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横浜地方裁判所 平成21年(行ウ)71号 判決 2011年3月23日

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第3当裁判所の判断

1  認定事実

括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1)  本件委員会設置に至る経緯(乙4)

平塚市は、現在同市が使用している一般廃棄物処理施設である環境事業センターが老朽化したことから、循環型社会に適合した新たな一般廃棄物処埋施設として、本件施設を建設し、運営する「(仮称)次期環境事業センター整備・運営事業」(以下「本件事業」という。)を計画した。同市は、一般廃棄物処埋施設の運営コストは経年ごとに増加する傾向があり、長期的な運営計画の中でのコストダウンが重要視されていることをふまえ、同事業をPFI法の趣旨に基づいたDBO(公設民営)方式で実施することにより、一般廃棄物処理施設の有効かつ効率的な更新と長期間にわたる良好な運営・維持管理を行うことを計画し、平成19年8月に検討を開始した。

PFI法では、公共施設等の管理者等が、事業を実施する民間事業者を公募の方法等により選定するものと定められており(同法7条)、国で作成された「PFI事業実施プロセスに関するガイドライン」には、民間事業者の選定に当たって、客観的判断能力のある外部のコンサルタント等の活用を図ること、また、事業提案の内容審査において有識者等からなる審査委員会を設けて意見を聴くことも一つの方法である旨記載されていた(乙3)。

そこで、平塚市は、上記民間事業者の選定に当たって、客観的評価についての公平かつ適正な実施を担保するため、本件委員会を設置することを計画し、平成20年9月、本件要綱を定めた。

本件要綱においては、本件委員会の所掌事務を「民間事業者の選定に関すること」及び「その他委員会の目的を達成するために必要な事項」とすること(2条)、委員は6人で、学識経験等を有する者から市長が委嘱すること、任期は委嘱の日から所掌事務が終了したときまでとすること(3条)及び本件委員会の事務局を平塚市環境部資源循環課に置くこと(9条)が定められた(甲2の3、乙1)。

(2)  本件事業の内容

被告は、PFI法5条1項に基づき、特定事業の選定及び当該特定事業を実施する民間事業者の選定を行うに当たっての特定事業の実施に関する市の方針を定め、同条3項に基づき、平成20年10月22日、「(仮称)次期環境事業センター整備・運営事業実施方針」を公表した(甲40の3、乙4)。これによれば、本件事業は、平塚市と大磯町のごみ処埋広域化を実現するため「平塚・大磯ブロックごみ処理広域化実施計画」及び「平塚・大磯地域循環型社会形成推進地域計画」に基づき、同市及び同町から発生する可燃ごみ等の焼却施設を整備・運営することを目的として、本件施設の整備・運営を行い、焼却残渣全量を資源化するほか、本件施設にエネルギー回収を行う発電施設を設け、し尿処理施設及び厨芥類資源化施設からの汚泥等と発生残渣の焼却処理を行うこととされていた。

そして、事業手法はDBO方式により、平塚市が本件施設の設計・施工及び運営・維持管理・補修等に係る資金を調達して本件施設を所有する一方、事業者として選定された民間事業者は、本件施設の設計・施工を行うほか、特別目的会社を設立し、20年間にわたって本件施設の運営・維持管埋・補修等に係る業務を行い、平塚市が本件施設を30年にわたって使用する予定であることから、30年間の使用を前提として設計・施工業務及び運営業務を行うこととされた。

(3)  本件委員会の設置

前記のとおり、本件事業は、DBO方式で行うこととされたが、平塚市は、より競争性を高めるために、民間事業者を募集する段階では本件施設に新しく導入する焼却炉の形式を限定せず、民間事業者からの提案を受けて本件委員会で決定する方針をとることとした。そのため、本件委員会の委員には、一般廃棄物処理、焼却炉方式、焼却灰の資源化及び周囲に与える環境負荷等の専門知識を有する学識経験者を選定する必要があった。このような観点から、被告は、本件委員会の委員に、A(平塚市副市長)及びB(大磯町副町長)のほか、鳥取環境大学研究・交流センター教授のC(委員長)、東海大学工学部エネルギー工学科の教授D、社団法人全国都市清掃会議技術顧問のE(副委員長)及び西村あさひ法律事務所弁護士のFを選定した(甲24、乙4・7頁、乙7・3枚目)。

委員の任期は、当初、平成20年9月29日から平成21年10月31日までとされたが、上記期間内に優先交渉権者を決定するに至らなかったため、被告は、平成21年11月から平成22年3月31日までを任期として、上記委員らに改めて委員を委嘱した。

(4)  本件委員会の活動

本件委員会の具体的な活動内容は、公募型プロポーザル方式での公募説明書や落札決定基準の決定、応募のあった民間事業者からの技術・価格提案の審査、DBO方式での民間事業者の選定であった。

本件委員会は、平成20年9月29日から平成21年11月13日にかけて以下のとおり会議を行った。

平成20年9月29日に開催された第1回会議において、委員に委嘱状の交付が行われたほか、実施方針や要求水準書案についての検討が行われ(甲24の2)、平成21年2月13日に開催された第2回会議において、第1次審査用の公募説明書等についての説明、検討が行われた(甲24の3)。

その上で、平成21年6月1日の第3回会議において、事業者第1次審査(プレゼンテーション及びヒアリング審査)を実施した上で採点審議を行い、4社を第1次審査通過者に決定し(甲24の3、乙5・9頁)、同年10月16日の第4回会議で、事業者第2次審査(応募書類ヒアリング)を行い、各応募者ともに形式審査を通過していることを報告し(甲24の5)、同年11月13日の第5回会議で、第1次審査を通過して本審査へ応募のあった民間事業者3社につき、非価格要素審査、価格審査を経て総合評価を行った上、一番得点の高かった業者を優先交渉権者に選定し、2番目に得点の高かった業者を次点交渉権者に選定した(甲24の6)。

本件委員会は、上記会議を経て、同月13日、委員長C名義で、平塚市長に対し、「(仮称)次期環境事業センター整備・運営事業者選定の審査結果」を提出し、優先交渉権者等を選定したことを報告した(甲46・3枚目)。

平塚市は、同年12月18日、本件委員会の上記審査結果を受け、同委員会が優先交渉権者に選定した事業者を本件事業の民間事業者に選定し、PFI法8条に基づき、客観的な評価の結果として本件委員会作成の審査講評を公表した(乙5)。平塚市は、平成22年3月31日、同委員会が選定した業者と工事請負仮契約を締結し、同年5月17日には、本契約を締結した(甲22)。

(5)  各支出額の決定方法等

被告は、平塚市の特別職の職員で非常勤のものの報酬及び費用弁償に関する条例(乙6)第1条別表を参考に、職務内容、委員の保持する資格及び専門的知識などを検討し、平塚市の特別職の職員で非常勤の者のうち、審議会又は協議会の委員に支払う報酬及び費用弁償の額(報酬日額1万1300円)を参考にして1日1人当たり1万1300円と定め、これに加え自宅最寄り駅から平塚駅までの往復交通費相当額を各委員に支給することを決定した(乙8)。ただし、本件委員会の委員のうち、平塚市副市長及び大磯町副町長については、本来業務であるとして、謝礼の支払から除かれた。

支払は、平成20年8月28日付けで、平成20年度平塚市一般会計予算の4款衛生費、2項清掃費、1目清掃総務費の次期環境事業センター及び周辺地域整備事業のうち、13節中のその他委託料の予算を、上記1目清掃総務費の次期環境事業センター及び周辺地域整備事業のうち、8節中の報償費に予算に振り替えることによりなされた(乙9)。

なお、本件各支出のうち1万1160円については、大磯町との協定に基づき、平塚市は、大磯町に対して同額を請求し、平成21年4月27日、同町から支払を受けた(乙20の1ないし3)。

2  本件委員会は「附属機関」に当たるか(争点(1))

(1)  法138条の4第3項は、普通地方公共団体が法律又は条例によって執行機関の附属機関を設置することができる旨を規定している。ここにいう附属機関とは、執行機関が行政の執行権を有するのに対し、執行機関の行政執行のため、あるいは行政執行に必要な調停、審査、諮問又は調査を行うことを職務とする機関をいうところ、同項の文言に照らすと、附属機関を法律又は条例によらず、要綱等により設置することを禁ずる趣旨をも含むものと解される。

(2)  そこで、本件委員会が附属機関に当たるかどうかについて検討するに、本件委員会は、事務局が平塚市資源循環課に置かれ、6人の委員には、平塚市副市長や大磯町副町長が含まれているほか、市職員以外の有識者4名が含まれている。また、本件委員会の所掌事項は、平塚市が民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用した公共施設(PFI法1条参照)の整備を図るべく、公設民営で行う新しい環境事業センターを設置するに当たり、その事業を実施する主体となる民間事業者を選定し、当該選定結果を市長に提言することであるから、特定の事項について判定ないし結論を導き出すために、その内容を深く調べる審査、あるいは特定の事項について意見や見解を求める諮問のいずれにも当たり得るものである。しかも、平塚市廃棄物の減量化、資源化及び適正処理等に関する条例3条によれば、廃棄物の減量化、資源化及び廃棄物の適正な処理を推進するために必要な措置を講ずるための施策を実施するに当たって、計画の策定、施設の整備、市民及び事業者の協力体制の確立等の必要な措置を講ずることは平塚市の責務であり(甲8)、このような市の業務である環境事業の実施主体となる民間事業者を選定することは、重要な行政事務の一つといい得るものであって、単に技術的な事項にとどまるとみるべきものではない。しかも、本件委員会にあっては、複数回にわたる会議を重ねて民間事業者の選定作業を行い、この検討結果を事業者選定結果としてまとめて被告に提出し、被告はこれに沿って事業者を選定している。また、その活動期間は、1年以上にわたっているのであって、このことからすれば、特定の事業に活動が限定され、そのために新たに設立された機関であるとはいえ、必ずしも臨時的なものといい得るものではない。

以上を総合すると、本件委員会は、法138条の4第3項所定の審査又は諮問を行う附属機関に該当するものといわざるを得ない。

3  各委員の不当利得の有無(争点(2))

進んで、被告が各委員に対して不当利得返還請求権を有するか否かにつき検討するに、上記のとおり本件委員会を要綱で設置したことが違法との評価を免れないとしても、このことから、直ちに各委員に支払われた謝礼が不当利得となると解すべきではなく、別途、各委員につき、民法703条所定の要件を充足するかどうかを検討する必要があるが、それに際しては、本件委員会の設置が無効であり、各委員の委嘱に瑕疵があったとしても、各委員が、事実上、委員として平塚市の業務である本件事業の検討に当たったことを踏まえることを要するというべきである。

そして、前記認定事実によれば、各委員は、本件事業を担う民間事業者を選定するに当たって、専門的知見を提供する有識者として被告から委嘱され、支給対象となった会議に出席し、実施方針や公募説明書の作成などについて、それぞれの専門領域の知見に裏打ちされた意見を述べるなどして、有識者として求められる役割を果たしたものであって、本件各支出は、このような有識者として供与した役務に対する対価と会議に参加するために要した交通費の実費に充てるために支払われたものと認めることができる。

以上によれば、本件各支出によって各委員に支払われた金銭は、各委員が被告から本件委員会の委員に就任するよう依頼を受け、これを受託したことを受けて、受託の範囲の業務として会議に出席して提供した役務の対価であり、その額も、平塚市非常勤特別職のうち審議会等の委員に支払う報酬及び費用弁償額と同額に往復交通に要する実費相当額を加えたもので、相当な範囲内のものということができる。そうすると、本件委員会が、法138条の4第3項所定の審査又は諮問を行う附属機関に該当するとしても、この謝礼の受領が法律上の原因がない利得に当たるということはできない。

よって、平塚市が、各委員に対し、支払った謝礼相当額の不当利得返還請求権を有するとは認められない。

4  結論

以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐村浩之 裁判官 西森政一 小堀瑠生子)

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