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横浜地方裁判所 平成21年(ワ)5638号 判決 2011年5月30日

第一事件原告・第二事件被告

第一事件被告

a社 他1名

第二事件原告

主文

一  第一事件につき、原告Aの請求をいずれも棄却する。

二  第二事件につき、原告Bの原告Aに対する別紙交通事故目録記載の交通事故による損害賠償債務は存在しないことを確認する。

三  訴訟費用は、第一事件及び第二事件を通じて、原告Aの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  第一事件

(一)  被告a社は、原告Aに対し、金六七万七六〇〇円及び

ア 内一一万八三〇〇円に対する平成二〇年五月一四日から

イ 内七万三一五〇円に対する平成二〇年一〇月二〇日から

ウ 内四八万六一五〇円に対する平成二〇年一一月一八日から

各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  被告b社は、原告Aに対し、金一四八万二五八五円及び

ア 内八万〇〇〇〇円に対する平成二〇年五月一四日から

イ 内五万〇〇〇〇円に対する平成二〇年一〇月二〇日から

ウ 内一三五万二五八五円に対する平成二〇年一一月一八日から

各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

二  第二事件

主文二項と同旨。

第二事案の概要

一  事案の骨子

(一)  本件は、次の二件の訴訟が併合された事案である。

ア 第一事件

原告Aが、後記三(1)ないし(3)の各アのとおり三件の保険事故が発生したと主張して(以下、発生時期の順に「事故①」「事故②」「事故③」という。)、保険会社である被告a社及び被告b社(以下、両社を併せて「被告会社ら」という。)に対し通院保険金等を請求する訴訟。

ただし、事故③(別紙交通事故目録記載の交通事故)に関しては、相手方当事者とされる原告Bの任意保険契約先でもある被告b社に対する損害賠償の請求も含まれている。

被告会社ら及び原告Bは、各事故の発生自体も争っている。

なお、被告b社については、平成二二年一〇月一日吸収合併により、当事者欄記載のとおり訴訟承継がされている。

イ 第二事件

事故③につき、原告Bが、原告Aに対し、債務不存在確認請求をする訴訟。

(2) なお、原告Aは、本件口頭弁論終結後の平成二三年四月二〇日午後五時に東京地方裁判所において破産手続開始決定を受け、破産管財人が選任されたことがうかがわれる。したがって、本件の訴訟手続は、破産法四四条一項により中断したものと解される。しかし、民事訴訟法一三二条一項によれば、「判決の言渡しは、訴訟手続の中断中であっても、することができる」ので、既に指定した期日に言渡しをすることとした。

破産管財人及び相手方(被告会社ら及び原告B)は、受継の申立てをし(破産法四四条二項)、控訴期間を進行させることができるものと解される(民事訴訟法一三二条二項)。

二  前提事実

以下の事実は、当事者間に争いがないか、括弧書きで付記する書証及び弁論の全趣旨により容易に認定することができるので、これを「前提事実」ということにする。

(1)  保険契約

ア 原告Aは、事故①ないし③の当時、被告a社及び被告b社との間でいずれも保険期間を平成一九年二月一日から五年間として(乙七の八〇頁~八五頁)、下記のような内容の傷害保険(通院保険金)の条項を含む保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結していた(甲三六の一~三)。

(ア) 被保険者が傷害を被り、その直接の結果として、平常の業務に従事することまたは平常の生活に支障が生じ、かつ通院した場合は、その日数に対し、九〇日を限度として、一日につき、保険証券記載の通院保険金日額を通院保険金として被保険者に支払う。ただし、平常の業務に従事することまたは平常の生活に支障がない程度に傷害がなおったとき以降の通院に対しては、通院保険金を支払わない。

(イ) 上記(ア)における「傷害」とは、被保険者が急激かつ偶然な外来の事故によってその身体に被った傷害をいう。

イ 上記ア(ア)の通院保険金日額は、被告a社につき七〇〇〇円(甲二四)、被告b社につき五〇〇〇円(甲二三)であった。

ウ また、原告Bは、事故③の当時、被告b社との間で、自動車保険契約(任意保険契約)を締結していた。

(2)  原告Aは、教師であり、平成二〇年四月からはc中学校に勤務して、バスケットボール部の顧問をしていた。

(3)  平成二〇年一一月一八日午前八時一〇分ころ、原告Bと原告Aとの間で事故③(人身事故)が発生したとの交通事故証明書が発行されている(甲一三)。

しかし、原告Bは、事故③による自動車運転過失傷害被疑事件については、平成二二年四月三〇日、不起訴処分となった(乙五)。

三  争点

各当事者は、要旨、以下のように主張している。

(1)  事故①について

ア 原告Aの主張(第一事件の請求)

(ア) 平成二〇年五月一四日、原告Aは、部活動の指導中、バーベルを持ち上げ筋トレをしていたところ、急に左腕に強い痛みが走った。次の日になっても痛みが取れないので、整形外科に行ったところ、肉離れと判断された。その後、通いやすく、マッサージもしっかりしてくれる接骨院に通い、痛みが取れるまで約三週間にわたり、計一六日間の通院をした。その期間は、左腕は使えなかった。

(イ) よって、本件保険契約に基づき、第一事件のうち次の各請求をする。

a 被告a社に対して

通院保険金一一万二〇〇〇円(7000円×16日)と診断書・施術証明書代六三〇〇円との合計一一万八三〇〇円及びこれに対する遅延損害金(事故①の日から年五分の割合)。

b 被告b社に対して

通院保険金八万円(5000円×16日)及びこれに対する遅延損害金(事故①の日から年五分の割合)。

イ 被告会社らの主張

事故①は、原告Aの故意によらない偶然な事故に当たるとの立証がない。バーベルを無理して持ち上げれば、肉離れ等の傷害の結果を発生させることが容易に予見できるので、偶然な事故と認めることは到底できないというべきである。

また、平常の業務に従事することまたは平常の生活に支障が生じたということはできない。

したがって、事故①に関する各請求は、いずれも理由がない。

(2)  事故②について

ア 原告Aの主張(第一事件の請求)

(ア) 平成二〇年一〇月二〇日、原告Aは、仕事から自転車で帰宅する途中、信号で止まり、出発するときに、ペダルを右足で踏み込み、左足をペダルに乗せ損ねて左すねをペダルで切ってしまった。血が大分出ていたので、そのまま整形外科で診てもらい、八針縫い、計一〇日間の通院をした。その期間は、当然スポーツは休み、風呂にも足はつけられなかった。

(イ) よって、本件保険契約に基づき、第一事件のうち次の各請求をする。

a 被告a社に対して

通院保険金七万三一五〇円(7000円×10日)と診断書代三一五〇円との合計七万三一五〇円及びこれに対する遅延損害金(事故②の日から年五分の割合)。

b 被告b社に対して

通院保険金五万円(5000円×10日)及びこれに対する遅延損害金(事故②の日から年五分の割合)。

イ 被告会社らの主張

事故②は、原告Aの故意によらない偶然な事故に当たるとの立証がない。

また、平常の業務に従事することまたは平常の生活に支障が生じたということはできない。

したがって、事故②に関する各請求は、いずれも理由がない。

(3)  事故③について

ア 原告Aの主張(第一事件の請求)

(ア) 事故③(別紙交通事故目録記載の交通事故)が発生したのは、以下のとおり事実である。

平成二〇年一一月一八日、原告Aは、学校へ自転車で通勤途中、横浜市泉区の交差点で左側を走り、青信号を直進しようとしたところ、急にワンボックス車が左折してきて、巻き込まれ転倒した。

ワンボックス車はそのまま逃走した。ナンバー四桁は見えたので、警察に通報し、後日犯人である原告Bが見つかった。

自転車はロード用のものでサドルが高く、高い位置から転倒し、右肩、右ひじ、右腰を強く打ちつけた。一か月ほどで腕の痛みは治ったが、腰の痛みはその後三か月続いた。あまりに痛みが続いたので、接骨院で針治療なども二回してもらった。腰が痛かったので、毎週参加していたバスケチームの練習にも四か月参加できず、座る、立ち上がる、風呂につかる動作も苦労した。しかし、骨が折れているなどの痛みではないと感じていたので、整形外科より、マッサージや電気治療をしてくれる接骨院に通った(計六九日間の通院)。

(イ) よって、第一事件のうち下記a・bの各請求をする。

a 被告a社に対して

本件保険契約に基づき、通院保険金四八万三〇〇〇円(7000円×69日)と診断書代三一五〇円との合計四八万六一五〇円及びこれに対する遅延損害金(事故③の日から年五分の割合)。

b 被告b社に対して

下記合計一三五万二五八五円及びこれに対する遅延損害金(事故③の日から年五分の割合)。

(a) 本件保険契約に基づき、通院保険金三四万五〇〇〇円(5000円×69日)。

(b) 原告Bとの任意保険契約に基づき、損害賠償として、慰謝料五三万四二四〇円、自転車などの損害品合計四二万九二四五円、治療費三万七八〇〇円、施術証明書代六三〇〇円。

(ウ) なお、原告Bに対しては、上記(イ)b(b)の損害賠償請求権を有するから、第二事件の債務不存在確認請求は争う。

イ 被告会社らの主張

原告Bは、事故③を起こしたことはない。

事故③が、原告A運転の自転車と原告B運転の自動車との間で発生した交通事故であること、その事故が原告Aが主張するような発生状況のものだったこと、その事故により原告Aが傷害の結果を負ったとする諸点についての原告Aの供述は、客観的証拠や状況と矛盾するものであり、また、意図的に虚偽の事実を述べていることは明らかである。よって、事故③が偶然な事故であることの証明はなく、事故③によって原告Aが傷害の結果を負ったとする点についても的確な立証が欠けている。

事故③の真相は、警察が原告Bに言っていたような「肩に触れる程度の接触」であったか、あるいは、例えば直進しようとしていた原告Aの進路を、左折しようとしていた原告Bが妨害したため原告Aが立腹したのか明らかでないが、いずれにせよ、原告Bが覚知できないような何らかのトラブルを利用して、交通事故が起きたかのように装い保険金を請求することを企図した事故申告であったというべきである。

また、通院保険金の請求については、原告Aが平常の業務に従事することまたは平常の生活に支障が生じたということはできない。したがって、事故③に関する各請求は、いずれも理由がない。

ウ 原告Bの主張(第二事件の請求)

上記イの被告会社らの主張と同旨である。

よって、事故③(別紙交通事故目録記載の交通事故)による原告Aに対する損害賠償債務は存在しないことの確認を求める。

四  証拠調べ

原告A及び原告Bの各本人尋問を行った。以下、原告Aの陳述書(甲三八)の内容と本人尋問の結果を併せて「原告A供述」といい、原告Bの陳述書(乙一三)の内容と本人尋問の結果を併せて「原告B供述」という。

第三判断

一  総論的判断

(1)  前提事実に加えて、括弧書きで付記する書証、原告A供述及び弁論の全趣旨によれば、本件訴訟に至る経緯に関して、以下の事実が認められる。

ア 原告Aは、固定資産税を滞納したため、平成一八年一一月、所有する自宅不動産に対し横浜市旭区役所から差押えを受けた(乙一二の一・二)。

このように、原告Aは、当時から金銭的に窮していた。

イ 原告Aは、概ね別表Ⅰのとおり、同表⑦の交通傷害保険及び⑨の自動車保険は除外するとしても、平成一九年一月ころ以降集中的に保険会社七社と損害保険の契約をした。同表①が被告a社との本件保険契約であり、同表③が被告b社との本件保険契約である。保険料(月額)の合計は、上記除外をしても約四万円以上に達する(乙一、二、七の八〇頁~一〇二頁)。これらの契約は、原告Aがインターネットで検索して、ほぼ同時に申込をしたものである(原告A本人調書二六頁)。

ウ 原告Aは、概ね別表Ⅱのとおり保険事故が発生したとして、上記イの各保険会社の少なくとも一部に保険金の請求をした。同表ⅵが事故①、同表ⅶが事故②、同表ⅷが事故③である。

エ 被告会社らは、原告Aから保険金請求がされた別表Ⅱのⅴの事故(平成二〇年三月一七日)及び事故①(同年五月一四日)につき、保険金請求歴が多数あるため保険事故の発生等を疑い、支払を保留し、弁護士に依頼した上で調査を開始した(乙一五の一)。その調査中に、事故②(同年一〇月二〇日)が発生したとして原告Aから保険金の請求がされたので、これについても支払を保留して調査した(乙七、乙一五の二)。さらに、その間に事故③(同年一一月一八日)が発生したとして原告Aから保険金の請求がされたので、これについても支払を保留して調査した(乙八、九、一五の三)。

オ 他方、上記イの各保険会社のうち、少なくとも次の四社は、原告Aに対し、下記のとおり保険金の支払をした。

(ア) 東京海上日動火災保険株式会社(別表Ⅰの④)

通院保険金日額五〇〇〇円として、事故①につき通院一二日分六万円、事故②につき通院一〇日分五万円、事故③につき通院六九日分三四万五〇〇〇円(甲二八の一~三)。

(イ) アメリカンホーム保険会社(別表Ⅰの⑥)

通院保険金日額四〇〇〇円として、事故①につき通院一二日分四万八〇〇〇円、事故②につき通院一〇日分四万円と診断書代金三〇〇〇円との合計四万三〇〇〇円、事故③につき通院六九日分二七万六〇〇〇円(甲二九)。

(ウ) AIU保険会社(別表Ⅰの⑤)

通院保険金日額五〇〇〇円として、事故①につき通院一二日分六万円、事故②につき通院一〇日分五万円、事故③につき通院六九日分三四万五〇〇〇円(甲三〇)。

(エ) 株式会社損害保険ジャパン(別表Ⅰの②)

通院保険金日額六〇〇〇円として、事故①につき七万二〇〇〇円、事故②につき五万四〇〇〇円、事故③につき二七万円(甲三一)。

カ もっとも、上記支払をした各保険会社も、原告Aとの保険契約の更新等には応じなかった。

(2)  上記(1)イ・ウによれば、被告会社らが、事故①ないし③について、保険事故の発生及び保険金支払事由の存在等を疑って調査を開始したのは無理からぬところである。これに対し、上記(1)オの保険会社四社は、保険金不払いが社会問題となり、行政処分もあったことから(甲四〇、四一)、原告Aとの争いを避けて、保険金請求には応じながら保険契約の継続を拒絶するという妥協的な判断をしたにすぎないものと見られる。

(3)  上記(1)ア・イのような状況にあった原告Aは、保険金詐欺を構成するような保険事故の故意による作出まではさすがに行わないとしても、多額の保険料のいわば元を取るために、些細な事故や受傷について針小棒大に申告し、不必要な通院を重ねて多額の通院保険金を取得しようとする傾向にあったことは明らかである。

上記(1)オの保険会社四社の通院保険金日額の合計は二万円となるところ、これに被告会社らとの本件保険契約の通院保険金日額(前提事実(1)イ)を加えれば三万二〇〇〇円にものぼる。他方、原告A自身も、一回の通院費用は一万円もかからないことを認めており(乙七の三五頁)、「保険に加入しているので過去に比べ軽い怪我でも病院に通う回数が増えるのは当たりまえである。」と述べているところである(甲三八の一頁)。

したがって、単に通院したことのみでは足りず、原告Aに関する限り、特に「平常の業務に従事することまたは平常の生活に支障が生じ」という通院保険金の支払の要件(前提事実(1)ア(ア))の該当性については、厳格に認定することを要する。原告Aから誇張した症状の訴えを受けたと見られる担当医師や柔道整復師が、上記要件該当性を認めるかのような診断書等を発行しているとの一事をもって、これを認定することはできない。ましてや、成立にさえ争いのある生徒(勤務先学校のバスケットボール部員)や他の教諭名義の書証(甲一、八、九)をもって、認定することは到底できない。

二  通院保険金の請求について

(1)  原告A供述によれば、事故①ないし③を通じて、通院期間中に勤務先学校の授業を休んだことはなく(原告A本人調書三五頁以下)、ロード用のサドルが高い自転車による通勤を継続していたというのであるから、そのこと自体からも上記要件該当性は認め難い。バスケットボール部の指導等をしなかった時期があったとしても、そのような状況は原告Aが随意に作出することができるものであって、上記要件該当性を認めるに足りない。

なお、被告a社に対しては診断書・施術証明書代の請求もされているところ、その根拠について主張立証はないから、理由がない。

以下、原告A供述及び被告会社らの調査内容(乙七~九)に照らして、補足的に事故①ないし③について認定判断を加える。

(2)  事故①について

診断書(甲二)及び原告A供述によれば、平成二〇年五月一四日、原告Aが部活動の指導中、バーベルを持ち上げていたところ、左上腕に肉離れを起こしたという事実自体は認められないではない。

しかし、原告Aは当時、部員生徒たちの前で痛がって見せたこともなく(原告A本人調書六頁以下)、ごく軽い肉離れであったとうかがわれるものであり、同月一六日に池田整形外科に一日通院して医師の診察を受けただけで(甲二)、その後は、あおぞら整骨院に一一日通院したが(甲三)、その間も欠勤はしておらず(甲四)、勤務先学校に事故①の報告さえしていなかったと認められる。

したがって、その余の点について判断するまでもなく、上記(1)のとおり、通院保険金の支払要件には該当しない。

(3)  事故②について

診断書(甲六)及び原告A供述によれば、平成二〇年一〇月二〇日、原告Aが勤務先学校から自転車で帰宅する途中、左下腿をペダルで切って出血し、池田整形外科で縫合してもらい、合計一〇日通院したとの事実自体は認めることができる。

しかし、その間も欠勤はしておらず(甲七)、勤務先学校に事故②の報告さえしていなかったと認められる。上記診断書においても「医学的に就業・家事・通勤通学が全く不可能とされる期間」は「不詳」とされている。

したがって、やはり上記(1)のとおり、通院保険金の支払要件には該当しない。

(4)  事故③について

平成二〇年一一月一八日午前八時一〇分ころに発生したとされる事故③の存否及び態様の点に関しては、後記三で認定判断することとする。

上記の点は措くとしても、原告Aは同月一九日から平成二一年二月二八日までの間、右肩関節、右上腕部及び腰部の痛みを訴えて、あおぞら整骨院に六九日通院した事実が認められるものの(甲一〇、一二)、医師の診察は全く受けていないばかりか、上記通院の間も欠勤はしていないと認められる(乙一一の一・二)。また、事故③の当日には、大した怪我ではなかったからそのまま勤務先学校に向かい、遅刻した理由について「自転車がパンクした」などと嘘をついていたことが認められ(原告A本人調書一四頁以下)、原告Aから通報を受けて現場に臨んだ警察も、大した怪我はなかったことから、当初は物損事故として処理していたと認められる(乙四)。

したがって、上記(1)のとおり、通院保険金の支払要件に該当すると認めるには足りない。

三  事故③の損害賠償について

(1)  平成二〇年一一月一八日午前八時一〇分ころに発生したとされる事故③の存否及び態様については、これを目撃したわけではない警察関係者による交通事故証明書(甲一三)のみをもって認定することはできず、他にも目撃者はいない。

原告Aの主張する事故態様は、その直後から本件訴訟に至るまで、原告B運転の自動車(以下「原告B車」という。)との衝突箇所をはじめとする重要な点で一貫しておらず(乙九)、右側から押し込むように衝突されたというのに、原告A運転の自転車(以下「原告A自転車」という。)は左側ではなく右側に倒れ、その際に体の右側に受傷したとすることなど、不自然な点が目立つものである(乙八)。

他方、原告B供述によれば、上記日時ころ現場を通過した事実はあり、原告A自転車の赤い塗料が原告B車に付着していたと言われたことなどから、事故③を発生させた認識はなかったものの、警察に対して一時これを認めていたものとうかがわれる。

また、原告A自転車にも原告B車の塗料が付着していると、原告Aは主張している。

しかし、上記各塗料の付着箇所による限り、原告B車の左後輪上部辺り(乙一四、原告B本人調書三頁以下)に原告A自転車のフレーム部分が接触したことになるが、これは極めて不自然な態様とならざるを得ない(乙八、九)。また、両車両の塗料の付着箇所の地面からの高さが合致しない。

また、原告A自転車に付着した塗料は、原告B車の塗料と一致するとはいえない。原告Aは上記付着した塗料の色を当初から「うす茶」と表現してきており(甲三三)、原告B車の塗料は「ベージュメタリック」であるという前提の下に一致すると主張していた(甲三九)。しかし、原告B車の塗料は実は「シルバーメタリック」であると認められるから(原告B本人調書一三頁以下)、不一致である。原告Aは、これを知ると一転して、上記付着した塗料は「シルバーメタリック」とほぼ一致したとの書証(甲四三)を提出したが、採用し難い。

他方、原告B供述によれば、原告B車に赤い塗料が付着していたのは自宅前のポールの赤い部分でこすったことが原因であったと認められる(乙九、原告B本人調書三頁)。

以上によれば、原告A自転車に原告B車が衝突ないし接触したとの事実は認められない。そうすると、少なくとも原告A供述にあるような接触による事故態様は認定することができない。もっとも、原告B車が当時現場を通過した事実は認められるから、原告Aが立腹するような、非接触ながらも何らかの遭遇があった可能性はある。しかし、その態様を具体的に認定することができず、原告Bの不法行為責任を認めることは困難である。

したがって、事故③については、原告Bの損害賠償債務は存在せず、被告b社も任意保険の支払義務を負わない。

(2)  なお、原告Aは、前記第二、一(2)のとおり破産手続開始決定を受けているから、仮に原告Bに対して何らかの損害賠償請求権が認められたとしても、その債権は破産財団に属することになり、原告A自身が取得することができないのは、通院保険金と同様であると解されることを付言する。

第四結論

以上によれぼ、第一事件の原告Aの被告会社らに対する請求はいずれも理由がなく、第二事件の原告Bの原告Aに対する債務不存在確認請求は理由がある。

(裁判官 竹内浩史)

別紙<省略>

別表Ⅰ、Ⅱ〔省略〕

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