横浜地方裁判所 平成2年(ワ)1270号 判決 1992年10月07日
反訴原告
ジョン・ジェイ・ヒンブル・ジュニア
反訴被告
佐々木貞三
主文
一 反訴被告は、反訴原告に対し、三六二万六三一三円及びこれに対する昭和六三年八月二二日から支払済みまで年五分の金員を支払え。
二 反訴原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、一二分し、その一一を反訴原告の、その余を反訴被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
反訴被告は、反訴原告に対し、四五八七万四〇二一円及びこれに対する昭和六三年八月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え(なお、反訴原告は、遅延損害金の請求を維持しているものと解する。)。
第二事案の概要
本件は、駐車中の自動二輪車に訴外佐々木徹運転の普通乗用自動車が衝突した事故について、この事故で負傷した反訴原告が右自動二輪車の所有者である反訴被告に自賠法三条に基づき損害賠償を請求した事件である。
一 争いのない事実
1 事故の発生
日時 昭和六三年八月二一日午前一時五五分ころ
場所 横浜市戸塚区名瀬町四一七番地横浜新道一号線
加害車両 普通乗用自動車(大宮五五め一一〇五)
反訴被告佐々木貞三所有
佐々木徹運転
被害者 反訴原告
態様 佐々木徹が加害車両を運転して事故現場付近を走行中、過つて非常駐車帯に進入し、反訴原告が乗つて同所に駐車中の自動二輪車に衝突した。
2 反訴原告は、本件事故により、頸椎捻挫、両膝挫傷の傷害を負つた。
二 争点
損害額
第三争点に対する判断
一 損害額
1 治療費等
証拠(甲六の1、2、七の1~4、八の1、2、九、一〇の1、2、一一の1、2、乙一の1~3、二の1~3、三、八の3、一〇、反訴原告)によれば、次の事実が認められる。
反訴原告は、本件事故後、昭和六三年八月二一日から平成二年一月一二日までの間に約一六三日横須賀米海軍病院に、昭和六三年九月九日から同年一二月二一日までの間に六日横須賀共済病院にそれぞれ通院し、さらに、平成元年二月一五日から同年三月二日までアメリカのサウス・オークス病院に入院した。
なお、横須賀米海軍病院への通院は、右期間以後も続いている。
横須賀共済病院では、横須賀米海軍病院の医師の依頼により筋電図検査が行われて「交通事故による頸部神経損傷」との診断がなされたが、その他の病院では主として頭部外傷後遺症の治療が行われた。
反訴原告の頭部外傷後遺症と診断される症状は、本件事故後間もなく発症しており、反訴原告の横須賀米海軍病院の担当医の見解(甲八の1、2、九)や事故後の検査における反訴原告の供述内容(乙二の1)等からも本件事故による頭部外傷が原因の一部になつていることが推認できるが、一般に頭部外傷後遺症の成因としては、外傷による器質的変化のほか心因性の要素がかなり重要な成因と考えられており、前記医師の見解やアメリカにおける担当医の見解(甲七の2、4、乙一〇)等によれば、原告の右症状も心因性の要因を成因の一部としているは否定できない。
そして、心因性の症状の全てが本件事故との因果関係を否定されるものではないが、右事情は、本件事故と相当因果関係にある損害の判断にあたつて考慮されるべきものである。
そこで、反訴原告主張の治療費等につき検討すると次のとおりとなる。
横須賀共済病院の治療費(請求額四万四六二五円) 六万一六〇五円
証拠(甲一、乙一の3)によれば、反訴原告の横須賀共済病院における治療費は合計六万一六〇五円であり、そのうち一万五〇〇〇円が被告らから既に支払われているが、一万五〇〇〇円は後記の既払額に含まれるので、これを加算する。
横須賀米海軍病院の治療費(請求額二一万八四三円) 一五万七八五四円
反訴原告が同病院の治療費として主張する額は、その根拠が明確でないが、証拠(甲一、弁論の全趣旨)によれば、平成元年七月一四日治療の分までで合計一〇九六・二一ドルが請求されていたことが認められ、前記認定のとおり、反訴原告の症状には心因的要素が認められることも考慮すると、少なくとも右請求分までは本件事故と相当因果関係にある損害と認めることができる(一ドル 一四四円。以下同じ。)。
その他、反訴原告が請求するアメリカにおける病院の治療費、アメリカにおける入院のための航空費、救急車代、タクシー代、電話代は、いずれも本件事故との因果関係、必要性等についての主張立証がなく、認められない。
2 一部弁済のドル交換の際の損害(請求額九万四一〇九円)本件事故と相当因果関係にある損害とは認められない。
3 事故の際の衣服破損(一〇万八七五〇円)
右損害の発生については証拠が全くない。
4 休業損害(請求額四二七二万一九〇〇円) 五四三万四六七二円
証拠(乙四の1、2、反訴原告、弁論の全趣旨)によれば、反訴原告は、本件事故当時自動車販売の仕事に就いており、事故前七か月間の平均月収は五八九七ドル(八四万九一六八円)であつたことが認められる。
反訴原告の仕事の性質等から右収入のうち経費率を二割とするのが相当であるので、休業損害の基礎となる収入の月額は六七万九三三四円である。
そして、前記1認定の事情からすると、本件事故による休業期間としては八か月をもつて相当と認める。
従つて、本件事故と相当因果関係にある休業損害は、五四三万四六七二円となる。
5 慰謝料(請求額二〇〇万円) 二〇〇万円
本件に現れる諸般の事情を総合考慮すると、慰謝料額は二〇〇万円とするのが相当である。
6 損害の填補
証拠(甲一、弁論の全趣旨)によれば、反訴被告は既に合計四〇二万七八一八円の支払いをしていることが認められる。
二 結論
そうすると、反訴原告の請求は、三六二万六三一三円及びこれに対する不法行為の後の日である昭和六三年八月二二日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由がある。
(裁判官 近藤ルミ子)