横浜地方裁判所 平成19年(行ウ)85号 判決 2010年5月12日
主文
1 本件訴えのうち、平成19年8月31日付け回答の違法確認請求にかかる部分を却下する。
2 原告の1次的請求をいずれも棄却する。
3 被告は、原告に対し、1727万8030円及びうち549万7100円に対する平成12年3月1日から、うち510万5100円に対する平成13年3月1日から、うち667万5830円に対する平成14年3月1日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、これを5分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 被告が、平成19年8月31日付けで、原告に対しなした「固定資産税等の返還請求には応じられない」とする回答が違法であることを確認する。
2 主文3項と同旨
第2事案の概要
本件は、被告が納入した平成11年度から13年度までの固定資産税及び都市計画税の一部について、課税標準の特例の適用の誤りによって過納があるとして、原告が被告に対し、1次的には、①被告が定めた市税に係る返還金の支払要綱(以下「本件支払要綱」という。)、あるいは、②地方税法17条に基づいて、2次的には、③国家賠償法1条1項に基づいて、平成11年度から平成13年度の過納金合計1570万7300円(平成14年度及び15年度については、被告から既に返還を受けている。)と、最終分割納付日(平成11年度分については平成12年2月29日、平成12年度分については平成13年2月28日、平成13年度分については平成14年2月28日)の翌日から各支払済みまで、年5分の割合による金員(①については、本件支払要綱所定の年5分の割合による利息(本件支払要綱4項及び6項)、②については還付加算金の一部、③については遅延損害金)の各支払を求めるとともに、各①から③の請求に加算して、弁護士費用として157万0730円及びこれに対する平成14年3月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、さらに、行政事件訴訟法4条に基づいて、同要綱に基づく返還を行わないことを表明した回答の違法確認をも求める事案である。
1 関係する法令の定め
(1) 地方税法附則15条3項(平成12年法律第4号の改正前のもの、以下同じ、〔証拠省略〕)では、「平成7年1月2日から平成12年3月31日までの間に、倉庫業法第6条第1項に規定する倉庫業者(括弧内省略)が新設し、又は増設した輸入の促進に寄与する倉庫として政令で定めるもの若しくは流通機能の高度化に寄与する倉庫として政令で定めるもの又はこれらの倉庫に附属する機械設備で政令で定めるもの及び港湾運送事業法第8条第1項に規定する港湾運送事業者(括弧内省略)が新設し、又は増設した輸入の促進に寄与する上屋として政令で定めるもの(括弧内省略)に対して課する固定資産税又は都市計画税の課税標準は、第349条、第349条の2又は第702条第1項の規定にかかわらず、当該倉庫等に対して新たに固定資産税が課税されることとなった年度から5年度分の固定資産税又は都市計画税に限り、当該倉庫等に係る固定資産税又は都市計画税の課税標準となるべき価格の2分の1(当該倉庫等のうち自治省令で定めるものにあっては、当該倉庫等に係る固定資産税又は都市計画税の課税標準となるべき価格の4分の3)の額とする。」とされていた。
(2) そして、これを受けた地方税法施行令附則11条3項(平成12年政令第154号改正前のもの、以下同じ。)では、「法附則第15条第3項に規定する輸入の促進に寄与する倉庫として政令で定めるものは、関税法(昭和29年法律第61号)第2条第1項第11号に規定する開港の区域を地先水面とする地域において定められた港湾法第2条第4項に規定する臨港地区の区域内において新設され、若しくは増設された倉庫又は関税法第42条第1項に規定する保税蔵置場として同項による許可を受けた倉庫であって、次に掲げる要件に該当するものであることについて自治省令で定めるところにより証明がされたものとする。」とされ、その要件が
「1 容器に入っていない粉状若しくは粒状の物品その他のばらの物品を保管する倉庫であって穀物の貯蔵用の倉庫としての構造を有するもの(以下本項において「貯蔵槽倉庫」という。)、自治省令で定める冷蔵品を保管する倉庫(以下本項及び次項において「冷蔵倉庫」という。)又はその他の倉庫で自治省令で定めるもの(以下本項及び次項において「一般倉庫」という。)のいずれかであること。
2 倉庫業法第5条第4号の基準に適合しているものであり、かつ、法附則第15条第3項に規定する倉庫業者によって専ら他人の物品の保管の用に供されているものであること。
3 主要構造部が鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄筋コンクリート造又は鉄骨造(自治省令で定める骨格材を用いるものに限る。)であること。
4 (省略)
5 冷蔵倉庫にあっては、次に掲げる要件に該当するものであること。
イ その階高(床面から上階の床の下面(上階のない場合には、軒)までの高さをいう。次号及び第6項において同じ。)及び容積がそれぞれ4メートル以上及び1600立方メートル以上のものであること。
ロ 第5項第1号イに掲げる強制送風式冷蔵装置が設けられているものであること。
ハ 搬出入の利便性の向上のために必要とされる要件として自治省令で定めるものを備えているものであること。」
と定められていた。
(3) また、地方税法施行規則附則(平成12年自治省令44号による改正前のもの、以下同じ。)6条2項では「政令附則第11条第3項に規定する自治省令で定めるところにより証明がされた倉庫は、同項各号に掲げる要件に該当するものとして、運輸大臣の定めるところにより地方運輸局長(括弧内省略)の証明がされた倉庫とする。」、同3項では「政令附則第11条第3項第1号に規定する自治省令で定める冷蔵品は、倉庫業法施行規則別表に掲げる第8類物品とし、同号に規定する自治省令で定める倉庫は、同規則第3条第1項第1号に規定する1類倉庫とする。」、同4項では「政令附則第11条第3項第3号に規定する自治省令で定める骨格材は、その肉厚が3ミリメートル以上の骨格材とする。」と定められ、同6項では「政令附則第11条第3項第5号ハ及び第6号ロに規定する自治省令で定める要件は、次に掲げる要件とする。」として、
「一 貨物の搬出入のためのプラットホームで地盤面からの高さ1メートル以上のもの(以下本項及び第15項において「高床式プラットホーム」という。)及び車両の荷台又はコンテナの床面と高床式プラットホームの床面との高さを調整する装置(以下本項及び第15項において「自動高低差調整装置」という。)が設けられているものであること。
二 高床式プラットホームの前面に奥行20メートル以上の空地が設けられているものであること。」
が掲げられていた。
なお、前記法令及び規則は、平成13年度の課税処分までに改正されているが、輸入の促進に寄与する倉庫に関する規定について、その内容に実質的な改正はない。
(4) 平成19年3月30日川財税第1297号による改正前の本件支払要綱(〔証拠省略〕)は、次のとおり定められていた。
「1 この要綱は、瑕疵ある課税処分に基づき納付又は納入された市税で、地方税法(昭和25年法律第226号)の規定によっては還付することができない過誤納金に相当する額(以下「還付不能金」という。)及びこれに係る利息相当額(以下併せて「返還金」という。)を納税者に返還することにより、納税者の不利益を補填し、もって税負担の公平の確保と行政に対する信頼の回復を図ることを目的とする。
2 返還金は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第232条の2(寄附又は補助)の規定に基づく寄附金として支出する。
3 返還金を受けることができる対象者(以下「返還対象者」という。)は、瑕疵ある課税処分に基づく市税を納付又は納入した納税者とする。
ただし、当該納税者が死亡している場合は、相続人を返還対象者とする。
4 返還金は、次に掲げる合計額とする。
(1) 還付不能金
(2) 利息相当額(第6項で計算した日数に応じ、還付不能金に年5分の割合を乗じて得た金額)
5 還付不能額の遡及期間は5年とする。ただし、この期間を超える場合でも、還付不能金を算定できるものについては、それを算定できる期間(15年を限度とする。)に限り遡及する。
6 利息の計算期間の起算日は、過誤納金が納付または納入された日の翌日とし、終期は、支出を決定した日とする。
7 返還金の支払いを受けようとする返還対象者は、市長に対し返還金に関する請求書を提出するものとする。
8 市長は、返還対象者から請求書を受理した場合は、その内容を調査し、返還金の額を確定し、返還対象者に通知するものとする。」
(5) 本件支払要綱は、平成19年3月30日川財税第1297号による改正(平成19年4月1日施行)により、3項が以下のとおりとなり、3の2が追加されている(〔証拠省略〕)。
「3 返還金を受けることができる対象者(以下「返還対象者」という。)は、瑕疵ある課税処分に基づく市税を納付又は納入した納税者とする。ただし、当該納税者が死亡している場合は、相続人を返還対象者とする。
なお、返還金が納税者の虚偽その他不正な手段により生じた場合等において、返還金を支払うことが公益上不適切であると認められるときは、返還金は生じていないものとみなし、返還対象者としない。
3の2 第1項に規定する瑕疵ある課税処分とは、次に掲げるものとする。
(1) 納税義務者を誤認して課税するなど課税処分として無効なもの
(2) 誤った課税処分により、納税者に損害を与えた場合で、当該処分の誤りにつき、故意又は過失の認められるもの」
2 基礎となる事実(括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 原告は、別紙物件目録記載の符号1の建物(以下「本件倉庫」という。)の所有者である。本件倉庫は、倉庫業法5条4項、同法施行規則3条1項8号にいう冷蔵倉庫で、床面積は15,007.23平方メートルである(〔証拠省略〕)。
(2) 原告(当時の商号はa株式会社)は、平成10年1月10日、主たる建物である事務所と本件倉庫を新築して、同年3月16日、所有権保存登記を経由した(〔証拠省略〕)。
(3) 原告は、関東運輸局長に対し、平成10年9月25日付けで「新・増設倉庫上屋証明申請書」を提出して、本件倉庫が地方税法施行令附則11条3項各号が規定する輸入促進倉庫の要件に該当するものであることについての証明を申請した。関東運輸局長は、同月30日付けでこれを証明した(〔証拠省略〕、以下「本件証明書」という。)。本件証明書では、床面積(容積)及び階数の欄に、「75,682.59m3・6階」の記載があるほか、輸入促進に寄与する倉庫(地方税法施行令附則11条3項)と強制送風式冷蔵装置(地方税法施行令附則11条5項)の欄にチェックマークが付けられていた。また、添付の倉庫の概要には、輸入促進に寄与する倉庫といえるための要件に関係する事項が記載されているけれども、固定資産税等の課税標準を算出するために基礎となる床面積の記載はなかった。
(4) 原告は、川崎区長に対し、平成10年10月7日付けで、「輸入の促進に寄与する倉庫申出書」を提出して、本件倉庫が地方税法附則15条3項の輸入促進倉庫に該当する旨申し出た(〔証拠省略〕)。この申出書で、原告は、本件倉庫について、種類を冷蔵倉庫、床面積を8,296.936平方メートル、容積を75,682.59立方メートルであると記載した。
(5) 被告は、平成11年度から平成15年度にかけて、本件倉庫を含む原告所有土地建物について、固定資産税・都市計画税の賦課処分を行った(〔証拠省略〕)。その際、本件倉庫については、総床面積15,007.23平方メートルのうち、本件証明書に記載された倉庫の容積75,682.59立方メートルに対応する床面積8,296.93平方メートル部分についてのみ、輸入の促進に寄与する倉庫の特例の適用対象となり、その余の面積部分は特例の適用の対象外であるとして、課税標準額を計算した(争いがない。)。
(6) 本件倉庫のすべてにつき課税標準の特例が適用されるかどうかによって、本件倉庫の各年度の固定資産税及び都市計画税の課税標準額は、次のとおり異なる(争いがない。〔証拠省略〕)。
ア 平成11年度
一部とした場合 10億4652万9764円
全部とした場合 7億2317万2150円
イ 平成12年度から14年度まで
一部とした場合 9億7189万9645円
全部とした場合 6億7160万1306円
ウ 平成15年度
一部とした場合 8億4195万3889円
全部とした場合 5億8180万6295円
以上の本件倉庫の課税標準の特例の適用範囲の相違から、平成11年度から平成15年度までの原告の課税額(固定資産税額と都市計画税額の合計)は、原告所有のほかの課税物件と名寄せした上計算すると、次のとおりとなる(争いがない。)。
ア 平成11年度
一部とした場合 5608万9200円
全部とした場合 5059万2100円
差額 549万7100円
イ 平成12年度
一部とした場合 5209万3000円
全部とした場合 4698万7900円
差額 510万5100円
ウ 平成13年度
一部とした場合 5209万3000円
全部とした場合 4698万7900円
差額 510万5100円
エ 平成14年度
一部とした場合 5209万3000円
全部とした場合 4698万7900円
差額 510万5100円
オ 平成15年度
一部とした場合 7337万8900円
全部とした場合 6895万6400円
差額 442万2500円
(7) 原告は、平成14年6月17日付けで、川崎市長に対し、平成14年度の賦課処分における本件倉庫の課税標準額の計算には、本件倉庫の全部について輸入の促進に寄与する倉庫の特例が適用されるべきところ、冷蔵保管室面積部分についてのみ特例の適用があるとした誤りがあるとして、審査請求をした(〔証拠省略〕)。これに対し、処分庁である川崎区長は、平成14年7月10日付け弁明書で、平成7年1月1日以前に建築された営業用倉庫特例の対象となる家屋については、旧証明書に記載された床面積(容積)にはよらず、倉庫及び倉庫と一体となって効用を果たす部分をもって特例の適用床面積としていたが、平成8年度の法改正で、輸入促進倉庫特例の対象となる倉庫が、平成7年1月2日以降に建築された「国土交通大臣の定めるところにより地方運輸局長の証明がされた倉庫」と法に規定されたことから、当該特例の対象となる倉庫については、営業用倉庫特例とは適用床面積の取扱いを変更し、証明書に記載された床面積(冷蔵倉庫の場合には証明書に記載された容積に対応する床面積)を当該特例の適用床面積とすることとしたと説明し、その理由について、輸入促進倉庫特例の適用に当たっては、規模(床面積(容積))に係る要件(法施行令附則第11条第3項第5号―イ等)があり、その要件に該当するものであるか否かについては、国土交通大臣が定めるところにより地方運輸局長が判断し、証明することとされているところであり、当該特例の対象となる倉庫の規模として証明された床面積(容積)から除外された部分を当該特例の適用床面積に算入することにはならないことは明らかであると主張した(〔証拠省略〕)。他方、原告は、同年7月31日付け反論書で、川崎区長が75,682立方メートルの冷蔵室部分の投影面積部分8,296.93平方メートルのみを倉庫として認定して、その部分だけを軽減措置の対象と認定することは、冷蔵倉庫の定義(倉庫業法施行規則第3条1項8号によれば、冷蔵室及び冷凍設備などを備え付けた工作物としての建物全体を指して冷蔵倉庫としている。)を見誤ったものであると反論した(〔証拠省略〕)。
川崎市長は、同年12月26日付けで、原告の審査請求を棄却する旨の裁決をした(〔証拠省略〕)。
(8) そこで、原告は、平成15年3月20日、平成14年度の固定資産税賦課処分のうち算出税額3869万5900円を超える部分及び同年度都市計画税課税処分のうち算出税額845万7900円を超える部分の取消しを求める前訴(横浜地方裁判所平成15年(行ウ)第22号固定資産税等賦課決定処分取消請求事件)を提起した(以下「前訴1審」という。〔証拠省略〕)。
前訴1審審理中、本件証明書の趣旨について、関東運輸局に対する調査嘱託がなされた。嘱託事項は、①本件証明書において、本件倉庫のどの範囲について、地方税法施行令附則11条3項6号の要件に該当することを証明するものであるか、②本件証明書記載の容積75,682.59立方メートルは、地方税法施行令附則11条3項6号に定める「容積が1600立方メートル以上」の冷蔵倉庫という要件に該当することを証明したものにすぎず、先の条項の要件に該当することを証明している範囲は、上記容積に限定されないものであるか、あるいは、本件証明書により上記条項の要件に該当することを証明している範囲は、上記容積に限定されるものであるかというものであった(〔証拠省略〕)。これに対する関東運輸局長の回答は、①については、本件証明書は、本件倉庫の施設及び機械設備が地方税法施行令附則第11条第3項第6号の各要件にそれぞれ該当することを証明するものであり、証明する範囲も同号各要件にそれぞれ対応しているというもので、②については、本件証明書中の容積75,682.59立方メートルという記載は、同証明書が対象とする倉庫の容積が地方税法施行令附則第11条3項第6号イに定める「容積が1600立方メートル以上」という要件に該当することを証明するものであるというものであった(〔証拠省略〕)。
また、被告は、前訴1審係属中、平成15年8月11日付けで、床面積8000平方メートル、うち冷蔵室(室温-50℃)5000平方メートル、荷役場(室温0℃)1000平方メートル、荷役場(室温20℃)1000平方メートル、事務室1000平方メートルである倉庫を例として、地方税法附則15条3項を適用する範囲の取扱いを尋ねる照会書を作成し、東京都及び政令指定都市に照会した(〔証拠省略〕)。照会に当たっては、回答内容を訴訟資料として使用する予定であることを告知するとともに、被告としては「地方税法附則第15条第3項の適用範囲について、従前は倉庫と一体となって効用を果たす部分(設問にあっては荷役場(室温+20℃)1000m2を含む)としていたが、平成8年度の税制改正でその対象が輸入促進に寄与する倉庫等とされた以降は、地方税法施行規則第6条第2項で地方運輸局が証明する倉庫が特例対象とされたことに鑑み、証明書に記載された範囲を当該特例の適用範囲としている」とした上、その理由と考えるところも添付した(〔証拠省略〕)。
これに対する回答は、
① 仙台市、千葉市、大阪市、北九州市は、特例の適用対象を6000平方メートル、理由を地方運輸局長が証明する証明書に記載された面積のみを特例対象とするというもの(〔証拠省略〕)、
② 名古屋市は、特例の適用対象を6000平方メートル、考え方は被告と同じとするもの(〔証拠省略〕)、
③ 神戸市は、特例の適用対象を6000平方メートル、理由を地方運輸局長が証明する証明書に記載された面積のみを特例の適用対象とするが、現地で確認した上、特例適用範囲の面積を確定させているとするもの(〔証拠省略〕)、
④ 福岡市は、特例の適用対象につき、冷蔵室5000平方メートル、荷役場(室温0度)1000平方メートルについては、用途が常態的に冷蔵室と概ね同様な用途に供する部分であれば、当該部分も適用対象とし、共用部分が存在する場合は、共用床面積の一部を適用範囲としていると回答し、その理由については、特例措置の適用対象の倉庫であるかどうかについては、地方運輸局長が発行する証明書により認定するが、適用対象床面積については、証明書の倉庫の概要の記載項目「所管面容積」には、面積で記載されておらず容積で記載されていることから、実地調査で建物内部の確認を行い平面図等で床面積の算定を行っているとするもの(〔証拠省略〕)、
⑤ 札幌市は、特例の適用対象につき、冷蔵室及び荷役場の合計7000平方メートルとし、理由を、倉庫の用途性を考慮した場合、保管場所のみではなく、荷捌きを行う部分についても含まれると考えられ、政令及び省令で定める一般倉庫等の整合性も鑑みると、設問の場合、荷役場の面積をすべて含むことが適当と考えるとするもの(〔証拠省略〕)、
⑥ 横浜市は、地方運輸局長が許可した床面積とは同一と限らず、倉庫と一体となって効用を全うさせるエレベーター室、詰所、便所、機械室、プラットホーム、廊下、階段室を含むから、現況を確認した上で、個々の倉庫ごとに判断するというもの(〔証拠省略〕)、
⑦ 広島市は、特例の適用対象につき、冷蔵室5000平方メートル及び荷役場等の合計7000平方メートルとし、その理由を、荷役場(室温20℃)の部分も、物品の入出庫のために、外気と冷蔵室との急激な温度変化を防ぐための一時保管場所、荷捌き所等として利用されており、冷蔵倉庫の利用上及び構造上、必要不可欠な部分であり、冷蔵室と効用上一体となって倉庫の用に供されていると考えられるからというもの(〔証拠省略〕)、
⑧ さいたま市(〔証拠省略〕)、京都市(〔証拠省略〕)は実績がない。東京都は同種事例がない(〔証拠省略〕)というもの
であった。
なお、北九州市にあっては、その後、平成21年12月4日、後述の上告棄却決定を受けて、従前証明書に記載された面積を特例の適用面積としていたが、倉庫と一体となって効用を果たす機械室、荷捌き室なども特例の適用対象とすることにしたと回答している(〔証拠省略〕)。
前訴一審判決は、平成16年3月17日、原告の請求を全部認容した(〔証拠省略〕)。同判決は、その理由として、「本件証明書は、その本体部分と別紙「倉庫の概要」の記載事項ないし記載内容を併せて、本件倉庫の立地区分、主要構造部、容積、階高、機械設備等が、地方税法施行令附則11条3項が規定する各要件のそれぞれについて、それぞれ適合性を有するものであることを証明した趣旨のものと認めることができ」、被告が主張するように、「本件倉庫のうち、本件証明書の「床面積(容積)及び階数」欄に記載された倉庫の容積7万5682.59立方メートルに対応する倉庫の床面積8296.93平方メートル部分のみ、すなわち、常時摂氏10度以下に保つことができ、物品を保管することが可能な冷蔵室等の部分のみが、「冷蔵倉庫」としての輸入促進倉庫に該当することを証明した趣旨のものであると認識することは、その趣旨を窺わせるような記載事項ないし記載内容は全く見当たらない以上、困難であるといわざるを得ない」と述べている。また、「地方税法附則15条3項、同法施行令附則11条3項にいう「冷蔵倉庫」とは、(中略)、農畜水産物の生鮮品及び凍結品等の加工品その他の摂氏10度以下の温度で保管することが適当な物品を保管する倉庫をいうのであるが、それが、倉庫業法施行規則3条1項8号ルにおいて「保管温度が常時摂氏10度以下に保たれること」を要件とされる「冷蔵室」ばかりでなく、同施行規則3条1項8号イからソまでに規定された各要件を備えた工作物としての倉庫全体を指すものであることは、その規定自体から明らかであるから、この観点からは、本件倉庫のうち、常時摂氏10度以下に保つことができ、物品を保管することが可能な冷蔵室等の部分のみが、「冷蔵倉庫」として輸入促進倉庫に該当する、とする被告の立論自体に無理がある」とし、また、「冷蔵倉庫は、施設としての冷蔵室あるいは温度を常時摂氏10度以下に保つ荷役場(荷捌き場)のみでは、冷蔵倉庫として機能しないことはいうまでもないのであり、それらは、冷蔵装置等の倉庫の機械設備及びその設置スペース、温度を常時摂氏10度以下に保たない荷役場(荷捌き場)等の施設と一体となって、当該冷蔵倉庫としての機能、効用を果たす性質のものである。」と判示した。さらに、同判決は、「地方税法施行令附則11条3項は、上記のような政策目的を達成するために、各般の観点から、輸入促進倉庫等特例の適用の対象となる冷蔵倉庫の要件を策定していることに照らしても、冷蔵倉庫のうちの冷蔵室等の部分に限定して特例を適用するという取扱いが、上記の政策目的との関連で、合目的的かつ合理的であるということができるか、疑問である」とした。
(9) 被告は、同判決を不服として控訴したが、東京高等裁判所は、同年12月28日、原審の判断を是認し、被告の控訴を棄却した(東京高裁平成16年(行コ)第162号固定資産税等賦課決定処分取消請求控訴事件、〔証拠省略〕)。その中で、控訴審は、本件倉庫の竣工図を検討しても、「本件倉庫のうちに倉庫の機能・効用と無関係な施設・設備が含まれているものと直ちに認めることはできない。」、「横浜市のように、「適用床面積の認定については、地方運輸局長が許可した床面積とは同一とは限らず、倉庫と一体となって効用を全うさせるエレベーター室、詰所、便所、機械室、プラットホーム、廊下、階段室を含むこととしており、現況を確認したうえで、個々の倉庫ごとに判断している」とする回答もあり、妥当な運用というべきであろう。」、後述する平成16年7月16日付け総務省自治税務局固定資産税課長の回答については、「上記回答書が参照すべきものとしている通達・回答は、いずれも地方自治法348条4項の適用に関するものである。すなわち、同項は、特定の組合等が所有し使用する事務所及び倉庫に対しては固定資産税を課すことができない旨規定しているところ、上記通達・回答は、非課税とすべき事務所及び倉庫の認定方法を示したものであるが、その認定方法が輸入促進倉庫等の特例適用について直ちに妥当するものとは解されず、また、上記説示に照らせば、地方運輸局長の証明書の取扱いについての見解も妥当なものとはいえない」と判示している。
控訴審判決で指摘のあった総務省自治税務局固定資産税課長の回答とは、被告が控訴審判決に先立ち、平成16年7月1日付けで、当時の同課長に対し、地方税法附則第15条第3項に規定する輸入の促進に寄与する倉庫に係る課税標準の特例の適用について、地方税法施行規則附則6条2項による証明書の「床面積(容積)及び階数」欄に記載された床面積(容積)を当該課税標準の特例の適用範囲と考えてよいのかどうか照会したことに対する、同課長の回答を指すものである(〔証拠省略〕)。これに対する総務省自治税務局固定資産税課長の回答は、地方税法附則15条3項に規定する輸入の促進に寄与する倉庫にかかる特例の対象範囲は、原則として物品の恒久的な貯蔵庫である保管室のみで、荷捌き場等保管室以外の部分については含まないと解されるというものであった(〔証拠省略〕)。さらに、この回答では、この要件充足については証明の過程で対象範囲が明らかになることから、市町村においては、証明書記載の床面積(容積)をもって対象範囲と取り扱って差し支えないとしていた(〔証拠省略〕)。
(10) 被告は、控訴審の判決に対し、上告及び上告受理の申立てを行ったが、最高裁判所は、平成18年10月6日、被告の上告を棄却し、上告受理の申立てに対して、受理しないと決定した(〔証拠省略〕)。
(11) 被告は、平成18年12月1日、税額変更を理由として、平成14年度の固定資産税・都市計画税として510万5100円及び還付加算金77万8700円を、平成15年度の固定資産税・都市計画税として442万2500円及び還付加算金49万2200円を原告に還付した(〔証拠省略〕)。
一方、平成11年度の固定資産税等の法定納期限は平成11年4月30日、平成12年度の固定資産税等の法定納期限は平成12年5月31日、平成13年度の固定資産税等の法定納期限は平成13年5月1日であり、平成18年10月6日に最高裁決定が出されたときは、法定納期限から5年以上経過していたから、平成11年度から平成13年度までについては、減額の賦課決定が行われて、返還されることはなかった。
(12) そこで、原告は、平成19年8月2日付けで、被告に対し、本件支払要綱に基づいて、平成11年度から平成13年度までの固定資産税・都市計画税の過払分を還付するように求めた。しかし、被告は、本件支払要綱3項が定める「瑕疵ある課税処分」に該当しないとして、返還を拒否した(〔証拠省略〕)。
3 争点
(1) 本案前(請求趣旨第1項につき)
(原告の主張)
本件支払要綱8項では、4項に基づいて金額を計算できる場合を除外することなく、「市長は、返還対象者から請求書を受理した場合は、その内容を調査し、返還金の額を確定し、返還対象者に通知する」として、返還に当たり、一定の措置をとることを市長に求めている。そこで、原告に返還請求権がある場合でも、被告に当該返還を行わないことが違法であることを判決で確定させる意味がある。
(被告の主張)
原告は、行政事件訴訟法4条が規定する公法上の当事者訴訟というようであるが、本件支払要綱に基づいて金銭給付を求めている以上、確認の利益がない。
(2) 本件支払要綱に基づく請求
(原告の主張)
要綱という形で、自らの意思を対外的に表示している場合、当該要綱に従った申請があれば、その申請に応じた給付を行う意思も含まれている。
よって、原告からの返還申請があり、申請の要件に合致していれば、被告には、本件支払要綱に基づき支払う義務が発生する。そして、平成14年度の課税処分に関する判決確定日である平成18年10月6日の時点では、本件支払要綱3項の2の追加はなかったから、本件支払要綱の旧規定に基づいて、原告は被告に過誤納金の返還を請求できる。平成19年改正の本件支払要綱3項の2の制定は、原告をねらい打ちにして、本件支払要綱の内容を変質させるもので許されない。そもそも、瑕疵ある課税処分に過失概念を取り込むことは租税法律主義を定めている憲法に違反している。
仮に、本件支払要綱3項の2が有効で、原告に適用されるとしても、被告には、平成11年から13年にかけて行った固定資産税・都市計画税の決定に際し、地方税法の特例に関する規定の解釈を誤ったことにつき過失があるから、原告は、現行の本件支払要綱に基づいて、被告に過誤納金の返還を請求できる。
(被告の主張)
要綱は、行政の執行について指針を定める内部規範にすぎない。行政庁は、要綱によって、国民に権利を付与し、義務を課することはできない。本件支払要綱に基づいて返還しない行為(不作為)は、同要綱が地方自治法232条の2に規定する寄附又は補助に求めていることからすれば、単に、寄附又は補助をしないにすぎず、原告の権利を侵害するものではない。なお、平成19年度の本件支払要綱の改訂は、同要綱の制定の趣旨を明確化したにすぎない。原告の主張が本件支払要綱を根拠に瑕疵ある課税処分に基づくすべての徴収金相当額の返還が行われるべきであるとするものであれば、地方税法17条の5、18条の3に反し、地方自治法2条16項により、本件支払要綱自体が無効となる。
(3) 地方税法17条に基づく請求
(原告の主張)
被告は、地方税法17条に基づいて、過誤納金1570万7221円及びこれに係る還付加算金を支払う義務がある。同条の規定の前提は、還付請求権が実体的なものであって、地方団体の長は遅滞なく還付の手続を採らなければならないこと、そのため、地方自治体の側からすると、誤りに気がついたときに地方税法17条の5が定める更正決定を遅滞なく行うことを求めている規定にほかならない。よって、更正決定がない限り、過誤納が発生しないというものではない。
(被告の主張)
平成11年度から平成13年度までの徴収金については、賦課決定が取り消され、あるいは減額の賦課決定がなされたわけではないから、それら徴収金は過納金に当たらない。また、賦課決定に従った納付納入が行われているから誤納金にも当たらない。したがって、原告は、被告に対し、地方団体の徴収金の過誤納により生じる地方団体に対する請求権(地方税法18条の3)を有していない。したがって、地方税法17条を根拠とする原告の主張は失当である。
(4) 国家賠償法の責任
(原告の主張)
ア 被告担当課は、平成11年から平成13年までの各年度の原告の冷蔵倉庫に対する課税処分を行うに当たり、地方税法附則15条3項に規定する輸入促進倉庫等の特例の要件に従った減額計算を行わず、法律の根拠がないのに、冷蔵倉庫を分割して当該特例措置の範囲を減少させることで原告に対して過大な税額を課した。
倉庫明細書記載の床面積が、実際の倉庫床面積である15,007.23平方メートルではなく、8,296.936平方メートルと記載されているのは、倉庫業法施行規則運用指針〔2〕2―7ホにおいて、倉庫明細書における各階別の規模の欄に記載する面積については、保管室・荷役場(荷役に必要な貨物用エレベーター、階段、通路等を含み、建物の外壁外に突出するプラットホーム、ヴェランダ等は荷役の用に供する部分であっても含まない。冷蔵倉庫にあっては、荷役の用に供する部分であっても防熱装置を有しないものは含まない。)の床面積とされ(〔証拠省略〕)、営業用の名称及び位置並びに当該営業所が所管する倉庫の概要を記載した書類(則第1号様式)においても、倉庫の類別ごとの面積については、〔2〕2―7ホに規定する面積によるとされていたためである(〔証拠省略〕)。この数値が地方税法附則の定める特例措置の適用範囲を限定する働きを持つことはない。
また、本件証明書が倉庫部分と非倉庫部分とを区別して証明する書類ではないことは、倉庫に関する固定資産税・都市計画税の特例に係る地方運輸局長等の証明の申請手続要領(〔証拠省略〕)を一読すれば理解できた。疑義があれば、発行者である関東運輸局長に照会することも容易であった。しかるに、被告は、摂氏10度以下にならない本件倉庫の荷捌き場は倉庫の機能を果たすものであっても、倉庫業法上冷蔵倉庫ではなく、関東運輸局長の証明の対象が冷蔵室部分に限られると根拠なく信じた。大阪市や福岡市においては、平成11年当時から、冷凍倉庫については、地方税法附則に定めた特例を適用して、荷捌き場も含めて倉庫建物について、課税標準を評価額の2分の1とした(〔証拠省略〕)。被告が調査したという大阪市(〔証拠省略〕)と福岡市(〔証拠省略〕)の回答は、実例を踏まえたものではなく、被告の照会に迎合したものである。
なお、本件で適用の対象となっている地方税法附則15条3項は、平成8年法律第12号により改正されたものであるが、改正前から特例の適用を行うに当たり、冷蔵倉庫全体の課税標準を2分の1としていた。被告もそのような取扱いをしていた。しかるに、改正後、法文上の根拠がないにもかかわらず、平成9年以降冷蔵倉庫に対する課税処分を行うに当たり、従前からの取扱いを変更して、冷蔵室の容積に相応する部分のみを特例の適用対象とした。その意味からも、今回の課税誤りについて、被告に過失があることは明らかである。
イ 被告担当課は、平成19年8月31日、原告から本件支払要綱に基づく固定資産税等の過払金額の返還を拒否した。課税処分に法律上の客観的な誤りがあれば過誤納金相当額の返還に応じるのが、それまでの被告の取扱いであった。そこで、被告の申請に対しても、これを還付不能金として返還すべきであったのに、返還を怠ったものであり、国家賠償法上違法に当たる。
(被告の主張)
ア① そもそも、違法な課税処分について取消訴訟の排他的管轄が及ばず、直ちに国家賠償請求することが可能であるとすると、課税処分を取消訴訟の排他的管轄に服させることとした趣旨が没却されるおそれがあるから、課税処分が無効でない限り、国家賠償責任を認めるべきではないのて、原告の主張は失当である。
② 原告提出の輸入促進に寄与する倉庫申出書には、原告自ら「倉庫の種類」欄には「冷凍倉庫」、床面積欄に8,296.936平方メートル、容積75,682立方メートルと記載していた(〔証拠省略〕)。関東運輸局長は、床面積(容積)及び階数欄において、75,682.59立方メートル、6階であることを証明していた。これを受けて、かつ、関東運輸局長の証明が容積でなされていたことから、これを床面積に引き直した上で、床面積8,296平方メートルに課税標準の特例を適用することとした。川崎区長としては、平成10年までに10件の冷蔵倉庫に課税標準の特例を適用していたけれども、いずれも冷蔵倉庫部分に限って課税標準の特例を適用しており、これに関し、納税者から不服申立等の問題指摘は一切なかった。
③ 課税標準の特例の対象となる倉庫は、地方税法附則15条3項において政令で定めるものに限定されているが、これは一定の要件を備えた施設に限って特例措置を講じようとする趣旨によるものである。このような同項の立法趣旨や他の倉庫業者等の納税者の税負担の公平性の観点からして、特例措置は政策目的を達成するために必要とされる範囲に限定して適用されるべきであり、特例措置の適用の対象となる「輸入促進に寄与する倉庫」の範囲は、地方税法施行令附則11条3項、同法施行規則附則6条2項により地方運輸局長の輸入促進倉庫としての証明がされた倉庫部分に限られるとの解釈は十分可能であった。すなわち、地方税法施行令附則11条3項は、倉庫業者の監督官庁である地方運輸局長の証明にかからせているのであり、特例の対象となる倉庫は、倉庫業法における倉庫と同一のものと解されるところ、倉庫業法2条1項は、倉庫について「物品の滅失若しくは損傷を防止するための工作物又は物品の滅失若しくは損傷を防止するための工作を施した土地若しくは水面であって、物品の保管の用に供するものをいう」と明確に定義されている。そして、倉庫業法上冷蔵倉庫は、同法施行規則別表に規定する第8類物品である「農畜水産物の生鮮品及び凍結品等の加工品その他の摂氏10度以下の温度で保管することが適当な物品」を保管するための倉庫であり、同法施行規則3条1項8号ルにより「保管温度が常時摂氏10度以下に保たれること」が必要とされていた。そこで、特例の対象となる倉庫は、保管温度が常時摂氏10度以下に保たれる部分に限られるとの解釈も十分に成り立つものであった。
④ 総務省自治税務局固定資産税課長は、「地方税法附則15条3項に規定する輸入の促進に寄与する倉庫に係る課税標準の特例の適用について」では、「本件特例措置の適用対象となる倉庫の範囲は「原則として恒久的な貯蔵庫である保管室のみ(荷捌き場等保管部分以外の部屋については含まれない)と解される」「この要件充足の証明過程(地方税法施行規則附則第6条2項による証明書)」で対象範囲が明らかとなることから、市町村においては、証明書記載の床面積をもって対象範囲と取り扱つて差し支えない」と回答している(〔証拠省略〕)。
さらに、13の政令指定都市等に対して、課税標準の特例範囲の照会を行ったところ、7市(仙台市、千葉市、名古屋市、大阪市、神戸市、北九州市、福岡市)は被告と同様に、冷蔵庫及び摂氏10度以下の荷役場が特例の対象となる倉庫と認定する運用を行っており、倉庫全体を特例の対象としたのは2市(札幌市と広島市)のみである。個別に調査の上、課税標準の特例の適用の有無を定めているのは横浜市のみであった(〔証拠省略〕)。よって、被告には過失がない。
⑤ 本件で問題となる地方税法附則15条3項が平成8年法律第12号により改正された規定であること、平成8年法律第12号による改正前の地方税法附則15条3項に関し、被告が所定の冷蔵施設を備えた倉庫全体について課税標準を2分の1にしたことは特段争わない。しかし、原告の主張は、平成8年改正前の地方税法附則15条3項と平成8年改正後の地方税法附則15条3項とで、法条文の明らかな差異が存在するにもかかわらず、法文上の変更がないとの前提で主張されているから、失当である。
イ 本件支払要綱は、行政サービスの一環として過誤納金を返還すべく定められたものであり、過誤納金を納付した者に権利を付与するものではない。すなわち、被告には、本件支払要綱に基づく作為義務がない。そうすると、本件支払要綱に基づく申請に応じなかったことをもって、国家賠償法上、違法とはいえない。
第3当裁判所の判断
1 争点(1)について
原告は、請求の趣旨第1項の請求は、公法上の法律関係に関する確認の訴えであるとするところ、これが適法といえるためには、公法上の法律関係の存在を前提とし、これに基づいて生じる権利義務の存否、法的地位の有無の確認を求めるものであって、かつ、確認訴訟によることが適切であることを要する。
これを本件についてみると、原告が求めるのは、原告の本件支払要綱に基づく固定資産税額及び都市計画税額の返還請求に対し、川崎市長が応じられないとした回答が違法であるから、その確認を求めるというものである。原告がこの川崎市長の回答を違法とする根拠は、原告が被告に対し本件支払要綱に基づく返還請求権を有するということにあるから、このような場合、公法上の法律関係の確認の対象は、その権利義務の存否とするのが通常と考えられる。そこで、かかる権利関係の存否の確認ではなく、かかる権利が存在しないとして、返還を拒否する回答を違法であると確認すること自体が、そもそも公法上の法律関係の確認の対象としての適格を欠く。また、そもそも原告は、本訴において、本件支払要綱に基づく返還請求権を給付訴訟として行使しているのであるから、かかる請求権の存在を確認する利益があるともいえない。
以上によれば、原告の請求の趣旨第1項については、確認訴訟の対象として適格を欠き、かつ確認の利益がないものであるから、不適法として却下を免れない。
2 争点(2)について
本件支払要綱は、行政機関である市長によって策定されたものであり、その名称にも表れているとおり、要綱の形式が採られているのであるから、行政規則に当たる。そして、行政規則である以上、直接市民の権利義務に関係する法規の性質を有するものではない。このような本件支払要綱の法律的性質は、本件支払要綱の改正前後で異ならない。そうすると、本件支払要綱の改正の前後に関わりなく、本件支払要綱から、直接、被告に対し、裁判上請求できる具体的請求権が発生するということはできない。
確かに、本件支払要綱は、対外的に公表されており、それによる一定の外部に対する効果が発生する余地は否定できない。本件支払要綱は、いわゆる給付規則に当たるから、行政庁がこの給付規則に違反する場合、平等原則違反の問題が生じ、その違反により、国家賠償責任が発生する可能性は否定できないといえる。国家賠償責任については後に検討するとして、以上を超えて、行政規則でしかない本件支払要綱から、その定めに従った具体的請求権が発生するというものではない。
よって、この点についての原告の主張は理由がない。
3 争点(3)について
本件で問題となっている平成11年度から平成13年度までの原告に対する固定資産税及び都市計画税の賦課額のうち、本件倉庫につき課税標準の特例の適用を認めなかった部分、すなわち、本訴請求にかかる部分については、特例の適用範囲を誤った違法なものといえる。そこで、原告は、本訴請求分を地方税法17条の「地方公共団体の長は、過誤納に係る地方団体の徴収金があるときは、政令で定めるところにより、遅滞なく履行しなければならない」との規定にいう過誤納に当たるとして、同条に基づいて、直接、返還を請求できると主張している。
ところで、固定資産税は、毎年1月1日を賦課期日として、市町村の区域内に所在する固定資産の同日現在の所有者に対して課される賦課課税方式を採用しており、都市計画税も同様である(地方税法342条、343条、359条、702条ないし702条の8)。原告が主張する返還請求権は、有効な確定処分に基づいて納付ないし徴収がなされた過納金と考えられる。そうすると、基礎となっている行政処分である賦課決定が取り消され、公定力が排除されない限り、不当利得として返還を求めることはできないことになる。原告は、過大に登録免許税を納付して登記等を受けた者が、登録免許税法(平成14年法律第152号による改正前のもの)31条2項所定の手続によらなくても、国税通則法56条に基づいて過誤納金の還付請求をすることを認めた最高裁平成17年4月14日第一小法廷判決(民集59巻3号491頁)を引用して、更正決定の有無にかかわらず、直接、過誤納金として請求できると主張するけれども、納税義務が登記の時に成立し、納税すべき税額が納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで確定するため、公定力が問題とならない登録免許税と、賦課課税方式が採用されている固定資産税及び都市計画税の場合とを同一視することはできない。
本件では、平成11年度から平成13年度までの賦課決定は、取り消され、あるいは減額の賦課決定がなされているわけではない。また、原告は、同賦課決定が無効であるともいうもののようであるが、各賦課決定を無効と認めるのは困難である。そうすると、地方税法17条に基づいて、平成11年度から平成13年度までの固定資産税及び都市計画税の賦課額のうち、本件倉庫につき課税標準の特例の適用を認めなかった部分の返還を求める原告の請求は理由がない。
4 争点(4)について
(1) 前記認定のとおり、原告に対する平成14年度の賦課処分における本件倉庫の課税標準額の計算については、輸入の促進に寄与する特例の適用に誤りがあったとして、同年度の固定資産税及び都市計画税の各賦課処分の一部が判決で取り消された。被告は、この判決の確定を受けて、平成18年12月1日、原告に対し、税額変更を理由として、平成14年度のほか平成15年度の固定資産税・都市計画税として徴収した税額のうち、判決で特例の対象とされるべきものとされた部分に相当する税額部分とこれに対する還付加算金を交付した。しかし、平成11年度から平成13年度までについては、平成14年度及び平成15年度と同じ課税標準の特例の適用範囲に誤りがあるにもかかわらず、法定納期限から5年以上経過しているために減額の賦課決定を行うことができず、本件支払要綱の適用についても、これを拒否している。したがって、平成11年度から平成13年度までの分についても、違法な課税処分の結果、原告に損害が生じたということができる。
(2) 被告は、本件のような課税処分に関しては、取消訴訟の排他的管轄を認めるべきであるとする説が有力であるとして、課税処分が無効でない限り、国家賠償請求はできないと主張する。
しかし、取消訴訟は、行政処分の効力の否定を目的としているのに対し、国家賠償訴訟は、民法の不法行為制度の特則として違法な国・公共団体の活動により生じた損害の賠償を目的としているのであって、行政処分の効果を否定するものではないから、行政処分が違法であることを理由として、国家賠償の請求をするについては、予め当該行政処分につき取消判決を得なければならないものではなく、また、課税処分が取消訴訟を経るまでもなく当然に無効であることを要するものでもない。
もっとも、行政処分と国家賠償責任とは要件を異にするから、違法な行政処分によって損害を受けたからといって、当然に国家賠償責任が認められるものではなく、ある事項に関する法律解釈につき異なる見解が対立し、実務上の取扱いも分かれていて、そのいずれについても相当の根拠が認められる場合に、公務員がその一方の見解を正当と解しそれに立脚して公務を遂行したときは、後にその執行が違法と判断されたからといって、直ちに上記公務員に過失があったものとすることは相当でない。かかる観点から、本件の特例の適用の誤りについて、担当した被告の職員に過失があるかどうかを検討する。
(3) 輸入の促進に寄与する倉庫として特例の適用が認められる倉庫の要件については、地方税法附則15条3項を受けた地方税法施行令附則11条3項以下に定めがある。これによれば、ある倉庫が輸入促進倉庫等の特例の適用を受けるためには、地方税法施行令附則11条3項各号が定める輸入促進倉庫の要件に該当するものであることについて自治省令で定めるところにより証明がされたものであることを要するものとされ、ここにいう証明者は、地方税法施行規則附則6条2項により地方運輸局長とされている。そして、本件証明書では、「新増設年月日」が平成10年1月10日(地方税法附則15条3項)、「倉庫の立地区分等」が臨港地区で「新増築の別」が新築(地方税法施行令附則11条3項柱書)、「倉庫等の種類」が冷蔵(地方税法施行令附則11条3項1号、同施行規則附則6条3項)、「倉庫業法第5条第4号の基準」が適合(地方税法施行令附則11条3項2号)、「主要構造部」が鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄筋コンクリート造、鉄骨造(骨格材の肉厚3ミリメートル)(地方税法施行令附則11条3項3号)、「階高」が6.15メートルから24.545メートルで、「所管面容積」が75,682.59立方メートル(地方税法施行令附則11条3項5号イ)、「強制送風式冷蔵装置」が完備(地方税法施行令附則11条3項5号ロ)、高床式プラットホーム(高さ1.1メートル)と自動高低差調整装置が完備され、「高床式プラットホームの前面の空地(貨物搬出場所の前面の空地)の奥行き」が28.05メートル(地方税法施行令附則11条3項5号ハ、地方税法施行規則附則6条6項1号)であることが、それぞれ明記されている。いずれの記載も、地方税法施行令11条3項が規定する各要件に直接関わるものであり、本件証明書は、同項が規定する各要件それぞれに適合していることを、地方運輸局長が地方税法施行令附則11条3項及び地方税法施行規則6条2項に則り証明したものといえる。また、本件証明書は、関東運輸局長の証明文言が記載された本体部分(表題は「新・増設倉庫上屋証明申請書」)と「倉庫の概要」からなっているが、いずれにも、所管面容積75,682.59立方メートルに対応する倉庫の床面積の記載はない。
他方、原告が課税標準の特例の適用を申請するために、平成10年10月7日、川崎区長に提出した「輸入の促進に寄与する倉庫申出書」には、「床面積8,296.936平方メートル、容積75,682.59立方メートル」との記載がある。また、このとき、被告の求めに応じて同時に提出した倉庫明細書(1)には、各階ごとの面積、軒高等及び容積が記載されており、本件証明書記載の所管面容積75,682.59立方メートルに対応する床面積が判るようになっている。このように、原告が「輸入の促進に寄与する倉庫申出書」で、「床面積8,296.936平方メートル、容積75,682.59立方メートル」と記載したのは、「倉庫に関する固定資産税・都市計画税の特例に係る地方運輸局長等の証明の申請手続要領」(〔証拠省略〕)に従ったもので、特例の適用範囲を自ら限定する趣旨のものではないと解される。すなわち、同要領によれば、申請書等の記入要領として、床面積(容積)及び階数については、「倉庫業法施行規則運用指針(昭和55年5月14日付け港倉第25号)の〔2〕2―7ホに規定する面積、または同通達〔2〕2―7トに規定する有効容積並びに当該倉庫の階数を記入する」とされている。この運用指針の〔2〕2―7ホでは、「「各階別の規模」の欄に記載する面積は、保管室及び荷役場(荷役に必要な貨物用エレベーター、階段、通路等を含み、建物の外壁外に突出するプラットホーム、ヴェランダ等は荷役の用に供する部分であっても防熱装置を有しないものは含まない。)の延面積とし、警備員室、小使室、現場事務所、荷主詰所、電気室、ポンプ室、機械室及びその他これらに類する部分の面積は含ませない」としている(〔証拠省略〕)。
そもそも、同申請書に床面積等の記載が求められている趣旨は、上記運用指針によって、当分の間〔2〕の2―7ホに規定する面積を有効面積とするとした上で、当該倉庫の有効面積が10万平方メートル以上であれば所轄大臣に倉庫業法上の権限を認める一方、有効面積10万平方メートル未満である場合(一類倉庫、二類倉庫、三類倉庫以外の倉庫については、それぞれの倉庫の有効面積又は有効容積を一定の方式で換算し、その結果10万平方メートル未満と算出されるものも含む。)であれば、地方運輸局長の権限となるとされていることに照らせば(〔証拠省略〕)、主として、監督権限(大臣か地方運輸局長か)の区分けにあり、輸入促進倉庫に該当するかどうかとは直接には関係がないと考えられる。
以上見てきたところ、すなわち、地方税法附則15条3項の特例の適用の対象となる倉庫に関する政令への委任規定を受けて、地方税法施行令附則11条3項が、所要の条件に該当するものであることの証明方法を更に自治省令に委任し、地方税法施行規則6条2項がこれを「運輸大臣の定めるところにより地方運輸局長の証明がされた倉庫」と規定していることから、本件証明書はこれら規定に従って、本件倉庫について、単に地方税法施行令附則11条3項の各要件に該当するものであることを証明したものであるといえる。そして、本件証明書中には、被告が特例の適用対象を限定した床面積8,296.936平方メートルの記載すらないのであるから、本件証明書から本件倉庫につき特例の適用対象を同床面積の範囲に限定する趣旨を読み取ることはできず、また、原告が作成した輸入の促進に寄与する倉庫申出書には、床面積8,296.936平方メートルとの記載があるほか、倉庫明細書(1)にも倉庫の容積75,682.59立方メートルに対応する床面積8,296.936平方メートルの記載があるものの、その記載は地方運輸局長等に対する証明の申請手続要領に従ったものとみられるところ、同要領がこれを記載すべきものとした趣旨は、所轄権限の帰属を定める基準を明らかにすることにあり、特例の適用の有無とは関係がないと考えられる。さらには、一定の冷蔵倉庫について固定資産税等の負担を軽減すべきものとした地方税法附則15条3項の輸入促進倉庫等の特例措置の趣旨・目的は、主として、対外貿易不均衡の是正の要請を踏まえ、輸入貨物の増大を図るための条件整備の一環として、輸入貨物を保管する倉庫の拡大を目的とし、そのような要請に適合する一定の倉庫について、固定資産税等の負担を軽減させることで所要の倉庫の整備の促進を図ったものと考えられるところ、法は、このような趣旨に適合する倉庫の要件を地方税法附則15条3項の委任を受けた同法施行令11条3項が具体的に定めた上、その要件該当性についても地方運輸局長の証明にかからしめることとしたものと解され、そうである以上、地方運輸局長の証明がされた冷蔵倉庫については、当然に輸入促進倉庫等の特例の適用対象としなければならないとする趣旨と考えられる。これらのことからすると、前訴1審とその控訴審でも物示されたように、特例の適用範囲を本件倉庫のうち1床面積8,296.936平方メートルの範囲に限定する理由はないというべきである。
(4) そうすると、被告は、本件倉庫について課税標準の特例を適用するに当たって、その適用範図を誤ったことになることは明らかである。そこで、上記課税標準の特例措置の適用の誤りについて川崎区長の過失の有無について検討する。地方税法では、公用、公共用のものについて課税を除外するための一般的な非課税措置が規定されているが、固定資産税においては、更に経済政策的要請に基づく課税上の特例として、課税標準の特例措置が設けられている。本件もそのうちの一つであり、「輸入の促進に寄与する倉庫として政令で定めるもの」について、固定資産税の負担が、新築、増設の大きな障害とならないようにするために、新たに固定資産税が課されることとなった年度から5年分の固定資産税又は都市計画税に限り、当該倉庫等に係る固定資産税又は都市計画税の課税標準となるべき価格を2分の1の額とすることにより税を軽減することとしている。輸入の促進に寄与するかどうかは、その性質上、賦課処分を担当する行政庁において、専門技術的な知見に基づいて判断することは困難であることから、法は、前述したとおり、地方税法附則15条3項を受けた地方税法施行令11条3項において個別的要件(貯蔵槽倉庫、冷蔵倉庫及び一般倉庫に共通なもののほか、各倉庫の種別に応じた個別的要件)を定めるとともに、当該要件に該当するかどうかについても、課税処分を担当する行政庁ではなく、倉庫業を所管する行政庁である運輸大臣の証明にかからしめ、課税庁における課税の段階で、解釈上の疑義が生じないよう手続的措置を講じている。このような特例の要件充足の有無を地方運輸局長の証明にかからしめる立法施策を採用している以上、課税庁において裁量の余地はなく、証明書が証明するところに従い、特例の適用の有無を判定すべきことは、地方税法附則15条3項、同施行令11条3項、同規則6条の規定に照らし、日常的に固定資産税等の課税業務を行っている担当職員においても十二分に読み取ることが可能であり、仮に地方運輸局長の証明書に記載されている容積、床面積等の記載から課税範囲に疑義が生ずるというのであれば、地方運輸局長に照会することでこれらの記載の趣旨を知ることは容易であったというべきである。しかるに、課税庁たる川崎区長は、地方運輸局長による証明書には特例の適用が認められる本件倉庫についてその特例が認められる床面積を制限すべき事情がないにもかかわらず、特例の適用範囲をその一部分に限定した上で課税したのであって、特段の事情のない限り、その適用誤りは看過することができず、過失を構成するものといわざるを得ない。
(5)ア これに対して、被告は、ア(ア)原告が提出した輸入促進に寄与する倉庫申出書にも、床面積欄に8,296.936平方メートルとの記載があったこと、(イ)平成10年度までに10件の冷蔵倉庫について、冷蔵倉庫部分に限って特例を適用してきており、納税者から不服申立て等による問題の指摘がなかったこと、イ 特例措置の趣旨及び規定の解釈からしても、その対象となる倉庫を、保管温度が常時摂氏10度以下に保たれる部分に限るとの解釈も十分に成り立つものであったことや、本事例を示した上で照会回答を求めた結果、総務省自治税務局固定資産税課長や13の政令指定都市等のうち7市において、被告と同様の考えを採用していることが判明したことからして、多くの行政解釈と同様の解釈を採っていた川崎区長には過失がないと主張する。
イ そのうち、ア(ア)については、確かに原告が被告に提出する倉庫申出書については倉庫業法施行規則運用指針に基づいた床面積を記載しなければならなかったわけではないが、同じく提出された倉庫明細書(1)からは原告の記載した床面積が倉庫全体のものではないことは明らかであり、被告は、そのことを知りつつ倉庫全体に特例の適用が認められないとの取扱いをしたのであるから、原告が倉庫申出書に前記のような記載をしたことをもって被告の無過失を推認させるものということはできない。そして、ア(イ)については、特例適用の誤りについて、過去に納税者から指摘があれば、過失を強く推認させる事情とはなろうが、10件の特例適用の実績しかない中、納税者から誤りであるとの指摘が適時になされなかったからといって、これが直ちに課税庁の過失を否定する事由とはし難い。
ウ そこで、イについて検討するに、まず、特例措置の趣旨、規定が被告の主張するような解釈の根拠とし難いことは、これまで検討してきたことから明らかである。
次に、前訴係属中に被告からの照会に対して発出された総務省自治税務局固定資産税課長回答は、「地方税法附則第15条第3項に規定する輸入の促進に寄与する倉庫にかかる特例の対象範囲は、原則として物品の恒久的な貯蔵庫である保管庫のみ(荷さばき場等保管室部分以外の部屋については含まない。)と解される(別添の昭和27.8.29自丙税発第7号自治庁税務部長通達、昭和27.12.25自税市発第111号自治庁市町村税課長回答、平成14.2.14総務省自治税務局固定資産税課長回答を参照されたい。)。なお、この要件充足の証明の過程(地方税法施行規則附則第6条第2項による証明書)で対象範囲が明らかになることから、市町村においては、証明書記載の床面積(容積)をもって対象範囲と取り扱って差し支えない。」というもので(〔証拠省略〕)、その内容自体は、被告の主張に沿うものといえる。しかしながら、同回答は、通達、回答を引用するのみで、積極的な理由づけを示しておらず、その引用する通達、回答は、いずれも、地方税法348条4項(昭和27年通達、回答当時は5項)に定める固定資産税の非課税の対象範囲について判断したもので、本件のような特例を対象とするものではない。しかも、同非課税措置は、本件の特例のように、特例該当性の要件充足の有無を倉庫業所管行政庁の証明にかからしめているものでもないから、本件の特例の適用の有無について判断するに当たって類似するというにとどまり、当然に妥当する先例とは解されない。よって、この回答の存在をもって、被告主張の解釈が根拠づけられるとはいえない。
また、被告の指摘するとおり、被告が照会した13の政令指定都市等のうち、7市で被告と同様の取扱いをしていたと回答している。また、北九州市においては、その後、先の最高裁の上告棄却決定を受けて、倉庫と一体となって効用を果たす機械室、荷捌き室なども特例の対象とすることにしたと回答している(〔証拠省略〕)。しかし、これらの回答によっても、特筆すべき解釈根拠が挙げられているとはいえず、単に税収確保の観点から採られた誤った解釈が集積したにすぎないとみることもできるところであり、かえって、札幌市(〔証拠省略〕)及び広島市(〔証拠省略〕)においては、荷役場を含む倉庫全体を特例の適用対象とするとしており、被告に隣接する横浜市においても「適用床面積の認定については、地方運輸局長が許可した床面積とは同一とは限らず、倉庫と一体となって効用を全うさせるエレベーター室、詰所、便所、機械室、プラットホーム、廊下、階段室を含むこととしており、現況を確認した上で、個々の倉庫ごとに判断している」(〔証拠省略〕)というのであるから、被告においても、賦課当時、原告が輸入の促進に寄与する倉庫申出書で記載した床面積に、特例の適用対象を一義的に限定する立場を採用するのではなく、今回の課税標準の特例が設けられた趣旨、法令の定め及び本件証明書の記載内容に照らし、他の自治体の取扱いについて情報を収集するなどして、本件倉庫のような場合に、冷蔵倉庫全体を特例の適用対象とする措置を選択することも、期待できないではなかったとすらいえる。しかも、被告が、被告と同様の見解を表明したとする政令指定都市のうち、大阪市については、〔証拠省略〕によれば、原告が平成17年度に吸収合併したb株式会社に対する課税例では、平成10年度から平成14年度において、事務所及び倉庫の床面積が16,151.46平方メートル、倉庫証明書の各階別の規模に記載された面積が10,347.70平方メートルであるところ、課税標準額が評価額の約52.5パーセントとなっており、特例適用対象が各階別の規模に記載された床面積に限られていないことが認められる。同様に、福岡市についても、〔証拠省略〕によれば、原告が平成17年度に吸収合併した大洋冷凍株式会社に対する課税例でも、平成11年度を見ると、倉庫・事務所の床面積1,998,688平方メートル、倉庫証明書の各階別の規模に記載された面積が13,720.79平方メートルであるところ、課税標準額が評価額の約54.6パーセントになっており、特例適用対象が各階別の規模に記載された床面積に限られていないことが認められる。そうすると、これらの回答のうちには、被告による照会方法に誘導されるなどして、当該政令指定都市において取り扱った具体的事例を調査するなどの深い検討をすることなく、回答に及んだものも含まれていることが疑われるから、この回答に全面的に依拠して、被告に過失がないことの根拠とすることはできない。
(6) なお、今回問題となった地方税法附則15条3項は平成8年法律第12号で改正されたものである(〔証拠省略〕)。同法による改正前は、特例の適用を受ける倉庫は倉庫業者が法定の期間内に新設し、又は増設した倉庫で「政令で定める規模、構造その他の要件に該当するもの」とされていたが、この改正により、特例の適用を受ける倉庫は、倉庫業法6条1項に規定する倉庫業者が新設し、又は増設した輸入の促進に寄与する倉庫として「政令で定めるもの」とされた。これを受けて地方税法施行令附則11条3項が、倉庫の種類ごとに各項各号で定める要件に該当するものであることについて「自治省令で定めるところにより証明がされたものとする」と改正され、さらに地方税法施行規則附則6条2項で、自治省令で定めるところにより証明がされた倉庫とは、「運輸大臣の定めるところにより地方運輸局長(括弧内省略)の証明がされた倉庫」とされた。被告は、この一連の改正で輸入促進倉庫の特例の対象となる倉庫が、運輸大臣の定めるところにより地方運輸局長の証明がされた倉庫とされたことから、当該特例の対象となる倉庫については、改正前の営業用倉庫特例とは適用床面積の取扱いを変更し(旧法下でも、明文の定めはなかったものの、営業用倉庫特例の適用に当たって、地方運輸局長の新増設倉庫等証明書が用いられていた。川崎区長は、従前、この地方運輸局長の証明書をもって、課税標準の特例を受ける適格性を有する倉庫であるかどうかを認定する証明書類と扱い、この証明書が提出された場合、同証明書に記載された床面積(容積)によることなく、倉庫のほか倉庫と一体となって効用を果たす部分を含め、特例の適用床面積としていた。)、証明書に記載された床面積(冷蔵倉庫の場合には証明書に記載された容積に対応する床面積)を当該特例の適用床面積とすることに取扱いを変更した(〔証拠省略〕)。その変更理由について、処分に当たった川崎区長は、審査請求において、「輸入促進倉庫特例の適用に当たっては、規模(床面積(容積))に係る要件(法施行令附則第11条第3項第5号―イ等)があり、その要件に該当するものであるか否かについては、国土交通大臣が定めるところにより地方運輸局長が判断し、証明することとされているところであり、当該特例の対象となる倉庫となる倉庫の規模として証明された床面積(容積)から除外された部分を当該特例の適用床面積に算入することにはならないことは明らかであることから、このような取扱いにした」と説明している(〔証拠省略〕)。しかし、法改正後の地方運輸局長の証明書中の床面積(容積)及び階数の記載中、容積の記載については、前述のとおり、地方税法施行令附則11条3項に定める容積が1600立方メートル以上という要件に該当することを証明する以上の意味はない(〔証拠省略〕)。また、前記のような輸入貨物の増大を図るための条件整備の一環として輸入貨物を保管する倉庫の拡大を目的とする法改正の趣旨にも照らせば、改正前よりも特例の認められる倉庫の床面積を限定することはその趣旨に沿うものではなく、そのような立場に立って課税するよう取扱いを変更したことに合理性は見いだし得ない。そうすると、この法改正前後で運輸大臣が作成する証明書の意味合いが異なるものではなく、従前の取扱いが法によって明記されたにすぎないことになるから、法改正後の取扱いの変更には理由がなかったことになる。川崎区長において、自治省(当時)や運輸省(当時)又は地方運輸局長、あるいは、他の処分行政庁等に問い合わせたところ、上記のような説明を受けた又は上記のような解釈に基づく取扱いが一般的であるとの回答を得たなど、この取扱いの変更が正しいと信じるに足りるやむを得ない事情があればともかく、本件当時、そのような調査、照会をしたことを窺わせる証拠はない。
(7) 以上によれば、被告が本件倉庫につき、本件証明書の証明するところによらず、保管温度が営時摂氏10度以下に保たれる部分についてのみ課税標準の特例を認めたことにつき、過失がある。
5 結論
以上によれば、原告の請求のうち、1項については確認の利益がなく、2項については、うち、本件支払要綱に基づく主張、地方税法17条に基づく主張に基づく1次的請求はいずれも理由がないが、国家賠償に基づいて、平成11年度分から平成13年度分の課税額のうち、課税標準の特例の適用を認めなかった額(被告は、本件倉庫全体に特例措置が適用された場合の課税標準額及び税額が原告主張額になることを特に争っていない。)及びこれに対する各不法行為の後である各年度の最終分割納付日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める2次的請求は理由がある。さらに、原告は、弁護士費用として、認容額の1割相当額である157万0730円を請求しているところ、本件と相当因果関係にある弁護士費用として同額は相当と認められる。そうすると、本訴請求は、課税差額及びこれに対する付帯請求に加え、157万0730円及びこれに対する平成14年3月1日(最終分割納付日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。なお、このように、平成11年度分から平成13年度分の賦課処分に当たり、課税標準の特例の適用範囲に誤りがあるとして国家賠償責任を認める以上、これと選択的に請求している本件支払要綱に基づく平等取扱いがなされなかったことを理由とする国家賠償責任については、判断しない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佐村浩之 裁判官 西森政一 西岡慶記)
物件目録 〔省略〕