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横浜地方裁判所 平成24年(ワ)3947号 判決 2014年4月14日

原告

有限会社X

被告

Y1<他2名>

主文

一  被告Y2は、原告に対し、二万四〇七二円及びうち二四一〇円に対する平成二三年一月二七日から、うち二万一六六二円に対する平成二四年六月三〇日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告Y1及び被告Y3に対する請求並びに被告Y2に対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、被告Y2に生じた費用の二分の一及び原告に生じた費用の五〇分の一を被告Y2の負担とし、被告Y1及び被告Y3に生じた費用並びに原告及び被告Y2に生じたその余の費用を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告Y1は、原告に対し、九七万五二七〇円及びこれに対する平成二一年五月一六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告Y3は、原告に対し、六万四一〇〇円及びこれに対する平成二三年一一月一〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  被告Y2は、原告に対し、四万八一四二円及びうち四八一九円に対する平成二三年一月二七日から、うち四万三三二三円に対する平成二四年六月三〇日から各支払済みまで、年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要等

一  事案の概要

本件は、原告が、原告の従業員又は元従業員である被告らが起こした勤務中の事故等によって損害を被ったと主張して、被告らに対し、原告と被告らとの間の損害賠償に関する合意の債務不履行又は不法行為による損害賠償請求権に基づいて、各損害額及びこれに対する事故等の後の日から支払済みまで商事法定利率である年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

二  前提事実(以下の事実は当事者間に争いがない。)

(1)  原告は、産業廃棄物の収集運搬業を営む有限会社である。

(2)  被告Y1(以下「被告Y1」という。)は、平成一六年五月三一日に原告に入社し、平成二三年一〇月二五日に退社した原告の元従業員である。

(3)  被告Y3(以下「被告Y3」という。)は、平成一七年二月二三日に原告に入社し、平成二三年一一月九日に退社した原告の元従業員である。

(4)  被告Y2(以下「被告Y2」という。)は、平成一九年三月二一日に原告に入社した原告の従業員である。

三  争点及び当事者の主張

(1)  損害賠償に関する合意の成否(争点一)

ア 原告の主張

原告は、数十台の車両を保有し、運転手である従業員を採用するにあたっては、原告から採用する従業員に対し、従業員が原告に対し損害賠償責任を負担することもあり得る旨を説明し、従業員から承諾をとっている。また、原告は、従業員が事故を起こした際には、従業員が二回目の事故を起こした場合であって、しかも事故が明らかに従業員の不注意で起きた場合にのみ、責任を負わせることにしている。さらに、原告は、事故の発生及び責任負担について従業員に通知文を発送し、社員の給料からの控除は、基本的に車両手当から支払わせるようにしており、できる限り従業員の負担にならないよう配慮している。

イ 被告らの主張

被告らは、原告に雇用される際に、原告に対して賠償責任を負担する可能性などについて説明は受けていないし承諾もしていない。

(2)  被告Y1の損害賠償責任の成否及びその額(争点二)

ア 原告の主張

(ア) 被告Y1は、平成二一年五月一五日、原告の車両を運転して、T字路を行き止まり路から直進路に向けて右折する際、安全確認を怠り、直進路を進行していたダンプカーと衝突する交通事故を発生させ、原告の車両を損壊させた。

(イ) 被告Y1は、前記(ア)の事故以外にも、平成一六年から平成一九年の間に一回、平成一九年に一回、交通事故を起こしているが、原告は、これらの事故について被告Y1に損害の賠償を求めていない。

(ウ) 前記(ア)の事故による原告車両の修理費用は九七万五二七〇円であり、被告Y1は、原告に対し、同額を賠償する責任を負う。

イ 被告Y1の主張

(ア) 被告Y1が平成二一年五月一五日に交通事故を起こしたことは認めるが、事故の原因は、被告Y1が運転していた車のブレーキの効きが悪くて流れてしまったことにあり、被告Y1には過失はない。

(イ) 被告Y1が平成一九年に交通事故を起こしたことは認めるがその余は否認する。

(ウ) 使用者の被用者に対する損害賠償請求は、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度に限られるべきである(最高裁判所昭和五一年七月八日判決・民集三〇巻七号六八九頁参照)。原告は、産業廃棄物の収集・運搬等を業とする資本金一〇〇〇万円の特例有限会社であって、従業員が約五〇名おり、業務用車両を常時使用していることから、ある程度の頻度で事故が発生することは避けられないにもかかわらず、車両保険に加入していない。実際に、平成一八年七月から平成二三年六月までの五年間に年間約一八・六件の業務用車両の事故が発生しており、従業員は時間的に余裕のない回収ルートを指示され、厳しい勤務状態となっている。また業務用車両の整備は不十分で、ブレーキの効きが悪い車両の修理を頼んでも、なかなか対応してもらえないことがままあった。これらの事情を総合すると、原告から被告らへの損害賠償請求が認められるとしても、その範囲は信義則上相当な範囲に限られる。

(3)  被告Y3の損害賠償責任の成否及びその額(争点三)

ア 原告の主張

被告Y3は、コンテナの扱いが乱暴であり、度々破損が重なり、これによって原告は合計六万四一〇〇円の損害を被った。

イ 被告Y3の主張

(ア) 否認する。

(イ) 前記(2)イ(ウ)と同じ。

(4)  被告Y2の損害賠償責任の成否及びその額(争点四)

ア 原告の主張

(ア) 被告Y2は、①平成二三年一月一一日、原告車両を運転中、対向車とのすれ違い時に、左側に駐車していた車両に接触し、原告車両を損壊させ、②平成二四年六月二九日、原告車両を運転して後退中、後方の確認を怠り、コンクリートの壁に原告車両を衝突させた。原告車両の修理費用は、①の事故につき四八一九円、②の事故につき四万三三二三円、合計四万八一四二円であった。

(イ) 被告Y2は、前記(ア)①及び②の事故以外にも、平成二〇年四月四日と平成二二年一月一六日に、原告の業務に従事中交通事故を起こしているが、原告は、これらの事故について被告Y2に損害の賠償を求めていない。また被告Y2は、平成二四年六月二四日に、私物を自宅付近の路上に不法投棄し、警察から事情聴取を受けた。被告Y2の行為は、原告の信用を失墜させたものであり、原告に対しても始末書を提出した。

(ウ) 被告Y2は、原告に対し、前記(ア)①及び②の事故につき、合計四万八一四二円の損害を賠償する責任を負う。

イ 被告Y2の主張

(ア) 被告Y2が、平成二二年一月一六日、平成二三年一月一一日及び平成二四年六月二九日に交通事故を起こしたことは認める。その余は不知ないし否認する。

(イ) 前記(2)イ(ウ)と同じ。

(5)  被告Y1の消滅時効の成否(争点五)

ア 被告Y1の主張

(ア) 消滅時効の抗弁

仮に被告Y1に不法行為責任が認められるとしても、原告の被告Y1に対する不法行為に基づく損害賠償請求権は、平成二一年五月一五日の事故から三年の経過により時効消滅した。

被告Y1は、第一一回弁論準備手続期日(平成二六年二月二〇日)において、上記時効を援用する旨の意思表示をした。

(イ) 被告らの原告に対する賃金請求事件(横浜地方裁判所平成二四年(ワ)第七八三号賃金請求事件、以下「別件訴訟」という。)における相殺の意思表示は、労働基準法二四条に違反するものであって、別件訴訟においても相殺の効力は否定されている。また、相殺の意思表示は、相殺権者が相手方に対して自己の債権を行使しこれを履行させようとする意思表示を含むものではないから、原告の相殺の意思表示は時効中断事由とはならないと解される。

イ 原告の主張

(ア) 原告は、別件訴訟の第四回口頭弁論期日(平成二四年九月一四日)において、原告の被告Y1に対する本件事故による九七万五二五〇円の損害賠償請求債権をもって、被告Y1の原告に対する車両手当請求債権(四五万円)及び退職金請求債権(一六万円)とその対当額において相殺するとの意思表示をした。

(イ) 相殺の意思表示は、相手方に対し自己の債権を履行させようとしてするものであり、いったん行使をすれば時効を中断するものである。原告の被告Y1に対する相殺の意思表示は、結果的に労働基準法二四条により認められなかったとしても、時効中断の効力は生じている。

第三当裁判所の判断

一  争点一(損害賠償に関する合意の成否)について

原告代表者であるA(以下「原告代表者」という。)は、代表者尋問において、原告の従業員の採否を決める面接の際には、従業員がその責任で事故を起こした場合には、原告代表者の判断により、従業員に責任を負ってもらう場合があること、ただし、その従業員の最初の事故については従業員に責任を取らせず、責任を取らせるのは二回目以降の事故の場合であることを説明し、これを了解した者のみを採用していると供述している。

しかしながら、被告らはいずれもこれを否定しており(乙五ないし六、被告Y1本人)、原告は、平成二四年三月二日以降入社した従業員との間では、「就業中の事故により車両及び会社設備等が破損した場合においては、状況及び頻度等を踏まえて、その全部または一部の賠償を求めることがあります。」と記載された雇用契約書を取り交わしているにもかかわらず、被告らが入社した際にはそのような文書は作成されていないこと(甲三一の一ないし七、甲三九、原告代表者)を考慮すると、原告代表者の上記供述のみをもって、原告と被告らとの間で、原告の主張するとおりの内容の損害賠償に関する合意が成立したとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

したがって、被告らが上記合意に違反したことを理由とする、原告の被告らに対する損害賠償請求は、いずれも理由がない。

二  争点二(被告Y1の損害賠償責任の成否及びその額)及び争点五(被告Y1の消滅時効の成否)について

(1)  これらの点を判断する前提として、被告らは、原告の被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求は、時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきであると主張する。

原告は、訴え提起後一年以上が経過し、弁論準備手続が終結された後の第三回口頭弁論期日(平成二六年一月一六日)において、予備的に、民法七〇九条に基づく損害賠償請求を追加することを明らかにしたものであって、上記請求は、時機に後れたものといわざるを得ないが、これによって訴訟の完結を遅延させることになるとまでは認められないから、被告らの上記主張は採用できない。

(2)  前提となる事実及び証拠によれば、以下の事実が認められる。

ア 平成二一年五月一五日午前九時ころ、神奈川県茅ヶ崎市みずき二―一所在のT字路交差点(以下「本件交差点」という。)において、行き止まり路を右折しようとした被告Y1運転にかかる原告所有の自動車(以下「原告車」という。)が直進路を直進走行していた株式会社a所有にかかる自動車(以下「相手方車」という。)とが衝突する交通事故が発生した。〔甲一一の一、甲二三、乙五、被告Y1〕

イ 本件交差点においては、被告Y1が走行していた行き止まり路には一旦停止の道路標識があり、相手方車が走行していた直進路には本件交差点内においても中央線が引かれていた(したがって、直進路が優先路となる。)。〔甲二三〕

ウ 上記交通事故によって、原告車の右前部と相手方車の前部とが衝突した。原告車は、フロントガラス、右フロントピラー、右クオーターパネル、フロントバンパー等が損傷し、その修理費用として九七万五二七〇円を要した。相手方車両の運転手に対する人身損害については、原告加入にかかる保険契約に基づいて保険金が支払われた。〔甲一一の一・二・四・五〕

エ 被告Y1は、平成二一年五月一八日、事故報告書を作成し、事故発生の原因・状況として、右折時の確認不足のために事故を起こしてしまった旨記載するとともに、「ブレーキの効きが悪くて流れてしまいました。」と記載した。〔甲一一の一〕

(3)  前記(2)認定にかかる本件交差点の状況、双方の車両の衝突部位・損傷か所及び被告Y1作成にかかる事故報告書の内容に加えて、甲二三号証によって認められる双方の車両の停止位置等を総合考慮すると、被告Y1は、本件交差点に進入するに際し、一旦停止をすることなく、優先路である直進路を通行する車両の有無及びその動静に注意すべき義務に違反したことが認められる。

被告Y1は、本人尋問において、上記事故の原因は、上記事故の約一週間前から原告車のブレーキの調子が悪く、そのことを上司に伝えていたにもかかわらず、修理してもらえなかったことにあると供述しており、被告Y1が作成した事故報告書(甲一一の一)にも、前記(2)エのとおり、原告車のブレーキの効きが悪かったことが記載されている。また、証拠(甲一一の四)によれば、原告車は、上記事故後の修理の際、ブレーキバルブのオーバーホールを受けていることが認められる。

しかしながら、上記修理の事実をもって、上記事故以前から原告車のブレーキが故障していたとは認められないし、被告Y1だけでなく他の従業員も原告車を運転していたこと(原告代表者、被告Y1本人)からすると、原告車のブレーキの効きが悪かったのであれば、他の従業員からも指摘があるはずであり、仮にそうであれば、原告においてこれを放置したまま従業員に運転させるとは考え難い。したがって、被告Y1の上記供述等によって、原告車のブレーキが故障していたとは認められない。

したがって、被告Y1は、その過失によって原告車を破損させ、原告に対し、修理費用相当額(九七万五二七〇円)の損害を与えたといわざるを得ない。

(4)  しかしながら、原告の被告Y1に対する不法行為に基づく損害賠償請求権は、平成二四年五月一五日の経過によって、時効期間が満了しており、被告Y1は上記時効を援用している(顕著な事実)。

原告は、別件訴訟における相殺の意思表示をもって、上記時効は中断していると主張しているが、相殺の意思表示は、相殺適状にある当事者双方の債務をその対当額において消滅させ、弁済と同一の効果を生じさせるにとどまり、相手方に対し自己の債権を行使しこれを履行させようとする意思表示を含むものとは認められないから、これをもって、時効中断事由である「請求」(民法一四七条一号)あるいは「承認」(同条三号)に該当するとは認められない。

(5)  以上によれば、原告の被告Y1に対する請求は理由がない。

三  争点三(被告Y3の損害賠償責任の成否及びその額)について

(1)  前提となる事実及び証拠(甲三九、乙六、原告代表者)によれば、被告Y3は、原告で働いていた際、重機を操作してコンテナに廃棄物を詰める作業に従事していたことが認められる。

(2)  原告代表者は、代表者尋問において、被告Y3が重機の扱いが乱暴であったために、度々コンテナを破損させ、原告に損害を与えたと供述し、原告は、これを裏付ける証拠として原告所有にかかる複数のコンテナの写真(甲三三、四〇)を提出している。

しかしながら、原告代表者の陳述書(甲三九)、代表者尋問における供述及び写真(甲三三、四〇)を総合しても、被告Y3がいつ、どのコンテナを破損したのか明らかでない。また、証拠(甲三九、乙六、原告代表者)によれば、被告Y3が原告に勤務していた当時、他にも被告Y3と同じ作業に従事していた従業員がいたこと、被告Y3が使用したコンテナには、被告Y3が入社する以前から使用され、すでに相当程度破損していたものも含まれている可能性があること、原告主張にかかる損害額は、コンテナの修理費用ではなく、被告Y3の退職金相当額であることが認められ、以上の事実を総合すると、上記各証拠によって、被告Y3が原告のコンテナを破損したとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(3)  以上によれば、原告の被告Y3に対する請求は理由がない。

四  争点四(被告Y2の損害賠償責任の成否及びその額)について

(1)  前提となる事実及び証拠によれば、以下の事実が認められる。

ア 原告は、現在、業務用の車両を約四三台所有しており、従業員は事務員を含めて約六〇名を雇用している。従業員の約三分の二は、業務用車両の運転手であり、約三分の一は、作業場で重機を操作して廃棄物の選別を行う選別作業員である。ただし、平成二三年ころは、原告の従業員の数は約三七、八名であり、業務用車両の数も三〇台程度と現在より少なく、原告においては、ここ数年の事業拡大に伴って、従業員及び業務用車両の台数を増やしている。〔原告代表者〕

イ 原告は、他者に対する損害をてん補するための保険には加入しているが、原告所有の車両についての損害をてん補するための車両保険には、保険料が高額であるという理由で加入していない。〔原告代表者〕

ウ 原告においては、業務用車両を運転する従業員に対し、車両の修理以外のメンテナンスに対する手当として、月額一万二〇〇〇円ないし一万五〇〇〇円の車両手当を支払っている。〔甲一六、原告代表者〕

エ 被告Y2は、平成一九年三月二一日、原告に入社した。

オ 平成二〇年四月四日、藤沢市藤沢四〇八四において、被告Y2が原告の自動車を運転中、原告の自動車のあおりを押さえるバーが折れてバスのフロントガラスやボディに損傷を与える事故が発生した(以下「第一事故」という。)。損害額一九万九二〇〇円は原告において負担した。〔甲二、三九〕

カ 被告Y2は、平成二二年一月一六日、b駅前において、原告の自動車を運転中、原告の自動車をバス停の雨樋に接触させた(以下「第二事故」という。)。損害額一二万五七九〇円は、原告加入の保険から支払われた。〔甲二、三九〕

キ 被告Y2は、平成二三年一月一一日、神奈川県藤沢市弥勒寺三―一―八先において、原告の自動車を運転中、対向車とのすれ違い時に、左側に駐車していた車両に接触し、原告の自動車の左サイドミラーを破損させた(以下「第三事故」という。)。原告の自動車の修理費用は、四八一九円であった。〔甲一五、一六、二五〕

ク 被告Y2は、平成二四年六月二六日、神奈川県平塚市の平塚郵便局前の下り坂において、原告の自動車を運転して後退中、後方の確認を怠り、コンクリートの壁に原告の自動車を衝突させ、原告の自動車のスイッチボックスを破損させた(以下「第四事故」という。)。原告の自動車の修理費用は、四万三三二三円であった。〔甲一〇、一七ないし一九、二六〕

(2)  原告は、被告Y2に対し、第三事故及び第四事故による損害額合計四万八一四二円の賠償を求めているところ、前記(1)認定の事実によれば、第三事故及び第四事故は、被告Y2の過失によって発生したものと認められる。

一般に、使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為にょり、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し上記損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである(最高裁判所昭和五一年七月八日第一小法廷判決・民集三〇巻七号六八九頁参照)。

これを本件について見るに、前提となる事実及び前記(1)認定のとおり、原告は、業務用車両を多数保有し、これを運転する従業員を多数雇用して、産業廃棄物の収集運搬業を営んでいるのであるから、その事業活動においてある程度の頻度で事故が発生することは避けられないものというべきであり、現に、平成一八年七月から平成二三年六月までの五年間に、原告従業員が業務用車両を運転中に発生した事故は、九三件に及んでいる(甲二)。にもかかわらず、原告は、第三者に対する損害を賠償する保険には加入しているものの、車両保険には、保険料が高額であるとの理由から加入していない。

原告においては、原則として、その従業員の一回目の事故については従業員に責任を取らせず、二回目以降の事故について、原告代表者において従業員の過失の程度等を考慮した上で、従業員の負担額を決めており(甲三九、原告代表者)、被告Y2に対しても、第一事故及び第二事故については損害の賠償(又は求償)を求めていない。しかしながら、少なくとも第一事故について被告Y2に過失があったかどうか必ずしも明らかではなく、原告において賠償を求めている第三事故及び第四事故についても、いずれも軽微な過失によるものである。また、被告Y2は、少なくとも、自らの過失によって第二事故ないし第四事故を発生させているが、原告において発生した事故の件数等に照らすと、被告Y2の勤務態度等が不良であるとまではいえない。

さらに、被告Y2の給与額は証拠上明らかではないが、被告Y2が原告から受領していた車両手当の額(月額一万二〇〇〇円、甲一六、一九)に照らすと、第三事故及び第四事故の損害額(合計四万八一四二円)は、必ずしも少額とはいえない。

以上の事実を総合すると、原告が従業員である被告Y2に対し請求しうる損害の範囲は、損害の公平な分担という見地から、信義則上、原告に生じた各損害額の二分の一〔第三事故につき二四一〇円、第四事故につき二万一六六二円(いずれも一円未満四捨五入)、合計二万四〇七二円〕に限られるとするのが相当である。

なお、上記は、不法行為に基づく損害賠償請求であるから、遅延損害金は、民法所定の年五分の割合による限度で認められる。

五  結論

(1)  原告の被告Y1及び被告Y3に対する請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとする。

(2)  原告の被告Y2に対する請求は、不法行為による損害賠償請求権に基づき、二万四〇七二円及びうち二四一〇円に対する第三事故の後である平成二三年一月二七日から、うち二万一六六二円に対する第四事故の後である平成二四年六月三〇日から各支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとする。

(3)  よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田彩)

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