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横浜地方裁判所 平成19年(行ウ)92号 判決 2011年10月05日

第1事件原告

かわさき市民オンブズマン

同代表者代表幹事

第2事件原告

よこはま市民オンブズマン

同代表者代表幹事

第3事件原告

かながわ市民オンブズマン

同代表者代表幹事

原告ら訴訟代理人弁護士

大川隆司

篠原義仁

渡辺登代美

小沢弘子

阪田勝彦

戸帳雄哉

中野直樹

篠原靖征

第1事件被告

川崎市長 Y1

第3事件被告

神奈川県知事 Y2

上記各被告訴訟代理人弁護士

橋本勇

羽根一成

第2事件被告

横浜市長 Y3

同訴訟代理人弁護士

川島清嘉

関本和臣

中村真由美

渡邉拓

第2事件被告補助参加人

Z1

同訴訟代理人弁護士

淵上貫之

鈴木国夫

被告ら補助参加人

株式会社日本政策投資銀行

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

関沢正彦

濱田広道

廣渡鉄

同訴訟復代理人弁護士

黒澤圭子

菅野典浩

横手聡

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  第1事件

(1)  第1事件被告は、Y1に対し、2億8100万円及びこれに対する平成22年4月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。

(2)  同被告は、Y1及び被告ら補助参加人に対し、11億5956万6541円及びこれに対する同月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を連帯して支払うよう請求せよ。

(3)  同被告は、財団法人かながわ廃棄物処理事業団に対し、2億1600万円及びこれに対する平成19年10月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。

2  第2事件

(1)  第2事件被告は、第2事件被告補助参加人に対し、2億8100万円及びこれに対する平成22年4月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。

(2)  同被告は、Y3及び被告ら補助参加人に対し、11億5956万6541円及びこれに対する同月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を連帯して支払うよう請求せよ。

(3)  同被告は、財団法人かながわ廃棄物処理事業団に対し、2億1600万円及びこれに対する平成19年10月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。

3  第3事件

(1)  第3事件被告は、Mに対し、2億8100万円及びこれに対する平成22年4月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。

(2)  同被告は、M及び被告ら補助参加人に対し、11億5956万6541円及びこれに対する同月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を連帯して支払うよう請求せよ。

(3)  同被告は、財団法人かながわ廃棄物処理事業団に対し、2億1600万円及びこれに対する平成19年10月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。

第2事案の概要

1  事案の骨子

本件は、神奈川県、横浜市及び川崎市(以下「本件各地方公共団体」という。)が、相互間で締結した広域中間処理リサイクル施設設置推進事業に関する覚書(以下「本件覚書」という。)に沿い、産業廃棄物中間処理等を事業目的とする財団法人かながわ廃棄物処理事業団(以下「事業団」という。)を設立した上、これに対し各々補助金及び貸付金を交付し、かつ、事業団が産業廃棄物の中間処理施設「aセンター」の建設工事資金に充てるために被告ら補助参加人から数回借入した金員(以下「本件各借入金」という。)の返還債務につき、それぞれ3分の1ずつの限度で損失補償をする旨の各契約(以下「本件各損失補償契約」という。)を締結した上、その後も事業団に対して継続的に負担金を支出し、さらに、事業団の解散後、被告ら補助参加人に対し本件各損失補償契約に基づく損失補償金(以下「本件各損失補償金」という。)を支払ったため、各事件原告らが、それぞれ居住する地方公共団体の執行機関である各事件被告らに対し、

(1)  事業団に対する負担金の支出は、公益上の必要性(地方自治法232条の2)を欠き、その確定のために予定されている協議が存在せず、実体的にも手続的にも違法無効であるとして、地方自治法242条の2第1項4号の不当利得としての事業団に対する各事件訴え提起前に支出された負担金2億1600万円(以下「各負担金①」という。)ずつの返還及び同号の損害賠償としての本件各地方公共団体の各執行機関に対する各事件の訴え提起後に支出された負担金2億8100万円(以下「各負担金②」といい、各負担金①と併せて「本件各負担金」という。)ずつの支払並びに、

(2)  本件各損失補償契約が昭和二十一年法律第二十四号(法人に対する政府の財政援助の制限に関する法律)(以下「財政援助制限法」という。)3条に反するにもかかわらず、同契約に基づきそれぞれ損失補償金11億5956万6541円ずつを支出したとして、各支出時の各執行機関個人に対し地方自治法242条の2第1項4号の損害賠償として、被告ら補助参加人に対し同号の不当利得として、同金員及びそれぞれに対する平成22年4月21日付け各事件訴え変更の申立書送達の日の翌日(第1事件及び第3事件については同月24日、第2事件については同月23日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払の、

各請求をするよう求める住民訴訟事件である。

2  基礎となる事実(公知の事実、顕著な事実、争いのない事実並びに各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1)  当事者等

ア 原告かわさき市民オンブズマンは川崎市内に、同よこはま市民オンブズマン及び同かながわ市民オンブズマンはいずれも横浜市内に、それぞれ事務所を置く権利能力なき社団である(争いのない事実)。

昭和62年

平成5年

10年

15年

18年

ア廃油(県外事業者処理処分)

5.4

4.9

4.2

5.7

5.5

イ廃プラスチック類計

(ア)県外事業者処理処分

(イ)県内事業者未処理最終処分

3.5

10.8

7.6

3.2

7.9

7.0

0.9

4.2

3.9

0.3

5.1

5.0

0.1

ウ有機性汚泥計

(ア)県外事業者処理処分

(イ)県内事業者未処理最終処分

3.5

17.2

7.0

10.2

5.7

5.4

0.3

7.9

7.9

0.0

6.9

6.9

0.0

エ紙、木及び繊維の屑・動植物性残渣

(以下「紙屑等」という。)計

(ア)県外事業者処理処分

(イ)県内事業者未処理最終処分

4.8

7.2

6.6

0.6

8.2

8.1

0.1

7.9

7.9

0.0

10.4

10.4

0.0

合計

17.2

40.1

26

25.7

27.9

イ 被告川崎市長Y1は平成13年11月19日以降、同横浜市長Y3は平成21年8月17日以降、同神奈川県知事Y2は平成23年4月25日以降、それぞれその地位にある各地方公共団体の執行機関である(争いのない事実)。

ウ 第2事件被告補助参加人は平成14年4月8日ないし平成21年8月16日の間横浜市長の地位にあった者であり、Mは平成15年4月23日ないし平成23年4月24日の間神奈川県知事の地位にあった者であり、被告ら補助参加人は、平成20年10月1日、地方公共団体等の政策目的に適った使途事業のために融資をする目的で設立された政府系金融機関である日本政策投資銀行の解散に伴い設立され、その権利義務関係を包括的に承継した株式会社である(争いのない事実)。

(2)  本件覚書に基づく事業団の設立

ア 本件各地方公共団体は、平成8年10月22日、神奈川県においては産業廃棄物の広域最終処分場設置を、横浜市においては既存の同最終処分場の暫定的開放を、川崎市においては同中間処理施設の建設に係る地元調整等をそれぞれ分担した上、設立後の事業団の経費及び人員派遣を3分の1ずつ分担すること等を内容とする本件覚書を締結したが(《証拠省略》)、本件覚書は、事業団の事業に係る経費の支払を法律上義務付けるものではない(争いのない事実)。

イ 本件各地方公共団体は、同年11月1日、本件覚書に沿い、産業廃棄物の中間処理、リサイクル施設の建設及びその運営管理、産業廃棄物の処理、処理技術等に関する調査研究、民間処理施設の設置促進等に関する普及啓発を事業内容とする事業団を設立した(争いのない事実)。

(3)  特定種類の産業廃棄物委託処理量の推移

事業団が中間処理対象として予定した特定種類の産業廃棄物(後記(4)アのとおり)のaセンター設置前後における委託処理量(万トン。千トン未満切捨て。)の推移は、次表(編集部:上掲の表)のとおりである(《証拠省略》)。

(4)  aセンター設置の経緯

ア 事業団は、平成11年3月付で、県内で排出され、県内外で処理処分されている、以下の各廃棄物の約16%、6.3万トンを処理し、県内排出の各廃棄物をできる限り県内で処理処分し、未処理処分量を減量するための産業廃棄物中間処理施設整備計画(以下「aセンター整備計画」という。)を策定した(《証拠省略》)。

(ア) 廃油(県外民間事業者の処理処分に係るもの)

(イ) 廃プラスチック類(特別管理廃棄物を含む。県外業者処理処分及び県内業者未処理最終処分のもの)

(ウ) 有機性汚泥(県外民間事業者の処理処分、県内民間事業者の未処理最終処分及び中間処理後最終処分に係るもの)

(エ) 紙屑等(県外民間事業者処理処分及び県内民間事業者未処理最終処分に係るもの)

イ 事業団は、平成11年4月ころ、日本鋼管株式会社に対し、川崎市川崎区千鳥町所在の「b処理センター」及び「財団法人c処理事業団」の各敷地(地積合計2万4507m2)において、請負代金を131億9302万6000円と定め、可燃性廃棄物を24時間操業で毎日70トン焼却処理する能力を有する焼却炉3基並びに5時間操業で毎日85トンの破砕処理能力を有する破砕施設及び毎日15m3の処理能力を有する有機性汚泥の脱水施設を備える「aセンター」(以下「aセンター」という。)の建設工事を注文し、同社は、同月ころ、同工事の着工をした(争いのない事実)。

ウ 事業団は、上記建設工事請負契約の資金を、以下のとおり調達した。

(ア) 国の補助金 5億5950万円(争いのない事実)

(イ) 本件各地方公共団体の補助金 16億7850万円(争いのない事実)

(ウ) 被告ら補助参加人の貸付金 77億2800万円

a 平成12年3月31日付け金銭消費貸借契約(《証拠省略》)

(a) 無利息分元本 11億9200万円

(b) 年利2.15%分元本 19億8800万円

b 平成13年3月30日付け金銭消費貸借契約(《証拠省略》)

(a) 無利息分元本 15億6200万円

(b) 年利1.75%分元本 25億5500万円

c 平成13年6月20日付け金銭消費貸借契約(《証拠省略》)

(a) 無利息分元本 3億8100万円

(b) 年利1.35%分元本 5000万円

d 各借入金の返済方法

上記aないしcの各金銭消費貸借契約(以下「本件各金銭消費貸借契約」という。)に基づく借入金(本件各借入金)の返済方法としては、いずれも、各契約日から2年経過後の毎年4月25日及び10月25日限り合計25回の元金均等分割払いにより返済されるべき旨が定められた(《証拠省略》)。

e 本件各損失補償契約の締結

本件各地方公共団体は、本件各金銭消費貸借契約締結に先立ち、各議会において、同契約に基づく損失補償契約を支出負担行為として締結することを可決し、被告ら補助参加人との間で、それぞれ、本件各借入金について、以下の定めのある各損失補償契約(本件各損失補償契約。なお、同契約に係る契約書の前文には、損失補償契約を締結する旨が明記されている反面、本件各金銭消費貸借契約上の債務との随伴性及び補充性に関する文言はない。)を締結し、事業団は同契約内容を異議なく承諾した(《証拠省略》)。

(1条)

1 丙(事業団。以下同じ。)が原契約(本件各金銭消費貸借契約。以下同じ。)により乙(日本政策投資銀行。以下同じ。)に対し負担している債務につき、その各返済期限から6ヶ月を経過してなお借入金の元本又は利息(損害金を含む。以下同じ。)の一部または全部が回収されなかったときは、乙は甲(本件各地方公共団体。以下同じ。)に対し、損失補償の履行を請求することができる。

2 前項に定める他、丙が原契約の証書記載の一般約款14条により期限の利益を喪失したときは、乙は、その日から6ヶ月経過後甲に対し損失補償の履行を請求することができる。

3 前2項にいう損失とは、原契約に基づく元本・利息その他弁済すべき債務の一部または全部について返済期限を6ヶ月経過しても弁済を受けられなかった金額及び補償履行の日までの損害金の合計金額をいう。

4 甲は、1項及び2項の請求を受けたときは、請求の日から3ヶ月以内に乙に対し、その請求に係る損失補償金を支払うものとする。

5 甲が損失補償の履行として乙に支払うべき金額は、原契約に基づく元本、利息その他弁済すべき債務及び損害金の合計額に、3分の1を乗じて算出した金額を限度とする。

(2条)

乙は、甲から損失補償を受けたときは、丙に対する乙の債権を甲に譲渡し、当該債権を担保するため丙が設定している担保権を甲に移転するものとする。

(3条)

この証書の作成、前条に定める債権の譲渡、担保権の移転及びその他この契約に関する一切の費用は、甲及び丙が負担する。

(エ) 本件各地方公共団体からの貸付金(弁済期平成22年3月31日) 24億3550万円(争いのない事実)

(オ) 民間企業66社出捐金 7億9152万6000円(争いのない事実)

エ aセンターは、平成11年8月5日付けで、厚生大臣から、産業廃棄物の処理に係る特定施設の整備の促進に関する法律4条1項に基づく特定施設としての認定(以下「特定施設の認定」という。)を受け(《証拠省略》)、平成12年11月2日付けでaセンターについて廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)15条の5に基づく廃棄物処理センターとしての指定(以下「廃棄物処理センターとしての指定」という。)を受けた(《証拠省略》)。

オ aセンターは平成13年5月ころ完成し、事業団は同年6月ころ主にJFE環境サービス株式会社に対し同施設の運転を委託し、産業廃棄物の中間処理施設として稼働させ始めた(争いのない事実)。

(5)  aセンターにおける廃棄物処理及び収支の状況

ア aセンターに搬入された産業廃棄物の主要な種類別内訳、中間処理委託契約者数及び搬入量(トン)の平成13年度ないし平成19年度の推移は、次表のとおりである(証拠<省略>、弁論の全趣旨)。

年度

合計及び

種類別内訳

契約者数

搬入量

(ア)

平成13年度

(6月~12月)

合計

医療系廃棄物

廃油

廃プラスチック類

有機性汚泥

紙屑等

1,188

933

40,183

1,856

193

16,020

569

11,716

(イ)

平成14年度

合計

医療系廃棄物

廃油

廃プラスチック類

有機性汚泥

紙屑等

1,218

900

51,840

4,350

533

15,270

2,254

16,727

(ウ)

平成15年度

合計

医療系廃棄物

廃油

廃プラスチック類

有機性汚泥

紙屑等

1,381

970

51,721

5,438

730

19,142

1,491

17,747

(エ)

平成16年度

合計

医療系廃棄物

廃油

廃プラスチック類

有機性汚泥

紙屑等

1,504

1,013

48,972

5,834

1,010

19,105

2,103

13,509

(オ)

平成17年度

合計

医療系廃棄物

廃油

廃プラスチック類

有機性汚泥

紙屑等

1,604

1,064

44,174

5,841

913

17,234

1,495

14,128

(カ)

平成18年度

合計

医療系廃棄物

廃油

廃プラスチック類

有機性汚泥

紙屑等

1,671

1,092

37,090

4,669

1,049

13,609

1,292

12,719

(キ)

平成19年度

合計

医療系廃棄物

廃油

廃プラスチック類

有機性汚泥

紙屑等

1,732

1,114

38,157

3,851

841

12,264

989

14,986

イ 事業団の平成14ないし18年度の事業収支及び資金収支(いずれも負担金収入を除くもの)は、以下のとおりでありである(《証拠省略》)。

(ア) 事業収支

平成

年度

収益(円)

支出(円)

収支差額(円)

a

14

1,532,000,000

1,472,000,000

60,000,000

b

15

1,895,000,000

1,577,000,000

317,000,000

c

16

1,781,000,000

1,557,000,000

221,000,000

d

17

1,554,000,000

1,613,000,000

-71,000,000

e

18

1,406,000,000

1,550,000,000

-146,000,000

(イ) 資金収支

平成

年度

収益(円)

支出(円)

収支差額(円)

a

15

1,895,000,000

2,021,000,000

-125,000,000

b

16

1,781,000,000

2,195,000,000

-414,000,000

c

17

1,554,000,000

2,249,000,000

-695,000,000

d

18

1,406,000,000

2,185,000,000

-778,000,000

(6)  負担金の支出状況

ア 過年度の負担金支出

本件各地方公共団体は、平成13年度以降、事業団に対し、各々、以下の各負担金の3分の1ずつを支出してきた(争いのない事実)。

(ア) 平成13年度 4億6800万円

(イ) 平成14年度 4億5810万円

(ウ) 平成15年度から平成17年度まで 各4億1400万円

(エ) 平成18年4月 1億6500万円

イ 本件各負担金の支出

本件各地方公共団体は、平成18年10月以降、事業団に対し、それぞれ、以下の(ア)ないし(ウ)のとおり、本件各負担金を支出した。

(ア) 川崎市(証拠<省略>、弁論の全趣旨)

支出負担行為

(市長決裁:事務決裁規程5条

別表3項財務事項(11))

支出(課長専決:

金銭会計規則3条1項本文)

支出額

(円)

各負担金<1>

平成18年4月13日

平成18年10月6日

平成18年12月27日

78,000,000

5,000,000

平成19年4月16日

平成19年4月20日

平成19年10月16日

55,000,000

78,000,000

合計

216,000,000

各負担金<2>

平成19年4月16日

a平成20年1月

5,000,000

平成20年4月22日

b平成20年4月

c10月

100,000,000

38,000,000

平成21年4月14日

d平成21年4月

138,000,000

合計

281,000,000

(イ) 横浜市(証拠<省略>、弁論の全趣旨)

支出負担行為

(市長決裁:事務決裁

規程6条1号)

支出(課長専決:同規程

別表第1の8項(6))

支出額

(円)

各負担金<1>

平成18年4月19日

平成18年10月12日

平成19年1月10日

78,000,000

5,000,000

平成19年3月26日

平成19年4月9日

平成19年10月16日

55,000,000

78,000,000

合計

216,000,000

各負担金<2>

平成19年3月26日

a平成20年1月11日

5,000,000

平成20年3月28日

b平成20年4月24日

c10月8日

100,000,000

38,000,000

平成21年4月1日

d平成21年4月17日

138,000,000

合計

281,000,000

(ウ) 神奈川県(証拠<省略>、弁論の全趣旨)

支出負担行為(部長専決:

神奈川県財務規則18条1項1号カ)

支出(副課長代決

:同規則6条)

支出額

(円)

各負担金<1>

平成18年4月1日

平成18年10月16日

平成19年1月15日

78,000,000

5,000,000

平成19年4月1日

平成19年4月16日

平成19年10月16日

55,000,000

78,000,000

合計

216,000,000

各負担金<2>

平成19年4月1日

a平成20年1月

5,000,000

平成20年4月1日

b平成20年4月

c10月

100,000,000

38,000,000

平成21年4月1日

d平成21年4月

138,000,000

合計

281,000,000

(7)  原告らによる監査請求及びその結果

原告らは、それぞれ、平成19年9月3日付けで、本件各地方公共団体の監査委員らに対し、負担金の支出及び本件各損失補償契約履行の差止め並びに過去1年間に支出された負担金相当額の損害填補を求める監査請求を申し立てたところ、原告かわさき市民オンブズマンには同年11月1日付で川崎市監査委員から、原告よこはま市民オンブズマンには同年10月29日付けで横浜市監査委員から、原告かながわ市民オンブズマンには同月31日付で神奈川県監査委員から、それぞれ、請求を棄却する旨(ただし、川崎市監査委員については、損失補償契約の点について合議不調)の監査結果が通知された(《証拠省略》)。

(8)  各事件の提起

原告らは、同年11月28日、被告らに対し、以下の各請求に係る訴えを提起した(顕著な事実)。

ア 本件各地方公共団体の事業団に対する同日以降の負担金の支出差止請求

イ 本件各地方公共団体の被告ら補助参加人に対する損失補償金の支出差止請求

ウ 本件各地方公共団体の各負担金①支出当時の事業団に対する各負担金①相当額の損害賠償請求

(9)  本件各損失補償契約の履行経緯

ア 本件各地方公共団体が「事業団の経営改善計画に基づく取組みを、より一層強化・充実させるとともに、その取組みを検証する」目的で設置した外部機関である経営改善検討委員会は、平成21年11月ころ、「事業団を解散し、その事業を民間事業者に譲渡することを基本に、対応を早急に検討すべき」であるという意見を出した(証拠<省略>、弁論の全趣旨)。

イ 事業団は、平成22年3月31日付けで解散し、その後破産の申立てをした(証拠<省略>、弁論の全趣旨)。

ウ 本件各地方公共団体は、同年4月6日、被告ら補助参加人に対し、本件各損失補償契約1条所定の期限の利益を放棄することについて同意を得て、本件各損失補償契約に基づく損失補償として、それぞれ、事業団が被告ら補助参加人に対し履行すべき本件各借入金返還残債務相当の11億5956万6541円ずつを支払った(証拠<省略>、弁論の全趣旨)。

(10)  各事件の訴え変更

原告らは、平成22年3月31日付けの各訴え変更申立書により、前記(8)アの請求に係る訴えを前記第1の1ないし3の各(1)の請求に係る訴えに、同年4月21日付けの各訴え変更申立書により、前記第2の2(8)イの請求に係る訴えを前記第1の1ないし3の各(2)の請求に係る訴えに、順次変更した(顕著な事実)。

3 争点及びこれに関する当事者の主張

(1)  本件各負担金に係る損害賠償請求及び不当利得返還請求権の存否

ア 各負担金②のうちaないしc相当額の損害賠償請求は出訴期間内にされたものと同視されるべきか否か

(原告らの主張)

各負担金②のうちaないしcの支出額相当の損害賠償請求に係る訴えは、いずれも、各負担金の支出負担行為の1年以上後に提起したものであるが、各訴えは、訴えの交換的変更によるものであり、変更前には、上記各負担金支出差止請求に係る訴えであったことは前記2(8)のとおりである。そうすると、上記訴えの交換的変更前後の請求は、違法性が審査されるべき財務会計上の行為が同一であり、変更前後の被告も同一の執行機関であるから、変更後の請求に係る訴えが変更前の請求に係る訴えの提起時に提起されたものと同視すべき特段の事情が存するということができる。したがって、上記交換的変更後の訴えは、出訴期間内にされたものと解される。

イ 本件各負担金の支出は違法ないし無効か否か

(原告らの主張)

(ア) 本件各負担金支出の実体的違法性

本件各負担金の法的性質は補助金であり、その支出の適法要件は、「公益上の必要性」(地方自治法232条の2)が存在することであり、当該補助金の支出が法令の趣旨に反するときには、公益上の必要性があるとはいえない。すなわち、

a 事業団を設立してaセンターを設置する客観的必要性は、本件各地方公共団体が本件覚書を締結して事業団を設立した当時、以下のとおり、全く存在しなかった。

(a) 排出される産業廃棄物を、リサイクル又は焼却により減量した後の最終処分量について昭和62年度と平成5年度とを比較すると、511万4000トンから338万2000トンへ、自社埋立処分地以外の県内埋立量について上記各年度を比較すると、83万6000トンから17万トンへ、それぞれ減少していた(《証拠省略》)。

他方、大手民間企業が平成元年ないし10年に建設廃材及び医療廃棄物の中間処理並びに廃プラスチックの再生事業に相次いで参入し、東京都にも1日当たり処理能力130トンの大規模民間処理施設が完成していた。しかも、民間の廃プラスチック類を扱う施設は、aセンター設置前に神奈川県内に多数存在していたのである(《証拠省略》)。

そこで、中間処理料金の前払いによる割引としての性質を有する民間出捐金が目標額の30億円に対し12億9980万円にとどまり需要が低く(《証拠省略》)、しかも、産業廃棄物の最終処分場であるかながわ環境整備センターは、平成6年ころ年間約8万トンを10年間にわたり受け入れることが計画されながら、平成18年6月から漸く本格的に稼働し、しかも、平成19年9月末日までに年換算で約1万9000トンが受け入れられたに過ぎないなど(《証拠省略》)、実際には、産業廃棄物の発生量の増加が見込まれず、排出事業者からの需要も低く、その結果として、最終処分場の逼迫も生じなかったのである。

したがって、aセンターの設置は、産業廃棄物の発生量及び処理量の過大予測に基づく不当なものであった。

(b) 次に、県内にある民間中間処理施設が平成5年度県外で発生した建築廃材、鉱滓などの産業廃棄物につき処理を受託した量は99万トンであり(《証拠省略》)、その受託規制をすればaセンターを設置せずに既存の民間中間処理施設だけで対応が可能なものであった。被告らは、多数の地方公共団体による産業廃棄物の受託規制が行われていたことから、県内処理の必要性があったと主張するが、その規制の多くは、事前協議を課するにとどまるから、その必要性に緊急性はなかったというべきである。

また、aセンターは、1日当たり210トンの処理能力であるのに対し、平成11年に稼働していた1日当たり20トン以上の処理能力のある中間処理施設の処理能力合計が4953.82トンであって、前者が両者に占める割合は約4%に過ぎず、上記受託規制なくしてaセンターだけで民間の中間処理能力を補完する能力はなかった。被告らは、aセンターの処理対象が、有機汚泥、廃プラスチック類その他の特定の廃棄物であり、産業廃棄物総量の減少を理由としてその存在意義を評価することは失当である旨を主張するが、aセンターが処理対象とする廃棄物が平成5年度には40万1000トンであったものが平成10年度には26万トンに減少していたことからしても、aセンター整備計画の目的は既に達成されていたというべきである。

しかも、中間処理施設の不足と被告らの主張するような不法投棄等の不適切処理との間に因果関係があるとは考え難い。

(c) さらに、大手民間企業の産業廃棄物処理事業への参入は、aセンター設置後も続き(《証拠省略》)、神奈川県内の焼却処理能力は、1日当たり372トン及び同200トンの各大規模焼却設備が稼働し始めたことにより合計796.88トンと順調に増大し、平成18年に東京都で650トン及び平成21年に袖ヶ浦市で199トン増の施設が操業を始めたことに照らせば、aセンター整備計画は、民間の中間処理能力の量的増加及び質的充実についての過小評価に基づいて推進されたということができ、aセンターを維持する必要性は全く存在しなかった。

(d) 最後に、aセンターは、医療廃棄物の中間処理をし、BSE疑似患畜19トンの焼却処理をするなどセーフティーネットの役割を果たしてきたというが、委託処理契約者の多くは中小規模の医療機関であって、大規模な10の公立病院とは委託処理契約をしておらず、また、上記疑似患畜の焼却処理以外にはわずかに平成20年度に360kgの動物の死体を焼却処理したという記録しかないのであるから(《証拠省略》)、同中間処理ないし焼却処理をもってしても民間事業者のモデルないし補完的機能を果たしてきたとはいえない。

b また、廃棄物処理法は、産業廃棄物の処理費用をまず事業者が負担し、その負担が当該事業の製品価格に転嫁され、究極的には当該製品の需用者がこれを負担するという原則(以下「排出者責任」という。)を採用し、かつ、事業経費及び設備投資費用の回収を義務付け、適正な原価を下回らない料金を徴収すべきものとしている(同法3条1項、4条2項、15条の9、10)。また、地方公営企業における独立採算制原則(地方財政法6条、地方公営企業法17条の2第2項)が政令指定事業以外の事業や出資団体によって推進される事業についても類推適用されるべきであって、①その性質上当該事業主体の経営に伴う収入をもって充てることが適当でない経費又は②当該事業主体の性質上能率的な経営を行ってもその経営に伴う収入のみをもって充てることは困難であると認められる経費以外については一般会計又は他の特別会計からの収入を充当することが許されず、そうでなければ民間企業に対するモデル性も発揮されないにもかかわらず、本件各地方公共団体は、事業団収益事業部門が原価を下回らない料金を徴収できずに採算割れとなったため、廃棄物処理センター指定申請の添付書類において本来公益事業部門(調査研究及び普及啓発の事業部門)を対象とする負担金を収益事業部門の収支を均衡させるため、平成13年度以降支出し続けた末に本件各負担金を支出したものである。

c したがって、本件各負担金は、補助金や寄附行為の一種に当たり、事業団の設置及び維持の必要性そのものがなく、廃棄物処理法上の費用回収義務や地方財政法上の独立採算制原則に反するものであるにもかかわらず支出されたものであり、しかも、公益性があると評価される余地がないから、地方財政法4条1項の「目的を達成するための必要かつ最小の限度を維持する原則」及び地方自治法2条14項の「最小の経費で最大の効果を追求する原則」に反し、被告らの裁量権を逸脱する違法な支出というべきである。

(イ) 本件各負担金支出の手続的違法性

本件覚書は、事業団の「事業に係る経費及び人員派遣は、三者各々3分の1を分担することを原則とし、協議のうえ定め、所定の手続きを経て確定させる」としているが、その合意内容は、事業団の独立採算制原則と負担金の関係について配慮した形跡がなく、かつ、負担すべき事業団経費の範囲が抽象的、未確定であり、負担限度額も不確定であり、しかも、その後にその内容を確定する協議がされていないから、法的な権利義務を発生させるものではないと解され、これに基づく本件各負担金の支出は、地方自治法が支出負担行為制度(232条の3)及び会計管理者によるその確認制度(同条の4)を設けた意義を没却する行為である。また、本件各負担金の支出は、川崎市補助金等の交付に関する規則、横浜市補助金等の交付に関する規則及び神奈川県補助金の交付等に関する規則(以下「本件各地方公共団体の補助金交付に関する規則」という。)の適用を受けるところ、上記各規則の定める、事業団の申請に対する本件各地方公共団体の交付決定という手続を経ていない。したがって、本件各負担金の支出は、地方自治法及び本件各地方公共団体の規則の手続にも反する違法な支出というべきである。

(ウ) 各負担金①の支出は、前記(ア)及び(イ)のとおり違法であり、無効と解されべきであるから、事業団は、各負担金①の不当利得返還義務を負う。

(エ) 各負担金②の支出は、前記(ア)及び(イ)のとおり違法であり、Y1は川崎市に対し、第2事件被告補助参加人は横浜市に対し、Mは神奈川県に対し、それぞれ、各支出時の執行機関として、各負担金②の支出を違法に執行したのであるから、誠実管理執行義務(地方自治法138条の2)の違反により損害賠償債務を負う。

(第1、3事件被告の主張)

(ア) 本件各負担金支出に関する実体的違法性の不存在

廃棄物処理法は、地方公共団体が自ら又は他の地方公共団体と共同して産業廃棄物適正処理確保の事務を行うことができるものとしており(11条3項)、同事務の弾力的かつ効率的な処理という見地から事業団を設立したのであり(15条の5)、本件各負担金は、本件各地方公共団体がその事務としてなす産業廃棄物の処理に係る共同事業のための経費であるから、その支出に実体的違法性はない。

すなわち、本件各地方公共団体は、平成11年当時、同年度末における全国の産業廃棄物最終処分場の受入可能残余年数平均が3.7年分、首都圏が1.2年分に過ぎず、しかも、神奈川県では中間処理目的の廃棄物を東京都から受け入れる一方で、千葉県や埼玉県に搬出し、最終処分目的の廃棄物を千葉県、九州地方、中部地方に搬出していたため、公的関与による施設整備で最終処分場を確保し、かつ、その前段階として中間処理施設における廃棄物の減量化及び資源化並びに県外地方公共団体の廃棄物受入規制の増加に対応する県内処理体制の確保を政策課題とし(《証拠省略》)、他方、産業廃棄物の全面的な民間委託処理をするときには、生活環境保全上の支障を惹き起こすのではないかという懸念をしていた。

そこで、本件各地方公共団体は、自ら同委託処理事務の一部に関与する必要から事業団を設立し、事業団に公的な関与による信頼できる施設として、aセンターを設置させたのであり(《証拠省略》)、同施設により県内で発生する全ての産業廃棄物を委託処理するのではなく、川崎市も神奈川県も県内で排出された前記2(4)アの産業廃棄物をできる限り同施設内で中間処理して資源化及び未処理最終処分量の減量化をし、逼迫する最終処分場の受入可能年数を延ばすことを政策課題としていたところ、県外事業者処理処分量は平成5年計で26万1000トン、平成10年計で24万7000トンであって、同処理処分の県内シフトが十分にされていなかった上、県内事業者未処理処分量も1万3000トン存在していたのである。そうすると、aセンター整備計画の政策課題は、その設置当時いまだ達成されたという状況にはなかった。また、本件各地方公共団体は、aセンター設置により公衆衛生、環境保全及び公害防止(平成14年に発生したBSE疑似患畜19トンの受入や平成19年度に国から協力要請を受けた低濃度PCB廃棄物の実証実験等)並びに経済活動全般の健全な成長・活性化等の諸政策の実現を行政目的としていた。

川崎市及び神奈川県は、以上の経緯から、平成13年度から平成19年度までの間、前記2(6)のとおり、事業団に前記特定種類の廃棄物について中間処理をさせ、aセンターの円滑な運営に必要であるにもかかわらず処理料収入等をもって賄うことのできなかった資金を負担金として支出してきたのであって、同2(3)のとおり、結果として、aセンターにおける中間処理対象廃棄物の総量が平成5年計の40万1000トンから平成18年計の27万9000トンに減少したとしても、それが計画処理量6.3万トン(同2(4)ア)を超え、かつ処理実績も低くないのであるから、本件各負担金の支出には何らの違法性も認められない。

原告らは、上記負担金の支出には、地方公営企業についての独立採算制原則が類推適用されるべきであり、そうでなければ民間企業に対するモデル性もなく、その処理能力に照らすと補完機能も低いし、県外からの搬入を規制すれば足りたと主張する。しかしながら、まず、地方公営企業は普通地方公共団体が経営する企業であるのに対し、いわゆる第三セクターである事業団は、公益事業目的の財団法人であって経営効率を追求するものではないから、独立採算制原則の類推適用がある旨の原告らの解釈は誤りである。また、モデル性は、aセンターが混合産業廃棄物の焼却処理技術の調査、研究及び実証の成果を活用し、かかる処理施設の普及、啓発及び研修施設として機能し、しかも、民間事業者による処理が困難な廃棄物の処理(《証拠省略》)や実証実験等をしたことにより十分に果たしているし、焼却施設を有する事業者の1日当たりの処理能力合計は1471.36トンであるところ(《証拠省略》)aセンターの処理能力(同210トン)はその14.3%にあたり、医療機関等から排出される特別管理産業廃棄物の適正処理の推進の役割を果たしており(平成19年度契約者数1114件。中小規模のものが多数を占め公立の10病院は契約外)、民間の中間処理業者に対する補完機能も低くはない。さらに、県外からの廃棄物搬入を規制することは、県内から県外へ多量に搬出している状況下でできるはずのなかったことである。したがって、原告らの上記各主張は、理由がない。

(イ) 本件各負担金支出に関する手続的違法性の不存在

本件各負担金は、本件覚書のみにより支出されたのではなく、毎会計年度、事業団の申請に基づき、本件各地方公共団体相互間の協議及び確認を経て(《証拠省略》)、川崎市長及び神奈川県知事が、それぞれ調整する予算に負担金見込額を計上し、各議会の議決を得た上、支出負担行為及び支出命令をして支出されたものであり、その支出が地方自治法が支出負担行為制度(232条の3)及び会計管理者によるその確認制度(同条の4)を設けた意義を没却する行為でも、川崎市の補助金等の交付に関する規則及び神奈川県の補助金の交付等に関する規則の定める、事業団の申請に対する本件各地方公共団体の交付決定という手続に反する違法なものでもない。

(ウ) 原告らの主張(ウ)及び(エ)は、否認し又は争う。

(第2事件被告の主張)

(ア) 本件各負担金支出に関する実体的違法性の不存在

補助金交付や寄附行為とは異なり、負担金には、必ずしも法令又は契約により義務づけられていないものの、地方公共団体が構成する各種団体の必要経費に充てるため支出されるものがある。また、廃棄物処理法は、都道府県が産業廃棄物の適正処理確保の事務のために自ら産業廃棄物の処理施設を設置・運営すること(11条3項)ないしその適正かつ広域的な処理の確保を目的として法人を設立することを認めており(15条の5)、本件各地方公共団体は、前記2(2)イの事業を営む事業団を設立したものであって、その公共性ないし公益性が高いから、これに対する本件各負担金の支出に公益性がないとはいえない。また、廃棄物処理法は、排出者責任を定めて産業廃棄物の排出事業者がその処理費用を一義的に負担すべきものとしているが、他方、普通地方公共団体がその適正処理確保の事務をすることを認めており、そのために公費を支出することには公益性があるから、かかる産業廃棄物行政全体の枠組みの中で必要な負担金額の支出が認められていると解される。

これに対し、原告らは、事業団の設立及びaセンターの設置には客観的必要性がなかったと主張する。しかしながら、そもそも廃棄物処理センター制度は平成3年改正により特別管理産業廃棄物や市町村において適正処理が困難な廃棄物が増大していること及び処理施設の設置が困難となっていること等の実情に照らし、これらの廃棄物の適正かつ広域的な処理の確保のために創設されたものであって、平成4年8月13日の厚生省通知でも、その積極的な設置が促されていたものである(《証拠省略》)。そして、横浜市は、平成4年当時、市内の最終処分場の廃棄物受入可能残余年数がわずか1年であるにもかかわらず、その新規設置につき住民合意等の面で実現の目処が立っておらず、同年度中には産業廃棄物102万トンを海洋環境に影響を与えるため規制が強化された海洋投棄とし、12万トンを市内埋立処分とし、48万トンを市外埋立処分としており(《証拠省略》)、また、全国で33県、5政令指定都市及び8主要都市が本件覚書締結前までに域外からの産業廃棄物の搬入についての規制を順次設ける状況であり(《証拠省略》)、しかも、中間処理施設の不足が、自家処理能力が低い反面排出量が僅少であるため、処理を受託する民間事業者から劣後的扱いを受け、かつ、委託費用面で不利な立場に置かれがちな中小排出事業者の経営に打撃を与え、ひいては不法投棄等の不適正処理に結びつきかねない状況であった。そこで、社団法人神奈川県経営者協会、横浜商工会議所をはじめとする6団体は、横浜市に対し、平成5年12月24日付け書面により、技術、経済及び土地確保上の障害が多いため、公共関与による産業廃棄物処理施設の整備が時宜を得たものであり高く評価するので緊急的速やかに現実のものにされたいとの要望をしたのである(《証拠省略》)。さらに、昭和62年度と平成10年度とを比較すると、廃プラスチック類並びに有機性汚泥の県外事業者中間委託処理量及び未処理最終処分の合計量は、前記2(3)のイ及びウのとおり、いずれも顕著な増加傾向にあり、県内事業者未処理最終処分量も減少傾向にあったものの依然として解消されていなかったものである。そうすると、横浜市が本件覚書締結当時民間の中間処理事業を補完するaセンターの設置により、県内最終処分量を減少させ、海洋投棄や域外埋立処分量を減少させることは、急務であったというべきである。

また、事業団は、本件各地方公共団体が高度な処理能力を持つ施設をモデルとして示すことで、廃棄物処理施設についての住民の啓発を行い、aセンターにおける処理技術の実証、調査、研究開発を活用した民間施設の技術力の向上及び建設の促進に存在意義を有してきたのであり、平成14年8月21日に伊勢原市内で発生したBSE疑似患畜19トンの受入れをし、平成20年度に動物の死体360kgの焼却処理をするなど(《証拠省略》)、産業廃棄物の適正処理に向けたセーフティーネットの役割を果たしてきたのであり、平成19年度には、国から協力要請を受けて低濃度PCB廃棄物処理の実証実験を行ったのであって、その公共性が高度であることは明らかである。したがって、本件各負担金の支出は、地方財政法4条に反する違法な支出とも認められない。

(イ) 本件各負担金支出に関する手続的違法性の不存在

本件各負担金は、本件覚書のみにより支出されたのではなく、毎会計年度、事業団の申請を受け、本件各地方公共団体相互間の協議及び確認を経て(《証拠省略》)、横浜市長が調整する予算に負担金見込額を計上し(《証拠省略》)、議会の議決を得た上(《証拠省略》)、支出負担行為(《証拠省略》)及び支出命令(《証拠省略》)をして支出されたものであり、その支出が地方自治法が支出負担行為制度(232条の3)及び会計管理者によるその確認制度(同条の4)を設けた意義を没却する行為でも、横浜市補助金等の交付に関する規則の定める、事業団の申請に対する本件各地方公共団体の交付決定という手続に反する違法なものでもない。

(ウ) 原告らの主張(ウ)及び(エ)は、否認し又は争う。

(第2事件被告補助参加人の主張)

(ア) 本件各負担金支出に関する実体的及び手続的違法性の不存在

本件各負担金の支出が実体的にも手続的にも違法でないことは、以下の点を付加する外は、第2事件被告の主張(ア)及び(イ)のとおりである。

a 地方自治体には市民の公衆衛生環境を守る責務があるところ(環境基本法1条、7条、36条、廃棄物処理法1条、2条1項及び4項)、事業団は、設立以前、最終処分場の不足による産業廃棄物の不法投棄が社会問題化しており、その対策として中間処理施設建設が喫緊の課題であったにもかかわらず、巨額の設備投資に耐えられる民間中間処理施設が未だ充実していなかったため、民間中間処理施設の充実までの過渡的措置として設立され、国から、特定施設の認定及び廃棄物処理センターとしての指定を受けたaセンターを設置し、神奈川県内における中間処理の中心的かつ指導的役割を果たしてきた。そして、事業団は、産業廃棄物の搬入量が大手民間企業の中間処理事業への進出、金融危機等の経済的要因及び焼却炉の故障等により減少したことに伴い、その役割が相対的に低下し、しかも平成17年以降その収支バランスが悪化したものの、なお、特定の廃棄物処理について大きな期待が寄せられ、しかも廃熱利用発電による二酸化炭素削減やエコアクション21(平成19年度)取得による環境保全活動推進などに寄与してきたのであって、その市民の公衆衛生を最終的に担保する役割が大きかったのである。そうすると、事業団の事業は、aセンター設置後、第2事件被告補助参加人が横浜市長に就任し、退任するまでの間、高い公益性があったのである。

b 第2事件被告補助参加人は、かかる高い公益性を有する事業団のaセンターによる中間処理開始後、横浜市長に就任し、社会状況の変化により収支バランスが崩れたとしても、その業績向上に向けた一段の努力が図られるべきであり、安易に事業継続に必要な負担金の支払を停止してその事業を破綻させれば、地方公共団体に対する諸関係者の信頼を失わせ、しかも、市民の負担がかえって増大する場合があるから、当面の費用対効果や経済的損失のみをもってその存廃を論ずることはできず、事業存続による負担と廃止による損失とを慎重に比較し、これを継続させる必要性があると判断したのである。

c 第2事件被告補助参加人は、その在任中、本件覚書、本件各地方公共団体の協議ないし決定及び各議会による議決を経て、支出負担行為をし、各負担金①を支出したのであり、何らの手続的違法性もない。

(イ) 原告らの主張(エ)は否認し又は争う。

(2)  本件各損失補償金の交付に係る損害賠償請求権及び不当利得返還請求権の存否

(原告らの主張)

ア 本件各損失補償契約は財政援助制限法3条により禁止されており、違法無効であること

(ア) 憲法85条は、「国が債務を負担するには、国会の議決に基くことを必要とする。」とし、財政法15条がその具体的手続について「国が債務を負担する行為をなすには、予め予算を以て、国会の議決を経なければならない。」とし、さらに、同法4条は「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。」という原則を規定している。他方、地方公共団体の財政に関しては、地方自治法214条がその具体的手続として「普通地方公共団体が債務を負担する行為をするには、予算で債務負担行為として定めておかなければならない。」とし、地方財政法5条が「地方公共団体の歳出は、地方債以外の歳入をもつて、その財源としなければならない。」という原則を規定している。このような国又は地方公共団体の公債若しくは借入金等その他の固有債務の負担行為の原則的禁止規定の潜脱を防ぐためには、保証債務の負担行為を原則として禁止する必要があることは当然のことであり、財政援助制限法3条の存在理由はまさにここにある。すなわち、同条は、単なる議会による予算統制という手続的規制ではなく、政府又は地方公共団体が不確定な債務の負担を避けることと企業の自主的な責任の明確化を図ることを制度趣旨とする債務負担の制限に関する実体的規定なのである。被告ら及び被告ら補助参加人は、帝国議会が戦前国策会社に対する財政援助に多用された予算外国庫債務負担行為に対する統制権を有しておらず、その活動を停止し、その復活を防止するために同法1条ないし3条が規定されたものの、その目的が戦後復興を遂げた後には存在意義を失ったかのような主張をする。しかしながら、大日本帝国憲法62条3項は、予算外国庫債務負担行為について帝国議会の協賛を成立要件としており、同統制権がなかったわけではなく、財政法は、その統制権を予算の一内容としたものに過ぎない上(16条)、財政援助制限法は、損失補償としての意味を持たせ得る法人に対する補助金の交付を禁止しておらず、国策会社であってもその交付を受けることが可能である外、同法が国策会社の廃止後も改正を重ねながら存続してきたものであることに照らせば、被告ら及び被告ら補助参加人の主張するような一過的な立法目的を想定することは不合理である。

そして、不確定な債務には、保証契約のみならず損失補償契約を原因とする債務も含まれる。また、損失補償契約は、保証契約よりも重い責任を負担するものであり、同条が損失補償契約よりも責任の軽い保証契約の締結のみを禁止したというのは背理である。そうすると、財政援助制限法3条が禁止する「保証契約」には、損失補償契約が含まれると解すべきである。被告ら及び被告ら補助参加人は、同法施行後に制定された法令の中に債務保証と損失補償とを区別しているものがあることを根拠として、損失補償契約が同条にいう「保証契約」には含まれないと主張するが、かかる法令は、債務保証ないし損失補償が総務大臣の許可により例外的に適法となる場合を想定する規定であり、同条による禁止行為の範囲を変更するものではありえない。さらに、被告ら及び被告ら補助参加人が主張する後記行政解釈のうち、昭和29年5月12日付け自治庁行政課長回答は、信用保証協会が代位弁済実行後に債務者からの債権回収に努めた上でなお回収が不能であることが確認された損失について補償する契約に関わるものであり、これを契機に損失補償契約の有効性が社会通念上支持されるに至ったとはいえない。

したがって、本件各損失補償契約は、同条の禁止対象であると解される。

(イ) 仮に、同条の禁止対象に損失補償契約が含まれないとしても、損失補償契約は、本来、現実に生じた損失について補填の措置を行うことを約するものであり、将来発生する可能性がある損失を補償することを約するものではないところ、本件各損失補償契約は、主債務者に対する執行不能等、現実に回収が望めないことを要件とすることなく、一定期間の事業団の特定債務の不履行それ自体が被告ら補助参加人の損失と規定し、本件各地方公共団体が損失額の支払義務を負担させられているものであり(1条1項)、実質的には債務保証契約(不真正損失補償契約)である。同契約では、被告ら補助参加人が事業団の債務不履行から6か月後に損失補償請求権を行使でき、本件各地方公共団体がその後3か月以内に損失補償債務を履行するという時間的猶予が規定されているが(同条4項)、このような弁済期限(民法135条)は、契約一般に付される付款であるから、それが付されていることのみで、本件各損失補償契約が実質的な保証契約でないとはいえない。

したがって、本件各損失補償契約は、同条の禁止対象である保証契約であると解される。

(ウ) そして、本件各損失補償契約には、前記(1)で原告らが主張したように、事業団の設置維持自体に客観的必要性が欠けていたなど公益性がなく、しかも、独立採算制原則に反するなどの実体的な違法性があり、事業団及び被告ら補助参加人がいわゆるプロジェクトファイナンスの考え方を基本とせず、融資返済不能に至るリスクを適正な稟議により評価する責任を放棄し、自治体が納税者の負担を顧みることなく、そのリスクを無定見に負担し、本件各地方公共団体が納税者の利益を著しく損なう無責任な合意をしたものであるから、公益上の必要性という観点からも是認される契約であるとはいえない。したがって、本件各損失補償契約は、財政援助制限法3条に反し、違法であるとともに無効と解されるべきであり、かつ、本件各地方公共団体が被告ら補助参加人に対し不当利得に基づく本件各損失補償金の返還請求をすることについて、取引の安全を考慮することは許されない。

イ 各執行機関の責任の根拠

Y1は川崎市に対し、Y3は横浜市に対し、Mは神奈川県に対し、それぞれの本件各損失補償金支出時の執行機関として、実体法にも手続法にも反する違法な本件各損失補償金の支出を執行したのであるから、誠実管理執行義務(地方自治法138条の2)の違反により損害賠償債務を負う。

(第1、3事件被告の主張)

ア 本件各損失補償契約は財政援助制限法3条により禁止されないこと

(ア) 損失補償契約は、契約当事者の一方がその相手方に対し、後者が一定の事項から被ることがあるべき損害を填補することを引き受ける損害担保契約の一種であり、保証契約(民法446条以下)とは法的性質を異にするところ、本件各損失補償契約は、①民法446条1項と異なり損失補償を請求できる時期が借入金の履行期限から6か月経過後とされ(同契約1条1、2項)、②填補されるべき損失には、上記6か月間の損害金を含むとされ(同契約1条3項)、③損失補償の履行期は請求の日から3か月以内とされ(同条4項)、④損失補償の履行として支払う金銭は、元本、利息その他弁済すべき債務及び損害金の合計額の3分の1とされ(同条5項)、⑤求償権及び代位権は発生せず、債権譲渡及び担保移転が必要とされており(同契約2条)、他方で、随伴性及び補充性に関する規定がない。したがって、本件各損失補償契約は、保証契約の性質を有するものではない。

(イ) そして、財政援助制限法は、昭和21年9月25日に公布施行されたが、その趣旨は、戦前に予算(議会)統制の枠外で行われてきた国策会社等に対する財政援助を制限することによって、国庫負担の不確定債務の累増を制限し、戦後財政を民主的に再建することを主たる目的とし(《証拠省略》)、併せて企業の自主的活動の促進という観点から、会社その他の法人に対する政府や地方公共団体の財政援助を制限することにあったものであり、会社その他の法人に対する財政援助をどの範囲で禁止するかは立法政策の問題であるところ、同法3条は、明文上、保証契約を原則的に禁止する反面、損失補償契約には言及しかなった。また、地方自治法(昭和22年5月3日施行)は、予算議決において対象となる事項、期間及び限度額が定められれば債務負担行為が可能とし(214条)、しかも保証と損失補償とを明確に区別して規定したのである(221条3項)。また、戦後財政の再建が実現されれば、財政援助制限法の主たる目的が達成されたこととなる反面、地方公共団体は、その施策を実施実現し住民の福祉を向上させる事業活動を行わせることを目的としていわゆる第三セクターを設立し、その事業資金調達に際しかかる第三セクターの信用力を補完するために損失補償を行えば、当初の出資額を最小限に抑えることが可能となることから、損失補償が必要かつ合理的な場合があり、そのような損失補償が国策会社等に対する無制約的な財政援助と無縁であることは明らかである。そうすると、同法3条が禁止しているのは保証契約であり、それとは法的性質を異にし、しかも戦後財政の再建後に上記のような行政目的実現のために必要かつ合理的な場合のある損失補償をあえて含めなかった趣旨と解すべきである。上記解釈は、政府委員が昭和25年7月28日開催の衆議院大蔵委員会における質疑における見解及び自治庁行政課長が昭和29年5月12日に大分県総務部長宛にした回答(以下「昭和29年5月12日付け自治庁行政課長回答」という。)の公表により定着してきたものであり(《証拠省略》)、地方公共団体の財政の健全化に関する法律(平成19年6月22日公布、平成21年4月1日施行)や地方財政法(平成21年法律9号による改正後のもの)附則33条の5の7第1項がいずれも損失補償が有効であることを前提としていることからも明らかである。

(ウ) また、同契約締結が必要かつ合理的であったことは、事業団の設立及びaセンターの設置維持並びにその資金調達のための本件各損失補償契約締結の経緯(前記2の(2)ないし(4))のとおりである。

(エ) 以上によると、本件各損失補償契約は、財政援助制限法3条により禁止されるべきものではなく、同条に違反しない。

イ 各執行機関の責任

前記原告らの主張イは、否認し又は争う。

(第2事件被告の主張)

ア 本件各損失補償契約は財政援助制限法3条により禁止されないこと

(ア) 損失補償契約は、主債務の履行担保を目的とする保証契約とは異なり、特定の債務の不履行の結果として債権者に生じた損失自体に着目し、その填補を目的として損失を担保するものであって、債務不履行による損害発生の危険を引き受けて結果責任を負う契約であり、主債務の存在を前提とせず、債務内容の同一性、附従性及び随伴性が問題とならないものである。また、損失補償は、戦前から、保証契約と明確に区別される形で普通に行われていたのである(《証拠省略》)。さらに、地方財政の自主独立性の保障なくしては、憲法92条が保障する地方自治の本旨である住民自治と団体自治を実現することはできないため、地方財政法は自治財政権があることを明らかにしている(2条2項)。そこで、国が地方公共団体の財政上の権能に対して規制又は禁止を加える場合には、その対象は限定して規定されており、拡大解釈をすることは許されない。

(イ) また、財政援助制限法立法の直接の契機は、政府が戦前に国策の遂行をさせる目的で予算外国庫制度を多用して積極的な財政援助をしてきた国策会社等の活動を停止させ、その復活を阻止する連合国軍最高司令部(以下「GHQ」という。)による政府財政援助の一本化の指令である(《証拠省略》)。すなわち、財政援助制限法3条は、国や地方公共団体による利子補給や保証契約の締結によって肥大化し破綻した国策会社等を整理するための方策であると解され、その主目的が不明確の債務の発生防止にあったとは必ずしもいえない。しかも、損失補償が財政援助制限法3条により禁止されない旨の解釈は、昭和29年5月12日付け自治庁行政課長回答により定着しており、幾つかの法令(地方自治法199条7項、221条3項、地方公共団体の財政の健全化に関する法律3条1項、同法2条4号、同法施行規則12条5号、地方財政法附則33条の5の7第1項3号)も損失補償と保証とを明確に区別し、又は、損失補償の適法性を前提とし(天災による被害農林漁業者等に対する資金の融通に関する暫定措置法3条)、しかも財政援助制限法3条の適用を排除する法令は保証契約のみを対象としている(地方道路公社法28条、公有地の拡大の推進に関する法律25条)。

そうすると、財政援助制限法3条が禁止する保証契約に損失補償を含むという類推解釈は採り得ない。

(ウ) 以上の外は、前記の第1、3事件被告の主張を援用する。

イ 各執行機関の責任

前記原告らの主張イは、否認し又は争う。

(被告ら補助参加人の主張)

ア 本件各損失補償契約は財政援助制限法3条により禁止されないこと

(ア) 損失補償契約は、特定の者が金融機関等から融資を受ける際に、その融資の全部又は一部が返済不能等により金融機関等が損失を被ったときに地方公共団体が融資を受けた者に代わってその損失を補償することを内容とする契約である。したがって、損失補償契約は、経済的には、第三者による信用補完という点で保証契約と類似の機能を有している。しかしながら、損失補償契約は、保証契約とは異なり、主債務の存在を前提としない要約者と補償者との間の独立の契約であって、主債務との間で附従性及び補充性がないから、主債務の不存在、無効及び取消しがあっても、要約者に一定事項から生じた損失を填補することを要し、かつ、主債務に対する随伴性もなく、損害の範囲、填補する時期、方法は、原則として自由に定め得るし、損失を填補したからといって、当然に求償権が発生するものではない。

ところで、本件各損失補償契約は、損失補償の履行を請求する前提として被告ら補助参加人による債権回収の努力が予定されているとともに、その努力にもかかわらず回収ができず、本件各地方公共団体が填補を履行すべき損失の確定を行うべき期間として6か月を設定しており、将来発生する可能性がある損失を填補することを約するものであるが、なお、契約の一方当事者が他方から被ることあるべき損害を填補することを引き受ける損害担保契約である。また、本件各損失補償契約では、本件各地方公共団体が損失補償の履行をした場合に事業団に対し当然に代位するのではなく、被告ら補助参加人が本件各地方公共団体に対し事業団に対する債権を譲渡し、その担保権を移転することが約されている。他方、本件各損失補償契約には、本件各金銭消費貸借契約が有効であることを前提とするような規定が存在しない。

そうすると、本件各損失補償契約が、民法の典型契約の一つである保証契約とは異なり、本件各金銭消費貸借契約に基づく主債務に対する附従性がなく、本件各地方公共団体が被告ら補助参加人に対し事業団とは別個独立の損害填補債務を負担させる損失担保のための契約であることは明らかである。

(イ) 財政援助制限法は、戦前の政府が国策会社等に対して積極的な財政援助を与えるために予算外国庫制度を多用して国策を遂行していたため、GHQが国策会社の活動を停止させ、その復活を阻止する目的で、昭和21年4月3日付けの「政府の貸付保証及び政府機関による借入に関する連合国軍最高司令部覚書」(以下「昭和21年4月3日付け覚書」という。)により、政府又はその他一切の行政官庁による債務保証を原則として禁じ、財政援助を補助金形式によってのみ行うべきことを指示したことを受けて立法されたものであり、同法1条が禁止する政府等による劣後株の保有及び同法2条が禁止する配当保証のための財政援助及び給付金支給は、いずれも戦前の政府が国策会社に対し多用していた財政援助の方法なのであり、同法が政府の国策会社に対する財政支援策を廃止する趣旨であることは明らかである。そうすると、同法3条の禁止対象も国策会社に対する財政支援の一つであった政府による保証契約の締結であり、そうすることにより、主として、戦前の国策会社の活動を停止し、その復活を阻止することにより財政の健全化を図る趣旨であったと解すべきである。

上記の解釈は、地方自治法に地方公共団体による損失補償契約の締結を想定し、又は、保証契約と明確に区別する規定があり(同法199条7項、221条3項)、地方財政法附則に地方公共団体が損失補償を行っている法人が解散した場合の損失補償の履行を前提とした起債についての規定があること(同附則33条の5の7の第1項4号)並びに昭和29年5月12日付け自治庁行政課長回答が損失補償を財政援助制限法3条の規制するところではないとし、平成21年6月23日付け都道府県知事及び指定都市市長宛の総務省自治財政局長による「第三セクター等の抜本的改革の推進等について」という通知(以下「平成21年6月23日付け総務省自治財政局長通知」という。)においても損失補償契約の有効性を前提とする記述があることから(《証拠省略》)、定着した解釈というべきである。

(ウ) ところで、財政援助制限法3条は、文言上、禁止対象として保証契約しか挙げていない。また、財政援助制限法の財政の健全化という趣旨からすれば、保証契約よりも債務や責任が重くなり得る損失補償契約を同条の禁止対象とすることが可能であったにもかかわらず、同条があえて保証契約のみを禁止対象として規定していることからすれば、財政の健全化のためには、同法1条及び2条と併せて同条が戦前の国策会社に対する保証契約の禁止の限度で政府の財政支援を制限すれば足りるという判断の下に規定されたものと解される。さらに、金融機関が従前の法令及び行政解釈を前提として損失補償契約が有効であることを前提として第三セクターに対し平成20年度末現在の残高1兆8306億円に上る融資をしてきたにもかかわらず(《証拠省略》)、その後に損失補償契約が違法、無効とされて実質的な無担保状態に陥ることになると、取引の安全が著しく害されるとともに、金融機関と地方公共団体との信頼関係に悪影響を与え、金融機関の第三セクターに対する与信停止により、その経営が立ちゆかなくなる事態が発生し、中小の金融機関が破綻の危機に瀕する可能性がある。

(エ) 以上によると、本件各損失補償契約は、財政援助制限法3条が財政の健全化の目的の下に保証契約の締結のみを禁止する趣旨であり、同条の保証契約に損失補償契約を含める拡大解釈も不確定の債務の増加防止を立法趣旨と解して同条の類推適用をする解釈も採用することは誤りであるから、同条に違反することはなく、適法である。

イ 各執行機関の責任

前記原告らの主張イは、否認し又は争う。

第3当裁判所の判断

1  本件各負担金に係る損害賠償請求又は不当利得返還請求の当否

(1)  各負担金②に係る訴え(請求の趣旨1ないし3の各(1)に係る訴え)の適否

ア まず、各負担金②に係る損害賠償を求める訴えは、訴えの交換的変更申立前の負担金支出差止請求(地方自治法242条の2第1項1号。以下「本件各差止請求」という。)との間では関連請求(行政事件訴訟法13条)に当たるから、訴えを交換的に変更することが認められ(同法19条)、しかも、同訴えは本件各差止請求の対象である違法行為から派生し、かつ、後続することが当然予測される行為又は事実に該当するものとして請求されているのであるから、財務会計上の行為に係る「事実」の同一性があるところ、本件各差止請求についての監査請求が適法にされたことは前記第2の2(7)のとおりであるから、負担金②に係る訴えは、実質的に監査請求を経たものというべきであり、監査請求前置主義を満たす訴えであると解される。

イ 次に、訴えの交換的変更は、従前の訴えを取り下げ、新訴を提起することであるから、出訴期間遵守の有無も原則としてその申立時を基準として判断されるべきである(最高裁昭和61年2月24日第二小法廷判決・民集40巻1号69頁)。もっとも、原告が旧訴の提起により新訴の対象となるべき財務会計上の行為を争う意思を実質的に表明しているものの、当該行為が未了でこれを対象とする新訴の提起をすることができなかったという場合には、旧訴と新訴の被告が同一であるか、あるいは実質的に同一であり、かつ、当該訴えの変更が当該財務会計上の行為後相当期間内に行われたという、特段の事情が認められるときには、例外的に旧訴の提起時に新訴が提起されたものとみなして、出訴期間の遵守を肯定すべきものと解される。

ところで、本件各差止請求には、各負担金②支出の停止を求める意思が表明されていたものの、その時点では各負担金②の支出がされていなかったため、被告らに対し各負担金②相当額の損害賠償請求を求める訴え(地方自治法242条の2第1項4号)を提起できなかったということができる。また、同訴えは、訴え変更の約2年3か月前から1年前までの間に順次支出された各負担金②を一括して提起したものであるから、各公金支出後相当期間内に提起されたものではないとは言い難い。そうすると、前記訴えの変更申立による、各負担金②に係る損害賠償請求を求める訴えは、出訴期間の遵守に欠けるところがないと解すべきである。

ウ 以上によると、訴えの交換的変更後の各負担金②に係る訴えは、いずれも適法であるといわねばならない。

(2)  本件各負担金支出の違法性の有無ないし効力

ア 実体的違法性の有無

(ア) 地方公共団体には、廃棄物の排出抑制及び適正処理をしてその住民の公衆衛生環境を守る責務があり(環境基本法1条、7条、36条、廃棄物処理法1条、4条)、都道府県は産業廃棄物の適正な処理を確保するために処理が必要であると認める産業廃棄物の処理をその事務として行うことを認められ(11条3項)、地方公共団体はその適正かつ広域的な処理の確保を目的として法人を設立することを認められているから(同法15条の5)、地方公共団体、特に都道府県が自ら産業廃棄物の処理事務を行うことが必要か否か、どのような産業廃棄物を処理対象とするか、産業廃棄物を処理する方法として他の地方公共団体と共同して法人を設立するか否か、同法人の事務執行に必要な運営費の不足分についてどのような形式でどの程度の分担をするかについては、いずれも地方公共団体ないしその執行機関に広範な裁量権が与えられているということができる。そうすると、地方公共団体の執行機関が同法人の設立後に適正な手続に基づき同法人の事務の執行に必要な運営費を負担金という形式で支出することは、当該法人の設立及び維持運営並びに当該負担金の支出が、同法人設立の趣旨ないし当該地方公共団体の政策に背反するなど、地方公共団体ないしその執行機関の裁量権の逸脱又は濫用と認められない限り、「公益上の必要性」(地方自治法232条の2)、「最小の経費で最大の効果を追求する原則」(同法2条14項)又は「目的を達成するための必要かつ最小の限度を維持する原則」(地方財政法4条1項)に反して違法と評価されることはないと解される。

(イ) ところで、前記第2の2の(2)イ、(3)並びに(4)のア、エ及びオの各事実と証拠(《証拠省略》)及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実がいずれも認められる。

a まず、産業廃棄物の適正かつ広域的な処理の確保を目的とする法人の設立は、特別管理産業廃棄物や市町村において適正処理が困難な廃棄物が増大していたこと及び処理施設の設置が困難となっていること等の実情に照らし、廃棄物処理法の平成3年改正により認められ、平成4年8月13日の厚生省通知もその積極的な設立を促していた。

b また、横浜市は、平成4年当時、市内の最終処分場の廃棄物受入可能残余年数がわずか1年であるにもかかわらず、その新規設置につき住民合意等の面で実現の目処が立っておらず、同年度中には産業廃棄物102万トンを海洋環境に影響を与えるため規制が強化された海洋投棄とし、12万トンを市内埋立処分とし、48万トンを市外埋立処分としていたところ、横浜商工会議所をはじめとする6団体から、平成5年12月24日付け書面により、技術、経済及び土地確保上の障害が多いため、公共関与による産業廃棄物処理施設の整備が時宜を得たものであり、高く評価するので緊急的速やかに現実のものにされたいとの要望を受けた。

c そして、aセンター整備計画が想定した特定種類の産業廃棄物の量は、昭和62年と比較すると、平成5年には廃油が9%減少したものの全体として2.33倍となっていた。

d しかも、神奈川県は、中間処理目的の廃棄物を東京都から受け入れる一方で、千葉県や埼玉県に搬出し、最終処分目的の廃棄物を千葉県、九州地方、中部地方に搬出していたところ、全国で33県、5政令指定都市及び8主要都市が、本件覚書締結以前までに、域外からの産業廃棄物の搬入についての規制を順次設け、その後も規制が他の都市に拡大しつつあった。

e かくして、本件各地方公共団体は、平成8年当時、公的関与による施設整備で最終処分場を確保するだけでなく、その前段階として中間処理施設における産業廃棄物の減量化及び資源化並びに県外地方公共団体の廃棄物受入規制の増加に対応する県内処理体制の確保を政策課題としていたが、産業廃棄物中間処理を民間企業に全面的に委ねるときには、自家処理能力が低い反面排出量が僅少であるため処理受託業者から劣後的な扱いを受け、かつ、委託費用面で不利な立場に置かれがちな中小排出事業者の経営に打撃を与え、それが不法投棄等の不適正処理に結びつき、住民の生活環境保全に支障を惹き起こすのではないかという懸念を共有していた。

f そこで、本件各地方公共団体は、県内で排出された前記第2の2(4)アの産業廃棄物をできる限り中間処理して資源化又は圧縮をすることにより最終処分量の減量をし、逼迫する最終処分場の受入可能残余年数を延ばすことを共通の政策として、各々同委託処理事務の一部に関与するために、本件覚書を締結し、これに沿い、平成8年11月1日、産業廃棄物の中間処理、リサイクル施設の建設及びその運営管理、産業廃棄物の処理、処理技術等に関する調査研究、民間処理施設の設置促進等に関する普及啓発を事業内容とする事業団を設立した。

g そして、aセンター整備計画が想定していた特定種類の産業廃棄物の量は、平成10年には、平成5年と比較すると全体として減少していたものの、依然として計画処理量の4倍以上であり、昭和62年と比較すると1.51倍であり、そのうち24万7000トンが県外事業者処理処分によるもので県外処理処分から県内処理処分への転換が未了であり、かつ、県内事業者未処理最終処分量も1万3000トンで未解消であった。

h そこで、事業団は、平成11年3月付で公的な関与による信頼できる施設としてのaセンター整備計画を策定し、同年4月ころ同建設工事の着工をし、aセンターについて、国から、同年8月5日付けで特定施設の認定を受け、平成12年11月2日付けで廃棄物処理センターとしての指定を受けた。

i さらに、平成11年度末には、神奈川県における産業廃棄物の搬出入状況が依然として前記gのとおりであったにもかかわらず、全国の産業廃棄物最終処分場の受入可能残余年数が平均3.7年分、首都圏で1.2年分に過ぎなくなっていた。

以上の各事実によると、本件各地方公共団体が本件覚書を締結し、これに沿い事業団を設立し、事業団にaセンター整備計画を策定させた上aセンターの建設工事を完成させてこれを稼働させたことは、廃棄物の排出抑制及び適正処理をしてその住民の公衆衛生環境を守る責務を果たす上で客観的に必要かつ公益性の高い事務の遂行であったというべきである。原告らは、前記dの受入規制の内容が事前協議を課するにとどまり県内処理の必要性には緊急性がなく、県外で発生した廃棄物の県内業者による受託規制をすればaセンターの設置は不要であったと主張するが、事前協議に廃棄物受入抑制効果があることは各種行政指導に照らし自明である反面、神奈川県内の廃棄物処理を県外業者に委託しつつ県外の廃棄物の受託規制を完全に規制する政策を採用できないことも自明であって、原告らの主張を採用する余地はない。

(ウ) 次に、平成13年度ないし平成19年度にaセンターに搬入された特定種類の産業廃棄物の内訳、中間処理委託契約者数及び搬入量(トン)は前記第2の2(5)アのとおりであり、さらに、証拠(《証拠省略》)及び弁論の全趣旨によれば、本件各地方公共団体がaセンターを高度な処理能力を持つ施設のモデルとして示すことで住民の啓発を行い、廃棄物中間処理技術の実証、調査、研究開発を活用した民間施設の技術力の向上及び建設の促進を図ることもその存在意義とし、実際にも、平成14年8月21日に伊勢原市内で発生したBSE疑似患畜19トンの受入れをし、平成20年度に動物の死体360kgの焼却処理をするなど、産業廃棄物の適正処理のモデルを努め、平成19年度には、国から協力要請を受けて低濃度PCB廃棄物の実証実験を行ったことが認められる。そうすると、aセンターは、上記期間中、設置当初の目的である特定種類の産業廃棄物中間処理の実績を積み、その先導的役割及び公共的なモデル施設としての役割を着実に担い、高度な公共的機能を果たしてきたというべきである。原告らは、これらの事情をもってしても民間事業者の補完的機能を果たしてきたとはいえないと主張するが、aセンターが民間企業には処理し難く、公益法人であるからこそ果たせる分野で中間処理をしてきたことは、前示認定事実から明らかである。

また、平成15ないし18年度の事業団の事業収支及び資金収支(いずれも負担金収入を除くもの)は同(5)イのとおりであり、平成15年度以降資金収支が、平成17年度以降事業収支が、それぞれ赤字となったものの、それまでは収支が堅調であって、しかも、証拠(<省略>)及び弁論の全趣旨によれば、aセンター設置後、大手民間企業の産業廃棄物処理事業への参入が続き、神奈川県内の焼却処理能力が大規模焼却設備の稼働開始により平成18年1月1日には合計1471.36トンと順調に増大し、同年内に東京都で650トン及び平成21年に袖ヶ浦市で199トン増の大規模施設が操業を始めたことが認められる。そうすると、事業団収支の悪化は、原告らの主張するように事業収支見込みの甘い制度設計ないし非効率な経営に起因したというよりは、本件各地方公共団体が目指した民間企業による中間処理施設建設の先導役としての役割が果たされ、大規模な民間中間処理施設の建設が相次いだ結果であるとも評価することができるとともに、aセンターの処理能力が前記第2の2(4)イのとおり1日当たり210トンであり、神奈川県内の全処理施設の焼却能力に占める割合が約14.3%であってなおその存在意義が高かったところ、事業団の資金収支ないし事業収支の赤字を補填し、かかる存在意義を有するaセンターの運営を維持して、その公共的機能を存続させるには、前記第2の2(6)の負担金の支出が不可欠であったというべきである。

(エ) したがって、本件各負担金の支出は、aセンターの設置が廃棄物の排出抑制及び適正処理をすることでその住民の公衆衛生環境を守るとの責務を果たす上で客観的に必要であって、かつ公益性の高い事務の遂行を企図し、その運営の維持が特定種類の産業廃棄物の中間処理及び公共的なモデル施設としての役割を果たす上で必要であったということができるから、普通地方公共団体ないしその執行機関に与えられた裁量権を何ら逸脱せず、かつ、これを濫用するものでもなかったというべきである。

なお、産業廃棄物の処理費用は排出者責任原則に沿い排出事業者らが負うべきものであり、事業団の収支が均衡することは、同原則に照らして望ましいことが明らかである。そこで、原告らは、そのことを捉えて本件各負担金の支出が同原則に反する違法な行為であると主張するもののようである。しかしながら、本件各地方公共団体が、事業団の事業収支が均衡している間、資金収支の赤字を補填する目的で負担金の支出をしたことが直ちに同原則に反するものとはいえず、その後に、事業収支が赤字となったとしても、安易に事業継続に必要な負担金の支払を停止してその事業を破綻させれば、地方公共団体に対する諸関係者の信頼を失わせ、しかも、住民の公衆衛生に悪影響が及ぶおそれや税負担がかえって増大する場合があるから、当面の費用対効果や経済的損失のみをもってその存廃を論ずることは軽々にはできなかったということができる。そうすると、本件各負担金の支出が同原則に照らし違法であったとまではいうことができない。

また、原告らは、地方公営企業における独立採算制原則(地方財政法6条、地方公営企業法17条の2第1項)が政令指定事業以外の事業や出資団体によって推進される事業についても類推適用されるべきであるとも主張する。しかしながら、地方公営企業は地方公共団体が経営する企業であるのに対し、いわゆる第三セクターである事業団は地方公共団体が一定の政策目的のために設立し、運営する公益目的の法人であって、経営効率のみを追求するものではないから、上記の原告らの主張も採用できない。

イ 手続的違法性の有無

本件覚書は、被告らが各々負担すべき事業団経費の範囲が抽象的かつ未確定であり、しかも、その経費負担の限度額も不確定であって、それ自体ではおよそ法的な権利義務を発生させるものではないことは、当事者間に争いがなく、証拠(<省略>)及び弁論の全趣旨によれば、本件各負担金が、本件覚書の趣旨に沿い、毎会計年度、事業団の申請、本件各地方公共団体相互間の協議及び確認、本件各地方公共団体の執行機関が各々調整する予算への計上、各議会による予算可決並びに各執行機関又はその委任を受けた職員による支出負担行為及び支出命令を経て支出されたことが認められる。そうすると、本件各負担金は、原告らが主張するような、本件覚書のみにより支出されたものとも、本件各地方公共団体の補助金交付に関する規則に反するものとも、地方自治法が支出負担行為制度(232条の3)及び会計管理者によるその確認制度(同条の4)を設けた意義を没却するものともいえない。したがって、本件各負担金支出手続は、違法とはいえない。

(3)  以上によると、本件各負担金の支出が実体的にも手続的にも違法であるとはいえず、ましてそれが無効であるとはいうことができないから、請求1ないし3の(1)及び(3)は、いずれも、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

2  本件各損失補償金の交付に係る損害賠償請求及び不当利得返還請求の当否

(1)  財政援助制限法3条にいう「保証契約」に本件各損失補償契約が含まれるか否か

ア 財政援助制限法3条の趣旨

証拠(<省略>)及び弁論の全趣旨によれば、政府が戦前特殊会社に対し国策の遂行をさせるための財政援助として、帝国議会の協賛を成立要件とする予算外国庫債務負担行為(大日本帝国憲法62条3項)による積極的な利子補給及び債務履行の可能性及び額が不確定な債務(以下「不確定な債務」という。)を負う保証契約を行ったことにより、特殊会社を肥大化させ、終戦後にこれを破綻させるとともに膨大な国庫負担の累積を残したところ、GHQがかかる国策会社の活動を停止させてその整理を促し、その復活を阻止するため、政府財政援助を原則として補助金等の交付形式に一本化することを指示する、昭和21年4月3日付け覚書を発したことから、財政援助制限法が立法され、同年9月25日に公布施行されたことが認められる。そうすると、同法が、同覚書を契機として、国家財政がかかる破綻状態に陥ったことを反省し、戦後財政を民主的に再建する目的を有していたことは明らかである。そこで、被告ら及び被告ら補助参加人は、同法が必ずしも保証債務の負担行為を制限することを主目的とするものとはいえないと主張する。

しかしながら、まず、同法の規定の文言自体には、適用期間を限定する趣旨をうかがわせるものは何もない。次に、前記国策会社は、国からの野放図な財政援助に依存したため健全な企業経営ができないまま肥大化した後に破綻し、しかも、膨大な国庫負担の累積を残したものであるところ、国策会社以外の法人に対する国等による財政援助が無制約となれば、健全な企業が育たず、我が国の経済が脆弱となるとともに、再び国家財政の破綻を招く危険性があることは、立法当時にも自明であったと考えられる。さらに、国又は地方公共団体の公債若しくは借入金その他の固有債務の負担行為は、その後、原則的に禁止されたが(財政法4条、地方財政法5条)、戦後財政の再建が成ったからといって保証契約が許容されるというのでは、その潜脱となりかねず、関連法令相互の整合性が崩れることとなる。そこで、財政援助制限法は、前記特殊会社の廃止後も改正を重ねながら存続してきたものと解される。そうすると、同法は、立法当時直面していた戦後財政の民主的再建という政策課題だけでなく、法人の自律的で健全な経営を促して、国及び地方公共団体の負債が再び累増することを防ぐ趣旨を込めて立法されたものというべきであり、同法3条が「政府又は地方公共団体は、会社その他の法人の債務については、保証契約をすることができない。」と規定する趣旨も、国又は地方公共団体が金融機関との間で会社その他の法人のために不確定な債務を負うこととなる保証契約の締結を戦後財政の再建期に限らずに原則的に禁止し、かつ、同契約を無効とする趣旨と解すべきである。

イ 財政援助制限法3条にいう保証契約の意義

原告らは、財政援助制限法3条の前示アの趣旨に照らし、民法上の保証契約であると否とを問わず、民法上の保証債務と同様に不確定な債務を負う契約は、同条にいう保証契約に該当すると解し、損失補償契約も同条にいう保証契約に含まれると主張する。

しかしながら、損失補償契約は、主債務の履行担保を目的とする保証契約とは異なり、特定の債務の不履行の結果として債権者に生じた損失自体に着目し、その填補を目的として損失を担保するものであり、補償債務履行の時期ないし履行すべき損失の範囲については必ずしも一定しないものの、債務不履行による損失発生の危険を引き受けて結果責任を負う契約であって、少なくとも、金銭消費貸借契約上の債務者に対する執行不能等のため担保権の実行以外に債権回収が望めず、残元金の請求権の一部回収不能が事実上確定したという場合に当該回収不能額等を金融機関の損失としてこれを補填する合意(以下「回収不能確定時補填合意」という。)を基本的な内容とし、主債務の存在を前提とせず、債務内容の同一性、附従性及び随伴性が問題とならず、かつ、金銭消費貸借契約に無効ないし取消原因があったとしても損失補償債務を免れないなど、民法上の保証契約とは、その法的性質のみならず、債務や責任がより重くなり得る点で異なるものである。そして、証拠(<省略>)及び弁論の全趣旨によれば、長野県が昭和7年6月ころ長野県信用組合連合会に対し、同連合会が同年中の同県内信用組合の中央金庫からの借入金返還債務について保証し、同保証債務履行により損失を被ったときには、県費を以て補償する旨を約したこと及び大阪府が昭和9年9月の風水害被害を受けた大阪市の中小商工業者が住友銀行、三和銀行及び野村銀行から復興資金を借入する場合には、各銀行に対し、貸付金額の5割を限度とする損失補償を約したことが認められ、損失補償契約が戦前から保証契約と明確に区別される形で行われていたということができる。

ところで、会社その他の法人に対する既存のいかなる契約類型による財政援助を禁止して、前示アの立法目的をいかなる限度で実現するかは、立法政策の問題であるところ、同条は、明文上、保証契約のみを原則的に禁止し、損失補償契約には何ら言及していない。そうすると、同条は、論理的には、戦前から行われてきた損失補償契約についてはこれを規制対象とせず、民法上の保証契約による財政援助のみを規制対象とする趣旨と考えることができる。

また、財政援助制限法の施行と前後して起草され、その後施行された憲法は、その92条において地方自治の本旨である住民自治と団体自治を保障しているところ、これを実現するには、地方財政の自主独立性の保障が必要であるため、地方財政法において自治財政権が明らかにされたこと(2条2項)などの当時の立法の状況に照らせば、国が地方公共団体の財政上の権能に対して規制又は禁止を加える法令については、原則として、限定的な解釈をすべきものと解される。

さらに、地方公共団体がその施策を実現する目的で、所要の事業資金の一部を出資して公益法人であるいわゆる第三セクターを設立し、その余の資金調達に際し、第三セクターの信用力を補完するために損失補償契約を締結することは、所要資金の大半ないし全部を出資して民法上の法人であるために配当が認められず投下資本を回収する見込みのない第三セクターを設立する方法に比較すると、第三セクターがその事業継続により生ずる収益により調達資金の全部又は一部を返済することを目論むことができる場合には、地方公共団体の財政負担を抑え得るから、当該施策実現のため必要かつ合理的である。そうすると、そのような損失補償契約の締結は、地方公共団体の財政負担を累増するものではなく、かえって、抑制する効果を持ち得るから、会社その他の営利法人に対する財政援助としての保証契約と同列に置いてこれを規制対象とすることは、財政援助制限法3条が予定するところでないと解される。

以上によると、財政援助制限法3条にいう保証契約とは、民法上の保証契約を意味し、損失補償契約を含むものではないと解すべきであり、損失補償契約が不確定な債務を生じさせるというだけで、同条にいう保証契約であるとの拡張解釈をすることはできないというべきである。なお、地方自治法(昭和22年5月3日施行)が予算議決において対象となる事項、期間及び限度額が定められれば債務負担行為が可能とし(214条)、同法に損失補償契約の締結を想定し、又は保証契約と明確に区別する規定があり(同法199条7項、221条3項、地方公共団体の財政の健全化に関する法律3条1項、同法2条4号、同法施行規則12条5号)、地方財政法附則に地方公共団体が損失補償を行っている法人が解散した場合の損失補償の履行を前提とした起債についての規定があり(33条の5の7の第1項4号)、天災による被害農林漁業者等に対する資金の融通に関する暫定措置法3条が損失補償の適法性を前提とする規定であり、財政援助制限法3条の適用を排除する法令(地方道路公社法28条、公有地の拡大の推進に関する法律25条)が保証契約のみを対象としていることや、昭和29年5月12日付け自治庁行政課長回答が損失補償を財政援助制限法3条の規制するところではないとし、平成21年6月23日付け総務省自治財政局長通知にも損失補償契約の有効性を前提とする記述があることも、上記解釈を裏付けるものというべきである。

もっとも、契約当事者が損失補償契約との文言を用いている場合であっても、個々の条項を検討し、その内容が保証契約の実質を有すると認められる場合には、当該契約は保証契約の性質を有するものとして、財政援助制限法3条の禁止の対象となることはいうまでもない。また、損失補償契約のうち、一部の特約が保証債務の実質を有すると認められる場合は、当該特約に関しては同条が適用され、これに基づく補償金の支払も無効となるというべきである。

ウ 本件各損失補償契約の法的性質

本件各損失補償契約に関する契約書には、前記第2の2(4)ウeのとおり、(ア)その前文において、損失補償契約を締結する旨が明記されており、(イ)保証債務の履行請求に関する民法446条1項とは異なり、損失補償を請求できる時期が借入金の履行期限から6か月経過後とされており(1条1、2項)、(ウ)填補されるべき損失には、補償履行の日までの損害金を含むとされ(同条3項)、(エ)損失補償の履行として支払う金銭は、元本、利息その他弁済すべき債務及び損害金の合計額の3分の1を限度とするものとされ(同条5項)、(オ)損失補償が履行されても、求償権及び代位権が発生するのではなく、被告ら補助参加人が被告らに対し事業団に対する債権の譲渡及びその担保移転をすべきものとされ(2条)、反面、(カ)随伴性及び補充性に関する規定がない。そうすると、本件各損失補償契約は、回収不能確定時補填合意に、特約として、必ずしも強制執行等を要しない上記(イ)の時点で損失補償を請求できることとして、損失の回収時期を早め、かつ、損失を高額に確定し得る合意(以下「不履行債務即時補填合意」という。)を付加するものとはいえ、財政援助制限法3条の適用対象である民法上の保証契約とはいえないことが明らかである。

また、実質的にみると、本件各損失補償契約のうち、回収不能確定時補填合意部分は、不確定な債務を発生させるものである点で保証契約と異ならないということもできるが、損失補償契約が戦前から保証契約と明確に区別される形で行われていたにもかかわらず、文理的にも論理的にも同条が保証契約のみを規制対象とする趣旨であると解すべきこと及び同条が地方公共団体の財政負担を抑制しつつ第三セクターの信用力を補完するための損失補償契約の締結を規制する趣旨とは考えられないことは前示イのとおりであるから、本件各損失補償契約に不確定な債務を発生させる法的性質があるということだけから同条の適用対象とされると解すべきではない。

他方、本件各損失補償契約のうち、不履行債務即時補填合意部分をみると、その内容は、事業団に対する執行不能等により本件各借入金の回収が望めないため残元利金などの請求権の一部回収不能が確定したことを要件とすることなく、一定期間の履行遅滞が発生したときには損失が発生したこととして責任を負うとするものであって、単に、不確定な債務を生むものであるというだけでなく、債務を履行すべき時期及び金額において、保証契約が締結された場合と著しく近似し、かつ、それを上回る財政負担を招く可能性があるというべきである。このことからすると、不履行債務即時補填合意部分については、保証契約の実質を有するものとして、同条の適用対象となる余地があり、同合意に基づいて支払われた補償金の支払が無効とされる場合があることは否定できないというべきである。

(2)  本件各損失補償金交付の効力

ところで、本件各地方公共団体が、被告ら補助参加人に対し、経営改善検討委員会の意見に基づく事業団の解散及びその後の破産申立てにより、事業団から貸付金を回収することが不能となることが確実となった後に、本件各損失補償金の交付をしたことは、前記第2の2(9)のとおりである。そうすると、本件各損失補償金の交付は、本件各損失補償契約のうち、不履行債務即時補填合意部分ではなく、回収不能確定時補填合意部分に基づいて履行されたことが明らかである。したがって、本件各損失補償金の交付は、有効にされたものというべきである。

(3)  したがって、本件各損失補償金の交付に係る損害賠償請求及び不当利得返還請求は、本件各損失補償契約が財政援助制限法3条に違反し無効であることを理由とするものであるところ、本件各損失補償契約のうち回収不能確定時補填合意部分に基づく本件各損失補償金の交付が同条に違反すると認めることはできないから、いずれも、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

第4結論

以上によると、各事件請求は、いずれも失当であるから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐村浩之 裁判官 日下部克通 小林麻子)

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