めることはできない。
したがって,P1党市議団による平成17年度政務調査費のうち広報費の支出が,参加人の横浜市に対する不当利得又は不法行為を構成するということはできないから,横浜市が参加人に対し不当利得に基づく返還請求権又は不法行為に基づく損害賠償請求権を有するとは認められず,被告がそれらの行使を違法に怠っているとはいえない。
5 結論
よって,原告らの請求は,被告に対し,参加人に対して332万6239円の不当利得返還請求をすべき旨を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないからいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佐村浩之 裁判官 戸室壮太郎)
裁判官一原友彦は,職務代行を解かれたため署名押印することができない。裁判長裁判官 佐村浩之