横浜地方裁判所 平成23年(ワ)3484号 判決 2012年5月17日
原告
X1他2名
被告
Y
主文
一 被告は、原告X1に対し、金三五〇一万五一五八円及び内金三四七三万七七六一円に対する平成二一年九月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告X2に対し、金一九二六万五五五七円及び内金一九一二万六八五九円に対する平成二一年九月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告は、原告X3に対し、金一九二六万五五五七円及び内金一九一二万六八五九円に対する平成二一年九月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告らの負担とし、その七を被告の負担とする。
六 この判決は、第一項ないし第三項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
(1) 被告は、原告X1に対し、五〇一一万四一七〇円及びこれに対する平成二一年九月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(2) 被告は、原告X2に対し、二六三九万六一六五円及びこれに対する平成二一年九月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(3) 被告は、原告X3に対し、二六三九万六一六五円及びこれに対する平成二一年九月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は被告の負担とする。
(5) 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告らの請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
(1) 本件事故の発生
日時 平成二一年九月二七日午前七時二五分ころ
場所 静岡県裾野市茶畑二二五三番地の三 有料道路芦ノ湖スカイライン三・七キロポスト(以下「本件道路」という。)
原告車両 大型自動二輪車(ナンバー<省略>)
同運転者 A(昭和五一年○月○日生の男性、事故当時三二歳、以下「亡A」という。)
被告車両 普通乗用自動車(ナンバー<省略>)
同運転者 被告
事故態様 被告は、指定制限速度(時速四〇km)を大幅に超え、時速百数十kmで被告車両を走行させたため、本件道路の緩やかなカーブを曲がる際、自車のコントロールを失い、反対車線に進出し、折から、反対車線を走行してきた原告車両と正面衝突した。
(2) 責任原因
被告は、指定制限速度を大幅に超過する高速で被告車両を走行させたあげく、カーブで被告車両のコントロールを失い、被告車両を反対車線に進出させて本件事故を惹起した過失があるので、民法七〇九条に基づく損害賠償責任を負う。
また、被告は、被告車両の保有者であるから、自賠法三条に基づく損害賠償責任を負う。
(3) 亡Aの死亡
亡Aは、本件事故により、第二、第三頚椎骨折、右大腿骨骨折、両側血気胸の傷害を負い、a病院で治療を受け、同日午後一二時四〇分、同病院で死亡した。
(4) 原告ら
ア 原告X1(以下、「原告X1」という。)は、亡Aの妻であり、亡Aを相続した。相続分は二分の一である。
イ 原告X2(以下、「原告X2」という。)は、亡Aの子であり、亡Aを相続した。相続分は四分の一である。
ウ 原告X3(以下、「原告X3」という。)は、亡Aの子であり、亡Aを相続した。相続分は四分の一である。
(5) 損害
ア 亡Aの損害
(ア) 治療費 一八万八六八五円
(イ) 付添費 六五〇〇円
(ウ) 入院雑費 一五〇〇円
(エ) 親族交通費 一万八五四〇円
(オ) 休業損害 一万六一五一円
(カ) 逸失利益 六八九三万三四〇六円
601万4117円×(1-0.3)×16.37419=6893万3406円
亡Aは、本件事故前年の平成二〇年は五八九万五〇七〇円の収入に止まったが、平成一九年は六〇一万四一一七円の収入を得ていた。平成二〇年の収入は一時的に減額されたもので、本件事故当時は従来の給与水準に復元する過程にあった。したがって、平成一九年の収入を逸失利益の基礎収入とするべきである。
(キ) 逸失退職金 四〇〇万三七六九円
亡Aは、本件事故から二七年後の定年時、退職金として一四九四万七九〇〇円を支払われていた蓋然性が高いから、これに対して二七年のライプニッツ係数を乗じても四〇〇万三七六九円を下らない逸失退職金の損害がある。
(ク) 傷害慰謝料 五万円
(ケ) 死亡慰謝料 三六四〇万円
加害行為が悪質であるから、慰謝料は通常に比べ増額されるべきである。
(コ) 確定遅延損害金 五五万四七九五円
平成二二年二月八日に支払われた自賠責保険金三〇〇〇万円につき、本件事故後の損害金である。
(サ) 弁護士費用 八〇〇万円
(シ) 合計 一億一八一七万三三四六円
イ 原告X1の損害
(ア) 近親者慰謝料 四〇〇万円
(イ) 葬儀費 一五〇万円
(ウ) 霊柩車費用 七万一八四〇円
(エ) 弁護士費用 五五万円
(オ) 合計 六一二万一八四〇円
ウ 原告X2及び原告X3の各損害
(ア) 近親者慰謝料 四〇〇万円
(イ) 弁護士費用 四〇万円
(ウ) 合計 四四〇万円
(6) 損害の填補 三〇一八万八六八五円
(7) 各請求額
次の額及びこれに対する本件事故の日から年五分の割合による遅延損害金。
ア 原告X1
(1億1817万3346円-3018万8685円)×1/2+612万1840円=5011万4170円
イ 原告X2及び原告X3
(1億1817万3346円-3018万8685円)×1/4+440万円=2639万6165円
二 請求原因に対する認否等
(1) 請求原因(1)の事実は、被告車両の走行速度は否認し、その余は認める。
(2) 同(2)の事実は認める。
(3) 同(3)の事実は認める。
(4) 同(4)の事実は不知。
(5) 同(5)の事実は争う。
(6) 同(6)の事実は認める。
原告らは、請求原因(6)の損害填補額に加え、遺族厚生年金四七七万七七九七円以上、死亡退職金一五三万円の支払を受けている。
(7) 同(7)は争う。
理由
第一前提となる事実
一 請求原因(1)の事実については、被告車両の走行速度の点を除き、争いはない。
二 同(2)、(3)及び(6)の事実は争いがない。
三 同(4)の事実は、弁論の全趣旨(訴状添付の戸籍)により認められる。
第二争点に対する当裁判所の判断
以下、損害及びその填補について判断する。
一 亡Aの損害
(1) 治療費 一八万八六八五円
甲第三号証の二によれば、治療費として一八万八六八五円の損害が認められる。
(2) 付添費・入院雑費 〇円
甲第四号証によれば、亡Aは本件事故から約五時間後に死亡しており、これには搬送時間も含まれていることから、亡Aが実際病院で治療を受けた時間はごく短時間といえる。そうすると、付添費、入院雑費の損害を独立して認めるまでもない。
(3) 親族交通費 一万八五四〇円
甲第八号証の記載に鑑み、一万八五四〇円を認める。
(4) 休業損害 〇円
亡Aは本件事故から約五時間後に死亡しており、当日稼働の予定があったこともうかがわれないから、休業損害は認められない。
(5) 逸失利益 六七五六万八八九七円
ア 基礎収入
甲第五号証の五によれば、亡Aの本件事故前年(平成二〇年)の収入は五八九万五〇七〇円であったと認められ、一方、この収入額が一時的なもので、前々年の収入を採用すべきことが明らかというほどの事実関係は認めるに足りないから、これを基礎収入として算定するのが相当である。
イ 就労可能年数
亡Aの死亡時年齢(三二歳)に鑑みると、遠い将来となる勤務先の定年年齢にかかわらず、単純に、上記基礎収入により六七歳まで三五年間(ライプニッツ係数は原告らの主張する一六・三七四一九を採用する。)の逸失利益を算定する代わりに、退職金は考慮しない(定年退職金を計上せず、死亡退職金を控除しない。)こととするのが相当である。
ウ 生活費控除率
原告ら三名を扶養していたことに鑑み、三割とするのが相当である。
エ 以上によれば、逸失利益は次のとおり算定される。
589万5070円×(1-0.3)×16.37419=6756万8897円
(6) 慰謝料 二八〇〇万円
ア 亡Aは本件事故から約五時間後に死亡している。受傷から死亡までの時間が短いことから、傷害慰謝料を死亡慰謝料と別個に認めるまでもない。
イ 本件道路の最高制限速度は時速四〇kmであり、甲第二号証の九によれば、被告は本件道路を時速約九九km前後で走行していたことが認められる。本件事故の原因は、このように被告が制限速度をはるかに超えた高速度でカーブを曲がろうとしたことであり、甲第二号証の四ないし八によると、被告がこのように制限速度を大幅に超えて走行していたのは、助手席に座るBに対し、被告車両の性能がいいことを見せたいという虚栄心によるものと認められる。そうすると、本件事故の原因は被告の身勝手かつ無謀な行動によるものと認められ、これに加え、甲第一二号証及び原告X1本人尋問の結果を総合すると、三二歳という若さで貴重な生命を奪われた亡Aの無念さは極めて大きいものであったと推認される。なお、被告は走行速度を否認しているが、刑事判決(甲一四、一五)のように控え目に認定したとしても制限速度を大きく超えていたことに変わりはなく、走行態様と動機の悪質性は変わらないから、慰謝料額に直ちに影響するものではない。
ウ 以上で認められる諸般の事情を総合すると、亡A本人の慰謝料は、二八〇〇万円をもって相当と認める。
(7) 以上の合計は、九五七七万六一二二円(一八万八六八五円+一万八五四〇円+六七五六万八八九七円+二八〇〇万円)となる。
(8) なお、確定遅延損害金及び弁護士費用については、後に併せて算定する。
二 原告X1の損害
(1) 固有の慰謝料 二〇〇万円
甲第一二号証及び原告X1本人尋問によれば、原告X1は本件事故によって、夫を失った悲しみや辛さ、大きな絶望感を受けたと推認される。このことからすれば、固有の慰謝料として別途二〇〇万円を認めるのが相当である。
(2) 葬儀費用 一五〇万円
同金額とするのが相当である。
(3) 霊枢車費用 七万一八四〇円
甲第八号証の記載に鑑み、七万一八四〇円を認める。
(4) 以上の合計は、三五七万一八四〇円となる。
三 原告X2及び原告X3の固有の慰謝料 各一〇〇万円
甲第一二号証、原告X1本人尋問及び弁論の全趣旨によれば、原告X2及び原告X3は九歳と七歳という幼さで父を亡くし、相当の喪失感・不安感を受けたことが推認される。このことからすれば、固有の慰謝料として別途一〇〇万円ずつを認めるのが相当である。
四 損害の填補及び確定遅延損害金
(1) 自賠責保険金等の三〇一八万八六八五円については、争いがない。
(2) 遺族年金につき、原告X1に対し既に支払われた額及び支払が確定した額は、平成二一年一二月から平成二三年四月まで偶数月に三一万九〇三三円(甲一三)、同年六月から平成二四年四月まで偶数月に三一万七七五〇円(甲九)である。その合計は、次のとおり、四七七万七七九七円となる。
31万9033円×9回+31万7750円×6回=477万7797円
これを受給権者である原告X1の損害額から控除することとする。
なお、被告はこれ以外にも年金があるかのような主張をしているが、全くの誤解というほかない。
(3) 確定遅延損害金
弁論の全趣旨によれば、原告らが自賠責保険金三〇〇〇万円の支払を受けたのは、平成二二年二月八日であったと認められる。
原告らは、これに対する本件事故の日(平成二一年九月二七日)から支払日まで一三五日間の確定遅延損害金を請求しているところ、その額は、次のとおりとなるが、この金額に重ねて遅延損害金を付することはできない。
3000万円×0.05×135/365=55万4794円
五 各認容額
(1) 原告X1
(9577万6122円-3018万8685円)×1/2+357万1840円-477万7797円=3158万7761円
弁護士費用は三一五万円を相当と認めるので、合計三四七三万七七六一円となる。
これに前記確定遅延損害金五五万四七九四円の二分の一である二七万七三九七円を加算すると三五〇一万五一五八円となるが、本件事故の日からの遅延損害金の元本となるのは、上記三四七三万七七六一円に限られる。
(2) 原告X2及び原告X3
(9577万6122円-3018万8685円)×1/4+100万円=1739万6859円
弁護士費用は一七三万円を相当と認めるので、合計一九一二万六八五九円となる。
これに前記確定遅延損害金五五万四七九四円の四分の一である一三万八六九八円を加算すると一九二六万五五五七円となるが、本件事故の日からの遅延損害金の元本となるのは、上記一九一二万六八五九円に限られる。
第三結論
よって、原告らの請求は、主文第一項ないし第三項の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民訴法六四条本文、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 竹内浩史)