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横浜地方裁判所 平成23年(ワ)1754号 判決 2011年11月30日

原告

被告

主文

一  被告は、原告に対し、金一五四万六六〇〇円及びこれに対する平成二二年六月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

本件は、下記交通事故について、原告が、被告に対し、民法七〇九条に基づいて、損害賠償及び事故日からの遅延損害金を請求する事案である。

一  争いがない事実等((1)及び(2)の事実は、当事者間に争いがなく、(3)の事実は、後記証拠と弁論の全趣旨により認められる。)

(1)  本件事故の発生

ア 日時 平成二二年六月二五日午前一〇時〇〇分ころ

イ 場所 横浜市<以下省略>

ウ 関係車両

(ア) 被告運転の普通乗用自動車(ナンバー<省略>。以下「被告車」という。)

(イ) 原告所有の普通乗用自動車(レクサスLS四六〇、ナンバー<省略>。以下「原告車」という。)

エ 事故態様

被告が被告車を上記イの場所に駐車させるに当たり、アクセルを踏みすぎたため、その後方部分を、上記イの場所に駐車していた原告車の左側面部前方ドア付近に衝突させた。

原告車は、被告車に衝突された衝撃によって、その右側面部前輪付近が、原告車の右側に駐車中であったA所有の普通乗用自動車の前方左側に衝突した。

(2)  被告の責任

被告は、アクセルを適切に操作する義務を怠り、原告車に被告車を衝突させたから、原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

(3)  原告が締結していた契約の内容及び原告車の評価額等

ア 原告は、平成一九年九月二八日、a自動車株式会社(以下「a自動車株式会社」という。)から、割賦払いの最終回の時点において残存するであろう車両価格を最終回の支払分とし、最終回の支払に際して、原告において、最終回の支払額による車両の購入、再分割、車両返却のいずれかの方法を選択する制度(レクサスオーナーズローン)を利用して、一一五六万七〇九一円で原告車を購入し、同制度の利用による割賦払い最終回の支払額は、三九五万六〇〇〇円と設定された(甲三、四)。

イ 原告は、a自動車株式会社との間で、平成二二年五月二七日、レクサスオーナーズローンによる原告車の割賦払いの最終回の支払額、すなわち割賦払い最終回時の原告車の価格を三九五万六〇〇〇円と確認し、最終回の支払の際に車両返却を選択する旨を申し出た(甲五、六)。

ウ 本件事故後の平成二二年七月三日に行われたBによる査定では、原告車の価格は二五五万円であった(甲七)。

エ 原告車には、本件事故により、一八六万二七七四円の費用を要する修理がされた(乙一)。

オ 被告が、「株式会社b」、「株式会社c」及び「株式会社d」にそれぞれ依頼した査定によると、本件事故後の原告車の評価額は、三五一万七五〇〇円、三三六万円、三二二万円であった(乙二~四)。

二  争点(原告の損害)

一 原告の主張

レクサスオーナーズローンにおいては、割賦払いの最終回の時点において残存するであろう車両価格を最終回の支払分としているため、車両返却を選択した場合には、最終回の支払は不要となる。

しかし、本件事故により、原告車の評価額が二五五万円となったため、原告は、三九五万六〇〇〇円との差額である一四〇万六〇〇〇円の支払を余儀なくされた。これは、原告の損害となる。

したがって、上記一四〇万六〇〇〇円に弁護士費用一四万六〇〇円を加えた一五四万六六〇〇円を請求する。

二 被告の主張

原告が請求する査定の差額分の損害は、原告がレクサスオーナーズローンの制度を利用したことにより現実化した損害であるから、本件のような事故から通常生じる損害とはいえず、特別損害に当たる。原告が同制度を利用していたことなど被告にとって認識できるものではないから、相当因果関係があるものとは認められない。

原告は、本件事故後二五五万円の査定価格で原告車を必ず返却しなければならないわけではなく、自ら引き取ることも可能であったから、このことからしても、原告が主張するような額の損害は認められない。

レクサスオーナーズローンによる、最終分割払い時の原告車の残存価格を算定するための査定は、日本自動車査定協会による査定などとは異なり、一般の市場における車両の価格を公正に算定するものとはいえないし、査定者が現車を確認して査定したわけでなく、査定のプロセスも明らかでないから、評価損の金額を正確に表すものとはいえない。

評価損が仮に認められるとしても、修理費用に一定の割合を乗じて算定するのが妥当であり、本件の場合、多くても一割程度を乗じることが相当である。

第三争点に対する判断

一  交通事故により車両が損傷を受けた場合に、修理費用の外に、車両の価格の下落による損害が認められる場合があり、そのような損害は、評価損と呼ばれている。評価損は、事故による修理後の車両の評価額と事故前の車両の評価額を比べたときの下落額によるのではなく、修理費用に一定額を乗じて算定されることが多いが、そのようにして算定されるのは、被害者が修理後もその車両を使用し続けることが想定されているため、上記下落額が事故の時点では現実化していないからであると解される。これに対し、事故の時点で価格の下落が現実化しているのであれば、その賠償を認めるのが、事故がなかった状態を回復するという損害賠償の本旨にかなうものであり、被害者に不当な利得を得させることにもならないから、その賠償を認めるべきであると解される。このようなことは、例えば、当該車両が自動車販売店が所有する販売用の車両であった場合などにも起こるものであるから、その損害をもって特別損害ということはできず、加害者の予測を要件とするものではない。

前記第二、一(3)の事実によると、本件において、原告は、本件事故前に、車両返却を選択しており、証拠(甲五、六、九、一〇)によると、本件事故がなければ、原告車の返却時に追加の支払は発生しなかったところ、本件事故による原告車の価格低下によって追加の支払が発生したと認められるから、その追加の支払額(事故による修理後の車両の評価額と事故前の車両の評価額を比べたときの下落額)相当の損害が本件事故時に現実化しているということができる。したがって、原告は、被告に対して、その追加の支払額に相当する額の賠償を求めることができるというべきである。

原告は、本件事故後二五五万円の査定価格で原告車を必ず返却しなければならないわけではなく、自ら引き取ることも可能であったと主張するが、仮に契約上、原告が自ら引き取ることが可能であったとしても、車両返却を選択して、その旨をa自動車株式会社に通知していた原告が、本件事故が生じたからといって、車両返却から車両の購入に変更することを強制されるいわれはないから、この点は、上記判断を左右するものではない。

二  証拠(甲九)によると、原告とa自動車株式会社との契約においては、「自動車は、財団法人日本自動車査定協会による査定、またはその他の公正な機関の評価・査定により評価するものとします。」との約定(以下、「本件評価に関する約定」という。)があると認められる。

しかるところ、前記第二、一(3)のとおり、本件事故後の平成二二年七月三日に行われたBによる査定では、原告車の価格は二五五万円であったことが認められる。そして、証拠(甲五、七、一〇)によると、この査定は、a自動車株式会社において、原告車について、修理箇所を含む情報を提供して、査定を依頼し、その結果、査定されたものであること、a自動車株式会社においては、Bによる査定を「その他の公正な機関の評価・査定」として扱っていることが認められる。

また、前記第二、一(3)のとおり、被告が、「株式会社b」、「株式会社c」及び「株式会社d」にそれぞれ依頼した査定によると、本件事故後の原告車の評価額は、三五一万七五〇〇円、三三六万円、三二二万円であったことが認められるが、これらの査定が本件事故についてどの程度情報提供がされて査定されたかは必ずしも明らかでない上、e株式会社の車両損害立会調査報告書(乙一)には、原告車の時価額として五六九万円、算出根拠としてレッドブックと記載されているから、上記の被告が依頼した各評価額とは二〇〇万円以上の差があるのであり、これに照らしても、本件事故前の価格三九五万六〇〇〇円が本件事故後に二五五万円になったことにつき、その査定が不合理であるということはできない。

以上述べたところに、Bの査定にその他に特段公正を疑うべき事情が認められないことを総合すると、原告において、Bの査定が本件評価に関する約定に反するとして、車両返却時に、その金額の支払を拒否することができるとは認められない。

三  そうすると、原告がa自動車株式会社との契約によって車両返却時に支払を余儀なくされる三九五万六〇〇〇円と二五五万円の差額である一四〇万六〇〇〇円は、本件事故による原告の損害であると認められる。

四  また、弁護士費用としては、一四万六〇〇円をもって相当と認める。

第四結論

よって、一四〇万六〇〇〇円に一四万六〇〇円を加えた一五四万六六〇〇円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める原告の請求は、理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 森義之)

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