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横浜地方裁判所 平成22年(ワ)6236号 判決 2012年7月30日

第一事件原告・第二事件被告

第一事件被告・第二事件原告

第二事件原告

a社

主文

一  被告は、原告に対し、金一三五八万七五六三円及び内金一二三五万七五六三円に対する平成二二年九月一〇日から、内金一二三万円に対する平成一八年六月一四日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告は、被告に対し、金一〇万円及びこれに対する平成一八年六月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告は、原告a社に対し、金三四万一五九八円及びこれに対する平成二三年四月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告及び原告a社のその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用の負担は、次のとおりとする。

(1)  原告と被告との間で生じた費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

(2)  原告と第二事件原告との間で生じた費用は、これを四分し、その一を原告の負担とし、その余を第二事件原告の負担とする。

六  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

(第一事件)

被告は、原告に対し、二七二三万六〇八九円及び内二四七三万六〇八九円に対する平成二二年九月一〇日から、内二五〇万円に対する平成一八年六月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(第二事件)

一  原告は、被告に対し、一〇万円及びこれに対する平成一八年六月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告は、原告a社に対し、一三七万一九九五円及びこれに対する平成二三年四月二〇日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

第一事件は、平成一八年六月一四日、静岡県伊豆市の伊豆スカイラインにおいて、原告運転の自家用普通自動二輪車(以下「原告車」という。)が転倒し、被告運転の自家用普通乗用自動車(以下「被告車」という。)に衝突するなどした事故(以下「本件事故」という)について、原告が被告に対し、民法七〇九条に基づく損害賠償及び遅延損害金を請求した事案である。

第二事件は、本件事故について、被告が原告に対し、民法七〇九条に基づく損害賠償及び遅延損害金を請求するとともに、被告との間で自動車保険契約を締結していた原告a社が原告に対し、保険代位に基づき、損害賠償及び遅延損害金を請求した事案である。

一  前提事実(争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1)  次のとおり本件事故が発生した(甲一)。

ア 発生日時 平成一八年六月一四日午前七時一五分頃

イ 発生場所 伊豆市下白岩一四四五番地の五八二(伊豆スカイライン)

ウ 原告車 自家用普通自動二輪車(ナンバー<省略>)

エ 被告車 自家用普通乗用自動車(ナンバー<省略>)

オ 事故態様 原告が原告車で時速約一〇〇キロメートルにて走行していたところ、前方に方向転換をしようとしていた被告車を認め、急ブレーキをかけ、バランスを崩して転倒し、道路を滑走して被告車に衝突するなどした。

(2)  原告の傷害の内容及び治療の経過

ア 傷病名 外傷性肝損傷、肺挫傷、右肋骨骨折、右尺骨骨折、腓骨骨折、橈骨骨折(甲五)

イ 治療状況(甲四~九、一七~一九(枝番を含む。以下同じ))

(ア) 入院(合計四六日)

a b病院(甲五)

平成一八年六月一四日~一六日(三日間)

b c病院(甲六、八、九)

平成一八年六月一六日~七月二二日(三七日間)

平成一九年一二月四日~六日(三日間)

c d病院(甲一七の二三一)

平成二〇年三月一〇日~一二〇(三日間)

(イ) 通院

上記(ア)bのc病院のほか、e整形外科(甲七)、f病院(甲一七の二二〇)及びg病院(甲一〇)に、症状固定日まで通院。

ウ 症状固定日 平成二二年七月五日(甲一〇)

エ 後遺障害の程度、等級 一〇級一〇号(甲一一)

(3)  自賠責保険から原告への支払

原告は、自賠責保険から、平成二一年六月四日に一二〇万円、平成二二年九月九日に四六一万円、合計五八一万円の支払を受けた(弁論の全趣旨)。

(4)  被告の保険契約

原告a社は、被告との間で、被告車につき自動車保険契約を締結していたところ、これに基づき、被告に対し、被告車の修理費一四七万一九九五円(乙二)のうち、免責金額一〇万円を控除した損害保険金一三七万一九九五円を支払った(乙三)。

二  請求額の根拠

(1)  第一事件

ア 医療費 一六七万七八七三円(甲一七)

イ 入院雑費 六万九〇〇〇円(一五〇〇円×四六日)

ウ 通院駐車料 二万一〇〇五円(甲一八)

エ 休業損害 四五三万〇〇一三円(後記三(2)イ)

オ 後遺症による逸失利益 九七七万七九八八円(後記三(2)ウ)

カ 慰謝料(後記三(2)エ)

(ア) 傷害慰謝料 三〇九万円

(イ) 後遺症慰謝料 五五〇万円

キ 文書料 一〇万七五七五円(甲一九)

本件の損害賠償請求にかかる文書料である。

ク 物損(原告車の時価) 四〇万円(甲一二~一六)

ケ 以上合計 二五一七万三四五四円

これに対する本件事故の日からの遅延損害金(民法所定の年五分の割合)に前提事実(3)の自賠責保険金を先充当した残元本額は、二四七三万六〇八九円となる。

これに対しては、平成二二年九月一〇日からの遅延損害金を請求する。

コ 弁護士費用 二五〇万円

これに対しては、本件事故の日からの遅延損害金を請求する。

(2)  第二事件

ア 被告は、前提事実(4)の免責金額一〇万円及びこれに対する本件事故の日からの遅延損害金を請求する。

イ 原告a社は、支払った損害保険金一三七万一九九五円及びこれに対する訴状送達の日の翌日からの遅延損害金を請求する。

なお、保険代位による求償であるから、被告の請求権が原告a社の請求権に優先する。

三  争点

(1)  事故態様及び過失割合

(原告の主張)

ア 本件事故現場の道路は、原告の進行方向に向かって左側にカーブしており、本件事故現場の約八〇メートル手前まで接近しなければ、現場全体を見渡すことができない。また、転回禁止の規制がなされている。

被告は、相当の高速で自動二輪車が走行してくる可能性について予測すべきである。

イ 被告は、ハザードランプを点けずに転回を開始し、切り返しのためバックしているが、アクセルを踏まずにバックしており、危険を避けるため急いで転回しようとしていない。また、被告車は左ハンドルであり、右方向から来る車は助手席を通してしか見えない状況であるにもかかわらず、助手席の同乗者に注意を頼むこともしていない。

ウ 被告車がバックしているのを、その数一〇メートル手前で発見した原告は、被告車との衝突を回避するためには、急ブレーキをかけるしかない状況であった。原告が急ブレーキをかけたところ、バランスを崩して転倒したのである。

エ このような被告の転回方法は、著しく注意を欠くものであり、本件事故の主たる原因は被告の運転に起因するものである。

(被告の主張)

ア 本件事故現場の道路は、緩やかに左側にカーブしており、八〇メートル程度の視界がある。制限速度を遵守して走行する自動二輪車が前方の停止車両を安全に避けるための視界は充分にあった。

イ 被告車は、一旦道路左側の舗装されていない空き地に停車し、方向転換のため再び車線に進入したのであり、転回に当たらない。被告車は、ハザードランプを点けてバックしていたところ、訴外C(以下「訴外C」という)の普通自動二輪車と接触し、停止していた。

ウ 本件事故は、原告が、制限速度を大幅に超える速度で自動二輪車を運転しており、前方車線上で停止していた被告車を認め、慌てて急制動をした結果(いわゆるパニックブレーキ)、すぐさま転倒してコントロールを失ったまま滑走し、被告車に衝突し、さらにガードレールに衝突したという事故である。また、原告には、大幅な速度超過、前方不注視の過失があり、かつ、パニックブレーキをかけて自車を転倒させて滑走させるなど、衝突回避のための措置の重大な不手際もあった。したがって、本件事故は、原告の過失に起因するものである。

エ また、原告は、違法な状態でサブガソリンタンクを搭載していたため、原告車が転倒して滑走状態の時に、同タンクのガソリンに引火し、火のついた状態となっていた。

オ このような過失状況のため、交通事故証明書の甲欄には原告が記載され、かつ、被告には刑事処分が科されていない。

(2)  原告の損害額

ア 第一事件の請求額

(原告の主張)

前記第二、二(1)のとおり。

(被告の主張)

原告の主張は、不知ないし争う。

特に、休業損害、後遺症による逸失利益、慰謝料に関しては、以下の主張のとおりである。

イ 休業損害

(原告の主張)

原告は家事従事者であり、収入については、賃金センサス産業計、企業規模計、学歴計、女性労働者全年齢平均の賃金額を基礎とすべきであり、平成一八年から同二二年までの賃金センサスの平均はおよそ三四七万円であるから、これを基礎として算定すべきである。そして、後遺症により、労働能力二七パーセント喪失となったことから、通院期間についても少なくとも三〇パーセント部分について労働能力の喪失が認められるべきである。

入院期間

347万円÷365日×46日=43万7315円

通院期間

(347万×3年+347万÷365日×340日)×0.3=409万2698円

合計

453万0013円

(被告の主張)

原告が家事従事者であることの立証がない。

また、原告が家事従事者の側面を有していたとしても、女性の専業主婦と同様に考えるべきではない。男性の家事の場合には、通常の家事労働とは質的・量的に異なる場合も少なくなく、これを家事労働と評価しうるか、評価しうるとして、その評価の程度をどうするかは慎重に判断する必要がある。原告の症状からみて、労働能力喪失率に関する原告の主張は過大である。

ウ 後遺症による逸失利益

(原告の主張)

原告の後遺症等級は一〇級で、労働能力喪失率は二七パーセントである。平成二一年の賃金センサス産業計、企業規模計、学歴計、女性労働者全年齢平均の賃金額三四八万九〇〇〇円を基礎として算定すべきである。

348万9000円×0.27×10.3797(15年のライプニッツ係数)=977万7988円

(被告の主張)

労働能力喪失率を二七パーセントとする原告の主張は過大であり、また、労働能力喪失期間も過大である。

エ 慰謝料

(原告の主張)

傷害慰謝料は、入院四六日、通院期間三年三四〇日(実日数五六一日)で三〇九万円。

後遺症慰謝料は、後遺症等級一〇級で五五〇万円。

合計八五九万円。

(被告の主張)

原告の入通院及び後遺症の具体的状況に照らすと、原告の主張は過大である。

第三争点に対する判断

一  争点(1)事故態様及び過失割合について

(1)  甲二、三、二三、二六ないし三〇、乙四、五、原告本人尋問の結果及び被告本人尋問の結果(ただし後記認定事実と異なる部分を除く。)によれば、次の事実が認められる。

ア 本件事故現場は、一般自動車専用道路伊豆スカイライン上の伊豆市下白岩一四四五番地の五八二の平坦な片側一車線の道路(以下「本件道路」という。)上であり(道幅約七・七メートル、車線部分が約六・五五メートル)、冷川方面に向かって左にカーブしている。中央分離帯はない。交通規制として、制限速度は時速六〇キロメートル、転回禁止の規制がなされている。

原告車の全幅は、〇・七五メートルであり、被告車の全長は四・八メートルである。

イ 被告車は、本件道路を熱海方面から冷川方面に向かって走行していたが、本来出る予定であった亀石峠出口を通り過ぎた。そこで、被告は、引き返すための場所を探し、本件事故現場の道路左側の舗装されていない空き地(幅約五メートル)に被告車を停止させた。なお、被告は転回禁止の標識には気付いていなかった。

ウ 被告は、それまでの進行方向とは逆の亀石峠方面に向かうため、被告車を方向転換させようとして、前進させて車線内に進行させた。被告は、助手席の同乗者に右方の注意を頼むこともしなかった。そして被告車は、右側車線を塞ぐような形になって停止した。このときは被告車の後方を自動二輪車が通過できる程度の隙間があった。

エ 被告車は、切り返しのためバックを始めたところ、冷川方面に向かって走行していた訴外Cの普通自動二輪車(以下「訴外C車」という。)が、被告車の後部と接触した。

オ 訴外C車との接触後、被告車は左側車線を塞ぐような形になっていた。原告は、訴外Cの後方を冷川方面に向かって時速約一〇〇キロメートルで走行していたところ、被告車の約七〇~八〇メートル手前で被告車を発見した。冷川方面に向かって被告車までの手前からの視界は約八〇メートルであり、原告は原告車を左に傾けてカーブを曲がっていたので、これより前に発見することは困難であった。原告は、すぐに急制動を行ったが、被告車の数一〇メートル手前でバランスを崩して転倒した。

カ 原告車はコントロールを失ったまま滑走し、被告車に衝突し、さらにガードレールに衝突した。その間に原告車から離れた原告も、右半身が被告車の右側面前部付近に衝突した。

(2)  なお、被告は、原告は約八〇メートル手前で転倒したと主張する。しかし、原告が被告車を発見してから直ちにブレーキをかけたとしても、時速一〇〇キロメートルで走行していた場合、一秒間に約二七・八メートル進行することを考えると、原告がブレーキをかけ、ブレーキがきき始めて転倒するまでのわずかな時間にも、原告車が前進していたと考えられるから、原告が転倒した位置は、少なくとも約八〇メートル手前よりは先である。原告車が、約八〇メートル手前で転倒したという被告の供述は信用することができず、他に被告の供述を裏付ける証拠は見当たらない。

(3)  上記(1)の事故態様に照らすと、次のようにいえる。

ア 転回とは、従来の進行方向とは逆の方向に進行する目的をもって行われる方向転換をいうところ、被告車がいったん空き地に出たことから転回に当たらないと見る余地があるとしても、転回禁止場所で切り返しを行って道路を塞ぐ形になったことは、転回と同様の危険を生じさせたものであり、過失が認められる。このような被告の過失が主たる原因となって本件事故が発生したものというべきである。

イ 他方、原告においても、制限速度を遵守して進行すべき注意義務があるところ、制限速度六〇キロメートルの本件道路を、それを大幅に超える時速約一〇〇キロメートルで走行していた原告にも過失が認められる。

ウ また、原告には、進路前方の安全を確認し、進路上に停止車両を発見した場合は、適切にハンドル・ブレーキを操作して事故を回避すべき注意義務がある。

原告は、被告車を発見して急制動を行った結果、転倒しており、前輪のブレーキを強くかけすぎてしまい、バランスを崩して転倒するという、いわゆる握りごけを起こしたといえる。後輪のブレーキを適切にかけ、適切にハンドルを操作することによって転倒を回避することができた可能性もあるから、原告が不適切なブレーキ操作を行ったという点にも原告の過失が認められる。

しかし、原告が急制動を行ったのは、カーブ明けに、被告車が道路を塞ぐようにしていたのを発見したためである。原告が、被告車の後方を安全に通過することができる隙間もなかった。左カーブを走行してきた原告にとって、反対車線を対向車が走行してくることを見通すことも困難な状況であったと思われ、対向車線を走行して被告車を避けるべきであったと直ちにいうことはできない。さらに、車線左側の空き地があるが、高速で走行していた原告に、一瞬のうちに道路外の空き地を発見し、そこを通過することで衝突を避ける判断をすることを求めるのも酷である。そもそも、原告が、約八〇メートル手前で被告車を発見してからブレーキをかけ始め、転倒しなかったとしても、被告車との衝突を回避し、安全に停止することができたとも限らない。

したがって、原告が被告車への衝突を回避しえたことが明らかであるとまではいえないから、原告の不適切なブレーキ操作の点の過失を過大に評価すべきではない。

(4)  以上の本件事故の態様、双方の過失の内容・程度、原告が普通自動二輪車で被告車が普通乗用自動車であること等を考慮すると、原告と被告の過失割合は、三対七とするのが相当である。

二  争点(2)原告の損害額について

(1)  休業損害

ア 甲二〇、二二、二三及び原告本人尋問の結果によると、本件事故当時、原告の妻が正社員として働いており、原告が専業主夫として洗濯、掃除、料理、食器洗い等の家事労働を行っていたことが認められ、原告は家事従事者に該当すると認めることができる。

イ 家事従事者の休業損害は、学歴計・女性全年齢平均賃金を基礎として算定すべきである。

原告の休業損害の基礎収入は、入院して休業を開始した平成一八年の学歴計・女性全年齢平均賃金は、三四三万二五〇〇円である。原告は、就労している妻に代わって家事労働を行っており、原告がかかる賃金に相当する労働を行っていたと認められるから、これを基礎とする。

ウ 入院期間(四六日)については一〇〇パーセント認めると、343万2500円÷365日×460=43万2589円となる。

エ 甲二三及び原告本人尋問の結果によれば、原告の症状固定日までの症状は以下のとおりであると認められる。

(ア) 右手、肋骨など骨折した部分に痛みが生じていた。

(イ) 骨折に伴い、毎朝起きたときは右手のひらが硬直してしまい、動かない状態だった。

(ウ) e整形外科に頻繁に通院し、薬品を溶かし超音波を流した温水に右手を三〇分以上漬け、その後、手を動かすリハビリを続けていた。

(エ) 平成一九年の夏か秋頃に、右手の甲の痛みが強くなった。

(オ) 平成二〇年三月の舟状骨付近切除の手術後、痛みが大幅に減少した。

(カ) 原告は利き手の右手が使えず、肋骨も骨折して痛みが残っていたため、洗濯、掃除、食器洗いなどの家事を行うことが困難だった。それらの家事ができるようになったのは、平成一九年になってからであった。

以上の事実に照らすと、症状固定日までの通院期間(三年三四〇日)については、原告の家事労働に支障が生じていたと認められ、本件事故により、労働能力の二五パーセントを喪失していたと認めることができる。

そうすると、次のとおりとなる。

343万2500円×(3+340/365)×0.25=337万3724円

オ よって、休業損害は、次のとおりとなる。

43万2589円+337万3724円=380万6313円

(2)  後遺症による逸失利益

ア 基礎収入は、症状固定した平成二二年の賃金センサスの学歴計・女性全年齢平均賃金三四五万九四〇〇円を基礎とする。

イ 原告の傷害の内容及び治療の経過は、前提事実(2)のとおりである。

ウ 甲一一によれば、原告は、自賠責保険の後遺障害等級認定において、右手外傷性舟状骨壊死後の右手関節の機能障害につき「一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」として、一〇級一〇号に該当するものと判断されていることが認められる。

エ 甲一〇、二三及び原告本人尋問の結果によれば、原告の後遺症による症状は、以下のとおりであると認められる。

(ア) 右手関節痛が常時あり、掌屈・背屈及び把持動作で増強する。

右手関節の可動域につき左手関節と比べると、背屈が二分の一以下、掌屈が約三分の一以下となった。

(イ) フライパンや中華鍋などを、手のひらを上に向けて持ち上げる、棚に入れる、棚にあるものを下ろすなどの、右手のひらを上にして荷重がかかる動作に伴い痛みが生じる。

(ウ) 握力は、右手二八・三キログラム、左手四〇・七キログラム。

(エ) 以前より重たいものが持てなくなった。

(オ) 裁縫などの細かい作業ができなくなった。舟状骨が固定されていることが影響しており、これ以上の改善は難しい。

(カ) バイクに乗ることができなくなった。

オ もっとも、原告の右手握力は、同年齢の女性平均とほぼ同等である(乙六)。

以上の事実に照らして判断すると、原告は、本件事故により労働能力の二〇パーセントを喪失したと認めるのが相当である。

カ 症状固定日の原告の年齢は五二歳であり、労働能力喪失期間は一五年(ライプニッツ係数=一〇・三七九七)である。

キ したがって、後遺症による逸失利益は、次のとおりとなる。

345万9400円×0.2×10.3797=718万1506円

(3)  慰謝料

ア 傷害慰謝料は、前記認定の本件事故態様、傷害の内容・程度、入通院期間等を考慮すると、二七〇万円が相当である。

イ 後遺症慰謝料は、前記認定の後遺症の内容・程度等を考慮すると、五五〇万円が相当である。

ウ したがって、慰謝料は合計八二〇万円となる。

(4)  損害額まとめ

原告の主張するその余の損害費目を含めて算定すると、以下のとおりとなる。

ア 医療費 一六七万七八七三円(甲一七)

イ 入院雑費 六万九〇〇〇円(一五〇〇円×四六日)

ウ 通院駐車料 二万一〇〇五円(甲一八)

エ 休業損害 三八〇万六三一三円

オ 後遺症による逸失利益 七一八万一五〇六円

カ 慰謝料 八二〇万円

キ 文書料 三万三〇七五円

原告は本件の損害賠償請求にかかる文書料として請求している。

書証として提出されている診断書は甲五~一〇であるから、その文書料の範囲で認容する。

甲五につき七三五〇円(甲一九の三)、甲六につき五二五〇円(甲一九の四)、甲八につき五二五〇円(甲一九の五、甲九につき三六七五円(甲一九の九の一部)、甲一〇につき一万一五五〇円(甲一九の八の一部)の合計三万三〇七五円は認めることができるが、甲七については甲一九の六・七と日付が近接しておらず、甲一九の一・二についても対応する診断書が書証として提出されていないことから、認めることはできない。

ク 物損 四〇万円(甲一二~一六)

ケ 以上合計 二一三八万八七二二円

コ 過失相殺後の残額

上記二一三八万八七二二円につき、前記認定・説示の三割の過失相殺をすると、残額は一四九七万二一四〇円となる。

サ 填補後の残額

原告は、平成二一年六月四日に一二〇万円、平成二二年九月九日に四六一万円の合計五八一万円の支払を受けたことが認められる(前提事実(3))。上記コに対する本件事故の日(平成一八年六月一四日)から平成二一年六月四日までの遅延損害金は一二〇万円を超えており、また、本件事故の日から平成二二年九月九日まで(四年九八日)に発生した遅延損害金は、次のとおりである。

1497万2140円×0.05×(4+98/365)=319万5423円

上記自賠責保険による支払を原告の主張に従い遅延損害金から充当すると、原告の損害賠償額の残元金は、次のとおりとなる。

1497万2140円-(581万円-319万5423円)=1235万7563円となる。

シ 弁護士費用 一二三万円

本件事案の性質・内容、審理の経過、認容額等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額の損害は、一二三万円と認めるのが相当である。

ス 認容額 一三五八万七五六三円

三  第二事件の認容額

被告車の修理費用一四七万一九九五円(前提事実(4))に対して七割の過失相殺をすると、残額は四四万一五九八円である。

このうち、原告a社は被告の請求額が優先することを認めているので、被告の認容額は一〇万円、原告a社の認容額は三四万一五九八円となる。

第四結論

以上によれば、第一事件の請求は主文第一項の限度で理由があり、第二事件の請求のうち、被告の請求は全部理由があり、原告a社の請求は主文第三項の限度で理由がある。

なお、仮執行宣言は、第一事件については相当として付するが、第二事件については相当でないので却下する。

(裁判官 竹内浩史)

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