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横浜地方裁判所 平成21年(ワ)3701号 判決 2012年8月30日

原告

被告

主文

一  被告は原告に対し、三八四万〇七七七円及びこれに対する平成一八年七月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項及び第三項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、五三九万一九三七円及びこれに対する平成一八年七月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

原告がタクシー(以下「被害車両」という。)に乗車中、被告の運転する普通自動車(以下「被告車」という。)が被害車両に衝突する交通事故(以下「本件事故」という。)が発生し、これにより負傷した原告は、被告に対して民法七〇九条に基づき、損害賠償請求の訴えを提起した。

一  当事者間に争いのない事実

平成一八年七月二七日午後八時一〇分ころ、横浜市西区高島二丁目一九番三号先の丁字路交差点において、被害車両が国道一号線に左折で進入するために一時停止していたところ、被告車が被害車両の左後部に追突した。本件事故は、被告が前方の被害車両との間に必要な距離を保たず、漫然と進行して被害車両に追突したものであり、被告の過失により発生したものである。

二  原告の主張

本件事故により原告に発生した傷害及び損害は、別紙一記載のとおりである。

三  被告の主張

本件事故により原告に発生した傷害については不知、損害の発生については否認する。本件事故は、低速(時速五キロメートル以下)での追突であり、原告に重篤な傷害は、発生しない。治療期間が延びた原因は、原告が過去の勤務中に受けた傷害が影響している。

四  争点

損害の存否及び額

第三当裁判所の判断

一  治療費、通院交通費、装具器具費、文書料

甲第一六号証、第四号証から第八号証(各枝番を含む。)まで、第一一号証及び第一二号証並びに乙第五号証から第七号証までによれば、本件事故による治療費が合計三二万一七五〇円、通院交通費が合計一二万六三九〇円、装具器具費が三一五〇円、文書料が二万三〇〇〇円であることが認められ、これを左右するに足りる証拠はない。

二  休業損害

(1)  被告は、本件事故が被告車の低速(時速五キロメートル以下)での追突であり、原告に重篤な傷害は発生しないと主張する。

甲第一号証及び第二号証並びに被告本人尋問の結果によれば、被告は、別紙二の①地点(以下、別紙二上の各地点を「①地点」などという。)において、前を走る被害車両に追随して走行し、②地点で右方向を脇見し、③地点で被害車両に気付いてブレーキをかけると当時に衝突し(被告車と被害車両の接触部分が×地点)、④地点で停止した(その時の被害車両の位置がイ地点)ことが認められる。被告は、①地点から発進した際には、オートマティック車のブレーキを解除したのみで、アクセルは踏み込んでいないから、「コツンという程度」の弱い衝撃であると供述するが、甲第一号証によれば、①地点から③地点までは五・九メートルあり、この間を、オートマティック車のブレーキを解除したのみで、アクセルを踏み込まずに走行したとしても、時速一〇キロメートル程度まで加速され得ることは、経験則上明らかであるし、被害車両の運転者も同旨の供述(甲第二号証)をする。また、甲第一号証によれば、③地点から④地点まで〇・六メートル、×地点からイ地点まで一・〇メートルであるから、被害車両は衝突の衝撃により約一・〇メートル前方へ移動したことが認められる。これらの事実からすれば、本件事故は、被告車がオートマティック車のいわゆるクリープ現象のみで走行していたとしても、全くブレーキをかけない状態で衝突に至ったものであることが認められ、これによる衝撃は、被害車両に乗っている者に頚椎捻挫を生じさせるに十分である。したがって、被告の上記主張は、採用することはできない。

(2)  被告は、治療期間が延びた原因は、原告が過去の勤務中に受けた傷害が影響していると主張する。

乙第七号証(各枝番を含む。)によれば、原告は、本件事故前、乗務中の事故により、腰部挫傷、頚椎捻挫、腰椎捻挫等の傷害を負ったことが認められるが、原告本人尋問の結果によれば、本件事故前には、乗務に復帰していたことが認められ、上記傷害が本件事故による傷害の治療期間に影響を与えたとは認められない。

(3)  休業損害における休業期間は、交通事故により休業を余儀なくされ、現に休業した期間をもとに算定すべきである。甲第一三号証によれば、原告の勤務していた株式会社aでは、主治医の判断だけでなく、産業医の判断により乗務復帰の可否を判断していることが認められる。したがって、原告の休業期間は、主治医の治癒又は症状固定の判断ではなく、産業医の判断により乗務復帰が認められるまでの期間として算定されるべきである。甲第八号証及び第一五号証によれば、原告は、本件事故から平成二〇年一一月四日までの八三二日間は、休業を余儀なくされたことが認められる。

(4)  甲第九号証によれば、原告の平成一八年四月から六月までの給与収入額の平均は月額三九万八三九〇円であることが認められる。これを日額(一万三二八〇円)に換算し、原告が受けた給与の立替支給の額及び健康保険組合からの填補額を控除した上で、休業期間中の賞与減額分(甲第一五号証)を加えると、休業損害は、二六一万七三二五円と認められる。

収入日額

一三、二八〇

休業日数

八三二

単位額×日数

一一、〇四八、六八三

立替支給

-七一九、九五六

健康保険組合から填補

-八、五七〇、九〇〇

賞与減額分

八五九、四九九

休業損害額

二、六一七、三二五

三  傷害慰謝料

甲第五号証の四によれば、平成一八年九月二八日の時点で、医師が原告の症状について、その翌日から「復職は可能と思われます」と記載していることが認められる。前記二(3)のとおり、この時点では、原告は、まだ乗務復帰が可能と判断されていないが、それは休業期間についてであり、傷害慰謝料の算定においては、被害者が就いていた特定の職業への復帰ができなくても、一般的に治癒又は症状固定の状態にあると認められたときは、その時点までの通院期間をもとに、慰謝料を算定すべきである。したがって、原告の傷害慰謝料としては、四〇万円が相当である。

四  上記一から三までの合計額は、三四九万一六一五円となる。弁護士費用のうち、被告が負担すべき額は、三四万九一六二円が相当である。したがって、これらを合計すると、被告が賠償すべき額は、三八四万〇七七七円である。

請求額

認定額

治療費

321,750

321,750

通院交通費

126,390

126,390

装具器具費

3,150

3,150

文書料

23,000

23,000

休業損害

2,571,931

2,617,325

傷害慰謝料

1,880,000

400,000

損害合計

4,926,221

3,491,615

被害者過失(%)

0

0

過失相殺等後損害合計

4,926,221

3,491,615

既払額

0

0

賠償残額

4,926,221

3,491,615

弁護士費用

500,000

349,162

合計

5,426,221

3,840,777

五  以上によれば、原告の請求は主文掲記の限度で理由があり、その余の請求は理由がない。よって、原告の請求を一部認容し、その余の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 古閑裕二)

別紙一

傷害の内容等

一 傷害の内容

原告は、本件事故により、頚椎捻挫、左肩打撲、右足関節捻挫等の傷害を負った。(甲第四号証の一)

二 治療経過

原告は、上記傷害により、医師による治療を余儀なくされた。治療経過は以下のとおりである。

(1) 通院

① b病院(甲第四号証の一乃至二)

平成一八年七月二七日、二九日、同年一二月一日の三日間

② c整形外科(甲第五号証の一乃至六)

平成一八年七月三一日~平成一九年三月二四日まで

八七日間

③ 株式会社a健康管理室整形外科(甲第六号証の一乃至六)

平成一八年一〇月四日、同年一一月一日、同年一一月一五日、同年一二月六日、平成一九年一月一〇日、同年二月二八日、同年三月二八日

④ d整形外科(甲第七号証の一乃三)

平成一九年四月一三日~平成二〇年一一月四日まで

一七〇日間

三 症状固定の時期(甲第八号証)

(1) 症状固定日 平成二〇年一一月四日

損害

一 治療費関係

(1) 治療費等 三二万一七五〇円

被告は、自賠責保険に加入していなかったため、保険会社からの填補はなかった。

原告が自費で負担した部分は以上のとおりである。

(2) 通院関係費 一五万二五四〇円

・交通費 一二万六三九〇円

・文書作成費用 二万三〇〇〇円

・装具費用 三一五〇円

二 休業損害 二五七万一九三一円

(1) 原告は株式会社aに客室乗務員として勤務していたが、症状が固定し、再度飛行機への乗務が可能と判断されるまで、八二六日間の休業を余儀なくされた。

(2) 原告の本件事故直前三か月間の平均給与は金三九万八三九〇円であった。

よって、この期間の休業損害額は金39万8390円÷30×826日=金1096万9004円となる。(甲第九号証)

(3) ただ、上記休業損害の内、金七一万九九五六円は、すでに原告勤務先より立替支給されている。(甲第一〇号証の一乃至三)

また、上記休業損害の内、金八五七万〇九〇〇円については、原告勤務先健康保険組合から填補される予定である。

よって、原告の給与分についての実質的な損害額は金一六七万八一四八円である。

(4) 賞与として、平成一八年度冬分、平成一九年度夏冬分、平成二〇年度夏冬分、平成二一年度夏分のそれぞれ六回の支給を受けたが、休職中ということで半額の支給にとどまった。

賞与の減額分は、合計金八五万九四九九円である。

三 傷害慰謝料 一八八万円

原告は、症状固定日まで二七月の通院治療を行った。

よって、慰謝料は164万円+(164万円-162万円)×12月=188万円となる。

四 弁護士費用 五〇万円

五 合計 五三九万一九三七円

別紙二 交通事故現場見取図

<省略>

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