横浜地方裁判所 平成23年(ワ)5009号 判決 2013年3月14日
第一事件原告・第二事件被告・
A
第三事件被告・第四事件原告
第一事件原告・第四事件原告
a保険株式会社
第一事件被告・第二事件被告・
B
・第三事件被告
第一事件被告・第二事件被告
C
第三事件原告
b保険株式会社
第一事件被告
D
第二事件原告・第四事件被告
c保険株式会社
主文
一 被告Bは、原告Aに対し、金二万二五七〇円及びこれに対する平成二二年一二月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告c保険は、原告Aに対し、前項の判決が確定したときは、金二万二五七〇円及びこれに対する平成二二年一二月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告Bは、原告a保険に対し、金四一万三七一五円及びこれに対する平成二四年二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告c保険は、原告a保険に対し、前項の判決が確定したときは、金四一万三七一五円及びこれに対する平成二四年五月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 原告A及び被告Bは連帯して、原告c保険に対し、金二九万六三三三円及びこれに対する平成二三年一月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
六 原告A及び被告Bは連帯して、原告b保険に対し、金四一万八二七〇円及びこれに対する平成二三年二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
七 原告A、原告a保険、原告c保険及び原告b保険のその余の各請求をいずれも棄却する。
八 訴訟費用の負担は、次のとおりとする。
(1) 第一事件について原告A及び原告a保険と被告Bとの間に生じた費用はこれを二分し、その一を原告A及び原告a保険の連帯負担とし、その余を被告Bの負担とし、原告A及び原告a保険と被告C及び被告Dとの間に生じた費用は、原告A及び原告a保険の連帯負担とする。
(2) 第二事件について原告c保険と原告A及び被告Bとの間に生じた費用はこれを五分し、その二を原告c保険の負担とし、その余を原告A及び被告Bの連帯負担とし、原告c保険と被告Cとの間に生じた費用は原告c保険の負担とする。
(3) 第三事件について生じた費用はこれを五分し、その二を原告b保険の負担とし、その余を原告A及び被告Bの連帯負担とする。
(4) 第四事件について生じた費用はこれを二分し、その一を原告A及び原告a保険の連帯負担とし、その余を原告c保険の負担とする。
九 この判決は、第一項、第三項、第五項及び第六項に限り、仮に執行することができる。
ただし、原告Aは、金二〇万円の担保を供するときは第五項の仮執行を免れることができ、金三〇万円の担保を供するときは第六項の仮執行を免れることができる。
事実及び理由
第一請求
一 第一事件
(1) 被告B、被告C及び被告Dは連帯して、原告Aに対し、六万六五七〇円及びこれに対する平成二二年一二月三一日(本件事故の日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(2) 被告B、被告C及び被告Dは連帯して、原告a保険に対し、八五万円及びこれに対する第一事件訴状送達の日の翌日(被告Bは平成二四年二月一一日、被告Cは平成二三年一〇月一七日、被告Dは同月一五日)から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 第二事件
原告A、被告B及び被告Cは連帯して、原告c保険に対し、四九万三八八九円及びこれに対する平成二三年一月二八日(保険金支払の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 第三事件
原告A及び被告Bは連帯して、原告b保険に対し、六九万七一一六円及びこれに対する平成二三年二月一一日(保険金支払の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 第四事件
(1) 原告c保険は、原告Aに対し、原告Aの被告Bに対する上記一(1)の判決が確定したときは、六万六五七〇円及びこれに対する平成二二年一二月三一日(本件事故の日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(2) 原告c保険は、原告a保険に対し、原告a保険の被告Bに対する上記一(2)の判決が確定したときは、八五万円及びこれに対する平成二四年五月二五日(第四事件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 事案の骨子
平成二二年一二月三一日の夜間に名阪国道で連続的に発生した本件事故に関し、関係車両四台の運転者及び保険会社が損害賠償金又は求償金の請求をした訴訟四件が併合された事案である。
二 前提事実
以下の事実は、当事者間に争いがないか、括弧書きで付記する書証及び弁論の全趣旨により容易に認定することができるので、これを「前提事実」ということにする。
(1) 本件事故
ア 関係車両
(ア) 被告Bが運転する普通乗用自動車(以下「被告B車両」という。)
(イ) 原告Aが運転する普通乗用自動車(以下「原告A車両」という。)
(ウ) 被告Cが運転する普通乗用自動車(以下「被告C車両」という。)
(エ) 被告Dが運転する普通乗用自動車(以下「被告D車両」という。)
イ 平成二二年一二月三一日午後九時五五分頃以降、三重県亀山市加太神武地内名阪下り一〇・二キロポスト付近(片側二車線)において、次のような各事故が発生した(第三事件の訴状に倣いABC等で各事故を呼称する。)。
(ア) A事故
被告B車両がスピンし、中央分離帯に衝突するなどした末に停止した。
(イ) B事故
午後九時五五分頃、被告B車両を避けようとした原告A車両が中央分離帯に衝突して停止した(甲一)。
(ウ) C事故
その直後の午後九時五六分頃、被告C車両が原告A車両に衝突した(甲二=乙B二)。
(エ) D事故
その直後の午後九時五九分頃、被告D車両が原告A車両に接触した(乙C一)。
(2) 保険会社
ア 被告B車両につき、原告c保険は、株式会社d(以下、「株式会社」は省略)との間で自動車保険契約を締結していた。
イ 原告A車両につき、原告a保険は、所有者である原告Aとの間で車両保険契約を締結していた。
ウ 被告C車両につき、原告b保険は、所有者である被告Cとの間で自動車保険契約を締結していた。
エ 被告D車両につき、原告c保険は、所有者ではない被告Dとの間で自動車保険契約(他車運転担保特約付き)を締結していた(なお、原告c保険は上記アと立場が異なるため、訴訟代理人を別々としている。)。
(3) 保険金の支払等
ア 上記(2)アの保険契約の約款には、被保険者と損害賠償請求権者との間で判決が確定した場合は、損害賠償請求権者は原告c保険に対して直接請求することができる旨の規定がある(甲九)。
イ 原告a保険は、上記(2)イの保険契約に基づき、車両保険の保険金額である八五万円(車両価格七〇万円+レッカー代一五万円)を支払った(甲八)。
ウ 原告b保険は、上記(2)ウの保険契約に基づき、平成二三年二月一〇日までに、保険金六九万七一一六円を支払った(乙B五)。
エ 原告c保険は、上記(2)エの保険契約に基づき、平成二三年一月二七日までに、保険金四九万三八八九円を支払った(乙C三)。
(4) 被告B車両の詐取
ア 被告Bは、本件事故に先立つ平成二二年一一月二一日、d社において、同店店員に対し、新車購入代金を支払う能力がないのに、あるように装い、現金一括払いによる新車購入を申し込んだ上、新車購入契約に基づく代車無償貸与を申し込み、同人をして、新車納車時まで代車を無償で貸与すれば、確実に新車購入代金の支払を受けられるものと誤信させ、よって、同日から本件事故日までの問、同店から被告B車両を含む代車貸与の利便の提供を受けたとの詐欺罪等により、平成二四年一月二六日、岐阜地方裁判所多治見支部において有罪判決を受けた(乙D一の一~七)。
イ d社は、被告Bに対し、平成二四年六月二〇日付けの通知書(乙D二)により、被告B車両の使用許諾を民法九六条一項に基づき取り消した。
三 請求原因の要旨
(1) 第一事件
原告A車両の損害(車両時価額・レッカー代)に関し、原告Aが保険金によりてん補されなかった損害金六万六五七〇円を、原告a保険が支払った保険金八五万円をそれぞれ、被告B、被告C及び被告Dに対し、共同不法行為に基づき連帯して支払うよう請求したもの。
(2) 第二事件
被告D車両の損害(修理費)に関し、原告c保険が支払った保険金四九万三八八九円を、原告A、被告B及び被告Cに対し、共同不法行為に基づき連帯して支払うよう請求したもの。
(3) 第三事件
被告C車両の損害(修理費)に関し、原告b保険が支払った保険金六九万七一一六円を、原告A及び被告Bに対し、共同不法行為に基づき連帯して支払うよう請求したもの。
(4) 第四事件
第一事件の原告A車両の損害に関し、原告A及び原告a保険が、被告Bに対する判決の確定を条件に、原告c保険に対し、保険金として直接支払うよう請求したもの。
四 争点(双方の主張の要旨)
(1) 事故態様・過失割合(第一~第四事件)
ア 原告A及び原告a保険の主張
(ア) B事故は、A事故が原因で、原告A車両が中央分離帯に衝突するに至ったものであるから、非接触事故ではあるが、その責任は被告Bにある。
C事故及びD事故は、その後約一分間が経過してから発生したものであり、被告C車両及び被告D車両は、前方不注視、制限速度違反又はブレーキ等の運転操作を適切に行わなかった過失により原告A車両に追突したものであるから、その責任は被告C及び被告Dにある。
よって、被告B、被告C及び被告Dは連帯して、原告A車両の損害を賠償すべき義務がある。
(イ) また、被告C及び被告Dの損害については、高速道路上の追突事故に準じて、六割の過失相殺がなされるべきである。
イ 被告Bの主張
(ア) 上記ア(ア)の主張は不知。
(イ) 路面の凍結により、運転を誤り、スピンして道路の中央分離帯に接触し、運転が継続できない状態になった単独物損事故を起こしてしまったことは間違いない。しかし、後続車両は被告B車両を発見して安全に停止したもので、被告B車両との接触はない。新たな物損事故も起きていない。
ウ 被告C及び原告b保険の主張
(ア) 上記ア及び後記エ(オ)の主張は否認ないし争う。
(イ) 第一事件に関しては、原告A車両に生じた損害は、B事故によって前部に生じたものと、C事故及びD事故によって後部に生じたものとに明確に区別することができる以上、被告C及び被告Dが、被告Bと共同不法行為責任を負うことはない。
(ウ) 第二事件に関しては、被告Cが、C事故で停止してからD事故発生までのわずかな間に、警告措置をとることは不可能であった。
仮に可能であったとしても、被告D車両は、左に車線変更ができたこと及び原告A車両と衝突したのみであって被告C車両に接触したわけではないことからすれば、警告措置の有無と被告D車両の損害発生との間には因果関係はない。仮に被告Cに何らかの過失が認定され得るとしても、被告Dにつき大幅な過失相殺がされるべきである。
(エ) 第三事件に関しては、原告AにはB事故に関して、最高速度遵守義務、車間距離保持義務及び安全運転義務違反がある。また、C事故に関しては、夜間用停止表示器材を置く等の措置を一切とらなかった過失がある。
被告Bは、運転操作を誤り、被告B車両をスピンさせ中央分離帯に衝突させることによりA事故を発生させ、これによってB事故を惹起し、それを原因としてC事故が発生したのであるから、C事故も被告Bの過失に起因する。
エ 被告D及び原告c保険の主張
(ア) 上記ア及びウ(ウ)の主張は否認ないし争う。
(イ) 被告Dは、前方に原告A車両及び被告C車両が停止しているのを認め、徐々にブレーキをかけながら、時速約一〇kmまで減速した。そしてそれらとの接触を回避しようと試みたものの、回避しきれず、徐行程度の速度で被告D車両の右前部を原告A車両の左後部に接触させた(D事故)。
(ウ) 原告Aには、B事故の後、警告措置を怠った過失及び車道を大きく閉塞した過失がある。また、B事故の前も、最高速度遵守義務、車間距離保持義務及び安全運転義務に違反していた。したがって、D事故が専ら被告Dの前方不注視の過失により生じたとする主張は、過大である。
(エ) 被告Bは、運転操作を誤り、被告B車両を滑走の上、回転させ、中央分離帯に衝突させることによりA事故、B事故及びC事故を発生させており、それに起因してD事故が発生しているのであるから、被告Bの過失に起因するものであることは明らかである。
(オ) 被告Cは、C事故の後、D事故が生じるまでの約三分間、夜間用停止表示器材を設置する等の、後方から進行して来る車両の運転者に対する注意喚起措置を一切とらなかった過失があり、これによりD事故が発生したことは明らかである。
オ 原告c保険の主張(第四事件)
原告A車両と被告B車両の最終停止位置が二〇mも離れており、かつ、双方の車両が一切接触した事実がないことに照らせば、原告Aの運転操作の誤りが相当程度介在しており、被告Bの過失は極めて小さい。
(2) 原告A車両の損害額(第一事件・第四事件)
ア 原告A及び原告a保険の主張
原告A車両は経済的全損となっており、損害額は次のとおりである。
(ア) 時価額 七四万四〇〇〇円
(イ) レッカー代 一七万二五七〇円
(ウ) 合計 九一万六五七〇円
イ 被告Bの主張
上記アの主張は不知。
ウ 被告Cの主張
上記アの主張は不知。
B事故によって原告A車両は修理費九五万四七六五円が必要な状態となった。これは、上記アの主張の時価額七四万四〇〇〇円を超過するものであり、B事故によって経済的全損となっている。
したがって、C事故で被告C車両が原告A車両に衝突したとしても、全損状態の車両に衝突しただけであって賠償義務は生じない。
エ 被告Dの主張
上記アの主張は否認ないし争う。
原告A車両の修理費用が、時価額を上回ることの証明がない。
また、原告A車両は、被告D車両とのD事故による軽微な接触前において、既に経済的全損の状態にあった可能性が極めて高い。
オ 原告c保険の主張
上記アの主張は不知。
(3) 被告D車両の損害額(第二事件)
ア 原告c保険の主張
被告D車両の修理費は、四九万三八八九円である。
イ 原告Aの主張
上記アの主張は認める。
ウ 被告Bの主張
上記アの主張は不知。
エ 被告Cの主張
上記アの主張は不知。
(4) 被告C車両の損害額(第三事件)
ア 原告b保険の主張
被告C車両の修理費は、六九万七一一六円である。
イ 原告Aの主張
上記アの主張は認める。
ウ 被告Bの主張
上記アの主張は不知。
(5) 被告B車両の保険契約の効力(第四事件)
ア 原告A及び原告a保険の主張
(ア) 前提事実(2)アの保険契約の約款には、記名被保険者の承諾を得て契約車両を使用又は管理中の者も被保険者とする旨の規定があり、被告Bは記名被保険者であるd社から承諾を得ていたから、これに該当する。
よって、前提事実(3)アの直接請求権に基づき、原告A及び原告a保険は、第一事件の被告Bに対する判決の確定を条件に、原告c保険に対し、同額を支払うよう請求する。
(イ) 後記イ(イ)の主張は争う。
詐欺取消しにより、約款にいう許諾が事後的に失われることはない。
イ 原告c保険の主張
(ア) 上記ア(ア)の主張は否認ないし争う。
(イ) 前提事実(4)ア・イによれば、被告Bは同(2)アの保険契約の被保険者に配当しない。
そして、原告Aは、被告Bの詐欺行為によって生じた法律関係を信頼して新たに取引関係に入ったわけではないから、民法九六条三項により保護されるべき第三者に該当しない。
したがって、原告c保険は、被告Bの負担する損害賠償金の支払義務を負わない。
四 人証
原告A及び被告Bの各本人尋問を行った。
以下、原告Aの陳述内容の報告書(甲四)及び本人尋問における供述を併せて「原告A供述」という。
また、被告Bの供述調書(乙D一の五)、上申書(乙D一の六)、謝罪文(乙D一の七)及び本人尋問における供述を併せて「被告B供述」という。
第三争点に対する判断
一 争点(1)事故態様・過失割合について
(1) 前提事実(1)の本件事故については、付記する書証、原告A供述、被告B供述及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下のとおり認定判断することができる。
ア A事故
本件事故は、自動車専用道路である名阪国道で発生し、現場付近は片側二車線かつ直線状で(甲三)、最高速度は時速六〇kmであった。
当日は大晦日で夜一〇時に近く、強い風が吹き、前日の雪の影響で路面は凍結してアイスバーン状になり、スリップしやすくなっていた。
被告B車両は、右側の第二車線を時速約八〇kmで走行していたところ、被告Bが路面の凍結に気付いて不用意にブレーキを踏んでしまったことが原因でスリップを起こし、スピン状態に陥って、中央分離帯に衝突するなどした末、第二車線内に前部を後方へ向けた状態で停止した。
イ B事故
(ア) 原告A車両は、その後方をスタッドレスタイヤにより(甲一二)、時速約七〇kmで先行車と一〇〇m程度の車間距離を保ちながら走行していたが、第一車線に車両が連なりだしたので、追越車線である第二車線に移って時速八〇km以上に加速した。
その時、原告Aは、前方の被告B車両のテールランプが横に流れるのが見えたので、スピン状態に陥ったのだと思い、とっさに自車はスピンしないよう弱くブレーキを踏んだ。
しかし、被告B車両が上記のように停止したので、原告Aは衝突を避けるためブレーキを前より強く踏むと、原告A車両の後部が左右に振られてしまい、停止させるためにその右側を中央分離帯に意図的に衝突させた。
その結果、原告A車両は第二車線内の被告B車両の約二〇m手前で停止したが、中央分離帯への衝突のため右前部を中心にして自走できないほどに大破した。
(イ) 以上によれば、被告Bと原告Aの過失割合は五対五と判断する。B事故の発端は被告Bが過失により起こしたA事故であったが、原告Aも追越車線上であったとはいえ二〇km以上の制限速度超過があり、現場付近が視認不良であったとまではいえないから、路面の凍結には細心の注意を払って走行すべきであった。そして、最終的には被告B車両に衝突しなかったばかりか、約二〇m手前で停止した以上は、中央分離帯への衝突も回避する余地があったと見られるからである。
(ウ) 次に、原告A車両の本件事故当時の時価額は七〇万円と認められる(乙B1)。原告Aは七四万四〇〇〇円と主張しているが(甲五、六)、自身が契約した車両保険の保険金額においても車両価格は七〇万円とされていたことに照らし(前提事実(2)イ及び(3)イ)、採用し難い。
他方、原告A車両は、中央分離帯に接触した右前部を中心に大きく損傷し(甲一一、一二)、この時点で既に修理費九四万四四四四円(甲一〇)ないし九五万四七六五円(乙B一)が必要な状態になったと認められるから、経済的全損となったものと判断される。原告A車両の後部の損傷(甲一三~一五)はC事故ないしD事故によってもたらされたと認められるものの、全損状態となった後の損傷に過ぎないことになる。
ウ C事故
(ア) 原告Aは、上記停止後、特に後続車に対する警告措置をしないままで降車し、まず被告B車両の近くまで歩いて行って、被告Bの安否を確認した。
原告Aの妻は、助手席に同乗していたが、降車しないまま待っていた。
(イ) 原告Aが自車に戻ったところ、被告C車両が近付いて来ていた。そして、ほとんど止まりかけであったため、低速で原告A車両の右後部に衝突した。
(ウ) 以上によれば、C事故に関しては、被告Cに対し、B事故を発生させた原告Aと被告Bとの共同不法行為が成立するが、被告Cの過失割合として四割を過失相殺すべきものと判断する。
C事故も追越車線上の事故であり、原告Aは、B事故につき過失があったばかりでなく、自車の停止直後に妻と手分けして発炎筒を用いるなどして後続車に対し警告をする余地があったと見られることを考慮すると、衝突態様としては追突に近いものであるとはいえ、被告Cの過失割合は上記程度にとどめざるを得ない。
(エ) 他方、原告A車両は、上記イ(ウ)のとおりB事故において既に全損状態となっていたから、被告Cの原告Aに対する不法行為は成立しないものと判断される。
エ D事故
(ア) C事故から間もなく、被告D車両も原告A車両の左後部に衝突した。
(イ) 以上によれば、D事故に関しては、被告Dに対し、原告Aと被告Bとの共同不法行為が成立するが、被告Dの過失割合として四割を過失相殺すべきものと判断する。
状況としてはC事故とほぼ同様であるから、被告Dにも接触を回避する余地があったと見られるとはいえ、その過失割合は被告Cと同等とすべきである。
(ウ) なお、被告D車両は、被告C車両には接触していないことから、被告Cについては、共同不法行為は成立しないものと解する。
(エ) また、原告A車両は、上記イ(ウ)のとおりB事故において既に全損状態となっていたから、被告Dの原告Aに対する不法行為は成立しないものと判断される。
(2) 以上をまとめると、不法行為は次の限度で成立することになる。
ア 原告A車両の損害については、被告Bの不法行為のみが認められるが、五割の過失相殺をすべきである(第一事件・第四事件)。
イ 被告C車両の損害については、原告Aと被告Bとの共同不法行為が成立するが、四割の過失相殺をすべきである(第三事件)。
ウ 被告D車両の損害については、原告Aと被告Bとの共同不法行為が成立するが、四割の過失相殺をすべきである(第二事件)。
二 争点(2)原告A車両の損害額について
(1) 原告A車両の時価額は、上記一(1)イ(ウ)のとおり七〇万円と認められる。また、レッカー代として一七万二五七〇円を要したことが認められ(甲七)、合計八七万二五七〇円となる。
(2) 上記一(2)アによれば、被告Bの損害賠償責任額は、その五割の四三万六二八五円となる。
(3) 原告c保険は、保険金八五万円を支払ったので(前提事実(3)イ)、原告Aの全損害額の内てん補されていない額は二万二五七〇円である。
したがって、保険法二五条により、原告Aが二万二五七〇円、原告c保険が四一万三七一五円(=43万6285円-2万2570円)を、被告Bに対して請求することができるものと判断する。
三 争点(3)被告D車両の損害額について
(1) 被告D車両は、D事故により損傷し(乙C四)、その修理費として四九万三八八九円を要したと認められる(原告Aとの間で争いのない事実、乙C二)。
(2) 上記一(2)ウによれば、原告Aと被告Bとの連帯による損害賠償責任額は、その六割の二九万六三三三円となる。
(3) 原告c保険は、上記(1)の全額に相当する保険金四九万三八八九円を支払ったので(前提事実(3)エ)、上記(2)の二九万六三三三円の損害賠償債権について、被告Dに代位して、原告A及び被告Bに対して求償することができる。
四 争点(4)被告C車両の損害額について
(1) 被告C車両は、C事故により損傷し(乙B4)、その修理費として六九万七一一六円を要したと認められる(原告Aとの間で争いのない事実、乙B三)。
(2) 上記一(2)イによれば、原告Aと被告Bとの連帯による損害賠償責任は、その六割の四一万八二七〇円となる。
(3) 原告b保険は、上記(1)の全額に相当する保険金六九万七一一六円を支払ったので(前提事実(3)ウ)、上記(2)の四一万八二七〇円の損害賠償債権について、被告Cに代位して、原告A及び被告Bに対して求償することができる。
五 争点(5)被告B車両の保険契約の効力
(1) 前提事実(3)アの保険契約の約款には、記名被保険者の承諾を得て契約車両を使用又は管理中の者も被保険者とする旨の規定がある(甲九)。
そして、記名被保険者はd社であるが、被告Bは、本件事故の当時その承諾を得て、新車購入から納車までの代車として被告B車両を使用していたから(乙D一の三・四、被告B供述)、被保険者に該当していたものと認められる。
(2) 原告c保険は、記名被保険者であるd社が被告Bに対し上記承諾を取り消したこと(前提事実(4)イ)を理由に、保険金の支払義務を負わない旨の主張をしており、確かに被告B供述によっても詐欺の事実が認められる。
しかし、本件事故の時点では被保険者に該当していた以上、その後の取消しにより上記支払義務を免れるとすることは、自動車保険契約の本質に反するものであって、上記主張は採用し難い。
(3) そして、上記保険契約の約款には、被保険者と損害賠償請求権者との間で判決が確定した場合は、損害賠償請求権者は原告c保険に対して直接請求することができる旨の規定がある(前提事実(3)ア)。
よって、原告A及び原告a保険は、前記二(3)の認容額につき、第一事件の被告Bに対する判決の確定を条件に、原告c保険に対して請求することができる。
なお、原告Aは本件事故の日からの遅延損害金を請求しているところ、上記判決の確定を条件にする限り、そのような請求も認容することができる(東京地裁平成八年七月三一日判決・交通民集二九巻四号一一三二頁)。
第四結論
一 以上によれば、第一事件の請求は主文第一項及び第三項の限度で、第二事件の請求は主文第五項の限度で、第三事件の請求は主文第六項の限度で、第四事件の請求は主文第二項及び第四項の限度で、それぞれ理由がある。
二 訴訟費用の負担は、主文第八項のとおりとする(連帯負担につき民事訴訟法六五条一項ただし書)。
三 第一事件ないし第三事件の認容額については、申立てにより仮執行宣言をするが、第四事件における申立ては、上記第三、五(3)の判決確定の条件が付されている以上、仮執行宣言をすることができないから、却下する。
四 さらに、第二事件及び第三事件につき、原告Aの申立てにより仮執行免脱宣言をする。
(裁判官 竹内浩史)