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横浜地方裁判所 平成19年(行ウ)97号 判決 2009年7月15日

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

南足柄市固定資産評価審査委員会が、原告らに対し、平成19年6月26日付けでした別紙物件目録1ないし3記載の各土地に係る平成18年度固定資産課税台帳の登録価格についての審査の申出に対する決定を取り消す。

第2事案の概要

1  事案の要旨

本件は、原告らが、共有する土地の平成18年度の土地課税台帳の登録価格について、南足柄市固定資産評価審査委員会(以下「審査委員会」という。)に対し、画地、現況地目の評価が異なっているなどとして、上記登録価格を減額するよう求めて審査を申し出たものの(以下「本件審査申出」という。)、審査委員会が一部これを棄却する趣旨の決定(以下「本件審査決定」という。)をしたため、原告らが本件審査決定の取消しを求めた事案である。

2  基礎となる事実(以下の事実は、当事者間に争いがないか、掲記の証拠によって明らかにこれを認める。)

(1)  原告らは、昭和57年11月29日付けでa株式会社(以下「a」という。)から、別紙物件目録1ないし3記載の各土地(以下、これらの各土地を別紙区画図に記載のとおり、順次「A土地」、「B土地」、「C土地」といい、また、A土地とB土地とを併せて「A、B土地」、すべての土地を併せて「本件各土地」という。)を買い受け、以来、これらをそれぞれ持分2分の1の割合で共有している(〔証拠略〕)。なお、A、B土地は不動産登記簿上は1筆の土地であり、A土地上には、原告X1(以下「原告X1」という。)が所有する建物(以下「本件建物」という。)があり(〔証拠略〕)、原告らはこれを別荘として利用している。

(2)  A、B土地及びC土地は、従前から、土地課税台帳に地目を山林として登録されていたが、A、B土地は、本件建物が建築された平成4年度以降は地目を宅地として登録されている。C土地は、同年度において一度地目を宅地として登録されたが、南足柄市長は、同年12月14日付けで、原告らに対し、地方税法(以下「法」ともいう。)417条1項に基づき、地目を宅地から山林、固定資産税課税標準額を1137万4000円から3万7741円に修正する旨通知し、以来、地目を山林として登録されていた(〔証拠略〕)。

(3)  南足柄市長は、平成18年度(法341条6号にいう基準年度)の固定資産税の賦課期日である平成18年1月1日において、本件各土地は全体として1画地の現況地目が宅地であるとし、A、B土地及びC土地いずれも価格を1684万2826円と決定し、同価格が土地課税台帳に登録され、また、いずれも現況地目は宅地として登録された(〔証拠略〕)。

これに基づき、南足柄市長は、本件各土地について14万9500円の固定資産税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をし(なお、課税明細書によれば、A、B土地及びC土地いずれも固定資産税額は7万4795円である。)、同年5月1日付けで原告らに対しその旨の納税通知書を送付した(〔証拠略〕)。

(4)  本件審査申出

原告らは、平成18年5月1日、審査委員会に対し、本件各土地は、AないしC土地の3画地であること、A土地は現況宅地であるが、B土地及びC土地はいずれも現況山林であること、これを前提に上記登録価格を減額するよう求めて審査を申し出た(本件審査申出。〔証拠略〕)。

(5)  本件審査決定

審査委員会は、実地調査等の上、審理をし、平成19年6月26日付けで、原告らに対し、本件各土地はA、B土地とC土地との2画地であること、現況地目はいずれも宅地であること、これを前提に、その価格は、A、B土地が1650万5742円、C土地が1632万3758円であるとして、南足柄市長が決定した前記登録価格を以上のようにする旨の決定をした(本件審査決定。〔証拠略〕)。

3  固定資産評価基準等の定め

(1)  固定資産評価基準(昭和38年12月25日自治省告示第158号、〔証拠略〕)

第1章第1節

一 土地の評価の基本

土地の評価は、次に掲げる土地の地目の別に、それぞれ、以下に定める評価の方法によって行うものとする。この場合における土地の地目の認定に当たっては、当該土地の現況及び利用目的に重点を置き、部分的に僅少の差異の存するときであっても、土地全体としての状況を観察して認定するものとする。

(1) 田 (2) 畑 (3) 宅地 (4) 削除 (5) 鉱泉地 (6) 池沼(7) 山林(8) 牧場 (9) 原野 (10) 雑種地

別表第3

2  画地の認定

各筆の宅地の評点数は、1画地ごとに画地計算表を適用して求めるものとする。この場合において、1画地は原則として土地課税台帳又は土地補充課税台帳に登録された1筆の宅地によるものとする。ただし、1筆の宅地又は隣接する2筆以上の宅地について、その形状、利用状況等からみて、これを一体をなしていると認められる部分に区分し、又はこれらを合わせる必要がある場合においては、その一体をなしている部分の宅地ごとに1画地とする。

(2) 別荘用地の評価について(昭和48年8月24日自治固第72号東京都総務・主税局長、各道府県総務部長あて自治省税務局固定資産税課長通知。以下「本件課長通知」という。)

別荘用地は、一般の住宅の敷地と異なり、通常すぐれた自然環境の地にあって、別荘の敷地はもちろん樹木等が生育している部分も含め、これらの土地全体が別荘と一体となって別荘の維持若しくは効用を果たすために必要な土地としてその機能を果しているものであるから、これらの土地全体を別荘用地として認定すべきものであるが、その態様が種々異なるところから、別荘用地として認定されるべき土地の範囲、地目の認定等について、各市町村を通じてその取扱いに統一を欠いている向きもあるので、下記により取り扱うよう配意されたい。

なお、管下市町村に対してもこの旨示達のうえ、ご指導願いたい。

1 別荘が建築されている土地の評価

土盛り、垣根等により区画されているものについては、原則として、その区画された土地全体を別荘用地とし、これを宅地と認定して、その価格を求めるものとすること。

なお、土盛り、垣根等により区画がないものについては、当該別荘が存する区域における標準的な別荘用地の規模、当該土地の利用の現況等を勘案のうえ、当該別荘の敷地及びその維持若しくは効用を果たすために必要と認められる土地を別荘用地とし、これを宅地として、その価格を求めるものとすること。

2 別荘が建築されていない土地の評価

(1)  当該土地に別荘を建築するため、基礎工事に着手しているものについては、1に準じて別荘用地の範囲を画定し、これを宅地として認定して、その価格を求めるものとすること。

(2)  (1)以外の土地が次の要件を満たす状況にある場合には、1に準じて別荘用地の範囲を画定し、これを宅地として認定して、その価格を求めるものとすること。ただし、当該土地の現況からして宅地と認定することが不適当であると認めるものについては、これを雑種地と認定し、附近の状況が類似する宅地の価格に比準してその価格を求めるものとすること。

イ 附近の道路が整備されていること。

ロ 電灯用電気及び飲料水が得られる状況にあること。

(3)  (1)及び(2)以外の土地については、現況によって地目を認定し、その地目に応じて価格を求めるものとすること。

第3争点

1  A、B土地は1画地か

2  B土地及びC土地の現況は宅地か山林か

3  本件各土地を評価するに当たり基準とすべき土地の選択の適否

第4争点に関する当事者の主張

1  争点1(A、B土地は1画地か)について

【原告らの主張】

(1) 審査委員会は、本件審査決定において、本件各土地はA、B土地とC土地との2画地であるとしているが、本件各土地はAないしC土地の3画地と認定したうえ、それぞれ別に評価されるべきものである。

(2) A土地とB土地は、本件建物を建築する際の工事により、その間は高さ約2mの崖になり、コンクリート練積ブロックの擁壁で判然と区分され、往来のできない状況になった。また、A土地は南側で、B土地は北側で公道に隣接していて独立しており、利用状況も、A土地は整地されて建物が建築されて、建物の敷地、階段通路及び庭として利用されているのに対して、B土地はaによる開発行為前と同じく樹木が生育したままの勾配約30度の急傾斜地であって、利用状況が全く異なっている。また、面積も、A土地が536m2、B土地が498m2とそれぞれ独立の評価が可能な面積となっている。

したがって、B土地は本件建物の維持又は効用を果たすために必要な土地とは認められないので、A土地とB土地とは別画地である。

(3) よって、A、B土地を1画地とした本件審査決定は誤りであって、違法である。

【被告の主張】

A、B土地は、1筆の土地であり、この土地自体は本件各土地付近を造成開発したaによって、1画地として造成販売された土地である。もともと傾斜地であり、斜面上に住宅を建設する以上、ほぼ必然的に切土して整地する必要があったもので、その結果2mの擁壁が設置されたものと認められる。また、原告が本件建物建築に際しした工事は、森林住宅分譲地建築協定書という開発者であるaと原告と購入者との間になされた協定により「建築物を建築する際の樹木の伐採は必要最少限度にとどめること」「塀その他の遮蔽物はできる限り設けないこと」などの従来の樹木等の自然な状態を残す方向での住宅建設の協定趣旨に沿った一環の土地利用行為と認められる。そこで、原告が擁壁を設けたからといって、直ちに2画地の土地と認定することは適切とはいえないし、1筆1画地評価の原則の例外とするに足る特段の利用状況があるとは認め難い。

したがって、A、B土地につき1画地であるとした審査委員会の判断は正当である。

2  争点2(B土地及びC土地の現況は宅地か山林か)について

【原告らの主張】

地目は、土地の用途による分類であり、最終的な認定は登記所が行うもので、市町村長が決められるものではない。その認定は、土地の現況及び利用目的に重点を置き、土地全体の状況を観察して定めるものである。そして、宅地は、「建物の敷地及びその維持若しくは効用を果すために必要な土地」である(不動産登記事務取扱手続準則(平成17年2月25日法務省民二第456号民事局長通達)68条3号)。したがって、本件各土地のうち、建物が建っているA土地は宅地であることは明白である。しかし、B土地及びC土地は、勾配30度を超える急傾斜地で、aによる開発行為以前から生育している松、檜等が林立している状態であり、これらの樹木を伐採した上、土盛りあるいは切土して整地し、崖地部分に崩落防止の擁壁を設置する等の工事を完工しなければ、建物を建築することが不可能である。そうすると、近い将来建物の敷地等に供されることが確実に見込まれる土地ではないので、宅地ではなく、従前どおりの山林である。

【被告の主張】

(1) 土地に対する固定資産税は、土地の資産価値に着目し、その所有という事実に担税力を認めて課する一種の財産税であって、その課税標準であるという適正な時価とは、正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち客観的な交換価値をいうと解される(最高裁判所平成15年6月26日第1小法廷判決・民集57巻6号723頁(以下「最高裁平成15年判決」という。)参照)。

地目の認定については、固定資産税の課税標準額の基礎となる固定資産の価格(適正な時価)を評価するためにされるものであるから、当該土地の物理的な状況のみに着目して判断すべきものではない。評価基準にも「当該土地の現況及び利用目的に重点を置き」、「土地全体としての状況を観察して認定するもの」とされており、当該土地の現況を前提としてそれが客観的にどのような用途に利用されるものであるか、また、どのような用途の土地としての資産価値を有するのかということも考慮して総合的に判断すべきものと考えられる(横浜地方裁判所平成18年9月13日判決。〔証拠略〕)。

(2) B土地は、前記1【被告の主張】のとおりA土地と一体として、1画地の宅地として利用されており、現況が宅地として評価されるのは当然である。

(3) C土地は現に建物が建築されていない土地であるものの、aにより別荘用地として分譲された土地であり、その後「b」では、そのほとんどの土地に建物が建築されている。また、C土地は南側及び北側がそれぞれ片側1車線ずつの道路に接しており、電気及び上下水道が設置されているのであるから、客観的に見て宅地としての資産価値を有するものといえる。もともと原告は昭和57年に同土地を3000万円で購入しているものであり、その後、周囲に多くの建物が建築されてきた平成15年当時において、同土地を山林と評価した場合の評価額3万7741円がその客観的な資産価値に対応したものとは到底解されない。

C土地に建物を建築する際に、整地などを要するといってもC土地の現況からすれば、前述した建築協定に従う限り、それほど大がかりな造成工事等を要するとは認められず、接道、電気、上下水道が整備されたC土地に宅地としての資産価値が存しないとは言い難いなどの諸点から、C土地の地目を宅地として認定することは相応の根拠がある。

C土地については、横浜地方裁判所平成16年(行ウ)第65号固定資産評価額等審査決定取消請求事件(〔証拠略〕)において、上記の理由により宅地と認定するには相当な根拠があると認定され、平成18年9月13日言い渡された判決はそのまま確定している。したがって、原告の本件訴えは重複訴訟の疑いすらあり、理由なきものである。

3  争点3(本件各土地についての評価額の適否)について

【原告らの主張】

(1) 本件各土地の固定資産税の価格の評価のうち、A土地については標準土地の選択、地勢を考慮しない等の誤りがある。またB土地及びC土地については山林として適正な評価をしていない誤りがある。

(2) A土地は丘陵の山腹に位置していて、宅地ではあるが、地盤は北側の一部分だけは削土して平坦になっているが、南側の大部分の地盤は約30度の急傾斜地である。これに対して標準土地は丘陵の頂上にあって、その地盤はほぼ平坦である。急斜面地と平坦地とでは、用途、使用価値、維持管理の手数等に著しい差異がある。従ってこの両土地は状況類似地域ではないのであり、標準土地に比準して評価したA土地の評価額は過大である。

(3) B土地及びC土地は、樹齢50年以上の樹木の生い残った土地で山林であるから、これを山林として適正に評価されなければならない。

(4) 以上の次第で、本件各土地についての被告の認定した固定資産の評価は、著しく高額であって違法である。

【被告の主張】

(1) 本件各土地は、前記のとおり、いずれも宅地として評価がされるべきである。

(2) 標準土地の選定について

標準宅地の選定に当たっては、一般的に「市街地宅地評価法」に基づき選定が行われる。これはいわゆる路線価方式とも言われ、路線価に基づいて各画地の評点数を付設し、当該評点数に評点1点当たりの価額を乗じて、各筆の宅地の評価額を求める方法である。

市街地宅地評価法による宅地の評点数の付設は次の順序によって行われる。

① 用途地区を区分する。

② 各用途地区について、その状況が相当に相違する地域ごとにその主要な街路に沿接する宅地のうちから標準宅地を選定する。

③ 標準宅地について不動産鑑定士等による鑑定評価価格(地価公示価格、地価調査価格があればそれによる)等から適正な時価を求め、これに基づいて当該標準宅地の沿接する街路について路線価を付設し、これに比準してその他の街路の路線価を付設する。

④ 路線価を基礎とし「画地計算法」を適用して各筆の宅地の評点数を付設する。

具体的には宅地の利用状況を基準とし、市町村の宅地を商業地区、住宅地区、工業地区、観光地区等の用途地区に区分する。この場合において必要に応じ商業地区にあっては繁華街、高度商業地区、普通商業地区等に、住宅地区にあっては高級住宅地区、普通住宅地区、併用住宅地区等に、工業地区にあっては大工場地区、中小工場地区、家内工業地区等に、それぞれ区分する。これによって区分した各地区を、街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等からみて相当に相違する地域ごとに区分し、当該地域の主要な街路に沿接する宅地のうち、奥行、間口、形状等の状況が当該地域において標準的なものと認められるものを標準宅地として選定する。

本件標準地は、上記「市街地宅地評価法」の基準に従い、住宅地区のうち高級住宅地区であり、aによって画一的に開発された分譲地のうちで、家屋の疎密度もほぼ等しく、更に、建ぺい率、容積率が等しく開発基準等も同じA地区(〔証拠略〕状況類似地区区分図の実線で囲まれた地域)とされる地域の中で、主要な街路を選定したうえこれに沿接する宅地の中から奥行、間口、形状等が当該地域において標準的な宅地として選定された適正なものである。原告の主張するような、選定に違法な誤りはない。

(3) 評価基準による評価

以上の基準によって選定された本件標準宅地については、上記基準に従い南足柄市、小田原市を中心に不動産鑑定を行っているD不動産鑑定士に依頼して鑑定評価額を算出した。これに基づき主要な街路の路線価の付設、及びその他の街路の路線価の付設を行った。本件で言えば、上記標準宅地に基づきaの開発したbと呼ばれる分譲宅地のうち、A地区にある街路の路線価の付設が行われたのである。

次に、上記街路の路線価に基づき、各筆の評点数の付設が行われる。これには画地計算法と呼ばれる評価法によって具体的な価格が算出されるのである。

画地計算法は、①奥行による補正②側方路線の影響による補正③二方路線影響による補正④不整形地、無道路地、間口が狭小な宅地等による補正によって評点数を算出し、それにより価格を決定していく計算法である。

本件原告の宅地についても上記法の定めた基準と手続に従って適正に算出された固定資産税の評価価格である。

原告は、本件土地は急傾斜地であって、標準宅地の宅地とは状況類似地域ではない旨主張するが、上記の評価基準や手順を無視した独自の見解と言わざるを得ない。

標準地の地形は、〔証拠略〕の添付地図の赤線で囲われた部分で示したとおりであり、また、その現況については、〔証拠略〕添付の写真⑰、⑱、⑲、⑳のとおりであって、標準宅地自体も傾斜地であることが明らかである。むしろ選定された当該地域の宅地のほとんどが傾斜地であり、傾斜地であることの方がむしろこの地域では標準的というべきである。

第5当裁判所の判断

1  前記基礎となる事実に〔証拠略〕及び弁論の全趣旨を併せると、以下の事実を認めることができる。

(1)  aは、本件各土地を含む283筆の土地について、昭和48年9月14日付けで、神奈川県知事から都市計画法29条1項に基づき、おおむね以下の内容の開発行為の許可を受けた(〔証拠略〕)。

(ア) 開発区域に含まれる地域の名称 南足柄市<以下省略>外282筆

(イ) 開発区域の面積 89万1250.86m2

(ウ) 予定建築物の用途 住宅392戸、幼稚園1、コミュニティセンター1

そして、aは上記開発行為を行い、昭和49年11月14日付け、昭和50年11月15日付け及び昭和52年11月26日付けで同知事から上記開発行為に関する工事が開発許可の内容に適合しているとして、同法36条2項に基づき検査済証の交付を受けた(〔証拠略〕)。

(2)  上記開発行為により、A、B土地とC土地はそれぞれ1つの区画とされ、別紙区画図のとおり、その北側及び南側に片側1車線ずつの舗装された道路及び側溝が整備された上、南側には車1台程度を駐車できる舗装された駐車場が各1か所設けられた。

A、B土地及びC土地は、標高が高い北側から南側に向けて約27m程度の高低差があり、全体的に30度を超える傾斜を有する斜面地を形成しており、北側と道路との境界付近には高さ2m以上のブロック積擁壁が、南側道路との境界付近にもブロック積擁壁がそれぞれ設置された(〔証拠略〕)。

A、B土地及びC土地の南側道路に接して設けられた駐車場には、A、B土地又はC土地へ上がる階段がそれぞれ設置されたが、北側の道路に関しては、そのような設備は設けられず、かえって擁壁と道路の境界付近にフェンスが設置された(〔証拠略〕)。

なお、本件各土地には樹木が生育していたが、上記開発行為においては特に伐採されることもなく、斜面が整地されることもなかった。

(3)  aは、開発区域を391区画に分筆し、うち350区画(総面積28万3639m2)を「b」との名称で別荘用地として販売した(〔証拠略〕)。この際の重要事項説明書には、「地目」、「設備」あるいは「飲料水、電気およびガスの供給ならびに排水施設の整備状況」として、以下の記載がある(〔証拠略〕)。

(ア) 地目 山林(入居後宅地に変更可能)

(イ) 消火栓 35か所

(ウ) 街路灯 水銀灯・蛍光灯

(エ) 電柱・電話線 建物建設時に架設

(オ) ごみ置場 28か所

(カ) 飲料水 南足柄市営水道:引渡しと同時に使用可能

(キ) 電気 東京電力:建物建築時に使用可能

(ク) ガス プロパンガス:各戸随時取付可能

(ケ) 排水 集中汚水処理方式:引渡しと同時に使用可能

なお、aは、別荘用地である「b」を、A地区(区画面積1000m2以上)、B地区(区画面積500m2以上1000m2未満)及びC地区(コミュニティセンター)に3分して開発、分譲をしていた。これら各地区は、建ぺい率、容積率等も異にしていた(〔証拠略〕)。

(4)  原告らは、昭和57年11月29日付けで、aからA、B土地及びC土地を代金各3000万円(合計6000万円)で買い受けた(〔証拠略〕)。その際、上記各土地の地目は山林とされ、登記簿上には現在に至るまで山林と表示されている。また、上記売買契約と同時に原告らは南足柄森林住宅分譲地建築協定に同意した(〔証拠略〕)。本件各土地は、前記のA地区に属していたが、原告らが上記協定に同意したことにより、A、B土地及びC土地についても、建築物の構造等は「1戸建、専用住宅若しくは医院併用住宅であること」、「階数は2階以下であること」、「建ぺい率は2/10以下であること」、「容積率は4/10以下であること」、「建築物の高さは地盤面より8m以下であること」、「建築物の外壁面の敷地境界線からの後退距離は3m以上であること」、「建築物を建築する際の樹木の伐採は必要最少限度にとどめること」、「塀その他の遮蔽物はできる限り設けないこととし、やむを得ず設けなければならない場合は生垣とし、その植物は当該地区に生育しているものと同種類のものを使用すること」といったことが合意された。なお、上記建築協定は、開発行為の過程で、昭和50年3月、神奈川県知事から認可を受けていたものであった(〔証拠略〕)。

(5)  原告X1は、平成3年4月20日付けで足柄上地区行政センター所長に対し宅地の軽易な造成行為届をし(〔証拠略〕)、また、同年5月7日付けで神奈川県建築主事の建築確認を受けて(〔証拠略〕)、A、B土地上の樹木を伐採し、A土地のB土地と接する部分を切土して高さ2mのコンクリート間知ブロック練積み擁壁を設置し、地盤の整地をするなどした上、平成4年春ころA土地上に本件建物を建築した。

また、本件建物が建築されたころ、A土地の西側(C土地側)には南側道路から本件建物に至る石造りの階段が設置され、さらにその西側には生垣が植栽されて、A土地とC土地とは外観上も区分された。そして、本件建物付近からC土地へ至ることは、間に垣根等が設置されていないために不可能ではないが、そのための通路等が設けられているわけではない(〔証拠略〕)。

(6)  C土地には、南側の道路に面した一部分にサツキやアジサイが各数本植えられたが、大部分はaの開発行為以来、特に手を加えられることなく、樹木が生い茂ったままの状態になっている。とはいえ、〔証拠略〕によれば、平成17年2月10日時点では既にC土地前の南側道路には電柱及び電線が設置されており、電気の供給を受けられる状態になっていた。

(7)  「b」では、平成16年1月1日現在で、建物を建築することが可能な390区画のうち、298区画において建物が建築されていた(〔証拠略〕)。

2  争点1(A、B土地は1画地か)について

前記の事実関係を前提にすると、A、B土地は、不動産登記簿上、1筆の土地である上、本件各土地付近を造成開発したaによって、1画地として利用されることを想定して造成し、販売されている。また、南足柄森林住宅分譲地建築協定により、建ぺい率は2/10以下、容積率は4/10以下に厳しく制限され、建築できる建物も2階以下の1戸建てに限定され、建物建築に当たっては、付近の環境と調和させるために、樹木の伐採を必要最少限度とすることが求められていた。以上に加え、A、B土地が別荘用地として販売され原告らも販売者の想定に従って別荘用地としてこれを利用していることからすると、建物敷地のほか、樹木等が生育している部分も含めたA、B土地全体を、別荘敷地として利用しているものと評価するのが相当である。原告らが指摘する2mの擁壁も、A、B土地がもともと傾斜地であり、斜面上に住宅を建設する以上、一部切土か盛土をするなどして整地する必要があった結果生じたといえるもので、A、B土地が別荘用地として一体のものとして機能しているとの評価まで覆るものではないと解するのが相当である。

そうすると、A、B土地が一体ではなく、別々の土地として評価すべきであるとする原告らの主張は採用できない。

3  争点2(B土地及びC土地の現況は宅地か山林か)について

(1)  B土地は、争点1のとおり、A土地と一体となって別荘敷地としての効用を有するものであるから、A土地同様宅地と評価されるものである。

(2)  次に、C土地について検討する。

土地に対して課する固定資産税の課税標準は、固定資産の価格(適正な時価)であるとされ(法349条)、この固定資産の評価の基準については総務大臣において固定資産の評価の基準並びに評価に実施の方法及び手続(固定資産評価基準)を定めこれを告示しなければならず(法388条1項)、市町村長は、固定資産評価基準によって、固定資産の価格を決定しなければならない。同評価基準によれば、地目の認定は、前記第2、3(1)のとおり、「当該土地の現況及び利用目的に重点を置き、部分的に僅少の差異の存するときであっても、土地全体としての状況を観察して認定するもの」とされ、それぞれの地目に応じて価格の評価基準が定められている(第1章第2節以下)。

また、土地に対する固定資産税は、土地の資産価値に着目し、その所有という事実に担税力を認めて課する一種の財産税であって、その課税標準である適正な時価とは、正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち客観的な交換価値をいうと解される(最高裁平成15年判決参照)。そして、地目の認定は、固定資産税の課税標準である固定資産の価格(適正な時価)を評価するためにされるものであるから、その認定に当たっては、評価基準にあるように「当該土地の現況及び利用目的に重点を置」くのはもちろんのこと、「土地全体としての状況を観察して認定する」ことを要し、当該土地の現況を前提として、それが客観的にどのような用途に利用されるものであるか、また、どのような用途の土地としての資産価値を有するのかといったことをも考慮して総合的に判断すべきものと考えられる。

(3)  以上を前提に検討するに、原告らは、前述のとおり、不動産登記の地目の認定において、宅地が建物の敷地及びその維持若しくは効用を果たすために必要な土地とされていることを捉え、C土地がかかる要件を満たさず、山林と評価すべきであると主張する。

たしかに、C土地は、勾配30度を超える急傾斜地で、aによる開発行為以前から生育している松、檜等が繁茂している状態であり、これらの樹木を一部伐採して、敷地つき盛土あるいは切土をして整地しなければ、建物を建築することが不可能な土地といえる。

とはいえ、C土地は、前記1のとおり、aにより別荘用地として分譲された土地であり、南側及び北側がそれぞれ片側1車線ずつの道路に接し、電気、飲料水、排水が使用可能な状態に整備されているのであるから、客観的にみて宅地としての資産価値を有するものといえる。

また、建物を建築する際に整地等を要するといっても、C土地の現況からすれば、前述した建築協定に従う限り、それほど大がかりな造成工事等を要するとも認められない。そこで、いつでも別荘敷地として使用できるよう整備されたC土地に、宅地としての資産価値が存しないとはいい難い。

さらに、原告らは、不動産登記に関する地目の認定等を種々あげて論じているが、これまで述べたことは「b」という別荘地、すなわち良好な自然をできるだけ保存し、樹木の多い環境の下に建物を建築しようという合意が存する環境下にあるC土地の固定資産評価についての判断であって、前提を異にするこれらの取扱等が上記判断を左右するものとはいえない。

(4)  以上検討したところ、すなわち、C土地が別荘用地として開発されて、一定の区画に整えた上で販売されており、その際、道路に接し、電気、飲料水及び排水が直ちに利用できるよう整備され、宅地としての資産価値を有していること、建物建築のために造成を要するとしても、南足柄森林住宅分譲地建築協定の制約を受けて、建物を建築できる限度、造成できる範囲は限定されており、基本的には、勾配があるまま、樹木が林立する環境を保全したままの状態で、本来の目的である別荘用建物の敷地として利用することが想定されていることからすると、被告において、同土地を宅地として認定したことについては、相応の根拠があり、先の本件課長通知の説明にも沿うもので、その判断をもって違法とは言えない。

4  争点3(本件各土地を評価するに当たり基準とすべき土地の選択の適否)について

以上認定のとおり、本件各土地は、A、B土地とC土地との2画地とされるべきこと、その現況地目は宅地とされるべきことが認められる。

そして、前記認定の事実並びに〔証拠略〕及び弁論の全趣旨によると、aは、「b」を、A地区、B地区及びC地区に3分して開発、分譲したこと、本件各土地はいずれもA地区に属すること、南足柄市長は、本件各土地の価格を算定するに当たり、市街地宅地評価法に則り、基本となる標準宅地として、aによって「b」の名称で一体として開発された分譲地のうち、家屋の疎密度もほぼ等しく、更に、建ぺい率、容積率が等しく開発基準等も同じA地区中、主要な街路に沿接する宅地から奥行、間口、形状等が当該地域において標準的な宅地を選定したこと、このようにして選択された標準宅地も傾斜地からなり、傾斜地であることは既に標準宅地の評価において織り込まれていること、そして、以上の基準によって選定された標準宅地について、南足柄市、小田原市を中心に不動産鑑定を行っている不動産鑑定士に鑑定評価額の算出を依頼したところ、同鑑定士が取引事例等を参考にしながら、本件標準宅地についての鑑定評価額を算出したこと(〔証拠略〕)、南足柄市長は、上記鑑定評価額を基準に路線価の付設を行い、更にこのようにして定めた街路の路線価に基づき、画地計算法を適用して各筆の評点数の付設を行ったこと、審査委員会は、実地調査の上、以上のようにして定められた本件各土地の評価を是認し(ただし、南足柄市長が、本件各土地を全体として1画地としたのに対し、審査委員会は、A、B土地とC土地との2画地であるとした。)、本件審査決定をしたこと、以上の事実が認められる。

以上によると、A、B土地及びC土地の登録価格の決定は、いずれも評価基準によって決定されており、特に今回の決定が賦課期日における客観的な交換価値を上回ることを認めるに足りる証拠もないから違法とはいえない。

原告は、本件各土地は急傾斜地である旨主張するが、上記認定のとおり、本件標準宅地も傾斜地であると認められるものであり、格別本件標準宅地が不適格であるとはいえない。その他、審査委員会のした本件審査決定に違法事由を認めることはできない。

5  結論

以上によれば、原告らの請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 北澤章功 裁判官 西森政一 向井志穂)

別紙〔省略〕

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