大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 平成22年(ワ)4489号 判決 2012年7月30日

原告

被告

主文

一  被告は原告に対し、二〇八八万四二一七円及びこれに対する平成二二年九月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、それぞれを各自の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、四一七五万四五六二円及びこれに対する平成二二年九月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

原告が道路を横断中、被告の運転する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)と衝突する交通事故(以下「本件事故」という。)が発生し、これにより負傷した原告は、被告に対して民法七〇九条に基づき、損害賠償の訴えを提起した。

一  当事者間に争いのない事実

(1)  本件事故の発生

平成二一年三月三〇日午後四時五分ころ、神奈川県海老名市東柏ケ谷二丁目二六番八号付近の道路において、道路を横断中の原告と被告車が衝突した。

(2)  原告の傷害

原告は、本件事故により、右膝内側側副靱帯損傷及び右肘打撲の傷害を負い、平成二一年三月三〇日から同年七月二日まで通院治療(通院実日数は一六日)を余儀なくされ、同日、症状固定となった。

(3)  既払

平成二一年九月七日、原告と被告との間で、甲第五号証記載の内容の示談(以下「本件示談」という。)が成立し、原告の治療関係費を含む三二九万二八五五円が原告に支払われた。

二  原告の主張

(1)  原告の後遺症

本件事故による傷害が症状固定となったが、原告には、右膝内側側副靱帯大腿骨付着部に圧痛及び右肘痛の後遺障害が残った。これは、自動車損害賠償保障法施行令別表第二の第一〇級一一号に該当する。

(2)  損害

本件事故によって原告に生じた損害及びその額は、別紙記載のとおりである。

三  被告の主張

(1)  原告の後遺症について

自動車損害賠償責任保険の後遺障害等級認定(以下「自賠認定」という。)において、原告については非該当との判断がされており、原告主張の後遺障害は存在しない。

(2)  本件示談による損害賠償請求権の放棄

原告と被告との間においては、平成二一年九月七日、本件示談が成立し、後遺障害に関する損害について、原告が自賠認定を受けた場合において、別途協議するほかは、その余の損害賠償を請求しないものと定められているから、原告が同認定において非該当と判断された以上、原告は、本件示談による支払額を超えて損害賠償を請求することはできない。

四  争点

(1)  原告の後遺障害の存否及び程度

(2)  本件示談の効力

第三当裁判所の判断

一  原告の後遺障害の存否及び程度について

甲第二号証によれば、原告は、本件事故により負った右膝内側側副靱帯損傷及び右肘打撲の傷害の後遺障害として、「右膝痛 杖を常時使用、立ち上がり、階段にて痛みの増強あり、困難、立位の持続により膝痛増強」及び「右肘痛 肘をつけない状態(痛みのため)」が残存するとの診断がされたことが認められる。

甲第四号証及び第六号証によれば、自賠認定において、上記の症状については非該当との判断がされたことが認められる。

しかし、甲第一三号証の四及び鑑定人Aによる鑑定の結果によれば、右膝MRIにおいて膝蓋大腿関節の大腿骨溝の軟骨下骨に存在する信号変化が認められ、これは軟骨変性と軟骨変性を基盤とする関節軟骨の不整、剥離、非薄化等を意味するもので、甲第二号証記載の後遺障害のうち、「右膝関節の機能障害」及び「右膝受傷後の杖を常時使用、立上がり、階段にて痛みの増強あり困難、立位の持続により膝痛増強」との症状(以下「本件自覚症状」という。)については、他覚所見による裏付けがあり、本件自覚症状は、既存の軟骨変性に本件事故の外力が加わり、症状が出現したことが認められ、本件自覚症状が残存することによる後遺障害は、自動車損害賠償保障法施行令別表第二の第一二級一三号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当することが認められる。

以上によれば、原告には、本件事故による後遺障害が認められ、その程度は自動車損害賠償保障法施行令別表第二の第一二級に該当するものである。

二  本件示談の効力について

甲第五号証記載のとおり、原告と被告との間においては、平成二一年九月七日、本件示談が成立したことは、当事者間に争いがない。被告は、本件示談において、原告が自賠認定を受けた場合において、別途協議すると定められているから、原告が同認定において、非該当と判断された以上、原告は、本件示談に定めるほかの損害賠償を請求することはできないと主張する。

しかし、本件示談における「後遺障害については、甲加入の自賠責保険に被害者請求を行うことにより認定等級を決定する。甲乙は上記により、決定された認定等級に従い別途協議を持つこととする。」との約定(甲第五号証)は、原告の後遺障害の存否及び程度が決定される一場合として、自賠認定を受けた場合を例示したものにすぎず、裁判において後遺障害の存否及び程度が認定され、これに従った損害賠償が命ぜられる場合は、当然に含まれるとの意味であると解される。被告の主張のとおりに解釈すると、自賠認定に対する異議申立てに法的な制限がないため、後遺障害について、理論上いつまでも確定しないことになってしまうから、裁判によって後遺障害の存否及び程度が認定される場合を排除することができないはずである。法律関係の確定を意図して上記の約定を設けた当事者の意思としては、裁判によって後遺障害の存否及び程度が認定されれば、自賠認定と異なる結論でも、これに従った解決をするというものであると解される。

上記一のとおり、裁判によって後遺障害の存否及び程度について、自賠認定と異なる認定がされたときは、これを本件示談の効力によって排斥することはできない。

三  損害について

(1)  治療費

本件事故による治療関係費が二九万二八五五円であることは、当事者間に争いがない。

(2)  逸失利益

甲第三号証によれば、原告の平成二〇年分の損益計算書における利益は、二一三八万五九九〇円であり、原告は、基礎収入を所得金額である二〇七三万五九九〇円と主張するから、この額を逸失利益計算上の基礎収入額とする。前記認定のとおり、原告の後遺障害は、自動車損害賠償保障法施行令別表第二の第一二級に該当するから、原告の労働能力喪失率は一四パーセントである。原告の症状固定時の年齢は五八歳である。したがって、上記基礎収入額をもとに、九年に相当するライプニッツ係数により計算すると、逸失利益は二〇六三万四二一七円と認められる。

(3)  傷害慰謝料

原告が本件事故の日である平成二一年三月三〇日から症状固定の日である同年七月二日まで通院治療(通院実日数は一六日)を余儀なくされたことは、当事者間に争いがない。そこで、原告の主張する三五万円は、本件事故の傷害に対する慰謝料として相当である。

(4)  後遺症慰謝料

原告に前記後遺障害が残存し、自動車損害賠償保障法施行令別表第二の第一二級に該当するから、原告の後遺症に対する慰謝料としては、二九〇万円が相当である。

(5)  合計

請求額

認定額

治療費

292,855

292,855

逸失利益

39,794,562

20,634,217

傷害慰謝料

350,000

350,000

後遺症慰謝料

4,610,000

2,900,000

損害合計

45,047,417

24,177,072

被害者過失(%)

0

0

既払額

3,292,855

3,292,855

賠償残額

41,754,562

20,884,217

上記(1)から(4)までの合計額から既払額を控除すると、二〇八八万四二一七円となる。

四  以上によれば、原告の請求は主文掲記の限度で理由があり、その余の請求は理由がない。被告は、仮執行免脱の宣言を求めるが、相当でないから、これを付さないこととする。よって、原告の請求を一部認容し、その余の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 古閑裕二)

別紙

損害

(1) 治療関係費……………治療費その他合計二九万二八五五円

なお、後述するとおり、以上の費用等は既に保険会社からの支払いがなされている(甲五)。

(2) 入通院慰謝料 金三五万円

ア 実通院日数一六日

イ 計算上の通院日数五六日

(3) 後遺症による逸失利益 三九七九万四五六二円

ア 平成二〇年度の年収……二〇七三万五九九〇円(甲三)

イ ライプニッツ係数……………………………七・一〇七八

ただし、症状固定日の年齢五八歳から六七歳までの就労可能期間九年のライプニッツ係数

ウ 労働能力喪失率 二七パーセント

エ 計算式………………………2073万5990円×7.1078×0.27

(4) 後遺症による慰謝料 四六一万円

後遺障害等級一〇級相当

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例