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横浜地方裁判所 平成24年(ワ)5105号 判決 2014年2月17日

原告

被告

Y株式会社

主文

一  被告は、原告に対し、一九〇万三六九五円及びこれに対する平成二四年二月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一二分し、その一を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、二二七〇万八四三一円及びこれに対する平成二四年二月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  前提となる事実

(1)  平成二四年二月一四日午前七時四五分ころ、被告の従業員であるA(以下「A」という。)が運転する被告所有の自家用普通貨物車(以下「被告車」という。)が原告所有にかかる別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)に衝突し、本件建物の一部が損壊する事故が発生した(以下「本件事故」という。)。

(2)  本件事故は、Aが、本件建物が直面する坂道頂上に被告車を駐車したが、サイドブレーキ等を適切に使用しなかったために、被告車が無人の状態で坂道を進行し始め、駐車位置から約七〇メートルの急な坂道の下にある本件建物に衝突したものである。

(3)  Aは、被告の従業員であり、本件事故は、被告の業務執行中に発生した。

二  事案の概要

本件は、原告が、本件事故により三〇八四万一八〇二円の損害を被ったと主張して、不法行為(使用者責任)による損害賠償請求権に基づいて、被告に対し、上記同額から、被告加入の保険会社から受領した八一三万三三七一円を控除した二二七〇万八四三一円及びこれに対する本件事故の日である平成二四年二月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

三  争点及び双方の主張

前提となる事実によれば、本件事故は、被告の業務に従事中であったAの過失によって発生したものであるから、Aの使用者である被告は、本件事故により原告に発生した損害を賠償する義務がある。本件の争点は、原告の損害額であり、これについての双方の主張は、別紙「損害額計算表」中、「原告の主張」欄及び「被告の主張」欄記載のとおりである。

第三当裁判所の判断

一  証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1)  本件建物は、昭和五〇年一一月ころに建築された二階建ての建物である。本件建物には、その後、別紙「平面図」記載のとおり、本件建物の南側(道路側)に店舗部分(二階はバルコニー)が増築された。本件事故当時の本件建物の間取り等は別紙「平面図」のとおりであり、原告は、本件建物の北側(道路よりも奥側)の住居部分に居住していた。〔乙七、八、原告本人〕

(2)  本件事故の際、被告車の前部(キャビンの部分)が本件建物の店舗部分に突っ込み、店舗部分とその奥にある居室(別紙「平面図」の「居室一」)との間の引き戸の手前で止まった。原告は、別紙「平面図」の「居室二」で寝起きしていた。〔乙七、証人B、原告本人〕

(3)  被告は、建物の解体工事等を主たる業務とする会社であり、Aから連絡を受けた被告の解体事業部長であるB(以下「B」という。)は、被告従業員であるCを連れて事故現場に行き、レッカー車を呼んで本件建物の店舗部分にめり込んだ被告車を引き出した。〔乙九、証人B〕

(4)  本件事故直後、本件建物の店舗部分には、動産類が多数散乱している状態であり、Bは、原告の依頼を受けて、A及びCとともに、上記動産類の片付けを行った。〔乙八、九、証人B〕

(5)  原告は、店舗部分のみならず、住居部分も含めた本件建物全体を解体して建て替えることにし、平成二四年一〇月、本件建物から退去して賃貸建物に転居した。原告は、平成二五年三月ころ、完成した新築建物に入居した。〔甲七の一ないし四、八、原告本人〕

二  原告の損害額についての裁判所の判断は、別紙「損害額計算表」中、「裁判所の判断」欄記載のとおりであるが、その理由は以下のとおりである。

(1)  別紙「損害額計算表」番号一について 九万九七五〇円

証拠(乙一)によれば、原告は、a社に対し、本件事故により破損した本件建物のコンセントの応急処置等を依頼し、その費用として九万九七五〇円を要したことが認められる。前記一認定にかかる本件建物の損傷状況に照らすと、上記費用は、本件事故との間に相当因果関係がある損害と認められる。

(2)  別紙「損害額計算表」番号二について 一万二〇〇〇円

証拠(甲二の一・二)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故により、本件建物に置いてあった置き薬が使用できなくなり、新規に同様の医薬品を購入するための費用として、一万二〇〇〇円を要したことが認められる。

(3)  別紙「損害額計算表」番号三について 三四万六五〇〇円

証拠(甲三、乙八、原告本人)によれば、原告は、有限会社bに対し、本件建物の損傷部分につき補強工事を依頼し、その工事費用として三四万六五〇〇円を要したことが認められる。前記一認定にかかる本件建物の損傷状況に照らすと、上記費用は、本件事故との間に相当因果関係がある損害と認められる。

(4)  別紙「損害額計算表」番号四について 八一三万三三七一円

前記一認定の事実及び証拠(乙二、五ないし八)によれば、本件事故により、本件建物の店舗部分は大きく破損し、その修理費用としては八一三万三三七一円が相当と認められる。原告は、本件建物の店舗部分の建替費用として八四八万〇八四二円が必要である旨主張し、これを裏付ける見積書(甲四)を提出しているが、同額は、前記各証拠に照らし、一部過大であるから採用できない。

(5)  別紙「損害額計算表」番号五ないし一四について

原告主張にかかる上記各損害は、本件事故によって本件建物の店舗部分のみならず住居部分をも建て替えざるを得なくなったことを前提とするものである。しかしながら、前記一認定の事実及び証拠(乙五ないし八)によれば、本件事故による損壊箇所は、増築された店舗部分のみであり、これを除く既存部分(住居部分)の基礎、モルタル外壁に目視によるクラックは認められず、既存部分の木軸への影響は考えられないこと、また、本件建物の構造及び間取りに照らし、店舗部分を修理する間、原告は住居部分において生活することが可能であったことが認められ、これらの事実によれば、原告主張にかかる上記各損害は、本件事故との間に相当因果関係があるとは認められない。

(6)  別紙「損害額計算表」番号一五について 二〇万円

原告は、本件事故当時、本件建物の店舗部分に、別紙「動産損害表」(甲一一の一)記載のとおりの動産があったところ、本件事故後の片付けの際、被告の従業員が原告の承諾なくこれらの動産類を廃棄したと主張し、本人尋問においてこれに沿う供述をしている。

しかし、別紙「動産損害表」に記載された動産類の大半については、本件事故当時、本件建物の店舗内に存在しており、かつ本件事故によって破損したことを客観的に裏付ける証拠が認められない。

また、同表には、およそ動産類とはいえないもの(同表一五四番「事故以来やるき喪失代」、一七三番「その他の会合等欠席」等)や、重複して記載されているもの(二二番と一七四番)、廃棄物の処理に関する規制により、他の動産類と一緒に廃棄することができない物(五、六番「タイヤ」、二五番「パソコン」、一八八番「クーラー三台」等)が多々含まれている(証人B)上、その評価額を裏付ける客観的な証拠も見当たらない。

さらに、本件事故は、Aの一方的な過失によって、被告車が原告所有にかかる本件建物に衝突するという態様のものであり、本件事故後、原告に依頼されて、その片付けのための作業に従事していたBら被告の従業員が、原告の承諾なく動産類を廃棄することによって、原告の損害を拡大させるとはおよそ考え難い。そうであるとすると、被告の従業員によって原告の動産類が廃棄されたとする原告の供述は採用できず、他に原告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。

他方で、前記一認定の事実によって認められる本件事故の態様及び本件建物の損傷状況に、証拠(乙三、八)及び弁論の全趣旨を総合すると、本件事故によって本件建物の店舗部分にあった動産類の一部が破損したことは否定し難く、その損害額については、処分費用も含めて二〇万円と認めるのが相当である(民事訴訟法二四八条)。

(7)  別紙「損害額計算表」番号一六について

原告は、印刷業を営み、平成一八年度までは確定申告をし、平成一九年度からは知り合いの名刺や年賀状等の印刷を引き受けて収入を得ていたものの、確定申告はしておらず、本件事故の直前には本格的に印刷業を開始する予定であったと主張している。しかしながら、本件事故当時、原告が印刷業によって収入を得ていたと認めるに足りる証拠はないから、本件事故による休業損害は認められない。

(8)  別紙「損害額計算表」番号一七について 一二〇万円

前記(1)ないし(4)及び(6)認定のとおり、原告は、本件事故により財産的損害を被っているところ、これらについては、財産的損害の賠償とは別に、賠償に値する精神的損害を受けたと認めるに足りる証拠はないから、これらについての慰謝料請求は理由がない。

しかし、前記一認定の事実及び証拠(甲一五、一六、原告本人)を総合すると、原告は、本件事故によって住居部分と接続する店舗部分が大きく破壊されたことにより、生活の平穏を害され、これによって多大な精神的苦痛を被ったと認められる。また、本件事故の態様等、諸般の事情を考慮すると、原告の上記精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額としては、一二〇万円が相当と認められる。

なお、原告は、本件建物の建替えに長期間を要したため、平穏な生活を回復するのに長期間を要したことを慰謝料の算定において考慮すべきであると主張しているが、前記(5)認定のとおり、本件建物の建替えと本件事故との間に相当因果関係があるとは認められないから、原告の上記主張は採用できない。

(9)  前記(1)ないし(4)、(6)及び(8)の損害額は、合計九九九万一六二一円となるところ、原告は、被告加入の保険会社から八二八万七九二六円を受領している(甲一五、一六、乙一、四及び弁論の全趣旨)から、これを控除すると、原告の損害額は、一七〇万三六九五円となる。

本件事故の態様、原告の請求額及び上記損害額を考慮すると、本件事故との間に相当因果関係がある弁護士費用の額は、上記損害額の約一割に相当する二〇万円が相当と認められる。

(10)  以上によれば、本件事故による原告の損害額は、合計一九〇万三六九五円となる。

三  結論

以上によれば、原告の請求は、被告に対し一九〇万三六九六円及び本件事故の日である平成二四年二月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

なお、仮執行の免脱宣言については、相当でないのでこれを付さないこととする。

(裁判官 吉田彩)

別紙 物件目録、平面図、動産損害表<省略>

file_4.jpg別紙 損害額計算表

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