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横浜地方裁判所 平成22年(ワ)2867号 判決 2014年7月10日

原告

X1(以下「原告X1」という。)

原告

X2(以下「原告X2」という。)

原告

X3(以下「原告X3」という。)

原告

X4(以下「原告X4」という。)

原告

X5(以下「原告X5」という。)

原告

X6(以下「原告X6」という。)

原告

X7(以下「原告X7」という。)

原告ら訴訟代理人弁護士

畑山穰

川又昭

根岸義道

小口千恵子

中村宏

高橋宏

関守麻紀子

阪田勝彦

太田啓子

西村紀子

近藤ちとせ

田渕大輔

浅川壽一

宋惠燕

田井勝

北神英典

石井眞紀子

岩村智文

川口彩子

沢井功雄

篠原義仁

西村隆雄

根本孔衛

藤田温久

三嶋健

山下芳織

渡辺登代美

野村正勝

中込泰子

山森良一

小池拓也

山下昌弥

川本美保

杉本朗

児島初子

畑谷嘉宏

内田和利

高城昌宏

湯山薫

松本育子

岡村共栄

岡村三穂

高橋由美

原告ら訴訟復代理人弁護士

小野通子

中瀬奈都子

被告

株式会社Y1(以下「被告Y1社」という。)

代表者代表取締役

訴訟代理人弁護士

外井浩志

藤原宇基

訴訟復代理人弁護士

浦辺英明

草開文緒

被告

株式会社Y2(以下「被告Y2社」という。)

代表者代表取締役

訴訟代理人弁護士

満園武尚

小屋和歌子

主文

1  原告らが、被告Y2社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2  被告Y2社は、原告X1に対し123万7852円、原告X2に対し80万7015円、原告X3に対し80万4364円、原告X4に対し80万9457円、原告X5に対し73万2050円、原告X6に対し133万1198円及び原告X7に対し103万0546円並びにこれらに対する平成22年7月16日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3  被告Y2社は、平成22年6月から本判決確定の日まで、毎月15日限り、原告X1に対し11万2532円、原告X2に対し7万3365円、原告X3に対し7万3124円、原告X4に対し7万3587円、原告X5に対し6万6550円、原告X6に対し12万1018円及び原告X7に対し9万3686円並びにこれらに対する各支払期日の翌日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

4  原告らの被告Y2社に対するその余の請求及び被告Y1社に対する請求をいずれも棄却する。

5  訴訟費用は、原告らに生じた費用の8分の5と被告Y2社に生じた費用の4分の1と被告Y1社に生じた費用を原告らの負担とし、原告らに生じたその余の費用及び被告Y2社に生じたその余の費用を被告Y2社の負担とする。

6  この判決は、第2、3項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  原告らが、被告Y1社に対し、別紙1記載の内容の労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2  被告Y1社は、原告らに対し、別紙3請求債権目録A欄記載の金員及びこれらに対する平成22年7月15日(同被告に対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による金員並びに平成22年6月以降本判決確定の日まで毎月15日限り別紙3請求債権目録B欄記載の金員及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3  原告らが、被告Y2社に対し、別紙2<各原告の契約期間は平成21年1月1日~同年12月31日までの1年間。契約更新:ありとなっている以外別紙1と同じ>記載の内容の労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

4  被告Y2社は、原告らに対し、別紙3請求債権目録A欄記載の金員及びこれらに対する平成22年7月16日(同被告に対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による金員並びに平成22年6月以降本判決確定の日まで毎月15日限り別紙3請求債権目録B欄記載の金員及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

5  被告Y1社及び被告Y2社は、原告らに対し、各自別紙3請求債権目録C欄記載の金員及びこれらに対する被告Y1社については平成22年7月15日(同被告に対する訴状送達の日の翌日)から、被告Y2社については平成22年7月16日(同被告に対する訴状送達の日の翌日)から、各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は、原告らが、平成18年から被告Y2社との間で労働契約を締結して被告Y1社の鎌倉工場で派遣労働者又は請負労働者として勤務し、化粧品の製造業務に従事していたところ、平成21年5月に解雇ないし雇止めをされたことについて、①被告Y1社に対し、原告らと被告Y1社との間で規範的・合理的意思解釈又は黙示の合意により別紙1のとおりの労働契約が成立しており、被告Y1社が原告らに対して行った平成21年5月17日付けの解雇及び同月31日付けの雇止めがいずれも無効であり、被告Y1社との間で労働契約が存続していると主張して、労働者契約上の権利を有する地位の確認及び同年6月1日以降本判決確定の日までの賃金の支払を求め、②被告Y2社に対し、被告Y2社が原告らに対して行った平成21年5月17日付けの解雇及び同月31日付けの雇止めがいずれも無効であり、被告Y2社との間で別紙2のとおりの労働契約が存続していると主張して、労働者契約上の権利を有する地位の確認及び同年6月1日以降本判決確定の日までの賃金の支払を求め、さらに、③被告らに対し、脱法的な派遣・請負関係の維持や不当解雇、雇止めをした共同不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料及び弁護士費用相当額の支払を求めた事案である。

1  争いのない事実等(証拠によって認定した事実は、各項末尾の括弧内に証拠を摘示する。)

(1)  被告ら

ア 被告Y1社

(ア) 被告Y1社は、明治5年に創業した化粧品等の製造・販売等を目的とする株式会社である(証拠<省略>)。被告Y1社は、東京都に本社を有するほか、全国各地に支社及び鎌倉工場をはじめとする工場を有している。

(イ) 被告Y1社の平成21年3月期(平成20年4月から平成21年3月)の連結業績は、売上高は6902億5600万円、経常利益は520億6100万円、純利益は193億7300万円であった。被告Y1社の平成21年3月期の株式配当は、平成20年同期の配当額の1.5倍に相当する1株当たり50円であり、年間の配当総額は、平成20年度が137億3000万円だったのに対し、平成21年度は201億4800万円と増配した。(以上について、証拠<省略>)

平成22年3月期(平成21年4月から平成22年3月)の連結業績は、売上高が6442億0100万円、経常利益が514億8500万円、純利益が336億7100万円であった(証拠<省略>)。

(ウ) 鎌倉工場における業務発注の変遷

被告Y1社は、昭和34年に、神奈川県鎌倉市内に鎌倉工場を開設し、鎌倉工場は、開設以来、被告Y1社の様々な製品を製造するマザーファクトリーとして位置付けられてきた。

鎌倉工場においては、被告Y1社が同被告の正社員やパートタイム社員などを直接雇用するほか、原告らに関係するだけでも、以下のとおり、労働者派遣や業務請負の法形式を用い、業務を外部に発注することが行われていた。

a 平成13年11月5日から平成17年6月30日まで

被告Y1社は、請負会社である株式会社a(以下「a社」という。)との間で、業務請負委託契約を締結し、a社に対し、スキンケア製品、口紅製品の充填・仕上げ・包装業務、中味製造補助及び原料秤量補助作業を委託していた(証拠<省略>)。

b 平成17年7月1日から平成18年5月31日まで

被告Y1社は、平成17年7月1日、a社が他社と合併して請負会社である株式会社b(以下「b社」という。)に承継され、被告Y1社とa社との間の業務請負委託契約もb社に承継されたため、b社に対し、スキンケア製品、口紅製品の充填・仕上げ・包装業務、中味製造補助及び原料秤量補助作業を委託していた。

c 平成18年6月1日から同年12月31日まで

b社は、平成18年2月頃、同社が他の会社で行っていた業務請負につき偽装請負の疑いで大阪労働局から報告を求められる等した(証拠<省略>)。このため、被告Y1社は、被告Y2社と労働者派遣契約を締結し、b社との契約を解除して、平成18年6月1日以降、被告Y2社からの派遣労働者に口紅製品の充填・仕上げ・包装業務を行わせた(証拠<省略>)。

d 平成19年1月1日以降

被告Y1社は、被告Y2社との前記労働者派遣契約を解除した上で、同被告と業務請負委託契約を締結し、口紅製品の充填・仕上げ、包装業務及びセット作業業務を委託し、平成20年7月1日以降は、これらに加えて、ペンシルの仕上げ、梱包業務を委託した(証拠<省略>)。

(エ) 平成21年5月当時の鎌倉工場の生産部門の組織及び業務内容

鎌倉工場には、3棟の工場棟があり、第1工場棟では化粧水及び乳液類を、第2工場棟ではクリーム類を、第3工場棟では口紅、チューブ製品、鉛筆及び小型見本類をそれぞれ製造していた。

第3工場棟における口紅製造の工程は、材料をラインに流す作業である単品流し、容器をラインに流す作業である容器供給、口紅の材料を溶解して口紅の中味を作る中味溶解、中味をケースに入れるケース入れ、レーベル貼り、レーベル検査、包装された商品をチェックする作業である車積み、などの工程から成っている。被告Y1社は、被告Y2社に対し、口紅製品の充填・仕上げ・包装業務、セット作業業務及びペンシルの仕上げ・梱包業務を委託していた。

口紅製造ラインの指揮命令系統としては、工場内の各フロアの製造業務を管理するフロアリーダーとラインを動かすラインオペレーターが存在した。フロアリーダーは、被告Y1社の従業員であり、ラインオペレーターも当初は同被告の従業員であったが、後に、被告Y2社の担当するラインについては、同被告の従業員がラインオペレーターを担当するようになった。これらの下に、現場責任管理者が設置され、各ラインごとにラインの責任者としてラインリーダー及び副責任者としてラインサブリーダーが配置された。被告Y2社の業務に関する現場責任管理者並びに被告Y2社の担当するラインのラインリーダー及びラインサブリーダーは、被告Y2社の従業員が担当していた。ラインリーダーは、当日の業務の内容、作業手順を確認したり、ラインのメンバーに指示をしたり、人員の決定をしたり、作業の進捗状況を確認したりし、業務終了後は、当日製造した製品の検品、作業日報の記載をしていた。

イ 被告Y2社

(ア) 被告Y2社は、労働者派遣事業を主な目的とする株式会社である。対応業種は、電気・電子・機械・食品・硝子・物流・倉庫・印刷・繊維・化学・非鉄・金属・鉄鋼・受付・事務・清掃・ホテル業務・自動車部品・パルプ・接客・精密機械等であり、平成18年6月当時、拠点を茨城県つくばみらい市(本社所在地)、福島県いわき市、さいたま市及び千葉県成田市に有しており、従業員数は約1000名であった(証拠<省略>)。

(イ) 被告Y2社は、被告Y1社との間で、平成18年6月1日から同年12月31日までは労働者派遣契約を締結し、平成19年1月1日以降は、業務請負委託契約を締結した。

被告Y2社は、平成18年6月に鎌倉工場に参入する以前から、被告Y1社の久喜工場において同被告と取引があり、同被告から久喜工場での実績を評価されて鎌倉工場に参入することになった。

被告Y2社は、鎌倉工場への新規参入を契機に横浜営業所を開設したが、平成21年4月に閉鎖した。平成21年4月当時、被告Y2社と有期労働契約を締結していた者のうち、鎌倉工場を就労場所とする者は64名であった。

被告Y2社は、平成21年4月当時、91事業所との間で業務委託契約ないし労働者派遣契約を締結しており、被告Y1社鎌倉工場における売上高は、約1300万円で、被告Y2社全体の売上げの約11.7パーセントを占めており、被告Y1社は被告Y2社の最大の取引先であった。

被告Y2社と被告Y1社との間には資本関係及び人的関係はない。

(2)  原告ら

原告らは、いずれも鎌倉工場に通勤が容易な地域に居住する兼業主婦であった者であり、以下に記載したとおり、被告Y2社と労働契約を締結し、鎌倉工場において、派遣労働者ないし請負労働者として勤務していた。原告らは、鎌倉工場において、被告Y1社の製品である口紅を製造するライン作業に従事し、原告X1及び原告X6はラインリーダー、原告X7はラインサブリーダーを務めていた。

また、原告らは、現在、c労働組合(以下「本件労働組合」という。)に所属する労働組合員である(証拠<省略>)。

ア 原告X1

(ア) 原告X1は、平成12年11月から平成17年6月30日までの間、a社と労働契約を締結し、平成13年11月から鎌倉工場において請負労働者として勤務した。原告X1は、その後、平成17年7月1日から平成18年5月31日までの間、b社と労働契約を締結し、鎌倉工場において請負労働者として勤務した。

(イ) 原告X1は、平成18年6月1日から同年12月31日までの間、被告Y2社と派遣労働契約を締結し、鎌倉工場において派遣労働者として勤務した。原告X1は、平成19年1月1日以降、被告Y2社と労働契約を締結し、鎌倉工場において請負労働者として勤務した。原告X1と被告Y2社との上記労働契約は、次のとおりの契約期間で3回更新された。

①平成18年6月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

②平成19年1月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

③平成20年1月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

④平成21年1月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

(なお、上記④の契約期間については、その後同年5月31日までに短縮されたかどうかについて当事者間に争いがある。)

(ウ) 前記④の労働契約の内容は、次のとおりである(証拠<省略>)。

a 契約期間 平成21年1月1日から同年12月31日まで

b 採用区分 期間社員

c 就業場所 鎌倉工場

d 業務内容 口紅製造における充填、検査、包装業務

e 賃金 時給1400円

f 賃金締日 毎月末日

g 賃金支払日 翌月15日

h 定年制 65歳

i 更新 契約終了の30日前に双方より申出のない場合、契約を更新する

(エ) 原告X1の平成20年度の平均月額賃金は、22万5063円であった。

イ 原告X2

(ア) 原告X2は、平成17年11月から平成18年5月31日までの間、b社と労働契約を締結し、鎌倉工場において請負労働者として勤務した。

(イ) 原告X2は、平成18年6月1日から同年12月31日までの間、被告Y2社と派遣労働契約を締結し、鎌倉工場において派遣労働者として勤務した。原告X2は、平成19年1月1日以降、被告Y2社と労働契約を締結し、鎌倉工場において請負労働者として勤務した。原告X2と被告Y2社との上記労働契約は、次のとおりの契約期間で3回更新された。

①平成18年6月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

②平成19年1月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

③平成20年1月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

④平成21年1月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

(なお、上記④の契約期間については、その後同年5月31日までに短縮されたかどうかについて当事者間に争いがある。)

(ウ) 前記④の労働契約の内容は、原告X2の時給が1000円であることを除いては、原告X1と同じである(証拠<省略>)。

(エ) 原告X2の平成21年2月分から同年4月分までの平均月額賃金は、14万6729円であった。

ウ 原告X3

(ア) 原告X3は、平成18年10月17日から同年12月31日までの間、被告Y2社と派遣労働契約を締結し、鎌倉工場において派遣労働者として勤務した。原告X3は、平成19年1月1日以降、被告Y2社と労働契約を締結し、同年6月15日から同年12月24日までの間の休職期間を除き(証拠<省略>)、鎌倉工場において請負労働者として勤務した。原告X3と被告Y2社との上記労働契約は、次のとおりの契約期間で3回更新された。

①平成18年10月17日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

②平成19年1月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

③平成20年1月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

④平成21年1月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

(なお、上記④の契約期間については、その後同年5月31日までに短縮されたかどうかについて当事者間に争いがある。)

(イ) 前記④の労働契約の内容は、原告X3の時給が950円であることを除いては、原告X1と同じである(証拠<省略>)。

(ウ) 原告X3の平成21年2月分から同年4月分までの平均月額賃金は、14万6247円であった。

エ 原告X4

(ア) 原告X4は、平成15年11月から平成17年6月30日までの間、a社と労働契約を締結し、鎌倉工場において請負労働者として勤務した。原告X4は、その後、平成17年7月1日から平成18年5月31日までの間、b社と労働契約を締結し、鎌倉工場において請負労働者として勤務した。

(イ) 原告X4は、平成18年6月1日から同年12月31日までの間、被告Y2社と派遣労働契約を締結し、鎌倉工場において派遣労働者として勤務した。原告X4は、平成19年1月1日以降、被告Y2社と労働契約を締結し、鎌倉工場において請負労働者として勤務した。原告X4と被告Y2社との上記労働契約は、次のとおりの契約期間で3回更新された。

①平成18年6月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

②平成19年1月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

③平成20年1月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

④平成21年1月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

(なお、上記④の契約期間については、その後同年5月31日までに短縮されたかどうかについて当事者間に争いがある。)

(ウ) 前記④の労働契約の内容は、原告X4の時給が950円であることを除いては、原告X1と同じである(証拠<省略>)。

(エ) 原告X4の平成20年度の平均月額賃金は、14万7173円であった。

オ 原告X5

(ア) 原告X5は、平成17年11月1日から平成18年5月31日までの間、b社と労働契約を締結し、鎌倉工場において請負労働者として勤務した。

(イ) 原告X5は、平成18年6月1日から同年12月31日までの間、被告Y2社と派遣労働契約を締結し、鎌倉工場において派遣労働者として勤務した。原告X5は、平成19年1月1日以降、被告Y2社と労働契約を締結し、鎌倉工場において請負労働者として勤務した。原告X5と被告Y2社との上記労働契約は、次のとおりの契約期間で3回更新された。

①平成18年6月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

②平成19年1月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

③平成20年1月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

④平成21年1月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

(なお、上記④の契約期間については、その後同年5月31日までに短縮されたかどうかについて当事者間に争いがある。)

(ウ) 前記④の労働契約の内容は、原告X5の時給が950円であることを除いては、原告X1と同じである(証拠<省略>)。

(エ) 原告X5の平成20年度の平均月額賃金は、13万3099円であった。

カ 原告X6

(ア) 原告X6(旧姓C)は、平成15年3月5日から平成17年6月30日までの間、a社と労働契約を締結し、鎌倉工場において請負労働者として勤務した。原告X6は、その後、平成17年7月1日から平成18年5月31日までの間、b社と労働契約を締結し、鎌倉工場において請負労働者として勤務した。

(イ) 原告X6は、平成18年6月1日から同年12月31日までの間、被告Y2社と派遣労働契約を締結し、鎌倉工場において派遣労働者として勤務した。原告X6は、平成19年1月1日以降、被告Y2社と労働契約を締結し、鎌倉工場において請負労働者として勤務した。原告X6と被告Y2社との上記労働契約は、次のとおりの契約期間で3回更新された。

①平成18年6月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

②平成19年1月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

③平成20年1月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

④平成21年1月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

(なお、上記④の契約期間について、その後同年5月31日までに短縮されたかどうかについては当事者間に争いがある。)

(ウ) 前記④の労働契約の内容は、原告X6の時給が1350円であることを除いては、原告X1と同じである(証拠<省略>)。

(エ) 原告X6の平成20年度の平均月額賃金は、24万2036円であった。

キ 原告X7

(ア) 原告X7は、平成16年5月から平成17年6月30日までの間、a社と労働契約を締結し、鎌倉工場において請負労働者として勤務した。原告X7は、その後、平成17年7月1日から平成18年5月31日までの間、b社と労働契約を締結し、鎌倉工場において請負労働者として勤務した。

(イ) 原告X7は、平成18年6月1日から同年12月31日までの間、被告Y2社と派遣労働契約を締結し、鎌倉工場において派遣労働者として勤務した。原告X7は、平成19年1月1日以降、被告Y2社と労働契約を締結し、鎌倉工場において請負労働者として勤務した。原告X7と被告Y2社との上記労働契約は、次のとおりの契約期間で3回更新された。

①平成18年6月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

②平成19年1月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

③平成20年1月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

④平成21年1月1日から同年12月31日まで(証拠<省略>)

(なお、上記④の契約期間について、その後同年5月31日までに短縮されたかどうかについては当事者間に争いがある。)

(ウ) 前記④の労働契約の内容は、原告X7の時給が1100円であることを除いては、原告X1と同じである(証拠<省略>)。

(エ) 原告X7の平成20年度の平均月額賃金は、18万7371円であった。

(3)  原告らに対する労働契約終了通知

ア 被告Y1社は、被告Y2社に対し、平成21年4月の発注金額が1304万0225円であったところ、同年5月の発注金額を716万9172円に減少させることを通知した。

イ 被告Y2社は、平成21年4月10日、原告らに対し、同年1月1日から同年12月31日までの1年間とされていた労働契約の契約期間について、同年4月1日から5月31日までの2か月間とする新たな労働条件通知書に署名押印をするように求め、原告らはこれに応じ署名(原告X1、原告X4及び原告X6については署名押印)をした(証拠<省略>。以下「本件契約期間短縮の合意」という。ただし、本件契約期間短縮の合意の当事者及び有効性については争いがある。)。

被告Y2社は、同年4月13日、募集期限を同月15日までの3日間として、22名の希望退職者を募ったが、希望退職に応じる者はいなかった。被告Y2社は、さらに、同月15日、募集期間を同月17日までの3日間として再度22名の希望退職者を募ったが、同様に希望退職に応じる者はいなかった。なお、いずれの募集においても、退職に応じることによる上積みの条件は示されていなかった。

ウ 被告Y2社は、同月17日、原告X1、原告X2、原告X3、原告X4及び原告X5(以下「第1グループ原告ら」という。)に対し、被告Y2社の就業規則45条7号の「事業の縮小その他会社のやむを得ない事由がある場合で、かつ、他の職務に転換させることもできないとき」に該当することを理由に、同原告らを同年5月17日付けで解雇する旨の解雇予告通知をした(以下「本件解雇」という。証拠<省略>)。

エ 被告Y2社は、原告X6及び原告X7(以下「第2グループ原告ら」という。)に対し、平成21年5月29日付けで、同月31日をもって、契約期間満了により労働契約が終了する旨を通知した(以下「本件雇止め」という。証拠<省略>)。

(4)  原告らと被告Y2社との間の仮処分手続

ア 原告らは、被告Y2社に対し、本件解雇及び本件雇止めが無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び同地位に基づく賃金(第1グループ原告らについては平成21年5月18日から同年12月31日まで、第2グループ原告らについては同年6月1日から同年12月31日まで)の仮払を求める仮処分申立てをした(当庁平成21年(ヨ)第403号仮地位確認・賃金仮払仮処分申立事件)。同申立てにつき、横浜地方裁判所は、平成21年10月9日、①第1グループ原告らについては、本件解雇は無効であるものの、本件契約期間短縮の合意に基づき雇用契約は同年5月31日に期間満了によって終了したから、同原告らは雇用契約上の権利を有する地位にあるとは認められず、同月18日から31日までの賃金請求権を有することは認められるものの、保全の必要性が認められないとして、同原告らの申立てをいずれも却下し、②第2グループ原告らについては、本件契約期間短縮の合意に基づき雇用契約が平成21年5月31日に契約期間の満了によって終了したから、雇用契約上の権利を有する地位にあることも賃金請求権を有することも認めることができないとして、同原告らの申立てを却下する決定をした(証拠<省略>)。

被告Y2社は、上記仮処分決定の理由中の判断に従い、平成21年10月20日、支払分のなかった原告X4を除く第1グループ原告らに対し、同年5月18日から31日までの間の賃金として合計11万7800円を支払い、同原告らはこれを受領した(証拠<省略>)。

イ 原告らは、上記決定を不服として抗告をした(東京高等裁判所平成21年(ラ)第1972号仮地位確認・賃金仮払仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件)。東京高等裁判所は、平成21年12月21日、第1グループ原告らに対する本件解雇は無効であり、かつ、本件契約期間短縮の合意は著しく不当であるから、被告Y2社が原告らに対し同年5月31日をもって更新を拒絶し雇止めとして労働契約を終了させることは信義則上許されないと判断し、労働契約上の権利を有する地位保全の申立てについては被保全権利は認められるものの保全の必要性が認められないとして却下し、賃金請求権については被保全権利も保全の必要性も認められるとして、被告Y2社に対し、平成21年6月1日から12月31日までの賃金として、原告X1に対し66万7275円、原告X2に対し47万6625円、原告X3に対し45万2793円、原告X4に対し45万2793円、原告X5に対し45万2793円、原告X6に対し64万3443円、原告X7に対し52万4287円の賃金を仮に支払うことを命ずる決定をした(証拠<省略>)。

被告Y2社は、平成22年1月14日、同決定に基づく仮払金として、原告らに対し、上記支払を命じられた金額の合計367万0009円を支払った(証拠<省略>)。

2  争点

(1)  原告らの被告Y1社に対する請求

ア 原告らと被告Y1社との間の労働契約の成否

イ 原告らと被告Y1社との間の本件契約期間短縮合意の有効性

ウ 被告Y1社の第1グループ原告らに対する本件解雇の有効性

エ 被告Y1社の第2グループ原告らに対する本件雇止めの有効性

(2)  原告らの被告Y2社に対する請求

ア 原告と被告Y2社との間の本件契約期間短縮合意の有効性

イ 被告Y2社の第1グループ原告らに対する本件解雇の有効性

ウ 被告Y2社の第2グループ原告らに対する本件雇止めの有効性

(3)  被告らの行為につき不法行為が成立するか否か及び損害額

3  当事者の主張

(1)  争点(1)ア(原告らと被告Y1社との間の労働契約の成否)について

ア 原告らの主張

以下に述べる原告らの鎌倉工場における勤務の実態や被告Y1社の関与状況等に照らすならば、原告らと被告Y1社との間には、規範的・合理的意思解釈として直接の労働契約が成立していた、又は、黙示の労働契約が成立していた、と認めるのが相当である。

(ア) 原告らの就労実態及び被告Y1社の原告らに対する関与状況等

原告らは、鎌倉工場において、被告Y1社の主力商品である口紅の製造業務に従事し、被告Y1社の従業員と全く変わらない技術により、同従業員らと渾然一体となって作業をしてきた。被告Y1社による原告らに対する指揮命令は、細かな作業時間や日々の作業内容等の一挙手一投足にわたるものであり、被告Y1社は、「生産日程表」及び「標準書」を基にした生産統制のシステムの中に原告らを組み込み、直接雇用するのと変わりなく使用してきた。

a 原告らが被告Y1社の基幹的・恒常的業務に従事してきたこと

原告らは、被告Y1社の鎌倉工場において、同社の主力商品であり高品質が要求される口紅の製造に従事してきた。原告らは、熟練した従業員として、特殊かつ高い水準の技術を提供し新商品の試作という商品開発に協力してきたものであり、被告Y1社の基幹的・恒常的業務に従事してきたといえる。

(a) 原告らは、被告Y1社の鎌倉工場において、口紅の製造に従事してきた。鎌倉工場において、口紅製造ラインを担当する派遣会社ないし請負会社は、被告Y2社のみであり、その余は被告Y1社の従業員が担当しており、原告らは、鎌倉工場における口紅製造作業全体のうちの約3分の1の作業を担当していた。

(b) 「検品」及び「中味溶解」

原告らは、口紅製造ラインにおいて、「検品」及び「中味溶解」の作業に従事してきたが、これらの作業は熟練を要する作業であった。すなわち、「検品」は、容器に詰められた口紅に不備がないかどうかを確認する作業であり、原告らは、毎分20本程度の速度で処理することを求められていたため、即時に判断をしなければならず、熟練が求められる作業であった。「中味溶解」は、各ラインに用意された表に従い、製造する口紅の中味を電子レンジにかけ、指定された90度から120度の温度に上げて攪拌し、脱気機械にかけた後、同表で指定された温度まで冷まして恒温槽で保管し、被告Y1社の従業員であるオペレーターからの指示を受けて、恒温槽から中味を取り出してタンクに流し入れるという件業であり、その時間配分について熟練が求められていた。

このように、「検品」及び「中味溶解」の作業は、専門性が高く重要な作業であるため、これらの作業に従事するためには1週間から2週間程度、被告Y1社の従業員が作業するベルトにおいて、被告Y1社の従業員から教育を受けた後、同従業員が実施する「見極め」と呼ばれる作業を行う能力があるか否かに関するテストに合格しなければならなかった。ラインリーダー及びラインサブリーダーになるためには、必ず「検品」の「見極め」に合格していなければならず、原告X1、原告X6及び原告X7は、「検品」の「見極め」に合格していた。また、原告X2は、「中味溶解」の「見極め」に合格していた。

(c) 「中間試験」

原告らは、「中間試験」と呼ばれる、新製品製造の際の作業手順及び作業員数の設定をするためのテストに参加していた。このように、原告らが「中間試験」という重要な局面に参加していたということから、被告Y1社が、原告らを被告Y1社の従業員と同等の技術を持つ者であると評価していたということができる。

b 原告らが被告Y1社から指揮命令を受けていたこと

(a) 指揮命令の構造

原告らが指揮命令を受ける上司としては、最上位に被告Y1社の生産管理グループの従業員がおり、工場内の各フロアには、製造業務を管理するフロアリーダーと、ベルト1台について1名配置されたラインオペレーターがいた。フロアリーダーは、被告Y1社の従業員であり、ラインオペレーターも被告Y1社の従業員であることが多く、原告らは、これらの者から作業内容やトラブルの対処法、ライン作業に関する指示を受けていた。

上記被告Y1社の従業員の下に、被告Y2社の従業員でありラインの責任者であるラインリーダー及び副責任者であるラインサブリーダーが配置されており、ラインリーダーは、被告Y1社の従業員と同様に被告Y1社のパソコンを使って、被告Y1社に対し、生産の進捗状況を報告していた。ラインリーダーである原告X1は、被告Y1社の従業員であるフロアリーダー及び生産管理担当従業員の2名から、製品を製造する順番、製造に当たっての注意、製品の種類の切替えのタイミング、ベルトコンベアのスピードなど、個別の工程について細かい指示を受けていた。

(b) 「標準書」及び「生産日程表」による統制

被告Y1社は、製品ごとに、工程内容、作業内容、作業人員数、実作業時間、準備時間、始末時間、ベルト速度などを決定し、これらを記載した「標準書」を作成し、同「標準書」とリンクする形で、毎月、1日ごとかつベルトごとに、生産する製品、各製品の生産量、工数、作業時間などを決定し、これらを記載した半月ごとの「生産日程表」を作成していた。また、「生産日程表」を基に、被告Y1社の従業員と、被告Y2社の従業員であるラインリーダーとが「旬間」と呼ばれる会議を開催し、半月ごとにどの組がどのベルトを担当するのかを決めて「組別配置表」を作成していた。

被告Y2社の従業員であるラインリーダーは、毎朝、被告Y1社が直接雇用する従業員から翌日製造する製品の「標準書」と「材料見本」を手渡され、「生産日程表」を基に作成された「組別配置表」と「標準書」を基に「工数表」を作成し、自身が担当する組の中の人員を決めていた。

原告らは、「標準書」記載の工数、生産量、ベルト速度等を変更する際には、被告Y1社のフロアリーダーに対し許可申請書を提出し、被告Y1社の許可を得る必要があり、「生産日程表」記載の製造順序を変更する際にも、被告Y1社の許可を得る必要があった。このように、原告らは、「標準書」及び「生産日程表」に拘束されており、被告Y2社が勝手に工数やベルト速度を変えることなどあり得なかった。

(c) 品質専任管理者による指揮命令

被告Y1社の従業員である品質専任管理者は、ラインが稼動している間、常にフロアを巡回しており、完成した製品の品質を確認するだけでなく、製品ごと、色ごとに、1日に何度も作業中のベルトに来て、「標準書」を基に、原告らの作業を見回り、原告らに対し、「標準書」記載の「作業要領」どおりの作業ができているか等の作業内容を確認し指示を出していた。

(d) フロアリーダーによる指揮命令

被告Y1社の従業員であるフロアリーダーは、原告らを含む被告Y2社の従業員であるラインリーダーから「標準書」や「材料見本」どおりの作業ができているかなどの作業に関する不明点や、不良品とすべきか否かなどの確認や判断を求められたときに、確認や判断を行い、原告らに対し、指示を出していた。また、上記フロアリーダーは、生産中にトラブルが発生した際にも、原告らを含む被告Y2社の従業員であるラインリーダーに対し、直接指示をしていた。

(e) ラインペオペレーターによる指揮命令

被告Y1社の従業員であるラインオペレーターは、原告らに対し、指示を出していた。

(f) 時間管理

被告Y1社は、原告らを含む被告Y2社の従業員であるラインリーダーに対して、自ら作成したd票記入マニュアルを渡し、毎日細かい作業時間をd票に記入させ報告させていた。

また、残業には、被告Y1社が作成した「生産日程表」にあらかじめ記載されている「計画残業」と、トラブルが発生し「生産日程表」で設定した作業時間を超えて作業を行う必要が発生した際に労働時間を超過して作業を行う「トラブル残業」の2種類があるところ、いずれの残業についても、被告Y2社の独自の判断で行うことはできず、原告らは、被告Y1社の命令によって残業をしていた。

(g) 教育

被告Y1社は、原告らを含む被告Y2社の従業員に対し、「検品」や「中味溶解」の「見極め」と呼ばれるテストを行うほか、直接に教育を行っていた。

c 原告らが被告Y1社から直接雇用された従業員と混在して就労してきたこと

(a) ベルト

原告らを含む被告Y2社の従業員は、同被告が専用で使用するベルトである固定ベルトで作業することはあったものの、完全な固定ベルトというものは存在せず、担当するベルトは日替わりで変わる状態だった。したがって、原告らが使用していたベルトを次の日には被告Y1社の従業員が使うことも、被告Y1社の従業員が使用していたベルトを次の日には原告らが使うこともあった。

また、原告らを含む被告Y2社の従業員は、被告Y1社の従業員と同じベルトの中で作業をすることもしばしばあった。

(b) 施設利用及び作業服

原告らを含む被告Y2社の従業員は、鎌倉工場の食堂について、被告Y1社の従業員と同様に利用することができ、工場内で着用する作業服及び帽子は被告Y1社の従業員と同様の被告Y1社のロゴ(「Y1社」)が入ったものであった。

(c) 形骸化した賃貸借契約

被告Y1社は、被告Y2社に対し、鎌倉工場内の事務所、設備、使用機械、器具及び作業服等を賃貸していたものの、その賃料は総額で月5万4000円と極めて安かった。したがって、被告Y1社と被告Y2社との間の上記賃貸借契約は、業務請負委託契約の形式を作出する意図で締結された形骸化したものであったといえる。

(d) 「中味溶解」

「中味溶解」の担当者は、その日担当していたベルトの翌日の中味を準備することになっており、被告Y2社の従業員が使用していたベルトを翌日に被告Y1社の従業員が使用することもあったため、原告らが準備した中味を被告Y1社の従業員が使うこともあった。また、鎌倉工場内には、「中味溶解」の担当者が作業をするコーナーがあり、原告らを含む被告Y2社の従業員と被告Y1社の従業員は、区別なく同コーナーを利用していた。

(e) 労働時間

原告らを含む被告Y2社の従業員と被告Y1社の従業員とは、就業時間のみならず、朝礼の時間やラジオ体操を行う時間までもが同じであった。

d 被告Y2社の関与が形骸化していたこと

(a) 採用

鎌倉工場の口紅製造ラインで働いていたb社の従業員は、被告Y2社が鎌倉工場に参入した際、辞退者1名を除いて全員が被告Y2社に移籍した。平成18年5月8日及び9日に行われた被告Y2社の採用説明会には、鎌倉工場で働いていたb社の従業員以外の者は参加しておらず、その内容も、個別面談ではなく、全体に対する説明を15分程度行い、参加者自身で採用内定通知書の名宛人欄に自分の名前を記入し、そのまま参加者に持ち帰らせるという、採用を前提とした形式的なものにすぎなかった。原告らは、採用内定通知書を説明会当日に受け取っており、説明会当日に採用が内定していた。原告らの労働条件は、b社在籍当時に支給されていた皆勤手当及び職務手当を組み入れた時給金額となっており、その他の労働条件はb社在籍当時と全く同じだった。このように、原告らの時給を含めた労働条件は、b社在籍当時と被告Y2社在籍当時とで同じであることから、被告Y1社が、被告Y2社に対し原告らの賃金額を教示するなど、b社から被告Y2社への一斉移籍を主導していた可能性が高い。

(b) 契約締結・更新手続

原告らと被告Y2社との間の契約締結・更新手続は、契約書記載の契約締結日を半年も遡らせることもあるなど極めてずさんで形骸化したものであった。

(c) 業務請負委託契約書

被告Y2社は、被告Y1社とa社との間の業務請負委託契約において作成されていた契約書(証拠<省略>)の記載内容をほとんど変更することなく、被告Y1社と業務請負委託契約を締結した際に、業務請負委託契約書(証拠<省略>)としてそのまま用いている。これは、被告Y1社がa社との間の業務請負委託契約書の記載内容を十分に検討せず、被告Y2社との間の業務請負委託契約書にも利用したものと考えられることから、被告Y1社が原告らの被告Y2社への移籍を主導していた可能性が高い。

(d) 指揮命令

被告Y2社が被告Y1社と業務請負委託契約を締結した平成19年1月以降は、原告らに対する指揮命令は上司であり現場管理責任者である被告Y2社の従業員である事業所管理者のD(以下「D」という。)が行うことになっていたものの、実際には、原告らがDから作業に関する指示を受けることはほとんどなかった。

e 原告らの就労実態は変わっていないこと

原告らは、早い者では平成13年11月から、遅い者でも平成18年10月から鎌倉工場で働き始めた。この間、原告らの地位は請負→派遣→請負と変化し、a社、b社、被告Y2社と、原告らの法形式上の契約締結先は変化してきたが、その就労実態は一切変わらなかった。

(イ) 原告らと被告Y1社との間の労働契約の成立

a 規範的・合理的意思解釈による期間の定めのない労働契約の成立

(a) 労働法制においては、直接雇用・常用雇用が原則であり、この原則の例外である労働者派遣は、直接雇用・常用雇用を侵害しない一時的・臨時的な労働に限定して認められ、これに反する労働者派遣は違法である(派遣による常用代替の禁止)。それにもかかわらず、企業が最初から常用代替として労働者を利用する意図を持っていたときは、解雇権濫用法理を潜脱する目的を有しているというべきであり、このような法形式利用を許すべきではない。偽装派遣(実態は派遣先の常用労働であるのに、直接雇用をすれば解雇権濫用法理による厳しい解雇規制が課されるため、潜脱目的で派遣労働の形式を仮装したもの。)又は偽装請負に関しては、法形式をそのまま維持することは正義に反するため実態に即した法解釈を行うべきである。

したがって、①発注者又は派遣先が、請負労働者又は派遣労働者を、自社の工場内で指揮命令し、労働の提供を受けていること、②請負労働者又は派遣労働者が、発注者又は派遣先の工場内で、発注者又は派遣先の指揮命令下で労働していることを認識していること、③発注者又は派遣先が、請負労働者又は派遣労働者に対し、請負会社又は派遣元を通じて労働の対価としての賃金を支払う意思を有し、実際に支払っていること、④請負労働者又は派遣労働者が、発注者又は派遣先から、請負会社又は派遣元を通じて、労働の対価としての賃金を受け取っていたと認識していること、⑤発注者又は派遣先が、請負会社又は派遣元と、請負契約又は労働者派遣契約を締結する際、解雇権濫用法理潜脱目的を有していたこと、という①ないし⑤の要件が認められるときには、労働者と発注者ないし派遣先との間に労働契約が成立していると解するべきである。

以上の規範的・合理的解釈は、労働契約法6条、同法16条、職業安定法44条及び労働基準法6条の趣旨並びに公序良俗(民法90条)、信義則(労働契約法3条4項、民法1条2項)及び禁反言を根拠とするものである。

(b) 前記(ア)のとおり、原告らの就労実態は被告Y1社の従業員と同様であったこと、原告らは、a社、b社、被告Y2社と形式的な契約相手が変わりながらも、一貫して被告Y1社の鎌倉工場において勤務してきたこと、原告らのb社から被告Y2社への移籍についても、被告Y1社が主導したものであったこと、原告らは、被告Y1社から直接指揮命令を受け、賃金についても実質的には被告Y1社が決定し、被告Y1社が支払っていたこと、に照らせば、被告Y1社が原告らを直接雇用すれば負うことになる解雇権濫用の法理の制限を潜脱する目的を有していたことは明らかであり、前記①ないし⑤の要件を満たす。したがって、原告らと被告Y1社との間には、規範的・合理的意思解釈によって労働契約が成立していると解すべきである。

(c) 前記のとおり、原告らと被告Y1社との間には、規範的・合理的意思解釈によって労働契約が成立していると解すべきところ、同労働契約の成立時期は、被告Y1社が解雇権濫用法理の潜脱目的を持って原告らを業務に就かせたとき、すなわち原告らが鎌倉工場で業務を開始したとき、若しくは、被告Y1社の脱法目的が被告Y2社を関与させることにより明確化・先鋭化した平成18年6月と解すべきである。さらに、上記労働契約は、原告らの就労実態が被告Y1社の常用労働者と同じであることから、期間の定めのない労働契約であると解すべきである。

b 黙示の労働契約の成立

(a) 原告らと被告Y2社との間の労働契約が無効であること

原告らと被告Y2社とが平成18年6月1日から同年12月31日までの間に締結していた派遣労働契約及び平成19年1月1日以降に締結していた労働契約は、当初から被告Y1社が解雇権濫用法理を潜脱する目的で締結したものであり、その違法は重大であること、被告らの脱法目的は明らかであること、仮に上記契約を無効としたとしても取引の安全を害さないこと、上記契約を無効とすることは労働者保護の要請に合致すること、を総合すると、最高裁平成21年12月18日第二小法廷判決(民集63巻10号2754頁。以下「松下PDP最高裁判決」という。)における「特段の事情」が存在するということができるから、無効である。

(b) 松下PDP最高裁判決によれば、派遣先と派遣労働者との間に黙示の労働契約が認められるための要件は、①派遣先が派遣労働者の採用に関与していること、②派遣先が給与額などを事実上決定していたこと、③派遣元が派遣労働者の配置を含む具体的就業態様を決定していないこと、である。本件では、前記(ア)のとおり、原告らの時給額はb社から被告Y2社に移籍した際にも変わらなかったこと、被告Y1社が被告Y2社に対して支払った請負代金から一定のマージンを控除した金額がそのまま原告らに対して支払われていたこと、原告らは形式的契約当事者の変更にもかかわらず一貫して鎌倉工場において同じ業務に従事し被告Y1社から指揮命令を受けてきたこと、などを総合すると、被告Y1社が原告らをb社から被告Y2社に移籍させることを主導し、被告Y2社の関与は形式的なものにすぎないということができるから、上記①ないし③の要件を満たす。したがって、原告らと被告Y1社との間には、黙示の意思表示によって労働契約が成立しているといえる。

(c) 黙示の労働契約の内容については、契約当事者以外の部分について、形式的に締結された労働契約と別異の内容の契約が締結されたと解する理由はないので、原告らと被告Y2社との間で締結され労働契約の内容と同一であると解することとなる。具体的には、原告と被告Y2社との間で締結された、契約期間を平成21年1月1日から同年12月31日までとする労働契約がその内容となり、同契約については、平成22年以降も毎年更新されていると解される。

イ 被告Y1社の主張

被告Y1社と原告らとの間に労働契約は成立しておらず、原告らの雇用主は被告Y2社であるから、原告らの被告Y1社に対する労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び平成21年6月以降の賃金請求は棄却されるべきである。

(ア) 原告らの就労実態及び被告Y1社の原告らに対する関与状況等

被告Y1社は、原告らの採用、賃金額の決定・支払、配属等の労働条件の決定、指揮命令に関与していない。原告らの就労実態が偽装派遣ないし偽装請負であるとの原告らの主張は、争う。

a 原告らの従事していた業務は単純作業にすぎないこと

被告Y1社が被告Y2社に対して発注していた業務は、口紅の充填仕上げ工程であって、その内容は、被告Y1社の製造グループが製造したポット入りの口紅の中味を大型電子レンジに入れて溶解し、充填機に流し込むことで口紅の容器に充填し、充填された容器について検品するというものである。上記業務は、複雑な知識や経験を要するものではなく、慣れれば誰でもできるような作業であり、被告Y1社の従業員が行っていた口紅の色味を決める材料の作成のような、難易度が高く、技術的にも高い水準が要求される業務とは大きく異なっていた。

b 被告Y1社は原告らに対して指揮命令をしていないこと

(a) 被告Y1社は、被告Y2社が鎌倉工場に参入した当初である平成18年6月から同年12月までの間、被告Y2社と労働者派遣契約を締結していた。被告Y1社は、上記期間においては、原告らを含む被告Y2社の従業員に対し、細かく指揮命令を行うこともできたものの、上記期間は被告Y2社が業務請負を行う体制を整えるための準備期間であったため、上記期間においても細かく作業内容についての指揮命令を行うことはなかった。

(b) 「検品」及び「中味溶解」

被告Y1社は、被告Y2社に新たな業務を発注する場合、原告らを含む被告Y2社の従業員に対し、技術指導をすることがまれにあった。しかしながら、被告Y2社は、この際、従業員の中から技術指導を受ける者を選び、その者だけが被告Y1社から技術指導を受けており、被告Y1社が被告Y2社の各従業員に対し、個別に技術指導を行うことはなかった。原告らの主張する「検品」及び「中味溶解」の作業についても、被告Y1社は、被告Y2社の依頼を受け、被告Y2社が選定した従業員に対し、「検品」及び「中味溶解」の作業について指導し、技術指導が十分に行われたと判断したときに、その旨を被告Y2社に対して伝えていたにすぎず、被告Y1社が被告Y2社の従業員をテスト(「見極め」)していたわけではない。また、被告Y2社は、その後、独自に「検品」及び「中味溶解」の作業について教育指導及びテスト(「見極め」)をすることが可能になったため、被告Y2社内で「検品」及び「中味溶解」の作業が行われるようになり、被告Y1社は、それ以降、被告Y2社の上記作業に全く関与しなくなった。

(c) ラインリーダー

被告Y2社のラインリーダーは、通常、ラインの中に入って作業することはなく、ラインの責任者として、ライン内の作業者の配置を決定したり、製品の生産順序を決定したり、作業者の作業内容をチェックしたりしていた。被告Y2社の管理責任者であるDの不在時には、被告Y2社のラインリーダーが被告Y1社のフロアリーダーに対して、直接相談や確認をしてもよいということになっていた。もっとも、被告Y2社のラインリーダーは、品質及び作業内容について熟知し、独自の判断で業務を行うことができていたから、実際は、ラインの生産が遅れた際に、被告Y1社のフロアリーダーに相談する程度であって、被告Y1社の被告Y2社のラインリーダーに対する関与は、当日生産する製品の発注、納品及び品質管理に関するやり取りにすぎず、具体的な作業内容や労働時間の配分までも指示するものではなかったから、指揮命令には当たらない。

(d) 「中間試験」の報告、毎日の進捗状況の報告、トラブルの報告及び「標準書」の変更の報告

被告Y1社は、被告Y2社に対して、新製品を発注する際の新製品の製造過程における問題点の確認(「中間試験」の報告)、コンピューターへの入力による毎日の進捗状況の報告、トラブルの報告、トラブルの原因の報告、再発防止策の報告、被告Y1社作成の「標準書」を変更して業務を行う場合の報告、を求めていたものの、これらは、いずれも発注会社である被告Y1社が受注会社である被告Y2社に対して、生産量及び品質確保等の観点から求めたものである。被告Y2社内では、管理責任者及びラインリーダーが自ら上記報告書等を作成し、同人らを通じて提出されたものであるから、被告Y1社は被告Y2社の従業員に対し、指揮命令をしていたわけではない。

(e) 残業

被告Y2社のラインリーダーは、担当ラインの作業員の配置や生産順序を決定し、その際、被告Y1社の交付する生産日程表に記載されている工数や生産時間にかかわらず、被告Y2社が独自に工数や生産時間を決めていた。具体的には、被告Y2社は、独自の工数表(証拠<省略>)を作成する際に、管理責任者であるDが「スタート時間」「工数」「残業時間」を決定し、その後、現場で随時、ラインリーダーが生産時間を決めて対応していた。残業が必要になると、被告Y2社のラインリーダーは、被告Y1社のフロアリーダーに対して、残業をすることを報告していたが、これは鎌倉工場の管理者である被告Y1社に対する施設管理上の報告にすぎず、被告Y1社が被告Y2社の残業の可否を判断したことはなかった。

(f) 生産計画会議

鎌倉工場においては生産計画会議が毎月2回行われていたものの、同会議には被告Y1社の従業員のみが参加し、被告Y2社の従業員は一切出席していなかった。被告Y1社の生産管理グループ担当者は、被告Y2社の管理者に対して、生産計画会議の結果として、旬間予定を伝えていた。

c 被告Y1社は原告らの採用に関与していないこと

被告Y1社は、b社との間の業務請負委託契約を解除して、平成18年6月から被告Y2社との間で労働者派遣契約を締結したものの、原告らがb社から被告Y2社に移籍することには一切関与していない。原告らが鎌倉工場において勤務し続けたのは、被告Y2社が、被告Y1社と平成18年6月に労働者派遣契約を締結するに際し、新聞の折り込み広告や求人雑誌に求人広告を掲載するほか、b社の従業員に対しても会社説明会を開催し、面接等をした上で採用を決定した結果にすぎない。原告らの被告Y2社における業務内容、賃金額等を決定したのは、被告Y1社ではなく、被告Y2社である。

d 被告Y2社は被告Y1社から独立した存在であったこと

(a) 被告Y2社の本社は、茨城県つくばみらい市にあり、鎌倉工場にある横浜営業所以外にも営業所や事業所を各地に有していた。被告Y2社は、平成21年4月時点では、91事業所との間で請負契約ないし労働者派遣契約を締結しており、被告Y1社との間の売上げは、被告Y2社全体の売上の約11.7パーセントにとどまる。また、被告Y2社は、被告Y1社と資本関係及び人的関係を全く有していなかった。

(b) 原告らを含む被告Y2社の従業員の成績評価は、管理者であるDの評価、ラインリーダーの評価及び自己評価の3つがセットになって行われ、被告Y2社内における成績評価によって賃金が増減することがあった。原告X1は、ラインリーダーとして被告Y2社の従業員を評価し、同人らに対し、成績評価に関する書類を交付していた。

(c) 被告Y2社のラインリーダーは、他の従業員に対して、検品教育、ラインサブリーダー教育、検品抜き打ちチェック、「中味溶解」教育、ラインオペレーター教育を行い、教育終了時に「見極め」を行い、合格、不合格を判断していた。このように、被告Y2社は、独自に請負作業員の作業教育及び合否判断(「見極め」)を行う能力があった。

被告Y2社は、平成21年4月頃、ラインリーダーを6名から7名に増やすことを検討しており、その際の候補者の選定及びラインリーダーへの任命は被告Y2社が行っており、被告Y1社は一切関与していなかった。

(d) 被告Y2社は、被告Y1社から工数や生産時間が記載された「標準書」を受け取っていたものの、上記「標準書」に拘束されずに、独自の工数表を作成し、管理責任者であるDが「スタート時間」「工数」「残業時間」の大枠を決定し、その後、ラインリーダーが、現場で随時、生産時間を決めて対応していた。被告Y1社は、被告Y2社に対し、ベルトコンベアのスピード等の細かい指示を与えたことはない。

(e) 鎌倉工場においては、被告Y1社の従業員が働くラインと、原告ら被告Y2社の従業員が働くラインは明確に区別されていた。原告らも、被告Y1社の従業員と同様に「Y1社」のロゴの入った制服を着用していたものの、刺繍又はバッジによって被告Y1社の従業員と区別できるようになっていた。

(イ) 原告らと被告Y1社との間の労働契約の成否

原告らと被告Y1社との間に労働契約が成立しているとの原告らの主張は、争う。被告Y1社は、原告らと労働契約を締結したことは一度もない。

a 規範的・合理的意思解釈による期間の定めのない労働契約の成否

原告らの前記(1)ア(イ)a(a)①ないし⑤の要件が満たされれば、労働契約が成立するとの主張は、主張自体失当である。

前記①及び②の事実は、労働者派遣契約においては、当然のことであり、何ら直接の労働契約関係を基礎付けるものではない。また、業務請負委託契約関係においても、前記①及び②の事実のみでは発注者と請負労働者との間に労働契約の成立が認められないことは松下PDP最高裁判決からも明らかである。前記③及び④の事実は、いわゆる「実質的な賃金支払関係」のことを意味していると考えられるが、「実質的な賃金支払関係」が認められるためには、発注者又は派遣先が、請負会社又は派遣元から請負労働者又は派遣労働者に支払われる賃金等の額を事実上決定していた等の事情が必要であり、当事者の認識や賃金原資の事実上の流れのみによって認められるものではない(松下PDP最高裁判決参照)。したがって、原告らの主張する前記③及び④の事実のみでは労働契約の成立に不十分である。

前記⑤の事実は、主観的な意図であり、このような意図が労働契約成立の根拠とならないことは明らかである。なお、被告Y1社は、各請負会社の規模、強い業種、顧客関係、経営方針、社風及び実績等を勘案して請負会社に業務を発注しており、解雇権濫用法理を潜脱する目的で請負業者に業務を発注したことはない。

b 黙示の労働契約の成否

前記(1)ア(イ)b(b)①ないし③の要件が満たされれば、派遣先と派遣労働者との間に、黙示の労働契約が認められるとの原告らの主張は、一般論としては認める。本件において、被告Y1社と原告らの間に黙示の意思表示によって労働契約が成立しているとの原告らの主張は、争う。

ウ 被告Y2社の主張

被告Y2社は、被告Y1社からb社の従業員を引き継ぐように指示を受けたことはなく、独自に採用活動を行った結果、原告らを含むb社の従業員を採用したものである、また、被告Y2社は、鎌倉工場において、独自に工数を調整するなどしており、被告Y1社から自立した存在であり、平成19年1月以降の業務請負委託契約時は、被告Y1社から指揮命令を受けていなかった。

(ア) 原告らの被告Y2社への移籍の経緯

被告Y2社は、被告Y1社と労働者派遣契約を締結し鎌倉工場に労働者を派遣するに当たり、平成18年4月下旬から随時、新聞の折り込み求人広告を用いて労働者の募集を行った。原告らは、被告Y2社が指定した面接受付票に必要事項を記入して上記募集に応募したため、被告Y2社は、b社に在籍していない一般の採用者と併せて、原告らに対し、同年5月8日及び9日に面接を行った。原告らは、被告Y2社に対し、通常の入社の際に被告Y2社が要求している誓約書及び履歴書を提出しており、通常の採用過程を経ており、上記採用過程に被告Y1社の関与はない。被告Y2社は、原告らを採用しないことも可能であったが、原告らが採用希望を述べ採用希望申込書を提出したため、面接の上、採用することを決定したのであり、被告Y1社から原告らを採用するように指示されたことはない。現に、被告Y2社が採用した者の中には、b社と無関係な者もいるし、b社に在籍し鎌倉工場で勤務していたにもかかわらず被告Y2社に採用されなかった者もいる。

したがって、原告らは、雇用主を被告Y1社ではなく、被告Y2社であると認識していたはずである。

(イ) 原告らの就労実態

被告Y1社が、原告らに対し、指揮命令をしていたとの原告らの主張は、原告らが被告Y2社の派遣労働者として鎌倉工場に勤務していたときを除いて、否認する。また、被告Y1社が、原告らの実質的労働条件を決定していたとの原告らの主張は、否認する。原告らの労働条件を決定していたのは雇用主である被告Y2社である。

被告Y2社は、被告Y1社から「材料見本」と「標準書」を受領していたものの、被告Y2社は、上記「標準書」に拘束されることなく、独自の工数表を作成し、ラインのスピード等を変更した上で作業を行っていた。被告Y2社の従業員で管理者であるDは、鎌倉工場内の事務所に常駐し、生産管理・品質管理・安全管理・労務管理の業務を行っており、現場における生産管理・品質管理は被告Y2社の従業員である工程管理者が中心となり、被告Y2社の従業員であるラインリーダーやラインサブリーダーとともに担当していた。品質管理や作業中のミス・トラブルが発生した際、被告Y1社の限度見本と照合し、ラインリーダーが第一次的には判断していたが、ラインリーダーによる判断が難しいときは、工程管理者に報告し、工程管理者が被告Y1社の担当者と協議し、その協議の結果を受けて、ラインリーダーやラインサブリーダーに指示を出していた。

(ウ) 契約の更新手続

原告らは、被告Y2社の契約手続がずさんであったと主張するが、同主張は争う。平成20年6月に契約期間中にもかかわらず、再び契約書を作成したのは、時給の増額者が一部に生じたため、増額対象者でない者との軋轢が生じるのを回避するため、全員について契約書の作成を行ったにすぎない。

(2)  争点(1)イ(原告らと被告Y1社との間の本件契約期間短縮の合意の有効性)について

ア 原告の主張

本件契約期間短縮の合意は、原告らと被告Y1社との間の労働契約の成立を前提とし、被告Y1社が被告Y2社を通じて同契約期間を短縮させたものである。

本件契約期間短縮の合意は、原告らと被告Y1社との間の契約期間を平成21年12月31日までとされていたのを同年5月31日までに変更するものであるところ、被告Y1社が、原告らに対して、契約期間途中の厳格な解雇制限(労働契約法17条)を免れ、同日をもって雇止めをする意図を有していたにもかかわらず、これを隠し、原告らにじっくりと検討する期間を与えずに同合意を含む契約書に署名等をさせたものであり、原告らの中には、契約期間が短縮されることに気付かない者もいた。また、被告Y1社は、上記合意の際、原告らに対し、上記契約期間満了後には、契約が更新されないことがあり得るという説明を行っていないため、原告らは、契約期間の変更を行っても、従来と同様に契約が更新されると誤解をしていた。本件契約期間短縮の合意は、こうした状態を利用して行われたものである。原告らは、これまで被告Y2社との間で3回契約を更新しており、b社やa社在籍時も通算するとさらに多くの回数契約を更新してきたため、被告らが、更新に関して何ら説明を加えていない以上、従前どおり契約が更新されると信じるのが自然であった。さらに、被告Y1社においては、労働条件通知書の作成がずさんで、日付を遡らせたり、同一期間に2回契約書を作成したりしたこともあったため、原告らは、同年5月31日までに契約期間を変更することについて、特段の意味があるとは考えず、今後も更新があることを当然の前提として同意した。

したがって、原告らと被告Y1社との間の本件契約期間短縮の合意は、錯誤(民法95条)、公序良俗違反(民法90条)及び労働契約法17条1項違反に当たり、無効である。仮に、本件契約期間短縮の合意が無効であると判断されないとしても、同合意は被告らの詐欺(民法96条)によってされたものであるといえるから、原告らは、同合意に係る意思表示を取り消す。

イ 被告Y1社の主張

原告らの主張は否認ないし争う。

(3)  争点(1)ウ(被告Y1社の第1グループ原告らに対する本件解雇の有効性)について

ア 第1グループ原告らの主張

(ア) 前記(1)のとおり、第1グループ原告らと被告Y1社との間には、規範的・合理的意思解釈又は黙示の意思表示により労働契約が成立している。したがって、第1グループ原告に対する本件解雇は、被告Y2社が第1グループ原告らに対し、解雇の意思表示をしている形式になっているものの、第1グループ原告らを解雇することを決定したのは被告Y2社に対し減産通告を行った同原告らの雇用主である被告Y1社であるから、本件解雇は、被告Y1社による同原告らに対する解雇として位置付けられる。

a 規範的・合理的意思解釈による期間の定めのない労働契約の場合

第1グループ原告らと被告Y1社との労働契約が、規範的・合理的意思解釈によって成立したと判断された場合は、同労働契約は、期間の定めのない労働契約となるから、本件解雇は、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利濫用として無効となる(労働契約法16条)。

b 黙示の労働契約の場合

第1グループ原告らと被告Y1社との労働契約が、黙示の意思表示によって成立したと判断された場合は、同労働契約の契約期間は、平成21年1月1日から同年12月31日までとなるから、本件解雇は、期間の定めのある労働契約の中途解雇ということになり、やむを得ない事由がなければ無効である(労働契約法17条1項)。

なお、契約期間を同年5月31日までに変更する本件契約期間短縮の合意の有効性については争いがあるが、仮に本件契約期間短縮の合意が有効であったとしても、本件解雇は中途解雇であるから、やむを得ない事由がなければ解雇が無効であることは同様である。

(イ) 整理解雇4要件

被告Y1社による本件解雇は、整理解雇4要件に照らし、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、やむを得ない事由があるとも認められないから、無効である。

a 人員削減の必要性

被告Y1社の平成21年3月期(平成20年4月から平成21年3月まで)の連結業績は、売上高は6902億5600万円、経常利益は520億6100万円、純利益は193億7300万円であった。株式配当については、平成20年同期の配当額(1株当たり34円)の1.5倍に相当する1株当たり50円の配当を行った。年間の配当総額は、平成20年度が137億3000万円だったのに対し、平成21年度は201億4800万円と増配した。さらに、平成22年3月期(平成21年4月から平成22年3月まで)の連結業績は、売上高は6442億0100万円、経常利益は514億8500万円、純利益は336億7100万円であった。このように、平成20年秋のリーマンショック以降、自動車、電機業界を中心として大規模な生産調整とこれを契機とした非正規労働者の解雇・雇止めが大量に行われ、社会問題になったのに対し、消費財である化粧品業界においては、これまでと同様の売上げと利益が確保されていた。とりわけ、平成21年度においては、前年よりも増配しているのであり、被告Y1社においては、経営が好調で人員削減の必要性がなかったことは明らかである。

b 解雇回避努力義務

被告Y1社が、被告Y2社を通じて行った希望退職者募集は、いずれも募集期間が3日間と短く、退職金の上積み等がない形だけのものであり、到底解雇回避努力義務を尽くしたとはいえない。

c 人選の合理性

被告らの示す人選基準は、出勤率が下位であること又はフルタイマーで勤続6か月以下であることである。しかしながら、被告Y1社ないし被告Y2社においては時季変更権が濫用されているため、第1グループ原告らは、有給を不当に認めてもらえずに、本来は有給とするべきところを欠勤扱いとされたことも多々あるので、出勤率を人選基準とすること自体不合理である。また、同基準によるとしても、第1グループ原告らよりも出勤率が下位である者が解雇対象外である等、適切に同基準が適用されたかどうか疑わしい。

d 手続の妥当性

被告Y1社は、原告らに、整理解雇の理由を一切説明しておらず、被告Y2社を通じても、一人当たりわずか数分のみという不十分な説明しか行っていない。また、原告らの加盟する本件労働組合と被告Y2社との間の団体交渉は、3度目で一方的に破棄され、現在も拒絶され続けている。

(ウ) よって、第1グループ原告らは、被告Y1社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、労働契約に基づき、次のとおり賃金の支払を求める。

a 原告X1

原告X1の1か月当たりの賃金の額については、平成20年度の賃金の平均額である22万5063円とするべきである。したがって、被告Y1社は、原告X1に対し、平成21年6月以降、賃金として毎月22万5063円を支払わなければならない。

よって、原告X1は、被告Y1社に対し、平成21年6月分から平成22年4月分までの賃金合計247万5693円及びこれに対する平成22年7月15日(同被告に対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金並びに平成22年6月以降判決確定の日まで毎月15日限り22万5063円及びこれに対する各支払期日の翌日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

b 原告X2

原告X2の1か月当たりの賃金の額については、本件解雇前3か月分の賃金の平均額である14万6729円とするべきである。したがって、被告Y1社は、原告X2に対し、平成21年6月以降、賃金として毎月14万6729円を支払わなければならない。

よって、原告X2は、被告Y1社に対し、平成21年6月分から平成22年4月分までの賃金合計161万4019円及びこれに対する平成22年7月15日(同被告に対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金並びに平成22年6月以降判決確定の日まで毎月15日限り14万6729円及びこれに対する各支払期日の翌日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

c 原告X3

原告X3の1か月当たりの賃金の額については、本件解雇前3か月分の賃金の平均額である14万6247円とするべきである。したがって、被告Y1社は、原告X3に対し、平成21年6月以降、賃金として毎月14万6247円を支払わなければならない。

よって、原告X3は、被告Y1社に対し、平成21年6月分から平成22年4月分までの賃金合計160万8717円及びこれに対する平成22年7月15日(同被告に対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金並びに平成22年6月以降判決確定の日まで毎月15日限り14万6247円及びこれに対する各支払期日の翌日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

d 原告X4

原告X4の1か月当たりの賃金の額については、平成20年度の賃金の平均額である14万7173円とするべきである。したがって、被告Y1社は、原告X1に対し、平成21年6月以降、賃金として毎月14万7173円を支払わなければならない。

よって、原告X1は、被告Y1社に対し、平成21年6月分から平成22年4月分までの賃金合計161万8903円及びこれに対する平成22年7月15日(同被告に対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金並びに平成22年6月以降判決確定の日まで毎月15日限り14万7173円及びこれに対する各支払期日の翌日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

e 原告X5

原告X5の1か月当たりの賃金の額については、平成20年度の賃金の平均額である13万3099円とするべきである。したがって、被告Y1社は、原告X5に対し、平成21年6月以降、賃金として毎月13万3099円を支払わなければならない。

よって、原告X5は、被告Y1社に対し、平成21年6月分から平成22年4月分までの賃金合計146万4089円及びこれに対する平成22年7月15日(同被告に対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金並びに平成22年6月以降判決確定の日まで毎月15日限り13万3099円及びこれに対する各支払期日の翌日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

イ 被告Y1社の主張

原告らの主張は否認ないし争う。

(4)  争点(1)エ(被告Y1社の第2グループ原告らに対する本件雇止めの有効性)について

ア 第2グループ原告らの主張

(ア) 前記(1)のとおり、第2グループ原告らと被告Y1社との間には、規範的・合理的意思解釈又は黙示の意思表示により労働契約が成立している。したがって、本件雇止めは、形式的には、被告Y2社が第2グループ原告らに対し、雇止めの意思表示をしているものの、第2グループ原告らを雇止めすることを決定したのは当然に雇用主である被告Y1社であるから、本件雇止めは、被告Y1社による第2グループ原告らに対する雇止めとして位置付けられる。

a 本件契約期間短縮の合意が無効であった場合

前記(2)のとおり、本件契約期間短縮の合意は無効であるから、本件雇止めの実質は、被告Y1社による第2グループ原告らに対する契約期間途中の解雇である。

第2グループ原告らと被告Y1社との労働契約が、規範的・合理的意思解釈によって成立したと判断された場合は、同労働契約は、期間の定めのない労働契約となり、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、権利濫用として本件雇止めは無効となる(労働契約法16条)。

第2グループ原告らと被告Y1社との労働契約が、黙示の意思表示によって成立したと判断された場合は、同労働契約は平成21年12月31日までの期間の定めのある労働契約となり、本件雇止めの実質は、期間の定めのある労働契約の中途解約ということになり、やむを得ない事由がなければ無効である(労働契約法17条1項)。

b 本件契約期間短縮の合意が有効であった場合

仮に、本件契約期間短縮の合意が有効であった場合は、第2グループ原告らと被告Y1社との間の労働契約は平成21年5月31日までとなる。しかしながら、第2グループ原告らと被告Y2社との間の労働条件通知書には定年制の定めとして65歳と記載されていること、自動更新条項が記載されていたこと、契約手続はずさんであり更新の都度原告らの意思が確認されていたわけではないこと、平成18年6月に労働契約を締結して以降3回にわたって労働契約を更新したこと、a社、b社在籍時から一貫して鎌倉工場に勤務し続けてきたこと、などにより、第2グループ原告らと被告Y1社との間の契約が、実質的に期間の定めのない契約となっており、そうでないとしても、契約更新に対しての合理的期待が生じていたといえる。したがって、解雇権濫用の法理が類推適用され、客観的に合理性な理由を有し社会通念上相当であると認められない場合は、本件雇止めは権利濫用として無効になる。

(イ) 整理解雇4要件

前記(3)ア(イ)のとおり、整理解雇4要件に照らすならば、本件雇止めには、やむを得ない事由があるとは認められず、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であるとも認めることもできないから、無効である。

(ウ) 不当労働行為

第2グループ原告らは、本件解雇の対象とはされていなかったが、原告X6が平成21年5月28日に、原告X7が同月29日に、それぞれ被告Y2社に対し、本件労働組合加入を通知したところ、同月29日に、契約期間を同年6月1日から同年7月31日までとする労働条件通知書への署名を求められた。第2グループ原告らは、被告Y2社に対し、同年5月31日以降も引き続き就労したい旨を明確にした上で、今後は本件労働組合を通じ協議をしたい旨を伝えたところ、本件雇止めをされた。したがって、被告Y1社が被告Y2社を通じ、第2グループ原告らを雇止めにした本件雇止めは、同人らが労働組合に加入したことを原因としていることは明らかであり、不当労働行為として民法90条に違反し無効である。

(エ) よって、第2グループ原告らは、被告Y1社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、労働契約に基づき、次のとおりの賃金の支払を求める。

a 原告X6

原告X6の1か月当たりの賃金の額については、平成20年度の賃金の平均額である24万2036円とするべきである。したがって、被告Y1社は、原告X6に対し、平成21年6月以降、賃金として毎月24万2036円を支払わなければならない。

よって、原告X6は、被告Y1社に対し、平成21年6月分から平成22年4月分までの賃金合計266万2396円及びこれに対する平成22年7月15日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金並びに平成22年6月以降判決確定の日まで毎月15日限り24万2396円及びこれに対する各支払期日の翌日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

b 原告X7

原告X7の1か月当たりの賃金の額については、平成20年度の賃金の平均額である18万7371円とするべきである。したがって、被告Y1社は、原告X7に対し、平成21年6月以降、賃金として毎月18万7371円を支払わなければならない。

よって、原告X7は、被告Y1社に対し、平成21年6月分から平成22年4月分までの賃金合計206万1081円及びこれに対する平成22年7月15日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金並びに平成22年6月以降判決確定の日まで毎月15日限り18万7371円及びこれに対する各支払期日の翌日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

イ 被告Y1社の主張

第2グループ原告らの主張は否認ないし争う。

(5)  争点(2)ア(原告らと被告Y2社との間の本件契約期間短縮の合意の有効性)について

ア 原告らの主張

本件契約期間短縮の合意は、原告らと被告Y2社との間の契約期間を平成21年12月31日までとされていたのを同年5月31日までに変更するものであるところ、被告Y2社が、原告らに対して、契約期間途中の厳格な解雇制限(労働契約法17条)を免れ、同日をもって雇止めをする意図を有していたにもかかわらず、これを隠し、原告らにじっくりと検討する期間を与えずに同合意を含む契約書に署名等をさせたものであり、原告らの中には、契約期間が短縮されることに気付かない者もいた。また、被告Y2社は、上記合意の際、原告らに対し、上記契約期間満了後には、契約が更新されないことがあり得るという説明を行っていないため、原告らは、契約期間の変更を行っても、従来と同様に契約が更新されると誤解をしていた。本件契約期間短縮の合意は、こうした状態を利用して行われたものである。原告らは、これまで被告Y2社との間で3回契約を更新してきており、b社やa社在籍時も通算するとさらに多くの回数契約を更新してきたため、被告Y2社が、更新に関して何ら説明を加えていない以上、従前どおり契約が更新されると信じるのが自然であった。さらに、被告Y2社においては、労働条件通知書の作成がずさんで、日付を遡らせたり、同一期間に2回契約書を作成したりしたこともあったため、原告らは、同年5月31日までに契約期間を変更することについて、特段の意味があるとは考えず、今後も更新があることを当然の前提として同意した。

したがって、原告らと被告Y2社との間の本件契約期間短縮の合意は、錯誤(民法95条)、公序良俗違反(民法90条)及び労働契約法17条1項違反に当たり、無効である。仮に、本件契約期間短縮の合意が無効であると判断されないとしても、同合意は被告Y2社による詐欺(民法96条1項)によってされたものといえるから、原告らは、同合意に係る意思表示を取り消す。

イ 被告Y2社の主張

被告Y2社の従業員であるDは、平成21年4月10日に本件契約期間短縮の合意を締結するに際し、原告らに対し、労働条件通知書の契約期間は同年5月31日までになっていること、契約期間を短縮するのは被告Y1社から減産通告を受けたためであり、同日以降契約が更新されるか否かは不透明であること、今後も必ず契約が更新されるとは保障できないこと、を説明した。Dは、原告ら各自に対し、個別に上記説明を行っており、原告らは納得の上労働条件通知書に対し署名押印(原告X1、原告X4及び原告X6以外の者については署名)をしたものであるから、本件契約期間短縮の合意は有効である。

(6)  争点(2)イ(被告Y2社の第1グループ原告らに対する本件解雇の有効性)について

ア 第1グループ原告らの主張

(ア) 被告Y2社の第1グループ原告らに対する本件解雇は、平成21年1月1日から12月31日までの期間の定めのある労働契約の中途解雇であり、やむを得ない事由がなければ無効である(労働契約法17条1項)ところ、次に述べるように、整理解雇4要件に照らし、本件解雇は、やむを得ない事由があるとは認められないから、無効である。

(イ) 整理解雇4要件

a 人員削減の必要性

被告Y2社には、次のとおり、人員削減の必要性はなかった。

(a) 平成21年3月時点では逼迫した経営状況にはなく業務拡大方針をとっていたこと

被告Y2社は、平成20年10月末決算において19億5500円の売上高があり、全国労働者派遣事業者3921社中486位の好成績であった。被告Y2社は、平成20年以降、被告Y1社と折衝し、同被告の同意が得られたため、鎌倉工場における業務を拡大する方針を立て、平成21年2月ないし同年3月には、新規にラインオペレーター等の人員を採用し、ラインを増やすことを予定していた。

(b) 利益が上がっていたこと

平成21年5月に本件解雇が行われる前の半年間の被告Y2社の経常利益は4100万円の黒字であり、当座比率は、178パーセントで、全国平均の1.3倍であった。また、売上高経常利益率については、全国平均は3.1パーセントの赤字であるところ、被告Y2社は1.0パーセントの黒字であった。

(c) 役員報酬が多額であること

被告Y2社は、3名の役員が夫婦とその長男であるという完全な家族経営の会社であり、仮に被告Y2社の経営を圧迫しているものがあるとすれば、多額の役員報酬であった。

第7期(平成19年11月1日から平成20年10月31日まで)には、2465万円の赤字が生じているが、通常期には発生しない退職金額1560万円の支出が発生していること、前年に比して売上高が減少しているにもかかわらず、前年とほぼ同額の7620万円の役員報酬を支出したことが原因である。また、被告Y2社の平成21年の役員報酬は3180万円であり、同規模の派遣業の全国平均が2053万円であるのに比べて、突出して高い報酬額となっていた。

(d) 平均流動比率が良好であること

被告Y2社と資本金が同程度の労働者派遣企業の平均流動比率(流動資産÷流動負債×100)は、平成21年には162パーセント、平成22年には175パーセントであるところ、被告Y2社の平均流動比率は、平成21年には190パーセント、平成22年には255パーセントと平均を大きく上回っていた。

(e) 債務がないこと

被告Y2社には、借入れがほとんどなく、優良経営であった。

(f) 多額の内部留保金が存在すること

被告Y2社は、利益の内部留保である繰越利益剰余金を継続的に保有しており、第7期(平成19年11月1日から平成20年10月31日まで)には、第6期(平成18年11月1日から平成19年10月31日まで)の8092万円に比べて5626万円と減少したものの、第8期(平成20年11月1日から平成21年10月31日まで)には、6733万円と回復させており、資金的には余裕があった。さらに、被告Y2社は、受注量の多寡にかかわらず、毎年、約1800万円を「業務手数料」名目で支出しており、この点からも、資金的な余裕があったといえる。

なお、被告Y2社は、平成21年3月に派遣事業の免許更新の基準が大幅に変更されることになり、平成22年10月の期末段階で1事業所当たり2000万円、被告Y2社全体として4事業所分で8000万円、現金預金額だと6000万円の内部留保金が必要になった旨主張する。しかしながら、免許更新の資産要件が改正され、金額が変更されたのは、内部留保金の額ではなく、総資産から総負債額を控除した基準資産額であり、被告Y2社は、基準資産額の要件を満たしていた。

b 解雇回避努力義務

前記aのとおり、被告Y2社は、内部留保の取り崩し、役員報酬及び経費の削減等を行えば、人員を削減する必要はなかった。それにもかかわらず、被告Y2社は、上記措置を採らず、漫然と本件解雇を行った。被告Y2社が行った希望退職者募集は、いずれも募集期間が3日間と短く、退職金の上積み等がない形だけのものであり、到底解雇回避努力義務を尽くしたとはいえない。

c 人選の合理性

被告Y2社の示す人選基準は、出勤率が下位であること又はフルタイマーで勤続6か月以下であることである。しかしながら、被告Y2社においては時季変更権が濫用されているため、第1グループ原告らは、有給を不当に認めてもらえずに、本来は有給とするべきところを欠勤扱いとされたことも多々あるので、出勤率を人選基準とすること自体不合理である。また、同基準によるとしても、第1グループ原告らよりも出勤率が下位である者が解雇対象外である等、適切に同基準が適用されたかどうか疑わしい。

d 手続の妥当性

被告Y2社は、原告らに対し、一人当たりわずか数分のみという不十分な説明しか行っていない。また、原告らの加盟する本件労働組合と被告Y2社との間の団体交渉は、3度目で一方的に破棄され、現在も拒絶され続けている。

(ウ) よって、第1グループ原告らは、被告Y2社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、労働契約に基づき、次のとおり賃金の支払を求める。

a 原告X1

原告X1の1か月当たりの賃金の額については、平成20年度の賃金の平均額である22万5063円とするべきである。したがって、被告Y2社は、原告X1に対し、平成21年6月以降、賃金として毎月22万5063円を支払わなければならない。

よって、原告X1は、被告Y2社に対し、平成21年6月分から平成22年4月分までの賃金合計247万5693円及びこれに対する平成22年7月16日(同被告に対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金並びに平成22年6月以降判決確定の日まで毎月15日限り22万5063円及びこれに対する各支払期日の翌日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

b 原告X2

原告X2の1か月当たりの賃金の額については、本件解雇前3か月分の賃金の平均額である14万6729円とするべきである。したがって、被告Y2社は、原告X2に対し、平成21年6月以降、賃金として毎月14万6729円を支払わなければならない。

よって、原告X2は、被告Y2社に対し、平成21年6月分から平成22年4月分までの賃金合計161万4019円及びこれに対する平成22年7月16日(同被告に対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金並びに平成22年6月以降判決確定の日まで毎月15日限り14万6729円及びこれに対する各支払期日の翌日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

c 原告X3

原告X3の1か月当たりの賃金の額については、本件解雇前3か月分の賃金の平均額である14万6247円とするべきである。したがって、被告Y2社は、原告X3に対し、平成21年6月以降、賃金として毎月14万6247円を支払わなければならない。

よって、原告X3は、被告Y2社に対し、平成21年6月分から平成22年4月分までの賃金合計160万8717円及びこれに対する平成22年7月16日(同被告に対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金並びに平成22年6月以降判決確定の日まで毎月15日限り14万6247円及びこれに対する各支払期日の翌日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

d 原告X4

原告X4の1か月当たりの賃金の額については、平成20年度の賃金の平均額である14万7173円とするべきである。したがって、被告Y2社は、原告X4に対し、平成21年6月以降、賃金として毎月14万7173円を支払わなければならない。

よって、原告X4は、被告Y2社に対し、平成21年6月分から平成22年4月分までの賃金合計161万8903円及びこれに対する平成22年7月16日(同被告に対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金並びに平成22年6月以降判決確定の日まで毎月15日限り14万7173円及びこれに対する各支払期日の翌日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

e 原告X5

原告X5の1か月当たりの賃金の額については、平成20年度の賃金の平均額である13万3099円とするべきである。したがって、被告Y2社は、原告X5に対し、平成21年6月以降、賃金として毎月13万3099円を支払わなければならない。

よって、原告X5は、被告Y2社に対し、平成21年6月分から平成22年4月分までの賃金合計146万4089円及びこれに対する平成22年7月16日(同被告に対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金並びに平成22年6月以降判決確定の日まで毎月15日限り13万3099円及びこれに対する各支払期日の翌日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

(エ) 被告Y2社の主張について

被告Y2社は、仮に本件解雇が無効であったとしても、本件解雇の意思表示には第1グループ原告らに対する平成21年5月31日付けの雇止めの意思表示が含まれているから、同日をもって同人らを有効に雇止めにしたと主張するが、同主張は争う。

さらに、被告Y2社は、平成21年5月31日付けの雇止めが無効であったとしても、本件解雇の意思表示には第1グループ原告らに対する平成21年12月31日付けの雇止めの意思表示が含まれていること、仮処分手続でも同日付け雇止めを主張していたことから第1グループ原告らと被告Y2社との労働契約は終了している旨主張する。しかしながら、被告Y2社が主張する平成21年12月31日付けの雇止めの意思表示は、同年4月ないし同年5月の状況を前提としたものであるから、前記のとおり整理解雇4要件を満たさない。被告Y2社は、平成21年12月31日における雇止めの必要性について何ら主張、立証していないため、上記雇止めは無効である。

イ 被告Y2社の主張

(ア) 被告Y2社の第1グループ原告に対する本件解雇は、被告Y2社が平成21年4月8日に被告Y1社から受けた減産通告を契機とした整理解雇であり、次の整理解雇4要件に照らせば、本件解雇はやむを得ない事由によるものであるから、有効である。

a 人員削減の必要性

被告Y2社は、被告Y1社からリーマンショックを背景とする減産通告を受け、高度の人員削減の必要に迫られており、少なくとも22名を解雇せざるを得ない状況であった。

(a) 被告Y2社は、鎌倉工場における業務について被告Y1社との間で大幅に低い報酬で請負契約を締結しており、鎌倉工場に参入して以来、赤字が続いている状態であった。被告Y2社は、鎌倉工場における赤字を解消するために、被告Y1社からの受注量の増加や、効率的な人員の配置などの企業努力を重ねた結果、平成20年には、鎌倉工場における被告Y2社の収支は、黒字に転じた。

(b) 被告Y2社は、リーマンショックが発生した平成20年秋以降も、被告Y1社に対する営業活動を行った結果、平成21年5月以降は被告Y1社からの受注量が増加するとの見込みを得ており、ラインリーダーの養成をするなど人員を補充しようとしていた。しかしながら、被告Y2社は、平成21年4月8日に突然、被告Y1社から、同年4月の受注量が1304万0225円であるところ、同年5月の受注量を716万9172円とするとの減産通告を受けた。

(c) 被告Y2社においては、売上げに占める人件費の割合が非常に高かったため、売上高の約11.7パーセントをも占める最大の取引先である被告Y1社からの受注量の半減は、人件費について多額の負担を余儀なくされることを意味した。現に、平成21年5月から同年12月までを例にとっても、原告らを解雇しない場合は、売上高を2300万円も超える費用を要する状況であった。さらに、被告Y2社の鎌倉工場におけるライン数及び工数は急激に減り続け、同年4月にはライン数が5本、工数が1日当たり42であったところ、同年5月以降はライン数が2本、同年6月には工数が1日当たり26にまで減少した。被告Y2社の売上高は、平成21年以降毎年減少し、鎌倉工場における売上高も減少したまま回復することはなかった。このように、被告Y2社の人員削減の必要性は逼迫しており、当時は、リーマンショックにより日本経済全体が先行き不透明で見通しのきかない状態であったこともあって、被告Y2社としては、今後も更に受注量が減少することも想定せざるを得ない状況であった。

(d) また、平成21年3月に派遣事業の免許更新の基準が大幅に変更されることになり、平成22年10月の期末段階で1事業所当たり2000万円、被告Y2社全体として4事業所分で8000万円、現金預金額では6000万円の内部留保金が必要になっており、被告Y2社においては、内部留保金を切り崩すことはできなかった。

さらに、いわゆる労働者派遣業における2009年問題(平成18年に自由化された派遣業務が3年の抵触時期を迎える平成21年には派遣契約の大量解約が見込まれるという問題)も抱えており、今後も売上げが減少することが見込まれていた。

(e) なお、原告らは、被告Y2社における退職金額及び役員報酬が高額である旨主張するが、資金流出を回避し、柔軟な資金流用対応を可能にする小規模企業における努力である。

b 解雇回避努力義務

前記aのとおり、被告Y2社には差し迫った高度の人員削減の必要性があり、被告Y2社が体力のない中小企業であることも考慮すると、解雇回避措置についても自ずと限界があり、被告Y2社は、こうした状況下において可能な限りの措置を採ったと評価されるべきである。

(a) 被告Y2社は、平成21年4月8日に被告Y1社から減産通告を受けた後、まず、ワークシェアリングができないかどうかを検討し、藤沢労働基準監督署に相談をした。しかしながら、被告Y2社のような請負契約におけるワークシェアリングの事例を確認することはできず、実際に被告Y2社においてワークシェアリングを導入すれば、フルタイムの者は稼働時間が激減し、志気が低下し、退職者が相次ぐこと等の弊害が予測されたため、ワークシェアリングを導入することはできないと判断した。

(b) 被告Y2社は、平成21年4月11日、職業安定所に対し、中小企業安定助成金の申請を求めたが、横浜営業所として助成金を受けることができないとの説明を受けたため、外部資金で対処する方策も失った。

(c) 被告Y2社は、鎌倉工場で稼働する従業員を他事業所に配置転換することも検討したが、被告Y2社の他事業所は千葉、埼玉、茨城、福島と遠方にあり、配置転換を希望する者もいなかったことから断念した。

(d) 被告Y2社は、前記(a)ないし(c)の方策では状況を打開することはできず、鎌倉工場において22名の人員を削減しなければならないと判断した。そこで、被告Y2社は、平成21年4月13日及び同月15日に、2度にわたって22名の希望退職者の募集を行った。なお、被告Y2社は、鎌倉工場で働く従業員に対し、希望退職者の募集に応じる者がいなかった場合は、整理解雇をせざるを得ないことを示していた。

c 人選の合理性

被告Y2社は、解雇対象者の選定基準について、藤沢労働基準監督署において整理解雇の公平な人選基準の説明を受け、最も具体的かつ明確で公平な基準として、欠勤が多い者と技術に劣る者を対象とすることにした。具体的には、扶養内勤務者を除くフルタイマーの期間従業員のうち、まず勤続6か月以下の者、次に出勤率(有給休暇も出勤日数に含めている)が下位の者を順次選定した。出勤率は平成20年1月から平成21年2月までの間を対象に計算しており、第1グループ原告らよりも出勤率が下位である者が解雇の対象外となっていることはなく、同基準を適正に適用した結果、第1グループ原告らが解雇の対象となった。

d 手続の妥当性

被告Y2社は、本件解雇の対象となった第1グループ原告らに対し、平成21年5月以降の被告Y1社からの受注量の減少、鎌倉工場での被告Y2社の人員削減の必要性、解雇理由、解雇者の人選方法、他事業所へのあっせん及び失業給付金の受取方法等について、個別に1人について15分程度の時間を設け説明を行った。

(イ) 仮に本件解雇が無効であったとしても、本件解雇の意思表示には第1グループ原告らに対する平成21年5月31日付けの雇止めの意思表示が含まれており、さらに同日付け雇止めが無効であったとしても、本件解雇の意思表示には第1グループ原告らに対する平成21年12月31日付けの雇止めの意思表示が含まれており、また仮処分手続においても、同日付け雇止めを主張していた。第1グループ原告らと被告Y2社との労働契約は、被告Y1社と被告Y2社との請負契約に依存することから業務都合により更新しないことがあることを前提としていたこと、いずれかから申出があれば更新しない契約であったことから、有期労働契約期間満了後も継続的に被告Y2社に当然に雇用されると合理的期待を有する契約形態ではなく、解雇権濫用法理が類推適用されることはないから、遅くとも、第1グループ原告らと被告Y2社との労働契約は、平成21年12月31日をもって、終了している。仮に、第1グループ原告らに雇用継続の合理的期待が認められ、解雇権濫用法理が類推適用されるとしても、同年5月の本件解雇及び本件雇止めについて述べたのと同様の理由により、同年12月31日の雇止めは正当であり、遅くとも同日には第1グループ原告らと被告Y2社との労働契約は終了している。

(ウ) 原告らの被告Y2社との契約は時給契約であり、鎌倉工場における化粧品製造業務を被告Y2社が被告Y1社から受注するのに応じて稼働し、Y2社から時給支払を受けていたものである。平成21年5月以降、被告Y2社の売上げや鎌倉工場の売上げは減少しているから、仮に、原告らと被告Y2社との間の労働契約が同年12月31日まで継続していたとしても、原告らの賃金額につき受注額の多かった平成21年4月までと同様の稼働期間に応じた賃金額の支払が確保されることはあり得ず、その当時の支払賃金を基準として未払賃金を請求する原告らの主張は失当である(本来の賃金額は証拠<省略>記載のとおりである)。

(7)  争点(2)ウ(被告Y2社の第2グループ原告らに対する本件雇止めの有効性)について

ア 第2グループ原告らの主張

(ア) 前記(5)アのとおり、本件期間短縮の合意は無効であるから、本件雇止めの実質は、被告Y2社による第2グループ原告らに対する契約期間途中の解雇である。したがって、本件雇止めは、やむを得ない事由がなければ無効である(労働契約法17条1項)。

仮に、本件契約期間短縮の合意が有効であった場合は、第2グループ原告らと被告Y2社との間の労働契約は平成21年5月31日までとなる。しかしながら、第2グループ原告らと被告Y2社との間の労働条件通知書には定年制の定めとして65歳と記載されていること、自動更新条項が記載されていたこと、契約手続はずさんであり更新の都度原告らの意思が確認されていたわけではないこと、平成18年6月に被告Y2社との間で労働契約を締結して以降3回にわたって労働契約を更新したこと、a社、b社在籍時から一貫して鎌倉工場に勤務し続けてきたこと、などにより、第2グループ原告らと被告Y2社との間の契約は、実質的に期間の定めのない契約となっており、そうでないとしても、契約更新に対しての合理的期待が生じていたといえる。したがって、解雇権濫用の法理が類推適用され、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利濫用として無効になる。

(イ) 整理解雇4要件

前記(6)ア(イ)のとおり、整理解雇4要件に照らすならば、本件雇止めにはやむを得ない事由があるとは認められず、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認めることもできないから、無効である。

(ウ) 不当労働行為

第2グループ原告らは、本件解雇の対象とはされていなかったが、原告X6が平成21年5月28日に、原告X7が同月29日に、それぞれ被告Y2社に対し、本件労働組合に加入したことを通知したところ、同月29日に、契約期間を同年6月1日から同年7月31日までとする労働条件通知書への署名を求められた。第2グループ原告らは、被告Y2社に対し、同年5月31日以降も引き続き就労したい旨を明確にした上で、今後は本件労働組合を通じ協議をしたい旨を伝えたところ、本件雇止めをされた。したがって、被告Y2社による本件雇止めは、第2グループ原告らが労働組合に加入したことを原因としていることは明らかであり、不当労働行為として民法90条に違反し無効である。

(エ) よって、第2グループ原告らは、被告Y2社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、労働契約に基づき、次のとおりの賃金の支払を求める。

a 原告X6

原告X6の1か月当たりの賃金の額については、平成20年度の賃金の平均額である24万2036円とするべきである。したがって、被告Y2社は、原告X6に対し、平成21年6月以降、賃金として毎月24万2036円を支払わなければならない。

よって、原告X6は、被告Y2社に対し、平成21年6月分から平成22年4月分までの賃金266万2396円及びこれに対する平成22年7月16日(同被告に対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金並びに平成22年6月以降判決確定の日まで毎月15日限り24万2036円及びこれに対する各支払期日の翌日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

b 原告X7

原告X7の1か月当たりの賃金の額については、平成20年度の賃金の平均額である18万7371円とするべきである。したがって、被告Y2社は、原告X7に対し、平成21年6月以降、賃金として毎月18万7371円を支払わなければならない。

よって、原告X7は、被告Y2社に対し、平成21年6月分から平成22年4月分までの賃金206万1081円及びこれに対する平成22年7月16日(同被告に対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金並びに平成22年6月以降判決確定の日まで毎月15日限り18万7371円及びこれに対する各支払期日の翌日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

(オ) 被告Y2社は、仮に本件雇止めが無効であったとしても、本件雇止めの意思表示には第2グループ原告らに対する平成21年12月31日付けの雇止めの意思表示が含まれており、第2グループ原告らと被告Y2社との労働契約は終了している旨主張する。

しかしながら、被告Y2社が主張する平成21年12月31日付けの雇止めの意思表示は、同年4月ないし同年5月の状況を前提としたものであるから、前記のとおり整理解雇4要件を満たさない。被告Y2社は、平成21年12月31日における雇止めの必要性について何ら主張、立証していないため、上記雇止めは無効である。

イ 被告Y2社の主張

(ア) 前記(5)イのとおり、本件契約期間短縮の合意は有効であるから、本件雇止めは、あくまで雇止めとして評価されるべきである。そして、第2グループ原告らと被告Y2社との労働契約は実質的に期間の定めのない契約であるとはいえず、第2グループ原告らに契約更新に対する合理的期待があるともいえないから、解雇権濫用法理が類推適用される余地はない。仮に本件雇止めにつき解雇権濫用法理が類推適用されるとしても、整理解雇4要件に照らし、本件雇止めには客観的合理的理由及び社会通念上の相当性が認められるから、有効である。また、雇止めが不当労働行為に当たり無効であるとの原告らの主張は争う。

(イ) 第2グループ原告らに継続雇用の期待がないこと

被告Y2社と第2グループ原告らとの労働契約は、被告Y2社と被告Y1社が鎌倉工場における化粧品製造に関する業務請負委託契約を締結することを前提とした契約であるから、被告Y1社からの受注状況によっては更新されない可能性があることは、被告Y2社と原告らとの間で当然の前提となっていた。被告Y2社は、請負業務という業務の性質上、人件費が売上げの8・9割を占めることから受注量の増減に対応するため、原告らを正社員ではなく契約期間の定めのある期間従業員としていた。そして、原告らの中には、正社員登用試験を受け正社員になることを拒否する者もいたなど、自ら契約期間の定めのある期間従業員として働くことを望んでおり、被告Y2社の被告Y1社からの受注量が減少した場合などについては、被告Y2社との契約が更新されないことを認識していたといえる。

(ウ) 整理解雇4要件

整理解雇4要件については、前記(6)イ(ア)のとおりである。これに加え、本件雇止めは、鎌倉工場において被告Y2社が担当していたベルト数が半減することに伴ってラインリーダー及びラインサブリーダーの職がなくなるため、被告Y2社がラインリーダー及びラインサブリーダーであった第2グループ原告らの労働条件を変更することを平成21年4月15日の段階から申し出ていたところ、同人らがこれに応じなかったため、平成21年6月1日以降の労働契約を更新することが不可能となったものであるから、本件雇止めには、客観的合理的理由及び社会通念上の相当性が認められるというべきである。

(エ) 不当労働行為に当たらないこと

前記(イ)のとおり、本件雇止めは、鎌倉工場におけるベルト数が半減するというやむを得ない事由があったにもかかわらず、第2グループ原告らが労働条件の変更を受け入れなかったことが原因であるから、不当労働行為には当たらない。

(オ) 仮に被告Y2社の第2グループ原告らに対する本件雇止めが無効であったとしても、本件雇止めの意思表示には第2グループ原告らに対する平成21年12月31日付けの雇止めの意思表示が含まれており、被告Y2社は、仮処分手続においても、同日付け雇止めを主張していた。第2グループ原告らと被告Y2社との間の労働契約は、被告Y1社と被告Y2社との請負契約に依存することから業務都合により更新しないことがあることを前提としていたこと、いずれかから申し出があれば更新しない契約であったこと、から、契約期間満了後も継続的に被告Y2社に当然に雇用されると合理的期待を有する契約形態ではなく、解雇権濫用法理が類推適用されることはないから、遅くとも、第2グループ原告らと被告Y2社との間の労働契約は、平成21年12月31日をもって、終了している。仮に、第2グループ原告らに雇用継続の合理的期待が認められ、解雇権濫用法理が類推適用されるとしても同年5月の本件解雇及び本件雇止めについて述べたのと同様の理由により、同年12月31日の雇止めは正当であり、遅くとも同日には第2グループ原告らと被告Y2社との労働契約は終了している。

(8)  争点(3)(不法行為の成否及び損害額)について

ア 原告らの主張

(ア) 不法行為の成否

a 原告らと被告Y1社との間の労働契約が認められる場合

被告Y1社は、常用代替防止原則及び解雇権濫用法理を潜脱し、自らの都合により自由に労働者を解雇することができるようにすること、原告らに対し同一労働を行わせながら極端に低劣な労働条件で働かせることという違法な目的を持って、労働者派遣契約ないし業務請負委託契約の形式を偽装し、原告らを鎌倉工場において採用し、違法状態で業務に従事させ続けた。加えて、被告Y1社は、被告Y2社に対し減産通告をすることで、被告Y2社を通じて、整理解雇4要件を全く満たさない違法な本件解雇及び本件雇止めを行った。被告Y1社は、製造業への派遣が禁止されていた平成14年から偽装請負を行っていたこと、製造業派遣が認められた後も契約期間の上限を遵守しなかったこと、原告らに対し直接雇用の申込みをしなかったことから、労働者派遣法40条の2、同法40条の5に違反しており、同法は取締法規であるとはいえ違法の程度は甚だしく、不法行為法上も違法と評価されるべきである。また、被告Y2社は、被告Y1社の上記違法行為に加担した。

したがって、被告らには、原告らに対する共同不法行為が成立する。

b 原告らと被告Y1社との間の労働契約が認められない場合

原告らの雇用主は、a社、b社、被告Y2社と変遷したものの、原告らは一貫して被告Y1社の鎌倉工場に勤務し、被告Y1社の製品である口紅の製造業務に従事してきた。原告らが従事してきた作業は被告Y1社従業員と同様の作業であったが、被告Y1社の従業員と同等の扱いを受けられなかった。被告Y1社は、常用代替防止原則及び解雇権濫用法理を潜脱し、自らの都合により自由に労働者を解雇することができるようにすること、原告らに対し同一労働を行わせながら極端に低劣な労働条件で働かせることという違法な目的を持って、労働者派遣契約ないし業務請負委託契約の形式を偽装し、原告らを鎌倉工場において実質的に採用し、違法状態で業務に従事させ続けた。加えて、被告Y1社は、被告Y2社に対し減産通告をすることで、被告Y2社を通じて、整理解雇4要件を全く満たさない違法な本件解雇及び本件雇止めを主導した。被告Y1社は、製造業への派遣が禁止されていた平成14年から偽装請負を行っていたこと、製造業派遣が認められた後も契約期間の上限を遵守しなかったこと、原告らに対し直接雇用の申込みをしなかったことから、労働者派遣法40条の2、同法40条の5に違反しており、同法は取締法規であるとはいえ違法の程度は甚だしく、不法行為法上も違法と評価されるべきである。また、被告Y2社は、被告Y1社の上記違法行為に加担した。

したがって、被告らには、原告らに対する共同不法行為が成立する。

(イ) 損害額

このような脱法的な派遣・請負関係の維持や不当解雇、雇止めの不法行為によって、原告らは、被告Y1社の従業員として扱われるべき地位を侵害され、そうでなくとも極めて不安定な地位に置かれ続けてきたばかりか、突然生活の術を奪われて多大な精神的苦痛を味わった。この精神的苦痛に対する慰謝料の額は原告ら1人につき500万円を下らない。また、原告らは、弁護士に依頼して本件訴訟を提起せざるを得ず、弁護士費用の額は上記金額の1割である50万円が相当である。よって、原告らは、被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償として、連帯して、合計550万円及びこれに対する不法行為の後(訴状送達日の翌日)である被告Y1社については平成22年7月15日から、被告Y2社については同月16日から、各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。

イ 被告Y1社の主張

(ア) 被告Y1社は、原告らがa社、b社、被告Y2社へと移籍する過程に関与しておらず、原告らの本件解雇及び本件雇止めにも関与していない。また、被告Y1社は、被告Y2社と労働者派遣契約を締結していた時を除いて(もっとも労働者派遣契約時も詳細な指揮命令は行っていない。)、原告らに対し、指揮命令をしておらず偽装請負ではないし、仮に労働者派遣法に違反する偽装請負であったとしても、同法は取締法規であるから、直ちに不法行為法上の違法性が肯定されるわけではない。被告Y1社は、各請負会社の規模、強い業種、顧客関係、経営方針、社風及び実績等を勘案して請負会社に業務を発注しており、解雇権濫用法理の潜脱目的で請負業者に業務を発注していない。

したがって、被告Y1社には、不法行為は成立しない。

(イ) 原告らは、被告Y1社の従業員ではなく、a社、b社及び被告Y2社の従業員となったのは、自ら選択したためであり、被告Y1社の従業員との待遇に格差があったとしても、業務内容が異なることが理由であるから当然である。

したがって、原告らには、損害が生じていない。

ウ 被告Y2社の主張

原告らの主張は争う。

なお、被告Y2社には、原告らが被告Y2社と労働契約を締結する以前の原告らの契約関係に関する認識はなく、被告Y1社が解雇権濫用法理を潜脱することを幇助するために原告らとの労働契約を締結した事実もない。被告Y2社が原告らに対して行った本件解雇及び本件雇止めはいずれも適法であるから、被告Y2社には不法行為が成立せず、原告らには何らの損害も発生していない。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)ア(原告らと被告Y1社との間の労働契約の成否)について

(1)  認定事実

前記争いのない事実等及び証拠(証人D、同E、原告X1本人、原告X2本人、原告X4本人、原告X6本人、ほか証拠・人証<省略>)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認定することができる。

ア 原告らの採用、更新の手続

(ア) 被告Y1社は、平成13年11月5日から平成17年6月30日まではa社に対し、平成17年7月1日からはa社を承継したb社に対し、業務請負委託契約に基づき、鎌倉工場における口紅製造業務を委託していたところ、平成18年2月頃から、b社が、他の会社で行っていた業務請負が偽装請負の疑いで大阪労働局から報告を求められる等したため、同社との上記契約を解約することにした。

被告Y2社は、平成18年より以前から被告Y1社の久喜工場において取引があり、被告Y1社は、久喜工場での被告Y2社の実績を評価し、b社との上記契約終了に伴い、それまでb社に業務委託していた口紅製造業務を被告Y2社に委託することとした。被告Y1社は、平成18年3月24日に被告Y2社との間で労働者派遣契約を締結し、同年4月27日に、b社に対し、同社との上記契約を同年5月31日限り解除する旨の通知を行い、同年6月1日より、被告Y2社から鎌倉工場への労働者の派遣を受け、その後、労働者派遣契約を解除して、被告Y2社との間で業務請負委託契約を締結し、平成19年1月1日以降、同契約に基づき被告Y2社に口紅製造業務を委託した。被告Y1社が、当初、被告Y2社と派遣労働契約を締結したのは、被告Y2社が鎌倉工場の業務を行うのが初めてであり、品質管理のノウハウを十分に有していないことを理由に労働者派遣契約の締結を提案してきたためであった。

なお、被告Y1社と被告Y2社との間の上記業務請負委託契約につき作成された契約書は、被告Y1社とa社との間の業務請負委託契約につき作成された契約書とほとんど同一の内容のものであった。

(イ) 原告X1は平成13年11月から、原告X2は平成17年11月から、原告X4は平成15年11月から、原告X5は平成17年11月から、原告X6は平成15年3月から、原告X7は平成16年5月から、a社やb社との労働契約に基づき鎌倉工場で勤務していた。原告X3は、平成18年10月から被告Y2社との労働契約に基づき鎌倉工場において勤務していた。

原告X3を除く原告ら(以下、単に「原告ら」ということがある。)は、平成18年4月頃、当時在籍していたb社の同僚であり、従業員の中で中心的存在だったF(以下「F」という。)から、b社が鎌倉工場から撤退し新たな会社が参入するとの話を聞き、その後、同人から、説明会があるので出るようにと言われて、平成18年5月8日及び9日に、○○鎌倉で行われた被告Y2社の説明会に参加した。上記説明会には、原告らを含むb社の従業員であった者のみが参加していた

上記説明会において、被告Y2社の従業員である事業部長のE(以下「E」という。)請負事業部課長のG(以下「G」という。)、事業所管理者のDは、原告らに対し、鎌倉工場からb社が撤退して、被告Y2社が参入すること、給与は基本的にb社と同じであるが、皆勤手当と役職手当が時給に組み込まれる等と説明をした上で、是非被告Y2社と契約を締結してほしい旨述べるとともに、同被告が従業員を新規に採用する際に提出が必要な採用希望申込書及び面接受付表を提出するよう求めた。

原告らは、被告Y2社の担当者の求めに応じて、面接受付表に、氏名、住所、連絡先、血液型、視力、色盲の有無、身長、制服のサイズ、靴のサイズ、最寄り駅、通勤手段、通勤時間、健康状態問診票等に加え、b社在籍時に鎌倉工場において行っていた業務内容、勤務形態、勤務年数、時給、平均月収及び役職(ラインリーダー、ラインサブリーダー等)について記載し、採用希望申込書とともに提出した。

被告Y2社は、原告らを含むb社の従業員に対し、E、G、Dの3人で対応し、説明を行ったものの、個別面接等は実施されず、説明会は全体に対する説明のみの15分程度で終了した。

被告Y2社は、上記説明会において、原告らを採用することを、その場で決定し、原告らに対し、内定通知書に自らの名前を記入させた上で交付した。原告らは、その後、被告Y2社から正式に採用通知を受け、同年6月1日から被告Y2社の従業員として鎌倉工場で勤務するようになった。原告らは、同日以降、被告Y2社から派遣労働者雇入れ通知書(兼)就業条件通知書の交付を受けた。

上記説明会には、被告Y1社の従業員は参加していなかった。

なお、この頃、被告Y1社から、原告X1及び原告X6らb社のラインリーダーをしていた者全員に対し、被告Y1社のパート社員にならないかとの話があったが、ラインリーダーの中にこれに反対する者がいたことなどから、結局、全員が、被告Y2社と労働契約を締結し、被告Y1社のパート社員になった者はいなかった。

(ウ) 被告Y2社は、上記のとおり、説明会を経て、原告らを含むb社の従業員で鎌倉工場での口紅製造業務に従事していた者のほとんどを採用し、平成18年6月1日以降、当初は派遣労働者として、平成19年1月1日以降は請負労働者として、引き続き鎌倉工場において勤務させた。被告Y2社は、平成18年6月当時は、口紅製造の経験がなく、b社から移籍した従業員以外に口紅製造に従事した経験のある従業員もいなかった。また、被告Y2社は、平成18年6月以降も、求人広告を出して鎌倉工場に勤務する労働者の募集をしており、原告X3は、これに応募して、前記のとおり平成18年10月に被告Y2社と労働契約を締結し、鎌倉工場で勤務するようになった。被告Y1社は、上記採用に関与していなかった。

原告らは、平成18年6月以降、b社に在籍していたときと同様に、被告Y1社のロゴ(「Y1社」)の入った制服を着用し、従前と同じロッカーを使い、従前と同じラインで被告Y1社の口紅製造業務に従事した。原告らが、被告Y2社で勤務を開始するに当たり、被告Y1社から改めて口紅製造業務につき教育を受けたことはなかった。

原告らの被告Y2社における時給は、b社に在籍していた当時に支給されていた皆勤手当及び職務手当が時給に組み入れられた結果、時給が50円ないし100円上がった金額となった。原告らの、被告Y2社におけるその他の労働条件は、b社在籍当時とほとんど同じであった。

(エ) 原告らと被告Y2社との労働条件通知書には、更新に関する記載として、契約終了の30日前に双方より申出のない場合契約を更新する旨の条項が記載されていた。

原告らと被告Y2社との間の労働契約は、その後、いずれも3回更新され、更新後の契約に対応する労働条件通知書がそれぞれ作成され、原告らはこれらの通知書に署名ないし署名押印をした(なお、原告X3についての契約期間を平成19年1月1日から同年12月31日までとする労働条件通知書(証拠<省略>)には、作成年月日欄及び署名欄に何も記入されていない。)。最終の更新による契約期間は平成21年1月1日から同年12月31日までであった。これらの契約更新に当たり、原告らと被告Y2社とが、事前に更新について話し合うことはなく、契約更新に対応する労働条件通知書については、更新後に作成されることがあり、また、工場が稼働していない日が作成日とされることもあった。

これらの更新手続は、原告らと被告Y2社の従業員との間で行われており、被告Y1社の従業員が上記更新手続に関与したことはなかった。

(オ) 原告X1及び原告X6は、被告Y2社がラインリーダーに対し平成21年3月に実施した期間の定めのない正社員への登用試験を受けたことがあったが、結局、正社員にはならなかった。

イ 原告らの鎌倉工場における勤務実態について

(ア) 原告らの鎌倉工場における作業内容・実態

原告らは、鎌倉工場において、その勤務期間を通じて、口紅の製造ラインに配属され、口紅の製造業務に従事していた。原告らが担当していたのは、口紅の充填仕上げ工程であり、その内容は、被告Y1社の従業員である製造グループがあらかじめ製品ごとに材料を溶解して色味を調整して製造し準備しておいた口紅の中味の入ったポットを、工場内の一角にある大型電子レンジに入れて中味を溶解し、材料を混ぜ合わせる撹拌と、機械による脱気をし、恒温漕に保管しておき、ラインオペレーターの指示に従い、そのポット(重さ約5kg)を恒温漕から出して口紅の充填をするための充填ラインまで運び、階段を昇って、溶解された中味を同ラインに設置された口紅充填機のタンク内に上から注ぎ込み(「中味溶解」)、同機械から自動的に口紅容器に中味を充填し、ベルト上を流れてくる充填された口紅容器の中味の検査(「検品」)をした後、同ライン上で機械により自動的にラベルを貼った口紅容器をまとめて取り箱に入れて仕上げラインに移動させ、同ラインにおいて、口紅容器に張られたラベルの日付け、号数や口紅の数量等を確認した上で、箱詰めにする、というものであった。

「中味溶解」は、溶解するための温度や充填機械に供給する温度、粘度、脱気時間などが製品ごとに異なるため、製品ごとの材料の温度等を記載した早見表が機械に備え付けられており、これに従って材料を電子レンジにかけ温度を上げて溶解し、撹拌、脱気、充填機のタンク供給のための温度調整をしていたが、撹拌や脱気をやりすぎると口紅が折れやすくなってしまうため作業者において良い頃合いを判断する必要があり、また、充填機のタンクへの中味の供給についても中味温度が定められていることから供給するタイミングが重要である等、一般の作業と比べ、経験や慣れを必要とする作業であった。このため、「中味溶解」作業を行うためには、被告Y1社の従業員から1週間ないし2週間の教育を受けた後、同従業員の実施する「見極め」と呼ばれるテストに合格しなければならなかった。「中味溶解」は、平成19年3月頃から平成21年4月の本件解雇まで、同作業の「見極め」に合格していた原告X2が担当していた。

また「検品」は、口紅容器から口紅を繰り出し、目視によりごみやきずがないかどうかを確認し、振って折れがないかどうかを確認した後、口紅を容器内に繰り戻して、容器をベルト上に置くという作業であり、1本につき数秒間の速度で即時に判断を行わなければならないため、経験や慣れを必要とする作業であった。このため、「検品」作業を行うためには、被告Y1社の従業員から1週間ないし2週間の教育を受けた後、同従業員の実施する「見極め」と呼ばれるテストに合格しなければならなかった。原告X1、原告X6及び原告X7は、「検品」の「見極め」に合格していた。

原告らは、「中間試験」と呼ばれる、被告Y1社の新製品製造の際の作業手順及び作業員数の設定をするためのテストに参加したこともあった。

(イ) 従業員間の指揮命令関係

a 被告Y1社の従業員について

鎌倉工場には、被告Y1社の生産管理グループの従業員が勤務していた。同工場内の各フロアには、製造業務を管理するフロアリーダーと、ベルト1台につき1名が配置され機械の調整等を行うラインオペレーターがおり、このうち、フロアリーダーは、被告Y1社の従業員であり、請負会社の現場管理責任者と連絡を取る統括的な役割であった。ラインオペレーターも被告Y1社の従業員であることが多かったが、その後、被告Y1社の従業員による教育、指導の結果、被告Y2社の従業員もラインオペレーターの仕事ができるようになったため、被告Y2社の担当していたラインについては、被告Y2社の従業員がラインオペレーターを務めることになった。

また、鎌倉工場の各フロアには、品質専任管理者と呼ばれる被告Y1社の従業員がおり、被告Y2社の作った製品の品質をチェックしていた。

b 被告Y2社の従業員について

被告Y2社の担当していたラインには同被告の従業員でありラインの責任者であるラインリーダー及び副責任者であるラインサブリーダーが配置されていた。原告らの中では、原告X1及び原告X6がラインリーダーであり、原告X7がラインサブリーダーであった。

ラインリーダーは、基本的にはラインの中に入って作業をすることはなく、ラインの責任者として、ライン内の作業者の配置を決定し、製品の生産順序を決定し、従業員の作業内容をチェックした上評価する等していた。また、被告Y2社のラインリーダーのみが参加し問題意識を共有するラインリーダーミーティングを定期的に行っていた。被告Y2社のラインリーダーは、担当ラインの被告Y2社の従業員に対し、工程記録の記入の仕方や、材料の品質のチェックの方法及び作業の段取りを教え、作業者の配置を決めていた。ラインサブリーダーは、ラインリーダーの上記業務を補助していた。

被告Y2社の現場管理責任者であるDは、鎌倉工場に常駐していたものの、製造業の経験がなく、口紅の製造ラインに入ったこともなかったため、同被告の従業員に対し、自らの判断で作業に関する個別具体的な指示を与えることはできなかった。もっとも、Dは、被告Y1社との窓口としての役割及び機能を果たしており、被告Y1社からトラブルに関する報告や改善要求があると、被告Y2社のラインリーダーに対し、その旨を伝え、改善を要求していた。

Fは、被告Y2社が参入した当時はラインリーダーの中の中心的役割を担い、その後は統括ラインリーダー、管理責任者代行を務めていた。Fは、Dと異なり、実際に鎌倉工場の口紅の製造ラインで勤務した豊富な経験を有しており、作業内容について熟知していた。Fは、Dと同様に、被告Y1社の従業員であるフロアリーダーに対し、報告をするなど、被告Y1社と連絡を取り合っていた。

被告Y1社と被告Y2社との間では、Dの不在時などには、被告Y2社のラインリーダーが被告Y1社のフロアリーダーに対して、直接相談・確認をすることができることになっており、被告Y2社のラインリーダーが、被告Y1社のフロアリーダーに対し、直接相談・確認をすることもあった。

被告Y2社におけるラインリーダー、統括ラインリーダーの任命については、被告Y1社は関与しておらず、被告Y2社の内部で決定していた。

(ウ) 生産計画会議について

鎌倉工場においては生産計画会議が毎月2回行われており、同会議には被告Y1社の従業員のみが参加し、被告Y2社の従業員は出席していなかった。被告Y1社の生産管理グループ担当者は、被告Y2社の管理者に対して、生産計画会議の結果として、旬間予定を伝えていた。

(エ) 「標準書」及び「生産日程表」について

被告Y1社は、製品ごとに、工程内容、作業内容、作業人員数、実作業時間、準備時間、始末時間、ベルト速度などを決定し、これらを記載した「標準書」を作成し、同「標準書」と連結する形で、毎月、1日ごとかつベルトごとに、生産する製品、各製品の生産量、工数、作業時間などを決定し、これらを記載した半月ごとの「生産日程表」を作成していた。また、「生産日程表」を基に、被告Y1社の従業員と被告Y2社の従業員であるラインリーダーとで、「旬間」と呼ばれる会議を開催し、半月ごとにどの組がどのベルトを担当するのかを決めて「組別配置表」を作成していた。被告Y2社の従業員であるラインリーダーは、毎朝、被告Y1社の従業員から翌日製造する製品の「標準書」と「材料見本」を手渡され、「生産日程表」を基に作成された「組別配置表」と「標準書」を基に「工数表」を作成し、自身が担当する組の中の人員を決めていた。

Dは、原告らを含む被告Y2社の従業員の管理責任者という立場であったものの、原告らに対し、D自身が判断して具体的作業内容について詳細な指示を与えるということはなく、被告Y1社との間の連絡役という役割を果たしていたため、被告Y2社における実際の作業については、F、原告X1及び原告X6らのラインリーダーが中心となって進めていた。被告Y2社のラインリーダーは、基本的には被告Y1社が作成した「標準書」と「生産日程表」に従って、被告Y2社の従業員に作業を行わせていたものの、必要に応じて、ラインリーダーの判断で生産の順序や全体の作業時間を変えることもあった。

(オ) 時間管理等

a 原告らの労働時間は、被告Y2社の従業員である各ラインのラインリーダーが各人の出勤時間を出勤簿に記載し、各人が自分の出勤簿を見て確認していた。

b 被告Y2社のラインリーダーは、被告Y1社が作成したd票記入マニュアルを基に、毎日細かい作業時間をパソコンで入力していた。

また、残業には、被告Y1社が作成した「生産日程表」にあらかじめ記載されている「計画残業」と、トラブルが発生し「生産日程表」で設定した作業時間を超えて作業を行う必要が発生した際に労働時間を超過して作業を行う「トラブル残業」の2種類があるところ、いずれの残業についても、被告Y2社の従業員が残業を行う際には、同被告のラインリーダーを通じて、被告Y1社に対し報告しており、被告Y1社の従業員よりも被告Y2社の従業員のほうが遅く帰ることもあった(原告らは、被告Y2社の残業について、被告Y1社から命令されていた旨主張するが、これを認めるに足る証拠はない。)。

c 原告らを含む被告Y2社の従業員と被告Y1社の従業員とは、就業時間が同じであったものの、朝礼は別々に行っていた。

d 原告らは、年次有給休暇を取得する際には、管理責任者であるDに対し申請をしており、被告Y1社の許可を得る必要はなかった。

(カ) 従業員に対する教育

a 被告Y2社の従業員であるラインリーダーは、担当ラインの被告Y2社の従業員に対し、工程記録の記入の仕方、材料の品質のチェックの方法及び作業の段取りを教え、作業者の配置を決めるなどするほか、新人が加入した場合には、同人に対し、仕事のやり方を教えていた。

b 被告Y1社は、被告Y2社に新たな業務を発注する場合、原告らを含む被告Y2社の従業員に対し、技術指導をすることがあった。もっとも、被告Y1社は、被告Y2社が技術指導を受ける従業員として選んだ者に対してのみ技術指導を行っており、それ以外に、被告Y1社が被告Y2社の各従業員に対し、個別に技術指導を行うことはなかった。「検品」及び「中味溶解」の作業については、被告Y1社は、被告Y2社の依頼を受け、被告Y2社が選定した従業員に対し、「検品」及び「中味溶解」の作業について指導し、技術指導が十分に行われたと判断したときに、その旨を被告Y2社に対して伝えていた。被告Y2社は、鎌倉工場におけるノウハウが蓄積してきた結果、平成20年頃から、独自に「検品」及び「中味溶解」の作業について教育指導及びテスト(「見極め」)をすることが可能になったため、被告Y2社内で「検品」及び「中味溶解」の作業についての教育が行われるようになり、被告Y1社は、それ以降、被告Y2社の同作業についての教育に関与しなくなった。

ラインオペレーターについては、その業務の複雑性から、被告Y2社の従業員が、被告Y1社の従業員から教育を受けることがしばしばあった。

(キ) 原告らのラインでの就労状況等

a 原告らは、派遣労働者であった期間(平成18年6月1日から同年12月31日まで)は、被告Y1社から、作業に関する指示を受けていたものの、原告らは、口紅製造業務に従事した豊富な経験を有する労働者であったことから、被告Y1社は、被告Y2社のラインリーダーに対し指示をすることがあった程度にとどまり、被告Y2社の個々の従業員に対し、作業について詳細かつ具体的な指示を与えることはなかった。

b 鎌倉工場において、被告Y2社の担当するラインと被告Y1社の担当する製造ラインとは区別されており、原告らは、派遣労働者であった期間(平成18年6月1日から同年12月31日まで)を除いては、原則として被告Y1社の従業員と同一の製造ラインで混在して働くことはなかったが、例外的に、求めに応じて被告Y1社の担当していた製造ラインで作業をしたこともあった。

c 原告らを含むY2社の従業員は、鎌倉工場の食堂を、被告Y1社の従業員と同様に利用することができた。

d 原告らは、鎌倉工場での就労中、被告Y1社の従業員と同様に襟元に「Y1社」のロゴの入った制服を着用していたものの、胸に「Y2社」のロゴの入った刺繍等を付けることにより被告Y1社の従業員と区別することができるようになっていた。

e 被告Y1社は、被告Y2社に対し、同被告が鎌倉工場で請負業務を行うために、鎌倉工場内の事務所、設備、使用機械・器具及び作業服等を月額合計5万4000円で賃貸していた。

(ク) 被告Y2社の従業員の勤務評価、賃金の決定

a 原告ら被告Y2社従業員の成績評価は、現場管理責任者であるDの評価、ラインリーダーの評価及び自己評価の3つがセットになって行われ、被告Y2社内における成績評価によって賃金が増減することがあった。原告X1及び原告X6は、ラインリーダーとして被告Y2社の従業員を評価し、同人らに対し、成績評価に関する書類を交付していた。

b 被告Y2社は、原告ら従業員の労働時間を管理しており、管理した労働時間を基に原告ら従業員に対し、賃金を支払っていた。被告Y1社は、被告Y2社に対し発注量に応じて業務委託料を支払っていたところ、同業務委託料の被告Y2社内での分配には関与していなかった(原告らは、同賃金額につき、被告Y1社が被告Y2社に支払った請負代金額から一定のマージンを控除した金額がそのまま賃金として原告らに支払われていたと主張するが、これを認めるに足る証拠はない。)。

(2)  原告らと被告Y1社との間の労働契約の成否について

原告らは、原告らと被告Y1社との間には、規範的・合理的意思解釈として直接の労働契約が成立していたと認めるべきであり、そうでないとしても、黙示の労働契約が成立していたと認めるべきであると主張する。

ア 規範的・合理的意思解釈による労働契約の成否について

原告は、①発注者又は派遣先が、請負労働者又は派遣労働者を、自社の工場内で指揮命令し、労働の提供を受けていること、②請負労働者又は派遣労働者が、発注者又は派遣先の工場内で、発注者又は派遣先の指揮命令下で労働していることを認識していること、③発注者又は派遣先が、請負労働者又は派遣労働者に対し、請負会社又は派遣元を通じて労働の対価としての賃金を支払う意思を有し、実際に支払っていること、④請負労働者又は派遣労働者が、発注者又は派遣先から、請負会社又は派遣元を通じて、労働の対価としての賃金を受け取っていたと認識していること、⑤発注者又は派遣先が、請負会社又は派遣元と、請負契約又は労働者派遣契約を締結する際、解雇権濫用法理潜脱目的を有していたこと、という①ないし⑤の要件が認められるときには、労働者と発注者ないし派遣先との間に労働契約が成立していると解するべきであると主張する。

労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する(労働契約法6条)。前記争いのない事実等のとおり、原告らは、早い者では平成13年11月から、遅い者でも平成18年10月から、a社、b社、被告Y2社らと労働契約を締結し、被告Y1社の鎌倉工場において請負労働者又は派遣労働者として勤務していたものであり、原告らと被告Y1社との間に、労働契約を締結するとの明示の合意がないことは明らかである。原告らの規範的・合理的意思解釈により労働契約が成立するとの上記主張は、黙示の労働契約が成立するとの主張とは別個に主張されていることからすると、要するに、労働者の発注者又は派遣元における就労が発注者の解雇権濫用法理潜脱目的による偽装派遣又は偽装請負によるものである場合には、請負契約又は労働者派遣契約の法形式をそのまま維持することは正義に反するから当事者間の明示の合意も黙示の合意もなくとも、合意があったと擬制して労働契約の成立を認めるべきとの主張であると解することができ、このような解釈は、意思解釈の域を超えて、契約当事者の意思によらずに契約の成立を擬制する独自の解釈といわざるを得ず、採用することができない。

なお、原告らが上記①ないし④で述べる原告ら及び被告Y1社において被告Y1社が原告らを指揮命令していたことや、被告Y1社が原告らに賃金を支払っていたことの認識があったとの事実は、それが認められるならば明示ないし黙示の労働契約の成立の根拠となり得る事実であるが、このような事実を認めることができないことは後記イで説示するとおりである。

イ 黙示の労働契約の成否について

(ア) 契約意思の合致

黙示の労働契約の成立が認められるためには、明示の意思表示を欠いていることが前提であるから、原告らと被告Y1社との間に、それぞれ労働契約を成立させる意思の合致があったことを推認させるに足る事情があることが必要である。

しかしながら、前記争いのない事実等、前記1(1)及び後記2(1)で認定した事実によれば、原告らは、いずれも被告Y2社と明示の労働契約を締結し、被告Y1社の鎌倉工場において請負労働者又は派遣労働者として勤務していたものであり、被告Y2社との間で上記労働契約の更新手続を行っており、被告Y1社はこれに関与していないこと、原告らは、被告Y2社から上記労働契約に基づいて賃金の支払を受けていたこと、原告らの中には、被告Y1社と直接労働契約を締結することができたにもかかわらず、それを断って被告Y2社と労働契約を締結した者もいること、被告Y2社の正社員登用試験を受験した者もいること、被告Y2社が本件解雇及び本件雇止めの人選を行い同被告の担当者から原告らに対しその旨が伝えられており、被告Y1社はこれに関与していないこと、原告らは、被告Y2社との労働契約が終了する前後において、本件労働組合を通じて被告Y2社に対して団体交渉を求めていること、被告Y2社に対して労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める仮処分を申し立てていること、仮処分手続の過程で被告Y2社から賃金の一部及び仮処分決定に基づく仮払金の支払を受けていること、がそれぞれ認められる。これらの事情は、原告らにおいて、同人らの雇用主が被告Y2社であり、被告Y1社とは直接の雇用関係がないことを明確に認識していたことを示す事情であり、また、被告Y1社が原告らの雇用主であるとは認識していなかったことを示す事情であるといえる。

そうすると、上記のとおり、原告らにおいて被告Y1社との間に労働契約が存在していないことを明確に認識していたことを示す事情及び被告Y1社において原告らの雇用主ではないことを認識していたことを示す事情が存在するにもかかわらず、各当事者の認識に反して、原告らと被告Y1社との間に黙示の労働契約が成立していることを認定することはそもそも困難であるといわざるを得ない。

(イ) 黙示の労働契約成否の判断基準

派遣労働者と派遣先企業との間との間に黙示の労働契約が成立するか否かについては、前記説示した派遣労働者及び派遣先企業の就労当時の認識を前提として、派遣元に企業としての独立性があるかどうか、派遣労働者と派遣先企業との間の事実上の使用従属関係、労務提供関係、賃金支払関係の実情を検討するべきである。例えば、労働者が派遣元との派遣労働契約に基づき派遣元から派遣先に派遣された場合であっても、派遣元が形式的・名目的な存在にすぎず、派遣労働者の労務管理を何ら行っていないのに対して、派遣先が実質的に派遣労働者の採用、賃金額その他の労働条件を決定し、配置、懲戒等を行うなどして、派遣労働者を派遣先の従業員と同一視することができるような特段の事情がある場合には、派遣先と派遣労働者との間において、黙示の労働契約が成立していると認める余地が生じるというべきである。

また、このことは、請負労働者と受入先企業との間に黙示の労働契約が成立するか否かについても同様であり、前記説示した請負労働者及び受入先企業の就労当時の認識を前提として、請負会社に企業としての独立性があるかどうか、請負労働者と受入先企業との間の事実上の使用従属関係、労務提供関係、賃金支払関係の実情を検討して判断するべきである。

以下、本件の事実関係に則して検討する。

(ウ) 被告Y2社の独立性

前記争いのない事実等及び前記認定事実のとおり、被告Y2社は、被告Y1社とは資本提携関係がなく人的にも独立した会社であったこと、被告Y1社は被告Y2社の最大の取引先ではあるものの、同被告との取引額は約11.7パーセントにとどまること、91事業所との間で業務委託契約ないし労働者派遣契約を締結していたこと、平成21年4月当時いた従業員約1000名のうち鎌倉工場を就業場所とし有期労働契約を締結していた従業員は64名にとどまっていたこと、本社は茨城県に所在し、鎌倉以外にも複数の拠点があったこと、が認められる。

そうすると、被告Y2社が名目的、形式的な存在であったということはできない。

なお、前記認定事実によれば、被告Y1社は、被告Y2社に対し、同被告が鎌倉工場で請負業務を行うために、鎌倉工場内の事務所、設備、使用機械・器具及び作業服等を月額合計5万4000円で賃貸していたことが認められるものの、賃料は、業務請負委託契約の代金等も踏まえた上で、両被告間の交渉によって決まるものであるから、同契約に付随する賃貸借契約の賃料が低廉であったことをもって、被告Y2社が名目的、形式的な存在であったということはできない。

(エ) 原告らの賃金額の決定

前記認定事実のとおり、原告らは、被告Y2社から賃金の支払を受けていたものである。そして、被告Y2社は原告ら従業員の労働時間を管理し、管理した労働時間を基に賃金を支払っていたこと、被告Y2社の社内で従業員の成績評価が行われており賃金額に反映されていたこと、被告Y1社は被告Y2社に対し口紅製造業務を発注し、発注量に応じて業務委託料を支払っていたにすぎず、同業務委託量の被告Y2社内での分配につき被告Y1社は全く関与していないことから、被告Y1社から被告Y2社に支払われる金額は被告Y2社の従業員の賃金に同被告の手数料及び経費を加算したものというように単純に定められていたものではないと認めることができる。

したがって、被告Y1社が原告らの賃金額を決定していたということはできず、被告Y2社は、独自に原告ら従業員の賃金額を決定していたということができる。

(オ) 労務管理

前記認定事実のとおり、原告らの労働時間及び年次有給休暇は、被告Y2社によって管理され、被告Y2社が原告らの労働時間を計算していたこと、原告らが年次有給休暇を取得する際には被告Y2社に対して申請していたことが認められる。また、被告Y1社が、上記過程に関与していたことは認められない。

したがって、被告Y2社が原告らの労務管理を行っていたということができる。

(カ) 労働契約の更新手続等

前記認定事実のとおり、原告らは、被告Y2社と期間の定めのある労働契約を締結していたこと、同契約の更新の際には、被告Y2社のDとの間で契約更新の手続を行っていたこと、上記更新の際には、原告らと被告Y2社との名義で労働条件通知書を作成していたこと、本件契約期間短縮の合意の際もDとの間で手続を行っていたこと、が認められる。また、被告Y1社が、上記過程に関与していたとは認められない。

したがって、被告Y2社は、原告らとの労働契約の更新手続等を、被告Y1社とは関わりなく、独自に行っていたものといえる。

(キ) 従業員に対する教育

前記認定事実のとおり、被告Y2社においては、ラインリーダーが担当ラインの従業員に対して、工程記録の記入の仕方、材料の品質のチェックの方法及び作業の段取りを教え、作業者の配置を決めるなど独自の教育を行っていたこと、平成20年頃から被告Y1社の関与なく「検品」及び「中味溶解」の作業について教育指導及び「見極め」を行うことができるようになったこと、被告Y2社のラインリーダーのみが参加し問題意識を共有するラインリーダーミーティングが行われていたこと、が認められる。

したがって、被告Y2社は、独自に、従業員に対する教育を行っていたものといえる。

(ク) 人事権

前記認定事実のとおり、被告Y2社においては、独自に従業員の成績評価を行い賃金額に反映させていたこと、ラインリーダーの人選を被告Y1社の関与なく独自に決定していたこと、後記2(1)の認定事実のとおり、平成21年4月に原告X6をラインリーダーから、原告X7をラインサブリーダーから、それぞれ一般社員に降格させることについても被告Y1社の関与なく決定したこと、が認められる。

したがって、被告Y2社は、独自に人事権を行使していたといえる。

(ケ) 前記(ウ)ないし(ク)の各事実に照らせば、原告らと被告Y2社との間の労働契約は、形式的、名目的なものとはいえず、労働契約としての実質を伴ったものであったということができる。

(コ) 原告ら採用の経緯

他方、前記認定事実によれば、被告Y1社は、他社での偽装請負が問題となったb社との鎌倉工場における業務請負委託契約を解約し、他の工場で実績のあった被告Y2社にb社の行っていた業務を委託することを決めたこと、b社に在籍し鎌倉工場で口紅の製造業務に従事していた原告X3を除く原告ら従業員の大部分がそのまま被告Y2社と労働契約を締結したこと、これにより原告らは、業務委託先が被告Y2社に切り替わった平成18年6月1日以降もそれ以前と変わりなく鎌倉工場で口紅の製造業務に従事したことが認められる。このようにb社での鎌倉工場での口紅製造業務の経験を有する従業員が、b社撤退後も引き続き鎌倉工場で勤務することは、被告Y1社にとって、同工場における生産量を減少させることなく従前と同様に製造業務を行うことができるという利点があることは明らかである。これらの経過や事情に照らすならば、被告Y2社がb社に在籍していた原告ら従業員を採用したことについては、被告Y1社の意向が少なからず反映されていたものと推認することができる。

しかしながら、鎌倉工場での口紅製造業務の経験を有する従業員を採用することは、それまで口紅製造業務の経験のなかった被告Y2社にとっても利点があること、前記認定のとおり、被告Y2社は、鎌倉工場に参入にするに先立って採用説明会を開催し、原告らは同説明会に参加し、被告Y2社の求めに応じて採用希望申込書及び面接受付表に必要事項を記載して採用を希望する意思を表明し、被告Y2社から内定通知を受け、その後、書面で正式な採用通知を受けたこと、被告Y1社の従業員が上記の採用説明会に出席していなかったことからすると、原告らの採用活動を行い、労働条件を決定したのは被告Y2社であったということができるのであり、被告Y1社による原告らの採用行為があったということはできない。

なお、原告X3は、被告Y2社が鎌倉工場に参入した後に同被告と労働契約を締結しており、被告Y1社が同原告の採用を行ったことを認めるに足る証拠はない。

(サ) 指揮命令等

前記認定事実によれば、鎌倉工場においては被告Y1社の担当するラインと被告Y2社が担当するラインが区別されており、被告Y2社の従業員は例外的な場合を除いては被告Y1社の担当するラインで作業をすることはなかったこと、被告Y2社が担当するラインでは同被告の従業員であるラインリーダーが、責任者として被告Y2社の従業員に対して配置や生産順序を決定し、作業の段取りを教え、作業内容をチェックし評価をするなど指揮命令をしていたこと、被告Y2社のラインリーダーのみが参加し情報を共有するラインリーダーミーティングが行われていたこと、被告Y1社との連絡は、基本的に被告Y2社の管理責任者であるD及びFが行っており、Dの不在時などに例外的に被告Y2社のラインリーダーが被告Y1社のフロアリーダーに直接相談・確認をすることはあったものの、それ以外に被告Y2社の従業員が被告Y1社の従業員から作業について直接指揮命令等を受けることはなかったこと、が認められ、これらの事実によれば、原告ら被告Y2社の従業員が被告Y1社の従業員から日常的に個別具体的な指揮命令を受けていたということはできない。

前記認定事実によれば、被告Y2社の口紅製造は、基本的には被告Y1社の作成した「標準書」及び「生産日程表」に則って行われていたこと、原告らは被告Y1社の「中間試験」と呼称される新製品製造のテストに参加していたこと、被告Y1社から技術指導を受けることもあったこと、被告Y1社の従業員が被告Y2社の従業員が「検品」や「中味溶解」といった作業を行う能力があるかどうかを判定するテスト(見極め)に関与していたことがあったこと、品質専任管理者と呼ばれる被告Y1社の従業員から被告Y2社が作った製品の品質のチェックを受けていたこと、が認められるものの、これらは、生産量及び品質管理等の確保の観点から必要な措置であると解することができるのであり、被告Y1社がこのような措置を採ったからといって、被告Y2社の従業員に対し、労働契約関係があるのと同視することができるような指揮命令をしていたとみることはできない。

(シ) 原告らの労働契約終了の経緯

前記争いのない事実等によれば、被告Y1社は、被告Y2社に対し、平成21年5月の発注金額を4月の半額程度に減少させることを通告したこと、被告Y2社は、被告Y1社からの上記通告を踏まえて、平成21年5月17日付けで第1グループ原告らを含む22名の従業員を整理解雇すること、同月31日をもって第2グループ原告らを雇止めにすることを決定したことが認められる。

上記の事実によれば被告Y1社は、被告Y2社に対する発注金額を減少させることを決定したにとどまるものであり、被告Y2社の請負労働者の中から原告らを選別して鎌倉工場における請負労働受入れの終了を決定したものとはいえず、また被告Y1社の上記決定をもって、原告らが事実上被告Y1社から解雇あるいは雇止めを受けたものと評価することもできない。

(ス) 上記で検討した事実に照らせば、被告Y1社が原告らの採用行為を行ったとも、原告らに対し直接に指揮命令をしていたとも、原告らの賃金を決定したとも、原告らの人事に関わったとも、本件解雇及び雇止めを決定したともいうことはできない。

これらの事情に加えて、前記のとおり原告らが雇用主は被告Y1社ではなく被告Y2社であると認識していたことが認められること、原告らと被告Y2社との労働契約が名目的、形式的なものではなく、採用、賃金支払及び労務管理のいずれをとっても実体を伴ったものであったこと、に照らせば、原告らと被告Y1社との間において、黙示の労働契約が成立していたことを基礎付けるに足る事情があるということはできない。

ウ 原告らと被告Y2社との間の労働契約の有効性について

原告らは、原告らと被告Y2社との間の平成18年6月1日以降に締結していた派遣労働契約及び平成19年1月1日以降に締結していた労働契約は、当初から被告Y1社が解雇権濫用法理(労働契約法16条)を潜脱する目的で締結されたものであるから無効である旨主張する。

しかしながら、本件においては、既に説示したとおり、被告Y2社は自ら採用手続を行って原告らとの間で有期労働契約を締結し、同契約に基づいて賃金を支払っていたこと、労働契約の更新手続は原告らと被告Y2社との間で行われていたこと、被告Y2社において原告らの労務管理を行っていたことがそれぞれ認められるのであり、このような実体を伴った労働契約を無効と解すべき特段の事情があるとは認められない。

(3)  小括

以上のとおり、原告らと被告Y1社との間に労働契約が成立していたとは認められないから、同労働契約の存在を前提とする原告らの被告Y1社に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。

2  争点(2)(被告Y2社に対する請求)について

(1)  認定事実

証拠(証人D、原告X1本人、原告X2本人、原告X4本人、原告X6本人、ほか証拠・人証<省略>)によれば、以下の事実を認定することができる。

ア 被告Y2社は、鎌倉工場における業務について被告Y1社との間で低い対価で業務請負委託契約を締結しており、鎌倉工場に参入して以来、赤字が続いている状態であった。被告Y2社は、鎌倉工場における赤字を解消するために、被告Y1社からの受注量の増加のための営業活動をし、効率的な人員の配置をするなどの企業努力を重ねた結果、平成20年には、鎌倉工場における被告Y2社の収支は黒字に転じた。

被告Y2社は、リーマンショックが発生した平成20年秋以降も、被告Y1社に対する営業活動を行った結果、当初は、平成21年5月以降も被告Y1社からの受注量が増加するとの見込みを得ており、同年2月以降、ラインを増やすことを予定し、期間従業員を対象に正社員登用試験を実施し、新規採用を行い、ラインリーダー及びラインオペレーターの養成をするなど人員を補充した。

イ 被告Y1社は、平成21年3月の生産計画会議において、同年の口紅の新製品の市場動向が思わしくないことから、在庫調整を行うため、同年5月の被告Y2社に対する発注量を減少させることを決めた。

被告Y2社は、平成21年4月3日に事前情報として、さらに同月8日に正式に面談の上、被告Y1社から同年4月の発注量が1304万0225円であるところ、同年5月の発注量を716万9172円とすること、少なくとも同年の夏頃までは発注量が回復する見込みはない旨の減産通告を受けた。

上記減産通告のとおり、被告Y1社からの発注金額が減少した結果、被告Y2社が鎌倉工場において担当するライン数及び工数は、平成21年4月にはライン数が5本、工数が1日当たり42であったところ、同年5月以降はライン数が2本に減少し、同年6月には工数が1日当たり26にまで減少した。

被告Y2社の横浜営業所は、同年4月、閉鎖された。

ウ 本件解雇に至る経緯

(ア) 平成21年4月の被告Y2社の売上高に占める鎌倉工場の売上高の割合は約11パーセントを超えており、被告Y1社は被告Y2社の最大の取引先であったため、被告Y1社の前記減産通告により被告Y2社の売上高が激減することが予想され、被告Y2社は、試算により、月額300万円を超える赤字への対処が必要であると判断した。

被告Y2社のGは、平成21年4月8日に被告Y1社から正式に減産通告を受けた後、翌9日に、藤沢労働基準監督署を訪れ、退職者募集の際の上積条件の要否、整理解雇の場合の人選基準、解雇の場合のスケジュール等について相談をした。Gは、その際、ワークシェアリングができないかどうかについても、同監督署に対し相談したものの、被告Y2社のような請負契約におけるワークシェアリングの事例を確認することはできなかった。被告Y2社は、実際に同被告においてワークシェアリングを導入すれば、フルタイムの者は稼働時間が激減し、志気が低下し、退職者が相次ぐこと等の弊害が生じると危惧し、ワークシェアリングを導入することはできないと判断した。

(イ) 被告Y2社と原告らは、当時、契約期間を平成21年1月1日から同年12月31日までとする労働契約を締結していたところ、被告Y2社は、前記(ア)のような状況下において、被告Y1社からの受注の減少に対応するため、鎌倉工場で勤務する従業員を削減すること、削減の方法の一つとして12月31日よりも前に労働契約を終了させる可能性もあることを考慮して、原告ら鎌倉工場の従業員に対し労働契約の契約期間の短縮を申し入れることを決めた。この決定に基づき、被告Y2社のDは、平成21年4月10日、原告らに対し、上記契約の契約期間を同年4月1日から5月31日までに短縮すること及び就業時間を変更することを通告し、このことを内容とする労働条件通知書に署名押印をするように求めた。Dは、原告らに対し、このような措置を採る理由について、鎌倉工場における就業時間が変更になるためであると述べ、今後の更新の有無については質問があっても曖昧な説明をするにとどまり、同年5月31日に更新されない可能性があることを説明しなかった。原告らは、契約期間の短縮を含む合意をすることに同意し、労働条件通知書に署名(原告X1、原告X4及び原告X6については署名押印)をした(本件契約期間短縮の合意)。

なお、被告Y2社は、平成21年6月以降、鎌倉工場に勤務する従業員との労働契約について、期間の定めを2か月として、更新している。

(ウ) 被告Y2社は、平成21年4月11日、職業安定所に対し、中小企業安定助成金の申請をしようとしたが、職業安定所から、横浜営業所として助成金を受けることができないとの説明を受け、助成金を得ることができなかった。

被告Y2社は、鎌倉工場で稼働する従業員を他事業所に配置転換することも検討したが、被告Y2社の他事業所は千葉、埼玉、茨城、福島と遠方にあり、配置転換を希望する者もいなかったことから、配置転換を行うことはできないと判断した。

(エ) このような状況の下で、被告Y2社は、平成21年5月以降の被告Y1社からの受注量の半減に対処するため、鎌倉工場に勤務する期間の定めのある従業員64名のうち少なくとも22名の人員を削減する必要があると判断し、平成21年4月13日に、各従業員に対し、「希望退職の募集について(お知らせ)先般来、当社を取り巻く経営環境は極めて厳しい状況となっております。こうした事態を打開するため、これまでも様々な経営努力を続けてまいりましたが、未だもって明るい見通しは立っておりません。今回、経営の再建を図るため、やむを得ず、下記の要領で希望退職を募集することといたします。この取り扱いについて社員の皆様のご理解とご協力を求めます。」と記載した書面を配布し同日から同月15日までの3日間の応募期間を設けて22名の希望退職者の募集を、同月15日に同月17日までの3日間の応募期間を設けて22名の希望退職者の募集を、それぞれ行った。被告Y2社は、上記希望退職者の募集の際、それに応じることによる金銭的上積み等の優遇をするなどの条件は一切示さなかった。原告らを含む被告Y2社の従業員の中で、上記希望退職者の募集に応じて任意に退職する者は一人もいなかった。

(オ) 被告Y2社は、従業員の中で前記希望退職者の募集に対して応募する者がいなかったことから、22名を解雇することを決め、その際の人選の基準として、技術に劣る者と欠勤が多い者を対象とすることにした。具体的には、扶養内勤務者を除くフルタイマーの期間従業員のうち、まず勤続6か月以下の者、次に出勤率(有給休暇も出勤日数に含め、平成20年1月から平成21年2月までを対象に計算)が下位の者を順次選定した。第1グループ原告らの出勤率は原告X1が91.54パーセント、原告X2が82.72パーセント、原告X3が97.98パーセント、原告X4が99.26パーセント、原告X5が95.2パーセントであった。

(カ) 被告Y2社は、前記基準を適用した結果、第1グループ原告らが出勤率により同基準に該当したため、同原告らを解雇の対象とすることを決め、平成21年4月17日、同人らに対し、被告Y2社就業規則45条7号「事業の縮小その他会社のやむを得ない事由がある場合で、かつ、他の職務に転換させることもできないとき」に該当することを理由に、同年5月17日付けで解雇する旨を通知した(本件解雇)。

(キ) 被告Y2社は、第1グループ原告らに対し、平成21年5月以降の被告Y1社からの受注量の減少及び鎌倉工場での被告Y2社の人員削減の必要性が解雇理由であること、解雇者の人選基準、他事業所へのあっせん及び失業給付金の受取方法等について、1人について15分程度の時間を設け説明を行った。

なお、第1グループ原告らの中には、この時、他の事業所における就職先の紹介を受けた者もいるものの、第1グループ原告らは、いずれも鎌倉工場近辺に在住する主婦であったため、遠方の事業所においては就労することができないため、断った。また、第1グループ原告らの中には、この時、被告Y2社と異なる他の企業の求人広告を渡された者もいるものの、既に募集期間を徒過している求人広告もあったことなどから、他企業の求人に応募する者はいなかった。

なお、前記(ア)ないし(キ)の解雇等の手続に被告Y1社は関与していなかった。

(ク) 第1グループ原告らは、同年5月28日までに、被告Y2社に対し、本件組合へ加入したことを通知した。

エ 本件雇止めに至る経緯

(ア) 被告Y2社は、平成21年4月13日、前記のとおり被告Y1社からの減産通告によりラインの数が減少し、ラインリーダーが不要になるとして、第2グループ原告らに対し、原告X6についてはラインリーダーから、原告X7についてはラインサブリーダーから、それぞれ一般社員に降格し時給を下げるとの決定をしたことを伝えた。被告Y2社は、同月15日、第2グループ原告らに対し、同年6月1日から第2グループ原告らの時給を970円に下げた上で、同人らとの労働契約を更新するとの意向を伝えたところ、同人らは同意しなかった。

(イ) 被告Y2社と第2グループ原告らは、その後、同年4月21日、25日及び同年5月29日に更新後の契約条件について話し合ったものの、合意に至らなかった。

(ウ) 第2グループ原告らは、同年5月29日までに、被告Y2社に対して、本件労働組合に加入したこと、本件組合を通じて降格人事の見直しを求めること、同年6月以降の労働契約については本件契約期間短縮の合意が有効ではなく同年1月1日から同年12月31日までの労働契約が有効と考えているため、現時点では新たに再契約することができないこと、を通知した。

(エ) 被告Y2社は、同年5月29日付けで、第2グループ原告らに対し、同月31日をもって、契約期間満了に伴い労働契約が終了する旨を通知した(本件雇止め)。

(オ) なお、前記の雇止め等の手続に、被告Y1社は関与していなかった。

オ 被告Y2社の財務状況

(ア) 被告Y2社の第6期(平成18年11月1日から平成19年10月31日まで)における年間売上高は約25億1900万円であり、経常利益は約3270万円であった。ところが、平成20年9月に発生したいわゆるリーマンショックの影響により、同月までの月間売上高がおおむね約1億5000万円から1億9000万円の間で推移していたのが、翌月である同年10月の売上高は、前月の約2分の1程度の約8000万円と減少し、第7期(平成19年11月1日から平成20年10月31日まで)における年間売上高は約19億5500円に減少し、約1940万円の経常損失となった。平成20年11月及び12月の月間売上高はそれぞれ約1億3800万円、1億4900万円と回復したものの、平成21年1月から4月までの月間の売上高はおおむね約1億1000万円から1億2000万円と平成20年9月以前の水準を下回り、平成21年5月から8月までは約8800万円から9800万円と1億円に達せず、同年9月には1億円台に達したが、同年10月には約6000万円となり、第8期(平成20年11月1日から平成21年10月30日まで)における年間売上高は約13億0900万円とさらに減少した。同期間における経常利益は約1250万円であった。その後の平成21年11月及び12月の月間売上高はそれぞれ約1億円、1億1000万円と1億円を超えていたが、平成22年1月ないし3月はそれぞれ月8000万円台、4月から9月までは月6000万円から7000万円台、10月は約2600万円といずれも1億円に達せずに減少傾向にあり、第9期(平成21年11月1日から平成22年10月31日まで)における年間売上高は約8億8500万円とさらに減少し、約210万円の経常損失となった。

被告Y2社の売上高の減少が上記のとおり続いたのは、平成20年9月のリーマンショックに端を発する不況が長引いたことに加え、被告Y2社の契約の90パーセントを超える派遣契約につき、平成18年に自由化された派遣業務が3年の抵触期間を迎えたことにより派遣契約の解約を受けたこと(いわゆる派遣の2009年問題)によるものであった。

(イ) 本件解雇及び本件雇止めが行われた平成21年5月の前の半年間(平成20年11月から平成21年4月まで)における被告Y2社の経常利益は約4150万円であった。被告Y2社の、同時期における当座比率(当座資産÷流動負債×100)は、178パーセントで、全国平均の約1.3倍であり、平均流動比率(流動資産÷流動負債×100)は、平成21年が190パーセント、平成22年が255パーセントであって、いずれも全国平均(平成21年は162パーセント、平成22年は175パーセント)を上回っていた。

被告Y2社には、第6期(平成18年11月1日から平成19年10月31日まで)には約8092万円、第7期(平成19年11月1日から平成20年10月31日まで)には約5626万円、第8期(平成20年11月1日から平成21年10月31日まで)には約6733万円の内部留保金があった。また、被告Y2社は、第7期(平成19年11月1日から平成20年10月31日まで)には約8500万円、第8期(平成20年11月1日から平成21年10月31日まで)には約1億0466万円の現金を保有していた。

また、被告Y2社は、この間、受注量の多寡にかかわらず、年間約1800万円を業務手数料として支出していた。

(ウ) 被告Y2社は平成21年1月から、役員報酬につき、平成20年12月までは月570万円であったのを、平成21年1月に月305万円、同年2月に月255万円、同年4月に月175万円に減額した(もっとも、平成22年1月からは225万円に増額した。)。この結果、年間の役員報酬額は、平成19年10月末決算時が7900万円、平成20年10月末決算時が7620万円であったのが、平成21年10月末決算時は3180万円、平成22年10月末決算時は2600万円となった。平成21年10月末決算時の年間の役員報酬額3180万円は、全国平均の2053万円を上回っていた。このほか、被告Y2社は、平成21年1月以降、新規の管理社員の採用抑制、営業所の統廃合等を行った。

(エ) 厚生労働省は、平成21年5月18日付けで一般労働者派遣事業の許可基準に係る通達のうち財政的基礎に関する要件(資産要件)等を見直し、基準資産額(資産額-負債額)の要件を「1000万円×事業所数」から「2000万円×事業所数」に、現金・預金の額の要件を「800万円×事業所数」から「1500万円×事業所数」に、それぞれ改めるとの改正をしたところ、被告Y2社は、同年3月頃、上記改正についての情報を得ていた。

被告Y2社の事業所数は4であり、被告Y2社の基準資産額は、第7期(平成19年11月1日から平成20年10月31日まで)が9626万円、第8期(平成20年11月1日から平成21年10月31日まで)が1億0733万円であったことから、改正後の基準資産額の要件(2000万円×4=8000万円)を満たしていた。また、被告Y2社は、前記(イ)のとおり、第7期に約8500万円、第8期に約1億0466万円の現金を保有していたことから、改正後の現金・預金の額の要件(1500万円×4=6000万円)も満たしていた。

カ 本件解雇及び本件雇止め後の事情について

(ア) 本件組合と被告Y2社との交渉状況

本件組合は、平成21年5月14日、被告Y2社に対し、第1グループ原告らに対する本件解雇の撤回を求めて団体交渉を申し入れ、その後、第2グループ原告らに対する本件雇止めが行われたことから、これも含めて同年6月2日及び同月9日に団体交渉が行われた。その後、原告らが被告Y2社対し仮処分を申し立てたこともあって、本件組合と被告Y2社との団体交渉は行われなくなった。

(イ) 被告Y2社の被告Y1社からの受注量

本件解雇及び本件雇止め以降、平成22年12月までの間の被告Y2社の被告Y1社からの鎌倉工場における受注量及び工数は、次のとおりであった(工数は、平成21年6月から同年12月まで)。

受注量 工数

平成21年4月 1338万3969円

同年5月 732万7749円

同年6月 912万1780円 587工数

同年7月 917万5326円 554工数

同年8月 617万0778円 369工数

同年9月 829万1536円 462工数

同年10月 864万3434円 514工数

同年11月 699万9201円 403工数

同年12月 632万0383円 359工数

平成22年1月 559万7771円

同年2月 679万5180円

同年3月 741万6725円

同年4月 683万4290円

同年5月 618万8476円

同年6月 724万8369円

同年7月 691万2980円

同年8月 568万0131円

同年9月 627万0832円

同年10月 688万9460円

同年11月 659万8029円

同年12月 586万4241円

(2)  争点(2)ア(原告らと被告Y2社との間の本件契約期間短縮の合意の有効性)について

前記認定事実のとおり、原告らは、平成21年4月10日、被告Y2社との間で、労働契約の期間を同年1月1日から12月31日までの1年間から同年4月1日から5月31日までの2か月間に短縮させる本件契約期間短縮の合意をしたことが認められる。

原告らは、本件契約期間短縮の合意は、被告Y2社との労働契約が更新されることを当然の前提として合意したものであり、同被告は契約期間途中の厳格な解雇制限(労働契約法17条)を免れ、短縮後の期間終了により原告らを雇止めにする意図を有していたにもかかわらず、これを秘して原告らに上記合意をさせたものであるとして、このような合意は、錯誤、公序良俗違反又は労働契約法17条に違反し無効であり、そうでないとしても詐欺に当たるから取り消す旨主張する。

前記認定事実によれば、被告Y2社は、平成21年5月31日に雇止めをする可能性があることを考慮して契約期間短縮の提案をしたものであり、これによって合意前は12月31日より前の日を契約終了日とする更新拒絶の意思表示をすることができなかったものが、合意後はそれより前の5月31日を契約終了日とする更新拒絶の意思表示をすることが可能になり、契約期間も1年から2か月になったという点において、原告らの地位が従前よりも不利になった面があることは否定することができない。しかしながら、契約期間が短縮されたというだけで、当然に短縮後の期間満了時に更新拒絶により雇止めの効力が認められることになるものではないから、上記合意自体はそれによって直ちに原告らに法律上の不利益を発生させるものではないことは明らかである。そして、その後、被告Y2社が第1グループ原告らに対して期間満了前に解雇をしていること、第2グループ原告らに対して当初は雇用継続の提案をしていたことに照らすと、上記合意の時点において、被告Y2社に労働契約法17条に定める契約期間途中の解雇制限を免れる意図があったとはいえず、原告らに対し雇止めをする確定的な意図を有していたともいえないというべきである。また、本件契約期間短縮の合意の際に、被告Y2社のDが原告らに対し短縮後の期間満了後に必ず労働契約が更新される旨の説明をしたとは認められず、原告らにおいて必ず労働契約が更新されることが合意の前提であると表明したことも認められない。以上の点を総合するならば、本件契約期間短縮の合意は、そのことの当否は別として、錯誤に基づくものであるとも、詐欺により締結されたものであるともいえず、労働契約法17条違反や公序良俗違反に当たるということもできない。したがって、原告らの上記主張は採用することができない。

以上のとおりであるから、原告らの被告Y2社との労働契約の契約期間は、本件期間短縮の合意により、平成21年4月1日から同年5月31日までの2か月間に短縮されたものであると認められる。

(3)  争点(2)イ(被告Y2社の第1グループ原告らに対する本件解雇の有効性)について

ア 前記認定事実のとおり、被告Y2社の第1グループ原告らに対する本件解雇は、第1グループ原告らと被告Y2社との間の労働契約の契約期間中である平成21年5月17日にされたものである。

労働契約法17条1項は、使用者は、期間の定めのある労働者について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない、と定めている。契約の当事者は契約の有効期間中はこれに拘束されるのが契約法上の原則であり、労働者においては、当該契約期間内の雇用継続に対する合理的期待は高いものといえることから、同条にいう「やむを得ない事由」とは、期間満了を待たずに直ちに契約を終了させざるを得ないような重大な事由をいうと解するのが相当である。

被告Y2社は、第1グループ原告らに対する本件解雇は、被告Y2社が被告Y1社から受けた減産通告を契機とした整理解雇であり、「やむを得ない事由」があるから有効であると主張する。そこで、以下、本件解雇につき整理解雇として「やむを得ない事由」があるといえるか否かにつき検討する。

イ 人員削減の必要性について

前記認定事実のとおり、被告Y2社は、平成20年9月に発生したリーマンショックの影響により同年10月に売上高が大幅に減少し、その後も売上高の減少傾向が続き、平成21年1月から4月までの売上高は平成20年9月以前の水準を下回っていたこと、リーマンショックの後も、鎌倉工場においては、被告Y2社が被告Y1社に対する営業活動を行った結果、平成21年2月ないし3月頃は被告Y1社から同年5月以降の受注量が増加するとの見込みを得ていたことから人員を補充していたこと、ところが、平成21年4月8日に被告Y1社から、当初の予想に反して、同年5月の発注量を半減させること及び少なくとも同年夏頃までは発注量が回復する見込みはない旨を伝えられたこと、被告Y1社は被告Y2社の最大の取引先であり約11.7パーセントの売上げを占めていたこと、実際に、鎌倉工場における被告Y2社の同年4月のライン数は5本、1日当たりの工数は42であったのが、被告Y1社からの受注減により同年5月のライン数は2本、1日当たりの工数は26にまで減少したこと、が認められる。これらの事実によれば、被告Y1社からの受注が半減する同年5月には、鎌倉工場に勤務していた被告Y2社の従業員64名のうち少なくとも被告Y2社が算出した22名の余剰人員が発生する状態にあったと認めることができ、被告Y2社において第1グループ原告らの解雇を決定した同年4月の時点において、人員削減の必要性が生じていたことが認められる。

もっとも、前記認定事実によれば、本件解雇が行われる直前の被告Y2社の平成20年11月から平成21年4月までの経常利益は約4150万円であったこと、同期間の当座比率は全国平均の約1.3倍である178パーセントであり、平成21年の平均流動比率は全国平均(162パーセント)を上回る190パーセントであったこと、第8期(平成20年11月1日から平成21年10月31日まで)の内部留保金は6733万円であったこと、が認められ、これらの事実によれば、被告Y2社が平成21年4月の時点で、経営危機に陥り、早急に人員を削減しないと会社全体の経営が破綻しかねないような危機的な状況にあったということはできず、同時点において人員削減の必要性の程度が高度であったとまではいえない。

なお、被告Y2社は、一般労働者派遣事業の許可基準の通達の改正により資産や預貯金を増額する必要が生じ、大幅な内部留保を確保しなければならなかったことを、人員削減の必要性があったことの根拠の一つとして挙げる。しかしながら、前記認定事実によれば、被告Y2社は、本件解雇の当時、上記改正後の通達による基準資産額の要件及び現金・預金の額の要件をいずれも満たしていたことが認められるから、同被告の上記主張を採用することはできない。

ウ 解雇回避努力義務について

前記認定事実によれば、被告Y2社においては、被告Y1社から平成21年4月8日に正式な減産通告を受けた後、翌9日にはGが労働基準監督署に行き、退職者募集の際の上積み条件の要否、整理解雇の場合の人選基準、解雇の場合のスケジュールについて相談していること、契約期間として定められていた同年12月31日よりも前に雇止めをすることを可能にする意図の下に、翌10日に原告らに対し契約期間を同年4月1日から5月31日までの2か月間に短縮することを提案し本件契約期間短縮の合意をしたこと、同合意をするに当たり、原告らに対し、5月31日以降に更新されない可能性があることについて明確に説明をしなかったこと、同年4月13日に原告ら従業員に対し、書面で応募期間を同月15日までの3日間とする22名の希望退職者の募集を行い、引き続き同月15日にも応募期間を同月17日までの3日間とする希望退職者の募集を行ったこと、希望退職の募集について退職条件として金銭的な上積みの条件等は一切示さなかったこと、上記の期間中に希望退職の募集に応じた者が一人もいなかったこと、同月17日に第1グループ原告らに対し、本件解雇の通知をしたことが認められる。

上記の事実によれば、被告Y2社は、被告Y1社から発注量の減少の通告を受けた直後から整理解雇ないし雇止めを念頭に置いて行動していたことは明らかであり、原告らに十分な説明もないまま本件契約期間短縮の合意をさせている上、希望退職の募集も、上積みの退職条件を示さない短期間のものであって実効性に疑問があるものと言わざるを得ず、しかも、発注量の減少の通告を受けてから10日間に満たない短期間のうちに解雇通知に至っている。このような本件解雇に至る経過に照らすと、被告Y2社が本件解雇を回避するための努力義務を尽くしたということできない。前記認定によれば、被告Y2社は、ワークシェアリングを検討したり、中小企業安定助成金の申請を試みたりしたことは認められるものの、すぐに断念しており、これらの方策がどの程度真摯に検討されたのかは疑問であると言わざるを得ないから、これらの検討をしたことをもって解雇回避努力義務を尽くしたということはできない。

エ 人選の合理性

前記認定事実のとおり、被告Y2社は、本件解雇の対象となる者の人選の基準として、技術に劣る者と欠勤が多い者を対象とすることにしたこと、具体的には、扶養内勤務者を除くフルタイマーの期間従業員のうち、まず勤続6か月以下の者を対象にし、次に出勤率(有給休暇も出勤日数に含め平成20年1月から平成21年2月までを対象に計算)が下位の者を対象としたこと、その結果第1グループ原告らが計算の結果、出勤率が下位であったため対象となったことが認められる。

上記基準は、主観の入る余地がないという意味において客観的で合理的な整理基準ということができる。原告らは、被告Y2社においては時季変更権が濫用されているから出勤率を基準にすることは合理的ではなく、さらに、第1グループ原告らよりも出勤率が下位である者が解雇対象となっていないなど上記基準が適切に適用されたか否か疑わしい旨主張するが、これを認めるに足る証拠はない。

したがって、本件解雇において、人選の合理性は認められる。

オ 手続の妥当性

前記認定事実のとおり、被告Y2社は、本件解雇時において、第1グループ原告らに対し、平成21年5月以降の被告Y1社からの受注量の減少及び鎌倉工場での被告Y2社の人員削減の必要性が解雇理由であること、解雇者の人選基準、他事業所へのあっせん及び失業給付金の受取方法等について、1人について15分程度の時間を設け説明を行ったことが認められる。

上記の事実によれば、被告Y2社は、本件解雇時に、第1グループ原告らに対し、解雇理由及び人選基準等について一応の説明をしたことが認められるものの、事前に同原告らに対する説明や協議をしておらず、本件解雇に先立つ本件契約期間短縮の合意の際にも被告Y2社が原告らに対し十分な説明を尽くしていたとはいえないなど、本件解雇について十分に説明・協議をしたとはいえない。また、被告Y2社が同原告らに示した他の就職先は、遠方であったり、そもそも募集期限を徒過していたりしており、被告Y2社が同原告らの再就職支援を十分に行ったとはいえない。

したがって、本件解雇は、手続の妥当性を欠くものである。

カ 以上によれば、本件解雇については、人員削減の必要性は認められるものの、その程度は高度なものとまではいえず、被告Y2社において解雇回避努力義務を尽くしたということはできず、手続の妥当性も欠いていたというべきである。これらの事情を総合すると、本件解雇につき、「やむを得ない事由」(労働契約法17条)があると認めることはできない。

したがって、本件解雇は、無効である。

キ 被告Y2社は、本件解雇が無効であるとしても、本件解雇の意思表示には、同年5月31日をもって雇止めにする意思表示を含んでおり、第1グループ原告らは雇用継続についての合理的期待を有しないから解雇権濫用法理の類推適用はなく、仮に解雇権濫用法理が類推適用されるとしても、同雇止めは、客観的合理的理由及び社会通念上の相当性を欠くものではないから、上記雇止めによって、第1グループ原告らと被告Y2社との間の労働契約は終了している旨主張する。

しかしながら、本件解雇の通知書には、予備的に平成21年5月31日付けをもって第1グループ原告らを雇止めにする旨は記載されておらず、被告Y2社が口頭により予備的に雇止めを主張したことを示す証拠もないから、被告Y2社の上記主張を採用することはそもそも困難である。もっとも、本件解雇は第1グループ原告らとの労働契約を終了させるとの意思表示であること、本件解雇日である平成21年5月17日と契約期間満了日である同月31日とが近接していることから、本件解雇の意思表示に平成21年5月31日付けをもって雇止めとする意思表示が含まれていると解する余地がないわけではないので、以下、念のため、同日付けの雇止めが許されるか否かについて検討する。

被告Y2社は、第1グループ原告らに雇用継続についての合理的期待がない旨主張する。しかしながら、前記争いのない事実等及び前記認定事実のとおり、第1グループ原告らは、被告Y2社との労働契約を平成18年6月から、6か月又は1年ごとに合計3回更新してきていたこと、契約書(労働条件通知書)には自動更新特約が記載されていたこと、被告Y2社と労働契約を締結する以前も、原告X1については平成13年11月から、原告X2については平成17年11月から、原告X4については平成15年11月から、原告X5については平成17年11月から鎌倉工場で勤務していたことが認められるのであり、作成時期は更新後になることはあったものの、契約更新のたびに契約書(労働条件通知書)が作成されていたことに照らすと、第1グループ原告らと被告Y2社との間の労働契約が実質的に期間の定めのない契約と変わりがないものとなっていたとまで認めることはできないものの、第1グループ原告らは被告Y2社との間の労働契約につき雇用継続についての合理的期待を有していたと解するのが相当である。したがって、第1グループ原告らに対する平成21年5月31日付け雇止めには解雇権濫用法理が類推適用されると解すべきところ、前記のとおり、本件解雇日と上記雇止めの日とが近接していることから、雇止めの効力の判断に当たり考慮すべき事情は、前記イないしオで本件解雇について述べたところと変わらず、これらの事情によれば、上記雇止めは、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認めることはできないというべきであるから効力を有しないと解するのが相当である。

被告Y2社の上記主張は採用することができない。

ク 被告Y2社は、本件解雇の意思表示には、平成21年12月31日をもって雇止めにする意思表示を含んでおり、仮処分手続においても同日付け雇止めを主張しているから、上記雇止めによって、第1グループ原告らと被告Y2社との間の労働契約は終了しているとも主張する。

しかしながら、既に述べたとおり、第1グループ原告らと被告Y2社との労働契約は、本件期間短縮の合意によって平成21年4月1日から5月31日までの2か月間に変更されたと解すべきであり、上記労働契約は2か月ごとに更新されることになる結果、同年12月31日は契約期間の終期ではないから、同日付けの雇止めの主張は失当であり、採用することができない。

ケ 以上によれば、第1グループ原告らと被告Y2社との労働契約は、平成21年6月1日以降も2か月ごとに更新されて継続しているということができるから、第1グループ原告らの被告Y2社に対する労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求及び同年6月1日以降の賃金請求は理由がある。

なお、第1グループ原告らは、地位確認の請求の趣旨として、別紙2を引用しているが、要するに現在の法律関係の確認を求めているものと善解することができるから、主文第1項のとおり判決する。

コ 第1グループ原告らの平成21年6月以降の賃金額は、同人らが解雇されなかったならば労働契約上確実に得られたであろう金額であると解するのが相当である。前記争いのない事実等のとおり原告らの賃金は時給制であるから、労働時間によって賃金額が変動するところ、前記認定事実によれば被告Y2社の被告Y1社からの受注額は平成21年6月以降減少していること、それに伴って工数も減少したことが認められることに照らすならば、被告Y2社が第1グループ原告らに対して支払うべき賃金額は、前記争いのない事実等記載の同原告らの平成20年度の平均月額賃金の額の5割の金額と認めるのが相当である。

したがって、第1グループ原告らの平成21年6月以降確実に得られたと認められる月額賃金の額は、次のとおりとなる。

a 原告X1 11万2532円 (22万5063円÷2)

(1円未満四捨五入。以下同じ。)

b 原告X2 7万3365円 (14万6729円÷2)

c 原告X3 7万3124円 (14万6247円÷2)

d 原告X4 7万3587円 (14万7173円÷2)

e 原告X5 6万6550円 (13万3099円÷2)

よって、被告Y2社は、第1グループ原告らに対し、平成21年6月分から平成22年4月分までの賃金として、原告X1につき123万7852円、原告X2につき80万7015円、原告X3につき80万4364円、原告X4につき80万9457円、原告X5につき73万2050円及びこれらに対する弁済期を経過した後である平成22年7月16日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払う義務を負うとともに、平成22年5月1日以降の賃金として、平成22年6月以降本判決確定の日まで毎月15日限り前記月額賃金額及びこれらに対する各支払期日の翌日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。

(4)  争点(2)ウ(被告Y2社の第2グループ原告らに対する本件雇止めの有効性)について

ア 第2グループ原告らは、本件契約期間短縮の合意は無効であるから、本件雇止めは、実質的に契約期間途中の解雇に当たると主張する。しかしながら、本件期間短縮の合意が有効であると解すべきことは前記(2)で説示したとおりであり、同原告らの上記主張は採用することができない。

そこで、以下、本件雇止めの効力について検討する。

イ 原告らは、第2グループ原告らと被告Y2社との労働契約は、実質的に期間の定めのない契約になっていたか、少なくとも第2グループ原告らに契約更新に対しての合理的期待があった旨主張する。

前記争いのない事実等及び前記認定事実のとおり、第2グループ原告らは、被告Y2社との労働契約を平成18年6月から、6か月又は1年ごとに合計3回更新してきていたこと、契約書(労働条件通知書)には自動更新特約が記載されていたこと、被告Y2社と労働契約を締結する以前も、原告X6については平成15年3月から、原告X7については平成16年5月から、鎌倉工場で勤務していたことが認められるのであり、作成時期は更新後になることはあったものの、契約更新のたびに契約書(労働条件通知書)が作成されていたことに照らすと、第2グループ原告らと被告Y2社との間の労働契約が実質的に期間の定めのない契約と変わりがないものとなっていたとまで認めることはできないものの、第2グループ原告らは被告Y2社との間の労働契約につき雇用継続についての合理的期待を有していたと解するのが相当である。被告Y2社は、第2グループ原告らと被告Y2社との労働契約は被告Y1社と被告Y2社との請負契約に依存していたことから業務都合により更新しないことがあることを前提としていたこと、いずれかから申出があれば更新しない契約であったことから、第2グループ原告らは契約期間満了後の雇用継続についての合理的期待を有しないと主張するが、これらの事情は、いずれも雇用継続についての合理的期待を否定するに足る事情には当たらないというべきである。

したがって、被告Y2社による本件雇止めには、解雇権濫用法理が類推適用され、雇止めが客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、本件雇止めは許されない。そこで、以下、本件雇止めについての客観的合理的理由及び社会通念上の相当性の有無について検討する。

ウ 人員削減の必要性

前記(3)イで述べたところによれば、被告Y2社において、第2グループ原告らに対し雇止めの通知をした平成21年5月29日の時点で、人員削減の必要性が生じていたことが認められるものの、その程度は高度なものであったとまではいえないというべきである。

エ 人員削減回避の措置

前記(3)ウで述べたところによれば、被告Y2社において、人員削減回避の措置を十分に尽くしたとは認められないというべきである。前記認定事実によれば、被告Y2社は、第2グループ原告らに対し、時給を減額した上で再契約することを提案しており、同原告らがこれを拒否したため、その後、本件雇止めまでの間に3回にわたり更新の条件について話合いの機会を持ったが合意に至らなかったことが認められ、同被告において雇用の維持につき一定の配慮をしていたことは認められるものの、被告Y2社が同原告らに提示した労働条件が合理的であることを裏付けるに足る主張、立証はなく、本件の経過に照らすと、このような対応をしたことをもって、人員削減回避の措置を十分に尽くしたことになるということはできない。

オ 人選の合理性

前記認定事実のとおり、被告Y1社からの受注量が減少した結果、平成21年4月には鎌倉工場における被告Y2社のライン数が5本であったところ、同年5月にはライン数が2本になったこと、それに伴い、被告Y2社は、原告X6をラインリーダーから、原告X7をラインサブリーダーから、それぞれ一般社員に降格し時給を970円に下げることを決定したことが認められる。

しかしながら、本件において、ライン数の減少に伴いラインリーダー及びラインサブリーダーの人員に余剰が生じることは認められるものの、他のラインリーダー及びラインサブリーダーではなく、第2グループ原告らを降格の対象としたことが合理的であることを裏付けるに足る主張、立証はない。

したがって、被告Y2社が第2グループ原告らを雇止めしたことについて、人選の合理性は認められない。

カ 手続の妥当性

前記認定事実のとおり、被告Y2社は、第2グループ原告らに対し、被告Y1社からの受注量が減少しライン数が減少することに伴い、原告X6をラインリーダーから、原告X7をラインサブリーダーから、それぞれ一般社員に降格し、同原告らの時給を970円に下げた上で同年6月1日以降の労働契約を更新すると伝えたこと、その後、同原告らと被告Y2社は、同年5月末日までの間に、3回話合いの機会を持ったものの、契約条件について一致しなかったため、同原告らは雇止めされたことが認められる。

上記の事実によれば、被告Y2社は、本件雇止めに至る過程において、同原告らに対し、一応の説明を行っているということができるものの、前記オのとおり人選の合理性は認められず、同原告らを降格し時給を下げる理由について合理的な説明があったとは認められない。

したがって、本件雇止めは、手続の妥当性を欠くものであるといえる。

キ 以上によれば、本件雇止めについては、人員削減の必要性は認められるものの、その程度は高度なものとまではいえず、かつ、被告Y2社において人員削減回避の措置を十分に尽くしたということも、人選が合理的であったということもできず、手続の妥当性も欠いていたというべきであるから、本件雇止めは、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認めることはできない。

したがって、本件雇止めの効力を認めることはできない。

被告Y2社は、本件雇止めの意思表示には、平成21年12月31日をもって雇止めにする意思表示を含んでおり、仮処分手続においても同日付け雇止めを主張しているから、上記雇止めによって、第2グループ原告らと被告Y2社との間の労働契約は終了しているとも主張する。しかしながら、既に述べたとおり、第2グループ原告らと被告Y2社との労働契約は、本件期間短縮の合意によって平成21年4月1日から5月31日までの2か月間に変更されたと解すべきであり、上記労働契約は2か月ごとに更新されることになる結果、同年12月31日は契約期間の終期ではないから、同日付けの雇止めの主張は失当であり、採用することができない。

そうすると、第2グループ原告らと被告Y2社との労働契約は、平成21年6月1日以降更新され、2か月ごとに更新されて継続しているということができるから、第2グループ原告らの被告Y2社に対する労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求及び同年6月1日以降の賃金請求は理由がある。

なお、第2グループ原告らは、地位確認の請求の趣旨として、別紙2を引用しているが、要するに現在の法律関係の確認を求めているものと善解することができるから、主文第1項のとおり判決する。

ク 第2グループ原告らの平成21年6月以降の賃金額は、同人らが雇止めされなかったならば労働契約上確実に得られたであろう金額であると解するのが相当である。前記争いのない事実等のとおり原告らの賃金は時給制であるから、労働時間によって賃金額が変動するところ、前記認定事実によれば被告Y2社の被告Y1社からの受注額は平成21年6月以降減少していること、それに伴って工数も減少したことが認められることに照らすならば、被告Y2社が第2グループ原告らに対して支払うべき賃金額は、前記争いのない事実等記載の同原告らの平成20年度の平均月額賃金の額の5割の金額と認めるのが相当である。

したがって、第2グループ原告らの平成21年6月以降確実に得られたと認められる月額賃金の額は、次のとおりとなる。

a 原告X6 12万1018円 (24万2036円÷2)

b 原告X7 9万3686円 (18万7371円÷2)

(1円未満四捨五入。)

よって、被告Y2社は、第2グループ原告らに対し、平成21年6月分から平成22年4月分までの賃金として、原告X6につき133万1198円、原告X7につき103万0546円及びこれらに対する弁済期を経過した後である平成22年7月16日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払う義務を負うとともに、平成22年5月1日以降の賃金として、平成22年6月以降本判決確定の日まで毎月15日限り前記月額賃金額及びこれらに対する各支払期日の翌日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。

3  争点(3)(被告らの行為につき不法行為が成立するか否か及び損害額)について

(1)  原告らは、原告らと被告Y1社との間の労働契約が認められる場合と認められない場合とに分けて被告らの不法行為の成立を主張するところ、既に説示したとおり、原告らと被告Y1社との間に労働契約が成立していると認めることはできないから、原告らと被告Y1社との間に労働契約が成立することを前提とする不法行為の主張は失当である。

(2)  原告らは、原告らと被告Y1社との間に労働契約の成立が認められないとしても、被告Y1社につき、①常用代替防止原則及び解雇権濫用法理を潜脱する違法な目的を持って労働者派遣契約及び業務請負委託契約の形式を偽装し、原告らを違法状態で業務に従事させ続けたこと、②被告Y2社に対する減産通告をすることで、被告Y2社による違法な本件解雇及び本件雇止めを主導したこと、③偽装請負を行い、労働者派遣契約の契約期間の上限を遵守せず、原告らに対し直接雇用の申込みをせず、労働者派遣法40条の2、同法40条の5に違反したこと、が不法行為に当たり、被告Y2社につき、被告Y1社の上記不法行為に加担した不法行為が成立する旨主張する。

しかしながら、①の点については、原告らは、被告Y2社と労働契約を締結し、派遣労働者又は請負労働者として就労することを認識した上で鎌倉工場における就労を継続し、被告Y2社との間の労働契約に基づく相応の賃金の支払を受けていたものであるから、鎌倉工場において就労をしたことにより、原告らに何らかの法律上の不利益が生じていたものとは認められない。②の点については、被告Y1社が被告Y2社に減産通告をしたことが被告Y2社による本件解雇及び本件雇止めのきっかけになっているとはいえるものの、本件解雇及び本件雇止めの対象として原告らを選別したのは被告Y2社であり、被告Y1社が原告らを選別したことは認められず、被告Y1社が本件解雇ないし本件雇止めをしたと認めることはできない。③の労働者派遣法違反を指摘する点については、労働者派遣法が労働力の需給の適正な調整を図るため労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置を講じるとともに、派遣労働者の保護等を図り、もって派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資することを目的とする行政上の取締法規であることを踏まえれば、仮に、同法に違反する事実が認められたとしても、そのことから、直ちに派遣労働者の個々具体的な権利が損なわれたとみることはできない。そして、他に被告Y1社の原告らに対する対応について不法行為を構成するに足る違法性があったことを認めるに足る主張、立証はないから、被告Y1社及び被告Y2社が原告らに対して、共同して不法行為を行ったとする原告らの主張は理由がない。

また、被告Y2社の原告らに対する本件解雇及び雇止めの効力が認められないことは前記のとおりであるが、原告らにつき、地位確認及び賃金請求が認められることに加えて慰謝料請求権が発生することを認めるに足る主張、立証はない。

以上のとおりであるから、原告らの被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求は、いずれも理由がない。

第4結論

よって、原告らの被告Y2社に対する請求は主文第1項ないし第3項記載の限度で理由があるからこれを認容し、被告Y2社に対するその余の請求及び被告Y1社に対する各請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、64条、65条1項を、仮執行宣言につき同法259条1項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 阿部正幸 裁判官 建石直子 裁判官 岡田毅)

(別紙1)

1 原告X1

契約期間 期間の定めのない契約

就業場所 被告Y1社鎌倉工場

業務内容 化粧品製造業務

賃  金 時給1400円

賃金締日 毎月末日

賃金支払日 翌月15日

2 原告X2

契約期間 期間の定めのない契約

就業場所 被告Y1社鎌倉工場

業務内容 化粧品製造業務

賃  金 時給1000円

賃金締日 毎月末日

賃金支払日 翌月15日

3 原告X3

契約期間 期間の定めのない契約

就業場所 被告Y1社鎌倉工場

業務内容 化粧品製造業務

賃  金 時給950円

賃金締日 毎月末日

賃金支払日 翌月15日

4 原告X4

契約期間 期間の定めのない契約

就業場所 被告Y1社鎌倉工場

業務内容 化粧品製造業務

賃  金 時給950円

賃金締日 毎月末日

賃金支払日 翌月15日

5 原告X5

契約期間 期間の定めのない契約

就業場所 被告Y1社鎌倉工場

業務内容 化粧品製造業務

賃  金 時給950円

賃金締日 毎月末日

賃金支払日 翌月15日

6 原告X6

契約期間 期間の定めのない契約

就業場所 被告Y1社鎌倉工場

業務内容 化粧品製造業務

賃  金 時給1350円

賃金締日 毎月末日

賃金支払日 翌月15日

7 原告X7

契約期間 期間の定めのない契約

就業場所 被告Y1社鎌倉工場

業務内容 化粧品製造業務

賃  金 時給1100円

賃金締日 毎月末日

賃金支払日 翌月15日

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