横浜地方裁判所 平成20年(行ウ)9号 判決 2009年12月09日
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第3当裁判所の判断
1 情報公開条例15条3項違反の有無(争点(1))について
情報公開条例15条3項は、実施機関は、同条1項及び2項の規定により意見書の提出の機会を与えられた第三者が当該公文書の開示に反対の意思を表示した意見書を提出した場合において、開示決定をするときは、開示決定の日と開示を実施する日との間に少なくとも2週間を置かなければならず、開示決定後直ちに、当該第三者に対し、開示決定をした旨及びその理由並びに開示を実施する日を書面により通知しなければならないものとし、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)13条3項と同旨の規定を置いている。
そして、期間の計算に関する一般原則である初日不算入の原則(民法138条、140条)によれば、情報公開条例15条3項所定の2週間の期間についても、その初日(開示決定の日)を算入しないで計算しなければならないものと解される。また、同項が「2週間を置かなければならない」と定めていることからすると、開示を実施する日は、2週間の期間を経過した日以降の日でなければならないものと解される。
これを本件についてみると、前記第2の3(3)イのとおり、原告は、情報公開条例15条1項の規定に基づき意見書の提出の機会を与えられた第三者であるところ、同エのとおり、処分行政庁は、平成20年2月4日付けで本件開示決定をしているが、原告に対する同日付け公文書の開示に関する通知書においては、公文書の開示を実施する日を同月18日と記載している。そうすると、本件開示決定の日の翌日である同月5日から起算して2週間の期間を経過した日は、同月19日となるから、本件開示決定に基づき開示を実施する日は、同日以降でなければならない。しかるに、上記通知書に記載された公文書の開示を実施する日は、同月18日であったというのであるから、同条3項の規定に違反するものであったことになる。
しかし、そもそも、開示決定とは、開示請求に係る公文書の全部又は一部を開示する旨の決定をいうのであって(情報公開条例15条2項)、開示決定自体において開示を実施する日を定めることとされているわけではない。開示に反対する旨の意見書を提出した第三者に対する開示を実施する日の通知は、「開示決定後」、その開示決定の効力に基づき実際に公文書の開示を実施する時期を知らせるというものにすぎないから、その「開示を実施する日」の誤りは、それ自体が別途国家賠償請求の対象となる場合があることは格別、開示決定の行政処分としての効力を左右するものではないと解される。そうすると、たとえ当該通知における開示を実施する日の記載が同項の規定に違反するとしても、そのことが直ちに開示決定の取消原因となる違法に当たると解することはできない。
また、同項の規定の趣旨は、開示決定の日と開示を実施する日との間に所定の期間を設け、かつ、公文書の開示に反対する第三者に所定の事項を開示決定後直ちに通知することにより、当該第三者に対し開示の実施前に開示決定を争う機会を保障するとともに、開示請求者の迅速な開示への期待(情報公開条例16条1項参照)との利益衡量を図る点にあるものと考えられる。そして、本件では、前記第2の3(3)カのとおり、処分行政庁は、開示を実施する日を同月19日に変更する旨決定し、同月13日付け書面により原告に通知している。さらに、本件における開示を実施する日の誤りはわずかに1日だけである上、前記第2の3(3)エのとおり、原告に対する同月4日付け通知書においては、本件開示決定がされた旨及びその理由が記載されているから、原告が本件各文書の開示前に本件開示決定を争う機会は一応保障されていたということができ、実際にも、同オのとおり、原告は、同月12日には本件訴えを提起している。そうすると、本件では、情報公開条例15条3項の上記趣旨が実質的に損なわれたとまではいえず、上記変更決定により、同項違反の瑕疵は治癒されたものと解される。
したがって、いずれにしても、情報公開条例15条3項違反を根拠に本件開示決定の取消しを求める原告の主張は理由がない。
2 情報公開条例8条2号ア該当性(争点(2))について
(1) 情報公開条例8条2号アの規定の解釈等
ア 情報公開条例は、8条2号柱書本文において、同条各号に掲げる不開示情報の一つとして、「法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方公共団体、地方独立行政法人及び指定出資法人を除く。以下「法人等」という。)に関する情報(省略)又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、次に掲げるもの。」を掲げる一方、同ただし書において、「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報を除く。」と規定し、情報公開法5条2号柱書と同様の定めを置いている。
その趣旨については、公文書に法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報が記録されている場合に、その情報を開示することが当該法人等又は事業を営む個人に不当に損害を与えることを防ぐ必要がある一方、かかる情報をすべて不開示情報とすると、情報公開の範囲が不当に狭くなるので、上記規定の限度で不開示情報を定めたものと解される。
そして、情報公開条例8条2号アは、上記の「次に掲げるもの」の一つとして、情報公開法5条2号イと同じく、「公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」を掲げている。
情報公開条例8条2号の規定の上記趣旨によれば、ここにいう「権利」とは、非財産的権利を含む一切の法的保護に値する権利をいい、「競争上の地位」とは、公正な競争関係における地位をいうものと解される。また、「その他正当な利益」は、ノウハウ、信用等当該法人等又は事業を営む個人の運営上の地位を広く含むものと解されるが、かかる「利益」については、それが「正当な」ものと評価されることが必要である。
同号に該当するというためには、主観的に他人に知られたくない情報であるというだけでは足りず、上記の「権利、競争上の地位その他正当な利益」を「害するおそれ」が客観的に認められる必要があり、その「害するおそれ」があるというためには、単なる確率的な可能性ではなく、法的保護に値する蓋然性が求められるものと解するのが相当である。
イ ところで、情報公開条例は、何人も、同条例の定めるところにより、実施機関に対し、当該実施機関の管理する公文書の開示を請求することができるものとし(6条)、実施機関は、開示請求があったときは、開示請求に係る公文書に次の各号に掲げる不開示情報のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該公文書を開示しなければならない旨規定している(8条柱書)。このような条文の構造に加え、情報公開条例が、前文において、知る権利は、最大限に尊重されなければならず(1項)、市に関する情報は、公開することを原則とし、非公開とすることができる情報は、必要最小限にとどめられること(4項)などを宣言しており、1条においても、市の管理する情報の一層の公開を図ることなどを同条例の目的の一つとして掲げていることにかんがみると、情報公開条例においては、公文書の開示請求があったときは、原則として開示決定をしなければならず、例外的に、同条例8条各号に掲げる不開示情報のいずれかが記録されている場合に限り、不開示とすることが許されるという立法政策が採られていることが明らかである。そうすると、訴訟においても、ただし書等により主張立証責任が転換されているなどの特段の事情がない限り、上記の不開示事由の存在は、不開示とすべきであると主張する者において主張立証すべきものと解するのが相当である。
また、一般に、情報公開法や地方公共団体における情報公開条例等に基づく行政文書(公文書)の不開示決定の取消訴訟では、被告(国、地方公共団体等)において、当該文書に通常どのような情報が記録され、その情報が一般的にどのような性格、内容のものであるかを類型的に明らかにすることにより、当該文書を開示したのと同様の結果を招来することがないよう工夫をしつつ、不開示事由に該当することを主張立証するという方法が採られるのが通例である。そして、これとは逆に、本件のように、開示請求の対象となった公文書に自己に関する情報が記録されているとして第三者が開示決定の取消しを求める訴訟においても、当該第三者は、当該公文書に記録された情報の内容について把握しているのが通常であると考えられるから、不開示事由該当性について上記と同様の方法による主張立証を行うことに特段の支障があるとは解されない。のみならず、当該第三者は、当該情報の開示により自己にいかなる不利益が及ぶのかを最もよく主張立証し得る立場にあるということができるのであるから、当該第三者に不開示事由該当性の主張立証責任を負担させることが衡平に適うというべきである。
したがって、本件においても、上記アで述べた情報公開条例8条2号柱書及び同号アの規定文言に照らせば、本件開示決定の取消しを求める原告において、本件各文書に情報公開条例8条2号柱書本文及び同号アに掲げる事由に該当する情報が記録されている事実の主張立証責任を負い、被告は、同号柱書のただし書に該当する事実の主張立証責任を負うものと解するのが相当である。
以上と異なる原告の解釈を採用することはできない。
ウ 本件では、前記第2の3(1)アのとおり、原告は株式会社であるところ、同(2)エ、カ及びクのとおり、本件各文書は、いずれも、A弁護士が、被告(処分行政庁又は川崎市まちづくり局長)に対し、原告代理人として、処分行政庁の原告に対する本件各勧告又は本件公表通知への回答、見解、主張、求釈明等を記載して提出したものであるから、法人である原告に関する情報が記録されているものと認められ、当該情報は、情報公開条例8条2号柱書本文にいう「法人(省略)に関する情報」に該当する。
これに対し、被告及び被告補助参加人からは、本件各文書に記録された情報が、同号柱書のただし書にいう「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」に当たるとの主張はなく、本件全証拠によっても、本件各文書に上記のような情報が記録されているとは認められない。
したがって、本件各文書には、情報公開条例8条2号柱書に規定する情報が記録されているものと認めることができる。
そこで、以下では、原告の各主張に沿って、本件各文書に情報公開条例8条2号アに掲げる情報が記録されていると認められるか否かを検討することとする。
(2) 原告の信用、社会的評価を損なうおそれについて
原告は、本件各文書は原告が行政指導に従わない内容であり、これが公にされると、誤解や憶測を招くおそれがあり、原告の信用や社会的評価を損なうおそれがある旨主張する。
確かに、法人の信用や社会的評価は、情報公開条例8条2号アに規定する「正当な利益」に該当し得るものと解される。
そこで、本件各文書を公にすることにより原告に対する信用や社会的評価が損なわれる蓋然性が法的保護に値する程度に認められるか否かを検討すると、本件各文書の記載内容は、前記第2の3(2)エ、カ及びクのとおりであり、本件文書1及びこれを別紙とする本件文書2には、原告が本件勧告1について種々の理由から不服を有しており、調停に付されることを受諾する意思がないことを示す記載が含まれ、本件文書3も、原告が少なくとも本件勧告2における回答期限の指定に従わない意思が示されているということはでき、本件文書4も、本件公表通知についての意見を述べるために必要とする求釈明事項等が11枚にわたって記載されている点で、実質的には本件公表通知について原告が不服を有していることがうかがわれるものとなっていることが認められる。
しかしながら、本件各文書における上記のような記載内容が公にされたとしても、原告が本件各勧告ないし本件公表通知に不服の意思を示しているという事実が明らかになるだけなのであって、その事実を知った者に原告の事業活動について直ちに何らかの誤解や憶測が生じる蓋然性があるとは考えられない。
また、前記第2の3(2)イ及び(3)エのとおり、平成19年9月28日に本件調停申出がされていたにもかかわらず、被告補助参加人による本件開示請求により平成20年2月4日付けで本件開示決定がされた時点に至っても、いまだ調停が開始されていなかったことからすれば、その時点では、本件調停申出を行った原告川崎支店の近隣住民らにとっては、原告と被告との具体的な交渉経緯までは不明であるとしても、原告が紛争調整条例14条2項に基づく処分行政庁の勧告に対し、調停に付することを受諾しない態度を示していることは十分に推測できる状況であったものと認められる。そうであれば、本件各文書の上記記載内容が公にされたとしても、原告に対する信用又は社会的評価が従前に比して殊更に低下する蓋然性があったと認めることは困難である。
結局のところ、原告の上記主張は、いかなる誤解や憶測を招くおそれがあるというのかが明らかでなく、単なる主観的な危惧や確率的な可能性を超えて、原告に対する信用や社会的評価が損なわれる蓋然性が法的保護に値する程度に存在するとは認めるに足りないというべきである。
したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
(3) 勧告や行政指導に対して自由に意見、見解を述べることができなくなるおそれについて
原告は、本件各文書を公にすることにより、原告が自由な意見を主張できなくなるおそれや、行政指導への不服従をためらうおそれが生じるところ、行政指導に対して自由に意見、見解を述べる利益は「正当な利益」である旨主張する。
確かに、行政指導に対して自由に意見、見解を述べる利益は、表現の自由や、行政手続条例等に基づく権利等として、情報公開条例8条2号イに規定する「権利」又は「正当な利益」に該当し得るものと解される。
そこで、本件各文書を公にすることにより原告が行政指導に対して自由に意見、見解を述べる利益が損なわれる蓋然性が法的保護に値する程度に認められるか否かを検討すると、前記第2の3(2)エ、カ及びクのとおり、本件各文書は、いずれもA弁護士が、被告(処分行政庁又は川崎市まちづくり局長)に対し、原告代理人として、処分行政庁の原告に対する本件各勧告又は本件公表通知への回答、見解、主張、求釈明等を記載して提出したものであるところ、本件各勧告は行政指導としての性格を有するものと解されるから、本件各文書の記載内容は、行政指導に対する意見、見解を含むものということができる。このような行政指導に対する意見、見解が情報公開制度に基づいて第三者に開示されることがあり得るとした場合、行政指導を受けた者としては、行政機関に対し行政指導に対する意見、見解を書面で提出するに際し、将来それが公にされ得ることを考慮した上でその書面に自己の意見、見解を記載することを要することとなる。
しかしながら、既に各種の行政機関において法律や条例に基づく情報公開制度が普及・定着するに至っている我が国の現在の状況を前提とすれば、行政指導に対する意見、見解を記載して行政機関に文書を提出した者は、その文書の具体的内容が法律や条例の定める個々の不開示事由に該当しない限り、情報公開の対象となることを承知しているのが通常であると考えられ、その文書の具体的内容が個々の不開示事由に該当するか否かを問わず、行政指導に対する意見、見解であるというだけで一律に秘匿されるであろうとの期待を抱くことが合理的であるとはいい難いから、たとえかかる期待に反する結果になるとしても、そのことによって直ちに行政指導に対して自由に意見、見解を述べる利益が害される蓋然性が法的保護に値する程度に認められるということはできない。また、上記のような我が国の情報公開制度の下で、当該文書を公にすることにより行政指導に対して意見、見解を述べることに萎縮的効果が生じることが直ちに懸念されるような状況にあるとも考えられない。さらに、本件各文書が公にされることにより、実際に原告が自由な意見を主張できなくなるおそれがあるとか、行政指導への不服従をためらう事態が生じるおそれがあるとも認められない。してみれば、本件各文書の記載内容を公にすることにより、行政指導に対して自由に意見、見解を述べる利益が損なわれる蓋然性が法的保護に値する程度に存在するとは認めるに足りないというべきである。
したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
(4) 将来の訴訟における攻撃防御方法の自由が制約されるおそれについて
原告は、原告川崎支店の近隣住民との倉庫建設をめぐる紛争に関し訴訟の被告になる可能性があるところ、本件各文書は原告が将来主張立証すべき事項と不可分の関係にあり、開示されると当該訴訟における攻撃防御方法の自由が害される旨主張する。
しかし、原告が主張する「訴訟における攻撃防御方法の自由」の趣旨は判然としない。仮に上記訴訟における訴訟戦術等が制約されるおそれがあると主張する趣旨であるとしても、かかる利益が法的保護に値する「権利」や「正当な利益」に当たるといえるかについては疑問がある。
また、本件開示決定がされた時点において、原告が将来当該近隣住民等から倉庫建設の差止めや損害賠償を求める民事訴訟を提起される蓋然性が肯定される状況であったとまで認めるに足りる証拠はない。そして、本件各文書の前記記載内容が当該訴訟において原告が主張立証すべき事項と「不可分の関係」にあるという原告の主張の趣旨及び根拠は明らかでなく、また、そのことから本件各文書を開示することにより「訴訟における攻撃防御方法の自由」が害されることになるとする理由も不明である。
したがって、本件各文書が開示されることにより原告の「権利、競争上の地位その他正当な利益」が害される蓋然性が法的保護に値する程度に存在するとは認めるに足りず、原告の上記主張を採用することはできない。
(5) 調停手続の非公開に係る原告の利益が害されるおそれ等について
ア 原告は、紛争調整条例に規定する調停手続の非公開の趣旨が調停受諾勧告に係る諸手続にも及ぶことを前提に、本件各文書が開示されると、調停手続の非公開に係る原告の利益が害される旨主張する。
確かに、紛争調整条例17条(あっせん及び調停の非公開)は、「調停の手続は、公開しない。」と定めている。
しかし、同条にいう「調停の手続」とは、「(調停の手続)」との見出しが付された紛争調整条例16条に定める手続を意味するものと解するのが文理上自然である。具体的には、同条例17条の趣旨は、意見聴取のため紛争当事者が出席する期日(同条例16条2項前段)、小委員会の求めに応じ提出された資料(同条2項後段)、小委員会が作成した調停案(同条3項前段)、その受諾勧告(同条3項後段)及び同勧告を受諾する旨の紛争当事者の申出(同条5項)等を非公開とすることにより、これらの調停の手続における紛争当事者の意見陳述や資料提出を容易にし、紛争の実情を明らかにするとともに、小委員会による調停活動を円滑にし、もって調停の成立に資そうとする点にあると解される。
そして、前記第2の3(2)エ、カ及びクのとおり、本件各文書は、紛争調整条例14条2項の規定に基づく本件各勧告又は同条例22条3項の規定に基づく本件公表通知に対する原告の回答(受諾を拒絶するもの)、見解、主張、求釈明等を記載したものであるところ、同条例14条2項の規定による勧告は、上記のような「調停の手続」の前段階において、「調停に付することを受諾するよう勧告する」ものにすぎないから、当該勧告に対する回答等は、文理上、「調停の手続」そのものには当たらないと解さざるを得ないし、当該勧告の受諾を拒絶する内容の回答等を非公開とすることが調停の成立に資するとは考えられない。また、同条例22条3項の規定による公表理由の通知についても、少なくとも、本件のように紛争当事者の一方が上記勧告に応じない場合(同条1項2号)に関しては、もはや調停に付することはできないのであるから、当該通知に対して提出された意見等(同条3項)を非公開とすることが調停の成立に資するということはあり得ない。
したがって、紛争調整条例17条に規定する「調停の手続」の非公開の趣旨が本件各文書にも及ぶと解することはできず、原告の上記主張は、その前提を欠くものであり、採用することができない。
イ 原告は、本件各文書の上記記載内容が公にされると、紛争調整条例による公表と同様の不利益を受けるおそれがある旨主張する。
しかし、原告の上記主張は、結局のところ、原告に対する信用や社会的評価が害されるおそれがある旨をいうものであると解されるところ、かかる主張を採用することができないことについては、前記(2)で説示したとおりである。
ウ 原告は、本件各文書が第三者に開示されれば、原告の社会的評価や原告川崎支店の近隣住民等との紛争の帰すうにつき、原告の意図していなかった影響が生じるおそれがある旨主張する。
確かに、前記第2の3(2)エ、カ及びクのとおり、A弁護士が、原告代理人として、本件各文書を提出するに当たり、関係住民等の第三者に開示することを禁じる旨を注記していたことからすれば、A弁護士ないし原告の認識としては、本件各文書中においては、被告の機関以外の者へは明らかにされないとの前提に立った上での、原告川崎支店の近隣住民等との紛争や本件各勧告及び本件公表通知に関する見解等を述べたものということができる。そうすると、本件各文書が第三者に開示されれば、原告の社会的評価や当該紛争の帰すうにつき、A弁護士ないし原告の意図していなかった影響が生じる可能性は否定できない。
しかし、情報公開条例8条2号アの不開示情報に該当するというためには、「権利、競争上の地位その他正当な利益」が害される蓋然性が法的保護に値する程度に認められる必要があるところ、本件各文書の記載内容等にかんがみ、原告の社会的評価が損なわれる蓋然性が法的保護に値する程度に存在するとは認められないことについては、前記(2)で説示したとおりである。
また、上記紛争の帰すうに与える影響に関し、原告は、既に発生した民事紛争につき、裁判所による解決を選択した原告の防御権は正当な利益である旨主張する。この主張の趣旨は明らかでないが、将来の訴訟における攻撃防御方法の自由が制約されるおそれがある旨の前記主張と同旨のものであるとすれば、前記(4)のとおり、その主張を採用することはできない。
エ 原告は、国民は、相手方に応じて、自己に関する情報を自由に処分して表示するのであるから、原告が非公開と信頼した利益は、国民の自己に関する情報の自由な管理権及び財産権、経済的利益を含む広範な利益であり、いずれも憲法上の人権であり、正当な利益である旨主張する。
確かに、法人等又は事業を営む個人から公にしないとの条件の下で任意に情報提供がされた場合には、当該条件が合理的なものと認められる限り、その情報が公にされないという信頼は保護されるべきであるが、このような情報については、情報公開条例8条2号イが、同号アとは別の類型の非開示情報として特別の定めを置いているのであるから、原告が主張する信頼に係る利益は、同号イに該当する限りにおいて保護されると解するのが相当である。
そして、本件各文書に記録された情報に同号イに規定する「公にしないとの条件」が付されているとは認められないことについては、後記3において述べるとおりであるから、原告の主張する上記利益が同号アに規定する「権利」や「正当な利益」に該当するということはできない。
したがって、原告の上記主張は失当である。
オ 原告は、本件各文書は、いずれも、調停受諾勧告に対する受諾の有無についての意思形成に至る過程での未成熟な文書であるから、非公開であるとの信頼は、正当な利益である旨主張する。
しかし、法人等又は事業を営む個人がその意思形成に至る過程での未成熟な内容の文書を行政機関に提出したからといって、その文書が不開示とされるという信頼が保護に値するとは到底認められないから、かかる信頼が「正当な利益」に当たるということはできない。
なお、情報公開条例は、不開示情報の一つとして、8条3号においていわゆる意思形成過程情報を掲げているところ、それは、「市の機関並びに国、独立行政法人等、他の地方公共団体、地方独立行政法人、指定出資法人及び指定管理者の内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報(省略)であって、公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に市民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当に利益を与え、若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの」であり(〔証拠省略〕)、本件各文書のように私人が行政機関との交渉過程において提出した文書の記載が同号の意思形成過程情報に該当するものではない。
したがって、原告の上記主張は失当である。
(6) 他の各号の非開示情報に該当するとの信頼が害されるおそれについて
原告は、本件各文書に情報公開条例8条6号所定の不開示情報が記録されていると信じる合理的理由があるから、非公開であるとの信頼は、正当な利益である旨主張する。
本件各文書に情報公開条例8条6号所定の不開示情報が記録されていると認められないことについては後記6において説示するとおりであるが、仮に原告が本件各文書の提出に際して同号の解釈を誤り、本件各文書の記載内容が同号に該当すると理解していたとしても、そのような一方的な法の誤解による信頼が同条2号アにいう「正当な利益」に該当する余地のないことは明らかである。
したがって、原告の上記主張は失当である。
(7) 小括
以上のとおり、本件各文書に情報公開条例8条2号アに掲げる不開示情報が記録されている旨の原告の主張は、いずれも理由がない。
3 情報公開条例8条2号イ該当性(争点(3))について
(1) 情報公開条例8条2号イの規定の解釈等
ア 情報公開条例8条2号イは、同号柱書本文の「次に掲げるもの」の一つとして、情報公開法5条2号ロとほぼ同様に、「実施機関の要請を受けて、公にしないとの条件で任意に提供されたものであって、法人等又は個人における通例として公にしないこととされているものその他の当該条件を付することが当該情報の性質、当時の状況等に照らして合理的であると認められるもの」を掲げている。
情報公開条例8条2号イの上記規定は、法人等又は事業を営む個人から公にしないとの条件の下に任意に提供された情報については、当該条件が合理的なものと認められる限り、不開示情報として保護するものであり、情報提供者の信頼と期待を基本的に保護しようとする趣旨であると解される。
したがって、同号イに該当すると認められるためには、「実施機関の要請を受けて、公にしないとの条件で任意に提供されたもの」に該当し、かつ、「法人等又は個人における通例として公にしないこととされているものその他の当該条件を付することが当該情報の性質、当時の状況等に照らして合理的であると認められるもの」に該当すると認められる必要がある。
イ そして、前記2(1)イで説示したのと同様に、情報公開条例8条2号柱書及び同号イの規定文言に照らせば、本件開示決定の取消しを求める原告において、本件各文書に情報公開条例8条2号柱書本文及び同号イに掲げる事由に該当する情報が記録されている事実の主張立証責任を負い、被告は、同号柱書のただし書に該当する事実の主張立証責任を負うものと解するのが相当である。
ウ 本件では、前記2(1)ウで述べたとおり、本件各文書には、情報公開条例8条2号柱書に規定する情報が記録されているものと認められる。
そこで、以下では、本件各文書に情報公開条例8条2号イに掲げる情報が記録されていると認められるか否かを検討することとする。
(2) 「実施機関の要請を受けて、公にしないとの条件で任意に提供されたもの」に該当するか否か
ア 原告は、本件各文書は、調停受諾勧告という調停手続に関する実施機関の要請を受け、任意に提供されたものであり、公開を禁じる旨をその都度表示し、被告は、それに何ら反論することなく、黙示に承諾している旨主張する。
上記(1)アのとおり、情報公開条例8条2号イは、法人等又は事業を営む個人から公にしないとの条件の下に任意に提供された情報については、当該条件が合理的なものと認められる限り、不開示情報として保護するものであり、情報提供者の信頼と期待を基本的に保護しようとする趣旨であると解されるが、情報提供者が実施機関に対し一方的に公開を禁じる意思を表示したというだけでは、それが公にされないという情報提供者の信頼と期待が法的保護に値するものということはできない。したがって、情報公開条例8条2号イに規定する「条件」とは、情報公開法5条2号ロに規定する「条件」と同様に、約束を意味するものと解され、黙示的であってもよいが、あくまでも双方の合意により成立するものと解される。
これを本件についてみると、前記第2の3(2)エ、カ及びクのとおり、A弁護士は、原告代理人として、本件各文書の提出に当たり、関係住民等の第三者に開示することを禁じる旨を注記している。
しかしながら、本件では、まず、処分行政庁がA弁護士の上記注記内容を承諾する旨の明示的な意思表示をしたことを認めるに足りる証拠はない。
また、前記第2の3(2)オのとおり、川崎市まちづくり局長は、処分行政庁がA弁護士から上記の注記がされた本件文書1及び本件文書2の送付を受けた後、A弁護士に対し、同弁護士から送付された書面について公文書の開示請求等があった場合には、情報公開条例等法令に則った手続を行うことになる旨を記載した書面を送付している。この記載は、上記の注記にかかわらず、本件文書1及び本件文書2の記載内容が当然に情報公開条例8条2号イに掲げる不開示情報に該当することとなるものではなく、その記載内容に応じて、同条各号に掲げる不開示情報に該当するか否かを個別に判断し、必要があれば同条例15条所定の第三者に対する意見聴取の機会の付与等の手続を執るという趣旨であると解されるから、処分行政庁の側が、本件文書1及び本件文書2における上記の注記を黙示的に承諾していたと評価することはできない。また、このことからすれば、その後に送付された本件文書3及び本件文書4における同様の注記については、処分行政庁の黙示的な承諾があったと評価することは到底できない。
なお、原告は、処分行政庁には、原告が非公表となるものと誤解して本件各文書を送付したのであるから、非公開とならないのであればそのことを教示する義務があり、教示しないことは信義則上黙示の追認とすべきである旨主張するが、上記のとおり、川崎市まちづくり局長が、A弁護士に対し、同弁護士から送付された書面について公文書の開示請求等があった場合には、情報公開条例等法令に則った手続を行うことになる旨を記載した書面を直ちに送付していることからすれば、信義則上処分行政庁が本件各文書を非公開とすることを黙示に承諾(追認)したと評価することはできない。
したがって、原告の上記各主張を採用することはできない。
イ また、原告は、本件各文書は、未成熟な意思形成過程文書であること、非公開である調停手続中の文書であること、行政指導に対する意見書であること、特に公表手続のある手続中の文書であることからすれば、その性質上、「公にしないとの条件で任意に提供されたもの」に該当する旨主張する。
しかしながら、上記アのとおり、情報公開条例8条2号イに規定する「条件」とは、約束を意味し、情報提供者と実施機関との合意により成立するものと解されるから、原告の上記主張は失当である。
なお、原告が指摘する本件各文書の上記性格のみをもって、処分行政庁が本件各文書を公にしないことについて黙示的に承諾していたと認めることもできない。
(3) 小括
以上のとおり、本件各文書に記録された情報は、情報公開条例8条2号イ前段に規定する「公にしないとの条件」が付されているとは認められないから、同後段に規定する「法人等又は個人における通例として公にしないこととされているものその他の当該条件を付することが当該情報の性質、当時の状況等に照らして合理的であると認められるもの」に該当するか否かについて判断するまでもなく、同号イの不開示情報に該当する旨の原告の主張は、いずれも理由がない。
4 情報公開条例8条4号該当性(争点(4))について
原告は、本件開示決定の違法事由の一つとして、本件各文書の記載内容が公にされると、行政指導が無力化され、円滑な行政の執行が不可能になり、また、調停制度の円滑な遂行に支障を及ぼすおそれがあるから、本件各文書には情報公開条例8条4号所定の不開示情報が記録されている旨主張する。
しかしながら、主観訴訟である取消訴訟においては、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることは許されない(行政事件訴訟法10条1項)。
原告の上記主張は、情報公開条例8条4号柱書に規定する「市の機関又は国、独立行政法人等、他の地方公共団体、地方独立行政法人、指定出資法人若しくは指定管理者が行う事務又は事業に関する情報(省略)であって、公にすることにより、(省略)当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」に該当する旨をいうものであると解されるところ、上記規定文言からも明らかなとおり、同号柱書は、川崎市の機関や他の行政機関等が行う「事務又は事業の適正な遂行」という一般行政上の公益を保護する趣旨の規定であり、当該情報に関係する私人である第三者の個別的利益を保護する趣旨を含むものと解することはできない。
また、原告の上記主張は、その具体的な内容としても、円滑な行政の執行や調停制度の円滑な遂行という公益が害されるおそれを指摘するものにすぎず、原告の法律上の利益が害されるおそれがあることを主張するものではない。
したがって、原告の上記主張は、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として本件開示決定の取消しを求めるものというほかなく、主張自体失当である。
5 情報公開条例8条5号該当性(争点(5))について
原告は、本件開示決定の違法事由の一つとして、本件各文書に押印された弁護士の印影は、その公開により偽造された場合には弁護士の財産等への不法な侵害を招く情報であるから情報公開条例8条5号に該当する旨主張する。
しかしながら、上記4のとおり、主観訴訟である取消訴訟においては、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることは許されないところ、原告の上記主張は、その具体的な内容において、弁護士の財産等への不法な侵害が生じ得ることを指摘するものにすぎず、原告の法律上の利益が害されるおそれがあることを主張するものではない。
したがって、原告の上記主張は、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として本件開示決定の取消しを求めるものというほかなく、主張自体失当である。
6 情報公開条例8条6号該当性(争点(6))について
(1) 情報公開条例8条6号の規定の解釈等
情報公開条例は、8条6号において、同条各号に掲げる不開示情報の一つとして、「法令の規定により、又は実施機関が法律若しくはこれに基づく政令の規定により従う義務を有する国の機関等の指示により、公にすることができないと認められる情報」を掲げている。
このうち、「法令の規定により、(省略)公にすることができないと認められる情報」とは、法令において明示的に開示を禁止する旨が規定されている情報のほか、法令の趣旨及び目的に照らし公にすることができないと解釈される情報を含むものと解される。
(2) 民事訴訟法156条について
原告は、訴訟上主張する可能性がある情報を訴訟前に公開することは原告の主張・立証や反論の手段を制約し民事訴訟法156条の法意に反する旨主張する。
しかし、同条は、「攻撃又は防御の方法は、訴訟の進行状況に応じ適切な時期に提出しなければならない。」と規定し、いわゆる適時提出主義を定めたものであって、攻撃防御方法の散漫な提出により訴訟が遅延するという随時提出主義の弊害を防止するために採用された規定であると解される。したがって、同条は、行政機関等が保有する一定の情報の開示を禁止する旨を明示的に定めたものでないことはもちろん、その趣旨及び目的に照らしても、行政機関等が保有する一定の情報を公にすることができるか否かとはおよそ無関係な規定であることは明らかである。
したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
(3) 紛争調整条例17条について
原告は、① 調停受諾勧告に対する回答や公表通知に対する意見等は、調停手続の前提ないし一環として紛争調整条例17条により非公開であること、② 仮にそうでないとすれば、行政手続条例30条2項により調停受諾勧告については不服従に対する不利益取扱いが禁止されることになり、紛争調整条例22条が不服従に対する不利益取扱いとして公表を定めていることと矛盾するから、本件各文書の内容は、同条例17条の規定により公にすることができないと認められる情報である旨主張する。
しかしながら、上記①の主張を採用することができないことについては、前記2(5)アにおいて説示したとおりである。
また、行政手続条例3条6号は、「相反する利害を有する者の間の利害の調整を目的として法令又は条例等の規定に基づいてされる裁定その他の処分(省略)及び行政指導」について、行政手続条例30条2項を含む同条例第2章から第4章までの規定を適用しない旨規定している。そして、紛争調整条例14条2項の規定に基づいてされる調停受諾勧告は、中高層建築物等の建築及び開発行為に係る紛争の調整を図る目的で行われるものと解され(同条例1条参照)、その性質は行政指導であると解される。そうすると、調停受諾勧告は、行政手続条例3条6号にいう「相反する利害を有する者の間の利害の調整を目的として(省略)条例等の規定に基づいてされる(省略)行政指導」に該当すると解されるから、同条例30条2項の適用はない。さらに、行政指導の一般原則として行政指導に従わない相手方に対する不利益な取扱いの禁止を定める同項の規定と、調停受諾勧告に正当な理由なく応じない者に対する公表制度を特別に定める紛争調整条例22条1項2号の規定は、一般法・特別法の関係にあると解し得るから、両者が矛盾するともいえない。したがって、原告の上記②の主張もまた失当である。
よって、本件各文書の内容は紛争調整条例17条の規定により公にすることができないと認められる情報である旨の原告の主張は理由がない。
(4) 行政手続条例30条2項について
原告は、本件各文書の内容は行政手続条例30条2項により公にすることができないと認められる情報である旨主張する。
しかし、紛争調整条例14条2項の規定に基づく調停受諾勧告に行政手続条例30条2項の適用がないことについては、上記(3)で説示したとおりであるから、原告の上記主張は理由がない。
(5) 紛争調整条例22条1項2号について
原告は、調停受諾勧告に対する意見や公表通知に対する意見は、紛争調整条例22条1項2号の規定の反対解釈により、公にすることができないと認められる情報である旨主張する。
しかし、まず、紛争調整条例22条1項は、「第14条第2項の規定による勧告に正当な理由なく応じないとき。」(2号)などの各号のいずれかに該当する場合には、「その旨を公表することができる。」とする規定であるから、その反対解釈により導かれるのは、同条例22条1項各号のいずれにも該当しないときは、同項に基づく公表を行うことができないということにとどまることが明らかである。
また、紛争調整条例22条1項2号の上記規定は、調停受諾勧告に正当な理由なく応じない場合には、その旨を開示請求等を待つことなく市民一般に対して公告等の方法(紛争調整条例施行規則34条1項)により公表するという形での制裁を予定することにより、間接的に調停受諾勧告への協力を確保しようとする趣旨であると解される。これに対し、情報公開条例に基づく公文書の開示は、「市の管理する情報の一層の公開を図り、市の諸活動を市民に説明する責務が全うされるようにし、市政運営の透明性の向上及び市民の信頼と参加の下にある公正かつ民主的な市政の発展に資することを目的」として(同条例1条)、個別の開示請求があった場合にその開示請求者に対して閲覧又は写しの交付等の方法により行われるものである(同条例6条、16条2項)。そうすると、紛争調整条例22条1項2号の規定に基づく公表と、情報公開条例に基づく公文書の開示は、趣旨及び目的並びに手続、対象者及び方法を異にする別個の行為であることが明らかである。このことに加え、市長が正当な理由なく調停受諾勧告に応じない場合に該当すると判断して積極的に公表を行った場合と、個別の開示請求に対して調停受諾勧告に対する意見や公表通知に対する意見を単に情報として開示する場合とでは、それらの行為が社会に与える影響力という点でも大きな相違があるものと考えられる。したがって、紛争調整条例22条1項2号の規定により公表の対象となる情報が記録された公文書を情報公開条例に基づいて開示しても、直ちに紛争調整条例22条1項2号の規定による公表制度の意義が失われるとはいえないから、同号の規定が、調停受諾勧告に対する意見や公表通知に対する意見を情報公開条例に基づき開示することを禁止する趣旨を含むものとまで解することは困難である。
したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
(6) 小括
以上のとおり、本件各文書に情報公開条例8条6号に掲げる不開示情報が記録されている旨の原告の主張は、いずれも理由がない。
7 結論
以上によれば、本件各文書に情報公開条例8条2号、6号に掲げる不開示情報が記録されているとは認められず、また、同条4号、5号に掲げる不開示情報が記録されている旨の原告の主張は自己の法律上の利益に関係がなく主張自体失当であるから、本件開示決定に取消原因となる違法があるということはできない。
よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 北澤章功 裁判官 一原友彦 戸室壮太郎)