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横浜地方裁判所 平成22年(ワ)5719号 判決 2012年2月27日

原告

被告

主文

一  被告は原告に対し、五七四万九五八八円及びこれに対する平成一九年四月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その四を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項及び第三項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、二七三三万〇一一六円及びこれに対する平成一九年四月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

後記一の交通事故が発生し、原告は、この事故により被った損害について損害賠償を求める訴えを提起した。これに対し、被告は、この事故が被告の過失によるものであることは認め、原告が被った損害について争っている。

一  当事者間に争いがない事実

平成一九年四月二六日午後四時五分ころ、東京都世田谷区鎌田三丁目一九番付近において、信号待ちのため停車していた原告運転の普通乗用自動車に、被告運転の普通貨物自動車が追突する事故(以下「本件事故」という。)が発生した。本件事故により、原告は、頚椎打撲捻挫兼外傷性頚椎症、胸部腰椎打撲捻挫の傷害(以下、これらの傷害を総称して「外傷」という。)を負った。

原告は、外傷の治療のため、平成一九年四月二六日から同年五月七日まで菊池外科病院に入院し、同日から同月三一日まで葉山整形外科医院に通院(実日数は二二日)した。そして、外傷については、損害保険料率算出機構において、症状固定となった後の頚部項部疼痛等、頚椎部の運動障害及び腰痛は自賠責保険における後遺障害には該当しないと判断された。

原告は、本件事故前から、うつ病でa生命保険株式会社を休職中であったところ、うつ病については、平成二二年二月一九日に症状固定と診断され、損害保険料率算出機構において、抑うつ気分、意欲低下及び易疲労感は一四級九号の既存障害が本件事故により加重した結果、一二級一三号の後遺障害に該当すると判断された。

原告は、本件事故前の平成一六年五月二四日に発生した交通事故により、頚椎打撲兼外傷性頚椎症、頚部交感神経刺激症(バレーリューウ症候群)及び反応性抑うつ状態の傷害を負い、損害保険料率算出機構において、頚部痛、上肢への放散痛について一四級一〇号、発汗異常、冷え、微熱等の症状について一四級一〇号、併合して一四級の後遺障害があると判断された。

二  原告の主張

本件事故により原告が被った損害は、別紙記載のとおりである。

三  被告の主張

外傷に関する治療費、入院雑費その他の治療関係費は認めるが、うつ病については、本件事故との因果関係を否認し、うつ病に関する損害及びその余の損害については、争う。また、うつ病を素因とする素因減額がされるべきである。

第三当裁判所の判断

一  治療費について

外傷に関する治療費、すなわち菊池外科病院及び葉山整形外科医院における治療費合計九二万一九四〇円については、当事者間に争いがない。

甲第七号証によれば、原告が平成一九年五月七日菊池外科病院に薬代として四五〇円を支払ったことが認められ、時期と支払先からみて、本件事故による薬代であると推認されるから、これも治療費に加えるべきである。

うつ病に関しては、原告が本件事故前からうつ病で勤務先のa生命保険株式会社を休職中であったことは、当事者間に争いがない。甲第四号証及び乙第七号証によれば、原告は、平成一六年五月二四日、交通事故によって負傷し、頚部痛等のほかに、抑うつ状態が認められ、中村メンタルクリニックを経て平成一八年七月二一日に藤沢病院を受診し、同日から同年一〇月一四日まで入院し、その後、通院治療を継続していたことが認められる。その後、本件事故に遭い、甲第五号証によれば、本件事故の後に、原告の症状が悪化したことが認められる。これらの事実に鑑みれば、本件事故によりうつ病が悪化したことによる直接の治療費は、本件事故後症状固定(平成二二年二月一九日)までの藤沢病院における治療費九四万一九四〇円の五〇パーセント相当額である四七万〇九七〇円と推計するのが相当である。

したがって、本件事故と因果関係のある治療費は、合計一三九万三三六〇円である。

二  その他の治療関係費について

(1)  入院雑費

原告が外傷の治療のため平成一九年四月二六日から同年五月七日まで一二日間菊池外科病院に入院したことは、当事者間に争いがない。甲第四号証によれば、本件事故後のうつ病の悪化のため、原告が①平成一九年六月一日~同年八月二三日(八四日)、②平成二〇年八月二三日~同年一一月二〇日(九〇日)、③平成二一年九月二五日~同年一一月一〇日(四七日)、藤沢病院に入院した事実が認められる。うつ病の治療は、本件事故前から継続していたものであることに鑑みれば、前記一と同様に、うつ病の治療のための入院の日数の二分の一が本件事故と因果関係があるものと認められる。したがって、外傷の治療のための入院一二日とうつ病のための入院二二一日の二分の一である一一〇日の合計一二二日について、一日当たり一五〇〇円の入院雑費の損害(合計一八万三〇〇〇円)が認められる。

(2)  通院雑費

原告は、通院雑費という損害を挙げているが、それがいかなる内容かも判然とせず、損害の発生を認めるに足りる証拠はない。

(3)  通院交通費

原告が菊池外科病院に通院するための交通費として四万五〇五〇円、葉山整形外科医院に通院するための交通費として七四八〇円を要したことは、当事者間に争いがない。甲第一〇号証の藤沢病院に入院する際の交通費のうち、タクシー代については、領収証がなく、支出を認めるに足りる証拠はない。また、入院中の一時帰宅時の交通費についても、損害とは認められない。藤沢病院への通院について、通院実日数四六日の二分の一について、本件事故との因果関係が認められるので、二万四三八〇円が通院交通費の損害として認められる。以上によれば、通院交通費は、合計七万六九一〇円が本件事故と因果関係のある損害である。

(4)  文書料(診断書等作成代)

甲第一三号証のうち、平成二〇年六月一三日付け回答書、同年一〇月一四日付け診断書及び平成二一年六月二〇日付け後遺障害(外科)診断書については、領収証がなく、戸籍謄本、住民票写し、課税証明及び印鑑証明の作成手数料については、本件事故との因果関係がない。したがって、これら以外の甲第一三号証記載の文書についての作成費用九万九二八〇円が本件事故による損害と認められる。

(5)  将来の医療費及び将来の通院交通費

原告は、将来の医療費及び将来の通院交通費についても請求しているが、うつ病について、症状固定後の治療の必要性を認めるに足りる証拠はない。

三  休業損害及び逸失利益について

(1)  休業損害

原告が本件事故前からうつ病で勤務先のa生命保険株式会社を休職中であったことは、当事者間に争いがない。休職中であったとしても、復職する可能性がある限り、休業損害が認められる。しかし、甲第九号証の一から三までによれば、原告は、本件事故後で症状固定前の平成二〇年一一月七日をもって休職期間が満了し、同会社を退職したことが認められる。したがって、原告には、復職する可能性があったと認めるに足りる証拠はなく、休業損害は認められない。

(2)  逸失利益

原告がa生命保険株式会社勤務中の収入についての証拠はないから、平成二一年賃金センサス男子学歴計のうち、原告の症状固定時の年齢四九歳に相当する平均賃金は、六六四万八三〇〇円であり、上記(一)の事実に鑑みると、原告の基礎収入は、多くとも平均賃金の二分の一であると認められる。したがって、原告の基礎収入の額は、三三二万四一五〇円である。

損害保険料率算出機構において、原告の後遺障害としての抑うつ気分、意欲低下及び易疲労感は、一四級九号の既存障害が本件事故により加重した結果、一二級一三号の後遺障害に該当すると判断されたことは、当事者間に争いがない。したがって、本件事故による新たな労働能力喪失は九パーセントであると認められる。

G認定年額

3,324,150

H労働能力喪失率

9

Iライプニッツ係数

11.6896

G×H/100×I

3,497,218

以上によれば、原告の逸失利益は、三四九万七二一八円であると認められる。

四  慰謝料について

(1)  傷害慰謝料

前記二(1)のとおり、外傷の治療のための入院一二日とうつ病のための入院日数の二分の一を合計すると一二二日であり、甲第三号証によれば、外傷の治療のための通院実日数が二二日であり、原告の主張する藤沢病院への通院実日数の二分の一は二三日であるから、これらを総合考慮すると、原告に対する傷害慰謝料としては、二三五万円が相当である。

(2)  後遺症慰謝料

前記争いのない事実のとおり、原告の後遺障害は、一四級九号の既存障害が本件事故により加重した結果、一二級一三号の後遺障害に該当するものであるから、一二級相当の慰謝料から一四級相当の慰謝料を控除した一八〇万円が後遺症慰謝料として相当である。

五  その他の損害について

(1)  ペットシッター代について

原告は、原告が飼っていた犬を原告の入院中飼育するための費用を請求しているが、ペットの飼育は、加害者が予見することのできない事情であるから、本件事故との相当因果関係がない。

(2)  司法書士費用について

原告は、弁護士に委任せず、本人で訴訟を追行したのであるから、書類の作成費用の全部又は一部を被告に負担させるべき理由はない。

六  損害賠償額について

前記一から四までの合計から、原告が自認する既払額三六五万〇一八〇円を控除すると、損害賠償の元金額は、次のとおり五七四万九五八八円である。

請求額

認定額

治療費

4,750,230

1,393,360

入院雑費

349,500

183,000

通院雑費

17,000

0

通院交通費

123,520

76,910

文書料

123,230

99,280

休業損害

8,240,330

0

逸失利益

7,274,246

3,497,218

傷害慰謝料

5,256,000

2,350,000

後遺症慰謝料

3,800,000

1,800,000

物損その他

1,046,240

0

損害合計

30,980,296

9,399,768

被害者過失(%)

0

0

素因割合(%)

0

0

過失相殺等後損害合計

30,980,296

9,399,768

既払額

3,650,180

3,650,180

賠償残額

27,330,116

5,749,588

なお、被告は、素因減額を主張するが、前記のとおり、本件事故当時原告がうつ病で治療中であったことは、各損害費目の算定上考慮したので、全体に対して素因減額をする必要はない。

七  結論

以上によれば、原告の請求は主文第一項掲記の限度で理由があり、その余の請求は理由がない。よって、原告の請求を一部認容し、その余の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 古閑裕二)

損害

原告に生じた損害は以下のとおりである。

(1) 損害について

損害の内訳

損害額

備考

1

治療関係費(外科)

¥922,390

甲7

2

治療関係費(精神科)

¥3,827,840

甲8

3

入院雑費

¥349,500

1日あたり1,500円

1,500円×(12+221日)=349,500円

4

通院雑費

¥17,000

1日あたり250円

250円×(22+46日)=17,000円

5

休業損害

¥8,240,330

甲9

6

入通院慰謝料

¥5,256,000

入院7ケ月、通院33ケ月

7

通院交通費

¥123,520

甲10

8

ペットシッター代

¥480,000

甲11

9

遺失利益

¥7,274,246

甲12

10

後遺障害慰謝料

¥3,800,000

12級-14級で算出

4,900,000(12級)-1,100,000(14級)

=3,800,000円

11

診断書等作成代

¥123,230

甲13

12

将来の医療費

¥40,800

診察1回460円及び薬代1,240円が

2年間(24回)かかるものとして算出

13

将来の通院交通費

¥25,440

通院1回1,060円×24回

14

司法書士費用

¥500,000

合計

¥30,980,296

(2) 損害の填補について

A、前記1治療関係費(外科)のうち、金921,940円については、被告が加入する任意保険会社により填補済みである。

填補されていないのは、平成19年5月7日、原告が菊池外科病院にて支払った、薬代金450円である。

B、治療関係費(精神科)は原告が原告の健康保険を使用し支払ったため、健康保険により金2,683,190円が填補されている。

C、通院交通費のうち金45,050円は、被告が加入する任意保険会社により填補済みである。

(3) 被告に対する損害賠償請求額について

上記(1)の損害額から(2)の填補額を控除すると、以下のとおりとなる。

合計金27,330,116円

損害額等(1)

既払額(保険等)(2)

請求額(1)-(2)

1

治療関係費(外科)

¥922,390

¥921,940

¥450

2

治療関係費(精神科)

¥3,827,840

¥2,683,190

¥1,144,650

3

入院雑費

¥349,500

¥0

¥349,500

4

通院雑費

¥17,000

¥0

¥17,000

5

休業損害

¥8,240,330

¥0

¥8,240,330

6

入通院慰謝料

¥5,256,000

¥0

¥5,256,000

7

通院交通費

¥123,520

¥45,050

¥78,470

8

ペットシッター代

¥480,000

¥0

¥480,000

9

遺失利益

¥7,274,246

¥0

¥7,274,246

10

後遺障害慰謝料

¥3,800,000

¥0

¥3,800,000

11

診断書等作成代

¥123,230

¥0

¥123,230

12

将来の医療費

¥40,800

¥0

¥40,800

13

将来の通院交通費

¥25,440

¥0

¥25,440

14

司法書士費用

¥500,000

¥0

¥500,000

合計

¥30,980,296

¥3,650,180

¥27,330,116

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