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横浜地方裁判所 平成21年(ヨ)403号 決定 2009年10月09日

債権者

X1

債権者

X2

債権者

X3

債権者

X4

債権者

X5

債権者

X6

債権者

X7

上記7名代理人弁護士

関守麻紀子

高橋宏

藤田温久

川口彩子

石井眞紀子

志田一馨ほか35名

債務者

株式会社アンフィニ

同代表者代表取締役

同代理人弁護士

満園武尚

小屋和歌子

主文

1  本件申立てをいずれも却下する。

2  申立費用は,債権者らの負担とする。

事実及び理由

第1申立ての趣旨

1  債権者らが,債務者に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

2  債務者は,債権者X1,債権者X2,債権者X3,債権者X4及び債権者X5に対し,それぞれ平成21年5月18日から同年12月31日まで,毎月15日限り,別紙請求債権目録記載の各賃金を仮に支払え。

3  債務者は,債権者X6及び債権者X7に対し,それぞれ平成21年6月1日から同年12月31日まで,毎月15日限り,別紙請求債権目録記載の各賃金を仮に支払え。

第2事案の概要

本件は,債務者との間で有期雇用契約を締結し,株式会社資生堂(以下「資生堂」という。)の鎌倉工場,(以下「本件工場」という。)において,化粧品の製造に従事していた債権者らが,債務者から,債権者X1(以下「債権者X1」という。),債権者X2(以下「債権者X2」という。),債権者X3(以下「債権者X3」という。),債権者X4(以下「債権者X4」という。)及び債権者X5(以下「債権者X5」という。)については平成21年5月17日付けで解雇を,債権者X6(以下「債権者X6」という。)及び債権者X7(以下「債権者X7」という。)については同月31日付けで雇止めを,それぞれ言い渡されたところ,同雇止めは雇用契約の期間変更が無効であることから当初の契約期間を前提に期間途中の解雇に該当するとした上,債権者らに対する解雇がいずれも無効であると主張して,債務者に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めるとともに,同月18日ないし同年6月1日から同年12月31日までの賃金の仮払いを求める仮処分を申し立てた事案である。

1  前提事実(争いのない事実及び後掲疎明資料によって疎明される事実)

(1)  債務者は,労働者派遣事業を主な目的とする株式会社で,平成18年6月以降本件工場内に鎌倉事業所(以下「本件事業所」という。)を設置している。平成21年5月11日当時,本件事業所における債務者の従業員は63名であった。

(2)  債権者らは,平成18年6月以降,債務者との間で以下のとおり有期雇用契約を締結し,本件工場において,化粧品(口紅)の製造に従事していた従業員である。債権者らは,平成18年当時・派遣労働者として雇用契約を締結し,資生堂に派遣されていたが,平成19年1月以降は,債務者と資生堂との間の契約が請負契約となったため,債務者の契約社員として就労している(<証拠省略>)。債権者らの1か月の平均賃金は,債権者X1が22万5063円,債権者X2が14万6729円,債権者X3が14万6247円,債権者X4が14万7173円,債権者X5が13万3099円,債権者X6が24万2036円及び債権者X7が18万7371円である(毎月末締め翌月15日払い)。なお,債権者らは,いずれも全労連・全国一般労働組合神奈川地方本部(以下「本件組合」という。)に所属する組合員である。

ア 債権者X1,債権者X2,債権者X4,債権者X5,債穫者X6及び債権者X7

(ア) 平成18年6月1日から平成19年5月31日まで(派遣労働者)

(イ) 平成19年1月1日から同年12月31日まで(契約社員)

(ウ) 平成20年1月1日から同年12月31日まで(契約社員)

(エ) 平成21年1月1日から同年12月31日まで(契約社員)

イ 債権者X3

(ア) 平成19年12月25日から同月31日まで(契約社員。<証拠省略>)

(イ) 平成20年1月1日から同年12月31日まで(契約社員)

(ウ) 平成21年1月1日から同年12月31日まで(契約社員)

(3)  債務者は,平成21年3月18日,ラインリーダー及びサブリーダーの従業員12人に対し,債務者の正社員登用試験を実施し,同月24日には,B営業所所長がラインリーダー及びサブリーダーと面談を実施していた。この頃,本件工場においては債務者の製造ラインを6本から7本に増やすという話が出ており,同年2,3月頃までは,新規従業員3人が採用された。

債務者は,平成21年4月上旬頃,資生堂から,債務者に対する同月分の発注総額1304万0225円のところ,同年5月分は716万9172円に減量し,夏頃まではそのように減量したままの発注になる旨通告された。

(4)  債務者は,平成21年4月10日頃から,債権者らを含め,本件工場で働く全従業員との間で,順次個別に期間を同月1日から同年5月31日までとする雇用契約を締結し直し,債権者らも同契約書に署名・押印した(以下「本件契約」という。)。

(5)  債務者は,平成21年4月13日,フルタイムで就労する一般従業員に対し,募集期間を同日から同月15日,募集人数22人,退職日同年5月17日,上積み条件なしとする希望退職の募集の通知をし,同年4月15日,夫の所得税につき扶養控除を受けることのできる賃金の範囲内で働いているパート従業員に対象範囲を広げて,募集期間を同日から同月17日,募集人数,退職日,上積み条件は従前と同様とする希望退職の募集を通知したが,いずれも希望退職者がなかった。

(6)  債務者は,平成21年4月17日,債権者X1,債権者X2,債権者X3,債権者X4及び債権者X5を含む22人の従業員に対し,就業規則45条7号(事業の縮小その他会社のやむを得ない事由がある場合で,かつ,他の職務に転換させることもできないとき)を理由に同年5月17日付けで解雇する旨通知した。

(7)  債務者は,平成21年4月13日頃,同年5月1日付けで債権者X6をラインリーダーから,債権者X7をラインサブリーダーからそれぞれ一般作業員へと変更する旨通知した(<証拠省略>)。債権者X6及び債権者X7は,同年5月29日までに,債務者に対して,本件組合へ加入した旨通知し,本件組合を通じて降格人事の見直しと,同年6月以降の労働契約については,同年1月1日から同年12月31日までの労働契約が有効と考えているため,現時点では新たに再契約することができない旨要望した(<証拠省略>)。

債務者は,債権者X6及び債権者X7に対し,平成21年5月31日の期間満了をもって雇止めとする旨通知した。

(8)  債務者は,平成21年5月分賃金の支払時に未消化有給休暇の補償として,債権者X1に対し4万3400円,債権者X2に対し4万6500円,債権者X3に対し2万9450円,債権者X4に対し13万2525円,債権者X5に対し2万9450円をそれぞれ支払った(<証拠省略>)。

2  争点

(1)  本件契約の有効性

(2)  解雇の有効性

(3)  保全の必要性

3  当事者の主張の概要

(1)  争点(1)について

ア 債権者らの主張

(ア) 錯誤無効

債権者らは,契約期間が変更されていることについては気付いていたものの,契約期間が満了になっても更新されていくのであり,雇止めはあり得ないという前提で本件契約を締結した。更新が前提なのか,雇止めが行われ得るのかという事実は,平成21年12月31日までの契約期間が存した債権者らにとって,決定的に重要な要素であり,本件契約による契約期間の変更は,錯誤により無効である(民法95条)。

(イ) 詐欺,公序良俗違反

債務者が本件契約の締結を求めた意図は,資生堂から平成21年5月分以降の減量発注の通告を受けて,同月末をもって22人の人員削減を実現すべく,契約期間を短縮した上で解雇対象者について雇止めという形式で実質的な解雇を実現しようとしたところにあったことは明白である。債務者は,債権者らに同月末の期間満了によって人員整理を行うとの真意を知らせれば,債権者らが契約期間の短縮などに合意するはずもないことが明らかだったことから,その意図を秘して,就業時間が変更になったことが理由である旨の虚偽の説明を行って契約期間を同月31日までとした本件契約締結を迫り,期間満了後には従前どおり更新されるため,本件契約の期間変更には実質的な意味はないと誤信している債権者らに対して,これに署名・押印させたものである。したがって,本件契約は詐欺によって取り消されるべきものであり(民法96条),また,公序良俗に反するものとして当然無効というべきである(民法90条)。

イ 債務者の主張

債務者は,本件契約に際し,契約の当然更新について説明を行ったことはなく,本件工場における生産体制の変更に伴う出社時間の変更と売行き不振による減産などの先行き不透明な状態に陥る可能性を説明しており,契約期間の変更合意であることは債権者らも当然認識していた。債権者らは,平成21年5月31日までの契約期間に変更することについて充分な認識に基づいて契約書に署名,押印しており,錯誤無効,詐欺取消,公序良俗違反との債権者らの主張は到底認められない。

(2)  争点(2)について

ア 債権者らの主張

(ア) 債権者らと債務者との間の契約期間を平成21年5月31日までとする本件契約は無効であり,債権者らの契約期間は同年12月31日までであるから,債権者X6及び債権者X7についても,他の債権者らと同様,有期契約の期間途中の解雇に当たり,解雇には整理解雇の要件より厳格な労働契約法17条1項の「やむを得ない事由」が必要となる。

しかしながら,債務者の行った解雇は,以下のとおり整理解雇の要件すら充たしておらず,無効である。

a 解雇の必要性がないこと

債務者は多数の事業所を有し,平成20年10月決算では約18億円の売上げを有し,労働者派遣業者としては,茨城県内71社中5位,全国3921社中でも486位という好成績を上げている。

債務者には,過去数年間の多大な利益の蓄積があるから,資生堂からの生産受注量が一時的に減量になったからといって,債務者について,直ちに労働契約の期間途中で債権者らを解雇しなければならないほどの必要性が発生しているとはいえない。

債務者は,本件事業所の売上げが半減し,受注増額の見通しが立たないことについて具体的な主張,立証すらしていない。

b 解雇回避努力がないこと

債務者は,資生堂から平成21年4月に減量発注を通告されるまで,拡大政策を採り,人員の増強を図っていたにもかかわらず,同通告直後,契約期間を同年5月末日までとする本件契約を締結し,22人の労働者の解雇を画策しているから,解雇回避努力がなされていないことは明白である。また,債務者の行った希望退職募集も,募集期間が短く,上積み条件がないことからすれば,解雇回避努力を尽くしていることと仮装するためのものといわざるを得ない。

c 対象者選定基準に合理性がないこと

債務者は,整理解雇の対象は,フルタイムで就労する者のうち,契約期間6か月以下の者及び平成20年1月から平成21年2月までの出勤率下位者から人選したと説明するが,債権者らよりも出勤率が下位にいるのに解雇対象とされていない者がおり,また,有給休暇が自由に取得できず,やむを得ず欠勤扱いになっている人が少なくないこと等からすれば,債務者の行った解雇は,その対象者選定基準においても合理性を欠くといわざるを得ない。

d 事前の十分な説明・協議がないこと

使用者が整理解雇を行おうとする場合,労働組合や労働者に対して,整理解雇の必要性とその内容について理解を得るために説明を行い,誠意をもって協議をしなければならないところ,債務者は具体的な説明を何ら行っておらず,十分な協議の機会を設けていない。

(イ) 債務者が,債権者X6及び債権者X7に対し,グループの製品にミスが多いという理由でラインリーダー,ラインサブリーダーからの大幅な降格処分をしたため,債権者X6及び債権者X7は,債務者に対し,本件組合への加入通告をし,引き続き就労する意思を明確にした上で,以降は本件組合を通じて降格人事の効力や雇用契約期間の解釈に関する協議をしたい旨表明した。債権者X6及び債権者X7に対する解雇は,解雇の必要性がないにもかかわらず,債権者X6及び債権者X7が本件組合に加入し,本件組合を通した労働条件の交渉を行ったことを嫌悪した結果として行われたものであり,労働組合の組合員であることを理由とする解雇として,不当労働行為に該当し無効である。

イ 債務者の主張

(ア) 債権者らと債務者との間の契約期間は,平成21年5月31日までであり,債権者X6及び債権者X7については雇止めであり,その余の債権者らについてはやむを得ない事由に基づく有効な解雇である。

(イ) 債務者においては,受注減量に伴う従前報酬を確保するために急激な社会経済情勢の悪化の中で新たな請負契約先を確保することや,本件事業所のある大船から債権者らを債務者の他の事業所(最も近い事業所でも千葉県ないし埼玉県)に配置転換することはいずれも不可能で,本件事業所の規模は債務者においては91事業所中売上げで1番目(月商約1300万円)に当たり,この半減がいつまで続くか分からない状況で約60名の従業員に対する報酬を支払続けることは会社経営にとって著しい打撃となり,先の見えない経済情勢下にあって会社の存亡の危機を回避する必要が生じた。経費の削減や内部留保の取り崩しなどによっても,債権者らを減産状態の中で継続的に雇用し続けることは会社の経営を逼迫させ,他の多くの労働者の雇用の確保を不可能ならしめる事態となり,希望退職者の募集を行ったものの上積み条件を提示できる経営状態にもなく,また,実際に希望退職者の応募もなかったことから,債務者は,やむを得ず,平成21年5月17日付けで債権者X1,債権者X2,債権者X3,債権者X4及び債権者X5を含む22人の従業員を解雇したものである。債務者は,フルタイムで就労する者のうち,契約期間6か月以下の者及び平成20年1月から平成21年2月までの出勤率下位者から解雇対象者を人選し,債権者らへ解雇予告を個別に行い,その説明も十分行っている。

(ウ) ラインリーダーやラインサブリーダーは,当該ラインの責任者としての立場に基づき,グループの製品にミスがなく製造できるように配慮すべき立場にあり,通常の作業者とは異なる作業を行っているところ,債務者は,ラインの減少により,リーダーとしての業務に従事し得なくなったことから,債権者X6及び債権者X7を通常の作業者に変更したものであり,不合理でもなく,降格処分でもない。期間満了による雇止めは,整理解雇等の必要性にかかわらず行うもので,債務者は,本件組合への加入や本件組合を通じての労働条件の交渉の結果により雇止めを行ったのではなく,契約の更新に至らなかったことに基づくもので,不当労働行為による解雇であるとの債権者らの主張は失当である。

(3)  保全の必要性

ア 債権者らの主張

(ア) 債権者X1

債権者X1は,夫と子供2人と生活しており,債権者X1は,債務者からの賃金の他に収入はなく,夫の収入と債権者X1の年収約250万円を併せて生活している。子供のうち1人は法科大学院進学準備中で,もう1人は私立大学生であり,教育費に相当の金員が必要となる。債権者X1の賃金収入がなくなれば,生活は困窮する。

(イ) 債権者X2

債権者X2は,夫と5歳の子供と生活しており,債権者X2は,債務者からの賃金の他に収入はなく,造園会社で働く夫の収入は日給1万1000円で,雨の日は仕事がなく,収入が安定していない。債権者X2の賃金収入がなくなれば,生活は困窮する。

(ウ) 債権者X3

債権者X3は,夫と高齢の義母,病気の義姉と生活をしており,債権者X3は,債務者からの賃金の他に収入はなく,夫の収入と債権者X3の月収約14万円を併せて生活している。債権者X3の賃金収入がなくなれば,生活は困窮する。

(エ) 債権者X4

債権者X4は,夫と成人の子供2人と生活をしており,債権者X4は,債務者からの賃金の他に収入がなく,定年退職後嘱託社員として働く夫の収入,フリーターの子供1人が不定期に家計に入れる食費及び債権者X4の年収約170万円と併せて生活をしている。また,債権者X4には,以前生活が苦しかった頃に出来た約180万円の負債があり,毎月約10万円返済している。債権者X4の賃金収入がなくなれば,月額10万円程度しか生活に使用できる金員が残らない状態で,生活は困窮する。

(オ) 債権者X5

債権者X5は,債務者からの賃金の他に収入がなく,債権者X5の家族は全員社会人であるが,生活に余裕があるわけではなく,債権者X5の年収約160万円を併せて何とか生活をしている。債権者X5の賃金収入がなくなれば,生活は困窮する。

(カ) 債権者X6

債権者X6は,夫と2人で生活をしており,債権者X6は,債務者からの賃金の他に収入がなく,派遣社員である夫の収入と債権者X6の年収約290万円を併せて生活している。債権者X6の賃金収入がなくなれば,生活は困窮する。

(キ) 債権者X7

債権者X7は夫と次男と生活をしており,債権者X7は,債務者からの賃金の他に収入がなく,派遣社員であった夫は平成20年11月に解雇され無職で,次男は学生で無収入である。債権者X7の賃金収入がなくなれば,生活は困窮する。

イ 債務者の主張

いずれも不知。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)について

前記前提事実によれば,債権者らと債務者は,当初平成21年1月1日から同年12月31日までの有期雇用契約を締結していたところ,債務者は,同年4月上旬頃,資生堂から同年5月分から夏頃までの受注を減量させる旨通告されたことを受けて,同年4月10日頃から,債権者らを含め,本件工場で働く全従業員との間で,順次個別に期間を同月1日から同年5月31日までとする雇用契約を締結し直し,債権者らも同契約書に署名・押印したことが認められる。

そして,債権者らは,契約期間が変更となったことを認識した上,署名・押印したことをいずれも認めており,債権者らの陳述によっても,債務者は,必ず契約を更新する旨の説明はしておらず,本件契約締結について錯誤,公序良俗違反により無効とまでは認められず,詐欺により取り消されるべきものとも認められない。

よって,債権者らと債務者との間の雇用契約は,本件契約により平成21年4月1日から同年5月31日までに変更されていると認められる。

2  争点(2)について

(1)  前記1のとおり,債権者らと債務者との間の雇用契約の契約期間は,平成21年4月1日から同年5月31日までであると認められるところ,債権者X1,債権者X2,債権者X3,債権者X4及び債権者X5に対する同月17日付け解雇は,有期契約の期間途中の解雇に該当し,使用者は,「やむを得ない事由」がある場合でなければ,当該労働者を有期契約の期間途中に解雇することはできない(労働契約法17条1項,民法628条)。

この点,前提事実によれば,資生堂からの受注が平成21年5月から減量したというのみで,債務者の経営状態についての疎明資料はなく,かえって,債務者は同年2,3月頃には新規従業員3人を採用するなどしており,人員を削減する経営上の具体的必要性が明らかではない。また,前提事実によれば,債務者は,平成21年4月上旬に資生堂からの減量受注の通告を受けて,同月13日及び15日にはいずれも募集期間を両日から3日間とする希望退職の募集をしているが,募集期間が短期間であり,結局希望退職者がなかったとして,同月17日には,直ちに債権者ら5人を含む従業員22人に対して同年5月17日付けの解雇を通知しており,解雇の回避に向けた努力を尽くしたものとは認められない。さらに,債務者は,フルタイムで就労する者のうち,契約期間6か月以下の者及び平成20年1月から平成21年2月までの出勤率下位者から解雇対象者を選定するなどしており,解雇対象者の選定の際にかかる基準を設ける事自体は一定の合理性を有するものの,事前に何ら従業員に対する説明がなく,債務者の主張する説明も解雇予告時に各従業員に整理解雇する旨伝えたのみであることからすると,債務者が行った解雇に「やむを得ない事由」があるとは到底認めることはできず,無効であるといわざるを得ない。

よって,債権者X1,債権者X2,債権者X3,債権者X4及び債権者X5は,債務者に対し,平成21年5月18日から同月31日までの間の賃金請求権を有すると認められる。

(2)  前記1のとおり,債権者らと債務者との間の雇用契約の契約期間は,平成21年4月1日から同年5月31日までであるから,債務者の債権者X6及び債権者X7に対する同日付けの雇止めの意思表示は有期契約の期間途中の解雇とはいえない。

また,債権者らの主張によっても,債権者X6及び債権者X7に対する降格処分は組合加入通知前に行われており,平成21年6月以降の労働契約については,同年1月1日から同年12月31日までの労働契約が有効と考えているため,現時点では新たに再契約することができないとの本件組合を通じた同債権者らの要望を受けて,債務者が雇用契約締結に至らないと判断して行った雇止めが,労働組合の組合員であることを理由とする不当労働行為(労働組合法7条1号)に該当し,無効であるとまで認めることはできない。

よって,債権者X6及び債権者X7と債務者との間の雇用契約は,債務者の雇止めによって平成21年5月31日に終了している。

3  争点(3)について

前記1,2のとおり,債権者らと債務者との雇用契約は,平成21年5月31日までで終了しており,債権者らが債務者に対して現在雇用契約上の権利を有する地位にあるとは認められず,債権者らの被保全権利は,債権者X1,債権者X2,債権者X3,債権者X4及び債権者X5の,債務者に対する,同月18日から同月31日までの間の賃金請求権のみ理由があると認められるところ,同債権者らの個別事情を前提としても,同債権者らの1か月の平均賃金は13万3099円ないし22万5063円であるところ,債務者が,同債権者らに対し,平成21年5月分賃金の支払と併せて未消化有給休暇の補償として2万9450円ないし13万2525円を支払っていることなどを併せ考慮すると,14日分の賃金の仮払をする必要性までは認めることはできない。

4  よって,本件申立ては理由がないからいずれも却下することとし,申立費用の負担については民事保全法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり決定する。

(裁判官 立野みすず)

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