横浜地方裁判所 平成22年(行ク)25号 決定 2010年10月29日
主文
1 処分行政庁が申立人に対し,平成22年8月27日付け関自旅二第○号をもって通知した,一般乗用旅客自動車運送事業(1人1車制個人タクシー事業)の許可等に付された期限の更新を拒絶した処分は,本案事件についての判決の確定まで,その効力を停止する。
2 申立費用は相手方の負担とする。
事実及び理由
第1申立ての趣旨
主文同旨
第2事案の概要
1 本件事案の骨子
本件は,関東運輸局長が申立人に対し,申立人提出の一般乗用旅客自動車運送事業(1人1車制個人タクシー事業に限る。)の新規許可(以下「本件新規許可」という。)に付された期限の更新許可申請(以下「本件期限更新申請」という。)の添付書類である運転記録証明書に「通行禁止違反 2点」の記載があり,それが,道路運送法86条に基づき本件新規許可に付した条件及び関東運輸局長平成13年12月27日付け公示「一般乗用旅客自動車運送事業(1人1車制個人タクシー事業に限る。)の許可等に付された期限の更新申請の審査及び取扱基準」が規定する更新を認めない場合に該当するとして,本件更新申請を拒絶する処分(以下「本件処分」という。)をしたのに対し,申立人が,本件処分は,(1)法令の根拠及びその明示なき違法(行政手続法15条1項1号),(2)処分基準及びその明示なき違法(道路運送法86条2項,行政手続法5条1,2項,12条1,2項)及び(3)授権的行政行為の取消制限に反する裁量権の濫用に基づくものであり,かつ,(4)上記許可条件違反の事実もなかったから,違法な処分であるとして,その取消しを求める本案事件の提起に伴い,本件処分により,現に申立人及びその老父母の生活の糧を奪われ,事業用車両の自家用車両への登録変更に伴う機器取外し相当額の損害及び個人タクシー協会からの除名処分に伴う入会金その他投資資金相当額の再投資を要することとなり,重大な損害を被るとして,その執行停止を求める事案である。
2 前提となる事実
(1) 申立人(昭和▲年▲月▲日生)は,昭和51年11月1日以降,横浜市内の父A(大正▲年▲月▲日生)方(原告所有の建物ではない。)に同人及び母B(昭和▲年▲月▲日生)と同居しており,この間の平成18年9月28日には,C株式会社にタクシー運転士として約10年7か月間在勤していた者であるところ(疎甲14,15),関東運輸局長に対し,平成18年9月28日,「申請日以前3年間における道路交通法違反による処分の有無」につき「なし」と記載し,末尾に「法令遵守については,上記のとおり相違ないことを宣誓します。」旨の申立人の署名捺印付き宣誓書のある法令遵守の状況に関する資料(以下「本件法令遵守の状況に関する資料」という。)等を添付して,一般乗用旅客自動車運送事業経営の新規許可申請(以下「本件新規許可申請」という。)を行い,後日,申請日以前3年間における道路交通法違反による処分を受けていないことを証明するために,本件新規許可申請の添付書類として,同年12月6日現在の過去5年間に違反,事故及び処分の記録がない旨を証明する自動車安全運転センター神奈川県事務所長発行の同日付運転記録証明書の写し(以下「本件運転記録証明書1」という。)を提出した(疎甲1,9,13)。
(2) 関東運輸局長は,平成19年2月9日付け○関自旅二第○号により,申立人に対し,道路運送法86条に基づく条件の1つとして「申請書,添付書類及び陳述の内容が事実と異なることが判明した場合には,許可を取り消すことがある。」(以下「本件新規許可条件」という。)を,有効期限として「平成21年11月30日まで」を,それぞれ付した許可処分(本件新規許可)を行った(疎甲2)。
(3) 申立人は,平成21年9月28日,関東運輸局長に対し,平成18年6月16日に通行禁止違反を犯し,反則点2点の付加(以下「本件反則点付加」という。)をされた旨の平成21年8月5日付けの運転記録証明書(以下「本件運転記録証明書2」という。)を添付して,本件新規許可に付された期限の更新申請(本件期限更新申請)をした(疎甲3,12)。
(4) 関東運輸局長は,申立人に対し,平成22年2月9日付け関自旅二第○号「聴聞の通知について」と題する書面により,同年3月8日午後2時に聴聞を行う旨の通知をし,同日,申立人に対する聴聞が行われた(疎乙5,審尋の全趣旨)。
(5) 関東運輸局長は,平成22年8月27日付け関自旅二第○号により,申立人に対し,本件新規許可条件及び関東運輸局長平成13年12月27日付け公示「一般乗用旅客自動車運送事業(1人1車制個人タクシー事業に限る。)の許可等に付された期限の更新申請の審査及び取扱基準」(平成17年12月22日改正。以下「更新審査基準(平成17年12月改正)」という。)の3.(3)期限更新を認めない場合の①「許可等に付した条件により,許可を取り消すべき事由又は許可期限の更新を行わないこととする事由に該当している場合」(以下「本件更新審査基準」という。)に該当するとして,同期限の更新をしないこと(本件処分)を通知した(疎甲4,8,疎乙3,4)。
(6) 申立人は,関東運輸局神奈川運輸支局輸送担当作成の平成22年9月13日付け「一般乗用旅客自動車運送事業(1人1車制個人タクシーに限る。)の許可等に付された期限の更新申請に対する処分後の手続について」と題する書面により,申立人の一般乗用旅客自動車運送事業が同年8月27日をもってその効力を失っていることを理由として,申立人所有の事業用自動車からの運賃メーター器及び表示灯の取り外し,自動車登録番号の変更手続並びに事業者乗務証の返納(以下併せて「本件処分後の手続」という。)を求められた(疎甲4,13,16)。
(7) 申立人は,平成22年10月1日,本案事件を提起するとともに,本件申立てをした(当裁判所に顕著な事実)。
3 当事者の主張
(1) 申立人の主張
ア 重大な損害を避けるため緊急の必要があると認められること
(ア) 申立人は,本件新規許可以降,個人タクシー事業以外からの収入を得ていなかったため,本件処分により,個人タクシー業を営むことができなくなったことで,自らの収入による生活の途を断たれている上,申立人の収入に依存する同居中の82才の老母及び○により要介護となり入退院を繰り返している85才の老父の生活が立ちゆかなくなる危険性がある。
(イ) 申立人は,本件処分の執行停止がされなければ,関東運輸局神奈川支局から求められている本件処分後の手続をせざるを得ないことによる損害の外,D協会から除名処分を受けることとなり,本件処分が本案事件において取り消されたとしても,再入会手続と同協会入会時に納入した入会手続費用30万円,無線の権利の買取資金20万円並びに社団法人E協会及びF協会の賦課金等合計60ないし70万円の再投資額相当の損害を被ることとなる。
(ウ) 以上によると,申立人は,本件処分により,極めて重大な損害を受け,かつ,これを避けるため緊急の必要があると認められる。
イ 本案について理由がないとみえるときに該当しないこと
(ア) 法令の根拠及びその明示なき違法に該当すること
道路運送法86条1,2項は本件処分の根拠法令ではなく,本件公示は,法令ですらないから,本件処分には,法令の根拠及びその明示なき違法(行政手続法15条1項1号)がある。
(イ) 処分基準及びその明示なき違法
処分行政庁は,審査基準を定めることが義務付けられており(行政手続法5条1項),同審査基準は具体的なもので,かつ,公にされていなければならず(同条2項),特に,不利益処分についてはこのことが一層厳格に要求されるところ(同法12条1,2項),本件更新審査基準には,許可期限の更新拒絶事由が具体的に特定されておらず,本件更新審査基準に基づく本件処分は,審査基準及びその明示なき処分であって違法である。
(ウ) 授権的行政行為の取消制限に反する裁量権の濫用
本件処分は,申立人に対し,授益的行政処分である本件新規許可に瑕疵があったことを理由として,これを取り消した処分であると解されるところ,かかる授益的行政処分の取消しは,受益者が行政行為の存在を信頼し,かつ,その信頼が保護に値する場合には,相手方が受けるべき損失の補償を要件としてのみすることができると解される。そして,相手方の信頼が保護に値するか否かは,個別具体的な事情に即して判断されるべきであるところ,本件新規許可申請は本件運転記録証明書1並びに後記(エ)の無事故無違反の証及び優良運転免許証の交付に基づいて行われ,関東運輸局長は本件運転記録証明書1等の提出に基づき本件新規許可をした経緯をみれば,本件新規許可申請が申立人の詐欺行為であるはずはなく,その信頼は保護に値するから,本件処分には,関東運輸局長がその裁量権を濫用した違法がある。
(エ) 「事実と異なる」申請書,添付書類及び陳述の内容の不存在
申立人は,本件新規許可申請の際,本件法令遵守の状況に関する添付資料として本件運転記録証明書1を提出したが,その証明内容は,申立人が平成7年4月2日から平成18年12月6日までの間無事故無違反であることを証明する自動車安全運転センター作成の同日付け無事故無違反の証及び申立人に対する同月18日交付の普通自動車2種優良運転免許証と合致しており(疎甲10,11),かつ,申立人がいわゆる青切符の交付(道路交通法126条所定の告知),反則金納付の通告(同法127条)及び公訴提起を受けたことのいずれもないのであって,これに対する本件運転記録証明書2の証明内容は事実に反する。したがって,本件新規許可申請には,「事実と異なる」申請書,添付書類及び陳述の内容は存在しない。
(オ) 以上によると,本件処分は,違法,無効であり,取り消されるべきであるから,「本案について理由がないとみえるとき」(行政事件訴訟法25条4項)に該当しない。
ウ 結論
したがって,本件処分は,その執行を停止されるべきである。
(2) 相手方の主張
ア 重大な損害を避けるため緊急の必要があると認められないこと
(ア) 重大な損害の意義
行政事件訴訟法25条2項にいう「重大な損害」の存否は,当該損害の性質のみによるのではなく,当該損害の程度並びに処分の内容及び性質をも個別的な事情に即して総合考慮したときに,社会通念上金銭賠償による事後的回復をもって満足させるのが不相当な損害であるか否かという観点から判断されるべきものと解される。
(イ) 損害の回復の困難の程度
本件処分により減少する申立人の収入相当額は,本案事件において本件処分に違法があり取り消された後に,別途,損害賠償請求を行うなどの方法によって事後的に回復することが可能であって,その回復は困難ではない。また,原告の老父母の生活は,年金,医療費補助その他各種の社会保障制度を利用すれば,申立人の負担をそれほど大きくしなくとも,立ち行かなくなるとはいえず,少なくとも,本件申立てにおいて,特段配慮が必要であるとはいえない。さらに,申立人が本件処分後の手続をすること及びD協会から除名処分を受けることにより被る損害も,事後的に回復することが可能であって,その回復は困難ではない。
(ウ) 損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質
本件処分は,申立人による個人タクシー経営許可の期限更新を認めないというにとどまり,それ以外に申立人の行う活動に何ら制限を加えるものでなく,例えば,法人タクシー従業員して雇用されることにも何ら法的支障はないから,申立人が,本案事件係属中に,代替収入を得る手段を探すことは,特段困難ではない。
(エ) 以上によると,本件処分の執行を停止しないことにより,重大な損害が生じ,それを避けるため緊急の必要があるとは認められない。
イ 本案について理由がないとみえるときに該当すること
(ア) 「本案について理由がないとみえるとき」(行政事件訴訟法25条4項)とは,執行停止の申立てについての審理において疎明されたことからすると,本案事件についての申立人の主張が理由のないとみえるときをいうものと解すべきである(東京高等裁判所平成15年5月30日決定)。
(イ) 前記(1)アの(ア)及び(イ)の違法並びに裁量権の濫用がないこと
道路運送法6条は,国土交通大臣が一般旅客自動車運送事業の新規許可の基準を定め,同法86条1項は,新規許可に条件又は期限を付し及びこれを変更することができるとしているところ,平成12年の同法改正によりタクシー事業の参入規制が免許制から許可制に移行した際の国会附帯決議では,「一般乗合旅客自動車運送事業及び一般乗用旅客自動車運送事業の許可に当たっては,最低車両台数の確保等輸送の安全確保のための適切な事業計画,事業遂行能力等について,厳格な審査を行うこと。また,許可基準を具体的に定め,公示する等許可の運用について,統一性,透明性を確保するとともに,許可後の指導監督を強化すること。また,個人タクシーについては,現行の位置付けを踏まえて資格要件を厳格に定めること。」とされた(疎乙2)。
そこで,関東運輸局長は,上記国会附帯決議を受けて,平成13年12月27日付け関東運輸局長公示「一般乗用旅客自動車運送事業(1人1車制個人タクシー事業に限る。)の許可及び譲渡譲受認可申請事案の審査基準について」(平成18年8月29日付け一部改正。以下「本件新規審査基準(平成18年改正)」という。疎乙3)及び本件更新審査基準を公示した。
そして,本件新規許可に当たっては,本件新規審査基準(平成18年改正)のうち,「申請日以前3年間及び申請日以降に,道路交通法の違反による処分(同法の規定による反則金の納付を命ぜられた場合又は反則点を付された場合を含む。)を受けていないこと」という要件を満たさなければならないところ,申立人が本件新規許可に先立ち本件反則点付加をされていたのであるから(疎甲12),申立人が本件新規許可申請においてその旨を申告すべきであったのにこれを申告しなかったために行われたものであり,その新規許可要件違反が本件更新申請時に提出された本件運転記録証明書2により判明したものである。そうすると,本件処分は,道路運送法6条,86条,上記国会附帯決議を受けた本件新規審査基準(平成18年改正),本件新規許可条件及び本件更新審査基準(平成17年改正)を根拠とし,かつ,聴聞手続を践んで適法に行われたものであって,本件処分には,法令の根拠及びその明示なき違法又は処分基準及びその明示なき違法並びに裁量権の濫用のいずれも認められない。
(ウ) 以上によると,本件処分が違法であるとの申立人の主張が理由のないときにあたるから,「本案について理由がないとみえるとき」に該当する。
ウ 結論
したがって,本件申立ては,却下されるべきである。
第3当裁判所の判断
1 重大な損害を避けるため緊急の必要があると認められるか否かについて
(1) 「重大な損害を避けるため緊急の必要がある(行政事件訴訟法25条2項)」という要件は,平成16年法律第84号による改正前の行政事件訴訟法25条2項が「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」,すなわち,申立人側の損害について事後的な救済では回復できないものであることを要件としていたところ,それでは,損害の事後的回復が困難か否かという損害の性質の判断のみで執行停止の可否が決せられる点で硬直的,かつ,申立人にとり厳格に過ぎ,個々の事案ごとの事情に即した適切な判断を確保することができないと考えられたことから,同要件を緩和する趣旨で定められ,その有無を判断するにあたっては,第1次的に,損害の回復の困難の程度を,第2次的に,損害の性質及び程度並びに当該処分の内容及び性質を勘案するものとして(同条3項),当該処分の執行を停止することにより停滞する一定の行政目的と申立人が当該処分により被る損害の性質及びその程度とを比較考量できるようにしたものと解される。
(2) ところで,本件処分の執行停止がされたときには,期限の更新が許可されたこととなるのではなく,本件更新許可申請に対する可否の判断が一時的に保留される効果が生じるにとどまり,このような事態は,期限更新の許否の審査が更新期限を越えてされる場合にも起こりうるものであり,現に本件処分も前記第2の2の(2)及び(5)のとおり本件新規許可期限を約11か月越えてされ,その結果として,申立人は,個人タクシー経営をその間継続することができたのである。そうすると,本件処分について執行停止がされたとしても,本件処分による行政目的の停滞による影響が必ずしも重大であるとはいい難い。他方,本件処分の執行が停止されなければ,申立人がその生業である個人タクシー事業経営を続行することができず,申立人が約13年間のタクシー運転士としての経験があるにしても満58才に達していることは前記第2の2(1)のとおりであって,年齢不問であることの多いタクシー会社への再就職事情に照らしても不利であり,かつ,転業が困難なことは自明であるから,その収入がなくなり又は著しく減少することは想像に難くない。そして,前記第2の2(6)の事実並びに疎明資料(疎甲13)及び審尋の全趣旨によれば,申立人が本件処分後の手続及びD協会の除名処分により事業再開にあたり再投資費用の支出を余儀なくされることが一応認められる。そうすると,本案事件における認容判決が確定するまでに,事業の再開をすることができない程に経済的に困窮することがないとはいえず,必ずしも国家賠償請求訴訟における認容判決の確定によって当該損害の回復がもたらされるとはいうことはできない。また,前記第2の2(1)の事実と疎明資料(疎甲13)及び審尋の全趣旨によれば,仮に申立人の老父母が医療費補助を受け,かつ,年金収入を得ていたとしても,老父が○に罹患して入退院を繰り返しているため,老父母がその生活を申立人に依存していることが一応認められるのであり,申立人が無収入化し,又は,その収入が著しく減少することにより,申立人及び老父母の生活が一層困窮し,老父母が物心両面で圧迫を受け,回復し難い損害が発生するに至る可能性もあり得るというべきである。
(3) 以上によると,本件では,本件処分による重大な損害を避けるため緊急の必要があると認められる。
2 本案について理由がないとみえるときに該当するか否かについて
(1) 「本案について理由がないとみえるとき」(行政事件訴訟法25条4項)とは,執行停止の申立てを審理する段階における当事者双方の主張の合理性,疎明の程度及び本案事件において審理されるべき内容を勘案した上で,本案事件に関する申立人の主張が一応理由なしと認められるときを意味すると解される。
(2) ところで,前記第1の2の各事実と疎明資料(疎乙2,3)及び審尋の全趣旨によれば,本件処分が道路運送法6条,86条,上記国会附帯決議を受けた本件新規審査基準(平成18年改正),本件新規許可条件及び本件更新審査基準(平成17年改正)を根拠とし,かつ,聴聞手続を践んで適正な手続により行われたものであることが一応認められ,かつ,本件処分は,許可処分の取消しではなく,本件新規許可条件違反による更新期限の拒絶であるから,本件処分には,申立人が主張するような法令の根拠及びその明示なき違法又は処分基準及びその明示なき違法並びに裁量権の濫用があったとは認められないというべきである。
(3) しかしながら,申立人が本件新規許可申請において,「事実と異なる」申請書及び添付書類を提出したことについては,これを疎明する本件運転記録証明書2がある反面,本件運転記録証明書1がある外,疎明資料(疎甲10,11)及び審尋の全趣旨によれぱ,申立人に対する自動車安全運転センター作成の平成18年12月6日付け無事故無違反の証及び申立人に対する同月18日交付の普通自動車2種優良運転免許証があることが一応認められる上,相手方からは本件運転記録証明書2とは全く矛盾する上記疎明資料がなぜ作成されたかあるいはそれらが誤って作成されたもので,本件運転記録証明書2の証明内容が真実に合致していること等についての具体的な主張も疎明もなされておらず,かつ,申立人が本件反則点付加と並行していわゆる青切符の交付(道路交通法126条所定の告知),反則金納付の通告(同法127条)及び公訴提起を受けたことのいずれをも疎明する資料がない。そうすると,本案事件に関する申立人の主張が一応理由なしと認められるときには当たらず,「本案について理由がないとみえるとき」との要件には該当しないというべきである。
第4結論
以上によると,本件申立てには理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 佐村浩之 裁判官 日下部克通 裁判官 赤谷圭介)