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横浜地方裁判所 平成21年(ワ)5052号 判決 2012年4月26日

第一事件・第二事件原告

X1 他1名

第一事件被告

Y1

第二事件被告

Y2

主文

一  被告Y1及び被告Y2は連帯して、原告X1に対し、金一〇五四万九六六二円及びこれに対する平成二一年八月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告Y1及び被告Y2は連帯して、原告X2に対し、金一〇五四万九六六二円及びこれに対する平成二一年八月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告X1及び原告X2のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告X1及び原告X2の連帯負担とし、その余を被告Y1及び被告Y2の連帯負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告Y1及び被告Y2は連帯して、原告X1に対し、二五八二万三五四八円及び内二一八六万二九七二円に対する平成一九年五月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告Y1及び被告Y2は連帯して、原告X2に対し、二五八二万三五四八円及び内二一八六万二九七二円に対する平成一九年五月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  事案の骨子

本件は、バイク運転中の交通事故(以下「本件事故」という。)により死亡したA(以下「A」という。)の父母である原告X1及び原告X2(以下両名併せて「原告ら」という。)が、相手方の自動車二台の各運転者であった被告Y1及び被告Y2(以下両名併せて「被告ら」という。)に対し、共同不法行為に基づき、連帯して損害賠償金を支払うよう請求した事案である(第三回口頭弁論調書)。

二  前提事実

以下の事実は、当事者間に争いがないか、括弧書きで付記する書証及び弁論の全趣旨により容易に認定することができるので、これを「前提事実」ということにする。

(1)  本件事故

ア 平成一九年五月一八日午後三時頃、横浜市都筑区池辺町三三二八番地の信号機の設置されていない交差点(以下「本件交差点」という。)において、次の各車両を当事者とする交通事故が発生した(甲一)。

(ア) A運転の自家用原動機付自転車(以下「原告バイク」という。)

(イ) 被告Y1運転の自家用普通乗用自動車(以下「被告乗用車」という。)

(ウ) 被告Y2運転の自家用普通貨物自動車(以下「被告トラック」という。)

イ 本件事故は、Aが本件交差点を原告バイクで直進中に、反対側から右折してきた被告乗用車と接触し、進行方向左前方に停車していた被告トラックに衝突したというものである。

ウ 本件交差点の形状は、別紙「交通事故現場見取図」(乙一。以下「別紙見取図」という、)のとおりである。現場道路は、最高速度が時速五〇キロメートルで、駐車禁止と神奈川県公安委員会により指定されている(乙二)。

(2)  Aの死亡

ア A(昭和五一年○月○日生)は、本件事故により右気管損傷、両肺挫傷、右下腿骨開放骨折の傷害を負い、昭和大学藤が丘病院に搬送され、同骨折に対し手術(観血的整復術)を受けたが、本件事故の九日後である平成一九年五月二七日、右気管損傷、両肺挫傷を直接死因として死亡した。当時三〇歳であった(甲二)。

イ Aは独身であり、原告らはその父母であって他に法定相続人はおらず(甲三の一・二)、法定相続分は各二分の一である。

(3)  一部弁済

ア Aは通勤災害と認定され、原告らは労災保険から次の各支払を受けることとなった(遺族特別年金及び遺族特別一時金は除く。)。

(ア) 葬祭給付

平成二〇年一一月五日に六〇万九七五〇円の支払を受けた(甲五の二、甲九)。

(イ) 遺族年金

a 平成二〇年一二月一五日を第一回として、平成二一年八月一四日まで、年額一二〇万二五八〇円の支払を受けた(甲五の一、甲九。なお、甲九によれば、平成二〇年一二月一五日に支払を受けたのは当初の一年六か月分であり、その後は二か月分ずつ、平成二一年二月一三日、四月一五日、六月一五日、八月一四日に支払を受けた。)。

b 平成二一年八月、一九七万四八二五円に変更された(甲一七の二)。

c 平成二二年八月、一九三万五四二九円に変更された(甲一七の二)。

d 平成二三年八月、一九五万五一二七円に変更された(甲一八)。

イ 原告らは、自賠責保険から、平成二一年八月三日、二六九九万四八四〇円(三〇〇〇万円から上記ア(ア)の内六〇万円及び同(イ)aの当初二年分の二四〇万五一六〇円を控除した額)の支払を受けた(甲四の一・二)。

ウ なお、原告らは、厚生年金として、老齢厚生年金の支給は受けているが(甲二〇)、遺族年金の支給は受けていない(横浜西年金事務所に対する調査嘱託の結果=甲一九の一~三、甲二〇)。

三  争点(各当事者の主張の要旨)

(1)  事故態様・過失割合等

ア 原告らの主張

(ア) Aは、本件交差点を原告バイクで直進中、反対側から右折してきた被告乗用車に衝突されて左に飛ばされ、進行方向左前方に停車していた被告トラックに衝突した。

(イ) 被告Y1は、本件交差点において右折する際に、前方注視義務を怠った過失があり、また一時停止を怠った。被告Y1は、対向車線は渋滞していたが、中央寄り車線の自動車が、通行できるように間隔を空けて停止したので、慌てて抜けようとして発進して原告バイクに衝突させたものである。したがって、本件事故の過失割合は、原告・一〇%、被告Y1・九〇%とするのが相当である。

(ウ) 被告Y2は、本件交差点において違法駐車していた過失がある。被告トラックが駐車していなければ、Aは傷害にとどまり、死亡は避けられた。交差点付近での駐車が禁止されているのは、そこに駐車すれば交通事故発生の危険性が高くなるからである。そこでまさに衝突事故が発生したのであるから、被告Y2には予見可能性が存在したとみるべきである。

(エ) 被告Y1及び被告Y2の行為は共同不法行為であり、原告らは、連帯して損害賠償金の支払を求める。

イ 被告Y1の主張

(ア) 本件事故は、A側の二車線道路が渋滞中であったところ、本件交差点にて、原告バイクの反対車線より右折しようと待機していた被告乗用車を見た訴外車両が停止して進路を空けてくれたため、被告Y1がこれに従って徐行により前進し、再度安全確認をしようと停止する直前、折しも第一車線渋滞中の自動車の左横をすり抜けて走行してきた原告バイクが被告乗用車の前部と接触し、バランスを崩しながらそのまま前進し、被告トラック後部に激しく衝突した結果、Aが重傷を負い、後に死亡したというものである。そうであれば、基本的な過失割合は、別冊判例タイムズ一六号【一六八】により、A・三〇:被告Y1・七〇となる。

また、Aに前方不注視があったことは明白であり、減速等せず、渋滞中の自動車の脇をぬって本件交差点に突入したことからすれば、A側に+二〇程度の修正が加えられなくてはならない。以上から、過失割合は五〇:五〇である。

(イ) そして、被告Y2にも本件事故について過失責任がある。

道路交通法四四条は、交差点等から五メートル以内については、明確に駐車・停車を禁じており、これは交差点付近に駐停車することは事故が発生する危険性を高めるからにほかならない。とすれば、本件事故でも、被告Y2に死亡事故を含む重大な交通事故が惹起する予見可能性はあったことが明らかである。

三者間の事故においては絶対的過失割合を認定することができ、本件事故については、A・四〇:被告Y1・四〇:被告Y2・二〇と考えるべきである。

ウ 被告Y2の主張

(ア) 本件事故の態様は、Aが被告乗用車に衝突されて左に飛ばされたものではなく、停止状態に近い被告乗用車と原告バイクが接触し、原告バイクがよろめきながら左斜め前に滑走し、被告トラックに衝突したものである。

(イ) 被告Y2には、本件事故による損害の発生につき予見可能性はなく、過失は認められない。本件事故は、被告Y2の駐車行為とは全く関係ないところで発生しており、被告Y2の全く関与しない接触事故を原因として、制御不能となって走行してきた原告バイクの進行先に、たまたま被告トラックが駐車していただけのことである。

なお、本件事故により原告バイクは転倒して滑走し、Aは被告トラックの下にもぐりこんで死亡しているが、もぐりこんだ際の衝撃から、原告バイクは相当な速度で走行していたことが推測される。Aは最終的に被告トラックの下に滑り込むような形になって気管損傷・肺挫傷で死亡しており、被告乗用車との接触によって致命傷を負っていたとまでは認められない。しかし、被告トラックがその場に停車していなかったとしても、Aは店舗の壁、自動販売機、他の駐車車両等に衝突して死亡していた可能性が極めて高いことから、被告Y2の駐車行為とAの死亡との因果関係自体も認められない。

(ウ) 被告Y2は何ら不法行為責任を負うものではないが、念のために述べれば、被告Y1のAに対する責任を考えるに当たっては、Aに少なくとも五〇%の過失割合を認めるのが相当である。

すなわち、本件事故態様には別冊判例タイムズ一六号【一六八】が適用され、Aと被告Y1の基本過失割合は三〇:七〇となるところ、①原告バイクは本件事故時にかなりの速度が出ていたと推測されること、②Aは走行時に両肩に二つの鞄を斜めに掛けており、安全走行に支障があったこと等の事情をA側の著しい過失として、二割の加重修正を行うのが相当である。

(2)  損害額

ア 原告らの主張

(ア) 慰謝料

二五〇〇万円が相当である。

(イ) 逸失利益

a Aは本件事故当時三〇歳であったから、ライプニッツ係数は一六・七一一三である。

独身であったので生活費控除率は三〇%である。

b 収入は、賃金センサス女性平均を採用すれば年間三六〇万九七〇〇円である。

360万9700円×(1-0.3)×16.7113=4222万5945円

c Aの実収入は、平成一九年一月一日から本件事故日である同年五月一八日までの収入が一七八万六四六一円であったので、日割計算によって年収に換算すると四七二万五〇五九円であった。

472万5059円×(1-0.3)×16.7113=5527万3314円

(ウ) 葬儀費用

一五〇万円が相当である。

(エ) 弁護士費用

五〇〇万円が相当である。

(オ) 確定遅延損害金

前提事実(3)イの自賠責保険金の支払日(平成二一年八月三日)までの確定遅延損害金は、九三四万〇二七五円である。

イ 被告Y1の主張

(ア) 慰謝料

二〇〇〇万円が相当である。

(イ) 逸失利益

a 仮に賃金センサスの全年齢平均賃金を採用すれば、次の計算となる。

346万8800円×(1-0.3)×16.7113=4057万7710円

b なお、原告らの主張の上記ア(イ)のbからcへの変更については、時機に後れた攻撃防御方法として、却下されるべきである。

また、平成一九年の収入一七八万六四六一円は六か月分の給料であり、原告らの主張する日割計算には明らかな誤りがある。

(ウ) 葬儀費用

原告らの主張を認める。

(エ) 弁護士費用

過失相殺及び損益相殺後の残額の一割程度とすべきである。

ウ 被告Y2の主張

(ア) 慰謝料

原告らがAから相続した慰謝料及び固有の慰謝料を合わせて二二〇〇万円を超えるものではない。

(イ) 逸失利益

本件事故前の現実収入を基礎収入とすべきである。生活費控除率は三〇%が相当である。また、上記イ(イ)bの被告Y1の主張を援用する。

(ウ) 葬儀費用

争う。

(エ) 弁護士費用

争う。

(3)  損益相殺

ア 被告Y1の主張

自賠責保険金のほか、労災の遺族年金及び葬祭給付が損益相殺の対象となる。

イ 被告Y2の主張

損益相殺の対象となる労災支給金額は、九九七万四四五九円である。

ウ 原告らの主張

損益相殺の対象となる労災給付は四二四万三二三九円、自賠責保険金は二六九九万四八四〇円である。

四  証拠調べ

原告X1及び被告Y1の各本人尋問を行った。

以下、原告X1の陳述書(甲七、一五)及び本人尋問の結果を併せて「原告X1供述」といい、被告Y1の供述調書(乙三)、陳述書(乙五)及び本人尋問の結果を併せて「被告Y1供述」という。

なお、被告Y2のものと認められる供述調書(乙四)の内容を「被告Y2供述」という。

第三判断

一  争点(1)について

(1)  事故態様について

前提事実(1)に加えて、実況見分調書(乙一、二)、被告Y1供述及び被告Y2供述を総合すると、以下の事実が認められる。

ア 本件事故当時、別紙見取図(以下、図中の記号については○を【 】で代用する。)の左方から右方への道路は、二車線とも渋滞していた。

イ 被告Y2は、被告トラックを運転して別紙見取図の左方から右方へ進行してきて、本件交差点を過ぎた直後、被告トラックを歩道に乗り上げ路側帯にまたがる位置に駐車し、降車して自動販売機で缶コーヒーを買った。そして、被告トラックに戻り、車道に進出するため一旦バックさせて停車した(乙二の写真②③)。

ウ 被告Y1は、被告乗用車を運転して別紙見取図の右方から左方へ進行してきて、本件交差点を右折するため右折レーンに入った。そして、【1】で一旦停止し、右折の合図をし、対向車両が【A】の位置で止まってくれたので発進した。その後、【2】まで進んで停止し、対向車両が【甲】の位置で停止したのを見て【3】まで進み、同車両の歩道側のバイクが通れるくらいの隙間の状況を確認するため再び停止しようとした。

エ 折から、Aは、原告バイクを運転し、両肩に二個の鞄を斜め掛けし、別紙見取図の左方から右方へ車道の最も左寄り付近を制限速度以下で進行してきて、本件交差点に差し掛かった。しかし、そのまま直進した場合の進路上には、本件交差点を超えてすぐの場所に被告トラックがいたため、進路を少し右斜め前方に変えて進行した。

オ 被告Y1は、【4】まで進んで停止しかけた時、【甲】の位置の対向車両の歩道側の【ア】の位置に原告バイクを発見し、危険を感じたものの、もはや衝突を回避することができず、【×1】の地点で原告バイクに被告乗用車の前部を衝突させた。

カ 原告バイクは被告乗用車に右側から衝突されて主に右側面部を損傷し、Aも右下腿に受傷した。そして、バランスを崩し、左に傾いて左斜め前方に滑走し、被告トラックに【×2】の地点で衝突するとともに、転倒した原告バイクとAの上半身が被告トラックの下に入り込んで挟まれる形になった。

キ 被告Y1と被告Y2はそれぞれ降車し、被告トラックの下からAを助け出そうとしたが、Aが被っていたヘルメットが被告トラックの後ろに付いていたスペアタイヤやナンバープレートに引っ掛かったような状態になり、被告トラックを動かさないと助け出すことができなかった。

(2)  被告Y2の責任について

上記(1)によれば、本件事故については、以下のとおり被告Y2にも過失責任が認められる。

ア 本件事故の現場道路は、駐車禁止と指定されていた(前提事実(1)ウ)。また、道路交通法四四条二号は、車両は、交差点の側端から五メートル以内の部分において、停車し、又は駐車してはならないと規定している。

被告トラックの駐停車は、これらに明らかに違反するものであった。

そして、法が上記のような部分における駐停車を禁止しているのは、一般に交差点における交通事故の危険を増大させるからにほかならない。

イ 被告Y2は、渋滞のために被告トラックを停車させていたわけではなく、降車して缶コーヒーを買うために駐車していたものであり、その場所は本件交差点を超えてすぐの地点であって、違法性が高い。このような場所の駐停車については危険性が高く、本件事故のような交通事故の一因となり得ることの予見可能性を否定することはできない。

ウ 被告Y2は、原告バイクと被告乗用車との接触は、被告トラックの駐車とは全く関係ないところで発生した旨の主張をするが、原告バイクは車道の最も左寄りを進行してきたにもかかわらず、被告トラックが駐停車していたために右斜め前方に進路変更を余儀なくされたのであり、全く無関係ということはできない。

エ そして、Aの受傷部位は、被告乗用車との衝突の際には主として右下腿のみであったと認められ、致命傷は負っていなかった(この点は被告Y2も認めているところである。)。致命傷となった右気管損傷、両肺挫傷(前提事実(2)ア)は、被告トラックとの衝突以後に生じたものと考えられる。他方、被告トラックが駐停車していなければ、Aが他の何かに衝突して致命傷を負う可能性があったとは認め難い。また、Aが両肩に二個の鞄を斜め掛けしていたことについては、致命傷と関係があるとは認められないから、重視するのは相当でない。

(3)  過失割合について

よって、本件事故については三者それぞれに過失があり、絶対的過失割合は、A・三:被告Y1・六:被告Y2・一とするのが相当である。原告バイクの速度超過等、この過失割合を左右するほどの事実は、認めるに足りない。

したがって、被告Y1及び被告Y2は共同不法行為に基づき連帯して、原告らに対し、損害額の七割の賠償責任を負う(最高裁第二小法廷平成一五年七月一一日判決=民集五七巻七号八一五頁)。

二  争点(2)について

後記三で判断する弁護士費用を除き、損害額について以下のとおり判断する。

(1)  慰謝料

前提事実(2)及び原告X1供述を総合して判断すれば、慰謝料は、原告らの固有の慰謝料分も含めて二二〇〇万円とするのが相当である。

(2)  逸失利益

ア 基礎収入

Aは、本件事故前年の平成一八年四月一日からa研究所に勤務しており(甲一〇、原告X1供述)、給与・賞与の支払額は同年分が三八三万三六四九円(甲一三、甲一四の二)、平成一九年分(本件事故による死亡退職まで)が一七八万六四六一円であった(甲一四の三)。

もっとも、前者は年度途中からの九か月分の収入にしては月割にすると不自然に多額であって、同年一〇月以降の賃金台帳(甲一四の四)とも整合せず、就職に際しての何らかの特別な給与が含まれている可能性がある。他方、後者は、約六か月分の稼働に対する給与と認められるが、賞与が含まれていない(甲一四の五)。したがって、これらから本件事故直前の年収を適正に算出することは困難である。

むしろ、労災において、法定の計算方法により平均賃金九八二四・四六円、特別給与四五万円と算定されていること(甲五の一)から逆算して、年収を次のとおり求めるのが相当である(これは、基礎収入に関する原告らの主張の変更をそのまま採用するものではなく、以前から提出されていた書証により認定するものであり、被告らの主張する時機に後れた攻撃防御方法の適用を検討するまでもない。)。

9824.46円×365日+45万円=403万5928円

イ 生活費控除率

独身女性であったAの生活費控除率を三〇%とするのが相当である点については、争いがない。

ウ Aは本件事故当時三〇歳であり、六七歳までの就労可能年数三七年のライプニッツ係数は一六・七一一三である。

エ 以上より、逸失利益は次のとおり算定される。

403万5928円×(1-0.3)×16.7113=4721万1922円

(3)  葬儀費用

一五〇万円につき相当因果関係を認めるべきである。

(4)  上記(1)ないし(3)の合計は七〇七一万一九二二円であり、前記一(3)で認定判断したAの過失割合三割を控除すると、四九四九万八三四五円となる。

三  争点(3)について

(1)  労災給付

a 労災給付については、原則として、てん補の対象となる損害が、不法行為の時にてん補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整を行うべきである(最高裁第一小法廷平成二二年九月一三日判決=民集六四巻六号一六二六頁、最高裁第二小法廷同年一〇月一五日判決=集民二三五号六五頁)。なお、これらの判例はいずれも、直接的には死亡事案ではなく後遺障害が残った事案に対するものであるが、その理は死亡事案の遺族年金等にも及ぼされるべきものと判断する(後者の判例の千葉勝美裁判官の補足意見を参照)。

b そうすると、前提事実(3)アの(ア)の葬祭給付六〇万九七五〇円については葬儀費用に、同(イ)の遺族年金については逸失利益に、不法行為の時において充当して差引計算するのが相当であり、これらについて原告らの主張する確定遅延損害金を観念する余地はない。

c また、遺族年金については、厚生年金等との調整によって八割の支給とされており(甲五の一)、既に支給された額及び支給が確定した額は、以下のとおりである。なお、毎年度の支給額が変動しているのは、受給対象者の人数(給付日数は一人であれば一五三日、二人であれば二〇一日)及びスライド率(九八%ないし九九%)の変更によるものと見られる。また、遺族特別年金及び遺族特別一時金は、保険給付ではなく、特別支給金の一種であるから(労働者災害補償保険特別支給金支給規則二条六・七号)、損益相殺の対象とはならない。

(a) 前提事実(3)ア(イ)aにつき、年額一二〇万二五八〇円(九八二五円×一五三日×八割)の二年二か月分として二六〇万五五九〇円。

なお、実際の支給は、一二〇万二五八〇円に特別年金一八万八六四九円(甲五の一)を加算した一三九万一二二九円を六分した二三万一八七一円が二か月ごとに振り込まれている(甲九)。

(b) 同bにつき、一九七万四八二五円(九八二五円×二〇一日)の八割に相当する一五七万九八六〇円。

なお、実際の支給は、これに特別年金二四万七八三三円(甲一七の二)を加算した一八二万七六九三円を六分した三〇万四六一五円が二か月ごとに振り込まれている(甲九)。

(c) 同cにつき、一九三万五四二九円(九六二九円×二〇一日)の八割に相当する一五四万八三四三円。

なお、実際の支給は、これに特別年金二四万三〇〇九円(甲一七の二)を加算した一七九万一三五二円を六分した二九万八五五八円が二か月ごとに振り込まれている(甲九)。

もっとも、平成二三年五月に年金額が一時一五〇万三二二五円(九八二五円×一五三日)に減額されたことがうかがわれるが(甲一七の一)、原告らはその後も上記二九万八五五八円の振込が継続されていたとの主張をしているので(平成二三年一一月八日付け準備書面)、上記減額は考慮しない。

(d) 同dにつき、一九五万五一二七円(九七二七円×二〇一日)の八割に相当する一五六万四一〇一円(口頭弁論終結日までに支給が確定している分も含む。)。

(e) 以上合計七二九万七八九四円(260万5590円+157万9860円+154万8343円+156万4101円)。

d 上記c(e)とbの葬祭給付六〇万九七五〇円の合計は、七九〇万七六四四円である。

前記二(4)の四九四九万八三四五円に対し、上記七九〇万七六四四円の損益相殺的な調整を行った残額は、四一五九万〇七〇一円となる。

(2)  自賠責保険金

前提事実(3)イのとおり、原告らは自賠責保険から平成二一年八月三日に二六九九万四八四〇円の支払を受けた。これについては、まず支払日までの遅延損害金に充当される。

上記(1)dの四一五九万〇七〇一円に対し、本件事故の日である平成一九年五月一八日から上記支払のあった平成二一年八月三日までの年五分の割合による遅延損害金は、次のとおりである。

4159万0701円×0.05×(2年+78日/365日)=460万3463円

よって、上記二六九九万四八四〇円の内四六〇万三四六三円は遅延損害金に充当され、内二二三九万一三七七円が元本四一五九万〇七〇一円に充当されるので、残元本額は一九一九万九三二四円となる。

(3)  弁護士費用

上記一九一九万九三二四円の二分の一は九五九万九六六二円であるから、原告らはそれぞれ、相当因果関係の認められる弁護士費用九五万円を加算した一〇五四万九六六二円及びこれに対する遅延損害金(上記自賠責保険金の支払の日の翌日である平成二一年八月四日から年五分の割合)の支払を求めることができる。

第四結論

以上によれば、原告らの請求は、主文第一項及び第二項の限度で理由がある。そして、原告らの申立てにより仮執行宣言を付するが、免脱宣言は相当でないので付さない。

(裁判官 竹内浩史)

交通事故見取図

<省略>

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