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横浜地方裁判所 平成20年(行ウ)26号 判決 2010年3月17日

主文

1  本件訴えのうち、横浜市固定資産評価審査委員会に対し、横浜市長が決定して固定資産課税台帳に登録した別紙物件目録記載1の土地に対する平成19年度固定資産課税台帳登録価格について、地目を雑種地と認定の上、適正な時価を決定する裁決をすべき旨を命ずることを求める部分を却下する。

2  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第4当裁判所の判断

1  取消請求について

(1)  本件土地の平成19年度登録価格が決定された根拠規定(争点1(1))

ア  第2年度における基準年度の登録価格の据置きとその例外

地方税法349条1項は、基準年度に係る賦課期日に所在する土地又は家屋(以下「基準年度の土地又は家屋」という。)に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準は、当該土地又は家屋の基準年度に係る賦課期日における価格(以下「基準年度の価格」という。)で土地課税台帳若しくは土地補充課税台帳(以下「土地課税台帳等」という。)又は家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳(以下「家屋課税台帳等」という。)に登録されたものとすると規定している。

そして、同条2項本文は、基準年度の土地又は家屋に対して課する第2年度の固定資産税の課税標準は、当該土地又は家屋に係る基準年度の固定資産税の課税標準の基礎となった価格で土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録されたものとする旨を定めている。

しかし、同項ただし書は、その例外として、基準年度の土地又は家屋について第2年度の固定資産税の賦課期日において、「地目の変換、家屋の改築又は損壊その他これらに類する特別の事情」(1号)があるため、基準年度の固定資産税の課税標準の基礎となった価格によることが不適当であると市町村長が認める場合などにおいては、当該土地又は家屋に対して課する第2年度の固定資産税の課税標準は、「当該土地又は家屋に類似する土地又は家屋の基準年度の価格に比準する価格」で土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録されたものとする旨規定している。

そして、市町村長は、固定資産評価員又は固定資産評価補助員に当該市町村所在の固定資産の状況を毎年少なくとも1回実地に調査させなければならないところ(同法408条)、同法409条1項の規定によれば、固定資産評価員は、上記実地調査の結果に基づいて当該市町村に所在する土地又は家屋の評価をする場合においては、「基準年度の土地又は家屋で同法349条2項ただし書の適用を受けることとなるもの」に関しては、第2年度においては、「当該土地又は家屋に類似する土地又は家屋の基準年度の価格に比準する価格」によって、当該土地又は家屋の評価をしなければならないものとされている。

その上で、市町村長は、同法409条4項の規定により固定資産評価員が作成・提出する評価調書に基づいて固定資産の価格等(その意義については同法389条1項参照)を毎年3月31日までに決定しなければならず(同法410条1項)、その決定をした場合においては、直ちに当該固定資産の価格等を固定資産課税台帳に登録しなければならない(同法411条1項)。もっとも、第2年度において基準年度の土地又は家屋に対して課する固定資産税の課税標準について基準年度の価格による場合にあっては、土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録されている基準年度の価格をもって第2年度において土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録された価格とみなすものとされている(同条3項)。

以上の各規定によれば、基準年度の土地又は家屋(基準年度に係る賦課期日に所在する土地又は家屋)に関し、市町村長は、第2年度においては、基準年度の登録価格をそのまま据え置いて価格を決定するのが原則であるが、「地目の変換、家屋の改築又は損壊その他これらに類する特別の事情」があるため、基準年度の登録価格によることが不適当であると市町村長が認める場合など、同法349条2項ただし書の適用を受けることとなる場合には、例外として評価替えを行い、「当該土地又は家屋に類似する土地又は家屋の基準年度の価格に比準する価格」によって価格を決定しなければならないものと解される。

イ  本件における地方税法349条2項ただし書の適用の有無等

平成19年度は第2年度であるところ、前記基礎となる事実(1)及び(4)のとおり、本件土地については、平成18年3月24日、昭和44年度に実施された地籍調査の結果が本件土地の表示登記に反映され、本件土地の地積が991平方メートルから984平方メートルに更正されている。

このような地積調査の結果として行われる地積の更正は、実質的な区画の量的変化にほかならないし、これを次の基準年度まで訂正しないまま据え置くことは評価の均衡上適当でないと考えられることから、「地目の変換、家屋の改築又は損壊その他これらに類する特別の事情」に該当するものとして、次の賦課期日に新地積による評価替えを行うべきであると解される(〔証拠省略〕)。

したがって、本件土地については、平成19年度の賦課期日において、地方税法349条2項ただし書に該当する事情があるから、市長が、本件土地の評価替えを行い、「当該土地(省略)に類似する土地(省略)の基準年度の価格に比準する価格」によって平成19年度の価格を決定することは、適法である。

そして、〔証拠省略〕によれば、市長は、本件土地の平成19年度の価格を決定するに際し、上記地積の更正は同項1号に規定する「地目の変換、家屋の改築又は損壊その他これらに類する特別の事情」に該当し、基準年度である平成18年度の登録価格に据え置くことは不適当であると認めて、同項ただし書に該当するものとして評価替えを行い、同法410条1項の規定に基づいて平成19年度登録価格を決定したものと認められる。

ウ  原告らの主張に対する判断

これに対し、原告らは、市長は、原告らが平成19年3月1日に再調査要求等をしたことにより、本件土地が市街化調整区域内の土地であり、本来建物の建たない土地であることが永年にわたって見落とされていたという重大な錯誤を発見したため、地方税法417条1項に基づき、本件土地の価格を平成19年度登録価格に修正し、その旨を平成19年度固定資産税・都市計画税(土地・家屋)納税通知書(〔証拠省略〕)をもって原告らに通知したと主張する。

しかし、市町村長は、固定資産の価格等を毎年3月31日までに決定し(同法410条1項)、直ちに当該固定資産の価格等を固定資産課税台帳に登録した上(同法411条1項)、固定資産の価格等のすべてを登録した場合においては、直ちにその旨を公示しなければならないとされている(同条2項)。原告らが引用する同法417条1項の規定は、市町村長が、上記公示の日以後において固定資産の価格等の登録がなされていないこと又は登録された価格等に重大な錯誤があることを発見した場合には、直ちに固定資産課税台帳に登録された類似の固定資産の価格と均衡を失しないように価格等を決定し、又は決定された価格等を修正して、これを固定資産課税台帳に登録するとともに、遅滞なく、その旨を当該固定資産に対して課する固定資産税の納税義務者に通知しなければならないことを定めたものである。

そうすると、仮に本件土地の平成19年度登録価格が同項の規定により修正されたものであるとすれば、市長は、それに先立ち、平成19年3月31日までに本件土地の平成19年度の価格(平成19年度登録価格とは異なる価格)をいったん決定し、土地課税台帳に登録した上、他の固定資産の価格等と共に公示していたことになるが(同法410条1項、411条1項、2項参照)、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。また、〔証拠省略〕によれば、原告らが同法417条1項の規定に基づく通知文書であると主張する平成19年度固定資産税・都市計画税(土地・家屋)納税通知書には、本件土地の登録価格が同項の規定により修正された旨の記載は全くないものと認められる。

なお、原告らは、その主張の根拠として、本件土地の平成19年度登録価格が平成18年度から大幅に減額された事実(前記基礎となる事実(3)及び(6)参照)を指摘するが、これは、前記イのとおり、同法349条2項ただし書に該当するものとして評価替えが行われた結果であると認められるから、上記事実をもって本件土地の平成19年度登録価格が同法417条1項の規定により修正されたものであることを推認することはできず、他にそのことを認めるに足りる証拠はない。

したがって、原告らの上記主張を採用することはできない。

(2)  本件土地の地目(争点1(2))

ア  評価基準が土地の地目別に評価方法を定めていること等

前記(1)イのとおり、本件土地の平成19年度における価格については、地方税法349条2項ただし書の規定に基づき、「当該土地(省略)に類似する土地(省略)の基準年度の価格に比準する価格」によって決定しなければならない。

そして、ここにいう「当該土地(省略)に類似する土地(省略)の基準年度の価格に比準する価格」とは、第2年度の賦課期日時点の現況における土地が仮に基準年度の賦課期日に所在したものとした場合において、当該土地に類似する土地の基準年度の価格に比準する価格をいい、当該土地とその類似する土地との価格形成要素の異同を是正して求められるものと解される(〔証拠省略〕)。

他方、同法は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を総務大臣の告示である評価基準にゆだね(同法388条1項)、市町村長は、同法389条又は743条の規定によって道府県知事又は総務大臣が固定資産を評価する場合を除く外、評価基準によって、固定資産の価格を決定しなければならないと定めている(同法403条1項)。そして、前記告示等の定め(1)のとおり、評価基準は、土地の評価は、土地の地目(田、畑、宅地、鉱泉地、池沼、山林、牧場、原野及び雑種地)の別にそれぞれ定める評価の方法によって行うものとしている。

そこで、本件土地について、評価基準によって「当該土地(省略)に類似する土地(省略)の基準年度の価格に比準する価格」を求めるに当たり、平成19年度の賦課期日における現況に照らし、本件土地が評価基準上のいかなる地目に該当するかが問題となる。

イ  評価基準上の宅地及び雑種地の意義等

前記告示等の定め(1)のとおり、評価基準は、土地について、田、畑、宅地、鉱泉地、池沼、山林、牧場、原野及び雑種地の9種類の地目を掲げているところ、本件土地の地目について、被告は、宅地に該当すると主張し、原告らは、雑種地に該当すると主張している。

そこで検討するに、評価基準の掲げる各地目の意義は、基本的には不動産登記法上の取扱いと同様であり、具体的には登記準則に定められているところによるものと解される(〔証拠省略〕)。もっとも、これは、登記されている地目をそのまま当該土地の地目と認定するということではなく、当該土地の現況地目を認定するに当たっては登記準則の定めと同一の判定基準によるという趣旨である。

そして、前記告示等の定め(5)のとおり、登記準則68条は、土地の地目を23種に分類した上、「宅地」の地目は「建物の敷地及びその維持若しくは効用を果たすために必要な土地」について定めるものとし(同条3号)、「雑種地」の地目は同条1号から22号までの「いずれにも該当しない土地」について定めるものとする旨規定している(同条23号)。

なお、前記告示等の定め(4)ア及びイのとおり、評価基準に基づいて定められた評価要領は、評価基準が掲げる9種類の地目のうち、宅地、田、畑、山林、池沼、原野及び雑種地の7つについてそれぞれ評価の方法を定めた上、各地目の意義は、登記準則の定めるところによるものとし、「宅地」については「建物の敷地及びその維持若しくは効用を果たすために必要な土地」をいい、雑種地については宅地、田、畑、山林、池沼及び原野の「いずれにも該当しない土地」をいう旨規定している。

そうすると、評価基準が掲げる「宅地」とは、「建物の敷地及びその維持若しくは効用を果たすために必要な土地」をいい、「宅地」に該当する土地は、「雑種地」には当たらないものと解するのが相当である。

また、「宅地」の上記定義のうち、「建物(省略)の維持若しくは効用を果たすために必要な土地」には、建物の風致又は風水防に要する樹木の生育地、建物に付随する庭園、通路等が含まれるものと解される(〔証拠省略〕)。

そして、前記告示等の定め(1)のとおり、評価基準上の土地の地目の認定に当たっては、当該土地の現況及び利用目的に重点を置き、部分的に僅少の差異の存するときであっても、土地全体としての状況を観察して認定すべきである。

ウ  本件土地についての検討

〔証拠省略〕によれば、平成19年1月1日時点において、① 本件土地は、一筆の土地であり、東側間口約30メートル、奥行約42.5メートルの台形状の面地であること、② 本件土地上には本件建物が存在し、その建築面積は87.22平方メートル(〔証拠省略〕)ないし92.15平方メートル(〔証拠省略〕)であること、③ 本件土地は、本件建物の接地面から見て、西側隣接地より約3メートル、南側隣接地より約2.8メートルそれぞれ高く、その各境界付近の本件土地上には階段付きの擁壁が設置され、その擁壁と当該各隣接地との間には幅約1.2ないし2.5メートルの平坦部分があり、灌木、青竹等が植栽されていること(以下、当該擁壁部分と当該平坦部分を併せて「本件がけ地部分」という。)、④ 本件土地のうち本件がけ地部分以外の部分は、ほぼ平坦であるところ、本件建物以外には、観賞用の庭園として樹木等が植栽されて池や橋が設けられているほか、温室や物置、物干し竿等が設置されていることが認められる。

そうすると、まず、同日の時点において、本件土地のうち上記②のとおり本件建物が存在している部分の現況及び利用目的が「建物の敷地」そのものであることは明らかである。

また、本件土地のうち本件がけ地部分以外の部分であって本件建物の直接の敷地とはなっていない部分についても、同日の時点において、上記④のとおり、観賞用の庭園として樹木等が植栽されて池や橋が設けられているほか、温室や物置、物干し竿等が設置されているというのであり、このような現況及び利用目的に照らすと、本件建物の風致に要する樹木の生育地、本件建物に付随する庭園等として「建物(省略)の維持若しくは効用を果たすために必要な土地」に該当するものと認めることができる。

さらに、本件がけ地部分についても、同日の時点において、上記③のとおり、本件土地は、本件建物の接地面から見て、その西側及び南側の各隣接地よりも高くなっているととから、擁壁が設置され、更にその外側に植栽のある平坦部分が設けられていて、「擁壁上の階段を通じてその管理ができるようになっているのである。このような現況及び利用目的に照らすと、本件がけ地部分は、本件建物の接地面とは形状が異なる土地であるとしても、本件土地全体としての状況を観察するならば、やはり本件建物の接地面を保全するための擁壁及び本件建物の風致に要する樹木の生育地等として「建物(省略)の維持若しくは効用を果たすために必要な土地」に当たるというべきである。

したがって、本件土地は、その全体が「建物の敷地及びその維持若しくは効用を果たすために必要な土地」に該当するから、その地目は宅地であり、雑種地には当たらない。

エ  原告らの主張に対する判断

これに対し、原告らは、本件土地は宅地ではなく雑種地に該当すると主張し、その根拠として、① 本件土地は都市計画法29条1項3号の規定により開発行為の許可対象から除外されているにすぎず、土地の現況及び利用目的に重点を置き、土地全体としての状況を観察すれば、市街化調整区域内にあり本来建物の建たない土地、すなわち建物の敷地とはなり得ない土地である、② 市街化調整区域内の用途限定に対する減価については、評価基準には補正率等が示されておらず、評価要領にも補正項目がないから、もともと宅地としての評価は予定されていないなどと主張する。

しかしながら、前記イのとおり、評価基準に定める「宅地」とは、「建物の敷地及びその維持若しくは効用を果たすために必要な土地」をいうものと解される。また、評価基準は、土地の地目の認定に当たっては、当該土地の現況及び利用目的に重点を置き、土地全体としての状況を観察して認定するものと定めている。そうである以上、市街化調整区域内の土地について、開発行為及び建物の建築等が原則として制限されている(都市計画法29条1項、34条、43条1項)としても、当該土地が評価基準に定める宅地に該当するか否かは、このような公法上の規制の有無によって直ちに左右されるものではなく、あくまでも当該土地の現況及び利用目的に照らし、土地全体の状況を観察して、それが「建物の敷地及びその維持若しくは効用を果たすために必要な土地」となっていると認められるか否かによって判断されるべきである。そして、前記ウのとおり、本件土地の現況及び利用目的に重点を置き、本件土地全体としての状況を観察するならば、本件土地が「建物の敷地及びその維持若しくは効用を果たすために必要な土地」に該当することは証拠上優に認めることができるから、本件土地の地目は宅地というべきである。

また、たとえ市街化調整区域内の土地であっても、都市計画法29条1項各号に掲げる開発行為については、都道府県知事(指定都市等の区域内にあっては、当該指定都市等の長。以下同じ。)の許可を要することなく行うことができるのであるし、同項各号に該当しない開発行為についても、限定的であるとはいえ、同法33条及び34条に定める開発許可の基準を満たす場合には、その許可を得て開発行為を行うことが可能である。同様に、同法43条1項の規定によれば、市街化調整区域のうち開発許可を受けた開発区域以外の区域内の土地であっても、同法29条1項2号若しくは3号又は同法43条1項各号に規定する建築物の建築等については、都道府県知事の許可は不要とされているし、これら以外の建築物の建築等についても、同法33条及び34条に規定する開発許可の基準の例に準じて政令で定める許可基準(同法43条2項)を満たす場合には、その許可を得ることができる。そして、前記基礎となる事実(2)によれば、本件土地については、同法29条1項3号に掲げる「医療施設」の建築の用に供する目的で行う開発行為に該当するものとして、許可を要しないで本件建物の建築及びそのための造成工事等の開発行為を行うことが可能であったものであり、現に平成19年1月1日時点においても本件建物が本件土地上に存在していたのである。そうすると、本件土地が本来建物の建たない土地、すなわち建物の敷地とはなり得ない土地であるなどという原告らの上記①の主張は、到底採用することができない。

さらに、前記告示等の定め(2)ケのとおり、評価基準は、宅地の評価方法のうち市街地宅地評価法における画地計算法を適用する場合において、市町村長は、宅地の状況に応じ、必要があるときは、画地計算法の附表等について、所要の補正をして、これを適用するものとすると定めているところ、市街化調整区域内の宅地についても、その宅地の状況に応じ、必要があるときは、個別に所要の補正を行うことが可能であると解される。また、前記告示等の定め(4)エ(イ)のとおり、評価要領においても、上記のとおり評価基準の定める所要の補正として各種の補正率を定めているところ、それらを適用して算出した画地の単位当たり評点が付近の宅地の単位当たり評点と比較して不均衡であると認められる場合には、その状況に応じて20パーセントの範囲内で均衡補正を行う旨が定められているから、市街化調整区域内の宅地についても、その状況に応じて均衡補正の適用を行うことは可能であると考えられる。そして、評価基準及び評価要領が、市街化調整区域内の宅地についての補正率を明示的に定めていないのは、都市計画法による規制が当該宅地の価格にどの程度の影響を及ぼすのかは、個別具体的な事情によって異なり得るので、あらかじめ一定の補正率を定めることが困難又は不相当であるからであると解される。したがって、用途限定のある市街化調整区域内の土地については宅地としての評価が予定されていない旨の原告らの上記②の主張もまた、採用することができない。

よって、本件土地の地目は宅地ではなく雑種地であるとする原告らの主張は理由がない。

(3)  本件土地の平成19年度登録価格の適否(争点1(3))

ア  本件土地について評価替えを行う場合の評価方法等

(ア) 前記(1)イ及び(2)アのとおり、本件土地の平成19年度における価格については、地方税法349条2項ただし書の規定に基づき、「当該土地(省略)に類似する土地(省略)の基準年度の価格に比準する価格」、すなわち、平成19年1月1日時点の現況における本件土地が仮に平成18年1月1日に所在したものとした場合において、当該土地に類似する土地の基準年度の価格に比準する価格によって決定しなければならない。

そして、ここにいう「基準年度の価格」とは、「基準年度に係る賦課期日における価格」を指し(同条1項)、また、「価格」とは、「適正な時価」をいうものであり(同法341条5号)、「適正な時価」とは、正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち、客観的な交換価値をいうと解される(最高裁平成15年6月26日第一小法廷判決・民集57巻6号723頁)。

したがって、本件土地の平成19年度における価格は、平成19年1月1日時点の現況における本件土地が仮に平成18年1月1日に所在したものとした場合において、本件土地に類似する土地の平成18年1月1日における客観的な交換価値を算定した上で、これに比準することによって求められることとなる。

(イ) 他方、前記(2)アのとおり、同法は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を総務大臣の告示である評価基準にゆだね(同法388条1項)、市町村長は、同法389条又は743条の規定によって道府県知事又は総務大臣が固定資産を評価する場合を除く外、評価基準によって、固定資産の価格を決定しなければならないと定めている(同法403条1項)。

そして、評価基準は、宅地の評価については、各筆の宅地に評点数を付設し、当該評点数を評点1点当たりの価額に乗じて各筆の宅地の価額を求める方法によるものとし、主として市街地的形態を形成する地域における宅地については、市街地宅地評価法(いわゆる路線価方式)によって、各筆の宅地の評点数を付設するものとしている。この市街地宅地評価法は、① 状況が相当に相違する地域ごとに、その主要な街路に沿接する宅地のうちから標準宅地を選定し、② 標準宅地について、売買実例価額から評定する適正な時価を求め、これに基づいて上記主要な街路の路線価を付設し、これに比準してその他の街路の路線価を付設し、③ 路線価を基礎とし、画地計算法を適用して各筆の宅地の評点数を付設するものである。

このような市街地宅地評価法における標準宅地は、前記告示等の定め(2)のとおり、市町村の宅地を商業地区、住宅地区、工業地区、観光地区等に区分し、また、当該各地区を、状況類似地域(街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等からみて、その状況が相当に相違する地域)ごとに区分した上、当該状況類似地域の主要な街路に沿接する宅地のうち、奥行、間口、形状等の状況が当該地域において標準的なものと認められるものが選定される。かかる標準宅地は、同一の状況類似地域内にある標準的な宅地であり、当該状況類似地域内の他の宅地と、街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等の相違が相当の限度にとどまっているのであるから、その意味において、当該他の宅地に類似する土地であるということができる。そうすると、評価基準の定める市街地宅地評価法に基づき適切に選定された標準宅地は、同法349条2項ただし書に規定する「当該土地(省略)に類似する土地」に当たると解するのが相当である。

したがって、市町村長は、第2年度において、主として市街地的形態を形成する地域における宅地について同項ただし書の規定に基づく評価替えを行う場合には、市街地宅地評価法に従い、標準宅地の基準年度における適正な時価(客観的な交換価値)を求めた上で、これに評価基準所定の路線価方式を用いて比準することにより当該宅地の価格を決定しなければならないものと解される。

そして、前記告示等の定め(4)ウのとおり、評価要領は、横浜市における宅地の状況については、主として市街地的形態を形成していることから、市街化調整区域内に存する農業用施設の用に供する宅地及び生産緑地地区内の宅地を除き、すべて市街地宅地評価法により行うものとすると定めているところ、本件土地が農業用施設の用に供する宅地及び生産緑地地区内の宅地でないことは明らかである。また、〔証拠省略〕によれば、少なくとも本件土地を含む横浜市旭区○○町一帯等は、主として市街地的形態を形成しているものと認められる。

よって、市長は、市街地宅地評価法に従い、標準宅地の基準年度における適正な時価(客観的な交換価値)を求めた上で、これに評価基準所定の路線価方式を用いて比準することにより本件土地の価格を決定しなければならない。

(ウ) なお、地方税法附則17条の2第1項(平成21年法律第9号による改正前のもの。同条について以下同じ。)は、同法349条の規定の特則として、当該市町村の区域内の自然的及び社会的条件からみて類似の利用価値を有すると認められる地域において地価が下落し、かつ、市町村長が同条に規定された価格を当該地域に所在する土地に対して課する当該年度分の課税標準とすることが固定資産税の課税上著しく均衡を失すると認める場合における当該土地に対して課する当該年度分の固定資産税の課税標準は、同条の規定にかかわらず、平成19年度分又は平成20年度分の固定資産税に限り、総務大臣が定める基準によって修正した価格で土地課税台帳等に登録されたものとする旨規定している。

そのため、本件土地についても、同項に規定する場合に該当するのであれば、時点修正を行う必要がある。

(エ) 以下では、本件土地の属する状況類似地域における標準宅地の平成18年度の賦課期日における客観的な交換価値(後記イ)、その標準宅地に比準して求められる平成18年度の賦課期日における本件土地の価格(後記ウ)、及び、地方税法附則17条の2第1項の規定による時点修正(後記エ)についてそれぞれ検討することとする。

イ  本件土地の属する状況類似地域における標準宅地の平成18年度の賦課期日における適正な時価

(ア) 用途地区の区分等

〔証拠省略〕によれば、本件土地を含む横浜市旭区○○町一帯等は、都市計画法上の市街化調整区域に存し、住宅と農地が混在しており、その用途地区は「普通住宅地区」に区分されること、この地区のうち、後記(ウ)の標準宅地を中心に東約600メートル、西約450メートル、南約180メートル、北約450メートルの地域は、街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等からみて、その状況が相当に相違しており、状況類似地域に該当することが認められる(以下、当該地域を「本件状況類似地域」という。)。

(イ) 主要な街路の選定

〔証拠省略〕によれば、本件状況類似地域に所在する街路である上白根第259号線(幅員約4.5メートル、道路種別「市道通抜」)は、その街路の状況が標準的であり、本件状況類似地域における主要な街路であることが認められる(以下、当該街路を「本件主要街路」という。)。

(ウ) 標準宅地の選定

〔証拠省略〕によれば、本件主要街路に沿接する所在及び地番横浜市旭区○○町364番71外、地積201平方メートルの宅地は、奥行、間口、形状等の状況が本件状況類似地域において標準的であると認められるから、本件状況類似地域における標準宅地に該当する(以下、当該宅地を「本件標準宅地」という。)。

ところで、原告らは、本件土地が建物の建築が認められない土地であることを前提に、本件標準宅地は、市街化調整区域に区分された時点において現に宅地として利用されていた土地であり、建物の建築が認められるから、本件土地とは全く性質が異なる旨主張する。

しかし、本件土地が建物の建築が認められない土地とはいえないことは前記(2)エで説示したとおりであるから、原告らの上記主張は、その前提において失当である。

もっとも、平成18年度の賦課期日である平成18年1月1日時点においては、① 市街化区域に隣接し、又は近接し、かつ、自然的社会的諸条件から市街化区域と一体的な日常生活圏を構成していると認められる地域であっておおむね50以上の建築物が連たんしている地域内に存する土地であること、② 市街化調整区域に関する都市計画が決定され、又は当該都市計画を変更してその区域が拡張された際既に宅地であった土地であって、その旨の都道府県知事の確認を受けたものであることの各要件に該当する土地(以下「既存宅地」という。)において行う建築物の新築、改築又は用途変更については、市街化調整区域内の開発許可を受けた区域以外の区域内においても、都道府県知事の許可を要しないものとされていた(平成12年法律第73号による改正前の都市計画法43条1項6号。なお、同改正附則1条、6条参照。)。また、〔証拠省略〕によれば、被告においては、都市計画法33条に定める要件を満たす市街化調整区域内の既存宅地における開発行為については、一定の要件の下で、同法34条10号ロの規定に該当するものとして許可する取扱いをしているものと認められる。そして、基礎となる事実(1)、〔証拠省略〕によれば、本件土地は、市街化調整区域内の宅地ではあるものの、既存宅地には当たらないが、本件標準宅地は市街化調整区域内の既存宅地であることが認められる。

しかし、この点の差異は、後記ウ(ウ)dの本件均衡補正の適否の問題として考慮すれば足りるというべきであるから、当該差異のみをもって本件標準宅地が地方税法349条2項ただし書に規定する「当該土地(省略)に類似する土地」に該当しないということはできない。

(エ) 本件標準宅地の平成18年度の賦課期日における適正な時価

〔証拠省略〕によれば、市長は、本件標準宅地の適正な時価を1平方メートル当たり8万4000円と評定しているものと認められる。

前記告示等の定め(2)オのとおり、評価基準が定める市街地宅地評価法においては、標準宅地の適正な時価は、売買実例価額から評定するものとされているが、同(3)アのとおり、経過措置として、当分の間、基準年度の初日の属する年の前年の1月1日の地価公示法による地価公示価格及び不動産鑑定士又は不動産鑑定士補による鑑定評価から求められた価格等を活用することとし、これらの価格の7割を目途として評定するものとされている。

これを本件についてみると、〔証拠省略〕によれば、基準年度である平成18年度の初日の属する年の前年である平成17年の1月1日を評価時点とする不動産鑑定士による鑑定評価から求められた本件標準宅地の標準価格は、1平方メートル当たり12万1000円であるものと認められるところ、その鑑定評価の過程に不合理な点を見いだすことはできない。

そして、1平方メートル当たり12万1000円の7割の価格は、1平方メートル当たり8万4700円となるから、市長が評価基準に基づいて本件標準宅地の適正な時価を1平方メートル当たり8万4000円(1000円未満切り捨て)と評定したのは、相当ということができる。

なお、上記価格は平成17年1月1日を基準日とした本件標準宅地の適正な時価であるところ、同日以降の本件土地の価格の時点修正については後記ウ(オ)で改めて行うが、念のため本件標準宅地の平成18年1月1日時点における適正な時価について以下検討する。

すなわち、まず、前記告示等の定め(3)イの経過措置により、平成18年の宅地の評価においては、市町村長は、平成17年1月1日から同年7月1日までの間に標準宅地等の価額が下落したと認める場合には、時点修正を行うものとされている。そして、〔証拠省略〕によれば、平成17年1月1日から同年7月1日までの間に本件標準宅地の価額が0.6パーセント下落しており、その下落に応じた時点修正率は0.994が相当であると認められ、これを1平方メートル当たり8万4700円の価格に乗じると、1平方メートル当たり8万4191円となる。

ところで、前記告示等の定め(3)ア及びイの各経過措置によれば、仮に、平成17年7月1日から平成18年度の賦課期日である平成18年1月1日までの半年間に3割を超える地価の下落があった場合には、評価基準によって算定される標準宅地の価額が、同日における標準宅地の適正な時価を上回る結果となり得る。しかし、〔証拠省略〕によれば、本件標準宅地について、上記の半年間に3割を超える急激な地価の下落が生じたものとは認められない。

したがって、いずれにしても、平成18年度の賦課期日における本件標準宅地の適正な時価は、市長が評定した1平方メートル当たり8万4000円を下回ることはないと認められる。

ウ  本件標準宅地の平成18年度の価格に比準する価格

(ア) 主要な街路に対する路線価の付設

前記イ(エ)において求めた本件標準宅地の時価によれば、本件主要街路に付設すべき路線価は、1平方メートル当たり8万4000点となる。

(イ) 本件土地が接面する街路の路線価

〔証拠省略〕によれば、市長は、本件土地が接面する街路(以下「本件接面街路」という。)の平成18年度における路線価を1平方メートル当たり7万8000点と付設しているものと認められる。

〔証拠省略〕によれば、本件主要街路に沿接する本件標準宅地と本件接面街路に沿接する宅地について、これらの街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他宅地の利用上の便等の要因を比較すると、街路条件(道路幅員)において後者(約2.5メートル)はやや前者(約4.5メートル)に劣位し、その減価率は6パーセントが相当であるが、その他の点においては両者に有意な差異はないものと認められるから、本件接面街路の路線価を付設する際に本件主要街路の路線価に乗ずべき格差率は、0.94が相当であるものと認められる。

そして、本件主要街路の路線価である1平方メートル当たり8万4000点に上記格差率0.94を乗じると、1平方メートル当たり7万8960点となる。

したがって、市長が本件接面街路の平成18年度における路線価を1平方メートル当たり7万8000点(1000点未満切り捨て)と付設したのは、相当ということができる。

(ウ) 本件土地に対する画地計算法の適用

a 画地の認定

評価基準別表第3の2は、画地計算法を適用する場合に、一画地は、原則として、土地課税台帳等に登録された一筆の宅地によるものとするが、一筆の宅地又は隣接する二筆以上の宅地について、その形状、利用状況等からみて、これを一体をなしていると認められる部分に区分し、又はこれらを合わせる必要がある場合においては、その一体をなしている部分の宅地ごとに一画地とする旨を定めている(〔証拠省略〕)。

前記基礎となる事実(1)のとおり、本件土地は一筆の土地であるところ、前記(2)ウで認定したところによれば、本件土地はその全体が宅地として一体的に利用されているから、上記原則のとおり、これを一画地と認定するのが相当である。

b 奥行価格補正率

評価基準別表第3附表1「奥行価格補正率表」は、普通住宅地区において奥行距離が40メートル以上44メートル未満の場合の奥行価格補正率を0.92と定めている(〔証拠省略〕)。

前記イ(ア)のとおり、本件土地は普通住宅地区に属するところ、前記(2)ウ①で認定したとおり、本件土地の奥行距離は約42.5メートルであるから、本件土地に適用すべき奥行価格補正率は、0.92である。

c がけ地補正率

評価基準別表第3附表7「がけ地補正率表」は、がけ地地積の総地積に対する割合が0.10以上0.20未満である場合のがけ地補正率を0.95と定めている(〔証拠省略〕)。

前記(2)ウ③で認定したとおり、本件土地には本件がけ地部分があるところ、〔証拠省略〕によれば、本件がけ地部分は、概要、約2.5メートル幅で敷地西側及び南側に計約63メートルの延長で存しており、その地積は約157.5平方メートルであることが認められる。そうすると、本件がけ地部分の地積の本件土地の総地積(984平方メートル)に対する割合は、約0.16であるから、本件土地に適用すべきがけ地補正率は、0.95である。

d 本件均衡補正による補正率

〔証拠省略〕によれば、市長は、補正率を0.80とする本件均衡補正を適用しているものと認められる。

前記告示等の定め(2)ケのとおり、評価基準は、宅地の評価方法のうち市街地宅地評価法における画地計算法を適用する場合において、市町村長は、宅地の状況に応じ、必要があるときは、画地計算法の附表等について、所要の補正をして適用するものとする旨定めている。また、同(4)エ(イ)のとおり、評価要領においても、当該所要の補正として各種の補正事項及び補正率を定めているところ、それらを適用して算出した画地の単位当たり評点が付近の宅地の単位当たり評点と比較して不均衡であると認められる場合には、その理由を明確にした上で、その状況に応じて20パーセントの範囲内で均衡補正を行う旨が定められている。宅地の増減価の要因は、個別具体的な宅地の状況に応じて様々なものがあり得るから、個々の補正規定においてあらかじめ一律に補正率等を定めることが困難又は不相当である場合もあるものと考えられるのであり、このような場合に上記のような均衡補正を行うことを含めて各種の補正事項を定めた評価要領の規定は、評価基準の定める「所要の補正」を具体化するものとして一般的な合理性があるということができる。

そして、前記イ(ウ)のとおり、平成18年1月1日当時において、本件標準宅地は、市街化調整区域内の既存宅地であるため、開発行為については原則として規制されるが、一定の要件の下で許可される場合があり、建築物の建築等については許可を要しないものであった。これに対し、本件土地は、市街化調整区域内の宅地ではあるものの、既存宅地には当たらず、開発行為及び建築物の建築等が原則として規制されることになるため、本件標準宅地と比べて一定の減価が生ずるものと認められる。もっとも、評価基準及び評価要領には、上記のような場合の補正率について直接定めた規定はないところ、評価要領が定める均衡補正以外の各種の補正率のみを適用して本件土地の単位当たり評点を算出した場合、その評点は付近の宅地(既存宅地)の単位当たり評点と比較して不均衡であると認めることができるので、均衡補正を適用するのが相当である。

そこで、均衡補正を適用する場合の補正率について検討すると、評価要領においては、「建築基準法の規定から除外された道に沿接する画地の補正率」として、同法42条1項各号、同条2項に定める道路又は同法43条1項ただし書を適用する道のいずれにも該当しない道に沿接する画地に適用する補正率は、0.80とする旨定めている。この規定の趣旨は、建築物の敷地は、原則として同法上の道路に2メートル以上接しなければならないから(同法43条1項本文)、同法42条1項各号、同条2項に定める道路又は同法43条1項ただし書が適用される道(建築基準法施行規則10条の2参照)のいずれにも該当しない道に沿接する画地においては、建築物を建築することができないという土地利用上の重大な制限があるが、現に建築物が存在する場合には引き続きこれを使用することは可能であるし、当該画地の接する道が同法上の道路に認定されるか、隣接地等の使用許諾を得ることによって既存の同法上の道路への接道義務を果たすなど、何らかの条件を満たすことで、当該画地に建築物を建築することが可能であるという点を考慮して、補正率を0.80とするという点にあるものと解される。

他方、本件土地については、市街化調整区域内の宅地であり、開発行為及び建築物の建築等が原則として規制されているが、現に本件土地上には本件建物が存在しており、引き続きこれを使用することは可能である。また、前記(2)エのとおり、たとえ市街化調整区域内の土地であっても、一定の開発行為及び建築物の建築等については都道府県知事の許可を要することなく行うことができるのであるし、許可を要する場合であっても、一定の基準を満たすときには、その許可を得て開発行為及び建築物の建築等を行うことも可能である。

このように、土地利用上の制限の態様及び程度という点において、「建築基準法の規定から除外された道に沿接する画地」と本件土地との間には一定の類似性が認められることからすれば、本件土地について均衡補正を適用する場合の補正率として「建築基準法の規定から除外された道に沿接する画地の補正率」と同率の0.80を用いることには、合理的な根拠があるということができる。

なお、原告らは、評価要領においては、市街化調整区域内の建物を建てられない「畑」、「山林」及び「雑種地」について70パーセントの減価が明記されており、上記の20パーセントとは大きくかい離している旨主張する。しかし、前記告示等の定め(4)エないしオのとおり、評価要領は、市街化調整区域内に所在する介在農地、介在山林及びその他の雑種地について、70パーセントの減価をすべき旨の補正を規定しているところ、いずれの補正についても、当該土地が都市計画法29条の規定による開発行為に係る許可区域内等に所在する場合で、建築行為が可能であるとき(既に建築確認若しくは許可を得ている建物の敷地又は当該建築確認若しくは許可申請をすることにより建物の敷地として利用することができるもの)には適用しない旨を定めている。そうすると、評価要領の上記各規定は、市街化調整区域内に所在する介在農地、介在山林又はその他の雑種地については、その土地利用上の制約にかんがみ、70パーセントの減価を行うのが相当であるが、現にその一部が建物の敷地となっている場合などにおいては、土地全体の状況としては直ちに宅地とまでは認められないとしても、建物の敷地としての土地利用が可能である以上、当該減価を行う必要はないという考え方を採っているものと解することができる。しかるに、前記(2)ウのとおり、本件土地の地目は宅地であって介在農地、介在山林又はその他の雑種地のいずれでもないから、そもそも評価要領の上記各規定は適用されない。また、本件土地は、現に本件建物の敷地等として利用されているのであるから、評価要領の上記考え方に照らしても、直ちに70パーセントもの減価が必要であるということはできない。したがって、原告らの上記主張は失当である。

よって、市長が採用した本件均衡補正は相当であり、本件土地に適用すべき均衡補正に係る補正率は、0.80である。

e 本件土地の評点数

弁論の全趣旨によれば、本件土地に対する画地計算法の適用において、前記bないしd以外の補正を施す必要はないものと認められる。

そして、前記(イ)の本件接面街路の平成18年度における路線価1平方メートル当たり7万8000点に、奥行価格補正率0.92、がけ地補正率0.95及び本件均衡補正に係る補正率0.80を乗じて得られる本件土地の1平方メートル当たりの評点数は、5万4537点(小数点以下切り捨て)となる。

(エ) 本件土地の価額

上記(ウ)eの本件土地の1平方メートル当たりの評点数5万4537点に評点1点当たりの価格(弁論の全趣旨によれば、1円とされているものと認められる。)と本件土地の地積984平方メートルとを乗じて算定される本件土地の価額は、5366万4408円である。

(オ) 経過措置による時点修正

前記イ(エ)のとおり、平成17年1月1日から同年7月1日までの間に本件標準宅地の価額が0.6パーセント下落しており、その下落に応じた時点修正率は0.994が相当である。

よって、前記告示等の定め(3)イの経過措置に基づき、上記(エ)の本件土地の価額に上記時点修正率を乗じて得られる本件土地の平成18年度における価格は、5334万2421円(小数点以下切り捨て)となる。

(カ) 本件標準宅地の平成18年度の価格に比準して求められる本件土地の価格

以上によれば、路線価方式により本件標準宅地の平成18年度の賦課期日における適正な時価に比準して求められる本件土地の価格は、5334万2421円であると認められる。

エ  地方税法附則17条の2第1項の規定による時点修正

〔証拠省略〕によれば、市長は、本件土地の属する「自然的及び社会的条件からみて類似の利用価値を有すると認められる地域」において地価が下落したものとして、同法349条に規定された価格を当該地域に所在する土地に対して課する当該年度分の課税標準とすることが固定資産税の課税上著しく均衡を失すると認め、地方税法附則17条の2第1項の規定に基づき、平成19年度の本件土地の価格を決定するに当たり、前記ウ(カ)の価格に時点修正率0.992を乗じて時点修正を行っているものと認められる。

そして、〔証拠省略〕によれば、本件土地の属する本件状況類似区域内に所在する本件標準宅地の地価は、平成17年7月1日から平成18年7月1日までの間に0.8パーセント下落したものと認められるから、市長による上記時点修正は、相当ということができる。

よって、地方税法附則17条の2第1項の規定による時点修正後の本件土地の平成19年度における価格は、5291万5681円(小数点以下切り捨て)となる。

オ  本件土地の平成19年度登録価格の適否

したがって、本件土地の平成19年度登録価格5291万5681円は、以上のとおり地方税法及び評価基準の定めによって算定される本件土地の平成19年度における価格と同額であると認められる。

よって、本件土地の平成19年度登録価格は、地方税法及び評価基準の定めに基づいて算定されたものということができる。

カ  原告らの主張に対する判断

これに対し、原告らは、本件土地の平成19年度登録価格は、適正な時価よりも明らかに高い旨主張し、本件土地の平成18年12月13日の価格時点における鑑定評価額を4730万円とする鑑定評価書(〔証拠省略〕)を提出している。

しかし、既に説示したとおり、地方税法は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を総務大臣の告示である評価基準にゆだね(同法388条1項)、市町村長は、同法389条又は743条の規定によって道府県知事又は総務大臣が固定資産を評価する場合を除く外、評価基準によって、固定資産の価格を決定しなければならないと定めている(同法403条1項)。

そして、前記ア(イ)のとおり、評価基準の定める市街地宅地評価法に基づき適切に選定された標準宅地は、同法349条2項ただし書に規定する「当該土地(省略)に類似する土地」に当たると解するのが相当であるから、市町村長は、第2年度において、主として市街地的形態を形成する地域における宅地について同項ただし書の規定に基づく評価替えを行う場合には、市街地宅地評価法に従い、標準宅地の基準年度における適正な時価(客観的な交換価値)を求めた上で、これに評価基準所定の路線価方式を用いて比準することにより当該宅地の価格を決定しなければならないものと解される。

さらに、評価基準が定める市街地宅地評価法は、前記告示等の定め(2)及び(3)の各手順が適正に行われる限り、当該宅地の適正な時価への接近方法として一般的に合理性を有するものと解される。このことにかんがみれば、市街地宅地評価法によって算定した宅地の価額は、特別の事情がない限り、その適正な時価(客観的な交換価値)を超えるものではないと推認するのが相当である。

しかるところ、本件土地について、「当該土地(省略)に類似する土地(省略)の基準年度の価格に比準する価格」が評価基準の定める市街地宅地評価法に基づき適切に算定されていることは、前記イ及びウにおいて説示したとおりである。したがって、本件土地の平成19年度登録価格は、特別の事情がない限り、その適正な時価(客観的な交換価値)を超えるものではないと推認することができる。

そこで、原告らがその主張の根拠とする鑑定評価書(〔証拠省略〕)により上記特別の事情が認められるか否かについて検討すると、まず、〔証拠省略〕によれば、① 上記鑑定評価書においては、取引事例比較法により同一需給圏内の類似地域における5件の取引事例から得られた標準価格に補正率を乗じて本件土地の更地価格(比準価格)を決定した上、これが地価公示価格(地価公示地横浜旭13―1)を規準とした価格(規準価格)とも均衡しているとして、上記比準価格をもって鑑定評価額を決定していること、② 上記鑑定評価書においては、本件土地に係る「同一需給圏」を「横浜市旭区及び周辺区の市街化調整区域(雑種地)と判定した。」との記載があり、また、本件土地の近隣地域に係る「標準的使用」を「資材置場、車両置き場、家庭菜園、畑地等として使用するものと判定した。」との記載があること、③ 上記地価公示地の現況は山林(雑木林)であることが認められる。

そして、上記②の事実によれば、上記①の5件の取引事例はいずれも宅地ではなく雑種地の売買事例であるものと推認することができる。しかし、本件土地については、市街化調整区域内の宅地であり、開発行為及び建築物の建築等が原則として規制されているが、現に本件土地上には本件建物が存在しており、引き続きこれを使用することは可能である。また、前記(2)エのとおり、たとえ市街化調整区域内の土地であっても、一定の開発行為及び建築物の建築等については都道府県知事の許可を要することなく行うことができるのであるし、許可を要する場合であっても、一定の基準を満たすときには、その許可を得て開発行為及び建築物の建築等を行うことも可能である。このように、本件土地は宅地であり、建物の敷地としての利用が可能な土地なのであるから、上記鑑定評価書において、雑種地の取引事例から得られた標準価格を基に本件土地の比準価格が決定されているのは、合理的な根拠を欠くものといわざるを得ない。

また、上記鑑定評価書に記載された規準価格についても、上記③のとおり、上記地価公示地の現況は山林(雑木林)であるというのであって、かかる地価公示地の選定もまた、明らかに合理性を欠いている。

そうすると、上記鑑定評価書記載の鑑定評価額(4730万円)が本件土地の客観的な交換価値を示すものとは認め難いといわざるを得ない。

したがって、本件において前記の特別の事情があるということはできず、本件土地の平成19年度登録価格は、平成18年度の賦課期日における適正な時価(客観的な交換価値)を超えるものではないと認められる。この点に関する原告らの主張は理由がない。

(4)  本件均衡補正の当否についての審理不尽の有無(争点1(4))

原告らは、本件審査決定に係る固定資産評価審査決定書(〔証拠省略〕)に、「平成19年度は評価替えの年度(基準年度)にあたらないため、今年度においては、地目の変換その他これらに類する特別の事情を原因とする事項と、地価下落に伴う価格の修正に関する事項を除いては、審査の申出をすることができない」と記載されていることを根拠に、審査委員会は、本件土地の土地利用における制約に対する本件均衡補正の当否について、何ら実質的な判断を行っておらず、本件審査決定には審理不尽の違法がある旨主張する。

しかし、原告らが引用する上記記載は、地方税法432条1項及び同法附則17条の2第9項の規定から当然に導かれる一般論を記載したものにすぎないと解される。

かえって、〔証拠省略〕によれば、上記決定書には、「本件土地のように、その地積に変更があった土地については、評価の見直しを行うものとされています。そこで、本件土地の評価をみますと、次のとおりです。」との記載があり、市長が画地計算法の適用において本件均衡補正を行った事実等を認定する記載に続いて、「本件土地の評価については、(省略)画地計算等、いずれも適切になされており、評価基準等に即して適正になされているものと判断します。」との記載があり、さらに、申出者(原告ら)の主張に対する判断として、「本件土地については、(省略)木造2階建ての建物の敷地の用に供する宅地として利用されておりますが、当該宅地としての利用は、本件標準宅地のような市街化区域と市街化調整区域に区分された時点において宅地として利用されていた宅地の利用とは異なり、今後の利用においても、都市計画法上、医療施設等の公益上必要な建築物等の用途に限定されるなど、本件標準宅地に比べ土地利用上の制約が認められることから、本件土地の評価においては、均衡補正として、既に20%の減価を行っており、これ以上の減価を行う必要はないものと判断しました。」との記載があるものと認められる。このような上記決定書の記載によれば、審査委員会は、原告らの引用箇所にいう「地目の変換その他これらに類する特別の事情を原因とする事項」として、本件均衡補正の当否を含む本件土地の評価について実質的な判断をしているものと認めることができる。

したがって、本件審査決定に審理不尽の違法がある旨の原告らの主張を採用することはできない。

(5)  小括

よって、本件審査決定は適法であり、その取消請求は理由がない。

2  義務付け請求について

(1)  前記第1の2及び第3の2(1)のとおり、原告らは、行政事件訴訟法3条6項2号に規定するいわゆる申請型の義務付けの訴えに係る請求として、本件土地の平成19年度登録価格について、審査委員会に対し「地目を雑種地と認定の上、適正な時価を決定する裁決」をすべき旨を命ずることを求めている。

(2)  しかしながら、同号に規定する申請型の義務付けの訴えは、「行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき」において、「行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟」であるから、義務付けを求める対象である処分又は裁決は、「一定の」ものでなければならないと解される。

ところが、原告らは、単に「地目を雑種地と認定の上、適正な時価を決定する裁決をせよ」と求めるのみであり、「適正な時価」が具体的にいくらであるのかを特定していない。また、「地目を雑種地と認定」しただけで本件土地の平成19年度の賦課期日における「適正な時価」が一義的に定まるものでないことも明らかである。そうすると、原告らの前記(1)の請求においては、原告らが義務付けを求める対象である裁決(審査決定)の内容が、社会通念上、義務付けの訴えの要件を満たしているか否かについて裁判所の判断が可能な程度に特定されているとは到底認められず、同号に規定する「一定の」という要件を満たすものと認めることはできない。

したがって、本件訴えのうち原告らの前記(1)の請求に係る部分は、同号に規定する義務付けの訴えの要件を満たさない不適法な訴えというほかない。

(3)  また、仮に、上記訴えが「一定の」裁決の義務付けを求めるものであるといえるとしても、このような申請型の義務付けの訴えは、同法37条の3第1項各号に掲げる要件のいずれかに該当するときに限り、提起することができるものである。

前記基礎となる事実(8)のとおり、本件は、法令に基づく審査請求を棄却する旨の裁決(本件審査決定)がされた場合に当たると解されるから、同項1号に該当する余地はない。また、前記1において説示したとおり、本件審査決定は取り消されるべきものではないから、本件訴えのうち前記(1)の請求に係る部分は、同項2号の要件にも該当しないこととなる。

よって、本件訴えのうち前記(1)の請求に係る部分は、同項に規定する訴訟要件を満たしておらず、この点においても不適法である。

(4)  よって、本案の争点(争点2(2))について判断するまでもなく、本件訴えのうち前記(1)の請求に係る部分は、不適法であり、却下を免れない。

3  国家賠償請求について

(1)  公務員による公権力の行使に国家賠償法1条1項にいう違法があるというためには、公務員が、当該行為によって損害を被ったと主張する者に対して負う職務上の法的義務に違反したと認められることが必要である(最高裁昭和60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁、最高裁平成17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁、最高裁平成20年4月15日第三小法廷判決・民集62巻5号1005頁等参照)。

また、市町村長は、地方税法410条1項の規定により固定資産の価格を決定した場合においては、直ちに当該固定資産の価格等を固定資産課税台帳に登録しなければならないところ(同法411条1項)、固定資産税の納税者は、その納付すべき当該年度の固定資産税に係る固定資産課税台帳に登録された価格について不服がある場合においては、所定の期間内に、固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができ(同法432条1項本文)、これに対する固定資産評価審査委員会の決定に不服があるときは、その取消しの訴えを提起することができるが(同法434条1項)、同法432条1項の規定により固定資産評価審査委員会に審査を申し出ることができる事項について不服がある固定資産税の納税者は、同項及び同法434条1項の規定によることによってのみ争うことができるものとされている(同条2項)。そうすると、市町村長が決定した固定資産の価格が過大であるということから直ちに国家賠償法1条1項の適用上違法であるとして国家賠償請求が認容されることとなれば、実質的にみて、固定資産の価格について以上のような特別の争訟制度及び不服申立期間を定めた地方税法の趣旨が没却されることとなりかねず、相当でない。

したがって、市町村長による固定資産の価格の決定は、当該固定資産の価格を過大に認定していたとしても、そのことから直ちに同項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、市町村長が資料を収集し、これに基づき当該固定資産の評価の基礎となる事実を認定、判断する上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該固定資産の価格を決定したと認め得るような事情がある場合に限り、上記の評価を受けるものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、まず、本件土地の地目は雑種地であり平成19年度登録価格は過大に認定されたものである旨の原告らの主張に理由がないことについては、前記1(2)及び(3)において説示したとおりである。また、〔証拠省略〕によれば、本件土地の平成20年度における固定資産課税台帳登録価格(以下「平成20年度登録価格」という。)は、地方税法349条3項本文括弧書きの規定により、平成19年度登録価格に据え置かれたものと認められるところ、本件全証拠によっても、平成20年度において平成19年度と異なる事情は認められないから、本件土地の平成20年度登録価格が過大である旨の原告らの主張も理由がない。

他方、本件土地の過年度登録価格が具体的にいかなる評価方法によって決定されたものであるのかは証拠上明らかでないが、〔証拠省略〕によれば、市長は、本件土地の過年度登録価格を決定するに当たり、市街地宅地評価法を用い、本件標準宅地と同様の市街化調整区域内の既存宅地を標準宅地としてその価格を決定したが、その際には、本件均衡補正を行わなかったものと認めることができる。前記1(3)ウdのとおり、本件均衡補正は、評価基準の定める「所要の補正」として行われるべきものであるから、これが行われていないという限度で、本件土地の過年度登録価格は、評価基準に従って決定される価格よりも過大なものであった可能性がある。そこで、本件土地の過年度登録価格の決定に際し、市長が資料を収集し、これに基づき本件土地の評価の基礎となる事実を認定、判断する上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件土地の価格を決定したと認め得るような事情があるか否かについて、項を改めて検討することとする。

(2)  まず、前記告示等の定め(4)エ(イ)のとおり、評価要領は、評価基準が定める「所要の補正」として各種の補正事項及び補正率を定めているところ、それらを適用して算出した画地の単位当たり評点が付近の宅地の単位当たり評点と比較して不均衡であると認められる場合には、その理由を明確にした上で、その状況に応じて20パーセントの範囲内で均衡補正を行う旨を定めている。そうすると、均衡補正は、評価要領が上記「所要の補正」として定める各種の補正項目においては当該補正項目に該当する事項について機械的に補正率を適用することとされているのとは異なり、これらの補正事項が適用されてもなお評価上不均衡が生じると認められる場合に限って、特別に行われるものであると解される。

また、本件土地のように、現に建物の敷地として利用されている市街化調整区域内の宅地において、当該建物の建築やそのための開発行為が行われた法的根拠としては、都市計画法29条1項3号(病院施設等の公益施設)、平成12年法律第73号による改正前の都市計画法43条1項6号(既存宅地)等の様々な場合が想定されるのであり、それぞれの場合に応じて同法による今後の開発行為及び建築物の建築等の規制も異なり得ることになる。そのため、市長が当該宅地について特別に均衡補正を適用する必要があることを把握するためには、当該建物の建築やそのための開発行為が行われた法的根拠が判明していることが前提となるが、このような事実については、毎年少なくとも1回行われる実地調査(地方税法408条)のみでは判明し得ないことを考慮する必要がある。

さらに、前記(1)のとおり、同法は、固定資産の価格について、固定資産評価審査委員会に対する審査の申出という特別の争訟制度を設けているところ、〔証拠省略〕によれば、① 本件土地の過年度登録価格については、A、B又は原告らにより審査委員会に対する審査の申出が行われたことはないこと、② 本件建物の建築に係る開発行為が都市計画法29条1項3号の規定により許可を要することなく行われたもので、本件土地が市街化調整区域内の既存宅地に当たらないことについては、原告Xが平成19年3月1日付けで横浜市旭区役所あてに本件土地等の価格の再調査等を求める書面(〔証拠省略〕)を提出したことを契機として初めて判明したものであることが認められ、他方、ほかに本件建物建築についての法的根拠が判明する端緒となるような事情があったことはうかがわれない。

その上、〔証拠省略〕によれば、固定資産課税台帳登録価格は、平成5年度以前においては、一般的には、客観的な交換価値のおおむね2割ないし3割とされており、平成6年度以降においても、現在の評価通達における経過措置の定め(前記告示等の定め(3)ア)と同様に、客観的な交換価値の7割を目途として評定することとされていたものと認められる。そうすると、20パーセントの本件均衡補正が行われないこと自体によって、直ちに本件土地の過年度登録価格が客観的な交換価値を上回る結果が生じていたとは認め難いところである。

これらの事情を総合すると、本件土地の過年度登録価格の決定に際し、市長が資料を収集し、これに基づき本件土地の評価の基礎となる事実を認定、判断する上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件土地の価格を決定したとは、いまだ認めることができない。

(3)  以上によれば、市長による本件土地の平成19年度登録価格、平成20年度登録価格及び過年度登録価格の決定又はこれらを前提とする各年度の固定資産税の賦課徴収が国家賠償法1条1項の適用上違法であるということはできない。

よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告らの国家賠償請求は理由がない。

4  結論

以上のとおり、本件訴えのうち審査委員会に対する裁決(審査決定)の義務付けを求める部分は不適法であるから却下し、原告らのその余の請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐村浩之 裁判官 一原友彦 戸室壮太郎)

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