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横浜地方裁判所 平成21年(ワ)415号 判決 2011年12月08日

第一事件原告

(以下、単に「原告」という。)

横須賀市

同代表者市長

同訴訟代理人弁護士

土屋南男

大友秀夫

第二事件原告

(以下、単に「原告」という。)

三浦市

同代表者市長

同訴訟代理人弁護士

落合正令

同訴訟復代理人弁護士

三好充

深澤詩子

同指定代理人

門崎太

第一事件・第二事件被告

(以下、単に「被告」という。)

葉山町

同代表者町長

同訴訟代理人弁護士

岩橋宣隆

工藤昇

三枝重人

主文

一  被告は、原告横須賀市に対し、金三三〇万円及びこれに対する平成二一年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告三浦市に対し、金六五万円及びこれに対する平成二一年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告横須賀市に生じた費用と被告に生じた費用の一〇分の七との合計の一〇〇分の九七を原告横須賀市の、一〇〇分の三を被告の負担とし、原告三浦市に生じた費用と被告に生じた費用の一〇分の三との合計の二〇〇分の一九七を原告三浦市の、二〇〇分の三を被告の負担とする。

五  この判決は、第一、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告横須賀市に対し、金一億〇六四六万五九六九円及びこれに対する平成二一年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告三浦市に対し、金四一四三万一三四四円及びこれに対する平成二一年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、地方公共団体である原告ら及び被告が、ごみ処理広域化のために協議会を設立し、協議を続けていたところ、町長選挙において、ごみ処理広域化の見直しを公約の一つとしていた候補者が当選した被告が、上記のごみ処理広域化の取組みから離脱したことについて、原告らが、①被告の行為は、債務不履行(ごみの広域処理についての法的拘束力のある合意が成立したと認められる場合)又は契約締結上の過失(法的拘束力のある合意が成立したとまでは認められない場合)に該当し、いずれにせよ原告らに対する損害賠償義務を免れないところ、②原告らは、それぞれ、協議会に出向させた職員の人件費及び協議会の経費相当額の損害を被ったと主張して、被告に対し、原告横須賀市においては一億〇六四六万五九六九円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成二一年二月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を(第一事件)、原告三浦市においては四一四三万一三四四円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成二一年二月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を(第二事件)、それぞれ求める事案である。

一  前提事実

以下の事実は、当事者間に争いがないか、証拠上容易に認めることができる(証拠によって認めた事実は、認定事実の後に、その根拠となった証拠をかっこ書する。)。

(1)  原告横須賀市、鎌倉市、逗子市、原告三浦市及び被告によるごみ処理広域化の取組み

ア 平成九年一月二八日、厚生省(当時。以下同じ。)生活衛生局水道環境部長は、各都道府県知事に対し、「ごみ処理に係るダイオキシン類の削減対策について」と題する通知を行った。同通知は、都道府県知事に対し、平成九年一月に新たに策定された「ごみ処理に係るダイオキシン類発生防止等ガイドライン(以下「新ガイドライン」という。)」に基づき、ごみ処理に伴うダイオキシン類の排出を削減するための対策を推進するよう管下市町村を指導することを求めるものであり、指示事項の中には、都道府県が市町村と調整のうえ、ダイオキシン削減対策のため、ごみ処理の広域化について検討し、広域化計画を作成するとともに、計画に基づいて市町村を指導することが含まれていた。

イ 平成九年五月二八日、厚生省生活衛生局水道環境部環境整備課長は、各都道府県の一般廃棄物担当部(局)長に対し、「ごみ処理の広域化計画について」と題する通知を行った。同通知は、新ガイドラインに基づき、ごみ処理に伴うダイオキシン類の排出削減を図るため、各都道府県において、ごみ処理の広域化について検討し、広域化計画を策定するとともに、管下市町村を指導するよう求めるものであり、広域化計画策定に当たっては、市町村を広域ブロック化すること等を踏まえることとされた。

ウ 平成一〇年三月、神奈川県は、上記の国の方針に基づき「神奈川県ごみ処理広域化計画」を策定した。同計画では、各市町村の意向を踏まえ、県内の市町村を、横浜、川崎、横須賀三浦、湘南東、湘南西、大和高座、厚木愛甲、相模原津久井、県西の九つのブロックに分け、各ブロック内の市町村が共同で「広域化実施計画」を策定し、ごみ処理の広域化の実現をめざすものとされた。計画期間は、平成一〇年度から平成一九年度までの一〇か年とされた。

上記広域化実施計画の中で、横須賀市(原告)、三浦市(原告)、逗子市、鎌倉市、葉山町(被告)の四市一町(以下「四市一町」という。)は、「横須賀三浦ブロック」として、共同でごみ処理の広域化の実現を目指すものと位置づけられていた。そして、従来から四市一町で構成される「横須賀三浦地区広域処理対策研究会」において、広域的な処理・処分に関する検討が進められてきた経過があったことから、広域化の推進にあたっては、今後とも当該研究会と連携して検討を進めることとされた。

エ 平成一〇年七月二七日、四市一町を会員として、横須賀三浦ブロックごみ処理広域化協議会が設立された。同協議会の規約では、協議会の目的は、「神奈川県ごみ処理広域化計画」を踏まえ、横須賀三浦ブロックにおける「広域化実施計画(案)」を作成することとされ、その目的を達成するために、①広域処理に関する調査及び研究、②広域処理に関する関係機関との調整、③広域処理に関する先進事例の調査、④その他必要な事項を行うものとされた。

オ 平成一二年八月二八日、四市一町は、ごみ処理の広域化に関する組織について、①四市一町は、ごみ処理に関する事務を広域で処理するため、平成一四年四月一日、地方自治法(昭和二二年法律第六七号)第二八四条三項の規定に基づく広域連合を設立すること、②広域連合設立に向けて、平成一三年度に(仮称)広域連合設立準備協議会を組織することを内容とする合意を成立させた。

カ 平成一三年四月一日、四市一町は、横須賀三浦ブロックごみ処理広域化協議会を発展的に解消して、横須賀三浦ブロック広域連合設立準備協議会を設立した。同協議会の規約では、協議会は、横須賀三浦ブロック広域連合の設立に向けて設置されたもので、①広域連合設立に関する事務、②ごみの広域処理に関する調査を行うものとされた。

キ 平成一五年一二月、横須賀三浦ブロック広域連合設立準備協議会は、「横須賀三浦ブロックごみ処理広域化基本構想(素案)」と題する報告書を作成した。同報告書では、広域処理施設の配置及び施設整備時期について、焼却施設を横須賀市(処理対象区域は、横須賀市、三浦市及び葉山町。施設稼働時期は平成二二年度)と逗子市(処理対象区域は、鎌倉市及び逗子市。施設稼働時期は未定)に、不燃・不燃性粗大・非容器包装プラスチック選別施設を鎌倉市(施設稼働時期は平成二二年度)に、最終処分場を三浦市(施設稼働時期は平成二二年度)に、植木剪定枝資源化施設を葉山町(施設稼働時期は未定)に、生ごみ資源化施設を横須賀市(資源化方法はバイオガス化。処理対象区域は、横須賀市、三浦市及び葉山町。施設稼働時期は平成二二年度)と鎌倉市(資源化方法は未定。処理対象区域は、鎌倉市及び逗子市。施設稼働時期は未定)に、それぞれ設置する予定とされた。もっとも、同報告書には、広域処理施設の建設費用、維持管理費用の総額は具体的に明示されていなかった。

ク 平成一七年一二月二六日、横須賀三浦ブロック広域連合設立準備協議会調整会議(首長会議)が開催され、ごみ処理の広域化の方向性について、横須賀市、三浦市及び葉山町の二市一町(以下「二市一町」という。)と鎌倉市及び逗子市の二市の二グループ体制でごみ処理広域化を推進することが確認された。二市一町による広域化に向けた取り組みとして、広域化へのスケジュール(案)と題する資料が配布され、平成一八年度は、不燃ごみ及び植木剪定枝の資源化技術の検証、ごみ処理広域化基本計画(案)の作成、平成一九年度は、各市町に設置するごみ処理広域化基本計画(案)検討委員会の開催、同計画(案)のパブリックコメント及び住民説明会の実施、循環型社会形成推進地域計画の策定、平成二〇年度以降は、環境調査等を含む施設整備への対応、という予定が示されていた。

ケ 平成一七年、国は、循環型社会形成推進交付金制度を創設し、市町村等が広域的な地域について作成する「循環型社会形成推進基本計画」に基づき実施される事業の費用について、交付金を交付するものとした。対象市町村は、人口五万人以上又は面積四〇〇平方キロメートル以上の計画対象地域を構成するものに限ることとされていた。

コ 平成一八年三月八日、四市一町は、「ごみ処理広域化に関する四市一町合意事項」として、①横須賀市、鎌倉市、逗子市、三浦市及び葉山町は、横須賀市、三浦市及び葉山町の二市一町と鎌倉市及び逗子市の二市の二グループ体制で、当面のごみ処理広域化を推進するものとすること、②広域化を進めるにあたっては、横須賀三浦ブロックごみ処理広域化基本構想(素案)中間報告の考え方や今までの検討結果を踏まえ、グループごとに広域処理を行うものとすることを文書で合意した。

(2)  原告横須賀市、原告三浦市及び被告による協議の経過

ア 平成一八年一月から平成一九年三月までの経過

(ア) 平成一八年一月二五日、二市一町副市長・助役懇談会が開催され、二市一町ごみ処理広域化協議会規約(案)、二市一町による広域化に向けた取り組み、平成一八年度の二市一町の経費負担、不燃ごみ及び植木剪定枝の資源化技術の検証業務委託の概要、ごみ処理広域化基本計画(案)作成業務委託の概要等について了承された。

広域化に向けた取り組みとして、広域化へのスケジュールについては、平成一八年度に不燃ごみ及び植木剪定枝の資源化技術の検証及びごみ処理広域化基本計画(案)の作成を行い、平成一九年度に各市町に設置するごみ処理広域化基本計画(案)検討委員会の開催、同計画(案)のパブリックコメント及び住民説明会の実施及び循環型社会形成推進地域計画の策定を行い、平成二〇年度から、環境調査等を含めた施設整備への対応を行っていくこととされた。

(イ) 平成一八年二月一日、二市一町を会員として、二市一町ごみ処理広域化協議会(以下「本件協議会」という。)が設立された。協議会の規約には、協議会の行う事業は、ごみ処理の広域化に関する事務、その他必要な事項とすること(二条)、協議会の運営に関し協議の必要があるとき又は会員から求めがあったときは、会員による調整会議(助役会議、部長会議、課長会議の三種類)を開催すること(五条)、協議会の事務を行うため、横須賀市役所内に協議会事務局を置くこと(六条)、事務局の局員は、会員の職員をもって充てることとし、その内訳は、横須賀市職員四名、三浦市職員二名、葉山町職員一名とすること(七条)、協議会の経費の負担割合は均等割二〇%、人口割八〇%とすること(八条)などが定められた。

会員による調整会議のうち、課長会議はおよそ月一回程度、部長会議は年二回程度、副市長・助役会議は不定期に開催されていた。

(ウ) 平成一八年三月二九日、本件協議会の課長調整会議が開催され、事務局の経費、調査等委託事業の費用等を内容とした平成一八年度の本件協議会の予算案の協議が行われ、その後、二市一町の承認を受けた。

(エ) 平成一八年七月四日、本件協議会は、日本工営株式会社に対し、不燃ごみ及び植木剪定枝の資源化活用調査業務を、期間は同日から平成一八年一二月二八日まで、代金四五九万九〇〇〇円で委託した。その結果に基づき、平成一八年一二月、本件協議会は、不燃ごみ及び植木剪定枝資源化活用調査報告書を作成した。

(オ) 平成一八年八月一日、本件協議会は、日本工営株式会社に対し、ごみ処理広域化基本計画(案)作成業務を、期間は同日から平成一九年三月三〇日まで、代金四六七万二五〇〇円で委託した。その結果に基づき、平成一九年三月、本件協議会は、二市一町ごみ処理広域化基本計画(案)を作成した。

(カ) 平成一八年一一月二〇日、本件協議会の課長調整会議が開催された。同会議においては、四市一町での協議の際に作成された横須賀三浦ブロックごみ処理広域化基本構想(素案)の中で、被告は植木剪定枝資源化施設を担当するものとされていたが、二市一町によるごみ処理広域化を推進するためには、植木剪定枝資源化施設よりも必要性の高い不燃ごみ等選別施設を被告が担当することが必要であり、町議会にもその承認を得る必要があること、被告は、平成一八年一一月二八日のごみ問題特別委員会において、不燃ごみ等選別施設を受け持つ旨を表明したいと考えていること、不燃ごみ等選別施設を被告が担当した場合、植木剪定枝の取扱いをどうするかについては今後も検討が必要であり、状況を見極めながら植木剪定枝の資源化について検討することなどが確認された。

(キ) 平成一九年一月、原告横須賀市は、廃棄物関連施設の設備場所に係る調査報告書を作成し、施設整備候補地三か所について行った二次評価の結果を公表した。

(ク) 平成一九年二月一四日、本件協議会の課長調整会議が開催された。そこでは、二市一町での広域化における課題(広域処理の体制、費用等)について最終的な整理、ごみ処理広域化基本計画(案)の概要案についての調整が行われた。

(ケ) 平成一九年三月六日、本件協議会の副市長・助役調整会議が開催され、広域組織の設立については、原告三浦市及び被告からの申し入れのとおり、一部事務組合を設立することに原告横須賀市も同意すること、設立の確認をするため覚書を年度内に締結することが決定された。また、ごみ処理広域化基本計画(案)(以下「本件基本計画案」という。)が承認された。

本件基本計画案は、二市一町における当面のごみ処理広域化の基本的な方向性を示すために策定されたものであり、これを踏まえて広域処理施設整備計画の策定、施設の建設、広域処理の開始へと進むことが予定されていた。その内容は、次のとおりである。

a 広域処理を行うごみの種類は、可燃ごみ、不燃ごみ、粗大ごみとし、植木剪定枝を含め、それ以外のごみは各市町村が処理する。

b 広域処理の施設として、横須賀市に生ごみ資源化(バイオガス化の方法による)施設及び焼却施設を、三浦市に最終処分場を、葉山町に不燃ごみ等選別施設を設置する。各市町は、広域処理施設等の用地確保、中継施設の整備等を行う。

c 広域処理の体制として、ごみ処理の広域化事業の安定性、継続性などを勘案し、一部事務組合を設立する。

d 広域処理施設の処理能力については、ごみの減量化・資源化の効果や人口の変化を踏まえて、平成二八年度の広域処理の対象となるごみ量を合計一三万八一〇〇トンと推計した上で、各処理施設の規模を、生ごみ資源化施設は四四〇トン/日、焼却施設は三三〇トン/日、最終処分場は一三万八〇〇〇立方メートル、不燃ごみ等選別施設は五〇トン/五時間とする。施設の稼働目標時期は、生ごみ資源化施設及び焼却施設(横須賀市)はいずれも平成二八年度、最終処分場(三浦市)及び不燃ごみ等選別施設(葉山町)は、いずれも平成二五年度とする。

e 各広域処理施設の建設費用の合計は約三二〇億円、各施設の維持管理費の合計は年間約六・五億円となる。これらの費用の負担割合は、各市町が広域化のメリットを公平に受けられるよう均等割と搬入量割を組み合わせて設定する。なお、本件基本計画案の作成段階では、二〇%を均等割、八〇%を搬入量割とした場合の各市町の負担額の試算が示されたことがあった。

(コ) 平成一九年三月二九日、二市一町は、ごみ処理の広域化に関する組織について、①二市一町は、ごみ処理に関する事務を広域で処理するため、地方自治法(昭和二二年法律第六七号)第二八四条第二項の規定に基づく一部事務組合を設立すること、②一部事務組合の設立時期は、別途協議するものとすることを内容とする覚書(以下「本件覚書」という。)を締結した。

(サ) 平成一八年度、本件協議会は、上記(エ)、(オ)の委託代金、旅費、消耗品費、通信運搬費、機械等使用料、土地建物賃借料及び備品購入費等の経費の合計として、一一六四万六九二一円を支出した(預金利子一四七一円が充てられた部分を除く。)。経費負担割合は原告横須賀市七三・八%、原告三浦市一四・六%、被告一一・六%であった。

原告横須賀市は、環境部循環都市推進課広域処理担当の担当課長一名、主査三名、主任一名(これらのうち、四名が本件協議会の事務局員として出向していたことは争いがない。)の職員らに対し、それぞれ平成一八年度の給料、職員手当等の合計(他課応援業務分を除く)として、一一一九万九六一〇円、一〇四一万八一二三円、一〇六三万四二一七円、九一五万九一五七円、九二一万七九二〇円(合計五〇六二万九〇二七円)を支払った。

原告三浦市は、本件協議会の事務局員として出向していた環境部環境総務課ごみ処理広域化計画担当の担当課長二名(平成一九年二月一五日付けで異動により交替)、主査一名の職員らに対し、それぞれ平成一八年度の給与(協議会の事務に従事した分)として、八四〇万二七三六円、八四万〇八一五円、七九七万六八七五円(合計一七二二万〇四二六円)を支払った。

イ 平成一九年四月から平成二〇年一月までの経過

(ア) 二市一町は、平成一九年七月一〇日から同月三一日までの間、本件計画案につき、市民・町民の意見を募集する手続(パブリックコメント)をそれぞれ実施した。最終的な意見等の件数は、横須賀市二〇四件(二三人)、三浦市〇件、葉山町七五件(二五人)であった。

(イ) 平成一九年七月三一日、本件協議会の課長調整会議が開催された。同会議においては、パブリックコメントで住民から出された意見については、本件協議会と調整したうえで各市町が回答すること、八月中に交付金を申請するための地域計画の作成をとりまとめること、一部事務組合設立準備のため、施設候補地の決定及び費用負担の確定に向けて今後調整を図っていくこと等が確認された。

(ウ) 平成一九年一〇月二五日、横須賀市、鎌倉市、逗子市、三浦市、葉山町及び神奈川県の担当者による第一回横須賀三浦ブロックごみ処理連絡会議が開催され、ごみの広域処理に関する情報及び意見の交換が行われた。二市一町は、本件基本計画案についてパブリックコメントを実施したことを報告し、それに加えて、原告三浦市は、最終処分場に関し地元との話し合いを行っていること、被告は、不燃ごみ等選別施設の候補地を検討していることをそれぞれ報告した。鎌倉市及び逗子市は、平成一八年四月二四日に広域処理について協議をする旨の覚書を締結したが、具体的な進展はないこと、平成一九年度中に基本計画を策定したいが合意ができていないことなどを報告した。神奈川県は、横須賀ブロックの二市一町については方向性が見えてきている、広域化について支援をしていきたいと述べた。

(エ) 平成一九年一〇月三一日、本件協議会の課長調整会議が開催され、平成二〇年度における本件協議会の事業内容として、広域化推進プラン(案)(最終的に作成される広域施設建設の具体的内容を記載した広域計画と、本件基本計画案との中間に位置するもので、処理施設の候補地や負担割合等について記載したもの)の作成、一部事務組合の設立に向けた事務等が予定されていることが説明された。また、平成二〇年度の予算見積書案、二市一町の経費負担案についても説明がされた。広域ごみ処理の経費負担割合については、原告横須賀市が案を作成し、原告三浦市及び被告に提示し、二市一町で調整した上で、平成二〇年三月中には合意する予定とされた。

(オ) 平成一九年一一月一九日、本件協議会の課長調整会議が開催され、パブリックコメントの結果が横須賀市と葉山町で同年一一月三〇日に公表されること、本件計画案に修正点はないため、原案どおりの内容で二市一町ごみ処理広域化基本計画を策定すること等が確認された。

(カ) 平成一九年一一月二一日、本件協議会の部長・課長調整会議が開催され、二市一町ごみ処理広域化基本計画を原案どおり策定すること、広域処理実現に向けた各業務について、市町と広域の役割分担に関する基本的な方向性、平成二〇年度の協議会運営予算などについて確認がされるとともに、平成二一年度以降に一部事務組合の設立を図ることが確認された。

(キ) 平成一九年一二月一八日、二市一町は、環境省(関東地方環境事務所)及び神奈川県に対して、平成二〇年一月三〇日に開催される横須賀・三浦・葉山地域循環型社会形成推進協議会への関係職員の出席を要請した。

(ク) 平成二〇年一月八日、本件協議会の課長調整会議が開催され、循環型社会形成推進地域計画(案)の作成及び広域処理における負担割合について協議がされた。原告横須賀市は、広域処理の経費負担割合の考え方を資料で説明し、提案したところ、原告三浦市は、五%刻みではなく、より細かい刻みでの負担額の資料作成を求める旨の意見を述べ、被告は、均等割を含めることには賛成できない旨の意見を述べ、今後、負担割合について調整を行うこととされた。また、広域化基本計画案を正式な基本計画とすることについては、原告横須賀市は既に市長の決裁を得ていること、原告三浦市は政策会議を行い承認待ちとなっていること、被告は町長選挙による新町長の選出後に決裁を得る予定であることをそれぞれ説明した。

(ケ) 平成二〇年一月三〇日、二市一町は、神奈川県横須賀・三浦・葉山地域循環型社会形成推進地域計画(案)を作成し、そのころ、同計画案を環境省及び神奈川県に送付した。なお、二市一町は、国が同計画案を承認した場合には、国から循環型社会形成推進交付金の交付を受けることを予定していた。

(コ) 平成一九年度、本件協議会は、旅費、消耗品費、通信運搬費、機械器具使用料、土地建物賃借料及び備品購入費等の経費合計二一二万七九七〇円を支出した(神奈川県市町村振興協会からの助成金五七万九四九七円が充てられた部分を除く。)。平成一九年度の経費負担割合は原告横須賀市七三・八%、原告三浦市一四・五%、被告一一・七%であった。

原告横須賀市は、本件協議会の事務局員として出向していた環境部循環都市推進課広域処理担当の担当課長一名、主査二名、主任一名の職員らに対し、それぞれ平成一九年度の給料、職員手当等の合計として(他課応援業務分を除く)、一一二六万二五四〇円、一〇六九万九八四〇円、九七七万五八九八円、七一八万四一五七円(合計三八九二万二四三五円)を支払った。

原告三浦市は、本件協議会の事務局員として出向していた環境部環境総務課ごみ処理広域化計画担当の担当課長一名、主査一名の職員らに対し、それぞれ平成一九年度の給与として、九〇二万五八四〇円、七九六万五一一一円(合計一六九九万〇九五一円)を支払った。

(3)  被告の町長選挙及び被告が本件協議会から脱退した経緯

ア 平成一九年一一月二二日、被告のD町長が辞職を表明し、同年一二月に辞職した。平成二〇年一月二〇日に町長選挙が行われ、ごみ広域処理の見直しを公約の一つに掲げていたC(以下「C町長」という。)が当選し、同日、町長に就任した。

イ C町長は、町長就任後間もなく、平成二〇年一月三〇日に開催が予定されていた横須賀・三浦・葉山地域循環型社会形成推進協議会に被告職員を出席させないことを決定し、そのため、同協議会の開催は中止された。

ウ 平成二〇年二月八日、原告らは、各環境部長の連名で、被告の生活環境部長に対し、被告職員の出席ができなくなったことにより協議会が中止されたことは遺憾であること、これにより、平成一九年度内に、国の交付金対象となるための承認を受けることができず、平成二〇年度に計画していた広域処理事業の予算化及び執行に重大な影響が生じていること、両市環境部では、平成二〇年度の早い時期に循環型社会形成推進協議会を開催したいと考えているため協力を求めること等を内容とする文書を送付した。

エ C町長は、平成二〇年二月一二日、葉山町議会全員協議会で、本件覚書を破棄し、自区内処理を原則とすることとし、ごみ処理広域化を見直すという考えを表明し、同月二六日、葉山町議会(本会議)でも同様の考えを表明した。

オ 平成二〇年三月一四日、原告らは、連名で、被告に対し、本件基本計画案では、平成二八年度に横須賀市に生ごみバイオ・焼却施設を、平成二五年度に三浦市に最終処分場を、葉山町に不燃ごみ等選別施設をそれぞれ稼働させることを目標としており、早急にそのための事業を開始しなければならないと伝えるとともに、C町長は町議会で「自区内処理を原則とし、広域を見直す。」と発言したと聞き及んでいるが、平成一九年三月二九日に取り交わした二市一町広域組織設立についての覚書(本件覚書)の履行について、どのように対処するのかについて早急に回答するよう申し入れた。

これに対し、C町長は、平成二〇年三月二八日、横須賀市役所と三浦市役所をそれぞれ訪問したが、応対した各副市長から、問題を長引かせたくないので、五月の連休明けには回答を出してほしいと要望された。

カ 平成二〇年五月七日、C町長は、横須賀市役所と三浦市役所をそれぞれ訪問し、各副市長と面談し、二市一町によるごみ処理広域化からの離脱を表明した。同月一六日、被告は、原告らに対し、ごみ処理については、これまで進めていた二市一町ごみ処理広域化によらず、ごみの資源化、減量化を推進し、自区内処理を原則に町単独でごみ処理を実施していく考えであること、そのため、二市一町ごみ処理広域化から脱退するため、平成一九年三月二九日締結のごみ処理広域化に関する覚書(本件覚書)を見直すつもりであることなどを内容とする文書をそれぞれ送付した。

キ これを受けて、二市一町は、平成二〇年五月三一日付けで本件協議会を解散した。

(4)  その後の経過

ア 原告ら二市によるごみの広域処理に向けた協議等

(ア) 平成二〇年六月ころ、原告ら二市は、横須賀市三浦市ごみ処理広域化協議会を設立した。

(イ) 平成二〇年八月七日、原告横須賀市は、被告に対し、被告の本件協議会からの脱退決定により、これまでの二年間の事業が水泡に帰することとなり、原告横須賀市は、自らが負担した平成一八年度及び平成一九年度の協議会経費及び職員給与費の合計である一億〇六四六万五九六九円の損害を被ったとして、その賠償を求める書面を送付した。

同日、原告三浦市も、被告に対し、原告横須賀市と同様に、自らが負担した平成一八年度及び平成一九年度の協議会経費及び職員給与費の合計である四一五〇万四四五四円の損害の賠償を求める書面を送付した。

(ウ) 平成二〇年一二月一日、原告らは、相互にごみを共同処理するための基本方針について、次の内容による「横須賀市三浦市ごみ処理広域化に関する基本合意書」に基づく合意を成立させた。

a 横須賀市と三浦市が共同処理を行うごみの種類は、一般廃棄物である可燃ごみ、不燃ごみ及び粗大ごみとし、その内容は統一するものとする。

b 可燃ごみ、不燃ごみ及び粗大ごみの中間処理に係る共同処理施設の建設及び維持管理については横須賀市が、不燃ごみ及び粗大ごみの中間処理後の不燃性残さの最終処分に係る共同処理施設の建設及び維持管理については三浦市が担うものとする。

c 横須賀市と三浦市は、ごみの共同処理施設の建設及び大規模改修等に当たっては、これに要する経費の二三%を均等に、残る七七%をごみ量に応じて負担するものとする。また、ごみの共同処理施設の維持管理に要する経費については、ごみ量に応じて負担するものとする。なお、細目に関しては、別途協議の上、定めるものとする。

d 横須賀市と三浦市は、共同処理のため、地方自治法第二五二条の一四第一項の規定に基づく事務の委託を行うものとする。

e 共同処理の開始時期は、別途協議の上、定めるものとする。

(エ) 平成二一年一月、原告らは、横須賀市三浦市ごみ処理広域化基本計画(案)を策定した。その内容は、横須賀市に生ごみ資源化施設・焼却施設(最短で平成二九年度から稼働予定)及び不燃ごみ等選別施設(最短で平成二七年度から稼働予定)を、三浦市に最終処分場(最短で平成二七年度から稼働予定)を配置するというものであり、費用の負担に関しては、施設建設費については、均等割二三%、ごみ量割七七%、施設維持管理費については、ごみ量割一〇〇%とするというものであった。

(オ) 平成二一年三月、原告らは、横須賀市三浦市ごみ処理広域化基本計画を策定した。その内容は、上記基本計画(案)のとおりである。

(カ) 平成二一年四月一日、原告らは、地方自治法第二五二条の一四第一項に基づき、不燃ごみ残さの埋立処分施設の建設に関する事務のうち横須賀市が負担する部分を三浦市へ、可燃ごみ処理施設建設及び不燃ごみ処理施設の建設に関する事務のうち三浦市が負担する部分を横須賀市へ、相互に委託することを合意した。

(キ) 平成二一年五月、原告らは、「横須賀三浦ブロック(横須賀市・三浦市)ごみ処理広域化実施計画書」を作成した。

(ク) 平成二一年七月三一日、原告らは、「神奈川県 横須賀・三浦地域 循環型社会形成推進地域計画」を作成した。同計画は国の承認を受け、原告らは国から循環型社会形成推進交付金の交付を受けた。

(ケ) 平成二二年一月二八日、原告横須賀市は、ごみ処理広域化に当たり横須賀市が分担する可燃ごみ処理施設と不燃ごみ等選別施設の建設計画地を長坂五丁目に決定したこと、不燃ごみ等選別施設については平成二九年度から、可燃ごみ処理施設については平成三一年度からの稼働を目指して事業を進めることを発表した。

イ 被告のごみ処理政策の経過等

(ア) 平成二〇年六月、被告は、「葉山町ゼロ・ウェイストへの挑戦」と題する書面を作成、公表し、自区内から排出されるごみの処理について、脱焼却・脱埋立に向けて、ごみの資源化・減量化等を促進するという方針を公表した。

(イ) 平成二〇年一一月、被告は、「葉山町ゼロ・ウェイスト計画施策骨子(素案)」を作成し、ゼロ・ウェイスト計画の推進体制と実施計画等を定めた。

(ウ) 平成二一年度には、被告は、平成二三年度からのゼロ・ウェイスト施策本格導入に先立ち、モデル地区を選定して生ごみ自家処理の推進等を進めるとともに、複数回にわたりゼロ・ウェイストに関する説明会を実施するなどの広報活動を行った。

二  争点及びこれに対する当事者の主張

本件の争点は、①被告が本件協議会から離脱したことが債務不履行又は不法行為を構成するかどうか、②原告らに生じた損害額及び被告の行為との因果関係の有無、の二点であり、これらの点に関する当事者の主張は以下のとおりである。

(1)  争点①(被告の責任の有無)について

(原告横須賀市の主張)

ア 原告らと被告は、平成一八年二月一日、本件協議会の規約を締結し、平成一九年三月二九日、本件覚書を締結し、一部事務組合を設立する基本合意をしたのであるから、被告は、一部事務組合を設立する義務を負う。

仮に本件覚書の締結等が契約と評価できないとしても、原告らと被告は、被告が本件協議会から事実上脱退した平成二〇年一月時点において、本件基本計画案を作成し、これに基づき、ごみ処理広域化の実現のために財政面で不可欠な要素である、国の循環型社会形成推進交付金を受けるための神奈川県横須賀・三浦・葉山地域循環型社会形成推進地域計画(案)を作成し、神奈川県に提出していた。このように、二市一町による広域化計画は、単なる協議の段階にとどまるものではなく、国から交付金を受けるための詰めの段階に進んでおり、相互に他の自治体に対し法的拘束力が認められる程度に成熟していたのであるから、被告には、一部事務組合を設立する義務があった。

ところが、被告は、新町長の選挙公約という内部事情により、一部事務組合設立の基本合意を一方的に破棄するという信義則に反する行為をしたものであり、債務不履行責任又は不法行為責任を負う。

また、被告のC町長が、本件協議会から一方的な脱退を強行した行為は、公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えるものであるから、被告は、原告横須賀市に対し、国家賠償法一条一項による損害賠償責任を負う。

イ 被告は、二市一町が共同でごみ処理をすることの実現可能性が高かったとはいえないと主張する。しかし、ごみの広域処理は、平成一二年八月に四市一町が広域連合設立に関する覚書を締結して以来、既定の方針として協議が進められてきたものであって、四市一町が二市一町と二市に分かれたのも、生ごみ処理に対する取組方法や施設の稼働開始時期に対する考え方の相違によるものにすぎない。そして、平成一八年二月の本件協議会発足時において、二市一町は、いずれもごみ処理広域化を二市一町で進めることについて何の疑問も抱いていなかったものであるから、この時点で二市一町によるごみ処理広域化計画の実現可能性は高かったというべきであり、被告の上記主張は失当である。

ウ 被告は、本件覚書及び本件基本計画案は単なる大まかな方向性を示したものにすぎないと主張するが、本件覚書は、一部事務組合を設立することについての基本合意であり、被告は、これに基づき一部事務組合を設立する義務を負っていた。一部事務組合の設立時期については、協議の中で、平成二一年四月に行うと定められていた。本件基本計画案の内容についても、どの市町がどの施設を担当するか等が定められており、施設の場所については、各市町がそれぞれ検討中であり、住民説明会の実施も予定されていた上、計画案作成の過程で既に費用負担についての試算を行われているなど、既に十分具体的なものとなっていたといえ、単なる大まかな方向性を示したのにとどまるものではない。

エ 被告は、本件協議会からの脱退は住民の意思に基づくものであるから被告に責任はないと主張するが、地方公共団体相互の関係であるからといって、私人相互の場合と異なる取扱いをすべき理由はない。また、被告が依拠する最高裁昭和五六年判決は、住民自治の原則が地方公共団体の運営に関する基本原則であることを認めた上で、それは、地方公共団体が住民の意思に基づいて行動する限りその行動に何らの法的責任を伴わないことを意味するものではないと判示しているのであるから、選挙の結果であることを理由に責任を負わないという被告の主張は失当である。そもそも、被告の町長選挙の中心的な争点は、D前町長を支持するかどうかであり、ごみの広域処理は周辺的な争点にすぎなかったのであるから、C町長による政策変更が住民の意思に基づくものといえるかどうかは疑問がある。

(原告三浦市の主張)

ア 原告らと被告は、平成一九年三月二九日、本件覚書を締結し、一部事務組合を設立することを基本的に合意した。原告らと被告は、これにより、二市一町によるごみ処理広域化のため、互いに協力して、各市町で合意した施設の建設や分担金の支出、住民の理解を求め、必要な予算措置を講じるなど、それぞれ役割を果たし、国から交付金を受けて共同事業を行うべき債務を負った。ところが、被告は、平成二〇年一月三〇日開催の協議会に職員を派遣せず、協議会の開催を不可能にさせ、同年五月一六日、協議を行うことなく、一方的に一部事務組合から脱退し、二市一町によるごみ処理広域化計画の履行を不能にさせた。したがって、被告は、原告三浦市に対し、債務不履行責任を負う。

仮に本件覚書の締結を契約とは評価できないとしても、原告らと被告は、平成一八年二月一日、本件協議会を設立し、原告三浦市は、これに基づき、平成一八年度一般会計予算を成立させ、本件協議会は、本件基本計画案の作成や不燃ごみ等活用調査を委託するなどの一部事務組合設立のための準備行為をした。このような経緯からすると、原告らと被告は、本件協議会の規約を締結した時点で契約の準備段階に入り、その後の協議を経て、国から補助金の交付を受けようとする段階にまで至ったものであって、共同事業を遂行することに対する二市一町の信頼関係が構築されていたのであるから、原告らと被告の間には、既に、上記準備行為の段階から、誠実に契約の成立に努め、互いの信頼を害さないよう行動するべき信義則上の注意義務があった。ところが、被告は、上記注意義務に違反して一方的に本件協議会から脱退したのであるから、被告は、原告三浦市に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負う。

本件協議会からの脱退を決定した被告のC町長の行為は、不法行為に該当するので、被告は、原告三浦市に対し、不法行為責任及び国家賠償責任を負う。

イ 被告は、本件覚書は当事者を拘束するものではないと主張するが、本件協議会は、四市一町協議会を発展的に解消して設立されたものであり、二市一町は、本件協議会の規約を締結した後、本件基本計画案を作成して具体的役割分担を決め、それぞれ予算を成立させた上で、本件覚書を締結し、各市町でパブリックコメントを実施し、国から交付金を受けるのに必要な循環型社会形成推進地域計画(案)を策定するなどしており、各市町の役割や、一部事務組合が調整し、実行すべき具体的内容については、二市一町の間で議論され、合意されていたのであるから、被告の主張は失当である。

ウ 被告は、本件協議会からの脱退は、住民自治のもとでの政策転換によるものであると主張するが、原告らと被告との間では、ごみ処理広域化の共同事業の遂行に向けた信頼関係が形成されており、原告三浦市は現に多額の人件費等の経費を支出したのであるから、被告の突然の政策転換は、原告らの信頼を裏切るものであり、信義則及び禁反言の原則に反する。また、被告の町議会では、ごみ処理広域化の継続を求める陳情が採択されており、被告の政策転換が住民の意思に基づくものというには疑問がある。

(被告の主張)

ア 二市一町による本件協議会の設立や本件覚書の締結等の協議は、次に述べるとおり、被告が脱退した時点において、未だ当事者に一部事務組合の設立等の具体的義務を課すものではなく、二市一町によるごみ処理広域化の協議は、未だ費用負担、具体的なごみ処理施設の候補地等の重要な事柄が決定しておらず、それらの内容次第では、どの当事者も、二市一町によるごみの広域処理に参加しないという選択を行う余地は残されていた。本件覚書の締結は、契約と同視し得るものではなく、また、本件協議会からの離脱が信義則違反となるほどに、協議が具体的に進展していたともいえないから、被告は原告らに対し、債務不履行責任、不法行為責任、国家賠償責任のいずれの責任も負わない。

イ 本件協議会が設立された平成一八年二月一日の時点では、二市一町の間でごみ処理広域化の基本計画案すら策定されておらず、ごみ処理広域化の組織として、広域連合を設立するのか、一部事務組合を設立するのか、相互事務委託方式によるのかという点も確定していなかった。本件協議会は、あくまで、二市一町によるごみ処理広域化が可能であるかどうかを調査し、協議するための組織にすぎず、本件協議会の設立をもって、二市一町が共同でごみ処理にあたる実現可能性が高かったとはいえない。

ウ 本件覚書は、それまでの協議において、ごみ処理の広域化の組織として、原告横須賀市が相互事務委託方式を主張し、原告三浦市と被告が一部事務組合を設立する方式を主張していたところ、原告横須賀市が一部事務組合の設立に同意したため、そのことを明確にする趣旨で作成されたものに過ぎない。実際、平成一二年八月二八日、四市一町の間で、設立時期を明示した上で広域連合を設立するという覚書が締結されたが、四市一町での協議会が解散するにあたって、どの当事者も、損害賠償を請求する等の行動をとっていない。

エ 本件基本計画案は、あくまで大まかな全体の計画の骨子を示すものに過ぎず、ごみ処理施設の建設の時期及び場所、経費分担といった基本的な事項は決まっておらず、広域組織の設立時期すら、今後の課題であるとされていた。本件基本計画案は、検討や協議のためのたたき台に過ぎず、これによって、事業の具体的な内容が明らかになったとはいえず、計画案策定後、さらなる調査検討、議会の承認、具体的な内容を定めたごみ処理基本計画の策定、地質調査、環境アセスメント等を経た上で、施設を建設するという過程が必要であった。

このように、本件基本計画案が作成された時点では、これがたたき台として示され、本件覚書によって、広域処理が動き出した場合には、一部事務組合を設立するという大まかな方向性だけが示されていたに過ぎず、原告ら及び被告は、協議の結果、納得できなければ、二市一町によるごみ処理を行わないという選択肢があることを認識していたし、さらに、一部事務組合の設立には議会の承認が必要であるところ、実際に議会の承認が得られずに一部事務組合が設立できなかった事例もあることから、この時点で計画実現の可能性が高かったとはいえない。

オ 循環型社会形成推進地域計画(案)が作成された時点でさえも、二市一町では、施設候補地の調査すら行われておらず、費用の負担割合については、原告横須賀市から提案があったものの、合意に至るにはほど遠い状態であった。そして、本件基本計画案よりも具体的な内容を定めた広域化推進プランの策定については、具体的な策定の見通しも立っていなかったのであり、原告横須賀市、原告三浦市及び被告との間で法的拘束力がある程度に契約内容が具体化されていたとはいえない。パブリックコメントにおいても、被告の町民から、費用負担の面から広域化に反対との意見があり、被告は、費用負担の点で合意に至らない場合には、二市一町による広域化を行わないという可能性は十分にあった。

カ 地方公共団体は、住民の意思に基づいて施策を決定するという住民自治の原則に基づいて運営される。地方公共団体が継続的な施策を決定した場合でも、それが社会情勢等の変化に伴って変更されることがあることは当然である(最高裁昭和五六年一月二七日第三小法廷判決・民集三五巻一号三五頁参照)。ごみ処理の広域化は、地方公共団体間での政策協議に関わる事項であるから、各地方公共団体は、相互に相手方が住民自治の原則下にあり、将来的な施策の変更がなされる余地があることを十分に理解しながら協議を行っていくものである。被告は、事業計画が計画立案の準備段階であった状況下において、町長選挙における住民の選択の結果、政策を変更したものであり、被告に何ら義務違反はない。被告に損害賠償義務を負わせることは、住民自治の原則を揺るがすものであり、地方自治体間の共同事業の遂行が不可能になる。

(2)  争点②(損害及び因果関係)について

(原告横須賀市の主張)

原告らは、被告の本件協議会からの脱退により、改めて二市での協議を行うこととなり、二年間の本件協議会での協議の成果が無駄になり、以下のとおりの損害を被った。

ア 人件費 九六三〇万〇一〇一円

(ア) 平成一八年度 五一六三万六三七七円

原告横須賀市が、平成一八年度に本件協議会の事務局員として出向させた五名の職員に対して、協議会の事務に従事した対価として支払った人件費(給料等、共済事業主負担、公災負担金)の合計額

(イ) 平成一九年度 四四六六万三七二四円

事務局員四名分の人件費の合計額

イ 人件費についての予備的主張

仮に実際に事務に従事した職員の人件費そのものが損害と認められない場合には、予備的に①原告横須賀市の一般行政職職員の平均的な人件費(平成一八年度九二八万三四一三円、平成一九年度九一四万〇五七二円)を前提に、事務局員の出向人数及び期間から算出した合計額である七六七九万〇四一一円(平成一八年度四〇二二万八一二三円、平成一九年度三六五六万二二八八円)、これも認められない場合には、②原告横須賀市の一般行政職の新規採用者の人件費(平成一八年度三八七万八五一五円、平成一九年度三八八万六一〇六円)を前提に、事務局員の出向人数及び期間から算出した合計額である三二三五万一三二二円(平成一八年度一六八〇万六八九八円、平成一九年度一五五四万四四二四円)を損害として主張する。

ウ 本件協議会経費 一〇一六万五八六八円

(ア) 平成一八年度 八五九万五四二七円

平成一八年度の経費負担割合は原告横須賀市七三・八%、原告三浦市一四・六%、被告一一・六%であった。

(イ) 平成一九年度 一五七万〇四四一円

平成一九年度の経費負担割合は原告横須賀市七三・八%、原告三浦市一四・五%、被告一一・七%であった。

(原告三浦市の主張)

被告の本件協議会からの脱退により、原告三浦市は以下のとおりの損害を被った。たしかに、原告三浦市は、本件協議会の設立がなくとも、これらの職員に対し人件費を支払った可能性は高いが、出向職員がそれ以前に行っていた職務については、他の職員がその穴を埋めるために業務を行ったのであるから、損害がなかったとはいえない。

ア 人件費 三九四二万六八九〇円

(ア) 平成一八年度 一九八四万九八三三円

原告三浦市が、平成一八年度に本件協議会の事務局員として出向させた職員二名(途中に異動があったため実際は三名)に対して、協議会の事務に従事した対価として支払った人件費(給料等、共済事業主負担、公災負担金)の合計額

(イ) 平成一九年度 一九五七万七〇五七円

事務局員二名分の人件費の合計額

イ 本件協議会経費 二〇〇万四四五四円

(ア) 平成一八年度 一六九万五〇七一円

(イ) 平成一九年度 三〇万九三八三円

(被告の主張)

損害及び因果関係については争う。

原告横須賀市の平成一八年度の事務局員の人数は四人である。

本件協議会での協議の成果が、その後の原告ら二市による広域計画の進行に当たって役立ったのであるから、被告の脱退によって、本件協議会での協議が全て無駄になったとはいえない。

また、原告らは地方公共団体であり、仮に本件協議会に職員を出向させていなかったとしても、それにより、それらの職員に対する人件費の支払を免れることができたとはいえないから、原告らによる人件費の支払は、被告の脱退と因果関係のある損害とはいえない。

第三当裁判所の判断

一  争点①(被告の責任の有無)について

(1)  まず、二市一町による協議の経過を改めて整理すると、ごみ処理広域化に関する検討作業は、平成一〇年七月に、同年三月の神奈川県ごみ処理広域化計画の策定(神奈川県)を受けて、横須賀三浦ブロックごみ処理広域化協議会が設立されて以来、四市一町による調査検討作業が積み重ねられ(もっとも、四市一町は、それ以前から、横須賀三浦地区広域処理対策研究会において検討作業を行っていた。)、平成一五年一二月には、横須賀三浦ブロックごみ処理広域化基本構想(素案)が策定された。この素案には、広域処理を行う組織の具体的な形態や、施設の建設費用や維持費用の総額は明示されていなかったものの、各市町が設置すべき施設の内容と、多くの施設について稼働時期が明示されており、この段階で、四市一町によるごみ処理の基本的な方向性は定められたものということができる。

その後、広域処理に関する方法論の違いから、四市一町体制が二市一町と二市の二グループに分かれたものの、原告ら及び被告の二市一町は、四市一町体制時代に策定された上記素案や検討状況を踏まえてごみ処理広域化を進めていくこととし、平成一八年二月に本件協議会を設立した。本件協議会規約は、その事業を「ごみ処理の広域化に関する事務」とし、「ごみの広域処理に関する調査」を事業目的としていた横須賀三浦ブロック広域連合設立準備協議会規約(平成一三年)よりも一歩踏み出し、ごみの広域処理を行うことを既定の方針とした上で、その具体化を事業目的としていることが明らかである。実際、本件協議会ないし二市一町は、基本計画の策定作業を進めるとともに、平成一八年度中において、不燃ごみ及び植木剪定枝の資源化活用調査を委託したり(本件協議会)、廃棄物関連施設の設置場所に関する調査報告書を作成する(原告横須賀市)など、ごみの広域処理の実施に向けた具体的な作業を開始している。

これらの経緯を踏まえ、平成一九年三月には本件基本計画案が策定されたわけであるが、その中では、広域処理をする組織は一部事務組合とすること、広域処理の対象となるごみの種類、各市町が設置するごみ処理施設の内容と施設の目標稼働時期、各広域処理施設の建設費用及び維持管理費(いずれも合計額)、経費負担割合に関する基本的な考え方などが具体的に示されており、これによって、二市一町によるごみ広域処理の骨格となる具体的内容が定められたと評価することができる。そして、原告ら及び被告は、本件基本計画案を了承した上で、ごみ処理広域化に関する組織として一部事務組合を設立する旨の覚書(本件覚書)をも作成しているのである。

その後、原告ら及び被告は、平成一九年度中に、パブリックコメントの実施、本件基本計画案どおりの内容で正式な基本計画を確定することの確認、国から循環型社会形成推進交付金の交付を受けるための準備、経費負担割合に関する協議等、ごみの広域処理を実現するための具体的な作業を進めていったものである。

このような経緯を振り返ってみると、原告ら及び被告の二市一町は、本件協議会が設立された平成一八年二月から、二市一町体制でごみの広域処理を実施することを既定の方針としてこれを実現するための作業を行ってきたものであって、その間、広域処理の実施そのものについて深刻な疑問が提起された形跡も見当たらないのであるから、被告における町長交代という事情がなければ、そのまま二市一町による広域処理が実現していた可能性は非常に高いものと考えられる。これを法的観点からみるならば、遅くとも本件基本計画案が策定された平成一九年三月には、二市一町によって一部事務組合の形によるごみの広域処理を行う旨の法的拘束力のある合意が成立したものというべきである。また、それに先立つ平成一八年二月(本件協議会の設立)の時点においても、二市一町が、それぞれ、もはやごみ処理の広域化は既定の方針となったと信頼することが当然といえるような関係が成立していたものといえるから、各市町は、ごみ処理の広域化実現に向けて誠実に取り組むべき信義則上の義務を負うに至ったというべきである。

ところが、被告は、例えば、ごみ処理施設建設の実現可能性について深刻な問題が生じたとか、処理経費の負担割合について深刻な対立が生じたなどごみの広域処理の実現可能性について現実的かつ深刻な問題が生じた形跡が認められないにもかかわらず、いわゆる「ゼロ・ウェイスト政策」を掲げた町長が当選したというという一事をもってそれまでの方針を変更し、平成二〇年一月三〇日に予定されていた横須賀・三浦・葉山地域循環型社会形成推進協議会に被告の職員を出席させないという挙に及び、町議会等でごみ処理広域化の見直しを表明し、原告らとの間で何ら実質的な協議を行うことなく、同年五月に、二市一町によるごみ処理広域化から一方的に離脱を表明したものであって、このような被告の対応は、法的拘束力のある合意に基づく義務に違反し(債務不履行)、あるいは信義則上の義務に違反したもの(不法行為)と評価されてもやむを得ないものというべきである。

(2)  被告は、本件基本計画案の策定や本件覚書作成時はもとより、循環型社会形成推進地域計画(案)の作成段階(平成二〇年一月)においてさえも、ごみの広域処理計画は具体化されていたとはいえないのであるから、法的拘束力のある合意が成立していたとはいえないなどと主張するが、原告ら及び被告の間には、平成一八年二月の時点で、ごみの広域処理実現に向けて誠実に取り組むべき信義則上の義務が認められる程度の信頼関係が形成され、平成一九年三月の時点では、共同でごみの広域処理を実現するという法的拘束力のある合意が成立したと認められることは既に説示したとおりである。

たしかに、平成一八年二月の時点はもとより、平成一九年三月の時点でも、ごみ処理施設の設置場所や稼働時期や、一部事務組合の設立時期が確定していたわけではなく、処理費用の具体的な負担割合も確定していないなど不確定要素があり、理論的な可能性としては、例えばごみ処理施設の設置場所や費用の負担割合等を巡って深刻な問題が生じる可能性は残っていたものであるが、少なくとも本件の経過をみる限り、それらの問題が現実の深刻な問題として浮上していたことを認めるに足りる証拠はないし、被告の離脱も、それを理由とするものであったとは認められないのであるから、このような一般的抽象的可能性を理由として、合意等の成立を否定するのは相当ではない。

(3)  被告は、四市一町が平成一二年八月二八日に締結した覚書には、「広域連合を設立する。」と記載されているが、四市一町による協議会が解散した際、当事者間で債務不履行に基づく損害賠償を請求する問題は生じなかったのであり、このことは、同様の文言が記載されている本件覚書が当事者間に法的拘束力を負わせるものでないことを裏付けるものであると主張する。

しかし、四市一町体制から二市一町及び二市の二グループ体制への変更は、従来の方針の軌道修正にすぎず、当初の合意に違反するものと評価できるのかどうかは疑問があるし、実際に損害賠償がされたかどうかと法律上債務不履行等があったかどうかは別の事柄なのであるから、被告の主張は、そもそも根拠薄弱といわざるを得ないが、この点を措くとしても、その主張は失当である。すなわち、四市一町の覚書が締結された時点では、未だ基本構想すら作成されていなかった(前提事実(1)オ)のに対し、本件覚書は、八年以上に及ぶ協議の結果を踏まえたものであり、各覚書が締結された時点でのごみ処理広域化に関する進捗状況は異なっていたのであるから、覚書の文言が同様であることや、四市一町による協議会が解散した際に損害賠償の問題が生じなかったことは、本件覚書の法的拘束力を否定する根拠とはならないのである。

(4)  被告は、事業計画が単に計画立案の準備段階にあった状況下において、被告は町長選挙による住民の選択の結果、従前の政策を変更し、二市一町での広域ごみ処理から脱退したのであるから、被告に義務違反はないと主張する。

しかし、上記(1)で説示したとおり、本件覚書は長期間に及ぶ協議の結果を踏まえたものであり、被告が二市一町によるごみ処理広域化から離脱した時点において、ごみ処理広域化に向けての作業は相当程度進捗していたのであるから、単なる計画の準備段階における離脱にすぎないとする被告の主張は前提を欠くといわざるを得ない。また、地方公共団体の施策を住民の意思に基づいて行うべきものとするいわゆる住民自治の原則は、地方公共団体の組織及び運営に関する基本原則であるものの、この原則の存在を理由に、地方自治体が、いったん負った法的義務を免れることができると解すべき根拠は見当たらない(そのようなことを定めた法律の規定は見当たらないし、最高裁昭和五六年一月二七日第三小法廷判決も、そのような考え方に立っているものではないことは明らかである。)。したがって、被告の主張は、いずれにせよ失当である。

二  争点②(損害及び因果関係)について

(1)  原告らは、それぞれ、本件協議会における二年間にわたる協議が無駄になったと主張する。

しかし、前提事実(4)ア(ア)ないし(ケ)認定のとおり、原告らは、本件協議会を解散した後、原告ら二市で新たに協議会を設立したこと、ごみ処理広域化に関する基本合意書を締結したこと、ごみ処理広域化基本計画を作成したこと、循環型社会形成推進地域計画を作成し、国から交付金の交付を受けるに至ったことが認められる。

そして、原告ら二市が作成したごみ処理広域化基本計画は、本件基本計画案と比較すると、計画案全体の構成はほとんど変わらず、記載内容についても、葉山町に配置することとしていた不燃ごみ等選別施設を横須賀市に配置することになった点、費用の負担について明示している点や、将来人口推計、広域処理対象のごみ量の推計などの基礎的な数値が若干異なることを除き、顕著な違いは見られず、原告ら二市で作成した上記基本計画は、二市一町での協議の成果とは関係なく新たに策定したものであると評価することはできない(たとえば、植木剪定枝については、本件基本計画案と同様に、原告ら二市の基本計画においても、広域処理の対象とされていないが、E証人は、本件協議会で委託した植木剪定枝の資源化調査の結果を一部利用したと供述する。)。

また、原告ら二市が作成した循環型社会形成推進地域計画と、二市一町が作成した循環型社会形成推進地域計画とを比較しても、構成はほとんど同一であり、内容についても、被告が脱退したことに伴う文言の修正がされたことを除き、顕著な違いは見られない。

したがって、原告ら二市の協議においては、本件協議会での協議の成果が相当程度活用されたことが認められ、本件協議会での二年間の協議が全て無駄になったという原告らの主張を採用することはできない。以下においては、これを前提に原告ら主張の個別の損害の発生の有無について検討する。

(2)  人件費について

上記(1)認定のとおり、原告ら二市の協議において、本件協議会での協議の成果が相当程度活用されたといえることに加えて、原告らがそれぞれ本件協議会の事務局員として出向させた職員はいずれも原告らそれぞれの常勤職員であり(前提事実(2)ア(サ)、(2)イ(コ))、当該期間中、本件協議会の事務局員として出向させたかどうかにかかわらず、給与を支払わなければならなかったこと、原告らがそれぞれ本件協議会の事務局員として職員を出向させたことによる人員不足に対応するために出向期間中に限り非常勤職員を採用して人員を補充した事情も見受けられないことを併せ考えれば、原告らがそれぞれ本件協議会の事務局員に支払った給与等の人件費は、被告の債務不履行又は不法行為と相当因果関係のある損害と認めることはできない。また、このような考え方に照らすと、原告らが、被告の債務不履行又は不法行為により、それぞれ全職員の平均人件費相当額又は新規採用職員の人件費相当額の損害を被ったと認めることもできない。

(3)  協議会経費について

前提事実(4)ア(ア)ないし(ケ)及び上記(1)認定のとおり、原告ら二市の協議においては、本件協議会での協議の成果をそのまま引き継いだわけではなく、原告らは、新たに二市での協議会を設立し、協議を経たうえで、ごみ処理広域化基本計画や循環型社会形成促進地域計画の作成、当初は葉山町に設置することが予定されていた不燃ごみ等選別施設の候補地の選定等を行ったことが認められ、原告らが二市での協議を行うため追加経費を支出せざるを得なくなったことが容易に推察されるから、この点をとらえれば、協議会経費の一部が無駄になったということができ、これは被告の債務不履行又は不法行為と相当因果関係のある損害と評価することができる。

本件協議会の事務経費等は、平成一八年度が一一六四万六九二一円、平成一九年度が二一二万七九七〇円であり、負担割合は、原告横須賀市が両年度とも七三・八%、原告三浦市が平成一八年度は一四・六%、平成一九年度が一四・五%であったから(前提事実(2)ア(サ)、(2)イ(コ))、原告横須賀市の負担額は一〇一六万五八六九円、原告三浦市の負担額は二〇〇万九〇〇六円と算定されるところ、上記で述べた事情その他本件に現れた諸事情を考慮すると、被告の債務不履行又は不法行為と相当因果関係のある損害額は、原告らが負担した各経費額の三分の一程度と認めるのが相当である。そうすると、原告横須賀市が被った損害額は三三〇万円、原告三浦市が被った損害額は六五万円と認めるのが相当である。

第四結論

以上の次第で、原告横須賀市の請求は、三三〇万円及びこれに対する平成二一年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で、原告三浦市の請求は、六五万円及びこれに対する平成二一年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから認容し、原告らのその余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条を、仮執行の宣言につき同法二五九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鶴岡稔彦 裁判官 龍見昇 堂英洋)

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