横浜地方裁判所 平成22年(行ウ)41号 判決 2011年3月02日
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
神奈川県南県税事務所長が原告に対し平成21年12月15日付けでした不動産取得税の減額申請を承認しない旨の処分を取り消す。
第2事案の概要
1 事案の骨子
本件は、原告が神奈川県南県税事務所長に対し、原告が取得した土地につき、地方税法73条の24第1項所定の不動産取得税の減額申請をしたところ、同事務所長がこれを不承認とする処分をしたため、同処分の取消しを求める事案である。
2 前提事実(争いのない事実並びに括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 原告は、平成19年12月18日、横浜市<以下省略>に所在する別紙記載の土地(以下「本件土地」という。)を取得した(争いがない。)。
神奈川県南県税事務所長は、平成20年5月1日付けで、原告に対し、本件土地の取得について、不動産取得税賦課決定処分(平成20年度5月随時課税分、納税通知書番号<省略>、課税標準額5436万5000円、税額163万900円。以下「本件賦課処分」という。)をした(争いがない)。
(2) 原告は、平成21年3月3日、訴外a社に対し、本件土地を、戸建分譲事業の用に供する目的で譲渡した(争いがない)。
(3) a社は、平成21年4月1日、訴外b社に吸収合併された(甲2、3)。
(4) b社は、平成21年、本件土地上に、地方税法(以下「法」という。)73条の24第1項に規定する住宅(以下「特例適用住宅」という。)を新築した(争いがない)。
(5) 原告は、本件土地取得日から3年以内に本件土地の上に法73条の24第1項に規定する特例適用住宅が新築されたことから、同項により、本件賦課処分に係る不動産取得税が減額されるべきであるとして、平成21年10月26日付けで、神奈川県南県税事務所長に対し、減額申請を行った。
同事務所長は、平成21年12月15日付けで、原告に対し、本件土地上の特例適用住宅の新築は、原告から本件土地を取得した者によるものではないことから、本件賦課処分に係る不動産取得税には法73条の24第1項の適用はないとして、不動産取得税減額不承認処分(以下「本件不承認処分」という。)を行った(甲4)。
(6) 原告は、平成22年1月18日、神奈川県知事に対し、本件不承認処分の取消しを求める審査請求を行ったが、同知事は、同年3月31日付けでこれを棄却した(甲5)。
(7) 原告は、平成22年6月8日、木件訴えを提起した。
3 法令の定め等
(1) 不動産取得税は、不動産の取得に対し、当該不動産所在の道府県において、当該不動産の取得者に課するものとされている(法73条の2第1項)。
ただし、法人の合併又は政令で定める分割による不動産の取得に対しては、不動産取得税を課することができない(法73条の7第1項2号)。
(2) 住宅の用に供する土地の取得に対する不動産取得税については、当該土地を取得した日から3年以内に、当該土地の上に法73条の24第1項に規定する特例適用住宅が新築された場合には、当該取得をした者(以下「一次取得者」という。)が当該土地を当該特例適用住宅の新築時まで引き続き所有している場合又は当該特例適用住宅の新築が一次取得者から当該土地を取得した者(以下「二次取得者」という。)により行われる場合に限り、当該税額から一定の金額を減額することとされている(法73条の24第1項第1号、同附則10条の2第2項。)。
(3) 平成14年法律第17号による改正前の地方税法(以下「旧法」という。)73条の24第1項第1号及び同附則10条の2第2項では、土地を取得した者が、当該土地を取得した日から3年以内に当該土地上に特例適用住宅を新築した場合に、当該土地の取得に対して課する不動産取得税を減額するものとされ、二次取得者による新築の場合は対象外となっていた。
また、旧法においては、土地の取得者から、特例適用住宅を3年以内に新築する予定であり、新築後、減額措置が適用されることになる旨の申告があった場合、当該申告が真実と認められるときは、土地を取得した日から3年以内に限り、減額すべき額に相当する不動産取得税の徴収を猶予し(旧法73条の25第1項、同附則10条の2第2項)、当該徴収猶予期間中に、土地を取得した者が、当該土地の上に特例適用住宅を新築することなく、ほかの者に当該土地を譲渡した場合など、不動産取得税の減額措置が適用されないことが明らかとなったときは、当該徴収猶予を取り消すこととされていた(旧法73条の26第1項)。
この点について、平成14年4月1日付け総税都第10号総務事務次官通知(以下「新取扱通知」という。)による改正前の総務事務次官通知「地方税法施行に関する取扱いについて(道府県税関係)」(以下「旧取扱通知」という。)第5章第3の23の2では、徴収猶予がされている土地取得者について、相続があったとき又は合併若しくは分割による法人格の変更があったときは、徴収猶予を取り消す場合に当たるとされていたが、平成14年改正に伴い、同項目は削除された。
4 争点及び当事者の主張
(争点)
本件土地取得に係る不動産取得税につき、法73条の24第1項第1号が適用されるか否か。
(原告の主張)
b社は、a社を吸収合併し、その権利義務を包括承継したのであり、これによって本件土地の所有権がa社からb社に移転したとはいえ、所有権の主体に実質的な変更はない。したがって、b社は、二次取得者に該当するか、少なくともこれと同視されるべきである。
法73条の7は、相続や法人の合併等による不動産の取得の場合には不動産取得税を課することができないと定めている。これは、自然人の相続や法人の合併による不動産の取得を形式的な所有権の移転ととらえ、このような原因に基づく不動産の取得については実質的な所有権の変動がないことから、不動産取得税を課しないことを確認的に規定したものである。法73条の24第1項第1号についても、同様に解釈すべきであり、吸収合併存続会社が二次取得者とはなりえない旨の除外規定がない限り、吸収合併存続会社は、法の解釈上当然に二次取得者とされるべきである。
また、平成14年改正において、法73条の24第1項第1号の適用対象が拡大され、旧取扱通知第5章第3の23の2の項目が削除されたのであるから、法73条の24第1項1号の二次取得者について相続又は合併等による法人格の変更があったときにも、同条の減額措置が適用されることになったと解すべきである。
そもそも、法73条の24第1項の規定は、宅地の取引を促進し、良質な新築建物の早期の建築を図る目的で設けられたものである。吸収合併により土地の所有名義が移転したことは、その登記事項証明書により容易に確認することができる上、本件のような場合に不動産取得税の減額を認めても、規定の趣旨に反することはない。むしろ、一次取得者のあずかり知らない二次取得者側の合併の有無やその時期と方法次第で、一次取得者が不動産取得税の減額を受けられないとすれば、住宅用地の取引は予測困難な不確定要素を伴うことになり、同条の立法趣旨を没却する。
以上のとおり、合併存続会社であるb社も二次取得者に当たると解すべきであり、同社が本件土地上に特例適用住宅を新築したのであるから、本件土地取得に係る不動産取得税については、法73条の24第1項第1号が適用される。したがって、同条の適用がないとした本件不承認処分は違法である。
(被告の主張)
法73条の24第1項にいう「土地の取得」とは、所有権移転の形式による土地の取得のすべての場合を含むと解されるのであり、合併による所有権の移転も当然にこれに含まれるというべきである。
本件土地の一次取得者である原告は、本件土地を特例適用住宅の新築のときまで引き続き所有しておらず、また、同住宅を新築したのは、二次取得者であるa社ではなく、二次取得者から吸収合併により本件土地を取得した三次取得者のb社である。よって、本件は、法73条の24第1項第1号及び同附則10条の2第2項の要件を満たしていない。
税の軽減規定は、課税要件規定の例外を定めるものであり、課税要件規定が実現しようとする税負担の公平を阻害するおそれがあることから、みだりに拡張解釈することは許されないのであり、二次取得者から吸収合併により不動産を取得した者も二次取得者に含まれるとの明文規定がない以上、原告主張の解釈をとることはできない。
また、法73条の7は、一定の場合に不動産取得税を課しないことを定めた条文であり、本件のように不動産取得税の減額を問題としているものではないから、両者は課税局面を異にする。したがって、合併の場合に非課税とされているからといって、本件において同様の解釈をとることはできない。
さらに、旧取扱通知第5章第3の23の2の項目が削除されたのは、平成14年改正により減額の適用対象が拡大し、一次取得者から合併等により形式的に不動産を取得した二次取得者が特例適用住宅を新築した場合についても、二次取得者による新築である以上、法73条の24第1項第1号の要件を満たすこととなり、徴収猶予が取り消されなくなったためである。よって、この項目の削除が原告の主張を裏付けるものではない。
以上のとおり、本件土地に係る不動産取得税について法73条の24第1項第1号の適用はないから、本件不承認処分は適法である。
第3当裁判所の判断
1 不動産取得税は、いわゆる流通税に属し、不動産の移転の事実自体に着目して課せられるものであるから、法73条の2第1項にいう「不動産の取得」とは、所有権移転の形式による不動産の取得のすべての場合を含むものと解するのが相当である。
法73条の24第1項第1号にいう土地の「取得」についても、特段の定義規定がおかれていない以上、上記と同様に、所有権移転の形式による土地の取得のすべての場合をいうものと解すべきである。
そうすると、本件においては、原告から本件土地を取得したのはa社であり、その後b社が同社を吸収合併したことにより、土地の所有権がb社に移転し、b社が本件土地上に特例適用住宅を新築したのであるから、二次取得者による新築ということはできず、原告の本件土地取得に係る不動産取得税については、法73条の24第1項第1号の要件を満たさないことになる。
2 原告は、合併が包括的な権利義務の移転であり、所有権の主体に実質的な変更がないことから、吸収合併存続会社も二次取得者に該当すると解するか、少なくともこれと同視すべきであると主張する。たしかに、合併の場合は所有権の主体に実質的な変更があるとはいい難い場合もあり得るものの、合併存続会社は所有権の移転の形式によって合併消滅会社の土地を取得するのであるから、合併の場合について別異の取扱をする明文の規定を欠く以上、この場合も法73条の24第1項第1号の土地の「取得」に該当するといわざるを得ない。
また、原告は、合併等の形式的な所有権の移転の場合が非課税とされていること(法73条の7)を根拠に、形式的な所有権の移転については別異に解すべきであると主張する。しかし、法が合併等の形式的な所有権の移転があった場合に不動産取得税を課さないとしているのは、形式的な所有権移転の場合には、担税力が見いだされるような不動産の取得があったとして課税することが適当ではないためである。法73条の24所定の減額措置は、これと異なり、飽くまで不動産取得税の負担が住宅建築の抑制となることを防ぐために減額を認めるものである以上、上記非課税措置とは、その目的を異にするということができる。しかも、上記減税措置は、土地の一次取得者に対して減額が行われるか否かを問題とするのに対し、原告指摘の非課税措置は、当初の取得者から当該土地を承継した者との関係において課税の当否を問題としているのであるから、両者は納税者も含めて場面を全く異にするものである。
したがって、非課税措置につき、形式的な所有権移転の場合の除外規定があるからといって、本件においても当然に同様の解釈をとるべきであるとすることはできない。むしろ、法73条の24所定の減額措置については、法73条の7のような除外規定がおかれていないのであるから、原告主張のような解釈をとることは困難であるといわざるを得ない。
原告は、旧取扱通知第5章第3の23の2の項目が削除されたことをもって、吸収合併の存続会社も二次取得者と同視すべきであると主張する。しかし、これは、平成14年改正によって同項目に定める場合にも滅額措置が適用されることになったのを受け、同項目が解釈指針としての意味を失ったために削除されたものとみるのが相当であり、同項目の削除について、原告主張のような解釈をとることとなったという意味まで見いだすことはできない。
さらに、原告は、本件のような場合に減額措置の適用を認めないとすれば、一次取得者のあずかり知らぬところで減額措置を受けられない事態が生じ、法73条の24の趣旨を損なうと主張する。
たしかに、一次取得者が、二次取得者が特例適用住宅を新築するものと信頼して土地を売却した後、二次取得者が新築を行う前に第三者に吸収合併された場合には、一次取得者が減額措置を受けられないことになり、一次取得者がこれを未然に防ぐことは困難である。しかし、そもそも平成14年改正前においては、二次取得者が新築した場合は減額対象に含まれていなかったのであり、これが緩和されて適用範囲が広がったとはいえ、同改正に当たって、形式的な所有権の移転の場合についての特別規定がおかれなかった以上、一次取得者はその限度でのみ減額措置の利益を享受することができるにとどまるというべきである。したがって、立法目的を阻害するというのみでは、原告主張のような解釈をとることはできない。
3 結論
以上のとおり、本件土地の取得に係る不動産取得税には、法73条の24第1項第1号の適用はないから、本件不承認処分は適法である。したがって、原告の請求には理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佐村浩之 裁判官 西森政一 小堀瑠生子)