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横浜地方裁判所 平成22年(行ウ)99号 判決 2011年5月25日

主文

1  本件訴えのうち、被告が平成21年6月30日に学校法人aに対して支出した平成21年度私立学校経常費補助金合計2133万円の返還請求をするよう求める部分を却下する。

2  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第3争点に対する判断

1  本件訴えのうち第1回補助金交付に係る請求は不適法か否かについて

地方公共団体の行為に対する住民監査請求が、「当該行為のあつた日又は終わつた日から一年を経過したときは、これをすることができない。」(地方自治法242条2項本文)とされたのは、請求の対象となる行為が普通地方公共団体の機関又は職員の行為であってその公益に対する影響が大きいものである以上、これをいつまでも争いうる状態にしておくことは法的安定性の見地から見て好ましくなく、可能な限り早期にその適否を確定させる必要があるからである。そうすると、地方公共団体の一連の行為が同じ制度に基づく同一の請求に対するものであったとしても、それらが可分ないし独立の行為であるときには、個々の行為ごとに早期にその適否を確定すべきであるところ、弁論の全趣旨によると、第1回補助金交付ないし第3回補助金交付が、それぞれの支出ごとに執行伺票及び支出命令票が作成された上で行われる、互いに独立した会計行為であることが認められる。そうすると、上記1年の監査請求期間の起算日は、それぞれ、上記各補助金の交付日と解されるべきであるところ、第1回補助金交付が平成21年6月30日であったことは前記第2の2(2)のとおりであるのに対し、第1回監査請求が平成22年9月8日付けでされたことは同(3)のとおりである。したがって、第1回補助金交付に係る第1回監査請求は、上記期間の経過後にされた不適法なものであると解される。よって、本件訴えのうち、第1回補助金交付に係る請求は、適法な住民監査請求を前置しないものであって、不適法といわねばならない。

2  本件各補助金交付の違憲性ないし違法性の有無について

(1)  私立学校の教育事業に対する公的助成は、その教育事業が憲法89条の規定する「公の支配」に属することを要するが、その程度は、当該教育事業の運営、存立に影響を及ぼすことにより、同事業が公の利益に沿わない場合にはこれを是正しうる途が確保され、公の財産が濫費されることを防止し得ることをもって足り、必ずしも、当該事業の人事、予算等に公権力が直接的に関与することまでをも要するものではないと解される。そして、被告が各種学校である本件各朝鮮学校を設置する学校法人であることは前記第2の2(1)のとおりであり、同3(2)イ(ア)の各法的規制を受けることも自明である。そうすると、学校法人aのように国及び地方公共団体の特別の監督関係の下に置かれる教育の事業は、憲法89条後段にいう、「公の支配」に属すると解される。

これに対し、原告は、本件各朝鮮学校には教育の本質ともいえる教育内容を規制する学習指導要領の適用がないから、これを設置する学校法人aが憲法89条後段にいう「公の支配」に属する学校法人とはいえないと主張するが、学校法人aが各種学校のみを設置するものである以上、学習指導要領の適用がないことは当然であり、前記第2の3(2)イ(ア)の各法的規制が学校法人aに及ぶことで、当該教育事業の運営、存立に影響を及ぼし得るのであるから、その事業が公の利益に沿わない場合にはこれを是正しうる途が確保され、公の財産が濫費されることを十分に防止し得るというべきであって、原告の上記主張を採用することはできない。したがって、学校法人aに対する本件各補助金の交付が違憲であるとはいえない。

(2)  本件各補助金の交付が私立学校の健全な発達を図ることなどを目的とする関係法令に基づき実施されたことは、前記第2の2(2)のとおりである反面、原告が主張する朝鮮民主主義人民共和国又は朝鮮総連と本件各朝鮮学校との関係並びにその教育内容及び学校法人aと諸事件との関連性は甚だ抽象的なものにとどまり、それらをもってしても、本件各補助金の交付が公益又は公序良俗に反し違法であるとまで到底いうことはできない。

3  結論

以上によれば、本件訴えのうち、被告が学校法人aに対して平成21年6月30日に支出した平成21年度私立学校経常費補助金合計2133万円の返還請求を求める部分は、不適法であるからこれを却下することとし、その余の部分は、失当であるからこれらをいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐村浩之 裁判官 日下部克通 小林麻子)

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