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横浜地方裁判所 平成21年(行ウ)10号 判決 2010年7月21日

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第3当裁判所の判断

1  本件建物が本件軽減措置の適用を受けるためには、整備法の規定により登録を受けたホテル業又は旅館業の用に供する家屋に当たることが必要である(本件条例20条2項)。また、整備法18条1項は、旅館業を営んでいる者は、旅館ごとに、登録実施機関が行う登録を受けることができる旨規定しているところ、その登録の申請に当たっては、旅館業法3条1項による許可を受けていることを証する書面を添付することが要求されていることからすれば(整備法18条2項、4条2項、国際観光ホテル整備法施行規則2条2項3号、乙5)、ここにいう「旅館業を営んでいる者」とは、旅館業法3条1項の営業許可を受けている者を指すと解するのが相当である。なお、ここにおいて、当該建物が旅館業者自らが所有するものであることを要するとの趣旨を示す規定は見当たらない。

そうすると、本件建物が本件軽減措置の適用を受けるためには、本件建物を営業用の施設として、旅館業法3条1項の営業許可を受けている者が、本件建物を旅館施設として登録実施機関に対する申請をし、整備法上の登録を受けていることが必要である。

2  これを本件についてみると、Aは、前記第2の2(2)ウ記載のとおり、平成元年7月14日、本件建物で旅館業を営むため、旅館業法3条1項に定める営業許可申請をし、神奈川県小田原保健所長から本件建物での旅館営業の許可を得ているが、Aが、本件建物を旅館施設として、整備法上の登録を受けていることを認めるに足りる証拠はない。〔省略〕したがって、本件建物は、本件軽減措置の適用要件を満たさないことは明らかである。

3  原告は、旧建物を旅館施設として、Aが整備法上の登録を受けていたのであるから、同建物が取り壊されたとしても、同一の場所に本件建物が新築され、旅館業の用に供されている以上、登録は維持されている旨の主張をする。しかしながら、そもそも、本件条例が本件軽減措置を定めた趣旨は、整備法による登録を受けた建物について、固定資産税の軽減を図ることにより、同登録を促し、間接的に、ホテルその他の外客宿泊施設について登録制度を実施してこれらの施設の整備を図ることなどにより外客に対する接遇を充実し、もって国際観光の振興に寄与するという整備法の目的(同法1条)の実現に資することにあると解されるから、本件軽減措置を適用する前提として当該旅館施設ごとに整備法上の要件を充足する建物であるか否かを確認する必要があるといわねばならない。〔省略〕そうすると、原告の上記主張は、本件条例制定の趣旨に反するから、これを採用することはできない。

また、原告は、旧建物の一部が残存していることをもって、旧建物を旅館施設とする登録の効力が本件建物についても維持されるかのような主張をするが、前記のような整備法及び本件条例の趣旨・目的からすれば、整備法上の旅館施設の登録の可否あるいは本件軽減措置の適用の可否について、当該旅館施設全体の構造等を一体的に把握して判断されるべきものであると解されるから、旧建物の一部が残存していることを理由として、本件建物が整備法上の登録を受けた建物に当たると解することはできないというべきである。そうすると、過去に旧建物について整備法上の登録がなされていたとしても、これが取り壊され、本件建物が新築された以上、旧建物を旅館施設とする登録の効力が本件建物に建替え後も存続すると解することはできず、本件建物を旅館施設とする登録がされなければ、同建物は整備法上の登録を受けた旅館業の用に供する家屋に当たらないというべきであって、原告の上記主張を採用することもできない。

4  以上のとおり、本件建物を旅館施設とする整備法上の登録がされたと認めるに足りる証拠はないから、処分行政庁が本件各処分時に本件建物について本件軽減措置を適用しなかったことはいずれも適法であり、平成2年度ないし平成21年度までの固定資産税の賦課決定に際し、処分行政庁が本件建物に本件軽減措置を適用しなかったことに国家賠償法上の違法性は何ら認められない。

(裁判長裁判官 佐村浩之 裁判官 日下部克通 赤谷圭介)

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