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横浜地方裁判所 平成23年(ワ)2142号 判決 2012年1月30日

原告

株式会社X1 他1名

被告

主文

一  被告は原告会社に対し、四一二万〇二五〇円及びこれに対する平成二一年五月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告X2に対し、九七万円及びこれに対する平成二一年五月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文第一項及び第二項と同旨

第二事案の概要

原告X2は原告会社の代表取締役であるが、原告X2を被害者、被告を加害者とする交通事故が発生し、これにより原告X2が負傷した結果、原告X2のみならず、原告会社にも損害が生じたと主張して、原告らは、被告に対して民法七〇九条に基づき損害賠償を求める訴えを提起した。

一  当事者間に争いのない事実

平成二一年五月一八日午後一時ころ、横浜市旭区矢指町一九二四番地先路上において、原告X2を被害者、被告を加害者とする交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

二  原告らの主張

(1)  原告会社の損害

原告会社は、配管工事等を事業内容とする会社であり、代表取締役である原告X2のほかに、現場従業員五名から成る会社であり、原告X2が事業の中心となっている。本件事故当時、原告会社は、「○○ 冷凍倉庫」建設に伴う配管工事を受注していた。本件事故により原告X2が工事に必要な関与をすることができなくなったから、原告会社は受注した工事を完了するために、他の業者に「応援工事」を外注せざるを得なかった。このための費用は、平成二一年五月から一〇月までの間に、四一二万〇二五〇円を要した。

原告会社の業界においては、責任者とその指示を受けて働く者とから成る職人集団を単位として工事を行うのが一般である。原告X2は、現場において責任者として、従業員らに指示をして業務を遂行する役割を担っていたから、原告X2が休業した場合において、原告X2の代役として他の職人集団から筆頭責任者のみを引き抜いてきて、原告X2以外の原告会社の従業員と組んで仕事をさせることはできない。したがって、原告会社は他の業者に「応援工事」を外注せざるを得なかったのであり、損害は、原告X2一人の休業に相当する一人工分の費用に止まるものではない。

(2)  原告X2の損害

原告X2は、本件事故により、頚椎捻挫の傷害を負ったから、この傷害に対する慰謝料としては、九七万円が相当である。

三  被告の主張

(1)  原告会社の損害について

ア 原告会社の「応援工事」の中には、本件事故と無関係に、当初から予定されていた外注工事が含まれており、この部分については、本件事故との因果関係がない。

イ 因果関係があったとしても、原告X2一人が休業したのに、二~四人工の工事が行われているのは、過剰であり、相当性を欠く。一人工分の費用(一日当たり一万八〇〇〇円)に限られるべきである。原告会社は、原告X2の休業等により原告会社の業務全般が滞ることのないよう、原告X2に代替し得る者を育成しておくべきであった。

ウ 原告会社が工事を外注した結果、工事を担当していた原告X2以外の従業員が本件現場以外の場所で労働し、得た対価を、損益相殺すべきである。

(2)  原告X2の損害について

原告X2の頚椎捻挫は、平成二一年一一月には症状固定に至っていたから、傷害の慰謝料としては、七五万六〇〇〇円が相当である。

四  争点

(1)  原告会社に生じた損害の額(損益相殺を含む。)

(2)  原告X2に生じた損害の額

第三当裁判所の判断

一  原告会社の損害について

本件事故により、原告X2が頚椎捻挫の傷害を負ったことは、当事者間に争いがない。原告X2と原告会社とは別個の法人格を有するから、原告会社の損害は、本件事故によるいわゆる間接損害である。

(1)  原告会社における勤務状況を示す月報表(甲第二号証)及び資格証明書(横浜地方法務局登記官作成の平成二三年四月一五日付け履歴事項全部証明書)によれば、原告会社において、原告X2が代表取締役、A、B及びCが取締役であり、役員以外の従業員は二~三名しかいないことが認められる。

このような実態に鑑みれば、原告会社は小規模であり、原告X2と原告会社とが経済的に一体の関係にあるということができる。

(2)  被告は、①原告会社の「応援工事」の中に、本件事故と無関係に、当初から予定されていた外注工事が含まれている、②原告X2一人が休業したのに、二~四人工の工事が行われているのは、過剰であり、相当性を欠く、と主張する。

被告は、第二回弁論準備手続期日において外注工事の委託方法についての証拠を提出すると述べたが、第三回弁論準備手続期日では、この証拠申出はないと述べ、結局、被告が提出した証拠(乙第一号証から第三号証まで)は、本件以外の事件における裁判例にすぎない。したがって、原告会社の「応援工事」の中に、本件事故と無関係に、当初から予定されていた外注工事が含まれていると認めるに足りる証拠はない。また、弁論の全趣旨によれば、原告会社の業界においては、責任者とその指示を受けて働く者とから成る職人集団を単位として工事を行うのが一般であるため、責任者が休業した場合において、代役として他の職人集団から責任者のみを引き抜いてきて、それ以外の者と組んで仕事をさせることは、実際上できないことが認められる。

原告X2は、現場において責任者として、従業員らに指示をして業務を遂行する役割を担っていたから、原告X2が休業した場合において、原告X2の代役として他の職人集団から筆頭責任者のみを引き抜いてきて、原告X2以外の原告会社の従業員と組んで仕事をさせることはできない。原告会社が既に受注している工事を完了させるためには、他の業者に「応援工事」を外注せざるを得なかったのであり、損害は、原告X2一人の休業に相当する一人工分の費用に止まるものではない。したがって、被告の上記主張を採用することはできない。

さらに、被告は、原告会社が原告X2の休業等により原告会社の業務全般が滞ることのないよう、原告X2に代替し得る者を育成しておくべきであったと主張する。

被告の主張が過失相殺又はその類推適用を言う趣旨であるとしても、原告X2の休業等のリスクの予測は、抽象的に行うことができるにすぎず、これを具体的に行うことができると認めるに足りる証拠はない。このようなリスクに対処する責任を被害者にのみ負わせ、加害者が負わないとすることは、不法行為による損害の公平な分担の理念に反することは明らかである。したがって、被告の上記主張も採用することはできない。

(3)  被告は、原告会社が工事を外注した結果、工事を担当していた原告X2以外の従業員が本件現場以外の場所で労働し、得た対価を、損益相殺すべきであると主張する。

原告会社の損害について、損益相殺の対象となるのは、原告X2が休業した結果、原告会社が原告X2以外の者で行うことのできる工事を受注し、これにより上げた利益であって、「原告会社が工事を外注した結果、工事を担当していた原告X2以外の従業員が本件現場以外の場所で労働し、得た対価」ではない。被告の主張は失当であり、上記の利益があったと認めるに足りる証拠もない。

なお、原告自ら主張する「△△」の現場における工事については、原告X2が休業した結果、原告会社が原告X2以外の者で行うことのできる工事(孫請業者の使用が許されるもの)を受注し、これにより上げた利益であると認めるに足りる証拠はない。

(4)  甲第一号証から第三号証までによれば、原告X2の休業により原告会社が「応援工事」を外注し、これによって被った損害は、少なくとも四一二万〇二五〇円であることが認められる。

二  原告X2の損害について

被告は、原告X2の頚椎捻挫が平成二一年一一月には症状固定に至っていたと主張する。

しかし、甲第五号証の一一によれば、原告X2は、頚椎捻挫の傷害を負ったが、平成二二年四月四日に治癒し、後遺症はなかったことが認められ、被告の主張する事実を認めるに足りる証拠は、全くない。

甲第五号証の一から一一までによれば、原告X2は、頚椎捻挫の傷害を負ったため、平成二一年五月一九日から平成二二年四月四日まで通院(実日数にして七四日間)を余儀なくされたことが認められる。これによる傷害の慰謝料としては、九七万円が相当である。

三  以上によれば、原告らの請求はいずれも理由がある。よって、原告らの請求をいずれも認容し、主文のとおり判決する。

(裁判官 古閑裕二)

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